廻天の新予告のほむら、怖可愛いね(小並)
次の日の昼休み。私達4人はランチラッシュが料理するという食堂にやってきた。人が多くてごった返しているのは不快だが、それを上回る利点があった。
「え、おいしい!マジでおいしい!これが400円!?私これから毎日ここで食べたい!」
「毎日!?……お、お弁当は?」
「…………その、一緒に持ち合わせて食べる時間は好きだけれど、うーーーーん……」
お弁当を持ち合わせて一緒に食べるのは、私たちの大事な日課だった。それが崩されるのは寂しい気持ちになる。特にまどかはそういうのが好きなので、さやかの発言に少し寂しそうにもしていた。私の数少ない趣味にもなっていた。
……けれど、お弁当を毎日作るのは手間であることも事実だ。そしてなにより、ここのご飯はお世辞抜きで美味しくて安値。私達庶民の味方といえる。確かランチラッシュは「沢山の人に届けられて、沢山の人々が満足する食事を届けるのが私のヒーロー活動!」とか何とか標榜していたので、その理念が十全に反映されていると言えるだろう。
「いやだって、このパスタメチャメチャおいしいよ!このバジルの風味とパスタの少し平たい形状がソースとよく絡んで……えーとその、なんかこのベーコンもおいしくて……とにかくおいしいの!」
……さやかの語彙力でグルメレポートは無理そうだ。まあ、私も多分できないけれど。
ただ一見したところ、ファミレスで出されたとしたらなかなか値が張りそうな盛り付けなどをしており、食材も冷凍したものをそのまま取り出して付けたようなものではない。1000円は確実にありそうなクオリティをしている。
「あはは……でも確かに美味しいよね。私こんなおいしいオムライス初めて食べたよ。本当に卵がふわふわ……!」
まどかが笑顔になって食べているのを見ると、ここに毎日来るのも悪くないと思える。実際、今私が食べてる豚骨ラーメンもかなり具がしっかりしていておいしい。
「ていうかほむら、豚骨ラーメンなんだね。まあそんな感じな気はしてたけど。」
「……どういうことよ、さやか。」
「めっちゃイ〇スタ映えしなさそうじゃん?すごく無骨な料理っていう感じ。」
「別にいいじゃないの。何か問題があるのかしら?」
「えー?だってさ、あんなにいろいろあるんだからできれば見た目がいいものを注文したくない?」
「……よくわからないわ。」
さやかはそうだけど、私はイ〇スタやっていないのは知っているはず。どうしてそんな提案になるんだろう?
そんなことを考えつつ麵を啜っていると、ある程度食べ終えたさやかがフォークを置いて高らかに宣言した。
「ではこれより!午前のほむらのホミュニケーション・クオリティの評価を始めます!みんな拍手!」
「あはは、やっぱりやるんだね、それ。」
「もちろん!このさやかちゃんが、ほむほむを立派な真人間にしてやるんだから!」
「……暁美さん。美樹さんはちょっとふざけているけれど……ちゃんと聞いた方がいいと思うわよ?」
「………………」
ホミュニケーションは、わたしの名前の頭文字とコミュニケーションをくっつけた単語だ。……自分でこんな解説をするのは何とも馬鹿らしい気分になるけど、あまり言い返す気にもならなかった。
今日の朝、昨日の昼での会話でのことをさやかに話してみたところ、額に手を当てて天を仰いでしまった。
「はあ~~~……いや、ほむらは、悪くないんだけど、けどさあ……もうちょっとこう、何とかなんないの?それ聞いてマミさんがどう思うかとか……本当に重症だなあ。よし、決めた!これから毎日、このさやかちゃんがほむほむのホミュニケーションを査定してあげよう!」
などと言い始め、まどかにも「いいかも……?」と弱めの同意をされたのだったのだ。それで、今日の午前中の私のコミュニケーションをいろいろと評価するらしい。
「今日の午前のほむほむコミュニケーションは、ズバリ!『嫌じゃなかったけど続けたくもなかった』でしょう!会話としては一応成り立ってるけど、あんまり楽しくも感じられなかった、て感じかな?」
「うーん、そうだね……ほら、相手の言うことに対してイエス・ノーしか言わない、みたいな感じ……?例えばこう、自分の感じたことを言ってあげればもうちょっと興味を持ってもらえるんじゃないかなあ?」
「……そうなのね。」
「そう、それ!」
「え?」
「自分の会話にダメ出しされて、嬉しいとか嫌だとかないの?例えばさ、『そんなこと言われても何言えばわかんなーい!』とかでもいいからなんか言ってくれないと、相手はほむらのことがわかんないの!こう、えーと……」
「『私が質問したんだから、あなたも何か言ってほしい』……みたいな、言葉のキャッチボール、かしら?」
言葉のキャッチボール……時々聞くけれど、自分の身に当てはめてみたことは無かった。
「あ、マミさんそんな感じ!とにかく、言ってることに答えるだけじゃほむらのことがわかんないの。」
「うん、私もさやかちゃんと同じかな……お話ししないと、お互いのことがわからないから。ほむらちゃんがどんなことを考えるのかを言ってほしい……かな?」
「同意できる考えね。」
「…………」
突然3人が黙りだした。私は何か変なことを言ったのだろうか?
「……3人とも、どうして黙っているのかしら?」
「やっぱ分かってない!だーかーら!それだと答えの中身がなさすぎーーー!」
美樹さやかは、頭を軽く搔きむしり言った。
「……ごめんなさい。」
……こうやってダメ出しされると、自分の会話というものは思っていたよりも他人のものとかけ離れていることがわかり、少し情けない気持ちになった。
昨日、皆と別れた後、自分でもいろいろ思い返してみた。他のクラスメイトと会話する機会はそこそこあった。会話中のその人たちの表情は、悪くはないけどそこまで楽しそうでもなかった気がする。つまり、彼女の言う通りそんなに楽しくはなかったのだろう。
今のところ実害は出ていない。けれど、私とずっと一緒にいるまどかが、「あの感じ悪いほむらと一緒にいる人」なんて見なされたら、さすがに看過できない。私自身の印象を上げるのは、まどかのためにも重要かもしれないと思った。
考えてみれば、昨日マミさんに別世界の言動の話をして落ち込ませてしまったのもそうだ。私自身はマミさんに、落ち込んでもらいたいとか反省して欲しいとかじゃなくて、ただただ人間関係の脆さというものを言いたくてあの話をした。けれど、あそこまで落ち込まれるのは想定外だった。……こうなると、いつかまどかにも同じ言動をしてしまう可能性がある。それに、他人との不要な争いというものは私としても歓迎できない。というわけで、私はそういった対人関係の指摘は、それなりに真剣に受け止めるつもりではいる。
でも、わからないことがある。なぜ私に友達をたくさん作ってほしいのだろう?私はまどかがいて、みんながいる現状に十分満足している。でも3人は、私たち以外の友達を作ろうとする。すでにまどかとさやかは、クラスでも楽しく話せる友達といえる人がいるようだ。二人は、私からすると友達というものに貪欲に映るけれど、2人からすると私の方がおかしいらしい。3人には何度も私が現状に満足していることを伝えているのだけれど、そのたびに「何その悲しい人生!?」みたいなリアクションをされるのだ。……まあ、そういう対人スキルを身につければ社会に出てから役立つとか、そういう感じなのだろうか。
……そういえば、今気が付いた。昨日のさやかの勉強の件で心操君にお礼を言っていない。あとでちゃんと言わないと。思い返してみれば、あの時の心操君は少し私との会話が不快そうだった。さやかにイラついていたとはいえ、ああいう態度をとってしまうことが私の欠点なのだろう。
……まあともかく今は、私の考えていることを言ってみよう。
「そうね。前にも言ったけれど、私はループ以前はずっと入院生活で、その後はずっと魔法少女としての活動をしていたから、あなたたち以外と交流がなかったのよ。だから、対人経験が少ないのは否めないわね。」
人前で言えない魔法少女関連のことは適宜テレパスにしつつ、私はそう言った。がしかし、3人の顔はなぜか曇っていく。
「ほむらちゃん……」
「暁美さん……」
「ほむら……私たち、あんたのこと絶対見捨てないからね!」
「うん!頑張って沢山お友達作ろうね、ほむらちゃん!」
「そうよ!付き合う人が多い生活は本当に心が温まるもの。暁美さんにもいつか分かってもらえるわ!」
なぜか感情を露わにする3人。前に話したことがあるはずなのだけれど、どうしてそんな反応をするのだろう。私を見捨てないでくれるのはうれしいけれど、私はいちいち同情してもらいたくて言ったわけじゃない。
……やっぱり、私が考えることをそのまま言ったらダメなのだろうか。
「……あまり適切な回答ではなかったようね。この話は」
「そんなことないもん!ほむらちゃん、言ってくれてありがとう!私たち、ちゃんとほむらちゃんのことを受け止めて、抱えているものを分かち合えるように頑張るからね!」
「……ありがとう。まどか。そう言ってくれるだけでも嬉しいわ。」
まどか達の反応は、あまり歓迎できなかった。明らかにまどかに不要な心配をさせてしまっている。まどかには、何の心配も抱えずに生きていてほしいのが理想だ。いちいち私のことで心労を掛けてしまうようなら、やっぱり私のことを話すのはやめようかと思った。
……結局どうすればよかったのだろう。言い出しっぺのさやかに、何が答えなのかを聞いてみようか。
「……さやか、結局何を言えばよかったのよ。」
「へ?いや、その、別に今のはほむらが悪いわけじゃ……」
「いちいちそんな風に感情を動かされると、こちらもやりにくいわ。」
「それは……まあ、そうか……。うーん、じゃあ、そうだなあ。『ほむほむ、さやか様の言うとおりだほむ!』って痛あ!」
私は無言でさやかをひっぱたいた。……多分馬鹿にしてる呼び名、だと思う。
「だからそのほむほむって何なのよ。馬鹿にしているのではないの?」
「あだ名だよ!こうすれば、親しみやすくて話しやすくなるんじゃないって思うの。そうだよね、まどか、マミさん!」
「うーん、まあほむらちゃんが嫌じゃないなら、そう呼ばせてもいいかも……?」
「まあ、そのくらいなら普通じゃないかしら。馬鹿にしているような呼び方じゃないようだし……」
意外だ。まどかにも好意的に受け止められている。私の対人コミュニケーションに役立つ……のかもしれない。
「え、なになに?もしかして、そこまで嫌じゃない感じ?じゃあ今度からほむほむって呼んでいい?」
さやかが私の顔を覗き込む。……少なくとも、彼女はからかって言っているのだろう。
「あなたの反応は気に入らないけれど、私としては」
「あー!入試の時の人!」
会話中に割り込む声があった。声の主は……茶髪の女子。知らない人だ。その後ろには、二人の男子がいた。一人は、眼鏡をかけたかなり体格のいい人で、この人も知らない。
でも、もう一人は知っていた。緑谷出久。前に海岸に行ったときに会った、ゴミ掃除でトレーニングをしていた人だ。まさか倍率300倍を通過していたなんて。世界は狭いということか。
私は、過去のことを思い出してまた後悔した。当時はイライラしていたこともあって、ヒーローへの悪感情などを彼と一緒にいた八木という人にぶちまけてしまったのだ。どうせ現代のヒーローはオールマイトありきで、彼が引退した後はヒーローが己の存在意義に耐え切れずに社会もろともボロボロになっていくだろうと。ヒーロー科に受かるほどにヒーローが好きな彼にとって、不快な話であったことには間違いない。どうせもう二度と会わないからと言い放題してしまったけれど、現に今ここで再会した。今後も、顔を合わせる機会もあるかもしれない。
彼の顔を見ると……私を見て、何とも言えない微妙な表情をしている。やはり私のことを覚えていて、良くない印象があるのだろう。イライラは私が我慢すれば済む話。これからは知らない相手でも基本的にはやめておこうと、それと彼には後でちゃんと謝っておこうと思いつつ、彼らとまどかの会話を聞くことにした。
◇
雄英高校の昼は、大食堂で一流の食事を安価で頂ける。今日は委員長決めがあって、なんと僕が選出された。確かにやりたいと立候補はしていたけど、まさか僕が!?って感じで、使命感とかよりも緊張が勝ってるのが本音だ。でも、皆に選ばれた以上は責任を持ってやらないと!
なんて意気込みつつ、麗日さんと、残念ながら落選してしまってちょっと落ち込んでいる飯田君と一緒に、お昼ご飯を注文して席に着こうとした時だ。僕が混んでいる食堂の中で空いている席がないかきょろきょろしていると……
「あー!入試の時の人!」
麗日さんが突然そう言いだして、ある席の方に歩いて行った。麗日さんの視線の先には……あ、入試の時にいた、桃色の髪の女子だ。パッと見た印象だけど、ホーミングするピンク色の弾(?)を投げる汎用性の高そうな個性を持っていた人だっけ。あれほど強い個性なら受かると思っていたけれど……A組にはいなかったから、もしかしてB組に入ったのかも?
そしてその人のまわりには、友達らしき3人の女子がいた。一人は青い髪の人、一人は黄色の髪の人だ。人を髪の色で判別しちゃうのは申し訳ないけど、正直見た目は無個性の人間だから形容のしようがないな……。
それで、もう一人は長くて黒い髪の人……と思ったところで、僕は既視感を覚えた。この人、どこかで見たことあるような、って。
……お、思い出した!この人、僕がオールマイトと一緒に海岸でトレーニングをしている時に現れて、「ヒーローはロクでもない」って言い張った人だ!信じられない話だったけど、妙に話にリアリティがあったからずっと記憶に残っていた。ま、まさかよりにもよってヒーローの集まる雄英に進学していたなんて!
あんなことを言っていたから多分ヒーロー科じゃないはず。だとすると、この人たちは普通科なのか?経営科やサポート科、って感じではない気もするし、うーん……
色々思うことはあるけど一番思うのは……もう一度会えて、嬉しいと感じているということ。あの時の話は、僕も少し考えた。ヒーローに憧れるのはいいけど、あまりにも偶像視をしすぎていたところもあった。さすがにあそこまで否定することは無いと思ったけれど、納得できる部分も確かにあったんだ。でも、一人のヒーローオタクとして、彼女のヒーロー嫌いは何とかしたいと思ってしまう。だから、どうして彼女がヒーローが嫌いになってしまったのかとか、いろいろと話をしたいと思っていた。二度と叶わないと思っていたけれど、まさかここで会うなんて……。
で、でも、気まずい!気持ちよく別れたって感じでもなかったし、あの人僕をめっちゃ見てる!どうしよう、顔が滅茶苦茶きれいだから見ていると思わず目を逸らしそうになる!なんて声をかければいいんだ……
「……ん?まどか、知ってる人?」
「入試の時に一緒に居た人だよ。あ、どうも!入試の時以来ですね!」
「敬語なんて使わんでええよー、同年代なんやし。いやー、あの時肩貸してくれたお礼ちゃんと言えてへんと思ってね!私、麗日お茶子です!よろしくね!えーと、3人は、お友達?」
「あ、うん、そうです、あいや、そうなの。えーと……」
「あ、私は美樹さやかです。ここにいるのは全員普通科仲間。よろしく!」
「私は巴マミよ。この中で私だけ2年生なの。よろしくね。」
「改めて、鹿目まどかです。よろしくね。」
「……暁美ほむらよ。よろしく。」
やっとこの人の名前を知れた。暁美ほむらっていうのか……。特徴的と言えば特徴的、なのか?
「うむ。ぼ……俺は飯田天哉だ。よろしく、鹿目まどか君、美樹さやか君、暁美ほむら君。そしてよろしくお願いします、巴マミ先輩。」
「ぼ、僕は緑谷出久。よろしくおねがいします。」
「皆よろしくね!あ、そうだ。せっかくだし一緒に机くっつけて食べへん?せっかくだし!」
「もちろんいいです、あ、いいよ!」
麗日さんすごいな、同年代の人とすぐに仲良くなれそうだ。鹿目さんも自然に笑顔になってる。雄英ヒーロー科に来る人はコミュ力もすごいってことなのか……?
そんな感じで、この4人の人たちとテーブルをくっつけて、昼休みを過ごすということになった。普段のぼくだったら女子の輪に入り込むなんてとてもできなかったけれど、麗日さんが上手く話を繋いでくれたおかげで、僕も平静を保ちつつ座れた。
……でも、僕暁美さんの隣になっちゃった!どうしよう、すごく気まずい!
…………と、とりあえず、なんか挨拶しておこうかな……?
「え、ええと、海岸の時以来、ですね……?」
う、すごく弱気な感じになっちゃった。あんまりいい印象を持たれないだろうなあ……と思って恐る恐る暁美さんを見たら、なんかこっち見てて、目が合っちゃった!な、なんだ!?
「あの時はごめんなさい。」
……へ?え、なんだ?ごめんなさい?
「え、ええと……?」
「少し嫌なことがあって、あの時は苛ついていました。人の目標に勝手にケチをつけるべきではなかったですね。だから謝罪します。」
「あ、はい……」
そういうと、暁美さんは視線を食べていたラーメンに戻してしまった。
……それ以外何も言ってこなかった。え、もしかして話終わり!?僕聞きたいこと沢山あるんだけど!?
「あれ?二人は知り合い?」
麗日さんが僕に聞いてきた。……どうしよう。あの時のこと、なんて説明すればいいんだ?ヒーローの悪口なんて、2人にとっても気持ちのいい話じゃないだろうし、ええと……
「私が前に偶然会って、イライラしていてちょっと口悪く言ってしまったんです。」
「まーたほむらが正論攻めしたのか……」
「もー……でもちゃんと謝ったから、仲直りってことでいいかな?ええと、緑谷君。」
「へ?あ、うん、そうだね。仲直りってことで……」
……口悪かったのはそうだけれど、あれはそれだけじゃなかった。なんというか、こう、僕のヒーロー観を揺さぶって来るような話だったと思う。それだけじゃなくて、なんというか態度と言えばいいのか、雰囲気がものすごく記憶に残る強烈なものだった。『口悪く』で終わるものじゃなかったと思う。
……でも、話し始めると長いし、この場の空気を悪くしたくもない。うーん……後で飯田君と麗日さんに話す、みたいにしようかな……
「麗日さんはヒーロー科に受かったんだね。おめでとう。」
「ありがと!いやー、鹿目ちゃん残念だったね。でもあんないい個性持ってるんだから、きっと人の役に立てられるよ!というかヒーロー科絶対受かってると思ってた。仮想
「いやー、私には無理だよ。入試で思い知ったもん。緑谷君を見てそう思っちゃった。」
「へ?僕?」
「だ、だって、リカバリーガールがいなかったら後遺症残りそうなほど腕がボロボロだったんだよ?私はヒーロー良いなって思って受けたけど、さすがにあそこまで体張れるほどじゃないよ。というか、大丈夫だったの?あの怪我。」
「うん。別に後遺症とかは無いんだ。心配してくれてありがとう、鹿目さん。」
「これがまどかが言っていた覚悟ガンギマリ男……思っていたより普通の男子だなあ。」
「何その呼び名!?」
か、覚悟ガンギマリって、別にそんな大層な気持ちじゃないよ!?
「あのー……あんまり人のやることに口出しするわけじゃないけど、いくら他人が危ない目に遭ったからって自分が動けなくなるんじゃ意味無いんじゃないって、鹿目さんの話を聞いて思ってしまったわ……」
……いや、確かに、客観的に見ればいい行動じゃないんだろう。個性把握テストの時に相澤先生にも言われたじゃないか。僕だって、いくらヒーローが来たからってボロボロの姿じゃ、「本当に大丈夫?」って思っちゃう。今のぼくには、そもそもそんなこと考えるレベルに居ないけれど、ゆくゆくはそういう立ち振る舞いもヒーローらしくできるようにしないといけない。
「うっ……ごめんなさい、まだまだ未熟者でして……あの時はなんか思わずって感じで……」
「うむ。緑谷君。確かに他人を助けようとして負傷するのはいただけない。しかし、あの実技試験の構造に気付き、僕より一歩先に跳び出したのは君の美点でもあると思うぞ。」
あ……飯田君、僕それは実は気付いていなかったんだよ。この誤解はちゃんと解いておかないと。
「え、実技試験の構造って?」
鹿目さんが飯田君に聞いた。うーん、誤解を解く流れじゃなくなっちゃったなあ。まあ、急ぎでやらなきゃいけないことじゃないし、この場は良いかな。
「ああ。あの実技試験には、
「え、初めて聞いたよ……」
「うーん、落ちた人には伝えられないのかな……?」
「というか、それは言ってよかったのかしら?」
そういえば……特に
「はっ!確かに、言われてみれば許可を頂いていない!僕はなんてことを!今から職員室に行って、先生方に秘密を漏らしてしまったことを報告しなければ!」
飯田君、それはやりすぎじゃないかな……鹿目さんたち4人を見ると、ちょっと呆れた顔をしている。そりゃ、こんなまじめすぎる人に会うことなんてないよね……
とりあえず、飯田君が本当に職員室に行ってしまうのはいろいろと無駄があるから、ここにとどまるよう説得しないと。
「だ、大丈夫じゃないかな、飯田君。さすがに言ってほしくなかったらどこかではっきりそう言うはずだし、そもそもこの規模で情報を漏らさないようにするなんて無理だよ。先生方は漏れるのを織り込み済みであの試験をやったんじゃないかな。」
「なるほど。しかし……僕が迂闊に口を滑らせてしまった事実は変わらない。今後は気を付けねば。」
飯田君、真面目だから結構気にしてるみたいだ。
「……飯田君、だったかしら?少し声が暗いけど、どうかしたのかしら?」
ええと確か、巴マミ先輩だっけ?巴先輩が、飯田君の様子を気にかけてきた。飯田君は、午前にあったクラスの学級委員長をやりたかったけれど、残念ながら落選してしまったから落ち込んでしまっている。……その委員長、僕がなっちゃったんだけど、正直できるか不安なんだよね。さっきみんなの前に立った時もガチガチになっちゃったし。飯田君にちょっと申し訳ないな。
「お気遣いありがとうございます、巴先輩。今日の午前に、クラスの学級委員長を決めるという重大な出来事があったのです。他をけん引するという責任重大な役職であるため、皆の厳正なる投票が行われました。ぼ、俺としては、最高峰のヒーローとなるための糧となる貴重な機会と考え立候補しましたが、残念ながら力及ばずと相成りました。この重大な仕事は、やりたいという意志だけでなくその素質も重要となる、ということなのでしょう。今、その力不足を痛感しているところなのです。」
「お、教えてくれてありがとう、飯田君。でも、先輩だからってそこまでかしこまらなくていいのよ?私ヒーロー科じゃないし……」
「何をおっしゃる!普通科であっても、尊敬すべき先輩です。上下関係というものは学校という教育の場における規律を保つために重要であると常々教えられてきたのでして」
「うん、わかったわ。すごいわね。」
飯田君。尊敬するのは良いけど、巴先輩ちょっと引いてるよ……
「……私、今のやり取りで飯田君がどんな人かよーくわかったよ。」
「そうなのか?この短いやり取りだけで分かるものなのか。なるほど、普通科も侮れないな……」
「うん、ホントよく分かるよ。ホントに。眼鏡だし。」
早速飯田君の真面目さが普通科の人たちに認知されたんだろう。まあ、確かに飯田君の真面目さは類を見ないレベルだよね。
「……というかこのいかにも学級委員長やりそうな飯田君が落選したの?じゃあどんな人が委員長になったのかなあ。」
「あ……それ、僕です。」
僕はおずおずと発言した。3人は驚きの表情を見せる。
偏見だろうけれど、飯田君がすごく学級委員長をやりそうっていうのは、僕もなんとなくわかるよ。
「……え、緑谷君が?へー、意外。」
「緑谷君、こう見えてガッツあるからね。戦闘訓練の時も、爆豪って人に腕ボロボロにされながらも私と連携して、ミッションクリアしたんよ!その時の、男の因縁?てやつがみんなにやる気を出させたみたいで、それが投票に繋がったんじゃないかな?」
「麗日さんそこまでストレートに褒められるとさすがに恥ずかしいよ!?それにあれ、僕もかっちゃんにちょっと思うところがあって独断専行しちゃったところがあるし、そもそもあれは核を守るっていう戦闘シチュエーションを蔑ろにしてしまったっていう反省点も八百万さんに指摘されて、個性の調整ができないから乱暴な勝ち方になっちゃったし、」
「な、なんか急にすごい喋りだすね……」
「はっ、ご、ごめんなさい、僕の悪い癖で……」
美樹さんに言われて、僕は自分の世界から帰ってきた。うう、こうやって分析とかするときはブツブツ言ってしまうの、やっぱり人から見たら良くは映らないんだ……
「そういえば、普通科は学級委員長とか決めるん?」
……そういえば、僕、いや多分僕たちはヒーロー科以外の人と交流したの、今回が初めてだ。だから、普通科や経営科、サポート科がどんな風なのか僕は全然知らない。せっかくだし、ヒーロー科以外の人とも仲良くなってみたいな。
「あー、今日の午前にあったよ。なんかね、ヒーロー科落ちの人は軒並み手を挙げてるの。結構ビックリしちゃった。」
「……美樹君、いや、4人は興味はないのか?」
「えー、なんかめんどそうだしいいかなって。」
「私も、なんかそういうキャラじゃないし……そこまで責任重大なお仕事は難しいかなって。」
「私も興味ないわねえ。」
「興味ないわ。」
暁美さん、久々に口を開いてくれたけど、内容が最小限だ。黙々とラーメンを啜っている。元々口数が少ない人なのかな?いや、やっぱり僕と、いやヒーロー科生と一緒なのが嫌なのかな……。
「そうなんや……やっぱり色々違うんやねえ。」
「うむむ、これがカルチャーショックというものなのか。僕はてっきり、たいていの人はリーダーをやりたがるものだと思っていたよ。」
「そ、それはちょっと極端じゃないかな……ヒーロー志望だけだと思うよ?」
「……なんか一人称変わってるね?さっきは『俺』だったよ。」
「あ……いや、それは」
そういえば……飯田君、時々「僕」って言いそうになって言い直しているんだよね。どういうことなんだろう。気になるな……
僕がそう感じていたところに、麗日さんが質問する。
「ちょっと思ってたけど、飯田君って……坊ちゃん!?」
結構ざっくり訊くね、麗日さん!?
「ぼっ……!?そう言われるのが嫌で一人称を変えていたんだが……」
僕と麗日さん、それに美樹さんと鹿目さんと巴先輩が飯田君をじーっと興味津々で見つめた。しばらくすると、観念したかのように飯田君は語りだす。
「ああ、俺の家は代々ヒーロー一家なんだ。俺はその次男だよ。」
「「えぇー!?すごーい!」」
まさか家族がヒーローだなんて、羨ましすぎる!いつでもヒーローとしての話を聞き放題!メモし放題、グッズも大量に手に入る!憧れの存在が身近なんて、本当に羨ましいなあ……!
「ターボヒーロー・インゲニウムは知っているかい?」
「勿論だよ!東京の事務所に、65人ものサイドキックを雇っている大人気ヒーローじゃないか!……はっ、まさか!?」
「それが俺の兄さ!」
「すごいや!」
「あからさま!」
良いなあ飯田君、あんなにカッコいいヒーローがお兄さんだなんて!飯田君も得意げに眼鏡をクイっとしたけど、そりゃ自慢したくなるってものだよね!
「規律を重んじ、人を導く愛すべきヒーロー。俺はそんな兄に憧れ、ヒーローを志した。」
うんうん、そうだよね。僕にとってのオールマイトが、飯田君にとってのインゲニウムなんだ。
「……あれ?4人とも反応薄いね?」
ふと、麗日さんがそういった。見ると、普通科の4人は結構不思議そうな様子で僕たちを見ていた。
「いやー流石ヒーロー科。ヒーローが大好きだなあって。」
うーん、この反応……もしかして、インゲニウムを知らないのか?
「君たちは、俺の兄を知らないのか?」
飯田君が少ししょんぼりしながら聞いた。うーん、A組の皆に聞いたらみんな知っているって言うと思うんだけど……
「あー、ごめん。多分どっかで聞いたと思うんだけど、あんまり知らないかな。」
「ごめんね、私もあんまり……」
「私は聞いたことはあるけれど、緑谷君みたいに詳しくはないの。ごめんなさいね。」
「い、いえ!お構いなく。しかし、この機会にぜひ知ってもらいたいと」
「私も知らないわ。」
そうなのか、意外だなあ。インゲニウムと言えばみんな知っているものだと思っていた。僕の交流範囲が狭いのかなあ。
「……ちょっと思ったんやけどさ。」
「ん?どうしたの?麗日さん。」
「せっかくだし、ヒーロー科以外の友達も大事にしたいと思うんよ。」
「どういうことだい?麗日君。友達は常に大切にするべきだと思うが……普通科に何かあるのか?」
「話してて、やっぱりものの感じ方、考え方が結構違うなって思ったの。ヒーロー科のカリキュラム見る限り、私達放課後で談笑する時間とか無いから、多分同じクラスの人、あとはB組としか話さなくなると思うんよね。」
「なるほど……一理ある。」
僕も時間割を見て驚いたけれど、ヒーロー科は7時間目までみっちり埋まっている。当然宿題的な物も出る。トップヒーローになるためにたくさん努力することになるだろう。勿論、僕としてはむしろ望むところ。オールマイトのような立派なヒーローになりたいのだから。
……でも、そうなると必然的に人間関係がクラス内で閉じちゃうことになっちゃうのか。確かに、ヒーロー科だけと友達になるのも、今みたいに情報の偏りという面で良くないのかもしれないな……。
「巴先輩。先輩の周りには、ヒーロー科と付き合いのある普通科の人っているんですか?」
「聞かないわねえ。そもそも普通科の方から仲よくしようっていう人を殆ど聞かないわ。みんなわだかまりみたいなものをヒーロー科に対して持っているみたいで。最近はマシになったけれど、それでも思うところがあるみたいなのよ。」
……普通科がヒーロー科に対して?もしかして、先輩が何かやらかしてしまったのか?
「一体、何があったんですか?」
「何かあったってわけじゃないんだけれどね。ほら、雄英の普通科ってヒーロー科に落ちた人が多いのは知っているでしょう?それで、僻みというかなんというか、そういう負の感情を抱える人が多いのよ。私も先輩に聞いたのだけれど、例年のことみたいなの。それにね。体育祭とか特に顕著だったけれど、雄英と言えば基本ヒーロー科みたいな感じでしょう?だから、自分たちはヒーロー科の添え物なんだって文句を言う人が多いのよ。」
「なるほど、由々しき問題ですね……。」
そういえば、毎年の雄英体育祭で注目されるのはヒーロー科ばかりで、普通科とかが注目された記憶なんて全然無いな。一瞬、なんで自分の意思で入ったのにそんな風に文句を言うんだって思ったけど……人間、そんな簡単に割り切れるものじゃない、ということなんだろう。僕も雄英に落ちて普通科に入ったとしたら、同じ感情を抱えるかもしれないと思ってしまった。
「……4人は、その、私たちに対してそう思ってるん?」
麗日さんが不安そうにそう訊いた。
「あ、私たちはストレートに普通科志望だからそんなのなーんにもないよ。安心してね!」
笑顔で親指を立てる美樹さん。こう言ってもらえると、助かるな。明るくて話しやすい人だ。A組だと、芦戸さんに近いタイプかな?
「そっかあ、よかったぁ。じゃあ、これからもお友達でいてくれる?」
「うん、もちろんいいよ!ここで別れちゃうなんてもったいないもんね!」
「あ、じゃあL〇NE交換しよ!」
そういって、麗日さんは4人と友達登録をした。……さっきからほとんど黙っている暁美さんも、渋々といった感じだけれど麗日さんと交換していた。
暁美さんとはあの時のことを話したいから、交換したい。でも女子と友達交換ってハードルが高いなあ……どうやって切り出せばいいんだろう。多分こっちのことを良く思っていないようだし……
……飯田君は交換するのかな?
「なるほど……将来ヒーローになったとき、守るべき対象は当然殆どがヒーロー科ではない方々だ。そういった方と交流する際のトラブルを避ける意味でも、麗日君の案は理にかなっていると言えるな。ふーむ……」
なんというか、感心しきりで交換する気配が無い。顎に手を当てて考え事をしている。……もしかして、僕が考察しているときって外から見るとこんな感じなのか?……ああ、これは確かに苦言を呈される光景だなあ。飯田君が悪いわけじゃないけれど、僕もちょっと反省しないと。
……それで、結局僕はどうやって暁美さんと友達登録するか考えてみたけれど、僕じゃ全然いい感じの声の掛け方が思いつかない。とりあえず、僕から麗日さんにお願いすれば連絡がつく状態にはなっているけど、麗日さんにお願いしたら「デク君、なんであの時連絡先交換しなかったん?」って絶対思われるよなあ。
…………考えても仕方ない。たかだか連絡先を聞くだけじゃないか、僕!いつまでもこんなくよくよしてちゃだめだ。オールマイトみたいなヒーローになるためにも、ここは勇気を出すぞ!
僕は、恐る恐る横にいる暁美さんを見た。ええと、今は目線的に鹿目さんを見ているっぽい。よし、行くぞ!
「あ、あ、あああの、暁美さん……」
「何?」
ジリリリリリリ!!!!!
突如、大音量の警報が鳴り響いた。な、何事だ!?
「セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さまは、速やかに屋外に避難してください。」
セ、セキュリティ3!?なんだそれ!?
「巴先輩、セキュリティ3ってなんですか?」
「えーと、私も詳しくは知らないのだけど、確か校舎内に誰か侵入した、って感じだったかしら?早く避難した方がよさそうね。」
「一体何なのよ……まどか、早くいきましょう。こっちよ。」
「う、うん。じゃあみんな、またね!」
そう言って、暁美さんたちは行ってしまった。……え、ちょっと、そっちは避難経路じゃないよ!?
「ちょ、ちょっと!?そっちは避難経路じゃうわあ!?」
その直後、大量の人波が押し寄せてきて、僕たちは暁美さんたち4人とはぐれてしまった。
結局、今日のうちにあの4人と再会することは無かった。あの後、飯田君が非常口の代わりになったり、飯田君が委員長になったりいろいろあった。喜ばしいことだけれど、暁美さんと連絡先を交換できず終いだったのは残念だったなあ……。
◇
先生から、あの警報騒ぎは、マスコミが侵入してきたのが原因だと知らされた。
雄英は注目度が高いがために、ああいうろくでも無い連中が入り込んでくることもあるのだろうか。なんとも嫌な話だ。時間停止してちょっと正門辺りの様子を見たけれど、なんと正門のセキュリティシステムが個性か何かで壊されていた。まごうこと無き器物損壊、そして不法侵入だ。幸い、というか当然そうあってほしいものだが、直後に警察が到着して事情聴取のようなことが始まっていた。おそらく、警察から今後は雄英の敷地に入らないようにマスコミに指導か何かが入る……と、信じたい。というより、やってくれないとここにわざわざ来た意味がかなり消えてしまう。
ちなみに、その混乱に乗じてか、校舎内に悪意のようなものを感じ取った。幸いにもすぐに消えたので、おそらくヒーローの先生が追っ払ったか捕まえたのだろう。まあ、国内最高峰のセキュリティが破られることなど早々ないということか。……どうして侵入を許してしまったのか問い詰めたい気分になるけれど。
「……というわけで、皆さんの冷静かつ迅速な避難のお陰で、大きな問題もなく事態を収束させられました。一人の雄英教員として、皆さんにお礼を言わせていただきます。どうもありがとう。雄英としては今後、なぜ侵入を許してしまったのか、原因を徹底して追及する、とのことです。では、休み時間にします。次の授業の準備をしてください。」
となった。まあ、特別私からこの件に関してどうこうする気もないので、次の授業の準備を……
……ああ、そうだ。心操君に昨日の件を謝っておかないと。
私は背を向けている心操君に歩いて行き、声をかけた。
「心操人使。」
「うわっ!?あ、暁美さん!?驚かすなよ……」
「驚かしたつもりは無いわ。昨日の件を謝りに来たの。」
「へ?」
……心操君は奇妙なものを見る目で私を見ているが、私は何か変なことを言っているのだろうか?コミュニケーション能力の問題が指摘された以上、あまり自信をもって「していない」って言えない。
「昨日、わざわざ個性を使ってくれと頼んだにもかかわらず、お礼も言わずに別れてしまったわね。無礼だったわ。ごめんなさい。」
「え、あ、ああ。まあいいよ……」
「ありがとう。それじゃあね。」
用が済んだので、私は席に戻ろうとした。
「な、なあ……ちょっといいか?」
帰ろうとしたところで、心操君に声をかけられた。
「どうしたのかしら?」
「俺の……個性、『洗脳』についてなんだけど、その、どう思う、あいや、どう思ってる?」
……質問が漠然としすぎていて、なんとも答えられない。個性がどうかしたのだろうか。
「何が言いたいのか分からないわ。」
「……その、あの時は美樹さやかさんにかけたけど、暁美さんはもし勉強に集中したいってなったら、俺にあの時みたいに『洗脳』をかけて欲しいって思うのか?」
「お願いするときもあるかもしれないわね。」
「本当か?」
心操君が信じられないような声を出した。……本当にどうしたのだろうか?
「その、俺に洗脳で何か悪いことをされるかもって、怖くならないのか……?」
……先ほどから本当に何の話をしたいのかよく分からない。洗脳の個性がそんなに恐ろしいものだろうか。把握している限り、危険度に限って言えば他の攻撃的な個性とそう大差ないように思える。
…………まさか、私が把握している以上に個性が強力なのか?
「あなたの個性、エピソード記憶の操作や改変が可能なのかしら?」
「は?いや、そんなこと出来ねえよ。」
「特定の行動に特定の感情を惹起させるようにできる?例えば、自分にお金を払う行為に強烈な快感を植え付ける、とか。」
「俺の個性は、内心までは操れない。行動を操るだけだ。そこまで万能じゃない。」
「認識の改変は可能なのかしら?相手を別人と認識させることで、普段その人が喋らないことを聞き出すとか」
「無理だって。ど、どうしたんだよさっきから。発想が
さっきから聞いていれば……別にそこまで強力でも無いように思えてくる。
「なら怖くないわ。大して悪いことにも使えなさそうね。」
「な、何言ってんだ!?『洗脳』だぞ?悪いことし放題だ。他人が持っているのを見たら、俺だって真っ先に悪用を思いつく。」
「どう悪用するつもりなの?」
「え?例えば、他人を操って何かを盗ませるとか……俺に足がつかないようにさ。」
「それで真っ先に疑われるのはあなたよ。記憶や行動の不整合にはどうやっても気づかれてしまうわ。そしてそれができるのは唯一無二の個性を持っているあなた。『洗脳』のような個性はそうそうあるものじゃないって聞いているわ。それとも、あなたは自分と似たような個性持ちと会ったことがあるのかしら?」
「……無いけど。」
「なら、やっぱりあなたは真っ先に犯人候補になるわね。まあ、この先の人生を捨てるつもりでやる気なら話は変わって来るけれど。」
自分で言っていて思ったのだが、彼の個性は使わないでいるとかなり損をしてしまう個性だ。
心操君のような稀有な個性は、おそらく警察などで要注意個性持ちの人物としてリストアップされていることだろう。そしてその洗脳の性質も。この条件下で、彼の存在を知ってる
『突然頭がボーっとしだしたかと思うと、体が勝手に悪いことをし始めたんだ。元々したくてしたわけじゃない!』
そうなると、心操君のことを知っている警察としては彼を調べざるを得ないだろう。おそらく雄英に来ていることから素行は良いはずだ。だからそれで無条件に犯人扱いには流石にならないだろうけれど、それでも毎度毎度疑われるのはとても疲れる話だ。
勿論『洗脳』個性は、昨日のように使い方次第ではいい結果を生み出すので、決して負の面しかない個性じゃない。ただそういう風に使わない限りは、記憶や行動におかしなことがあったときは真っ先に悪行を疑われるという、なかなかに損な個性だと言える。
……という感じの話を、ざっくりと心操君にした。
「……と考えているわ。」
「…………は、初めてそんなこと言われたよ……」
自分の個性のことだから、私より自分の方が詳しいと思うのだけれど。何をそんなに物珍しそうな顔をしているのだろうか。本当に今までそう考えたことが無かったのか?
「そのな、さっき、美樹さんに昨日洗脳されて嫌じゃなかったかって聞いたんだ。そしたら、『え、いや別に?というかあれがないと成績ヤバいの!これからもお願いしていいかな?』って本当になんでもないように言われてさ。人に個性を頼られたのなんて初めてでさ。本当にびっくりしたんだ。中学までは、特に女子にはこの個性露骨に嫌がられたし……」
「そうなの?まあ、治安の良い所に来れてよかったわね。」
随分と偏見のひどい環境にいたようだ。他にも危険な個性なんて沢山あるだろうに。ご愁傷さまとでも言っておけばいいだろうか。
「というか、洗脳で複雑な命令が出来たの、あれが初めてなんだ。今まであんなこと出来たことなんて無いんだ。その、どうして美樹さんにだけ出来たか知らないか?昨日帰った後、親に協力してもらって似たようなことをやってみたんだけど、うまくいかなかった。」
「わからないわ。あなたの個性だもの。それに、私よりもその個性に詳しい人なんて沢山いると思うのだけれど。個人差とか、鍛えればできるようになるとかではなくて?」
……どうして私に聞くのだろうか。自分の個性なのに。そんなことを聞かれても、一般論的なことしか言えない。まるで今までほとんどその個性に関して調べてこなかったかのようだ。……表向き、個性の使用は原則禁止だし、案外そういうものなのか?まあそうだとしても、そういう話は私ではなくて、学校の先生とか個性の研究者とかに聞くべきだと思う。
さて、そろそろ授業が始まる。話は終わりにさせてもらおう。
「なあ、最後に聞きたいんだけどさ。」
「何かしら?もうすぐ授業が始まるから手短にして欲しいわ。」
「俺の個性で、ヒーローになれると思うか?」
……それは、おそらく私が答えるべき質問ではないと思う。今の私は、ヒーローがうっすら嫌いだ。でも、ここでヒーローの悪口を言うのは不正解ということは流石に私でも分かる。答えないという選択肢もあるけれど、これを聞く彼の目がかなり真剣だったので、それらしく答えておくことにした。
「出来るんじゃないかしら。とりあえずその個性のことをもっとちゃんと調べておくことね。」
そう言った直後、チャイムが鳴ったので、私は彼に背を向けて席に座った。まあ、彼は雄英のヒーロー科に落ちてしまったけれど、大学のヒーロー科でも目指して頑張ればいいのではと思う。
次回予告!
やめて!
お願い、負けないでヒーロー達!
あんた達が今ここで失態をさらしたら、ほむらの安心はどうなっちゃうの?
ほむらの雄英への信用はまだ残ってる。ここを耐えれば、ほむほむはおとなしくしているんだから!
次回「雄英ヒーローへの信頼死す」デュエルスタンバイ!
・ほむら
一応コミュ力改善の意思はある。ただしまどか達以外とのコミュが楽しいと思ってやっているわけではない。
・驚かすなよ
顔とスタイルが良い上に話し方が独特なので、強烈に印象に残っている人物となっている。