実技試験のロボなどに対する大量の独自設定、独自解釈を含みます。
今期ヒロアカも終わりかあ……
「ここが雄英高校……うわあ、私の中学校の10倍以上広そう……」
鹿目まどかは、雄英高校を初めて訪れていた。今日は、雄英高校ヒーロー科の実技試験の日。周囲は当然、緊張している受験生でごった返している。雄英高校は高校の範疇に収まらない規模の設備を持つが、その会場が受験生で埋め尽くされていた。特にここは偏差値79 ヒーロー志望上位0.2%という余りにも狭い門であり、その難易度は日本一。学力試験ではないので、人々のカバンの中には勉強用道具ではなくジャージなどの動きやすい着替えの服が入っている。鹿目まどかにはそういった改変前の世界との差に新鮮さを感じつつも、緊張半分戸惑い半分の気持ちでいた。
(結局ここに来ちゃったけれど……試験内容なんなんだろう?私対策とかなんもしてないよ。学力試験の方が全然緊張していたなぁ……。)
学力試験に関しては、相応に緊張して、相応に力を出し切り終了した。雄英のヒーロー科に受かれる実力ならば、並の進学校程度にはある学力テストの足切りラインは余裕で乗り越えてくるので、話題に上ることは少ない。しかし、まどかは元々そのような才能に満ち溢れた存在というわけではないので、相応に苦労したものだった。
一週間ほど前に、まどか達3人には学力試験の合格通知が来たので、ひとまず雄英高校に入れることは確定した。美樹さやかなどは、「ほむら!まどか!本当に今まであ゛り゛か゛と゛う゛~~~!みんな私の最高の友達だよ゛おおお!!」などと合格時に泣いて喜んでいた。
これは彼女たちが知ることは無い事実だが、美樹さやかの学力試験の点数は合格者のうち下から片手で数えられる範囲の順位であった。ドラマ性で言えば、まどかよりもさやかの方が上だろう。
(さやかちゃんは泣いて喜んでたけど……ほむらちゃん、本当に時間停止でズルして答案書き換えてないのかな。ほむらちゃんはやってないって言ってたけれど、テストの時間が終わった瞬間に微妙に答案の位置がズレてたような気がしたんだよね。もう考えても仕方のないことだけど……。)
疑っても無益なことを頭に浮かべつつ、まどかは歩みを進める。ふと横を見ると。
「俺はこの時の為に『ファイアボール』を鍛え続けたんだ……ボヤ騒ぎを起こしちまった分の埋め合わせのためにも絶対受からないと……!」
「絶対にヒーローになって、父ちゃん母ちゃんに楽させたげるんだ……!」
「こういう時こそ深呼吸だ……スー、ハー、スー、ハー、スース―スー……ケホッ!ケホッ!……」
「ママ、パパ、絶対受かるもんね!小学校の時から毎日個性鍛えてきたから絶対行けるもん!うん、うん……!」
「もう頼むからとにかく今日の試験が終わってくれ……毎日早朝5時起きは二度とやりたくない……」
「過去の傾向からすれば今年はおそらくロボとの戦闘試験だ……俺の『重心ずらし』なら絶対行ける、行ける、行ける……!」
「おっ、おっ、おぉおおおお!!!!」
と、十人十色の反応ではあるがかなり追い詰められているような受験生の姿があった。学力試験の時よりも格段にその緊張度が上がっている。
(うわ……すごいなあ、みんなそんなに努力してるんだ……私、大丈夫かなあ……?)
実のところ、まどかが実技試験合格のために何かしたかと言うと、ほとんど何もしていない。一応、学校としても受験生への支援ということで、一般人向けの個性訓練施設に連れて行ったもらったことが何回かある。数十分の手続きを経て、まどかにしたことは、彼女の個性を実際に使わせてみて、どのくらい破壊力があるのかや、どの程度の危険があるのかを調べてみるといったことであった。勿論魔法少女としての力を隠すまどかとしては本気で魔法を使ったわけではないので、はっきり言って無駄な時間であった。このような訓練施設では、本気で受かりたがる受験生は個性を伸ばすことに集中するものだが、学校側は「こちらで施設に許可をお願いしたので、あとはまどかさんが放課後や休みの日を利用して適宜ここに通ってくださいね。」と言って終わりであった。個性伸ばしというより、個性を使っての事故を起こさないためのイベントであった。
要するに中学校側としては、鹿目まどかが本当に受かることをほとんど期待していないのである。
(まあ、そうだよね。志望欄を一回消したような人が、雄英のヒーロー科に本気で受かれるだなんて私でも思わないもん。ああ、本気で努力してきた人たちになんだか申し訳ないなあ……)
そんなことを思いつつ、鹿目まどかは試験説明会場へやってきた。学校に用意される代物とは思えない巨大なスクリーンに驚きつつも、まどかは席に着く。
「今日は俺のライヴにようこそー!!!エエヴィバディセイヘイ!!!」
「……(シーン)」
「こいつはシヴィーーー!!!受験生のリスナー!実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!アーユーレディ!?」
「……(シーン)」
(え、何今の……?というかこの人本当にスタッフの人なのかな?)
プレゼントマイクのノリに乗れなかったまどかは、他の受験者と同じく困惑した。ちなみに、まどかはプレゼントマイクを知らなかったので、本気でこの人物が職員なのかどうかを疑っている。
ともかく、彼の試験内容説明が始まり、まどかは一応スタッフなのだと認め真面目に耳を傾ける。
「入試要項通り!
(10分間の模擬市街地演習かぁ……。え、10分しかないの?しかも持ち込み自由……?弓と矢のセットとか買っておけば……あ、いや、そもそも全力は……うーん……)
未だに全力を出すことに対し葛藤しているまどか。そもそも記念受験で来ているということは頭で分かってはいるが、どうしても「合格のために」という思考が頭にチラつく。
その後も彼の説明は続く。簡単にまとめると、
・演習場には"仮想
・それぞれの「攻略難易度」に応じてポイントが設定されてある
・各々の"個性"で"仮想
・他人への攻撃等のアンチヒーロー行為は禁止
だった。
(ふーん……仮想
「質問よろしいでしょうか!?」
説明が途切れたところで、一人の男子が手を上げた。
「プリントには四種の
(そ、そこまで言わなくても……)
「我々受験者は規範となるヒーローのご指導を求めてこの場に座しているのです!!ついでにそこの縮れ毛の君!先ほどからぼそぼそと…気が散る!!物見遊山のつもりなら即刻雄英から去りたまえ!」
「すみません……」
(すごいカリカリしてる……やっぱりそれだけ緊張する場ってことなんだ。……私も正直物見遊山に近いかも、なんだかごめんなさい……。それと、うーん……あの縮れ毛の人、見たことあるような?)
そんな感想をまどかは抱きつつ、プレゼントマイクの説明は続く。四種目の
「最後に
背景の大スクリーンに凝ったアニメーションが流れ、この試験にかかっているコストに慄きつつも、まどかは受験会場へ向かった。
◇
校内をバス移動するというカルチャーショックを受けつつも、ジャージに着替えたのちにまどかは試験会場へ着く。
(なんか、みんなすごい服装が自由だなあ……学力試験の時とは大違い。というか、結構鍛えていそうな人ばっかり……)
魔力抜きの肉体に関しては体育の授業程度でしか鍛えてこなかったまどか。周囲の受験生は、明らかに学校で運動成績トップを獲っていそうな人が大半だった。そこでも微妙な疎外感を受けつつ、手に魔力の塊を生成してイメージを確かめる。
(……さすがに何もしないでただ立ってるだけなのも印象悪いだろうし、何体か壊すくらいはした方が良いよね。ほむらちゃんに『個性届の範囲内で違和感のない振る舞いをして。でも絶対に受からないようにして。』ってもう耳にタコができるほど言われてるし。でも、わざわざこんな試験用意してくれたのに全力を出さないってそれも悪いことの気がするし、どうしよう……。うう、今の私ここにいていいのかなあ……)
人生を賭けた大勝負に望まんとする者が大半の中で、全力を出そうか迷っているという事実に引け目を感じるまどか。
「君は何だ?妨害目的で受験しているのか?」
「あああ!いや、そんなことは……!」
「ああ、いや!す、すみません!」
眼鏡の男子の発言内容が、心を言い当てられたようでついまどかは反応してしまう。
「?あ、いや、桃色の髪の君のことではない。誤解させてすまなかった。」
大勝負の前には似つかわしくない、微笑ましいともとれるやり取りに、周囲から軽い笑いが起きた。
(ううう、恥ずかしい。私ったら、こんな大事な時もドジしちゃった……。というか、あの二人もここに来たんだ。……うーん、やっぱりあの緑色の男の子、どこかで見たことある気がするんだけれど、な「はいスタート」んだったかなあ……?少なくとも半年以内は会っていないと思うけど、うーん……ん?なんか足音が……?)
プレゼントマイクが不意打ち気味にスタートの合図をした。
「どうしたあ!?実戦じゃカウントなんざねえんだよ!!走れ走れぇ!!賽は投げられてんぞ!!?」
「……えっ!?」
ずっと緑の少年のことを考えていたまどか。しかし彼のことに気を取られていた上に、彼自体も周囲から出遅れていたので、まどかとその少年は、スタートした周囲から遅れてしまう。
(え、スタート!?え、あれが?わ、ほ、ホントにみんな走り出してる!え、えーい!)
「わっ、見た目に反してすごい個性、僕一番後ろおおお!?」
まどかは焦って、かなり本気気味で足に魔力を込め跳躍した。足元から魔力によるピンクの光が生まれる。そうして、驚きと悲哀の声を放つ少年を置き去りにして、一気に前方の集団へ追いついた。
(……あ、やり過ぎちゃった……な、なんか皆こっち見てる!?怖いからちょっと離れよう……)
実際のところ、まどかは他の受験生にはただの記念受験組だと思われていた(実際にそうと言えるが)。体が鍛えていないことが丸わかりで、見た目あまり気合も感じられなかったからだ。
だが、彼女が一気に彼らへ追いついたことで、少なくともライバルであるとは認識された。一斉にまどかを見たのは、そういう認識の変化によるものだ。
適当な路地に入り、とりあえず周りを見渡してみると。
「標的・イタイケナ少女!ブッ殺ス!」
(……あれが1P仮想
改変前の世界基準で、さすがにロボットと言えども高性能なものではないだろうと思っていた。しかし目の前にあるのは、機関銃らしきものを装備し、壁を破壊し、自動で目標を捕捉し、当然のように言葉を発する機械だった。明らかに高価そうであり、怖いというよりもそもそもこんな高そうな機械を壊していいのかと、まどかは破壊を躊躇してしまう。
しかし、腕の重火器のようなものを向けられて、まどかは我に返る。
「こ、こんなの撃たれたら死んじゃうよ!えーーーい!!!」
「ピギャ!ミ、見タ目ニヨラズナンテ派手ナ……」
まどかは片手に集めた魔力を投げつけた。硬さは不明だが、微妙に命の危機を感じさせられたまどかはかなり多めに魔力を手に集めた。結果、ロボは頭部を除いて木っ端みじんになった。
ご丁寧に断末魔まで上げ、ロボは破壊された。まどかはそのロボをしげしげと観察する。
「……これ、鉄製だよね?私が魔法少女だったから壊せたけど、普通の個性じゃなかなか壊せないんじゃ……。この、えーと、ガトリング、だっけ?……これも、弾が入ってる……え、これ、ほんとにシャレにならないやつじゃ……!?」
まどかは知らないことだが、雄英としても試験でリカバリーガールが治癒できないような怪我人は出ないよう細心の注意を払っている。ガトリングに装填されている弾はゴム弾に近いもので、当たると痛いが怪我はしないものである。目に当たったとしても失明しないような仕組みまでついており、その安全対策は万全なのである。ガトリングを模しているのは、受験生に緊張感を与えるためだ。事前に配布される説明資料にも小さくではあるが安全に配慮されていることは書かれているのだが、人々がスマホなどを買う時にいちいち免責事項に目を通さないように、まどかもそれほど深く目を通したわけではなかった。
また、確かにロボは鉄(正しく言えば合金)製であるが、内部には自己破壊装置が備わっている。衝撃を与えると勝手に自壊する仕組みであり、まどかが想像するほどの攻撃力が必要な訳ではない。ただ、これは脆い1P仮想
しかし、まどかはそんなことは知る由もない。仮想
「聴覚強化……け、結構数がいるみたい?なんか悲鳴も聞こえるよ!な、なんなのこの試験!?人が死んじゃうよ!えい、えい!」
ロボの設計者通りに緊張感を与えられたまどかは、襲おうとしている仮想
個性という枠組みを外れた力は、1Pにも3Pにも平等にダメージを与え、破壊していった。
その光景を見た他の受験生は。
「あ、あの女子の個性、やべーぞ!」
「3Pを一撃で……!?」
「受験前の自信なさげな態度は何だったんだ!?」
「死角になってるロボも見つけてないか?」
「彼女って例の異形型の人質事件の……」
そして、それをモニタリング、またはインカムで会話していた雄英の教師は。
「この受験生の個性……かなり強力ですね。彼女は合格候補でしょうかね。」
「YES!セメントス、俺もそう思うぜ。CUTEな見た目もヒーロー向きだ。」
「山田、見た目は関係ないだろ。」
「大いに関係あるぜイレイザー!お前はアングラ系だから関係ないかもしれないが、現代のヒーローは見てくれも大事なんだぜ!なんたって俺っちの……」
などと、鹿目まどかに注目していた。
彼女が注目された理由は、主に2つある。
まず一つ目。
「あの弾……仮想
「ツマリ、投ゲタアトモ軌道ヲ変エラレルノカ。」
「外す可能性が滅茶苦茶減るのがVERY GOOD POINTだな!」
投擲系の個性はよくあるが、投げた後に軌道を変えられるのは非常に稀で、強力という扱いだった。精度にもよるが、訓練すれば自分は安全な物陰に隠れながらひたすら仮想
もう一つは。
「……ふと思ったんだが、彼女の攻撃で自壊装置が発動していなくないか?」
「そのようですね。ぱっと見の印象ですが、ロボットの装甲にも内部機器にも平等にダメージが入っているようです。」
「まあ、ある程度壊しやすいようにロボには中に侵入できる隙間がありますからね。装甲越しにダメージを与えているのか、それともその隙間からあのピンク色の物が入ってダメージを与えているのか判断が難しいですが……しかしそれを加味しても、あのピンク色の爆発は対象の破壊という目的にかなり有用です。」
この教員の推測は、前者が正解だった。彼女の攻撃は、ある程度外部の装甲を貫通して内部にもダメージが入るのだった。まどか自身特にそういうことを意識しているわけではないが、魔法という理外の力が自然にそうさせていた。並の盾などでは完璧に防げず、防ぐには同じ魔法少女の力が必要なのである。
これは当然
「YEAH!そんな
「15Pですね。」
「……え、あれ?割と少ないわね。」
その有用性の割に少ない点数に、マイクは困惑した。
「……ま、あんな態度じゃな。」
「え、態度?っておい、あの
マイクは、彼女が敵対して寄ってきた仮想
◇
なぜ彼女がこんなことをしているのかというと。
時を少し遡り、彼女がある仮想
(……クレーマーみたいなことはやりたくないけれど、これ後で言わなきゃだめだよね?この試験絶対人が死んじゃいますって。……うーん、でもここを受ける受験生なら壊せるみたいだから、私が思っていたよりも大丈夫なのかな?今のところ倒れてる人とか見てないし……)
などとこの試験の安全性について考えつつ、
「目標・余裕ソーナ少女、ブチ壊ース!!!」
と喋る目の前の邪魔な仮想
「あああ、せっかく先に見つけたのに、あれじゃもう壊される……!」
横から、試験開始時に一緒に取り残された緑色の髪の少年が残念そうにそう叫んだ。
それを聞くと、まどかは彼の予想だにしない行動をとった。
「ん?あ、緑色の髪の人……えっと、君が先に見つけたんですか?」
「え……?あ、はい、多分?」
「あ、そうだったんですか。えと、壊せますよね?これ。」
「ま、まあ多分……?」
「じゃあ私が壊しちゃいけませんね。それじゃあ!」
「えっ……!?」
「エッ、何ヤッテンノコノ人!?」
そう言って、まどかはその仮想
「な、なんかよく分かんないけど、ありがとうございます!SMAAAAAASH!」
困惑して、棒立ちになった仮想
「やっと1P……でも、今のは普通のパンチだ。まだ、OFAが発動できないのか!?くそ、早く消化してくれよ……!」
他人が聞けばよく分からない発言をしながら、彼は他の仮想
何故鹿目まどかが彼に仮想
今は、その経験が良くない方向に働いてしまっていた。すなわち、
(あの男の子が先に見つけたんだから、私が狩っちゃだめだよね?アンチヒーロー行為はダメって言われてたしね。見た感じ、怖がってる様子もないから、多分対抗できる個性があるんだろうし……)
と考えてしまったのだ。
しかし実際は、この試験の
そして、それを見た他の受験生がいた。変な受験生だと感じていたが、不意にあることを思いついてしまった。
まどかが別の仮想
「俺が先に見つけた獲物だあああああ!!!」
そう言いながら、その受験生は仮想
「あ、はい、すみません!」
と言って、仮想
このやりとりで、近くにいた受験生に
(この子……ああ言えば譲ってくれんのか!?ラッキー!)
などと思われてしまった。つまり、横取りするべきカモと見なされてしまったのだ。もともとまどかは「自分が壊さないと死人が出る」という使命感のもと行動していたので、横取りされても違和感も嫌悪感も持たない。
結果、途中から仮想
◇
そうして、残り約3分となった。
鈍い所があるまどかでも、約4分間ずっと仮想
(あれ?私……さっきから全然壊してない?私が見つけたの全部、他の人が先に見つけたのばっかり。うーん、数が少なくなったからかな……?……それとももしかして、私、横取りされてるの?)
そんなことが頭に浮かび、さすがに冷静になるまどか。聴覚を魔力強化して周囲を探ると、機械の駆動音のようなものはほぼ聞こえなくなっていた。1P、2P、3P仮想
(10分って結構妥当な短さだったんだなあ。……ていうか、私さっきから仮想
この期に及んでも、そもそも自分が合格するかどうかで悩んでいるまどか。頭で不合格になるべきだとは思っているが、どうしても仮想
(はあ……こんなことで悩んでるの、絶対私だけだよ……ん?なんかさっきから振動が……?)
周囲を警戒していると、不意に地面の一部が隆起し出した。そしてそこから、鋼鉄の巨人が姿を見せる。試験会場にある集合住宅の高さを超えていた。
(え、えええええー!?何あれ何あれ!?)
その巨人が地面を殴りつければ、見た目通りの破壊力で地面は割れ、建物を掴めばそれは脆く崩れ去る。まさに怪獣とも言える脅威だった。
これには周囲の受験生も驚きの声をあげる。
「う、うわああーーー!!!」
「デカすぎない!?」
「雄英は何考えてるんだよ!」
「ポイントとか考えてる場合じゃねえ!逃げろ!」
「マズイマズイマズイ、まだ1Pだ!!無駄になっちゃう!!」
と半ばパニックに陥っていた。
この巨大ロボットは、事前の説明にあった0P仮想
そして、それを目にしたまどかだが。
「……あれ、意外と足が遅い?何とかなるかも……?」
と口にするなど、意外にも落ち着いていた。
まず、まどかの初見での印象はこうだ。
(なにこれ……でも、魔女に比べれば、全然、怖くないもん……!)
このような圧倒的な相手をして、まどかはむしろ過去の魔女との戦いを思い出した。あの巨大ロボ程の図体で、人間を当然のように殺しにかかる恐ろしい姿の魔女。逃げるのではなく、魔女を倒すときの精神的スイッチが入ってしまったのだ。
そうなったまどかが、まず初めにしたことは、この巨大ロボを観察することだ。すると。
(……なんか、人の早歩きくらいのスピードしかないし、瓦礫を投げつけてきたりもしない。わ、パンチしてきた!すごい威力!……あれ?でも今、あの人とか普通に腕が届く範囲だったよね?なんで直接殴ってこないんだろう……。
……あの足の部分、すごく緩衝材が詰まってる?しかもあれ、カメラだよね?後ろや横にも人はいるはずなのに、方向転換すら全然しない。
……い、意外と安全なの?)
このロボはそもそも、周囲の受験生の位置をセンサーやカメラで常時把握しており、ああ見えて轢き殺したりなどしないよう徹底的に安全運転がされるようになっている。特にキャタピラ部分には雄英サポート科の技術の粋が結集しており、人が轢かれてもベルトが変形して潰さないようになっているのだ。
魔女と戦った経験のある彼女にとって、図体の大きさでその脅威度を測るということはしなかった。小さい相手の方がすばしっこくて苦戦した、大きい相手は動きが鈍いから割となんとかなる。という経験をこれまで何度もしてきた。無論そういう傾向が全てであると信じているわけではないが、「大きいから危ない」という判断をするまどかではないのだ。
そして、その巨大さから他の1P、2P、3Pと比べ過剰と言えるほどに安全対策がされている0P仮想
(うーん……流石に殺すために出てきたってわけじゃないのかなぁ……でもやっぱり、普通の人には危ないよ、あれ。まあ、みんな逃げてるみたいだし、放っておいていいかな。……ん?あの子……動けない?)
目を凝らすと見つかる安全装置の数々に気が抜けたまどか。大抵の受験生は、見ると逃げ出すのでそこまで気合を入れて隠されていたわけではないが故のまどかの反応だった。ちなみにこの間、周囲が逃げる中で棒立ちで巨大ロボを見ている構図となっている。
冷静になってあたりを見渡すと、茶髪の女子が瓦礫に足を挟まれて動けないのを発見した。運の悪いことに、巨大ロボの進路上にいる。
(……あの人だけ助けて逃げようかな。私はともかく、あの人は多分踏みつぶされたら流石に死んじゃうよね。……あれ?あの足のベルト?の部分、なんかすごく細かく変形しているような?え、もしかして轢かれても大丈夫にすらなってる?……いやでも、やっぱり危ないよ、この試験。いくらロボットに安全装置があるからって、こういう事故もあるんだし……)
「ええと、あの……大丈夫ですか?」
「脚が、挟まれちゃって……」
「うーん、しょっと!」
「わ、力持ちなんやね!ありがとう……って早く逃げんと!」
まどかは少しだけ魔力強化して瓦礫を持ちあげた。それに茶髪の女子は驚きと、そしてお礼を述べるが、すぐに迫る巨大ロボに気が付き逃げだそうとする。
しかし、一歩目でよろけてしまう。
「!痛ったあ、足痛めた、それに気持ち悪い、走れん……」
「え?だ、大丈夫ですか?」
まどかは知らないことだが、脚の負傷に加え、彼女の個性の副作用により今はかなりの吐き気に襲われている状態なのだ。今の彼女は、走るなどもってのほかである。
「……あなただけでも逃げて!このままだと……」
「まあ……ああ見えて轢かれても大丈夫だと思いますよ?一応試験……のはずですし……?私が運びますね。」
「あの見た目で、そんな訳なか……それに、間に合わんくなる!」
「そ、そうですね。でも多分、落ち着いて逃げれば大丈夫ですよ。あれ、人間の早歩きくらいのスピードしかありませんし。」
「え?あ、ほんとや、意外と足遅い……で、でも!」
冷静に巨大ロボを観察し、逆に「冷静に対処すれば大丈夫」と感じたまどか。そもそも彼女自身が命の危機を感じていないからこそ、このような冷静な判断ができると言えるだろう。そんな彼女と、命の危機を感じている茶髪の女子との会話には、その危機感の差によって微妙なずれが出ていた。
これは後日の審査でのことだが、その光景を見た教員の反応は、渋いものだった。
「うーん……助けようとしているのは良いんだけど、これは……」
「悠長にしすぎですね。対巨大化個性持ち
「0Pの出現時も、彼女、ほとんど慌てていませんでしたね。もしや、どうせ安全対策されているからと気を抜いているのでしょうか?」
「肝が据わっていると言えるかもしれないけれど、これでは危機感が欠如していると見るしかないわね……」
この試験には、隠しポイントとして
通常、こういう危険が迫る場において怪我人を助けるという行為は十分な加点対象。だが、まどか本人がこの場を危険と認識せず緊張感無く行動していたことが加点をためらわせるものとなっていた。この時のまどかは、ロボを破壊するというよりも、ロボから人を守るという動機が強かった。そして、今は彼女以外の人々は自分の足で逃げている。
まどかが本気で魔法を使えば、この巨大ロボットは破壊できるが、その気は全くない。魔法をセーブしていることもあるが、そもそも1P仮想
そんなこととはつゆ知らず、茶髪の女子に肩を貸そうとしていると。
不意に、まどかの頭上で大きな叫び声が響く。続けて、ドゴン!という大きな破壊音が響いた。
「ん……?え、ロボが壊されちゃった!?すごい威力!」
緑色の縮れ毛の少年が、突如空中に飛びあがり、ロボをパンチで破壊した。その威力はオールマイトを連想させるほどで、それを受けた0P仮想
(うわー、あの男の子、あんなすごい個性持ってたんだ。……ん?あれ、なんか落ちてきてない?あの男の子?)
飛び上がったその男子は、空中で強大な威力の殴打を放った。その後は当然、重力にひかれて自由落下する。普通ならば、自分で飛び上がったのだから着地もできるだろうと考える。しかし、まどかの目にはひたすら焦り顔で迫る地面を見ているようにしか見えなかった。さらによく見れば、右腕がどす黒く変色している。
「……え、え?ど、どうしよう!あの人このままだと地面にぶつかって死んじゃう!」
「今は慌てんの!?ええと……私の個性を使うから、私を落下地点に連れてって、あの瓦礫に乗せて!」
まどかは隣に同世代の女子がいたことで、癖で「どうしよう」と口に出した。マミ、ほむら、さやか、杏子が隣に居るときは、たいてい相談するのがまどかの習慣だった。先ほどまでの落ち着きぶりからするとかなりの豹変ぶりに見えるものだった。
まどかは茶髪の女子を、落下地点のあたりまで連れて行く。その瓦礫に乗せると、彼女の個性で浮かび上がり、少しづつ高度を上げていった。
「ありがと!いい?タイミングを合わせて私の個性を使うから!」
「う、うん!」
まどかは、彼女の個性を知らないので、どうするべきか分からない。実のところ、魔法を全力で使えば彼を浮かせる程度は訳は無いのだが、彼女の鈍くささがここにきて発揮されてしまっていた上に、先ほどまで魔法をセーブしていたためにそのような発想が頭から抜けてしまっていた。
その茶髪の少女は、空中でその少年と接触し、
ペしっ!と、頬を叩いた。
(え……ビンタ?え?あ、ゆっくりになった、よかったあ……。)
彼に触れたことで、個性の『無重力』が発動。彼の落下の勢いは弱まり、地面に軟着地させた。
まどかは、その少年をしげしげと見る。よく見ると、殴るのに使った腕だけではなく、おそらく跳躍にも個性を使ったのであろう、脚も甚大な負傷をしていた。
「う、うわ……あの、大丈夫……いや、全然大丈夫じゃないですよね……?」
「…………すみません、でも、まだ、1P……!これだけじゃだめだ……!」
「え……まだ続けるんですか?」
「……イトが、僕に託してくれたんだ……!」
負傷していない腕を使って匍匐前進する男子。まどかは、信じられない気持ちで彼を見た。
(え、この右腕と足、絶対全治数ヵ月とか、そんな感じだよね?魔法少女でもないんだし、その怪我、後遺症とか残るんじゃ……?それにさっき1Pって言ってた。殆ど合格の見込みがないのに、それで続けるの?ヒーローって、そんなに眩しいお仕事なの……!?)
確かに、今のまどかにはヒーローに憧れる気持ちがあった。どんくさい自分を変え、もっとかっこよく、人の役に立ちたいという欲望だ。ほむらからさんざん「人の為に力を使っても碌なことにはならないからやめるべきよ」と言われても、ついぞその気持ちは途絶えなかった。
ただ、この少年程の気持ちかと自問すると、とてもそうだとは言えなかった。今後手足が動かなくなってでも、目の前の
ただ、確実に言えるのは。
(……ここまで強い気持ちで合格したい人たちには、さすがに及ばないし、私が受かっていいもんじゃないよね。私はやっぱり不合格でいいかな……。)
まどかは、一種のあきらめと共に入学の意思がほぼ消えたことだった。
結局この後は、試験が終了。緑髪の少年のことがまどかは心配だったが、リカバリーガールという治癒個性持ちの教員が来て彼を治癒し、一安心した。
後日、まどかの家に雄英から不合格通知が来た。
その通知には不合格としか書かれていないためにまどかは知らないで終わったことだが、彼女の得点は
総合順位: 37位
であった。ちなみに、終盤にて一緒にいた茶髪の少女の
不合格の要因を総じて端的に言えば、雄英ヒーロー科は彼女のような中途半端な気持ちで受かれるほどに甘くはなかったことだろう。
~~おまけ 各ヒーロー教員からまどかへの印象やメッセージ~~
・イレイザー
個性が強いのはいいが、あの調子じゃヒーローはやっていけんだろうな。彼女に足りないのは向上心。本人自身、個性に頼りきりで体を鍛えていないようだしな。それが無けりゃ、雄英のヒーロー科のキツいカリキュラムには耐えられんだろう。
ま、普通科に行くって聞いてるから、そこでゆっくり個性を活かせる進路を考えるのが本人にとって幸せだろうよ。
・根津
少なくとも、性根の部分はヒーロー向きだと思うのさ。例の動画の件はもちろん把握しているよ。あの優しさ、そしてあの異形型へのフラットな視点での思考。現代のヒーローが、人々がなかなか持てないものと言えるだろう。そういった面では、僕は彼女の入学、ひいてはヒーローとしての活動を期待していたのだけれど、試験の結果を捻じ曲げるほどの理由には残念ながらならないね。聞くところによると、彼女自身そんなに目立つのを好まないようだし、普通科に行った方が幸せだと僕は思うのさ。
……ところで、試験の映像を見る限り、彼女の個性は事前に申請された内容と乖離している気がするんだけれど、今一度しっかり調べてもらった方が良いんじゃないかい?
・13号
確かに、獲物を「先に見つけたのはそっちだから」という理由で他に譲るのは、ちょっと遠慮しすぎですね。このヒーロー社会で、特に雄英でやっていくには、もうすこしガツガツさが必要です。
とはいえ、彼女の個性は明らかに有用そうですし、将来は仮免許だけでも取るのはいかがでしょうか?思わぬ個性の強みが見つかるかもしれませんよ。
・ミッドナイト
そうね……個性も強くて使い慣れてるみたいだし、その点は良いんだけれど、こう、なんというか、青春の青臭いギラギラした感じが私の好みなのよねぇ。獲物を他に譲っちゃうような子はちょっと雄英の好みの対象外かしら?
・プレゼントマイク
YEAH! なかなか興味深い受験生だったぜ!個性が強くて練度も高そうだったのがGOOD POINT!しかし、獲物を逃したり敵を前に緊張感が無いのがBAD POINTだ!雄英のHIGHESTな壁を超えるには至らなかったが、あの個性は上手く鍛えればなかなかにチートになると思うから、これからも君のPLUS ULTRA!を俺たちは期待しているぜ!
・リカバリーガール
うーん、個性は確かに強いけれど、0Pを前にあの態度でいるのはねえ。例の人質の動画も見たけれど、この子には危機感というものが欠落してるんじゃとあたしゃ心配だよ。下手に前線に行って無闇に怪我をされたらたまったもんじゃないからね。
・オールマイト
鹿目少女!試験の結果は残念だった。具体的な結果を言うことはできないが、しかし、非常に惜しい点数だった!君があとほんの少しだけ向上心と努力の積み重ねを持っていれば、確実に合格していただろう!ヒーローの道を諦めないにしても、別の道を志すとしても、君には無限の可能性がある。どうかこの失敗で折れたりせず、すばらしい人生を歩むことを願っている!
というわけで、まどかちゃんには落ちてもらうことになりました。
色々考えましたが、この状態のままヒーロー科に行っても本人がついていけない上に不幸だろうと考えたためです。
- まどかはおそらくヒーロー科の訓練よりも、友達との放課後マックの方が大切なタイプ。
- まどかはヒーローになってカッコよくなりたいのであって、雄英ヒーロー科生が目指すトップヒーローになりたいわけではない。
- そもそもヒーローという職業と、それを取り巻く社会情勢を微妙に思っている。
- 人助けをしたいという意思はあるが、そもそも救い手が足りている(原作開始時点)状況でアルまど的なことをするかと言うと、おそらくしないのでは。
- そもそも本人が鈍くさいと自認している。軍隊式とすら受け取れるヒーロー科(相澤のクラスだけかもしれないが)のカリキュラムに突っ込んでも相性よくなさそう。
- 本人が大して合格に向けて実技試験対策をしていないのに、受からせるのは頑張ってた他受験生がかわいそう。仮にも日本最高峰で同世代の憧れなので……。
というのが、落とした主な理由です。後ほむらが離れ離れになったときにどう行動するかわかったもんじゃないというのもある。
とはいえ、このままA組と絡み無しというわけではありません。ぶっちゃけると体育祭です。なので、USJ編はどうやってもその場にいることが想像できないのですっ飛ばします。見たかった人いたらごめんね。
・雄英高校に入れることは確定した
あくまで筆者の推測、というかオリ設定だが、
ヒーロー科: 学力試験で一定点数を取った子のうち、実技試験の点数で上から36名が合格
普通科: 志願者の内、学力試験で上位○○名が合格
なので、後から「ヒーローから○○名が併願で普通科に入学する可能性があるので、あなたは現段階では合格するかどうか不明です。」みたいなのは起こらない(そうじゃないと困る話だが)。「普通科を併願していた子がヒーロー科に受かったので、そっちに進学した分の補欠合格が後から出る」はあり得る。
ちなみに、経営科と発明科はヒーロー科と普通科とは別の学力試験が課される想定です。どっちも頭脳労働だしね。
・私はやっぱり不合格でいいかな
まどか視点での緑谷は、
- 体が魔法少女のように頑丈でないのに
- 倒しても0Pの相手に
- 自分はまだ1Pなのに、人を助けるために
- 後遺症が残りそうな怪我を伴って
- 0Pを撃破
という感じ。これを見て、他の人もこんな感じなのかと考え、「流石にそこまでガチでヒーローはできないです……。」となった。
・危機感を持っていないと判断された
正直0Pまわりののまどかの振る舞い、本当にこうするのかあんま自信ないけどこうでもしないとレスキューポイント稼いで合格しちゃいそうだったから違和感あっても許して。
・緑谷
まどかのおこぼれで
・0P仮想
流石に安全策が多重に練られていると思われる。
・教員への反応
ブラドとかハウンドドッグとかも講評してそうだけど、正直こういう時のキャラがわからんくて想像できませんでした。
・実はコッソリ試験状況を魔法で遠くから監視していたほむら
不合格を知ってホッとしてる。
・中学校
あとで雄英からコッソリお知らせが来ている。
雄英「この子あと順位が一つ上だったら合格やで。試験での個性の発現が申告と違ったから、ちゃんと個性の調査はしときな?」
中学「ファッ!?ちゃんと訓練させとけばよかった……」