繋ぎ回です。
私達は式典相応に飾り付けられた体育館に集められ、同学年の誰かの言葉を聞き流していた。
「……今まで私達を支えてくださった先生、家族、友達の皆様に、心からの感謝を申し上げます。私たちの成長は……」
今日は見滝原中学校の卒業式。見滝原中学校は改変後でもその構造に殆ど変化は無く、体育館も馴染みのある構造だった。まどかの話によると、雄英高校はかなり各々の個性に配慮した独特な構造が多いらしく、なんとなく前の世界に別れを告げるような感覚になる。
「……私たちは未曾有の災害にくじけず、手を取り合い、困難を乗り越え……」
実際にはワルプルギスの襲来によるものである、改変前の世界でのスーパーセル災害だが、この世界でも実際に発生していたことになっていた。ただ、この世界は災害への復興速度が速いために、改変の時点ですでに復興完了していたことになっていたようだ。世界が改変されて、突然街並みが綺麗なものになったのは、そういう理由だった。
(ついに私達も卒業かあ……)
(色々なことがあったよね。魔法少女のこととか、世界が変わっちゃったこととか……)
(そうね、本当に色々なことがあったわ。)
(そうだね……あ、そうか、ほむらって時間ループしてたから、何年もこの中学校にいることになるのか。)
(そうね。そういうことになるわね……)
そんなことをテレパシーで会話しながら、この中学にはもうほとんど行かないということを意識してみる。
……不思議と、涙は出ない。先ほど渡された卒業証書に目をやると、感慨深くは感じるけれど、あまり嬉しいという感情は湧かなかった。
(……ねえ、ほむらちゃん。)
(なにかしら、まどか。)
(ほむらちゃん、さっきからあんまり明るい顔じゃないけど、大丈夫?)
(そうね……まあ、2人と同じような感情を抱いてはいないと思うわ。)
まどかとさやかは、普通に3年間をこの学校で過ごしたのだろうけれど、私は違う。何度も何度もループした間、私はずっとこの中学校に通っていた。その間、人が何人も死んだ。いつもいつもワルプルギスの夜に勝てなくて、最初はみんな今みたいに生きて笑っていたのが、良くて避難生活で暗い顔をし、最悪の場合は全員死んでしまうものだった。ループ中では、魔法少女や魔女がこの学校の生徒を殺すことも少なく、今半ば能天気に感慨にふけっている同学年の子たちがどんな悲鳴を上げ、どんな死体になり、それを誰が悲しむのか、なんとなく想像がつく。当然、さやか、マミ、杏子、そしてまどかのものも。
そんな彼ら彼女らが今、そんなあり得た未来にお構いなしに卒業しようとしている。感動で泣いている子もちらほら。ループ中ではほとんど見たことない表情で、新鮮と言えば新鮮な気持ちだ。私たちはみんなで同じ高校に行くから、そこまで寂しい気持ちにはならないけれど。
「……私はここで5年間校長をしておりますが、皆さんが入学したときのことが昨日のことのように頭に浮かびます。あの初々しい……」
校長の正直どうでもいい長話の中にそんな言葉があったので、私も最初の時間軸でのことを思い出した。
あの時の私は、病弱で、頭は悪くて、勇気が無くて、自信も無かった。そんな私が初めて出会ったのが、鹿目まどかだった。通して数えれば、もう10年以上は前のことだ。あの頃のことは、遠い遠い在りし日の憧憬として、私の中に残り続けている。あの頃の鹿目まどかは、本当にかっこよくて、頼りになって、人々の為に頑張る魔法少女だった。何もできなかった私の手を引いてくれた。最後は、死んでしまったけれど。そんな彼女に憧れて、魔法少女になって、彼女を救おうと足掻く日々が始まった。2周目では、一般人にまで魔法少女のことをバラすなどというドジをやったりしたけれど、それでも私なりに頑張った。でも結局まどかは魔女になってしまって、そこで魔法少女の真実を知った。
それを知っての3周目の世界。キュゥべえに騙されているということを伝えたけれど、ほとんど信じてもらえなかった。それどころか、私を不審に思い始めて距離を置かれる始末だった。さやかは魔女化し、そこで魔法少女の真実を知った巴マミは取り乱し、佐倉杏子を撃った。そしてそれをまどかが撃つ。魔女に襲われたのではなく、身内同士で殺し合いになったのはあれが初めてだった。その状況下でも、まどかは最後の時まで私を信用し、一緒に戦ってくれた。そしてそのまどかから、「キュゥべえに騙される前のバカな私を止めて」とお願いされ、私は魔女化しそうだったまどかを、最後まで私の傍に居てくれたまどかを撃った。
あの時のことは鮮明に覚えている。ソウルジェムが砕けた瞬間のまどかが、どのように水浸しの地面に倒れこんで息を止めたかを。そこから私に、決して成長とは言えない変化が起き、なんとしてでもまどかが助かる世界にするために何度も何度も同じ約一ヵ月を繰り返した。積み上げた屍は数知れず、いつしか犯罪行為は当たり前になり、嘘つき、だまし討ちには慣れてしまった。
……思い返してみれば、あの繰り返した時間で私は全くと言っていい程学生らしいことをしていなかった。最低限違和感のないように振る舞っておいて、放課後はグリーフシード集め、武器の調達、その為に必要な知識の勉強、などなどだ。当時は好きだった読書やテレビやなんやらを我慢して、ずっとそういう興味の無いことに全力を出してきた。
その繰り返した時間、今のまどかの分以外は全部無駄だったけれど。
あんなに頑張って、その結果が100人ほどのまどかを死なせただけ。自分の情けなさに涙が出そうになるけれど、もう過ぎたことを思い返しても無駄だと、ぐっとこらえた。
この学校での時間で私が経験した感情は、明るいものは多くない。少なくとも時間で言えば、繰り返しの分悲しい方が大きい。でも、ループの初めの方の、あの頼もしいまどかとの時間を過ごしたのも、そして初めてまどかと出会ったのも、ここ見滝原中学校。だからここから離れることは、嬉しくもあり、悲しくもある……筈なのだけれど、まどかと同じ高校に行くということで、正直そこまで感情が揺れ動いてはいない。
でも、私のよく知る見滝原の制服を着るまどかとは、今日でさよならなのだろう。今までのループの記憶との、決別の日が今日なのだ。スッパリと、思い出す必要のないことは考えないように生きて行きたい。
◇
式典を終え、私たちは屋上へ来て弁当を食べていた。
「はぁー、この景色とも今日でお別れかー。」
「久しぶりに来たけれど、やっぱりここ、結構いい景色よね。雄英にはこういうスポット無いのよねえ。」
式を終え、外で待機していた巴マミが合流した。……彼女だけ私服で、少し浮いている。
「マミさん……せっかくだから見滝原の制服着てきたらいいんじゃないですか?」
「え?あ、それはその。ちょっと着てみようかと思ってみたんだけれど……」
「……けれど?」
「その、サイズが……特に胸のあたりが……ちょっとね。」
「……うわあ、さすがマミさん。」
「ちょっと、それどういう意味よ!?」
マミさんが、胸のあたりを腕で押さえて少しさやかを睨んだ。……まだ育つのか、それ。色々とすごい。いや、別に良し悪しの問題ではないけれど。
「そのスタイルだと、マミさん高校でもモテモテなんじゃないですかー?」
さやかがからかうように言った。私から見ても、巴マミはかなりスタイルも顔も良いと思う。
「えー?そ、そういうものかしら?」
「そうですよ!絶対靴箱にラブレター貰ってるでしょ!?」
「いや、あんまり……無いわね。」
「あんまり!?じゃあ一回くらいはあるんですか!?」
「あ、あはは……」
……初耳だ。私も気になる。
高校でのマミさんの様子だが、仲のいい友達はいるけれど、私たち以上の仲良しはいないらしい。振り返ってみれば、マミさんは休日はずっと私達と一緒に居たりする。私達と仲が良すぎて、逆に休日に他の女子との時間が取れない、という状態なのだそうだ。
女子同士でさえそんな様子なのだ。男子とそういう関係になっているという話は全く聞いたことが無かった。
「私も初耳です、その話。」
「あ、暁美さん……その、隣のクラスの男子が、一目ぼれしたらしくて……」
「へー!ど、どんな内容だったんですか?」
「確か……『僕ほどあなたのことを理解している男はこの世に居ません。あなたの隙の無い立ち振る舞いを見ればわかるのです。あなたがどれだけつらい境遇に耐え、戦って来たか!どんなヒーローよりも、巴マミさんはヒーローです!是非僕にその過酷な運命の片棒を担がせてほしい!是非僕と一緒に!』みたいな感じかしら。一応それとなく聞いてみたけれど、魔法少女のことは本当に知らないみたいだったわ。でも、何というか、なんでそこまで私のことを尊敬しているのか分からなくて、お付き合いはお断りしたわ。」
……それ、彼女の戦闘歴を個性か何かで感じ取ったのではないだろうか。
「個性で何か感じ取られたのではないですか?」
「そうだと思うけれど、その人の具体的な個性を知らないし、そもそも知らない人だったし……」
「……というか、それ本当にラブレターですか?」
「…………言われてみれば、内容的にあんまり恋って感じはしない……かしら?」
などと話していると、不意に4人以外の声が聞こえてきた。
「あ、あのー……すこしよろしいですか?」
「?あ……」
美樹さやかがその声の主を知った途端、微妙な表情になる。
志筑仁美が、屋上の出入り口のところに立っていた。彼女は私たちのところに近付く。目線は美樹さやかに向いていた。
「……その……皆さまとは違う高校に行くので、お別れを言おうと思いました。」
「そ、そう。」
美樹さやかは、かつて親友だったが、恋敵という関係になった。結局さやかはその戦いに負けて、というよりも自滅に近い状態になってしまい、最近は彼女と会っていないはず。
「その、上条くんのことでさやかさんと疎遠になってしまったこと、私ずっと悲しく思っていましたの。昔のように仲良くとはいかないまでも、せめて悔いのない別れをと思いまして。」
「……別に、気にしないでいいよ。仁美は別に悪いことしたわけじゃないし。」
そう言うさやかの目線は、志筑仁美をとらえていなかった。彼女自身、そこまで潔く割り切れる性格でもない。魔法少女と契約するときは「恭介に腕を治したことを感謝されなくてもいい」と言っておきながら、本当にそのことを知らないでただの親しい友人として接する彼に耐え切れず魔女化してしまう、というのは本当に多かった。
今のさやかは、やはりわだかまりのようなものを感じるのだろう。
「……あー、そのさ。あの後、恭介とは……どうなの?」
気になるのは分かるが、それで「もうずっとラブラブですの!」とか言われたらどうするのだろうか。こんなところでソウルジェムを濁らせてほしくはないのだけれど。
「あー……彼とは、お付き合いするのは止めることになりました。今はただの友人という関係です。」
「……え?」
(え?)
(えぇ……?)
まどかとマミさんのテレパスと、さやかの声がハモった。
「え、いや、え、別れたの!?」
「だ、だって、あの方あんまり私の為に時間を取ってくださらないんですの。自由な時間の殆どをバイオリンを弾くことに費やしていて……デートの約束を取り付けても、後で『ごめん!演奏会関係の用事が入っちゃった。また今度でいいかな?』って。そんなことを言われ続けて、いつの間にか気持ちが薄れてきてしまったのです。」
「えー……えええええええ!!!」
……私は上条恭介のことをそれほど深く調べていないけれど、なんとなくそうなるだろうな、という気はしていた。彼のバイオリニストとしての情熱は本物だ。なので、さやかが彼の腕を治した場合、食べる、寝る、闘病以外の時間は全てバイオリンに費やすようになる。デートよりも。彼は、恋をするのに向いていない。これが私の印象だ。彼がさやかが腕を治したことを知った場合にはもう少し違う振る舞いをするのだが、このように「奇跡的に偶然腕が治った」と認識している場合は、バイオリンを弾くことが最優先事項になってしまい、恋人はかなり置いてきぼりとなってしまう。
(美樹さやか。一応言っておくけれど、過去の繰り返しの中で、彼に治したことを告げずに付き合った場合、大体こういう風になるわ。)
(はーーーーー!?な、なんでそれ言わなかったのさ!?)
(言っても無益だし、聞かれてもいないわ。)
(恭介がそんな奴だったなんて……わ、私、何のために魔法少女に……)
(その、美樹さん。えーと……『ドンマイ』?)
(なーにがドンマイですかマミさん!私の本体がちっちゃな宝石になっちゃったんですよ!?危うく死にかけたんですよー!!!!)
(……あ、あはは……ごめんさやかちゃん、正直私なんて言えばいいのか……)
「あの……さやかさん?」
テレパスに集中していたせいで、器用に表情だけ動かして何も言わないでいるさやかを不審に思った仁美が声をかけた。
「あー、ごめん。ちょっと考え事してた。」
「そ、そうですの……?その、やっぱり私が先に告白したのは不誠実ではとずっと……」
「あー、そういうの良いよ。なんかもうどうでもいいや。」
「……その、やっぱり怒って……」
「怒ってない怒ってない。もうあんな奴きれいさっぱり忘れることにする。はあー、これが人生経験ってやつか……」
「え……え?」
「別の高校行くことになるからあんま会えないだろうしさ。とりあえず記念写真でも撮る?中学まではずっと一緒に居たんだし、せめて一枚、ね?」
「え?その、いいんですの?」
「いーのいーの。ほら、こっち来て。」
そうして、さやかは彼女の腕を引っ張って私達を並ばせる。
美樹さやかは、あっという間に仁美を普通の友達のように扱いだした。さっきまではあれほど気まずかったのに。私には、真似できないような切り替えの良さだった。先ほど、彼女のことを「潔く割り切れる性格でもない」と表現したけど、私よりはマシかもしれない、と思った。もし私がまどかを傷つけた人がいたら、多分一生憎む。たとえまどかが許したとしても、ずるずる引きずってしまいそうな、そんなドロドロした感情が私にはあると思う。そしてそれをおかしいとも思えない。さやかのように明るくあろうと思えないのだ。
その点、さやかは気分が明るくなれる隙を見つけたなら、何の迷いもなくそうなれる人なのだろう。こういった部分が、彼女を私よりも社交的と思える要因なのだと思った。
「はい、チーズ!」
そうして、5人が揃った記念撮影が行われた。私は真顔だったけれど、みんなはこの卒業という日にふさわしいいい笑顔を浮かべていた。
この後、仁美、さやか、まどかがいろいろと話したいというので、私とマミさんは別れた。積もる話、ということなのだろう。私と出会う前は、よく仁美とさやかで一緒に居たらしい。……私はまどかと一緒に居たかったけれど、マミさんが「中学の前からの付き合いみたいだし、今くらいはお話しさせてあげましょうよ?」と言って引き離された。正論かもしれないが、かなり苦しい決断だった。
◇
そしてその足で、私は佐倉杏子の居る施設の近くに来た。最近は受験のせいで、彼女の元へ行く機会が作れなかった。
(……というわけで、私たちは来月から高校生というわけね。)
(はあーん、そうか、もうそんな季節かぁ。)
杏子は普段通りだ。姿が見えるわけではないが、声からして元気で間違いない。
(ま、おめでとさん。高校生活楽しんでおけよ?アタシにはよく分かんねーけど……)
(まどかと一緒だから、多分楽しいわ。)
(またまどか……まどか抜きだったら楽しくないのか?)
(分からないわ。……私、高校生に初めてなるんだもの。)
(ふーん……でも、中学生生活はどうだったんだ?アタシは学校行ってねーからわかんないんだ。)
(……どうかしらね。色々あったから、素直に楽しかったとは言えないわね。でも、私の記憶には一生残り続けると思うわ。)
(まあ、ほむらはそうか。あんな事情じゃ、とても普通の中学生生活とは言えないよなあ。)
私がどうして時間遡行をして、ループ中にどんな経験をしたかは、皆には大雑把に伝えているけれど、具体的にどんなことがあったのかはあまり言っていない。大抵どのタイミングで誰が死んだとか、どうして魔女になってしまったのかとか、あの時は敵対してきてショックだったとか、そんな話ばっかりになってしまうから。
(普通の中学生生活……?)
(アタシが中学校行ってたら、どんな風になったのかなーって。)
(……普通の中学生、ね。改めてどんな感じと聞かれると、何を言っていいのか分からなくなるわ。)
もしかして、中学生生活や高校生生活に興味があるのだろうか。私たちの中で、唯一学校に行っていなかった彼女だ。疎外感を感じるのかもしれない。
(杏子。あなた、学校に行ってみたいの?)
(いや、いーよ、別に。)
……意外だ。声からの判断となるが、本当に行かなくていいと思っているようだった。
(意外ね。てっきり、一人だけ学校に行っていないから疎外感でも感じているのかと思ったわ。)
(は?いや、そんなんじゃ……いや、それも、あるかもしれないけど……でもいーよ、アタシは。)
(……どういうことかしら。)
(アタシ、学生生活ってやつ、やっていける気がしないからさ。)
やっていけない……とは、どういうことなのだろう。少なくとも、佐倉杏子はアウトロー生活というある意味逆境に耐え抜いて生きていた。そういった力強さを持っている。そんな杏子が、学校生活を送れない、なんてことは無いと思うのだけれど。
(……そんなことは無いと思うけれど。あなたなら、相当偏差値が高い所でもない限りは勉強にもついていけると思えるし)
(あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!アタシに勉強の話をするなあああああ!!!)
突然大声を出されて、思わずテレパスを切ってしまった。
勉強がどうしたのだろうか。……思い返してみれば、佐倉杏子との会話で、勉強の話をしたことが最近は全然ない。
(……突然大声を出さないでもらえるかしら?)
(二次関数のaが原点で二酸化炭素のCO2が原子と分子で過去形と過去分詞系がenがつくのが半分くらいでenglishな与謝野晶子が超常黎明期以前であばばばば……)
……呪文か何かかと最初は思った。内容的に、中学生の勉強内容な気がするけれど……
(きょ、杏子?どうしたのかしら?)
(……ベンキョー、辛い……)
(我慢するしかないわね。私も好きでやっているわけではないわ。)
ループ中に、現代兵器の扱いや製作に関する知識を得るために、理科の分子化学や英語を猛勉強したおかげか、私は中学ではなかなかの成績を保てた。
しかし、別に楽しいからやっていたわけではない。雄英に入ってからは、偏差値からして私も相応に勉強は頑張らなければいけないだろう。
……それはともかく、杏子の反応は過剰な気がするけれど。
(ほむら……)
(……何?)
(中学生って、すごいんだなぁ。)
(どういうことよ。)
(一日何時間も、席に座って先生の話を聞いてるんだろ?)
(まあ……そうよ。)
(体育の時間、一週間に何時間も無いんだろ?)
(……そうね。週に2時間分、と言ったところかしら。)
(私、このままの生活をしてると、体が腐っちまいそうだぜ……)
(え、ええ?)
(だってよー!30分くらい机に座ってたら、体を動かしたくなるだろ!?それなのにアイツら、合わせて4時間くらいずーーーーーーっと机にアタシを拘束するんだぜ!?拷問だよ拷問!)
そういえば、佐倉杏子は空いている時間はずっとゲームセンターでダンスゲームをしていたと聞く。かなり活発に動くタイプだ。そんな彼女にとって、今の生活は相当苦しい……のかもしれない。私は別に、そんな生活でもまどかさえいれば満足すると思う。
(……4時間。つまりそれ以外の時間は遊んでいるのかしら?)
(おう!流石にそれ以上はあいつらも気が咎めるみたいでな。中にあるヒーロー用訓練施設で、他のヒーローをボコボコにして遊んでるぜ!)
……それは、絶対裏があると思うのだが。タダで施設を使わせるわけないと思う。裏で記録でも取られているのではないだろうか。
(……ボコボコって、何してるのよ。)
(ん?なんか戦闘訓練とか何とかいってたぜ。よく分かんねーけど、止められるまでは相手をボコボコにしても良いって言われてるんだ!いやー、ベンキョーのイライラを解消できるのがあそこしかないんだ。)
(ソウルジェムの濁りを考えれば、あんまり魔法を使うべきではないと思うのだけれど。)
(安心しろって、ほむら。別にグリーフシードをもっともってこいとか言うつもりはねーよ。流石に全力で魔法は使ってねーからな。まあ、持ってるグリーフストーンやシードでやりくりできる範囲で、だな。)
(……なら、いいのだけれど。)
(ちなみにアタシの戦績は、182勝1敗だぜ。)
(律儀に数えているのね。……というか、誰に負けたのよ。)
(ヒーローのホークス。)
(え、あのホークス……?)
彼はNo3のヒーローで、あの羽が生み出す機動力や、その精密操作を思えば、杏子が負けたというのも不思議ではない。けれど、そんな彼が公安の訓練施設に来たのは意外だ。この施設、時間停止で調べられるだけ調べてみたけれど、表に名前が出ていないヒーローの名前が多数ある施設で、逆に表で有名なヒーローはここに来ないようなのだ。ついでに、かなり黒い仕事もしているようだった。やはりヒーローという仕事は危険だと再認識されられる。まどかがヒーロー科に落ちて本当に良かった。
……それはともかく、ホークスが公安に関わっているという話は聞いたことが無い。実は秘密裏に公安に所属しているヒーローなのだろうか。
(あー、チクショウ!アイツの羽がアタシを宙に浮かせて、何もさせなくさせられたのめちゃくちゃ悔しい!ついでにあのふざけた態度が滅茶苦茶腹が立つ!あの個性、羽は速いし多いしで対処しきれなかったんだ。本気を出しても勝てるか微妙な相手だったぜ。ぜってー次は勝ってやる。最近はアイツ対策を考えるのに頭が忙しくて、ますますベンキョーがやってられないぜ。)
(……まあ、楽しそうでなによりよ。でも残念ながら、勉強はちゃんとやるべきね。将来困ると思うわよ?)
(やだ!貰った金で一生遊んで暮らすんだもん!)
(……一生ダンスゲームでもするつもりなの?)
(それは……うーん、どうしよ?)
時々、杏子と将来のことを話すけれど、こんな風に曖昧な答えを返されることが多い。彼女自身、将来どうしたいのか、よく分からないのだろう。まあ、これは私の歳の大抵の子が思っていることだと思う。将来何になりたいかと言われても……この世界ではヒーローと答える子は多いけれど、それもヒーローが具体的に何をしているかを知ってのものではないと、傍から見ていて思う。私も、まどかのこと以外でどうしたいかと言われても、生活できるお金があればそれでいい、くらいしか思えない。
でも話を聞く限り、公安から手に入れられる有り余ったお金でずっと遊んで暮らすのも微妙に思っているようなのだ。……しかし、佐倉杏子に向いている職業は、ヒーローのような力を振るう仕事ではないかと、活発な彼女を見ていて思う。しかし彼女はヒーローが嫌いなのだ。となると、選択肢がそれ以上思い浮かばないのが正直なところである。
(まあ、ともかく。ここを出たら、巴マミの家にいるという話は、もう承諾ということでいいかしら。)
(ああ、その話か。ちょっと考えたけど、とりあえずいいぜ。私なりに考えてみたけど、まあ悪いことはなさそうだしな。)
(それは良かったわ。じゃあ、今後はどうやって公安を納得させられる話を作り出せるかね。今のままだと、里親を勝手に決められそうなんでしょう?)
(盗み聞きした限りではそうみたいだ。まったく、人の親を勝手に決めるなんて迷惑な話だぜ。まあ、まだ決まってはいないみたいだけどな。)
(……正直、国家単位の組織なのだからやろうと思えば誰にでも決められそうな気はするわね。なんとかして、私たちの秘密を知られずに私達とのつながりを示せればいいのだけれど……)
(それができれば苦労はねー、って話だな。ま、まだ時間は少しあるし、ゆっくり考えようぜ。)
(……勉強からの逃避でそのことばっかり考えるべきではないわよ?)
(うげ、なんでわかったんだよ!?)
(まったく……)
お転婆という言葉がぴったりのいつもの杏子に、私は安心した。
話を聞く限りでは、どうも夏ごろにいったん解放される、という話になっているらしい。彼女をどうするかは決めていないけれど、適当に理由を付けてマミさんの家に住むのがベストでは、という感じになっている。寂しがり屋のマミさんが提案したのだ。
もちろんいろいろと監視はついてくるようではある。それをどうにかするのも考えなければいけないので、彼女の今後に関して考えなければいけないことは結構多い。
(なぁ、ほむら。)
(何かしら?)
(ほむらは、高校生は楽しみか?まどかのことは抜きで。)
正直、まどかと一緒に安全に過ごせる現状に満足していて、これ以上望むものはあまりない。そう言われてみると、私が何を望んでいるのか……よく分からない。
(……分からないわ。私、まどかと皆のこと以外あまり考えるつもりが無いの。)
(……見つかるといいな。)
(何が、かしら。)
(ほむら、アンタ自身の幸せだ。別に、まどか以外に大切なものを増やしてもいいだろ?)
(ダメよ。私には今のままでも多すぎる。)
まどかを守り切れなかった私に、これ以上大切なものを増やすなんてとても無理だ。私の気持ちだけの問題ではない。その大切なものをまた失ったとき、私はどうなってしまうのか。心に絶望が満ち、魔女になってしまうとしても不思議ではない。
(はぁー、意固地だなぁ。ま、私はほむらに、アンタ達に楽しいことが増えるように願ってるぜ。)
(……ありがとう。そうなるといいわね。)
そんな風に言ってくれる杏子に、悪い気はしなかった。
苦労はいろいろとあるけれど、そんな杏子と縁を切るつもりは全くない。まどか以外に大切なものがあるとしたら、それは私以外の魔法少女4人のことだろうと思った。
◇
4月になり、桜の季節。
「ほむらちゃーん、お待たせー!」
「私も今来たところよ、まどか。」
「いやアンタ、30分前にはもう来てたでしょ?」
「余計なことは言わなくていいのよ、美樹さやか。」
まどかの家に集合した私たち。桜がそこかしこで咲き誇る華やかな空気の中、ここから歩きで数十分というところに雄英高校はある。灰色のブレザーに赤色のネクタイ、深緑のスカートに身を包んだ私たちは、少し浮かれつつ道を歩いた。これだけでも、受験勉強を頑張った甲斐があるというものだ。
「いや~、私達もついに華の女子高生ですなぁ~」
「本当だね~。高校生活、楽しいといいなあ。」
「……まどか、中学生生活は楽しかった?」
「え?もちろん!ほむらちゃんやマミさん、杏子ちゃんに出会えたし、楽しい思い出いっぱいって感じだね!あ、でも魔法少女としての記憶は……うーん、ちょっと微妙かなあ。」
「……ごめんなさい、私が力不足なばっかりに。」
「ほむらちゃんは悪くないよ!?」
「そーだよ!いくらほむらが人付き合いが下手だからって、あれは全部キュゥべえのせいだったんだから!」
「さ、さやかちゃん一言余計だよ……」
……思い返してみると、私は見滝原の生徒では、さやか、マミさん、まどかとしか殆ど会話をした記憶が無い。
「人付き合い、私、そんなに下手なのかしら。」
「下手!ヘッタクソ!初めて会ったときは敵かと思ったんだよこっちは!とにかく考えてることとか、ほむらの気持ちがぜーんぜん伝わってこないの。なんか人間みが無い、みたいな?」
「……こ、これからたくさん友達作れるよ!みんなとおしゃべりしていればきっとそういうのもうまくなるって!私も頑張ってみんなにほむらちゃんを紹介するからね!」
正直、私はまどかとさやか以外友達は欲しくないのだけれど……まあ、まどかからの提案だ。とりあえずまどかの言う通りにしてみようと思う。とりあえず、お喋りすればいい……のだろうか?友達の作り方と言われても、具体的にどうすればいいのかは私にはよく分からない。そういえば私は、まどか、さやか、杏子、マミさんと、どうやって友達になったのだっけ?魔法少女として一緒に過ごしていたら、いつのまにか友達になっていた気がする。……一緒に過ごしていれば、自然に友達になれるのだろうか?
そう思いながら歩いていると、遠くに雄英高校が見えてきた。
「見えてきたね~。マミさんとも一緒に来たかったけれど……」
「確か、入学式の手伝いとかで早めに登校しなきゃいけない、だったかしら?まあ、入学式でテレパスで話せるでしょうね。」
「あそこ、改変前は確か軍事基地がある場所じゃなかったっけ?いや~、物騒な場所が私達学生のための場所になるなんてめっちゃラッキー!って感じだね。」
「……意外と物騒よ?雄英高校は。調べた限り、数千億単位の施設が用意されているようだし、ヒーロー関係の出入りもまあまああるようだったわ。」
「ま、私達普通科には関係ないでしょ!さあ、私たちの楽しい楽しい女子高生生活の始まりだあー!」
「そうだね……!あ、そうだ。雄英高校って、敷地がすごーく広いんだよ!二人とも、私が案内してあげるね!」
まどかは、私とさやかの手を取り引っ張る。その顔には、今まさに満開の桜のような笑み。かつての弱かった私が初めてまどかと出会ったときに、保健室に優しく連れて行ってくれた時と同質のそれは、私の心を春のように温めた。
「……そうね、ありがとう、まどか。これまでも、そしてこれからも。」
「もー、ほむらちゃんったら、大げさなんだから。ほら、行こう!」
そうして、私たちは高い校門をくぐった。
この先、待っているのは戦いとはほぼ無縁の、楽しい学生生活だろうと願っている。中学生の間……あれを中学生生活と言っていいのかは分からないけれど、とにかくあの時間はつらい思い出が多く、私としてもそこであったことは積極的に思い出したいものではない。見滝原中学校は嫌いではないけれど、何年分ものループの記憶のせいで、あの場にいるとどうしても気が重くなることが多い。そう言った意味では、進学というイベントは私にとっても歓迎できる。
もちろん、私は何に代えてでもまどかを守る覚悟だ。でも、そもそもこの雄英高校ならばそんな脅威の心配はないはず。国内最高峰のヒーロー教育機関とあって、戦闘において実力のあるヒーロー達が勢ぞろい。さらに、雄英バリアなどと呼ばれる防犯システムもあるらしい。さらには今年から、日本どころか世界最強レベルのヒーロー、オールマイトがここで教鞭をとるらしい。軍事施設かと思えるほどの厳重さだ。万が一
そう考えると、ここに入学することも悪くないと思える。元々私たちは、マミさんと一緒の高校というだけでここに来たけれど、改めてこの高校の設備のすごさを知った。ヒーローは正直嫌いだけれど、この高校なら安心して通えるというものだ。この高校の普通科に通うというのは、ヒーロー科生のための防衛設備にタダ乗りできるということともいえる。
これからは、もう私たちは戦う必要はない。面倒な暴力沙汰は全部ヒーローに押し付け、自分たちは戦わずに済む生活ができる。私達は、この高校で友達とおしゃべりして、勉強に悩み、たくさんの思い出を作る生活ができる。まどかの笑顔が、たくさん見れるだろう。マミさんとまた一緒にお弁当を食べられる。さやかと軽口をたたき合える。杏子ともまた会える。流石に杏子を雄英に通わせることはできないだろうが、それでも顔を合わせる機会は格段に増えるだろう。
この世界に改変されて本当に良かった。あの願い事をした少女の行方は結局知れないけれど、会う機会があったらお礼を言わないといけない。この約一年、本当に楽な生活だった。そしてこれからも、安全な生活が送れる。一歩間違えれば絶望の輪廻に陥ってしまうような魔法少女のことなんて気にせずに、まどかと、魔法少女の皆と生きていける。そんな期待を胸に、私は校舎に入った。
・マミさんの雄英での友人
仲のいい人はいるが、まどか達以上の仲良しはいない。メタいことを言うと、原作に2年の人が不和真綿しかおらず、彼女に関しての描写があまりに少ないので友達ポジが出せない。BIG3は3年生でそもそもヒーロー科だし……
・一目ぼれした男子
個性『レジリエンス』。辛い境遇にいればいるほど能力が向上する。相手がどの程度の経験値、つまりどれほど苦難に立ち向かって来たかもなんとなくわかるぞ!
・訓練施設で遊んでいる
表向きデータを取ったりはしていないが(彼女の個性の性質が不明な以上、何処からバレるのかが分からないため)、一緒に居た公安所属ヒーローに話を聞いたりはしている模様。
・ホークス
そのうち彼の視点の話を書くかもしれない。
・安全な生活が送れる。
国内最高峰のヒーロー養成機関が