個性『魔法少女』   作:Assassss

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感想、誤字報告、高評価ありがとうございます。

感想返しが追い付かない(嬉しい悲鳴)


ヒーローの未来、あるいは必然的な絶望

前の時のことが学校でまた噂になり、私とまどかが少し変な目で見られるようになってしまった。

私の評判はどうでもいいけれど、まどかに変な噂が立つのは許せない。2人で話し合った結果、「たまには一緒に過ごさない休日があっても良いんじゃないかな……?」と遠慮がちに言われ、仕方なく今日はまどかと別行動をとることとなった。多分、私の評判を落ち着かせようという、嬉しいけれど無用な心遣いなのだろう。……その件を横から聞いていたさやかが、「ほむら、もうちょっとさあ、まどか離れをした方がいいんじゃ……?」といわれ、まどかにも微妙に否定していない顔をされたのがちょっとショックだった。私、そんなに変に見られていたのか。

 

とはいっても、まどかに関わらないことだと、率先してやりたいことなんて思い浮かばない。他の2人は予定が合わなかった。さやかはまどかに付きっ切りで受験勉強を見てもらうらしく、マミさんは学校の行事があるとか言っていた。

朝起きてどうしようかと少し悩み、グリーフストーン集めを兼ねて少し遠出して海岸に散歩に来た。

私の家や学校の近所のはそろそろ取りつくしてしまったので、今後は時々こんな感じでグリーフストーンやシードを収集しに遠征する必要があるかもしれない。ちなみに最近は、グリーフストーンやシードを見つける魔法を、いろいろと4人で頑張って使えるようになった。この魔法ができるようになる前は、油断するとひたすら地面を見つめるちょっとおかしな人に見えてしまうものだった。これである程度楽になる。

試しに、今その魔法を使ってみる。……海岸に漂着している大量のゴミに反応を感じた。……今気が付いたが、なかなかに汚い海岸だ。不法投棄なのか何なのか、海岸がゴミだらけだった。ただ、一部の区画が綺麗になっており、最近は行政か何かが清掃をしているのかもしれない。正直、ゴミに埋もれた物なんて拾いたくは無いが……流石にグリーフストーンを「汚い」で拒否するつもりはない。最近は価値が下がったが、かつては死に物狂いで求める子もいた、私達魔法少女の生命線なのだから。……そういえば、最近はキュゥべえに会わない。時々、穢れが溜まったグリーフシードやストーンを回収しているのは見かける。確か、改変で人間の構造が変わってしまったから、その調査をしないといけなくなり、忙しいとか言っていただろうか。まあつまり、会う機会が減ったということである。キュゥべえを見て嬉しくなるのは真実を知らない魔法少女だけだろう。つまり、しばらく顔を合わせずに済みそうで私達は嬉しいということだ。

 

……なんてことを考えながら、歩いていたけれど。

 

「はあ……まどかは大丈夫かしら。動画を見た変な人に巻き込まれていなければいいけれど。ついうっかり町中で魔法少女の姿になってしまっていないかしら。美樹さやかが一緒だから多分止めて……いや、なんか、ノリで変身しそうな気がしてきたわ。電話……あ、さっき電話で『ほ、ほむらちゃん。今日もう五回目の電話だよ?もうちょっと少なくてもいいんじゃないかな……?』って言われたわね。ああもう……」

 

まどかが隣に居なくて、とにかく落ち着かない。自分でも驚くほどだ。最近はずっとまどかの隣に居て、離れるのは家に帰るということと同義だった。学校ではもちろん、休日もずっと一緒に居た。……思い返してみれば、自分でも驚くほどにまどかにべったりだ。確かに、私が第三者の立場だったら変な娘に見えることだろう。まあ、なにも悪いことではないはずなので、特に止める気はない。

 

……ダメだ、このままだとイライラして何か良くないことをしてしまいそうだ。気を取り直して、グリーフストーンを探そう。一番近くにあるのは……粗大ごみの業務用冷蔵庫のあたりだ。

……その業務用冷蔵庫の下にあるようだ。でも野ざらしの粗大ごみなんて触りたくない。手袋は……あいにく持ってきていない。仕方ない、こういう時は手に薄く魔力を纏わせることで手袋の代わりにすればいい。

 

さて、この冷蔵庫を持ち上げ……流石に生の身体能力だけじゃ、持ちあがらないか。魔力強化して、再び力を入れると、ゴトッ、という重い音と共に冷蔵庫が持ち上がる。下に黒い輝きを放つ宝石が見えた。

 

その時だった。

 

「HEY!そこの少女!ゴミ掃除のボランティア活動とは感心だね。」

 

金髪でガリガリの人が話しかけてきた。声がちょっとオールマイトに似ている。

迂闊だと自分を少し恥じた。普段は魔法を使って、周囲に人がいるかどうかを常時警戒するくらいはしていた。ただ、今回はイライラしてそれを怠っていた。……反省しなきゃ。もしまどかが一緒の時にこれをやってしまっていたら、と思うと少し嫌な汗が出た。

そんな私の負の感情を目の前の人が感じ取る訳もなく、明るい声で続けた。

 

「申し訳ないのだけれど、この海岸の掃除をするのはちょっと控えてくれないかな?ほら、あそこに緑色の髪の少年が見えるだろう?」

 

指した方向を見ると、私と同い年くらいの男の子がひたすら粗大ごみを抱えて走っていた。

……どこかで見たことある気がするけれど、思い出せない。まあ、少なくとも名前は知らない人だろう。

 

「あの子は……何をやってるんですか?罰ゲームか何か?」

 

見たところ、かなり必死な顔で走っていた。楽しそうには見えない。そしてよく見ると、この海岸のゴミ、かなり広い範囲が片付けられているようだった。……彼がこれを自力でやったのだろうか?だとしたら、相当大変なはずだ。彼の個性は知らないが、少なくとも今は個性を使わずに働いている。自分でやりたいと思えることじゃない。

 

「そ、そんなんじゃないよ!?」

 

金髪の人はかなり食い気味に否定して来た。そして息を一つついて、気を取り直して説明した。

 

「彼はね、目標に向かって体を鍛えているのさ。ゴミ掃除はその一環というわけだ。」

「……部活か何かですか?」

「いや。えーっとね、彼はヒーロー科志望でね。今年は高校の受験生なんだ。ヒーローに体力は欠かせない。だから、毎日この多古場海浜公園に来てゴミ掃除をし、同時にトレーニングもこなしているということなんだ。私はその……師匠というか、コーチみたいなものかな。」

 

……普通に学校のグラウンドですればいいのではないだろうか。なぜわざわざここでゴミ掃除をする必要があるのだろう。

 

「……学校でやらせればいいんじゃないんですか?わざわざこんなところまで来なくても。」

「それもいいけれど、ヒーローってのは本来奉仕活動だからね。彼のヒーロー活動の第一歩として、ゴミ掃除のボランティア活動をしてもらっているんだ。ヒーローの心を是非育んで欲しいなってね。」

 

私には……正直、メリットもないのにここのゴミを自主的に片づけたいとは全く思えない。そして、大抵の人は私と同じ考えのはずだ。ここにゴミが溜まっていることがその証拠だ。

そんな中で、本当に自主的にこの大量のゴミを片付けたいと思う人がいるなら……ヒーローと言っていい、のだろうか?私としては、正義感の肥大化という表現の方がしっくり来てしまう。美樹さやかが恭介の腕を治したことのように、実は心の奥底でゴミを片付けたことによる見返りを求めていたりするのが自然だろう。

……まあ、実のところはこの金髪の人にやれと言われているからやっているだけだろうけれど。

 

「そう言う君は、どうしてここのゴミを片付けようとしたのか聞いても良いかな?」

「……ボランティアに来たわけではありません。この辺で探し物をしに来ただけです。」

「そ、そうだったのかい?すまないね、早とちりしてしまって。ちなみに、その探し物って言うのは何だい?せっかくだから、一緒に探してあげようかい?」

「私のプライベートに関わる物なので、お気遣いなく。」

「そうか……。わかった。だが、気が変わったらいつでも声をかけてもらってもいいからね?」

 

親指を立ててこちらに笑顔を向けてきた。……見ず知らずの私に向かって探し物を手伝うと申し出る?妙に親切過ぎないだろうか。ナンパか何かかもしれない。一応気を付けよう。

 

「話は変わるが、君、片手で冷蔵庫を軽々持ち上げてたよね。個性だったりするのかい?」

 

……それを不審に思って話しかけてきたのだろうか?確かに傍から見ると、細身の女子中学生がかなり重いものを割と軽々持ち上げていたのだ。個性の無断使用に見えてしまうかもしれないが、自力だとしても十分人間の範疇だろう。

 

「個性は使っていません。私の個性は『所持物移動』。片方の手に持っているものを一瞬でもう片方の手に移動させられる個性です。」

「そ、そうなのかい!?見たところそんなに鍛えているようには見えないが……うーむ、人は見かけによらないってことか。」

「……ですから、個性の無断使用などしていませんので。それでは。」

「え?あ、いやね、そんなことを言いたかったわけじゃないよ!?まあ確かにちょっと怪しかったけれどね。単純にすごいと思っただけさ。」

オールマイト!今日の分終わりました!

 

別の場所に行こうとしたら、彼がこっちに走ってきた。

……声で思い出した。この人、春ごろ(ヴィラン)に単身で突っ込んでオールマイトに助けてもらった人だ。あの事件があっても、他人を助けたいという欲求を抑えきれずにヒーローを目指そうというのだろうか?相当勝手に飛び出すなと叱られただろうに。良い方に捉えれば、あの事件で自分の無力を痛感して力をつけようと今努力している……のかもしれないが。

というか、今この人をオールマイトと呼ばなかっただろうか。金髪の人も微妙に慌てているように見える。見た目は全然違うが、声や髪質は似ていると思った。

 

バチン!バチン!

 

突然、この男の子が自分の頬を何度も叩いた。結構大きな音がした。その後に、何回も何回も深呼吸をしていた。挙動不審すぎるが……悪意は感じないので、想定外の心理的な何かに耐えているのだろうか?

しばらくして精神を落ち着けたと思うと、彼が口を開く。

 

「……オ、あ、いや!!?あの、こちらの女の人は?」

「あ、ああ!お疲れ、緑谷少年。ああ、私が声をかけたんだ。ゴミを拾おうとしているように見えたから、緑谷少年の為に残しておくようお願いしようとしたんだ。まあ、私の早とちりだったようだけれどね。」

 

先ほどのオールマイト発言を完全にスルーするつもりのようだけれど……私にも、多少の好奇心というものはある。

 

「いま、オールマイトって呼ばれませんでした?」

「ゴハッ!?」

 

吐血した。病気なのだろうか、かなりの量だ。

 

あの距離で聞こえてたの?……ああ、そ、そのね。私は決してオールマイトではなくてね!彼が私をそう呼んだのは、あー、そのね。ええと……」

「ぼ、ぼぼぼ僕はオールマイトの大ファンでして!あんまり人前ではこういうことしないんですけど、常にオールマイトが僕を見ていてくれるっていう風に自己暗示をかけてるんです!だから、この人はオールマイトじゃ決してありません!」

「そ、そうなんだ!私は八木という者でね。いやー、偶然彼女が見えない位置に緑谷少年はいたようだね。でもこういうことがあるから、今後は気を付けるんだぞ!少年!」

「はい!すみません、オ……八木さん!」

 

……聴覚を常時強化していたのを知らないがための反応だろう。確かに、常人には聞き取りにくい距離と声量だった。私は彼の死角になる位置にいたから、ついそう呼んでしまったのかもしれない。

それにしても、二人とも動揺しすぎではないだろうか。特にこの緑谷と呼ばれた男の子、目を全く合わせない。何か隠していることが丸わかりである。順当に考えるなら、この金髪の人が実はオールマイトなのかもしれない。普段目にするあの筋骨隆々の姿は個性で変化した姿なのだろうか。

まあ、私には関係のないことだ。オールマイトと関わるつもりはない。面倒ごとは御免。正体を彼らが教えてくれるわけがないだろうし、それなら私もこれ以上興味はない。

でも、さっき吐血していたのは気がかりだ。オールマイトにはなるべく長く働いて欲しい。その分だけ、日本の治安が保たれる。今の日本は、オールマイトに余りにももたれかかっている。平和の象徴だの、人々の精神的支柱だと呼ばれるほどに。正直、人々が集団幻覚を見せられているのではと思うほどに、人々はヒーローを称賛し、頼り切っている。見ているだけで馬鹿らしい気分になるが、そんな世界で生きるのだから、もう受け入れるしかないと思っている。

そんな彼が引退でもしたら、少なくとも一時的に治安が悪くなることは確実だ。いつか来ることとはいえ、なるべく先送りにしたい。

……結局のところ、私がどうにかするべき問題ではなく、そしてどうにかできる問題でもないのだが。

 

「そうですか。まあ、お体にはお気をつけて。」

「う、うむ……。お気遣いありがとう。さて、緑谷少年!『目指せ!合格アメリカンドリームプラン』によれば、30分の安静の後にトレーニング再開だ。雄英合格への折り返し地点を過ぎた今だからこそ、中だるみに気を付けなくてはいけないぞ!」

「はい!オ……八木さん!」

 

彼も雄英志望なのか。まあそれなら、彼には頑張ってほしい。彼が受かれば、それだけまどかが万が一にも合格する可能性が減るから。

だからと言って私には彼の手伝いをすることは無理だろうし、そこまでする気もないが……まあ、励ましの言葉はあっても良いかもしれない。

 

私は、今少しイライラしている状態だということが頭から抜けた状態で、彼に口を開いた。

 

 

僕の名前は緑谷出久。ヒーローに憧れる中学3年生。でも、この時代に生まれた僕は無個性で、ヒーローになるなんて夢のまた夢だった。けれど、憧れのオールマイトに。

 

「君は、ヒーローになれる。」

 

そう言ってもらえて、オールマイトの力を受け継ぎヒーローにならないかと、そう言ってくれた。その個性『ワン・フォー・オール』は、聖火の如く引き継がれてきたもので、次は僕の番というわけだ。でも、今のぼくの身体で受け取ってもその力に耐え切れずに四肢が爆散してしまうらしく、今はオールマイトに与えられた「目指せ!合格アメリカンドリームプラン」に従って、地獄の猛トレーニングの真っ最中。その一環として、このゴミだらけの海浜公園を綺麗にしているんだ。

 

……それで、今日の午前中の分が終わって。

 

「オールマイト!今日の分終わりました!」

 

って言いながら駆け寄ったんだけど……オールマイトが誰かと話していたのに気が付いた。さっきまで死角になっていて、僕には見えなかったんだ。

その人は……う、うわああああああ!かわいい!僕よりちょっと年上に見えて、黒髪の女の人、めっちゃ美人!スタイルヤバい!ちょ、ちょちょちょちょっと待って僕まだ心の準備が!!!

 

僕は、頬を叩いて落ち着こうとした。バチン!バチン!……って、やりすぎてちょっと痛い。

 

……すー、はー。すー、はー。よし落ち着いたぞ。とにかく失礼の無いようにしなくちゃ。オールマイトの知り合いかもしれないんだし。

 

「……オ、あ、いや!!?あの、こちらの女の人は?」

 

……言ってて気が付いた。僕さっきオールマイトってつい呼んじゃったよ!ま、まあ結構距離あったし多分バレてないよね……?

 

「あ、ああ!お疲れ、緑谷少年。ああ、私が声をかけたんだ。ゴミを拾おうとしているように見えたから、緑谷少年の為に残しておくようお願いしようとしたんだ。まあ、私の早とちりだったようだけれどね。」

 

なんだ、ただの通りすがりの人だったのか。そして、オールマイトも誤魔化す方向性で行くみたいだ。よし、僕も頑張って合わせないと。

……って意気込んだところで、女の人が口を開いた。

 

「いま、オールマイトって呼ばれませんでした?」

「ゴハッ!?」

 

ダメだったー!!!どどど、どうしよう!?僕の責任だ。何とかして上手い言い訳を考えないと!えーと、えーと……

 

あの距離で聞こえてたの?ああ、そ、そのね。私は決してオールマイトではなくてね!彼が私をそう呼んだのは、あー、そのね。ええと……」

「ぼ、ぼぼぼ僕はオールマイトの大ファンでして!あんまり人前ではこういうことしないんですけど、常にオールマイトが僕を見ていてくれるっていう風に自己暗示をかけてるんです!だから、この人はオールマイトじゃ決してありません!僕が勝手にオールマイトって呼んでるだけで!」

「そ、そうなんだ!私は八木という者でね。いやー、偶然彼女が見えない位置に緑谷少年はいたようだね。でもこういう勘違いがあるから、今後は気を付けるんだぞ!少年!」

「はい!すみません、オ……八木さん!」

 

お願い、これで納得して綺麗な女の人!綺麗だからとても顔を直視できないけど!

 

「そうですか。まあ、お体にはお気をつけて。」

 

よかったあああ!特に気にしないでいてくれるみたいだ。うう、このつい人前でオールマイトって呼んじゃうの、何とかしないとなぁ。万が一オールマイトの正体が痩せた体を持った人なんだって知られたら、大問題だ。平和の象徴として人々には見せられない姿だってオールマイトは言っていた。スキャンダルじゃすまない問題だぞ、気を付けろよ僕!

 

「う、うむ……。お気遣いありがとう。さて、緑谷少年!『目指せ!合格アメリカンドリームプラン』によれば、30分の安静の後にトレーニング再開だ。雄英合格への折り返し地点を過ぎた今だからこそ、中だるみに気を付けなくてはいけないぞ!」

「はい!オ……八木さん!」

 

さあ、オールマイトの言う通り、休み時間の後にトレーニングを再開だ。もちろんこの時間も無駄にせず受験勉強の復習をしないとね。

 

「……雄英のヒーロー科を受けるんですか?」

「え゛!?」

 

は、話しかけられちゃったあ~~~!?や、ヤバい!ゴミ掃除してた時よりも心臓バクバクしてる。女子との会話ってすごいぃ!

 

「え、えええええとその!そうなんですよ!僕は雄英志望で!今のところ勉強面は何とかなりそうなんですけど!実技対策の方がまだまだで!見ればわかる通り体を鍛えないといけないというのはもちろん実感してて今の僕は力不足だってことを痛感してるんですけど!そもそもなんで僕なんかが雄英を志望しているかというとオールマイトへの憧れとかいろいろあるんですけど他にも事情があって!それは言えないんですけどその」

「頑張ってください。応援してます。」

「あああああありがとうございますすすすごいですね!!!!!」

「…………」

「緑谷少年、言ってることは分かるけれど会話としては無茶苦茶だぞ?」

「すすすすみませんオー……あ、八木さん!」

 

うう、恥ずかしいし情けない。オールマイトの力を受け継ぐ者がしていい態度じゃないよなあ。女の人も微妙な顔をしてる。でもごめんなさいオールマイト。僕女子と話したこと殆ど無いんです。ましてやこんなきれいな人ぉ!

 

「HAHAHA。この少女も応援してくれたことだし、これは一層頑張らないとな、少年!」

「もちろんですオ、八木さん!応援してくださりありがとうございます!」

 

僕はこのまま、休憩の後にいつも通りのトレーニングが続くと思っていた。でも。

 

「いやー、しかしだ。見てくれよ少女。緑谷少年は今までたった一人で、この海浜公園のあの範囲を掃除したんだぜ。まったく、いい弟子だよ本当に!君もそう思うだろう?」

 

オールマイトがこの人にそう言った後、風向きが変わった。

 

「ええ、彼はヒーローになるでしょうね。本当に不幸なものです。」

「…………え?」

 

今……不幸って言わなかった?え、でも、さっき応援してくれるって言ったよね?

 

「あの~、君?さっき応援してくれるって言ってたよね?」

 

僕の聞き間違いじゃなかったみたいで、オールマイトも不審に思って訊き返している。

 

「……ええ、言いました。」

 

そういうけど、この人はちょっとためらった後にそう言ってそっぽを向いた。

 

「それなのに、緑谷少年が不幸?」

「…………っ」

「ひッ!?」

 

と、突然彼女が僕のことを睨みつけてきたよ!なんか綺麗な印象とのギャップがあってすごく怖い。

その人は、僕をしばらく睨み続けた後、こう口を開いた。

 

「……そうです。彼は将来不幸になることでしょう。」

 

確実に初対面のはずなのに、彼女の声には確かに嫌いという感情があった。そしてその断定的な口調には、僕への苛立ちも含まれていたけれど、それ以上に確固たる自信が乗っていた。

 

「……その、どういうことか教えてもらっても良いかな?おじさんもちょっと気になる。」

「…………簡単な話です。今のこの世界のヒーローの行きつく先はほぼすべてが不幸です。ろくでもない職業ですよ。」

「ええっ!?そ、そんなわけないですよ!」

 

いくら何でも、信じられない話だった。ヒーローは、僕の同世代の子供たちみんなの憧れの的。程度の差はあれど、ヒーローに悪印象を抱いている子なんて見たこと無かった。特にヒーロー大好きな僕には信じられない言葉だ。

僕は耐え切れずに、ちょっとムキにすらなって反論した。でも……彼女を見ていると、なんとなく一笑に付すことはできないと感じてしまった。揺らがずに鋭く僕を貫く彼女の視線が、安易な答えを許さなかった。

 

「だ、だって!ヒーローがいないと(ヴィラン)を捕まえる人が、個性事故に対処する人がいなくなってしまいます。もちろんそれだけなら警察に頼ればいいって思うかもしれないですけれど、それだけじゃなくて!ヒーローは僕らに希望を与えてくれる存在なんですよ!日本の犯罪発生率が海外より滅茶苦茶低いのはヒーローが幅を利かせているからですよ!そして何より、ヒーローはかっこいい!僕はヒーローに憧れているからここまで訓練を頑張ってこれたんです。特にトップオブトップのヒーロー、オールマイトの存在のすごさはあなたもわかるでしょう?オールマイトのデビュー動画なんて何千回みたことか!」

「……オールマイトのようになりたいと?」

「そりゃもちろん!オールマイトはまさにヒーローの中のヒーローですよ。存在自体が平和の象徴、(ヴィラン)犯罪への抑止力とされるほどの存在!それでいて常に笑顔とユーモアを欠かさないなんてもうヒーローとして完璧すぎる存在です!今の日本のヒーロー社会を作り上げたのはまさにオールマイトのお陰です!」

「つまり、オールマイトが引退したら日本はガタつくということでは?」

「オールマイト以外にもすごいヒーローはたくさんいます!オールマイト引退の時は確かにいつか来るでしょうしテレビでも色々議論されていますけれど、少なくともすぐじゃないですし、他のヒーローも十分強いです!例えばフレイムヒーローエンデヴァー。彼は万年No2とか言われていますけど、事件解決数はオールマイトを超えていて、その少ないファンサもストイックさの表れとしてコアなファンがいるんです!彼は何千度の炎を扱うのにその温度を1度単位で調節できるんだ!さらに、この前テレビでホークスの特集をしていましたけれど、彼は何十もの羽を同時に操って火災現場の中の人々を同時に救出し、ついでに放火していた(ヴィラン)を気絶させてさらに付近にいたファンにサインまで書いていたんです!すごすぎる、ヒーローってほんとにカッコいい!ああ、僕も現場に居合わせればサインもらえたのかなぁ……!」

「それがあなた達の愚かな部分よ。」

「……へ?」

 

自分でも、ちょっと喋りすぎたとは思う。でも今みたいに、僕はヒーローのすごいところ、かっこいい所をたくさん言える。ヒーローは下手な芸能人よりも人々から羨望を受ける存在だ。こんな職業には誰だってできるものならなりたいと思う。そう思っていた。

 

「緑谷君、だったかしら?」

「え?あ、はい。僕は緑谷出久といいます。」

「緑谷出久。貴方は自分の人生が、貴いと思う?家族や友達を、大切にしてる?」

 

なんだろう、この突拍子もない質問は。でも、このセリフを言う彼女は、なんというか妙に慣れていて、それでいて絶対に言い逃れはさせないというような、そんな圧力を感じた。

 

「え?……あ、はい。大切です……よ?」

 

家族は言うまでもなく大事だ。父さんは単身赴任で海外にいることが多いけど、よく僕にメッセージをしてくれる。母さんは昔から僕のヒーローごっこに付き合ってくれたし、ヒーローグッズをたくさん買ってくれた。

友達……パッと思いついたのは幼馴染のかっちゃんだけど、最近は僕のことイジめてくるし、この前は自殺教唆発言されたからなぁ……どうだろう。でも、かっちゃんは昔からすごくて、僕の憧れだったことは間違いない。特別な存在なんだ。

自分の人生が貴いか?っていうのは正直よく分からないけれど、少なくとも人生に絶望して死にたいとかは思っていないし、何よりオールマイトに後継者として見染められたんだから、僕の人生は大切に決まってる。

 

「だったらあなたはヒーローになるべきではないわね。」

「ええ?ど、どういうことですか!?」

 

本当に分からなかったけど、彼女は真剣だった。

 

「その言葉が真実なら、(ヴィラン)が暴れているところに寄りつくべきではないわ。この程度は分かってくれるかしら?」

「えと、それは、そうですね……?」

「あなたは、(ヴィラン)が暴れているということより、ヒーローのサインの方が大事なのね。」

「え?あ……」

 

……そ、そうだよ。僕の悪い癖だ。(ヴィラン)が暴れているのを見ると、離れるどころか近づいてしまって、「ヒーローが現れて(ヴィラン)と戦うんだ!」ってなってしまうんだ。今まで何回か注意されてきた。ヒーロー活動の邪魔をするなって。これは時々社会問題としても扱われる話。僕だけの話じゃないけれど、ヒーローへの憧れが悪い方向へ行ってしまう例だ。

 

「そ、そうですね、僕の悪い癖です。すみません、確かに愚かだ……ヒーローの邪魔をしちゃいけませんよね。」

「……それだけ?」

 

……?え、何だ?他に何かあるのか……?

 

「えと……すみません、ちょっとよく分からないです……」

「緑谷出久。やはりあなたは何も分かってない。」

「えっ?ええと……?」

「あなたの個性次第だけれど、おそらくあなたはヒーローになったら、早死にするわね。」

「えっ……!?」

 

た、確かにヒーローは危険な職業で、(ヴィラン)との戦いで殉職した例もあるけれど、最近はめっきり減ったはずだ。

 

「い、いやでも、ヒーローはその危険と引き換えに高い収入と人々からの羨望を得る存在です。多少の危険くらいは」

「それは、あなたを大切に想う人が、あなたが死んだとしても『仕方ない』って言えるほどの物なの?」

「…………それは……」

 

そ、そうか。この人は、例えば「君が死んだら、お母さんがとても悲しむよね?」って言ってるんだ。今まであんまり考えてこなかったけれど、僕が仮にヒーローになれた場合、周囲の人々への影響も気を付けなくちゃいけない。確かに正論だ。

……でも。そんなことばっかり気にしていたら、危ないことは何にもできないじゃないか。それに、最近ではヒーローの死亡率も減少傾向だ。この日本にはもっと危ない、死亡率や職業病にかかる率が高い仕事だってある。危ないというだけでヒーローになるべきじゃないってのは、ちょっとおかしいんじゃないか?

 

「で、でも、この社会には他に危ない職業だって沢山ありますよ?いくらなんでも、危ないってだけでヒーローになるななんて……」

「あなたは、おそらくオールマイトが引退した数年後に死ぬわ。そして死亡原因は(ヴィラン)などの外的要因ではなく、自滅よ。または、それに等しい絶望を味わうわ。」

「えええ!?な、何を言ってるんですか!?いくら何でも暴論じゃ……!?」

 

ヒーローが自殺とか、するわけがない。人々に希望を与える存在が、自分に絶望するわけないじゃないか。ヒーローの自殺なんて聞いたこともない。いくら何でも信じられないよ!

 

「保証はしないけれど、私はそう確信しているわ。」

「き、君ちょっと待ってくれ。おじさんもその話は聞き逃せないぞ。ちゃんと説明してくれるかな?」

「…………」

 

オールマイトも流石に黙っていられなくなったのか、口を挟んだ。そりゃ、そうだ。自分の後継者が死ぬなんて、放っておける話じゃない。オールマイトとしても、ヒーローという職業には誇りを持っているはずだ。ここまで言われて聞き逃す訳にはいかないようだった。

彼女はとても嫌そうな顔をしてて、あんまり目を合わせてくれなかったけれど、続きを話し出す。

 

「……オールマイトの引退以降、人々は徐々にヒーローに失望し始めます。既存のヒーローはことあるごとにオールマイトの業績と比べられる。オールマイトを超えられそうな実力とカリスマを持つヒーローは現時点ではいません。そして、オールマイトが引退した後、調子に乗った(ヴィラン)は同時多発的に犯罪を起こし始める。オールマイトがいないのに、オールマイトがいる今よりも犯罪が起きるのです。ヒーローは徐々にそれへの対処ができなくなっていき、やがて人々はヒーローに失望する。超常黎明期のような混乱が来るかもしれません。現代の希望そのものであるヒーローは、その光しか見せず、ヒーローを目指す者は絶望を知らずにヒーローになろうとする。」

 

彼女は、捨てられていたオールマイト人形を別の粗大ごみの上に立てた。たとえゴミでもオールマイト像は輝いて見えたけど、その後ろには夕日によって長い長い影ができていた。

 

「この世界の希望と絶望は差し引きゼロ。絶望を知らずにヒーローとなった者達は次々とヒーローを辞めていく。『オールマイトがいない世界がこんなに大変だったなんて思わなかった』とでも言いながら、ね。そして、その情けない姿を見た人々は、ヒーローがまるで人間のような闇を抱えるのを目にし、失望して、さらに罵声を浴びせることでしょう。それを受けたヒーローはますます辞めていく。そのうち、ヒーローが信用ならないなら自分たちが、と、ヴィジランテが幅を利かせる時も来るかもしれません。それによる事故も起きるでしょう。ヒーロー以外の人々は、(ヴィラン)や個性事故には自分の個性で対処せずヒーローに任せろなんて言われて育ってますからね。いきなりできる訳がない。まあその中で、また新たな光、本物のヒーローのような何かが生まれるのかもしれません。でもね。オールマイトが見せた希望の反動の時代、絶望と混乱の時代を生きるのは、あなたの世代よ。」

 

彼女が僕を見た。非難が混じった鋭い目つきだった。その非難が何に向けられているのかは、心当たりがあった。僕は確かに、ヒーローになることの大変さよりも、その輝きに目を焼かれていた。勿論大変なんだろうと頭では分かっていたけれど、そういう暗い部分も抱えなきゃいけないことの自覚が確かに無かった。

 

「僕の、世代が……」

「そしてあなた。緑谷出久。(ヴィラン)相手に、有効手段も持たずに飛び出してしまうようなあなたが、そんな時代を生きていけるような人には到底思えない。あなたの目は光に満ちすぎて、闇を見ていない。光を見続ける力も持っていない。あなたがヒーローになったら、思い描いている羨望も、声援も、もしかしたら収入も、手に入らないかもしれない。そして、自分の『ヒーローになりたい』が、単に人間が欲しがるようなありふれた欲望に由来すると自覚した時、残るのはヒーローの重く苦しい責務だけ。だからあなたは壊れるのよ。」

 

ふと横を見ると、オールマイトは僕と彼女を交互に見比べていた。心配が混じったような表情だった。僕はそれを見て、「オールマイト、僕のことは心配しないで!」って言いたかったけれど、僕にはまだ、オールマイトの後継としての実績も実力もない。そんな僕が何を言っても説得力がなさそうで、悔しさを抱えるしかなかった。

 

「……ち、ちなみにだけどね。オールマイトの後継者が仮にいて、後継者として育てようとしているとしたら……どう思うかな?」

「オールマイトほどの実力とカリスマがある人が実在するなら、とうに世間に知られてますよ。まあ、山にでもこもって修行しているのでしたら話は別ですが。そう言う話が無いということは、少なくともオールマイト級の存在は日本に居ないのでしょう。そして、オールマイトという狂人に成り代われる後継者は、同じく狂人でなければならない。自分の命よりも他人の方が大切なんていう、そんな人ですね。」

「…………」

 

僕は何も言えなかった。自分のことを狂人扱いされたら普通は嫌な気持ちになるだろうし、実際僕も気分は良くないけれど、それ以上に否定する気が起きなかった。彼女の未来予想にいろいろと疑問や反論はある。けれど、一番大きな衝撃は、こんな考えの人がこの世にいるということだった。物心ついた時から、ヒーローが当たり前に(ヴィラン)を退治して、人々を救って、人々は称賛を投げかける。そう言う姿が当たり前だった。彼女の話は僕にとっては全く別世界の話のようだったけれど、でも、冗談には聞こえない。嘘を言っているとも思えなかった。

オールマイトが狂人なんてのも悪い表現だとは思うけれど、考えてみれば、オールマイトはその力だけでなく精神的にも常人離れしている。彼はほぼ年中無休で人々の為に飛び回っているのだ。僕がオールマイトほどの力を得たとき、果たしてオールマイトほどに働けるか?と、改めて問われると、ちょっと言い淀んでしまうかもしれない。

 

「う……うむ、しかしだ。君の言うことにも一理あるかもしれないけれどね。しかし、ヒーローは、誰かがやらなければいけない仕事だ。超常黎明期の混乱は知っているかな?あの頃、今よりずっと治安が悪かった。誰もが、夜の闇を恐れ家に閉じこもっていた。力が跋扈し、秩序は失われ、(ヴィラン)の標的にならないようにと祈る日々だったんだ。そんな世界を救うために、人々の精神的支柱が必要だったんだ。それがヒーローさ。」

「この世界で歴史上、必要だったのかもしれません。でももう、役目を終えたでしょう。人々の重すぎる希望を背負いきれず、もうすぐ崩れます。」

「確かに現代の日本には、人々にも、社会にも、ヒーローにも問題があるのはそうだ。でもね。彼らは、学び成長しているはずだ。私はそう信じてる。私は仕事柄、ヒーローに関わることが多いんだけれど、皆オールマイトに勝るとも劣らない人間力の持ち主だと思うぜ?わ……オールマイトが引退した途端に社会が暗黒期に逆戻りなんて、さすがに悲観的過ぎるとおじさんは思うな。オールマイト以外のヒーローのことをちょっと舐めてるんじゃないか、ってね。未来のことを考え備えようとするのは立派な態度だけれど、闇を見すぎるのも本質を見誤ると、私は思う。闇を見つめすぎると、人はますます闇に飲まれてしまうのだ。だからどこかに、そんな闇から人を救い出せる光が必要なのだ。」

「あなたの関わってきた相手が世界の上澄みでなければ、そうなのでしょうね。」

「う、うむ……」

 

こう話すオールマイトは、(ヴィラン)を退治するときとはまた違った力強さがあった。自分の信念というか、譲れないものがあるんだ。狂気とも確かに表現できる、希望を常に見せようとする力強い意志が、オールマイトを平和の象徴たらしめていたんだと、僕は実感した。

でも、それはこの女の人も同じだった。僕はこの人のことを何も知らないけれど……言葉にブレが無いというかなんというか。彼女も負けじとオールマイトの目を見て話していた。オールマイトが嫌い……というより、何かをぶつけているんだけれど、それがどんな思いなのかは、全然想像がつかない。

 

……ただ、なんとなく、くだらない思いとかじゃなくて、ヒーローになるうえで僕が見つめなきゃいけないと、目を背けてはいけないと思えるような何かが彼女にはあった。

 

「……と、というか君。さっき緑谷少年に『応援してます』って言ってたじゃないか。アレ何だったの!?単なるお世辞かい?」

 

あ……そう言えば、最初に僕はそう言われたんだった。た、確かにヒーローが嫌いそうな彼女ならそう言わなそうだ。むしろ「ヒーローなんてなるな」って言うもんじゃないのか……?

 

「あれは……嘘じゃありません。」

「え、ええ?でもさっきヒーローはロクでもないって」

「私の大切な人が、雄英のヒーロー科を受けるんですよ。」

「た、大切!?」

「緑谷少年、どうしたんだ突然!?」

 

大切って、まさか彼氏とかそう言うやつ!?そうか、こんなにきれいな人なら彼氏の一人くらい当然なのか!?僕にはあまりに雲の上の話過ぎる!

 

……って、一瞬浮かれるようにそう思い浮かんだけれど、続く言葉はまさに予想と真逆の物だった。

 

「私の大事な人には……当然ヒーローなんてろくでも無い仕事に就いてほしくありません。」

 

え……?それ、つまり……

 

「ま、まさか、その人に落ちて欲しいって思ってるの!?」

「ええ。だから、緑谷出久。あなたがもし合格圏内に入れば、落ちる可能性が多少なりとも上がる。だから、『応援してます』。頑張って受かってほしい、あなたには、私たちの代わりに。」

「……な!?」

 

初めて、彼女が笑みを見せた。本当にきれいな笑顔だったけれど、ぞっとしてしまうものだった。テレビで見る(ヴィラン)のような恐ろしさとは違う怖さだった。僕を害する意志というよりも、僕を形作る何か……例えばヒーローへの憧れとか、僕が当たり前に思っているものを壊してくるような怖さ。人間味の無い何かを感じさせる、まるで悪魔に見透かされたような怖さだった。

僕はこの笑顔を前に、動けなかった。何か、僕は彼女に対してしなければならないと感じていて、でもどうするべきかまったく分からなかった。オールマイトも、額に汗を流しながら固まっていた。口元が少し動いていたから、何か言葉を掛けようとしていたのだろうけれど、それが出てこないようだった。

僕に受かってほしいというのは嘘じゃないんだろうけれど……本当に僕はこのまま受験していいのかという、今まで疑いもしなかった決意が、揺らぐのを感じてしまった。

 

彼女はしばらくすると、僕たちに背を向けて、でも最後にこっちを向いてこう言った。

 

「私、もう行きますね。もしヒーローになれたら祝福しますよ。ぜひ私達の身代わりになって、(ヴィラン)や災害から守ってほしい。ヒーローとしての死を迎えるまで。それでは。」

 

普段の僕なら、「守って」って頼られたら体が飛び出しそうだけれど、この時ばかりはそんな気持ちは湧かなかった。

 

 

結局あの後、気を取り直してトレーニングは続けたけれど、ずっとあの人との会話が心に残っていた。ちなみにあの人、一瞬目を離したところで突然消えてしまった。常人離れしてそうな反射神経や、気配察知能力を持つオールマイトでもどこに行ったか分からないらしい。

 

「……本当になんだったんだろう、あの人。」

「昼間のあの少女のことかい?緑谷少年。」

 

今はトレーニングを終えた帰り道。日も落ちてあたりは薄暗くなっている。

 

「その……あの人の言うこと、流石に全部そうなるわけありませんよね!?ヒーローが将来、そんな風になるなんて、あまりにも悲しすぎるというか……」

 

もしあの人の言う通りの未来が待ち受けていると仮定すると、さすがに僕もこのままヒーローになることに疑問が湧いてしまう。もちろん今更変えられないけど……。でも、以前の僕だったら絶対にしないような弱弱しい問いかけを、オールマイトにはせずにはいられなかった。

あの人の言うことは、別に何かデータを示したわけじゃないし、どこかの偉い学者とかの言葉を引っ張ってきたわけじゃない。反論のような言葉も浮かんだ。でも、100%絶対に無いかと言われると、断言はできないことばかりだった。僕にもほんの少しは自覚があったことだ。冷静に考えれば、(ヴィラン)が暴れているのを前に「ヒーローにサインをもらうぞ!」なんてするのは、危ないとか迷惑だとか以前に、馬鹿げた行動だ。巻き込まれて死ぬ可能性は十分あるんだ。実際にそういう事故をニュースで目にする。もちろん、ヒーローは、そうならないように僕たちを守ってくれるけれど……。

 

でも、彼女が語るような超常黎明期の暗黒の再来なんて、いくら何でも悲観的すぎる。オールマイトに否定してほしくて、そう問いかけたけれど。

 

「……緑谷少年。本当に悪いけれど……否定できないものがあるのは事実だ。」

 

返ってきたのは、ヒーローオールマイトとしての答えではなくて、現実を見据えた答えだった。

 

「すまないね。普通だったらそんなことはないって自信満々で断言するんだけれど……君は、私の後継者で、ゆくゆくは社会を支えていく大きな柱になる存在だ。そんな君に、この世の明るい部分だけを見せるわけにはいかない。彼女の話を聞いて、私はそう思った。これから私の後継という重荷を背負ってもらうわけだからね。だから、ハッキリ言おう。彼女の予想の一部は起こりえる……と、私もそう感じてしまった。」

「オールマイト……」

「もちろん、あれほど悲しい未来が来るとは思ってないさ。でもね。私の引退で少なからず混乱が生じるだろうとは思っていたよ。私だって年を取って、シルバーエイジとか呼ばれているからね。ずっと現役でいられるわけじゃない。私の引退に乗じて暴れだす(ヴィラン)も当然出てくるだろう。そして、君が後継者として世間に知られたならば、彼女の言ったとおり、ことあるごとに私の行いと比べられる。君にとって、それはつらく重いことだろう。本当にすまない。」

 

こんな謝罪、かっちゃんとかプライドの高い人ならむしろ嫌がられるだろうけれど、オールマイトと差がありすぎる僕からしてみれば理屈の通ったものだった。

憧れの人からはっきりと伝えられた現実。僕は受け止めるしかなかった。僕は、オールマイトの後継者としての生き方を楽観視していた。オールマイトの言ったことは、僕も納得できてしまうことだ。よく人が、増強系個性のヒーローに向かって「オールマイトほどじゃないけど、すごいパワーだなあ」とか言ったりするのを目にする。今まで考えたこともなかったけれど、実際に僕が頑張っている時にそれを言われたら……少なくとも、嬉しいことじゃない。そういうのを浴びることになるだろう、と。もちろん、これは僕がオールマイトの後継だって正式に知られた場合の話だけれど……それでも、そういうことが少なからずあるだろうというのは確かだった。

 

……でも、オールマイトにそんなことを重荷に思ってほしくない。オールマイトは僕にとっての最高のヒーローだ。

 

「オ、オールマイトが謝ることじゃありませんよ!僕、そんな風に言われても絶対あきらめません!貴方のような、最高のヒーローを目指します!」

「……ありがとう。私は弟子に恵まれたな。そしてね。彼女の発言の中で、違うって言いきれる部分はあるぜ。」

 

オールマイトが、不意に声を明るくしていった。

 

「……それは?」

「『自分の『ヒーローになりたい』が、単に人間が欲しがるようなありふれた欲望に由来する』って言ってただろう?大抵の人はそうだ。そう言う欲望を持っているんだろうね。でも、緑谷少年。君があの時飛び出したのは、そんなチャチな欲望のためじゃなく、『人を救けたい』っていう純粋な気持ちからの物だって、私は自信を持って言おう。」

「オール、マイト……!」

「誰に褒められもしないと分かったうえで、一歩踏み出せた君だからこそ、私は後継に君を選んだ。もし君にひどいことを言う奴がいたら、先輩として『私が選んだ!』って言ってやるさ。だからいつか、見返してやろうぜ。あの少女を。未来は、世界はこれほど明るくできる、ってな!」

 

オールマイトが、僕に向かって拳を突き出した。

トゥルーフォームだったけど、その笑顔はいつもマッスルフォームで人々を元気づける、平和の象徴としてのものだった。

 

「……はい!オールマイト!」

 

オールマイトと拳を合わせて、僕は憧れの人に認めてもらった幸せを嚙み締めた。彼女の言葉は心にずっと残っていたけれど、それに向き合っていけると思えた。

 

……そう言えば、あの人の名前、教えてもらえずに別れちゃったな。多分もう会うことは無いんだろうけれど、この件を彼女と話せずにいるのは、モヤモヤするよ。




今回の予告編があるとしたらこんな感じ↓

最高のヒーローになるために地獄の訓練をこなす毎日。しかしある日、美しい謎の少女(終盤展開全力ネタバレ系女子)が僕の前に現れる。彼女は、僕の未来が、ヒーローの行く末が絶望だという衝撃的な話を告げた。彼女の言葉に揺れる僕の心。でも、ヒーローを諦めるなんて選択肢はない。それを聞いた僕とオールマイトは―――

次回、「ヒーローの未来」。

さらに向こうへ!PLUS ULTRA!

・ほむら
まどかをキメれてないのでイライラ気味。後でちょっと言い過ぎたかと反省している。最初は穏便にすますつもりだったけれど、口を滑らせてから「どうせもう会わないんだし言いたいこと言ったれぇ!」状態になった。
言ったことは大体本心で、将来オールマイトが引退したら日本はガタつくだろうなと思っている。

緑谷の挙動に関しては意外にも自分の美貌のせいだと思っていない。ずっと魔法少女という女子空間にいたために、男子の扱いは慣れているわけではない。まあそもそも、さやかの件もあって男子にあまり興味がなさそうだが。

魔力増強込みの身体能力は5~8%フルカウル程度を想定している。

・オールマイト
AFOが生きてるかもしれないという話は当然聞いている。しばらくの間全力で探し回ったが、AFOは全力でかくれんぼをしているので手がかりすら見つけられなかった。実際にいるのかどうかわからない相手を気にしていてもしょうがないので、今は諦めて緑谷の育成に専念している。
ちなみに、OFAを譲渡すると言ってしまった以上それを変えるつもりは無いが、AFO討伐確認の前に渡してしまっていいのかとかなり悩んでいる。

・「僕たちの背を向けて、でも最後にこっちを向いてこう言った。」
当然シャフ度である。
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