世界の始まり
ワルプルギスの夜撃破から、およそ2か月経過した。私達、魔法少女5人は今のところ無事だ。……ただ、あまり楽観できる状況ともいえない。
まず第一に、単純にワルプルギスの夜との戦いの被害が大きい。普通の人々にはスーパーセルと認識されているそれは、電気水道をはじめとしたライフラインをボロボロにしてしまった。一か月ほどは電気も水もなく、まさしく避難生活を余儀なくされていた。まあ、私達魔法少女は、魔法があるのでまだ何とかなる方ではある。ときどきまどかの家族とご一緒させていただいたこともあったが、まどかの家もかなり被害を受けたらしく、少し暗い雰囲気だった。……それでも一緒に居た私のことも気にかけてもらったあたり、まどかを育てた家の人のよさが感じ取れるものだった。まあ、これは時間がある程度解決してくれる問題だろう。
第二に、私自身の戦力の問題。時間停止が無くなったことで、私の戦闘能力は大幅に低下した。今は主に魔力強化された重火器で魔女退治をしている。ただ……戦闘自体、体感時間にして数年ぶりとなる初見の相手の対応というものをさせられても、かなり余裕を持って対応できている。一緒に戦っていた巴さんや佐倉さんからは「普通に強いわね、暁美さん。さすが何度も時間を繰り返しただけはあるわ。」「ふーん。時間停止が無くなったからどうなるかと思ったけど、少なくとも私の足は引っ張らねーみたいだな。」という評価だった。私の長年の戦いの副産物……ということだろうか。むしろ、まどかの方が心配だ。彼女は、この中で最も魔法少女としての経験が浅い。ワルプルギスの夜との戦いでは、因果を集めて矢を放つという、楽ではないが単純な仕事だった。使い魔は他4人が何とかしていたから。でも、普通の魔女を、今は普通の魔法少女のまどかが相手にする場合、立ち回りとか魔法の節約とか、いろいろな要素が絡んでくる。まどかは先輩の魔法少女4人(うち一人の美樹さやかは正直まどかとあまり経験値が変わらないが)に教えてもらいつつある状況だ。……今のところ、私の戦いの経験を教えるということで、まどかの役には立てている。でも長くは続かないだろう。私の使う武器には、当然ながら弾が必要だ。魔力を弾丸にすることもできるが、魔力の消費が激しい。実弾を魔力強化して戦うのが一番効率がいいのだ。
……余談だが、私が重火器を盗んで使っていることを知ったとき、まどかにとても悲しそうな顔をされてしまった。「泥棒だよね?それっていけないことだよね……?」だと。……ぐうの音も出ない話だ。実際、テレビをつけると自衛隊や他の国々の保有していた兵器が突如消失したとかで、この見滝原の災害と同じくらいのビッグニュースになっている。今まではまどかを救うことしか頭に無くて、法律なんて無視して動いていたけれど……まどかにああも悲しまれるとなると、他の手段も考えなければいけないだろうか。……でも、そんなことを気にしていて、いざという時に弾が無い、なんて事態になってまどかが死んだら私は一生自分を許せないだろう。そう考えると、最初から盗んで一定量を常に確保しておくべきだとも思ってしまう。……将来、佐倉杏子と同じアウトローになる気がする。
そして第三。魔女と使い魔が多い。避難生活によって、心が荒んだ人が多いことに起因する物だろう。そのおかげで、私たちは昼は普通の人間として、夜はひたすら魔女退治、なんて生活を続けている。正直疲れているが、グリーフシードもかなり手に入っている。戦闘回数が多いことで、まどかやさやかの戦闘力もめきめき向上している。……ちなみに、まどかによると私と同じくらい巴さんも頼もしく感じるらしい。私の中では、魔法少女の真実を告げると発狂してしまうことの多い彼女のイメージが強かったが、しばらくともに戦ってみると、確かにお姉さん……のような頼もしさを感じる戦いぶりを見せてくれた。まどかやさやかへの教え方も正直私より上手いと感じることもある。味方の時の巴さん、こんなに頼もしい先輩だったのか。初めて会った時間軸もこんな印象を抱いたっけ。……と、少しだけ懐かしい気持ちになった。
ともかく、最近はグリーフシードを使って無理やり疲労を回復させつつ、夜に魔女と連戦する日々だ。見滝原が復興するまでこの日々は続くのだろう。でも、魔法少女新米のまどかにはつらいのでは……と思ったが。彼女のソウルジェムを見る限りは平気そうだ。まどか曰く、「魔女を倒してみんなの為に役立ててるのが嬉しいし、私にはほむらちゃんが、皆がいるから怖くない。」とのことだ。精神的に元気なようで、私も嬉しい。
魔法少女として生きていくことは……とてもとても大変だ。恐ろしい魔女や使い魔を絶えず命がけで狩り続けて、グリーフシードを手に入れなければならない。それを狙っての魔法少女同士の抗争もある。自身の魂はソウルジェムという小さな石になってしまったことを自覚してしまうと、その精神的ショックは大きい。そしてソウルジェムが黒く濁り切ったとき、自身は今までさんざん倒してきた魔女の仲間入りだ。
……でも、それでも。私はまどかと営む生活を手に入れた。勝ち取ったなんてとても言えないけれど、手に入れたものがあるのだ。
◇
「みなさん!大変な時ですけれど、一緒に乗り越えてゆきましょうね!女子のみなさん、こういう時に男の本性が表に出ますからね!ここぞというときに頼りにならない男子とは交際しないように!」
「……あ、あはは……相変わらずだね……」
見滝原中学校が再開した。ここもダメージを受けていたはずだが、最新の建築技術により被害は軽微だった……とかなんとか。
早乙女先生は相変わらず恋愛話ばかり……だが、普段よりは少しだけ声色が暗いように感じる。というのも。
「……それともう一つ。……すでに連絡が入っていると思いますが、先の災害により……○○さんは、永い旅に出ました。他のクラスでも、そういった子がいます。……後で、黙とうをささげる時間がありますからね。」
やはりあの規模の戦いで、死人が出なかったわけがない。この学校の生徒にも、当然犠牲者は出た。先生の声色も沈んでいる。先ほどは無理をしていたらしい。
(……私たちがもっと強かったら、あの子、死ななかったのかな……)
美樹さやかが、テレパスでそう私に……いや、おそらく、この学校にいる魔法少女の知り合い全員に向かってそう呟いた。その子は、私達とはほとんど話さないグループに属する子ではあったが、それでもまどかやさやか、マミさんには重い事実らしい。
まどか、マミさんもそれに続く。
(……そうね。正直あれ以上どうしようもなかったとは思うけれど、それでも私たちがもっと強ければとか、もっとワルプルギスの夜を早く倒せていればと思ってしまうわね。)
(マミさんのせいじゃないし、さやかちゃんのせいでもないよ。……でも、私、あの子のことは、絶対忘れない。……あの子みたいな犠牲を出さないために、私たちは魔法少女として頑張っていかなくちゃ。)
(……うん、そうだね。魔法少女として頑張る……それが私たちにできることだ。)
悲しみながらも、私以外の3人は決意を新たにしたようだ。
……でも私は。
(……ほむらちゃん、大丈夫?)
(…………そうね。過去のどうにもできなかった犠牲のことより、これからどうやって犠牲を減らすかを考えるべきよ。)
(……うん、そうだね……)
(ちょっと、「犠牲のことより」っていうのは……)
(ほ、ほむらちゃんなりの励ましだよ、きっと!)
(……そうね、ちょっと○○さんの犠牲を軽視した発言だったわ。ごめんなさい。)
なんて言ったけれど……正直、ほとんど悲しんでいない。
その子が今までの時間軸で殆ど関わらなかった子だったというのはある。でもそれ以上に、私は……まどかの生存のことを考えて生きてきたのだ。他の何よりも。……つまり、他人の命よりもだ。過去の時間軸において、まどかの為に美樹さやか、巴マミ、佐倉杏子の命を犠牲にしようとしたことだってある。……結局それでも救えなかったけれど。まどか以外のことを気に掛ける余裕なんて、私には無かった。……それでも、まどか以外の彼女たちが死んだときは、ループ初期の頃はとても悲しかった。何度も繰り返して、「まどかが死んでいないから大丈夫」と言い聞かせて、まどか以外の死に心を動かされないように努力してきたのだ。実際、最近のループでは本当に……いや、やっぱり悲しかったけれど、行動に支障が出ないようにできていたのだ。まどかを助けるために。
でも、ループから解き放たれた今の私なら、多少は他人のことを気にかけることが出来ると思っていたのだ。ところが、実際、○○さんの死を知っても、ほとんど何も感じることができなかった。知っている人なのにも関わらず、面識が無い人の死を知らされたような感覚だ。……私の心は、どうなってしまったのだろうか。人とはかけ離れた冷たい何かになってしまったようで、不安になってしまう。
「……でも!悲しい気持ちは一旦置いておいて、これから授業を始めます。いつまでも暗い気分で居たら、○○さんも浮かばれないでしょう。せめて○○さんの分まで幸せになるのです。それに、皆さんここ2か月の勉強は大丈夫ですか?可能な限り自習してくださいとは連絡させていただきましたが……やはり遅れていると言わざるを得ませんからね。社会は皆さんのことを待っていてはくれませんよ?」
早乙女先生が空気を切り替えるようにして、そう言った。そして、私にとっては数年ぶりに新しい内容をすることとなる授業が始まった。最初は英語だった。……英語、現代兵器のことを調べて使うために、読解分野はもう中学レベルならば楽勝になったな、と思いつつ私はノートを取り始めた。
……ループ中で聞いたことが無い話をたくさん喋る先生。本当に私の時間遡行は終わったのだな、と実感する。
◇
昼休みになった。屋上で私、まどか、さやか、マミさんと一緒に昼食だ。
「ねーほむら。ことあるごとにまどかを盗み見するのよくないとおもうよ?やめときなってそういうの。」
「……そ、そう?でも私心配で……」
「ほ、ほむらちゃん私大丈夫だからね?授業もちゃんと聞いた方が良いと思うな……」
「今日の範囲なら余裕よ。」
「なんで……あー、そうかループか。英語大体読めるんだっけ?いーなー……いや、正直あんたの苦労を考えるとあんま羨ましくないわ。」
……なんてことをしゃべりながら、それぞれが持ち寄ったお弁当を食べていた。まどかとさやかは家族に作ってもらったもの、マミさんは自分で作ったものらしく、私は行きがけに適当に買ってきた。
今いる屋上も……ループ中ではいろいろな出来事が起こった場所だ。もともとまどかとさやか、マミさんがよく集まる場所なのだ。それと確か、美樹さやかが契約する場所が、高確率でこの場所なのだ。
ここから外を眺めると……やはり戦いの爪跡が目立つ。倒壊した建物がそのままになっている箇所が多い。最低限生活できる環境は整ってきたのだが、それでもまだまだ復興途中だ。もともとは見滝原の様々な建物が見えるちょっとした名所ともいえる場所だったのだが、今は工事用のクレーンなどがよく観察できる場所となっている。
そんなことを考えていると、魔力を持つ何かが近づいているのを感じた。……おそらく彼女だ。
「……よお。集まってんな。」
「あ、杏子ちゃん。」
佐倉杏子だ。おそらく魔法少女としての力を使って、誰にも見られないようにここまで飛んできたのだろう。いつも食べ物を持っている彼女だが、今日はフランスパンだ。……最近、近くでパン屋が再開したと聞いた記憶がある。そこのものだろうか。
「佐倉さん?一応学校の敷地に入るときは許可が必要ということになって……いや、もう今更ね。歓迎するわ。」
巴マミと佐倉杏子は、昔喧嘩別れのような状態になったらしいが、最近は私の知らないところで仲直りしたのか、双方邪険に扱う雰囲気はない。
「へー、魔法少女になってもまだ決まりとか法律とか気にするんだ?」
「と、当然よ。そういう佐倉さんも……将来ずっとそうやって生きていくつもりなの?」
「そうやってって何さ?」
「その……学校とか。一応日本だと、卒業くらいはしていないとかなり大変って聞くわよ?」
将来か……そういえばほとんど考えていない。
「えー?ヘーキでしょ。何とかなるって。いざとなったら魔法少女の力もあるし?今更人間社会に沿った生き方なんてするつもりこれっぽっちもねえな。」
「あ……あの、もしかしてずっと泥棒して生きるつもりなの!?平穏に生きている人から奪うつもり!?」
マミさんがすごくショックを受けた顔でそういった。……そういえば、彼女はこの2か月どう生きていたのだろうか。数日前にマミさんの家に呼ばれたことがあったのだが、普通に元に戻っていた。魔法で直したのだろうか?確か彼女は今、百江なぎさという子と同棲していると聞いている。彼女の世話もしなくてはいけないはずで、大変だろう。杏子も、こんな状況下では食べ物の確保など大変だろうと思うのだけど。
私はまどかと一緒に支給された食べ物を食べていた。……魔法少女として魔力さえあれば、水も食料も不要なのだろうか?この体は。今度何か試してみようか……。
そしてマミさんに対し、杏子は流石にバツが悪くなったのか、慌てて否定しだした。
「い、いやいやいや……私だって流石に相手は選ぶぜ!?何もしてこないやつには何もしねえよ!?」
「きょ、杏子ちゃん……今持っているフランスパンはどうやって手に入れたの?」
まどかもちょっと不審がりながら杏子に聞く。
「こ、これは普通に買ったんだよ!最近近くでパン屋が再開しただろ?盗んでねえよ!?」
杏子は何か誤魔化すようにパンに齧りついた。
「……それで、そのお金はどうしてるの?」
「それは……」
佐倉杏子は目を泳がせた。……やっぱり何か言いにくいことに魔法を使っているらしい。
「…………まあ、ちょっと、たくさん持ってそうな奴から……」
「そ、そんなあ……!今は災害でみんな大変なのに、私達みたいに魔法を使えるわけじゃない人たちから奪うなんて!」
……まどかが本気で悲しそうな声を上げた。まどかの悲壮な声は、聞く方としてはかなり心にくるものがある。
「だ、だってよー!?そいつ、いやそいつらだけど、警察が来れないことをいいことに火事場泥棒しまくって、家が無い奴をボコボコにしてたんだぜ!?じゃあ私がそいつらをボコボコにしてもいいだろ!?……その、ちょっとくらい稼ぎがあっても……」
「そ、そうなの……?」
……罪のない人々から奪ったりしないあたり、やはり彼女の根底には善良さのようなものを感じる。以前ほど悪いことをしている様子もない。……独りぼっちじゃなくなって、精神的に余裕が出来たからだろうか。
杏子に対して、まどかも少しだけ納得したような声を上げた。しかしさやかの反応は微妙だった。
「うーん……そういうのっていいことなのかな……」
「う、うるさい!親にメシ服家保証されてるやつに言われたかねえ!」
「ご、ごめん……」「……ごめん」
杏子に怒られ、さやかとまどかはしおらしくなってしまった。罪悪感を感じたのか弁当を進める手が止まっている。
……そういえば、巴マミは普段どうやってお金を用意しているのだろうか?見る限りバイトをしている様子もない。親の遺産か何かだろうか。
「はー……でもそうかあ。私達も魔法少女やりながら高校行くことになるのかあ。ちょっと不安だなあ。学校生活との両立とか。」
「……そういえば、マミさんは受験でしたよね。……魔法少女をやりながらできるものなんですか?」
「まあ、何とかなっているわ。別に偏差値が高い所を志望しているわけじゃないしね。」
「へぇー……マミさんさすがだあ。」
たしかマミさんは……一番近所の高校を受けるということだったか。「今更魔法少女の友達を一から作るなんてハードルが高いわ。それに、そもそもみんなと別れたくない……。」と言っていた。
……将来か。まどかの為に頑張る以外、正直なにも考えてない。高校はまどかと一緒のところに当然行くとして……いや、それ以前に。
「まどか。……まどかは、将来どうするの?」
「えっ?どうって……」
まどかが、食べかけのウインナーをほおばりながらきょとんとした。……かわいい。
「多分私たちがこのまま順調に魔女を狩り続けて、グリーフシードを定期的に入手し続けられた場合……二つの選択肢がある。一つは、普通の人間として、この社会で生きていくこと。多分だけれど、年を取るにつれて私たちの感情エネルギーは小さくなっていく。だからグリーフシードの必要量は減っていくけれど……魔女を狩る力も弱くなっていくわ。……そしてもう一つは、ずっと魔法少女として適した体、少女の身体になるよう魔力で制御すること。これなら力は衰えないと思うけれど、それは、普通の人間と同じ時間をやがて生きられなくなるということ。知っている大抵の人々を見送っていき、ついには孤独になる道よ。……まあ、まどかには私がずっとついてるから、一人にさせるつもりなんてないけれど。」
「うわ、急に大胆なこと言うなあ……。」
「一人の為に繰り返した女が言うと重みが違うわ……」
「ふええ、ええと、その……」
……しまった。ちょっと喋りすぎたか。まどかが困ってしまった。
……さやかと杏子は大胆と評したけれど、別に私の生き方をそのまま言っただけなのに何が大胆なんだろうか。
「……ごめんなさい。こんな大事なこと、すぐには決められなくて当然ね。」
「う、うん。とりあえず今は、魔法少女としての生活に慣れないと……」
「そうかしら?もう十分慣れていると思うけれど。」
「やっぱり戦いではまだまだマミさんやほむらちゃんに頼ってばかりで……」
「まーまー、何とかなるだろ。上達はしてると思うぜ?……というか、ほむらはどうするんだよ。手持ちの弾は減る一方なんだろ?ずっと銃や爆弾で戦うつもりか?」
「……他に手段が思いつかないわ。」
まあ確かに、もっといい手段があればいいとは思うけれど……それは私が知りたいくらいだ。それか、盾の砂を元に戻してまた時間停止ができるようにするとかできないだろうか。
「あ、そういえば暁美さん。前に、魔力の弾を使っていたのを見たことがあるわ。あれはどうなのかしら?」
「あれですか。あれは実弾を使う場合に比べて魔力の消費が大きいので、あまり使いたくは……」
「んー、ほむら。なんで大きいの?」
「そうね……魔力を固めているから、かしら?こう……なんとなく、魔力を弾にしているから、その分というか……説明が難しいわ。」
魔法少女がどうやって魔法を使っているのかと言われても、結構説明が難しい。たとえば私自身どうやって盾を動かしていたかと言われると……なんというか、頭に腕を動かすのと同じように盾を動かせる、と表現するべきか。……そのへん、魔法少女は結構なんでもアリな気がする。とにかくそういうことができるようになるのだ。……でも、マミさんがあるとき「どうやってリボンからマスケット銃を作っているのかですって?それは……リボンを丸めて筒状にして、銃身にしているのよ。」って言っていたのは、今も納得がいかない。いくら何でもリボンから鉄の筒はできないと思うのだが。
それと、私の力は時間停止の方にかなり取られてしまったらしく、その魔法以外は貧弱なのだ。他の魔法少女が簡単にできることでも、私には難しいということがあり得る。
「別に固める必要ねーんじゃねえの?」
「えっ?」
「ほら、強烈な光だけ目くらましとか……そういうのはできないのか?」
「……どうかしら。やったこと無いから何とも……」
「暁美さん……ずっと一人で戦ってきたから、他の魔法少女と戦ってアイデアを得る機会が無かったのかもしれないわね……」
マミさんが……なんというか、とても心配した声で私にそう言ってきた。……独りぼっちという点に同情しているのだろうか?……まあ、そのつらさは私もよくわかる。
すると、それを聞いたまどかが突然私の手を握った。そして、私に向けて笑顔を浮かべて言った。
「放課後、みんなと一緒にほむらちゃんの魔法、考えようね!」
……やっぱりまどかは、私の最高の友達だと、改めて思えた。この優しい太陽のような笑顔を守るためなら、私は永遠に頑張れる……そんな魔性の笑顔だ。初めて会ったときの、私と友達になってくれた時に見たものと比べて、まったく色あせない。
そして昼休みが終わり、放課後魔法の話し合いをするということでその場はお開きになった。
ちなみに、ループ中ではこういう場にはよくキュゥべえが現れたが、最近は私達が呼ばない限り現れなくなった。私たちが怒り出して、特に杏子や私が奴を殺すことが多いからだ。奴がいたら過去の辛い思い出がフラッシュバックしてしまう。当然の対応だろう。
◇
そして放課後になり、私達5人はとある廃倉庫にやってきた。佐倉杏子曰く「ここは普段から誰も寄り付かないので、コッソリ何かするのにおすすめの場所だぜ!」とのことだ。外観が見えるところまできたが、割られている窓などがそのままであり、人があまり来ていないことが分かる。確かにあまり使われない場所なのだろう。
「ふーん?なんかいかにも『隠れてコソコソ悪だくみするのにピッタリです!』みたいな場所だね。」
「……壁が抜けたままだよ。危なくないかな……?」
「流石に瓦礫でやられるほど魔法少女はヤワじゃねーよ!」
「そ、それもそうだね!」
……なんてことを話しながら、皆で中に入ろうとしたとき。私は手を広げて彼女たちを足止めした。まどかの為に魔法でいつもまどかの周りを警戒していたのが功を奏した形だ。
「待って。……中に誰かいるわ。」
私達は互いに目を合わせた。
「……私達と同じく悪だくみするヤツがいるってことか?」
「べ、別に悪いことをするわけじゃ……」
「えー?でもここには窃盗犯がいるぞー?」
「…………」
さやかのブラックジョークに、まどかが暗い顔で黙ってしまった。……美樹さやかは、今でも初対面時の印象が強いのか微妙に私に対してこういった黒いことをいう時もあるが、嫌味は感じない。本当にちょっとしたおふざけなのだろう。
……魔女退治というのものは、正直法律を律儀に守っていたらやっていけない場面が多々ある。まどかの魔法の弓も……あれは、着弾すると爆発するし、そのあたりで法律に引っかかるんじゃないだろうか。無論人に撃つまどかじゃないけれど、時々「これやっていいのかな……?」と不安になる様子がある。私はもう「迷惑を掛けなければいいか……」とあきらめてしまっている。まどかには、魔法少女として生きていく為に割り切ってもらってはいるが、時々こういうことを考えてしまうようだ。
「さやか。まどかはそういうの気にするんだからあんまり言わないでちょうだい。」
「あー、ご、ごめんよまどか、ほむら。ほら、私たちが魔女を退治しないと余計に人々に被害が出るから!必要なことだよ、必要!」
「う、うん……」
「なんか言うことがドラマの悪役みたいだな、さやか。」
「杏子さん、余計なことを言わないで!」
「ぶへっ!」
マミさんが杏子の頭を軽くチョップした。
……まあそれはともかく。
「……それで、どうするの?暁美さん。」
「まあ、他の人が使っているなら別の場所に行くか、日を改める、ということで私は構いません。」
「うーん、まあそうだよね。急ぎじゃないし。」
「なあ、中の奴が何やってるのか気にならないのか?」
杏子がそう言った。
「え?あんまりこういうのは覗き見ちゃいけないんじゃないの?」
「えーでも気になるし。いーじゃん。ほら、お誂え向きに扉が少し開いてるし。」
そう言って、杏子は扉の隙間から中をのぞき見し始めた。
「あー、あー、杏子のやつ、配慮ってものが無いんだから」
「お、おい!」
杏子が突然驚いたような声を上げた。
「どうしたの?」
「キュゥべえがいるぞ!」
その一言に、緊張感が走る。
私達5人は、そろって中を覗き見た。……一人の少女らしき人影と、地面に座っているキュゥべえが確かにいる。内容までは聞き取れないが、何か話しているようだ。
「ア、アイツ……契約を持ちかけているのか!?」
「さやかちゃん……どうしよう?」
「決まってる、止めるんだよ!」
そう言って、美樹さやかは中に入ろうとした。
……私達に他人の契約についてどうこうする権利を持つとまでは思わないが、少なくともキュゥべえが隠していることは教えてあげるべきだろう。魔法少女は魔女になることとかを、特に。
「……!待って、さやか!」
私はそういって彼女の肩を掴む。同時に彼女も足を止めた。キュゥべえの耳?の部位が彼女に伸び始めた。
……おそらく、契約がもう始まったのだろう。あの状態で手を出すと、魂をソウルジェムに閉じ込める過程で不具合が生じ、死んでしまうことが多い。いつかの時間軸で、そういった現象を見たことがある。そうなるのは本意ではないので、あまり近付きたくはない。魔力で聴覚を強化して、内容を聞き取ろうと試みる。
「……じゃあ、はじめるよ。本当に良いんだね。」
「うん、……願い。」
「教えてごらん。君はどんな祈りで、ソウルジェムを輝かせるのかい?」
「私は……この世…をもっと面……たい。……ローとヴィ……が戦うあの……のような、世界が見てみたい!」
「契約は成立だ。君の祈りは、エントロピーを凌駕した。さあ、解き放ってごらん。その新しい力を!」
「……!!!まずい!」
その言葉は誰が言ったか。私達5人は反射的に、魔力の壁を作った。正直私はこういうのに向いていないが、それでもやらなきゃいけないと直感した。
彼女から、莫大な魔力が溢れ出す。目を開けられないほどの光と、轟音のようななにかと、私たちの居る世界が根底から崩れているような恐怖。魔女の結界に踏み入る感覚が近いがあれよりも明らかに大規模で、しかし悪意を感じなかった。
「~~~!!!みんな、耐えて!耐えるのよ!絶対にバリアを解いちゃダメ!」
マミさんがそう言う。私達5人は身を寄せ合い、必死に魔力を放って耐え続けた。
そして……1、2分ほど耐え続けただろうか。少しずつ、……その魔力の奔流のようなものが収まっていくのを感じた。
私は、魔力をほぼ使い果たしてしまい座り込んだ。……それにつられ、他4人も同じく座り込んだ。……皆、息を切らしている。魔力もかなり危ない。
「はあ、はあ……み、皆大丈夫かしら?」
「え、ええ。大丈夫よ。」
「はぁ、はぁ……大丈夫、です。」
「わ、私も大丈夫……」
「私も……はあ、だ、大丈夫だ。」
息を整えて、私は立ち上がった。周囲を見渡すと、キュゥべえやあの少女の姿は無かった。
……それとは別に気が付いたことがある。
「……なんか綺麗になってない?」
倉庫のボロボロになっていた壁が、ちゃんと塞がっている。年季が入っているので綺麗とはいいがたいけれど、少なくとも災害の被害の跡は消えていた。
「な、なあ。今のは何だったんだ……?」
「おそらく、あの少女の願い事の、せいなんでしょうね。世界が書き変わった……のかしら?この場所、綺麗になっているわね。」
「……見滝原を元通りにしてくれ、とか願ってくれたのかな?もしかして。」
さやかがそう言うけれど、私が聞いた内容から推測すると、あまり楽観できないと思う。
「私、会話が少しだけ聞こえたのだけれど、『……のような、世界が見てみたい!』って聞こえたわ。多分元通りにはなっていない……と思うわ。」
「……大丈夫かなあ……。」
まどかが不安そうにしている。早く何とかしないと。
……とはいえ、命の危険はないようだ。
「……まずは、どんな変化があったかを確かめることね。……5人で行動するべきかしら。皆、一旦私の家に集まりましょう?」
マミさんが、そういう。……リーダーシップのようなものを感じさせる。こういうところで「先輩」とか、「お姉さん」とか言われるのだろう。
「まあ……そうだな。状況が分からないうえで下手に動くなんて下策だからな。」
杏子がそう同意したその時。背後に気配を感じた。
反射的に振り向くと、そこには……顔から粘液のようなものが滴って、背中や手足から触手のようなものを伸ばす……人間程度の大きさの何かがいた。そして、私達を見て
「フ、フへへ……イヒヒ、こ、こんなところに、もう遅い時間だあよ、いちゃいけないよ、イヒヒ!!!!」
……と、正直言ってとても気持ち悪い顔でニヤニヤ笑いつつ言った。
それを見て私たちは、
「……なんだ?魔女か使い魔?」
「……でも、ここ、多分結界の中じゃないはず……」
「油断は禁物よ。魔女が全員結界の中でコソコソしているとは限らないわ。個体差だってあるでしょうし。」
「でもしゃべる奴は初めて見るよねー。言うことは完全に不審者だけど。」
と、口々に評価した。普段ならば、さっさと殺しているところだが、先ほどの件からひとまず様子見をしているようだ。
「ア、オ、お前タチ?なぜ、お、オレを?こ、こわがラナイ?」
……魔女や使い魔にしては、結構筋の通ることをしゃべるものだ。方向性は最悪だけれど。不審者の魔女とでも名付けようか。
「まあ、もっとグロいやつなんて沢山いるしなー。」
「佐倉さん……不用意に応対しない方が良いわよ?前に、声を聞いただけで魔力を奪われる魔女と戦ったことがあるわ。」
「うげ、マジ?」
「……みんな、ちょっと緊張感なさすぎない?大丈夫?」
まどかがそう言うけれど……強さをあまり感じない相手なのだ。ただ悪意はとても感じる。私は不意打ちは警戒しているけれど、強敵だとは思っていない。もちろん油断は良くないのだろうが……どんな相手に対しても気を張っていたら、疲れてしまう。メリハリが大事なのだ。
そんな話をしていると、目の前の奴がプルプル震えだした。
「う、ウウガアアア!ナ、泣き顔!泣き顔見せろ!イヒヒ、今からお前たちの服、腕、引っこ抜いてあげりゅ、るよぉお!!!」
「ヒッ!?」
触手が伸びて迫ってきた。私達を害するためだろう。
まどかを怯えさせたし、これ以上観察しているわけにはいかないか。そうして飛び上がって避けようとして……私は、気が付いた。
「君はどんな声でなk」
カシャン、と。
盾が複雑に動き、中の砂の流動を阻害する。それと同時に、周囲の景色も……停止した。
「え!?ほむらちゃん!?」
「……なぜか分からないけれど、時間停止ができるようになっているわ。」
もう何千回、何万回とやってきた魔法だ。けれど最近はご無沙汰だったもの。触れていた私達5人以外の時を止めるという、人理を超えた力が、私に戻ってきた。
……嬉しい。これで、またまどかを守れる!
「な、なんかよく分からないけれど、良かったな、ほむら!」
「へー、私は初めてだけれど、こんな感じなんだなあ。」
「暁美さん、おめでとう!不幸中の幸いかしらね?」
「よ、よかったねほむらちゃん!」
と、皆口々に祝ってくれた。先ほどの契約の影響なのだろうが、どうして出来たのかは分からない。……ともかく。これでまた私は戦える。それが一番重要だ。
……でも、うかうかしてもいられないことにも気が付いた。
「……!みんな、あんまり悠長に止めている暇は無いみたい。魔力をより多く消費するようになっているわ。ここはいったん解除させてもらうわよ?」
「う、うん、わかった。」
「……あ、その前に、コイツを」
「ああ、そうだったわね。」
バン、と、一発。
ベレッタM92FSを取り出し、慣れに慣れた手つきで目の前に発砲する。当然魔力強化も忘れない。時間停止をしたならば必ずと言っていいほど戦闘で行ったことだ。
そして、時間停止を解除する。
「……aくのか……」
弾丸は特に弾かれることもなくコイツの眉間を穿った。そして倒れ伏す。魔女にしては珍しく血や頭の中身が出た。
そして……
「あ、グリーフシードだ。やっぱり魔女だったんだ。」
グリーフシードがどこからともなく出てきた。魔女を倒したときと同じ感じだった。やはりこいつは魔女だったのだろう。
私はグリーフシードを拾い上げた。ちなみにグリーフシードは、ソウルジェムが一番穢れている人が使うことになっている共有物だ。だから、これは誰のものという話はもう私たちはしない。
「……はー、こんな時に魔女に出くわすなんてなあ。」
「で、でも、いち早く見つけてたおせて良かったね!」
と、普段のルーティンをこなしたと思った私たちは、みんなでマミさんの家に移動しようとした。
……が、しかし、ここでさやかがおかしなことに気が付いた。
「……あれ?なんかコイツの死体が消えないんだけれど?」
魔女や使い魔は普通、倒されるとその場から幻のように消える。あとには何も残らない。
……でも、コイツは自身が人間だったのだと主張するかの如く、そこに残り続け、血を頭から流し続けている。
「……うん、幻じゃない。実体がある。」
さやかが、拾った棒きれでその死体をつついてそう言った。……じゃあこいつは何?
「……ま、まさか今殺したのって、人に近い何かじゃ」
「いや、そうだとしても明らかに敵だろ、言ってることがアレだし。捕まってたらどうなったか分かんねえぞ?」
まったく杏子の言う通りで、仮にあれが人だとしても私たちの正当防衛だろう。……過剰防衛かもしれないけれど、私たちは年端もいかない少女だから許してほしい、と時間遡行の期間を努めて無視しながら私は自分にそう言い聞かせた。
その時、また別の声が聞こえてきた。
「おい、ヴィランはまだ見つけられないのか?」
「すみません、まだ……」
「奴は女子小学生や中学生を中心に罪を重ねる凶悪ヴィランなんだぞ!?個性も強力だ。今対抗できる個性は私の『からまらせる』だけ。そして今は下校時刻……危険だ、今すぐ捕縛しなければ!」
……とりあえず、あれが魔女ではないことと、殺して正解だったということが分かった。グリーフシードが出てきたことはまったくもって謎だが。
……だが、口ぶりからして一応人扱いされているのだろうか?「個性が強力」というのも妙な言い方だ。
「……隠れて様子を見ましょう?」
と、マミさんが言った。死体を見つかりやすい場所に置いておき、私たちは物陰に隠れた。
しばらくすると、先ほどの声の主が来た。来たのは二人の男性で、一人は普通の警察官。でももう一人は……なんなんだろうか、あの恰好は。やたら目立つというか、派手というか。テレビのヒーローものに出てきそうな恰好をしていた。……私たちの恰好も似たようなものだけれど。
そして、彼らは死体を見て驚いていた。
「……!これは!」
「死んでいます、間違いありません。」
「……凶悪ヴィランとはいえ……死なせてしまうとは。我々ヒーローがもっと早く来ていれば。」
……本当にヒーローを自称した。私達はみんな面食らっている。しかも死なせたことをやたら悔いている。なんなのだろう、本当に。
「死因は明らかに、頭部への発砲でしょうね。」
「銃を持った者が、思わず、といったところか。とにかく連絡を……」
と、その男性は無線機らしきもので何か話し始めた。
「……いろいろ気になるけれど、まずはこの場を離れて、私の家に行きましょう?」
マミさんが小声で私たちに呼びかけた。当然賛成だ。この後はここに警察が集まってくるだろう。私達は特に反対もなく移動を始めた。
しかし、しばらく歩いて開けたところに出ると。
「なっ!?み、見滝原が!?」
もともと見晴らしのいい丘だった。最近は瓦礫と工事の光景ばかりが広がっていたのだが、今目に飛び込んできた光景は、戦いの爪跡などまったく感じさせない、戦いの前よりさらに発展した街の光景だった。
というわけで、ヒロアカ世界が生成されました。
いろいろ細かい点は気になるかもしれませんが、設定はぼちぼち出ていくと思います。
・一般遭遇異形型
ヘドロヴィランとは別人