個性『魔法少女』   作:Assassss

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高評価、誤字報告、感想ありがとうございます。

戦闘描写何書いていいか分からず禿げ散らかした。


佐倉杏子 VS ヒーロー VS ??? (中編)

ベストジーニストは、説得が上手くいかず戦闘になってしまうことは当然想定していた。その場合、拘束に長けた彼がまず動きを封じ込めるのが元の段取りだった。

しかし、それはさっそく瓦解した。

 

「君、それは服ではないのか……!?」

 

佐倉杏子は、ジーニストと怪しい男に鎖のようなものを叩きつけ一瞬ひるませた。次の瞬間には、ネット上で出回っていた赤い服の恰好となり、ゲームセンターの入り口から常人ならば目にも止まらない速さで脱出してしまった。

もちろん、ベストジーニストはそれを指を咥えて見ていたわけではなかった。彼の個性は「ファイバーマスター」。一定範囲内の繊維を操れるという物で、服を着ている相手ならば問答無用で拘束できる非常に強力なものだった。

だが、彼女の着ている新しい服は、なぜだか操れなかった。繊維として「操る」時の感触はあったのだが、何か妙な力の抵抗を受けたような感覚があった。

 

(……変身以前の服は操れることは事前に確認してある。やはりあの服は個性により生み出された物か?ともかく、今は彼女を……いや、まずはこちらだ。)

 

「……彼女は逃げてしまったようだね。追わなくていいのかい?」

「機動力が比較的高いわけではない私は不適格だ。それよりも、しばらくはあなたにおとなしくしてもらいたい。」

「おやおや。どうして僕に?何の権利があって?そもそも一体僕が何をしたと?」

「知らないのか?我々ヒーローには、職務質問をする権限が与えられている。だから、私があなたをここで引き留めても、なんら法に反しないのです。」

「ふはははは。そうか。それは残念だ。つまり僕は、法律を守ろうとする限りは、ここに留まざるを得ないわけだねえ。」

 

男の口角が上がる。どう見ても悪だくみをしているようだった。

 

「しかし……一方的に質問を受けるのも癪だし、ここは……っ!」

 

男が腕を上げようとしたところで、その動きが止まる。何か想定外のことが起きたような声だった。

 

「……そうです、おとなしくしていてくださいね。」

「君は、抹消ヒーロー・イレイザーヘッド……」

 

男の後ろから、小汚くすら見える容貌の男が現れた。しかし彼は、非常に強力な個性を持ったヒーローだ。「抹消」は、見た対象の個性を一時的に発動を封じるというもの。髪を逆立てつつ、赤く光る眼で睨みながら、男から少し離れたところで立っていた。

 

「彼のこと、よくご存じでしたね。彼はメディアへの露出を極端に嫌うことで、我々ヒーロー界隈では有名でして。どこで彼のことを?」

「なに、僕はヒーローについて、ちょっとだけよく研究しているつもりでね。彼のことは偶然知っただけさ。」

「……先ほど、なにか言葉に詰まった様子。イレイザーヘッドが現れた時と同時でした。まさか、無許可で個性を行使しようとしたのではないですよね。」

「そんな訳ないさぁ。僕はね……」

 

このような調子で、男は意外にも暴れたりせずに話し合いに応じた。今、ベストジーニストの役割は、この男から情報を引き出すこと、男の個性を割り出すこと、そしてここにとどめることだ。せめて、佐倉杏子を確保するまでは。

佐倉杏子を追っているヒーローは、予定よりも減ってしまっていた。逃がしてしまう懸念はあったが、それよりも。ベストジーニストは、この男が佐倉杏子をとらえることだけはあってはならないと直感していた。取り返しのつかない事態になると。根拠は無いが、とにかく彼の中でそのような警鐘が鳴り響いたのだった。

男のいやに陰湿な話し方に精神を削りながらも、ジーニストは確保連絡が一秒でも早く来るように祈りつつ、会話を伸ばし続けた。

 

 

「なーんだ、あの怪しいおっさんもヒーローも追ってこねえじゃん。」

 

佐倉杏子は、ビルの上を飛び移りながら、元居たゲームセンターとの距離をみるみる取っていた。2人が追ってこないことにホッとしつつ。

そして、今後の行き先に思いを馳せる。

 

「……これから……やっぱり、アイツらのところへ帰るか?でもあんな別れ方した後でどんなツラして出ればいいんだうおっとお!?」

 

跳躍中に槍の柄の方を伸ばしビルに突き立て、無理やり軌道を変える。直後、彼女がいた場所に凄まじい威力の蹴りが放たれた。

 

「おめーが佐倉杏子だな?ガキ向けに優しく蹴っ飛ばす!」

 

現れたのは現在No.6のヒーロー・ミルコ。個性は「兎」で、ウサギっぽいことがウサギ以上に出来る個性を持つ。身体能力、特に脚部の性能に優れる、典型的な近接パワータイプのヒーローだ。

杏子も彼女を知っており、また面倒な奴に絡まれたとげんなりした。

 

「うげえ……また強いヒーローかよ……」

「元気が良いのは認めるけどよ、アタシの脚から逃げられると思うなよ?大人しくしな、不良っ娘!」

「やなこった!」

 

佐倉杏子が槍をミルコに向けると、どこからともなく鎖のようなものが現れる。

 

「なんだこれ!?一体どっから……」

「そっちがおとなしくしてな!」

 

その鎖は、ミルコに巻き付き、特に足を重点的に拘束した。

彼女が鎖を出せることは事前に把握していたミルコだったが、このような使い方ができるとは思わず、虚を突かれる形で拘束されてしまう。グルグル巻きになったミルコを確認した杏子は、逃げるが勝ちと再びビルの間を渡りだす。

 

「はー……都会だとあんなのがこれから毎日襲ってくんのかよ。こりゃちょっと離れた場所に行かないと『待ちやがれえええええ!!!』え、えええ!?」

 

しかし十秒もすると、ミルコは彼女に追いついてしまう。佐倉杏子は驚愕の表情で後方を確認した。

 

「はぁ!?思いっきり縛り上げたってのにもう出てくんのかよ!?」

「おめーやっぱり強いな!決めた、優しくじゃなくて全力で蹴っ飛ばす!」

「というかさっきのはどうやって解いたんだよってうげえ!?」

「んなもん脚で引きちぎっただけだ。痛かったぞこの野郎、絶対大人しくさせてやる!アタシらヒーローはしつこいぞ?」

「また筋肉バカかよぉ……」

 

佐倉杏子は逃げつつ、ミルコを注意深く観察する。跳躍力は杏子より明らかに高く、直に追いつかれることは明白だった。

杏子は、ひとまず時間稼ぎにでもなればと再び鎖で拘束しようとする。

 

「同じ手を二度喰らうほど甘くねェぞ!」

「うっそお、それ避けんの!?」

 

しかし流石はプロヒーローというべきか、今度は鎖の出現位置を完全に見切り、軽々と回避してしまった。

殆どスピードは落とさず、流れるような動きで建物の屋上を飛び移り続け、ミルコは杏子にみるみる近づいてくる。ここで、杏子は彼女のスピードから逃げ切るのは分が悪いと判断し、相手の行動不能か撃退を目標に切り替えた。

 

「死んでも知らねーぞ!オラァ!」

「元気があるじゃねえか!でもな、ガキに殺されるほどミルコはヤワじゃねえ!」

 

ミルコと杏子との間にもう建物が挟まれていない程に距離を詰められたとき、杏子は反転し、ミルコに向き合う。そして、魔力を大量に纏わせた槍を携えミルコに突撃した。

ミルコは突撃する杏子を見て、最初はしめたものだと感じた。機動力に長けるミルコは、突きという攻撃を避けやすい。そして、ミルコの反射神経ならば、突かれた槍を手でつかむこともできる上、突きという動作は槍を引くまで一瞬でも隙ができるというもの。槍を振り回されていた方が、ミルコにとってはやりにくかっただろう。

事実、ミルコの反射神経の方が佐倉杏子よりも上だった。ミルコは槍の軌道を見切り、最小限の動きで槍を躱した。

しかし、その後がミルコにとって想定外だった。

 

「ッ!?熱!痛って!?」

 

ミルコは、佐倉杏子がごく一瞬隙を晒したにも関わらず、反射的に彼女から一歩引いた。

 

「……おい、マジでなんなんだよ、オメーの個性。ただの槍じゃねえな?」

「へっ。この槍は魔法の槍なのさ!ほらほらほら!」

「チッ、ふざけやがって!」

 

佐倉杏子はミルコに向かって槍での連続攻撃を仕掛けた。突きを始め、振り下ろし、横払い、足掛けといった槍使いならば基本となる動作を組み合わせた攻撃だった。その他、鎖を用いた足場生成や拘束攻撃も入る。

しかし、傍目から見るとミルコならば対処できる範疇のはずの攻撃だった。ミルコは経歴的に、ヒーローとなる以前から喧嘩にあけくれていたようなタイプだ。当然、槍に類するものを扱う(ヴィラン)との戦闘経験もある。増強系の個性と比較すると、強い部類には入るがオールマイトのように無茶苦茶な強化具合でもない。その無茶苦茶に片足を突っ込んでいるミルコならば、勝てない相手ではないはずだった。

 

しかし、それは彼女の扱う槍が事前情報通り、普通の鋭利で伸縮自在な槍ならば、という話だ。

ミルコは槍を恐れるように、必要以上に距離を取って回避に専念していた。

 

先ほど軌道を見切って回避したとき、ミルコになぜかダメージが入ったのだ。具体的にどのような仕組みかは分からないが、とにかく痛み、熱さを感じた。実際、ここでミルコが鏡を見たとしたら、軽く痣になっているのが確認できるだろう。今も、槍先から数十センチ距離を取って避けているにもかかわらず、何か抵抗のようなものが肌で感じられている。

 

(……今のは風圧じゃねえな。衝撃波、にしちゃあ逆に周りの物が壊れてなさすぎだ。見た目以上に大きい槍先、みたいな感じか?でもそれだけなら、どうにでもなる!)

 

ミルコはしばらく回避に専念していたが、杏子が槍を突き出したとき、ミルコは不敵にニヤリと笑った。それに不吉なものを杏子は感じ取ったが、残念ながら機動力はミルコの方が上なのだ。

 

「もらったァ!」

「あ、ヤバッ!」

 

ミルコは、突きだされた槍を無理やり掴んだ。当然ダメージはあったが、ミルコはそれを無視して動いた。観察の結果、槍攻撃に伴う謎のダメージは、ダメージ以外に影響はないとミルコは判断した。例えばこれが体内の細胞に直接攻撃するといったものならばもう少し躊躇しただろうが、どうもダメージの在り方としては「肌の上から殴りつける」といったような普通のものなのだ。だから、このダメージは無視しても何とかなると、蹴りまくったのと同様に殴られまくった経験も持つミルコは判断した。

 

「歯ァ食いしばれ!月蹴上(ルナライズ)!」

 

ミルコは片手で槍を掴みながら、杏子の顎を蹴り上げた。並の(ヴィラン)ならば脳震盪を起こしダウン確実の威力だった。普段の(ヴィラン)退治ならば威力過剰になるレベルだが、事前情報で彼女のタフさを知っているミルコは最初から高威力の一撃をお見舞いしたのだ。

蹴っ飛ばされた杏子は、何mも吹っ飛ばされた。

 

「チクショウ……やってくれんじゃねえか。」

「……おめーこそタフだな、アタシの蹴りを喰らってそこまで余裕だなんてよ。」

「まーね。あと、槍返せよ。」

「返すわけねーだろ。お前みたいな悪い子からは没収だ……ん!?なんだよ、手品も得意なのかよ。」

 

しかし彼女は、痛そうに顔を抑えてはいるが、平然と受け身を取って立ち上がった。ミルコはそれを見て、一つの悩みを抱えることとなってしまった。どの程度の力まで込めれば良いかが分からなくなってしまったからだ。杏子の発言をそのまま受け取れば、ミルコが全力での蹴りで何とか気絶まで持っていけるか、というところだ。ただ問題は、そのタフさが何に由来しているのか、という点だ。単に彼女の防御力が高いという話ならば全力で蹴っても良いかもしれない。しかし、例えば「受けた衝撃を一定量無効化する」などと言った場合、ある大きさを上回ったところで急激に効果が表れだし、蹴った部位が完全に破裂し殺害、などということにもなりかねない。ヒーローは殺しがご法度。ミルコは、ただでさえ周囲にやりすぎを注意されるほどには戦闘好きだ。しかし、今回の件に関しては「人が見ている前では絶対にやりすぎるな!」と公安から脅しと懇願を交えて言われている。そして周囲には、少ないが遠巻きに見物人がおり、今はそのようなミスをすることができないのだった。

 

さらに、ミルコが掴んでいた槍が、光る粒子となって消えてしまった。通常は、(ヴィラン)から奪った武器を奪い返されるなどという愚行などミルコはしない。実際、握力も増強系並のミルコは槍を絶対に奪われないように気を使って握りしめていた。だが、槍が消えることは予想外だ。ミルコが過去に見たことのない性能の武器だった。そして、槍は当然のように佐倉杏子の手に戻っていた。今までの武器を扱う(ヴィラン)と比べ、佐倉杏子の戦闘能力は似ているようで全く違うとミルコは感じた。

 

ミルコにとっての悪い状況は続く。通信機にエンデヴァーからの連絡が入った。

 

『こちらエンデヴァー。向かうのが遅れる、すまん!』

『こちらミルコ。お前らしくねえぞ!どうなってんだ!?』

『何者かの個性による攻撃だ!だが確実にそちらへ近付いているか「ガギャッ!」』

『おい、エンデヴァー!?おい!?クソ……』

 

通信機を破壊されたらしき音と共に、連絡が途絶えた。エンデヴァーは、ミルコと共に佐倉杏子の確保に動く手筈だったのだ。いったいどうなっていると悪態をついていると、佐倉杏子が動いた。

 

「……よーし。じゃあこーいうのはどうだ?」

 

何か決めたらしい杏子がそう言った。何を仕掛けるつもりかとミルコは警戒する。

 

「そぉらっ!」

 

ドン、と。杏子は地面を力強く踏みつける。ミルコは、何が起こるかを事前に予測したわけではないが、嫌な予感という動物的な勘によってその場から飛びのいた。

そして、それは正解の行動だった。

 

「!?地面から槍が!」

 

ミルコがいた地面から、槍が生えていた。飛びのかなければ串刺しとなっていただろう。そしてミルコは重力に引かれ、数m離れた場所に着地しようとする。

だが、そこからが問題だった。

 

「これだけな訳ないさね!」

「!痛ってえ!?」

 

着地した瞬間に、また槍が生えてきた。ミルコはもちろん、着地地点に何もないかの確認はしていた。そして、確かに確認した。赤岩のようなものが、着地地点に現れるのが。

しかし、それから発射までがあまりに短かった。とても戦闘中に見てから対処できるほどの時間ではなかった。対応できず、脚を槍に少し刺されてしまったミルコ。ただ、流石の経験というべきか、刺さった瞬間に生えてきた槍を掴み、柄の部分を折った。そしてそのまま、中から折られた柄の部分を蹴って、さらに彼女から距離を取った。ある程度離れると今の攻撃はできないらしく、そのまま睨み合いとなる。攻撃の為に接近しなければならないミルコにはかなり難しい状況となってしまった。

 

(……なんでコイツは最初からこれをやらなかったんだ!?)

 

つまり、目の前の彼女は、地面のどこからでも槍を出せるということ。空を飛べないミルコにはかなり厄介な効果だった。なぜ最初からそれをやらなかったのかを、ミルコは疑問に思った。

 

ミルコは知る由もないが、これは佐倉杏子が今まで戦ってきた様々な(ヴィラン)、そして縄張り争いで戦った魔法少女や魔女の戦いでは必ずしも有効なものではないのだ。特に魔法少女同士の戦いでは。魔法少女はどいつもこいつも空中で推進力を得られたり、飛び道具を持つ相手ばかりだった。杏子自身も、鎖を操って空中で簡単な足場代わりに出来る。佐倉杏子は空中から槍を生み出すことは流石にできないが。そういう手合い相手では、この距離を取った状況は別に有利でもなんでもなかったのだ。

対して、ミルコには近づかない限りの有効な攻撃手段が無かった。ならば戦いの最初からやればよいという話かもしれないが、この攻撃方法は生成した槍の分だけ魔力を消費する。今ミルコ相手にこれをやったのは、しばらく観察してミルコには空中で推進力を得る方法が無いと悟ったからだ。

 

そして、さらに佐倉杏子が畳みかける。

 

「空を飛べないんじゃあ、こういうのも辛いだろっ!」

 

ドン!、とさらに力強く地を踏みぬく。すると今度は、彼女の周りから無数の槍が生えてきた。そして、彼女が前へ手を振り下ろすと。

 

「いっけえええ!!!」

 

それが、雨のようにミルコへ殺到した。視界に入る数だけでいえば50本に届こうかというほどの槍が降ってきた。ミルコはそれらを走り、時折蹴りなどではじくことで回避し続ける。重力に従い落ちてくるだけの槍なので、ミルコならば十分避けられる攻撃ではあったが、問題なのはそれはミルコにひたすら負担をかけ続けるということだった。コンクリートの床に刺さる程度には槍には重みがあったので、自らの身体で受けることは避けたい。そして、杏子の周囲には近づけないので、ミルコは杏子から距離を取りつつ避け続けるしかない。消えるので、槍を掴んで投げ返すこともできない。いくらミルコが身体能力に優れるとはいえ、降ってくる槍に神経をとがらせながら走り続けるというのは、彼女から体力を少しづつ削り取っていた。

 

(……クソ、どうすりゃいいんだ?このままじゃジリ貧。他のヒーローが来るまで時間稼ぎか?……あっやべえ!)

 

建物の屋上を飛び回っていたミルコが、何かに気が付き急に焦り出す。目線の先には、

 

「え、えっ!?ミルコ!それにあっちはあの赤い少女!?す、すげえええ!!!……ん?」

 

なんとも呑気なことに、避難せずに屋上から動画を撮影し続けている一般人がいた。ヒーローの活動場所で、時々こういう迷惑行為はあったが、いまは特に止めて欲しかったとミルコは内心舌打ちする。

そして不運なことに、彼に槍の一本が向かっていた。1秒もしたら、彼は串刺しになってしまうだろう。

 

「バカ野郎ーーー!避けろォ!」

 

ミルコは軌道を一気に変え、飛来する槍から一般人を守ろうと槍に飛びつく。

しかし、ミルコがその仕事を果たすことは無かった。槍が彼に届く前に、光となって消えたのだ。

 

「頭湧いてんのかオメー!バーカ!命よりそれが大事ならお前から殺すぞ!」

 

威嚇のつもりなのか、彼の足元にかなり大きめの槍を杏子は投擲した。ヒィィと一瞬で感情を怯えに転じながら、撮影していた男は逃げ出していった。

 

ミルコはそれを見て、少し感心した。

 

「……優しいじゃねえか。思ってたより。」

「はぁ?戦いの最中に呑気なこったなあ。アタシに殺されかけてるってのに。」

「ああ、たいていの(ヴィラン)は、個性使って暴れて被害が出ても知らん顔だからな。」

「……アタシが死ねと思ってないやつを殺したら、目覚めが悪いだけさ。」

「そうかい。それに、おめーはアタシのことも、そんなに死んでほしくないように見えるけどな。」

 

ベストジーニストから、戦闘になる前の会話などの情報は聞いていたが、彼女が思っていたよりもヒーローに対して嫌悪を持っていなかったことは伝えられていなかった。そして、ミルコも実際相対してみて、ジーニストと同様の印象を彼女に抱いたのだった。

事前に伝えられていた彼女の生い立ちから、大きな害意を自分にぶつけてくるだろうと予測していた。しかし実際戦ってみると、「いいからとっとと帰ってくれ」という意思を感じ取った。確実にこちらを殺すというものではなく、自分に近づけさせない攻撃がメインだったからだ。それどころか、他の一般人が攻撃に巻き込まれないようにする行動まで見せている。

それは、彼女自身の能力もあるのだろう。他の(ヴィラン)と比べ、戦闘における攻撃能力、先読み、判断力がズバ抜けていた。彼女には、個性ではなく経験から来る強さが備わっていた。そもそもの風格が違う相手だった。並の(ヴィラン)と比べ、彼女はヒーローを前に非常に冷静だった。明らかな場慣れ。ミルコも、なぜ、どこでどうやってここまでの能力を得られているのかが不思議に思う。

だが、それとは別に感じ取れた事実がある。佐倉杏子は、「人を守るために戦っていた」のだ。少なくとも、一時期はそうだったはずだ。先ほどの撮影をしていた彼は、一応建物に身を隠していたという最低限の自己防衛の行動をしており、注意深く周囲を見ていないと存在に気付かないはずだった。にもかかわらず彼に気付き槍を消せたというのは、つまり彼女は常日頃から周囲をよく観察し、他に無用な被害が出ないように戦っていたのだとミルコは推察した。

つくづく、彼女がヒーローではなく(ヴィラン)として戦っているのが残念だとミルコは思った。

 

「お前、(ヴィラン)向いてねえよ。悪意がねえ。」

「何言ってんだよ。アタシは実際にこの手で何人も人を」

「わざわざ悪い奴を探し出してか?ガキのおめーに教えてやる。(ヴィラン)ってのはな、基本自分以外が死んだら得だって考えるもんだ。人生経験上、他人ってのがことごとく自分を害するやつだったからだ。だから、基本的に仲間以外の人間には冷たくなる。死んでほしい数多の人間の中に、たまーに死んでほしくない『(ヴィラン)仲間』がいるって思ってるんだぜ。大なり小なり、それが(ヴィラン)が持っちまってるもんだ。だがおめーはそういう連中とは違う。おめーは、どいつを生かすかじゃなく、どいつを殺すかを考えてる。お前さっきから、アタシ以外に人が居ないか確認してるだろ?」

「……う、うぜー!チョーうぜえ!とっとと死ね!」

 

半分照れ隠し、半分反論が思いつかない苛立ちから、杏子は槍を再び降らせ始める。

 

「はっ!まるでガキの癇癪だな!いや、そもそもお前ガキだったな!でも褒めてやる。おめーは、アタシが見てきた中で一番頑張ったガキに違いねぇ。……だからよ。ちょっとくらい休んでも良いんじゃねえか?戦いだけが、人生の全部ってわけじゃねえよ。」

 

アタシが言えることじゃないかもしれないけどな、とミルコは内心思いつつも、彼女にしては珍しく心配からそんな言葉が出た。ミルコは、彼女がおそらく非常に過酷な、(ヴィラン)との戦闘に明け暮れるような人生を送ってきたのだと思っていたのだ。

だが、佐倉杏子にとって、彼女が自分の人生を分かった風に言うのは不愉快だった。なぜなら、自分の苦しみが理解されることは『絶対にありえない』からだ。世界が変わった、というのもある。しかしそれ以上に、魔法少女という存在として生きてきた人生のうち、助けになったのは同じ魔法少女だけだった。魔法少女以外に対する妬みのようなものが、佐倉杏子の中にうっすらとあった。

だから、魔法少女以外の人間に、魔法少女の抱える物が理解できるなど、彼女の中では『あり得ない』、『あってはならない』のだった。

 

「……うるせえ!知ったふうな口を利くんじゃねえ!だからヒーローは嫌いなんだ、とっとと死ね!」

 

槍の量がさらに多くなる。だがミルコも、何も考えずに走り回っていたわけではない。

 

(コイツの心にアタシの蹴りを届かせるには、まず蹴れる限界まで蹴りぬかないとな!手数は向こうの方が上!で、身体能力はアタシの方が上!ならアタシがやることは……ゴリ押し!)

 

今、ミルコは彼女の居る家より10m程高い建物の屋上にいた。そしてそこから自然に飛び降りる。壁を背に。

 

(壁を蹴って得られる推進力なら、こいつの防御をブチ破れる!)

 

今までミルコは、周囲に壁などない屋上をメインに移動していた。そのせいで横方向に彼女の反射神経や防御を超えるほどに移動することは難しかった。建物に必要以上の損害を与えないようにする今の戦い方では、出せるスピードに限界があった。だが今なら、壁を蹴って大きく跳べる。そして、彼女の居る場所へ真っすぐ飛び、思い切り蹴る。

 

「地の利を生かすぜ!オラァ!!!」

「ん?あ、ヤバ!」

 

彼女がこちらに跳びかかろうとしていることに気が付いた杏子は、そこから飛び退きつつ鎖で壁を作って妨害しようとするが、それよりもミルコの方が一歩速かった。生成途中の壁の隙間を縫って、ミルコが杏子に突撃する。その間、杏子は数十cmしか移動できていなかった。

佐倉杏子も一瞬、やられたと思った。しかし。

 

「!?ガッ!」

「危なかったねえ。」

 

佐倉杏子にその蹴りが届くことは無かった。赤い線が走る黒い歪な槍が、ミルコの脇腹を刺したからだ。

ミルコは、近くの床に縫い付けられてしまい動けなくなる。そして誰がそれをしたのかを悟ったとき、杏子の第六感が全力で警鐘を鳴らし始めた。

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