心操の個性に関する独自解釈があります。
「暁美ほむらです。個性は『所持物移動』。一年間よろしくお願いします。」
私は教室の前に出て自己紹介をした。新しいクラスになり、まずは一人ずつ前で名前順に自己紹介をすると担任の先生に言われたのだ。そのトップバッターは私だった。
ほとんどが知らない顔だが、ループ初回の転校した時のように人見知りしたりは流石にしない。何度も繰り返した自己紹介に個性の説明だけ加えて、私は平常心でそう言った。
「……あの、続けて?」
そして、新しい教室の担任の先生がそう言った。……この教室の黒板、中学のと違って完全にディスプレイだから新しく書き加えるという行動はできない。いったい何を言って欲しいのだろう?
「何をですか?」
「……あ、いえ、皆さん拍手!」
そうして、礼儀のための拍手が沸き起こる。まあ、自己紹介などこんなものだろう。
しかし、教室にいるまどかとさやかに目をやると、残念そうな顔をしていた。何か間違いを犯したらしい。
今日の朝、一緒に登校している間に、私に友達を作ると2人は意気込んでいた。なんでも、テレパスで色々とフォローしてくれるということらしい。
ちなみに、3人は同じクラスだ。入学前に、私はちょっと職員室へ忍び込んで私とまどか、さやかが同じ教室になるように細工をした。さすがに魔法少女仲間が離れるのは困るからだ。その成果が早速出る、のかもしれない。
(ほ、ほむらちゃん、もっといろいろ言おうよ~!)
(あー……、先に自己紹介のやり方を教えとくべきだった……最初からミスったなあ、こりゃ。そう言えば中学3年の時もこんな感じだったっけ?)
……どうもあの自己紹介は不正解のようだった。よく分からない。発言内容が足りなかった、らしい。
(どういうことよ。)
(知らない人が沢山要るからこそ、初対面での印象って大事なの。教室の皆の顔を見渡してみなよ……ザ・苦笑い!って感じでしょ?)
美樹さやかにそう言われ、このクラスの生徒の表情を見渡してみる。
……普通だと思うのだけれど。特に何かあるとは思えない。
(……悪感情を向けられていないわね。何の問題もなく過ごせそうだわ。)
(つまりそれいい感情向けられてないってことだよ!今ので「あ~つまんなそうなヤツ」って思われてんの!受け狙いとかじゃなくても、ちゃんと自分のこと何か言わないと、相手に興味を持ってもらえないよ?)
(いや、初対面の相手に興味を持つなんて、かなりのレアケースではないの?あなたは、街で行き交う人々にいちいち関心を向けるのかしら?)
(違う、そうじゃない……思っていたより重症だわこりゃ……)
(よく分からないけれど……ごめんなさい。)
美樹さやかは私に友達ができるよう協力してくれると言っていたけれど、どうもそれがもう始まっていたらしい。自己紹介というものは、私が考えていたよりもかなり重要なものだったようだ。
少し申しわけない気持ちになりつつ、私は席に着く。自己紹介は名前順なので、すぐにまどかの番が来た。
「鹿目まどかです。ええと、ちょっと緊張してるんですが……せっかく頑張ってここに来たので、一年間みんなと仲良しになりたいです!趣味は本を読むことと、お菓子作りで、あとかわいいものが好きです!気軽に声をかけてください、よろしくお願いします!」
まどかがそういうと、私の時より明らかに積極的な拍手が起こった。心なしか、クラスの皆の顔に笑顔が浮かんでいる。
……つまり、これが成功例ということなのか。確かに、私の時と比べるといろいろ自分のことを言っているように感じる。
(ほら、ほむら。今のまどかみたいな感じで今度からちゃんと話しなよ?あれじゃ顔以外全然印象に残らないって。)
(……わかったわ。)
そんなことをテレパスでさやかと話していると、周囲から話し声が聞こえてきた。
「あの子、ヒーロー科での入試の時に見たことあるわ。」
「ああ、会場が一緒だったよ。個性がなかなかすごかった娘だ。仮想
「あんま言ってやるなよ、本人は落ちたこと気にしてるかもしれないし。」
「例の人質の動画でも有名だったよな。ああ見えて結構肝が太いタイプらしいぜ。」
……まどかが入学前のあれこれのせいで、少し噂になっている。このせいで悪がらみが起こる、なんてことを想定しない程度にはこの雄英高校の治安を信じたいところだ。普通科と言えども普通に進学校扱いである。「いい子」が多いと思いたい。
ちなみにだが、私は最低限このクラスの子の個性は把握しておきたいと思っているので、人の自己紹介はちゃんと耳を傾けている。さすがに危害を直接的に加えられるなんてことはないと思うが、個性というものは意図せぬ事故を往々にして起こしてしまう。そのために、最低限表向きは公共の場での個性が使用禁止されているのだ。魔法少女のことを暴かれないように予防線は張っておくべきだろう。
まあ、今のところは衝撃蓄積だの体温操作だのと言った、分かりやすい個性が並んでいた。ヒーロー科に落ちた子が多いだけに、個性もわかりやすく攻撃的なものが多い、ということだろうか。特異な個性は出てこい。これならまあ、大丈夫か……
「心操人使です。個性は……『洗脳』、です。……よろしくお願いします。」
……訂正。彼には少し気を付けるべきだろう。程度にもよるが、万が一洗脳されて魔法少女の姿にされたらたまったものじゃない。彼が洗脳で害してくると言いたいわけではないが、万が一の事故というものがある。……発動条件や洗脳の程度、解除方法くらいは把握したいところだけれど。
ちなみに、他の子からしても彼の個性はインパクトが強かったらしく、教室が少しざわついた。彼もそれを予測していたのか、特に反応することなく席に着いた。
しばらくして、美樹さやかの番になった。私の自己紹介にダメ出ししていたけれど、彼女はどんな自己紹介をするのだろうか。
「美樹さやかです!一年間よろしくお願いします!えーと、暁美ほむらと鹿目まどかは同じ中学の出身で、好きなことはお菓子作りです!勉強はマジでダメダメのダメダメダメなので、皆さんぜひ私を助けてください!じゃないと留年するかもしれません!よろしくお願いします!」
「あ、あはは……」
自信たっぷりに、笑顔で親指を立ててさやかはそう言った、教室から軽い笑いが起きる。確かに、美樹さやかの成績がよく分かる発言だ。……できないことを自信たっぷりに紹介するのはどうなのだろうか。
「……お、おほん。美樹さやかさん。学生の本分は学びです。そういう態度では困ります。」
「あ、はい、すみません。」
本当に勉強したくて高校に来る真面目な学生は少ないのかもしれないが、先生としてはこう言わざるを得ないのだろう。
(ちぇー、硬いこという先生だなー。)
(べ、勉強はちゃんとやらないといけないんじゃないかな……私も協力できることは協力するけど、自分でもちょっとは頑張らないとダメだよ。)
(な、なんかごめん。)
まどかと先生にそう言われて、美樹さやかは少し落ち込んでいた。それでも、周囲の表情は私の時より明るかった。……今後は、私はもう少し話を長くするべきなのだろうか。
それ以外は、特に大した話も無く自己紹介は進んだ。その後も先生の話は続いた。大体、雄英の普通科の3年間のカリキュラムとか、校内の立ち入り禁止の場所などといった事務的な話が続いたのだった。
しかし、最後のところで少し気になる話があった。
「……さて、最後にですが。皆さん、雄英体育祭が来月にあるのはご存じですね?皆さんの中には、残念ながらヒーロー科の試験に落ちてしまって、ここに来たという子も多いと思います。しかし、その雄英体育祭でいい結果を残した子は、審査を経てヒーロー科に編入される可能性があります。」
先生がそう言うと、「おお!」という声をあげ、表情を明るくする人がちらほらいた。例えばあの心操という人は手を握りしめて先生を睨みつけている。彼もヒーロー科を目指しているのだろうか?
……私にはかなり嫌な話だった。余計なシステムを作らないでもらいたい。まどかはもうきっぱりと「私にはヒーローは無理かな……」と、試験が終わった後に言っていたので、あまり心配することではないとは思うが、それでも不安材料が増やされてしまい不快になってしまう。
「ただし!当然ですが入試よりも厳しい門となります。例年一人出るか出ないか程度の数です。倍率にすると200倍といったところでしょうか。ヒーロー科入試の倍率以下ではありますが、皆さんは入試の時よりも優秀な人たちの集まりですから、この数字以上に厳しいものだと思ってください。比較対象は、ヒーロー科で一ヵ月以上の訓練を受けたヒーロー科生。彼らに比肩すると見做されなければ、編入は認められません。それでもヒーロー科に挑戦したいという子は、雄英体育祭に向けて頑張ってくださいね。細かい説明など、何かあれば遠慮なく言ってください。」
先生がそう言うと、先ほどの話で顔に笑みを浮かべていた子などは、おそらくその厳しさを認識してしまい、笑顔を引っ込めてしまった。まあ普通科からヒーロー科に編入する実力があるなら、最初からヒーロー科に受かっているというものだろう。
◇
先生の話が終わり、しばらく自由時間となった。
まどかの周囲には比較的多くの人が集まっていた。
「鹿目まどかさんと、美樹さやかさん……だったよね?あの人質の動画のこと、聞いても良い?あ、もちろん言いたくなかったら言わなくていいよ?」
「え?あ、うん。いいよ?」
「私は全然オッケーだよ!」
「あの状況下で全然慌ててないの、すごいよねー。まどかさん、どうしてあんなこと言おうと思ったの?」
「いや、なんか……ノリ?」
「ふっふっふ。このまどかはね、天使の心を持っているんだよ!」
その点は全くその通りだと思う。
「いや、でもほら、怖かったりしないの?首に包丁を押し当てられてたわけだし、個性関係なく普通に怖いよね。俺だったら動けねえよ……」
「そ、そうだね!あの時はあんまり怖く感じなかったんだけど、私ったら昔から鈍くさくて、後から思い返すとちょっと危なかったなって……」
「あれを怖く感じないの!?それはそれで心配になるなあ。」
「ええと、私もあれ以来ちょっと警戒心を持とうって気になったんだよね。もうちょっと周りに気を付けようって……」
「そうだぞー?まどかさんは心が天使に近すぎるから、私がちゃんと守ってあげないとねえー。みんなもまどかをしっかりと守ってあげるんだぞー!」
「あ、あはは……」
「……美樹さやかさんもあの場に居ませんでした?あんまり人のことを言えない気が……」
「え?あ、いや、それはその……私のはなんか、ノリ!」
「ノ、ノリで『すごーい』をやるの……?もしかして、個性が強かったり?」
「え?私の個性は『強力治癒』で、傷の治りが早い個性だよ。」
「……あんま関係なさそうだね。そういえば、二人は確か見滝原中学校から来たんだっけ?近いよねー。」
「そう!それでね……」
私より社交的なまどかとさやかは、さっそくクラスの人と喋っていた。有限実行と言ったところだろうか。まどかが笑顔でいるのを見ていると、私も嬉しくなってくる。やはりまどかの優しさは人々にいい影響を与える、ということなのだろう。
ちなみにその間、私はさっきの『洗脳』個性の男の子の会話に耳を傾けていた。都合の良いことに、彼の個性に興味を持ったクラスの子が、彼に話しかけていたのだ。しばらくどうやって聞き出そうか頭をひねっていた私だけれど、どうも勝手に情報が手に入りそうだった。
「えーと、心操人使、君だっけ?聞きたいことがあるんだけど……」
「ああ。まあ……聞きたいことはわかるよ。俺の個性についてだろ?クラス替えの初日はいつもこんな感じだったんだ。」
「あ、ああ。そうなんだ。でも、名前からしてすごそうな個性だよな、それ。どんなことができるんだ?」
「……個人差はあるけど、俺が意図したとおりの行動をさせられる。ただ、複雑な行動は無理だ。解くのは簡単で、軽く洗脳状態の人に衝撃を加えればいい。これで少しは安心できるだろ?」
「え?あ、いや、別に君が悪いことしようとしてるなんて言いたいわけじゃないぞ!いやあ、すごい個性だな!」
「……そうか、ありがとよ。中学よりも気を使ってくれる奴が多そうで助かるよ。一応言っておくけど、勝手に他人を洗脳するつもりなんて無いからな?」
「ああ。確かに
「ははは……」
……個性のことをヴィラン向きと表現するのもどうかと思うけれど。彼だって望んで『洗脳』を持って生まれたわけじゃないのだから。
ともかく、盗み聞きしていた感じではこんな会話だった。多分それなら、なんとか対抗できると思う。魔力を全身にめぐらせておけば予防になるという、精神攻撃系の魔法の防御での経験則があるのだ。記憶操作もできるレベルだとしたらどうしようかと少し心配だったが、さすがにそこまでではないらしい。発動条件までは聞こえなかったけれど、またいつか聞き出そう。
「……あ、そうだ!あの動画、暁美ほむらさんもいたよね!」
不意に声をかけられた。……そういえば、私もあの場にいた。
(ほら、ほむらちゃん!お話しチャンスだよ!そんなところで一人で居ないで、さっきの自己紹介の分一杯お話ししようね!)
テレパスでまどかがそう言った。……こういう時にたくさん話せば良いのだろうか?
まあ、せっかくのまどかの提案だし、頑張ってみようか。仲がいい人がいるに越したことは無い、と一応思う。
「ええ、あの場には私もいたわ。」
「暁美さんは怖くなかったの?私だったら怖くて泣きだすかもって思ったわ……」
……別に怖くはなかったけれど、ややこしくなるので怖かったということにしようか。
「怖かったわね。」
「そ、そうだよね!なんであんなに落ち着いていられたの?」
「取り乱しても、何も良いことが無いからよ。」
「な、なるほど、シビアね……怖がってたなんてとても思えないわ。」
「そうかしら?」
「そうよ!私、ヒーロー科の入試に落ちてここに入ってきたクチなんだけど、あの0P
まどかから、入試の様子は聞いている。確か、巨大で威圧的な風貌とは裏腹に多重の安全対策をされているロボット、だっただろうか。改変前の世界の技術では作ることすらできないような代物だろう。聞いた話からの推測だけど、この世界でも一台一億円くらいかかっていそうだった。
「0P
「あ……そもそも、暁美さんってヒーロー科受けた?」
「受けていないわ。ただ、0P
「あ、そうだったんだ……ごめんね、勝手に話しちゃって。……え、でも安全対策って何?」
「ああ、あのね。あのロボット、よく見ると轢かれても大丈夫なような仕組みがあるんだよ!」
「え……なんだそれ、俺は初耳だぞ!なんで知ってるんだ!?」
「え?それは……ロボットをよく見てたら気が付いた、みたいな?よく見ると、あの、えーと地面に接する……ベルト?みたいな?」
「アレはキャタピラって言うんだぜ、まどかさん。」
「あ、そうなんだ!それで、あのキャタピラ部分、人が入り込むとその形に変形するようになってるんだよ!」
「雄英の発明科の技術科?あっちもすげえらしいな。」
「何だその技術、すげえ……俺はビビッて逃げるのに精いっぱいだったぜ。観察なんてとてもできなかったよ。」
「あ、思い出した。まどかさん、あの会場でみんなが逃げる中一人で棒立ちで0P
「なんだって!?やっぱり肝が据わっているんだな!それができるやつがヒーローに向いてるんだよなあ……はぁ……」
……入試に落ちたことを思い出して落ち込みだす人は、既にちらほら見かけている。しばらくはこういう光景が続くのだろう。
「あ、すまん。どうしても落ちたときのショックが……いや、切り替えないといけないのは分かってるんだけどなあ……」
「……先ほどの話だと、まどかさんは肝が据わっているというより危機感が足りないという話の気がします……」
「あ、あはは、私のダメなところなんだよね……」
まどかはバツの悪そうな顔をした。自分を少し偽っていることに引け目を感じているのだろうか。
(ほむらちゃん、今のところいい調子だよ!せっかく人がいるんだから、今度は自分から話しかけてみようよ!)
(そうだぞーほむら。とりあえず今のところ問題なしだけど、自分から話しかけないと友達ってのはなかなかできなんだぞ!)
話しかける……入試の話で盛り上がっていたし、そのことでも聞いてみるか。
「……あなたはヒーロー科に落ちてしまったみたいだけれど、今後は大学のヒーロー科を目指すのかしら?」
「いや……まだ考えてない。」
「ヒーローになるために必要なのは資格であって、年齢制限はないはずよ。落ちたのは残念だけれど、ヒーローへの道が断たれたわけではないはず。」
「いや……まあ……その通りだな。そうなんだけど……俺、入試の為に毎日毎日頑張ってきたの、何のためだったんだっていう感じが取れないんだ。俺はオールマイトみたいなすげえヒーローになりたかったのに……」
「でも、別に雄英のヒーロー科にならないと」
「分かってる!いいたいことは分かるぜ。『雄英のヒーロー科になっても必ずしもすごいヒーローになれる訳じゃないし、雄英ヒーロー科でなくてもすごいヒーローはたくさんいる』だろ?そりゃ、まあ、チャンスが無いってわけじゃないだろうけどよぉ……。すげえヒーローになる卵ってのはさあ、そういう素質があるんなら、ヒーロー科に受かってるってもんだろ……。こんなこと気にしてる時点で、俺にはそういうの、無いんだろうな……」
少し大声を出された。彼のコンプレックスを刺激してしまったらしい。ヒーローになることよりも、雄英のヒーロー科に受かることが人生の目標になってしまっていた、ということなのだろうか。
「……余計なことを言ってしまったみたいね。」
「いや、いいよ。正論だし。はぁ……」
「……ヒーロー科の入試の話、やめない?落ちたときのトラウマが蘇りそうで……」
「分かったわ。」
周りにいる人で、暗い顔をしている人は軒並みヒーロー科に落ちた……のだろう。話題選びに失敗したのだろうか。
(ほ、ほむらちゃん!今のはあんまり気にしなくていいよ!多分私もやっちゃいそうな話題だし……)
(うんうん、多分今ので好感度が下がったってことは無いと思うから気にしないで行こう!話続いていい感じ!)
まどかとさやかにフォローされた。なんとなく気恥ずかしい気にもなるけれど、厚意を無駄にするつもりはない。このまま頑張ってみよう。
「そういえば、暁美さんはどうしてここに来たの?まあ、ヒーローのことを無しにしたら普通に偏差値が高いだけの進学校だよねえ。偏差値的に合っていそうだから選んだ感じ?」
「鹿目まどかがここに来るからよ。」
「えっ……?」
話相手の人が、少し怪訝な表情をした。
(ほ、ほむらちゃん!私が言ったこと、覚えてるよね?)
(……まどかが言ったことは全部覚えてるつもりだけれど、何かしら?)
(え?全部……?あ、いや、そうじゃなくてさ。えーと、人に自分の気持ちを本当に正直に言っちゃうと、時々変なことになっちゃうって。)
(ええ、もちろん覚えているわ。)
(うん……なら大丈夫かな?ほむらちゃん、頑張って!)
(私、ちょっと心配だな……)
まどかに心配されているようだ。……どうしたのだろうか。
「……あ、そうか。確か、見滝原中学校の仲良し3人組なんだっけ?それで、一緒のところに来たっていう感じか。」
「おおむね間違いないわね。」
「へー……。私、なんとしてもヒーロー科に入るつもりでいたから、いざ落ちたときの進路とかなんも考えてなくてさ。ほら、雄英のヒーロー科に入ったなら、もうほとんど大学行かずにヒーロー専門になるじゃん?大学のことなんて私は何にも考えてなかったのよ。まあでも、結局大学行くのかな……。普通科の人は大体そんな感じだって、私のお姉ちゃんが言っていたわ。暁美さんはどうなの?」
「行くかもしれないけれど、まどか次第ね。」
「ちょ、ほむら」
「え、えーと?二人は仲良しなのかな?」
「まどかがどう思っているかはともかく、彼女は私の最も大切な人よ。」
「ストップ!ストップほむら!」
さやかには悪いけれど、この点に関して冗談でも事実と違うことを言うのは耐えられない。「仲のいい友達です」とでも言おうとした瞬間、心の中で「お前、まどかに対してそんな態度でいいのか?」と睨みつけてくるもう一人の自分が現れるのだ。
周囲を見ると、驚いたような、戸惑うような表情の人々が多かった。まあ、こんなことを言う人は実際少ないのだろうけれど、しばらくすればみんな慣れてくれるんじゃないだろうかと思っている。
「…………す、すごいね!なんかその……すごい仲良しなんだね!」
「仲良しというより、私にとってまどかが一番大切という方が確実ね。」
ループの中では、私の態度が悪すぎてまどかに距離を置かれたときもあった。そう考えると、双方的な仲良しというよりも私が一方的に大切にしているということの方が重要な事実なのだ。
「あーーー!そのね!この子、たまーにこんなオーバー表現するんだよ!真顔で言うもんだから誤解されやすいんだ!ね!ね!?」
美樹さやかが焦り顔で割り込んできた。
「いや、別にそんなつもりは無いのだけれど。私の命よりも大事なんだし。」
私がそう言うと、さやかは取り繕って作っていたのであろう笑顔を引き攣らせた。
(ほ、ほむらー!まどかが大切なのはよーくわかるけど、今はこらえて!せっかく普通の友達になれそうな人がいるのに、離れちゃう!)
(美樹さやか。あなたの心遣いは嬉しいけれど、この点に関しては冗談でも偽ることはできないわ。私はまどかの為にどれだけ頑張ってきたか軽く話したでしょう?もうそういう風に、心の構造が変わってしまったと思うの。)
(うぎぎぎ……なまじ事情を知っているからあんまり強くも言えないいいいい……)
(ほむらちゃん、その、えーと!私のことを想ってくれるのはとっても嬉しいんだけど、その)
「え、なになに?それって百合だかレズってやつ!?スゲー初めて見た!」
まどかのテレパスの途中で割り込みが入った。
……変な意味に捉えていそうな男子が寄ってきた。言ってることも言葉遣いもなんだか下品だ。まどかに悪影響があるに違いない。
「そういう意味ではないわ。あと、あなたはまどかに悪影響がありそうだから、まどかに近付かないでもらえないでもらえるかしら?」
「ちょっと!女子に向かってなんて事言うのよ!?特にレズとかかなり性的な意味があるのよ!?」
「……え?そ、そうなの?」
「そうよ!謝るべきだわ。」
「……その、ごめん、二人とも。俺はただ、気になっただけで、ええと、お詫びに……」
「まどかに害を加えないのであれば、謝罪だけでいいわ。」
「あ、はい……」
そういって、その男子は離れていった。雄英にも無神経な人がいるものだ。
はあ、と息をついてあたりを見渡すと、クラスの皆がこっちを見ていた。しかし何も言わない。……どうしたのだろうか。別にそんなに目立つ声で話してはいないと思うのだけれど。
(ほむらの……高校デビューがあぁぁぁ……)
(ほむらちゃん……もっと私が強く言っていればよかったのかな……)
さやかとまどかにまでそう言われた。申しわけなく思うが、何故そこまで変な目で見られるのか理解に苦しむ。確かに普通の人があまり言わないことを言った自覚はあるけれど、迷惑をかけたことは無いと思う。
でも否定できない事実として、この状況がある。私のコミュ力の無さの結果なのだろう。
以降、私はクラスからすこし距離を置かれた扱いを受けるようになった。いじめとかではないし、何も不自由はないのだが、なんとなく気を使われる。特にまどかの話は私との会話でまったくと言っていい程出てこなくなった。後から知った話だが、私はこの会話がキッカケで「まどかの守護霊」だのといった妙なあだ名がつけられてしまったようなのだ。
私の高校生デビューは、どうも失敗してしまったらしい。
◇
次の日は、普通に授業が始まった。
「ベンキョー、ムズカシイ、ハヤイ……」
一限目は数学だった。中学よりも難易度が上がっており、私も気を引き締めないといけないと感じた。ただ、油断しなければおそらく赤点にはならないと思う。
しかし、美樹さやかはそうではないようで、一限目が終わったときには白目を剝きながら放心状態という、少し心配になる姿になっていた。
「さやかちゃん……その、大丈夫……じゃ、なさそうだね……?」
「こ……これが、毎日続くの……?」
「……まあ、今のはあなたが一番苦手な教科だったわね。次は英語よ。文系科目なら何とかなるんじゃないかしら?」
「う、うん……がんばる……」
がしかし。彼女の苦手な数学ほどではないにしろ、続く英語、日本史、国語も彼女に負荷をかけたようだった。4限目が終わった直後、彼女は机に突っ伏して喚き始める。
「あばばばば……私、絶対赤点取りそう……中学の時より倍勉強しないと無理な気が……」
「あなた、中学の頃は一日30分とかしかやらなかったじゃない。で、いつも試験前に徹夜してなんとかしていたわね。」
「う、うるさいほむら!」
「ええと、さやかさん。どこが分からないの?」
「……日本史はこのページの分多分寝落ちして聞き逃した。英語はこの文法わかんなかった。数学は……数学は、全部分かんない……」
「自己紹介の時も勉強はダメダメだって言っていたわね、さやかさん……」
「まあ、分からないところは協力するよ。俺の勉強にもなるし。」
「うう……お願いします……」
そういって、お昼の時間にさやかの勉強会のようなものが始まった。もとヒーロー志望が多いからなのだろうか、親切に教えてあげる人たちが多いようだった。
……でも今日、マミさんと一緒にお昼を食べることになっていたはずなのだけれど。
(さやか。マミさんとのお昼はどうするの……?)
(ごめん、ちょっとパス。ここで教えてもらわないとって、なんか本気で将来の危険を感じるから……)
(……わかったわ。……マミさん。)
(あ、暁美さん!これからお昼に……)
(実は……
……というわけで、さやかは今回はパスです。)
(そうなの……わかったわ。残念だけれど、明日は来れるかしら?美樹さん。)
(マミさん……すみません、ちょっと空気的に難しいので、明日はお願いします。)
(そう……勉強、頑張ってね!魔法少女をやってきた美樹さんならきっと乗り越えられるわ!)
(うぐ、そ、そうですよね……!何とかなりますよね……!頑張ります!)
そうして頭を抱えるさやかを残し、私はまどかを連れ、教室の外に出た。
◇
そして来たのは、学校の屋上……ではなく、中庭に当たる部分だ。人がまばらにおり、お弁当を食べている子もちらほらいる。この学校の屋上は、防犯上のためなのか施錠されていた。
魔法少女関係の会話は聞かれたくはないので、彼らから距離を取り持ってきたお弁当を一緒に食べる。
「またこうしてお昼を一緒に食べられる日々が来て嬉しいわ。」
「中学2年の時は、毎日一緒に食べてましたからね……魔法少女関係の話がテレパス無しでできる貴重な時間でしたよね。」
昨日は行事でゴタゴタしていて一緒に食べられなかったが、今日からは毎日またマミさんと一緒にお昼が食べられる日々になりそうだ。
「マミさん。今日はテイクアウトなんですね。」
私はマミさんの食べ物を見てそう言った。中学の頃は、彼女は毎日律儀にお弁当を作って持ってきていたはず。今思い返すと、勉強と魔法少女活動を両立させつつお弁当も毎日作って持ってくるのは、かなり大変だと思う。魔法込みでも面倒だ……いや、お弁当作りに役立つ魔法でも作っていたのだろうか?
「あー……入学してしばらくはお弁当を作っていたのだけれど、ひと月たったころかしら。クラスの人に連れられて、ランチラッシュの食堂に行ったのだけれど、それがもう、本当に美味しくて!甘い物からガッツリしたものまで、ファミレスみたいにいろいろあるのにそれがファミレスの3倍くらいのスピードで出てくるのよ!それが私、人混みが嫌で避けていたのだけれど、あの味とあの安さだと流石に並んででも食べたくなるものだったわ。」
ランチラッシュ……名前は聞いていた。クックヒーローとか呼ばれていて、安値で一流の料理が食べられるとか何とか。ただ、食堂は毎日混雑するらしいので私も敬遠していた。
「そうですね……せっかく入学したんだし、明日はさやかちゃんも連れてみんなで一緒に行きませんか?」
「いいわね。そうしましょう。初めてだし、私が迷わないように案内するわ。後で美樹さんに、伝えておいて頂戴ね。」
「もちろんです!」
「……最近は、学校生活はどうですか?マミさん。」
「そうね……最近はヒーロー科の悪口も減ってきて、かなり話しやすくなったわ。やっとヒーローの話を気を遣わずに出せるって感じね。」
「ぎゃ、逆に私達はこれから増えるんでしょうか……?」
「うーん、先輩方の話だと、普通科からヒーロー科への嫌悪感って毎年恒例らしいわね。残念だけれど……」
「……受け入れるしかなさそうですね。」
「はあ……」
「二人は、学校でどこかの部活に入ろうという気はあるの?今はたくさん勧誘される時期よね。」
「部活ですか?あー……」
昨日の帰り道を思い出す。先輩方がものすごく積極的に、私たちに勧誘のチラシを押し付けてきたものだ。まどかをかばいながらなんとか帰ったのはよく覚えている。
中学時代、私達は部活に入っていなかった。さやかはどこかに所属していたらしいが、やめたらしい。魔法少女としての活動に専念するためだ。この世界に改変されて以降時間は出来たが、今更部活をやるの……?という空気になり、結局入らなかった。いうなれば、魔法少女としての活動が私たちの部活動だったのだろうか?
考えてみれば、高校で部活はどうしようかということは全く考えていなかった。私はまどかの入る部活に入るつもりだけれど、まどかとは部活に関しては全くと言っていい程話していない。おそらく何も考えていないと思う。美樹さやかも同様だ。……入るとしても、過去のトラウマを刺激するような吹奏楽部は入らないだろうな。
……私達は、休日などは人がいないところで魔法少女としての訓練をしている。もしものための備えとしてだ。そう言った時間はこれからも欲しいから、結局は入らない気がする。
ちなみに、ヒーロー科生は部活に入るということはほぼないらしい。単純に、ヒーロー科としてのカリキュラムをこなすので精いっぱいとのことだ。入学式、一年A組がごっそりいなかった光景を思い出す。後で聞いた話によると、個性把握テストをしていたらしい。「ヒーロー科ならそんな悠長なイベントに出る暇は無い」と、担任の独断で行われたらしく、そしてその担任にはその権限が与えられているとのことだ。つくづく恐ろしい所である。まどかが落ちて本当に良かった。
まあそれはともかく、しばらく頭を働かせていたであろうまどかが、控えめに答えを出す。
「私、正直なんにも考えてなくて……」
「まあ……そうよね。」
「マミさんも結局入らなかったのですよね?」
「ええ。結局、魔法少女同士の付き合いは大事だし、訓練の時間は大事だしね。」
「ですよね。正直その時間が欲しいって言うのは私も思っていて……なんか、やる気ない学生みたいでどうかと思ってるんですけどね。……あ、でもみんなで一緒に暇そうな部活に入ればいいかも!?」
「……他の部員には魔法少女のことをどうやって話すの?」
「私達だけがメンバーの部活を作る、とか!?」
「さ、さすがに承認が通らないと思うわよ、まどかさん。活動内容はちゃんと先生に見せないといけないし……」
「えへへ、そうですよね……」
「あ、そういえば。3人はクラス内で友達はできたかしら?」
「友達と言っていいのかは自信ないんですけど、私とさやかちゃんは楽しくおしゃべりできた子が何人かいますよ。」
「あら、それは良かったわね!それで、暁美さんは?」
「あー……そ、そのー……」
まどかは言い淀んだので、私が代わりに説明を始めた。
「少なくとも、悪印象は持たれていないはずですよ。私も無事に3年間を過ごせそうです。」
「それは良かったわ。暁美さん、人付き合いが苦手そうで心配していたのよ。……でも、鹿目さんが何か言いたげね?」
「あ、あの、悪い印象、は言い過ぎかもしれませんけれど、その……」
まどかは、今日教室であったことをざっと説明した。
説明を終えると、マミさんは露骨に残念そうな顔をする。そして、私に指を突きつけ口を開く。
「暁美さん。それは無事とは言いません。致命的とまでは言わないけれど、暁美さんの態度はもう少し改善するべきね。」
「どういう意味ですか?」
「普通の人は、人前で堂々と『自分の命よりも大事です!』なんて言わないわ。大好きとかならまだしも……ちょっと、初対面の人には表現が強すぎるというか?」
「でも事実ですよ?私にとってはまどかが一番大事です。」
「そ、それは分かってるわよ……」
マミさんは、少し戸惑いを含ませつつそう言った。
「……事情は聞いているし、私もあなたの苦労を考えると強くは言えないのだけれど……鹿目さん以外にも大事な友達を作るっていう気は無いのかしら?今のあなた、鹿目さんと私たち以外の世界が無い状態なのよ?見ていてとても不安になるわ。」
「お気遣いありがとうございます。別に、いらないとは言いませんよ。ただ、まどかがいればそれだけでいい、それだけです。」
「……今の暁美さんを見ていると、友達が欲しくないのではと、不安になってしまうのよ。」
「人間は、立場によって容易に態度を変えてしまいます。利害関係が生じた瞬間に掌を返すなんてことは、私は経験したくありません。」
「そ、そんな悲観的な考え方しなくても……」
悲観的も何も、事実そうだろう。女の友情はハムより薄いなんて聞いたことがあるけれど、まさしくその通りだと思っている。多分、男子も同様だ。まあ、私は男の子とそんなに付き合いがある訳じゃないけれど。ともかく、人は想像以上に人の上辺しか見ておらず、そして利害関係によってコロッと味方から敵に転ずるのだ。最初は仲良くしようとしていた魔法少女のグループが、グリーフシードの奪い合いになって内部分裂した、なんて話は時々耳にしたものだ。
……まあ、私がその現実にうまく対応できているかと言われると、今日のこともありあまり自信が無いけれど。
「とある時間軸で、敵対していたマミさんに『自分より強い相手は邪魔者ってわけ?いじめられっ子の発想ね』って初めて言われたときはなかなかショックでしたよ。」
「えっ……」
マミさんの顔が、罪悪感に似た何かで歪む。正直、ズルい発言だと自分でも思う。状況が全然違う、いわゆるif世界の話を持ち出されても本人は困るというものだろう。
でも、この件は一回本人に聞いてみたかったというのは本心だ。あれがショックだったというのは本当のこと。マミさんは、最初の周では「頼れるかっこいいお姉さん」だった。それが、立場が変わるだけでああも恐ろしく、そして嫌な態度を取られるものなのかと。友情、人間関係が脆いように感じられるようになったのはあの時からだったように思う。
「マ、マミさんが、そんなこと言うわけ……」
「事実よ。あの時の私、グリーフシードの横取りを狙う魔法少女だって思われていましたから。まあ、そう思われてしまう私の無駄に攻撃的な態度にも問題はあったのでしょうけれど。」
「そ……その、ごめんなさい、私」
「『今』のマミさんとは無関係なことですから、謝らなくていいですよ。」
「で、でも、精神は一緒というか、その」
「そんな哲学的なことを考えても、答えは出ないでしょう。ともかく、人間関係とはかくも脆いものです。付き合う相手は慎重に選ぶべき。それ以外は、敵対されていないだけで十分です。今日はまだ高校生2日目。お互いのことを何も知らないのに、そう簡単に友達ができるわけないでしょう?」
「そ、それは、その、でも、とっても寂しい考え方だと思うわ……」
そうして、マミさんとまどかは何も言わなくなってしまった。……しまった、まどかにこんな話を聞かせるべきじゃなかった。私とマミさんを交互に見るだけで、ひたすら困惑してしまっている。楽しいお昼の時間にしようと思っていたのに。まどかに合わせて出来るだけかわいらしく作ったお弁当が少し乾いてしまっていた。
「……ごめんなさい。明るい話題ではありませんでしたね。あ、そういえば、ヒーロー科の1年A組の相澤先生って……」
私は、強引に話の流れを変え、おしゃべりを続けた。二人ともそのまま話に乗ってくれたけれど、心の底から楽しんではくれなさそうだった。
……この話、つまり別世界の世界線の彼女達の話は、やはり言わないべきだったのだろうか。そう思いながら、この時間を終わらせるためにさっさとお弁当の中身を口に運んだ。
◇
「ベンキョー、ムズカシイ、ハヤイ……」
放課後、美樹さやかは再びグロッキー状態になっていた。
「その……みんな、さやかちゃんの勉強、見てたよね?どうだった?」
まどかが、さやかの席に集まっていたクラスの人に問いかける。
「いやー、あはは……」
「いや、本人は頑張ってるよ、なあみんな!」
「ええ、そ、そうね!」
「……ワタシ、頑張ってる……」
……クラスの皆は優しいから直接は言わないけれど、見ていて学力ではクラスでびり争いだろうな、というのが正直な感想だ。
「さ、さやかちゃん。とりあえず、明日から授業中寝るのは止そうね……?」
でも、まどかは付き合いの長さから彼女のダメなところを指摘できる。実際、彼女は授業中寝ていたり隠れて落書きしたり(まどかも時々やるけど)しているのだ。いつもそうというわけではないが、あまり感心出来る態度とは言えない。
「美樹さん……その、授業中はスマホを切ったらどうですか?集中できてなさそうだし……」
まどかの発言を皮切りに、他の人も彼女に意見を始める。
「えー?いやだって、他の人からメッセージ来てないか気になるし?」
「……実際、誰かから来てたの?」
「いや?今日は一件も。でも時々中学の友達から来るんだ。」
「じゃあ切ってもいいじゃん。」
「えー……」
……俗にいうスマホ中毒か何かなのではないだろうか。いや、魔法少女仲間以外でメッセージが来ない私が言えることじゃないか。でも、まどかでももうちょっと集中している。
「えー……って、何が不満なの?」
「いや、なんか、気になるし……気になんないの?みんな。」
「流石に授業中はなあ……」
「そうね……いつもマナーモードにしてるし……調べものをすることくらいはあるけど、それ以外に使ったりはしないわ。」
「な、なんて真面目な……これが雄英……」
……彼女の集中力の無さは目に余る。もう少しハッキリ言った方が良いのではないだろうか。
「美樹さやか。」
「うわっ、ほむらが真剣な話をする時のフルネーム呼びが来た!?」
「ぶっ!」
「な、なにそれ……」
さやかが余計なことを言ったせいで妙な空気になった。せっかく彼女のためを思って話そうというのに。
「美樹さやか。あなたは時間をドブに捨てているということが分かっていない。」
「え?いや、そこまで言わなくても……」
「一回20秒でスマホを見るとして、それが授業中15回程あったわ。6限まであったから、今日だけで30分の無駄。あなた、多分授業中に隠れて動画サイト見ていなかったかしら?」
実際そうである。時間停止で一回盗み見たら、新着動画の確認なのか何なのかT〇ktokを開いていた。ガッツリ見ていたわけではないだろうが、それでも褒められない行為だ。
「それに加え、それ以外に居眠りとかしていたわよね。集中力の断絶によるロスも考えると、今日だけで1時間以上ロスをしたことになる。その時間で一体何ができると思っているの?一時間でできることなんて無数にあるわ。勉強でも友達でも、なんでもね。あなたが高校で今後もそんな生活を続けるのであれば、累計数百時間無駄になるのよ。それがどれほど」
「あーーーー!あーーーーーー!!!!!聞こえなーーーーーいいいぃ!」
途中でさやかが耳を塞いで机に突っ伏してしまった。脚をばたつかせており、ダダをこねる子供のようだ。そんなことをしていても何も状況は好転しないというというのに。やはり、人間はつらい現実から逃れたいという本能を持っているようだ。
「あ、あはは……暁美さんの言うことは容赦ないけれど、一理あります。明日はスマホの電源切ってちゃんと集中しましょう?」
「うぐぐ……いいもんいいもん……どうせ勉強できないやつで毎回赤点ですよーだ……華の高校生の時間を無駄にしまくりですよーだ……」
「な、なんか拗ねちゃった……」
さやかは机から顔をあげない。……彼女は、本当に何をしたいのだろうか。見ていてイライラする。魔法少女として戦っていた時はかっこいいところも見せていたのに、今の彼女は何という体たらくだろうか。多分、友達がかかわっていない問題は根本的に興味が無いのだろうけれど、それでも魔法少女仲間としてもっとシャキッとしてほしい。
個性か何かで、強制的に彼女を勉強させられればいいのに。それとも椅子に拘束しようか?魔力で無理やり手を動かさせれば、多少はマシになるだろう。本人は嫌がるだろうけれど、どうせ自主性が薄そうだし無理やりやらせる方が彼女のためだと思う。
……いや、そう言えば。ちょうどいい個性の人がいた。
私は、帰宅準備をしていた紫色の髪の男の子に声をかける。
「あなた、確か心操君、だったかしら?」
私が後ろから声をかけると、心操君は少し驚いた表情でこちらを見ていた。
「ん?え?あ、暁美さん?お、俺が心操だけど……?」
「あなたの個性、『洗脳』だったわよね。」
私がそう言うと、心操君は少し私を睨んだ。何か失礼なことを言った覚えは無いのだけれど……。
「……そうだけどよ、それがどうしたんだよ。」
「ちょうどいいわ。あそこで机に突っ伏してダダをこねている美樹さやかを洗脳してほしいの。」
「はあ!?な、なんでだよ!?俺は
「あなたは何を言っているのかしら。いいから、さっさと彼女を洗脳して頂戴。悪いけれど、私は少しイライラしてて、無駄な時間を過ごしたくないの。」
私は努めてフラストレーションを抑え、彼に命令する。すると、彼は少しひるんだ。……私、そんなに怖い顔をしてしまったのだろうか?
「……みんながこっちを見てる。悪いことは」
……なぜ私が悪いことをすると思っているのだろうか。こんな人前で何かするわけない。話を早く進めたくなってしまい、私は彼の発言を遮ってしまった。
「だから何の話よ。いいからやって頂戴。」
「ちょ、ほむら、何する気!?」
「……な、何があってもお前の責任になるぞ?」
「何も起きないわよ。早くして頂戴。」
「はあ……えーと、美樹さやかさん、だったっけ?」
「そうだよ、私は美……」
話している途中で、さやかは何も言わなくなった。視線が虚空を向いている。洗脳が発動したようだ。……今のは、何がトリガーで洗脳が発動したのだろう?本人が意識するだけで洗脳できるとしたら相当強力だ。というよりも、ヒーロー科に受かって良そうなものだが、どうして落ちたのだろうか?
まあともかく。これでさやかは静かになった。後は無理やり勉強させられれば完璧だ。
「……洗脳したぞ。これで満足か?俺はもう帰るぞ。」
「まだよ。」
「あのなあ、いい加減にしろよ。俺の個性は」
「彼女に『集中して勉強しろ』って命令して。」
「……は?」
彼があっけにとられたような表情を見せる。いったいどうしたのだろうか?
「どうしたのよ。」
「え?あ、いや……そういうのは俺の個性では多分無理で」
「実際にやってみたことあるのかしら?」
「……無いけど。」
「じゃあ物は試しでやって見るべきだわ。」
「さっきから乱暴だな……『集中して勉強しろ』。……?」
彼がそう命じると、さやかは教科書を開いて今日出された宿題をやり始めた。……よく見ると、さやかの魔力が活性化しているのが感じられる。筋肉などではなく、魔力で体を動かしているような状態だ。洗脳とうまい具合に噛みあってくれたのだろうか。
何はともあれ、美樹さやかはこれから毎日彼の世話になるかもしれない。便利な個性がこのクラスにいてくれてよかった。
衝撃を与えないと解除されないと言っていたので、誰かが隣に居る必要はあるだろう。とりあえず今日は一時間ほどこのまま様子を見ようか。
「まどか。今日はこれから一時間ほど様子を見ようかと思うのだけれど、どうかしら?いつもこんな感じで残っていたし、多分大丈夫だと思うのだけれど。」
「うん、いいよ!さやかちゃんの勉強の成績が落ちなければいいんだけど……」
「まあ、ダメで元々よ。もともと勉強に集中しなかったさやかが悪いのだから。」
「あはは……今日は一緒にここで宿題しちゃおうか。」
「そうね。私も油断できないわ。」
そういって、机を寄せ集めて今日出た宿題を一緒に始めようとした。
……ところで今気が付いたが、心操君が驚きの表情で私達を見ている。
「どうしたのかしら?心操人使。」
「え?いや、だって……は?」
「ん?どうしたの?心操君。あ、もしかしたら、私もさやかちゃんみたいなことをお願いするときがあるかもしれないから、その時はよろしくね!」
「ま、まあそれは良いんだけどよ……」
先ほどから要領を得ない。何がおかしいのだろうか?
「……すまん。俺は今日は帰る。ちょっとやることが出来たんだ。洗脳は、軽く衝撃を与えれば解ける。じゃあな。」
そう言って、心操君は足早に教室を出て行った。事情は分からないけれど……まあ、彼のような便利な個性持ちとは仲良くしたいものだ。先ほどは少し怒りに任せて発言してしまったので印象が悪くなってしまったかもしれないけれど、これからは気を付けようと思った。
・担任の先生
特に誰というわけでもない。原作を見た限り、ヒーロー教員が普通科を受け持っていたという事実は見つけられなかったため、モブ教師とした。今後大した出番の予定はない。
・クラスメート
あんまりオリキャラとかは出したくないのですが、設定的にはさやかとまどかは普通にクラスメイトと仲良しになっています。でもあんまり描写はされません。
・まどかは私の最も大切な人よ
クラスメイト「え……マジ?これイジって良いやつ?ま、まあ悪い人じゃないんだろうけどなんか触れにくい……」
・「百合だかレズってやつ!?」
ネットで聞きかじった知識を特に何も考えず言っただけ。ただのからかいのつもりだった模様。後で深く反省している。
・ほむら
高校生デビュー失敗。自分の言動がどうみられるのかに関して割と関心が無い。もともと対人関係がかなり狭く、まどか達と限界が多い魔法少女しか付き合った人がいないために、自分から友達を新しく作ることに関して経験値が無い。あとまどか関係は完全に地雷(無自覚)状態。本人は「別に悪口じゃないならまどかの話を出してもいいのに」と思っているが、周囲からしたら何が彼女の琴線に触れるか分かったものではない。
一応経験を積めば将来まともになるだろうが、そもそも今回はまどかに提案されたからやっているわけで、本人はそこまで積極的な訳でもない。まどかさえいればあとは何とでもなる精神構造になってしまっている。
・心操
「俺の個性にこんな可能性が……!?」
複雑な行動はできないんじゃ?と思われるかもしれないが、諸々の事情で今回のケースでは可能となっている。本人が内心ちゃんと集中して勉強したいとは思っていることと、魔法少女であることが関係してくる。
ちなみにこれは筆者の個人的な感想だが、複雑な行動は無理とか言っておきながら騎馬戦で騎馬をやらせてるのは結構矛盾に近いのではと思っている。やったことある人なら分かってくれると思うが、あれ結構手足に神経使って支えつつ、足並みそろえて移動しないといけないので……。