宇宙開拓する工場長をしていたので遅くなりました。
美樹さやかの能力に関する独自設定があります。
私は、特に代わり映えしない授業を受けていた。
今日の朝は、魔法少女仲間以外の女子と話した。話の内容は大したものではなく、最初は向こうから話しかけられた。おずおずと私の方に寄ってきて
「……えーと、暁美さん。」
「何かしら。」
「鹿目さんから聞いたんだけど、暁美さんってお菓子作りができるって本当?」
「ええ、少しはね。」
確か、まどかやマミさんの趣味に付き合っていくうちに自然と身に着いた。実際それなりに好きなことだと思う。
「へー……すごいわね。何が作れるの?」
「え?……色々作ったけれど、例えばホールケーキは作ったことがあるわね。」
「えっ、ホールケーキ!?すご!店で売ってるようなアレ!?」
「……私の先輩に、お菓子作りが大好きな人がいるの。その人に教わったのよ。」
「いいな~そういうの!私一回やってみたんだけどマジで全然ダメダメで、本当にべちゃべちゃの失敗作が出来ちゃって……」
「まあ、私もその人の手伝いが無かったら難しかったわね。」
「じゃあさ、今度の休日に暁美さん達に教わっても良い?ああいうの作ってみたかったの!ここに入る前はずっと試験対策漬けで全然そういうの」
……みたいな感じだった。私が答えようとしたところで授業が始まったので、これで会話は終わりだったけれど、後でまどかからテレパスで
(ほむらちゃん、今のお話楽しかった?私から見ると、ほむらちゃんいつもよりいい感じにお話ししていたよ!後でその人たちと一緒にやってみようね!)
と言われたので、多分『良い会話』だったのだと思う。楽しいか、と言われると、少なくとも嫌ではなかった。まどかやさやかは、いつも私が楽しくおしゃべりできているかを気にかけている。もしかしたら、こういうことを続けていればそのうち楽しく感じられるのかもしれない……と思った。私としても、会話が楽しいと感じられるなら、それに越したことは無い。
そんなことがありつつ、今日も私は義務的に授業を受けている訳だけれど、気になることがある。
遠くの方から、悪意を感じるのだ。
校舎の中からじゃない。広大な敷地を持つ雄英には、ヒーロー科のための施設が過剰と思えるほど存在する。そういうところには、普段は私たち普通科は立ち入らない。ただ、そういった訓練施設があると認識しているだけだ。
それで、その施設がある方向から、悪意を感じられる。昨日、校内で感じられたものと同質だった。
(……ねえ、なんかあっちの方から嫌な感じがしない?)
まどかも感じ取ったようだ。
(私も感じているわ。まったく、
(……先生たちに教えなくていいのかな?)
(必要ないわ。どうやって感じ取れたか問い詰められるし、そもそもしばらくすれば多分先生たちが何とかしてくれるでしょう。位置的に遠いのは、まどかもわかるでしょう?不要なリスクを冒す必要はないわ。)
(う、うん、わかるよ。大丈夫だといいんだけれど……)
そう言って、会話は終わった。まあどうせ、学校のヒーローの先生がすぐ何とかするだろう。
……
…………
……………………
消えない。
30分ほど経過したが、悪意の感覚が消えない。
一体どうなっているんだ。まさか、侵入したことを検知できていないのか?考えてみれば、あの警報が今回鳴らないのも妙だ。隠密行動ができる個性持ちでも侵入してきたのか?
私が時間停止をして、ちょっと様子を見てこようかと考え始めた矢先。突然、教室のドアが開かれ、廊下にいる警備員?の人が授業中の先生を呼びつけた。
しばらくすると、慌てた様子でその先生が言った。
「しばらく自習の時間とします!皆さん、この教室でおとなしくしていてくださいね!」
と言って、ポケットからスマホを取り出し何か話し始めた。声的にかなり緊張しているようだ。クラスの皆も異常事態だと認識したのか、不安そうに先生を見つめたりスマホで何かメッセージを確認し始めた。
私はそれを見て、決断した。
「先生、ちょっとトイレに行ってきても良いですか?」
「え?あ……すいません、付いて行ってあげてください。」
(ほむらちゃん?)
(ちょっと、様子を見てくるわ。)
(うん……気を付けてね。)
不安そうなまどかを置いて、トイレのフリをして教室の外へ出る。廊下にいた人にトイレの入り口まで付き添われて、私は個室に入る。そして時間を止め、個室のドアを超え、外に向かって飛び出した。魔力を使って、時間を無駄にしないよう全力で兎のように跳ねていく。
どう考えても緊急事態だ。特に、警報が鳴らなかったのがおかしい。前のマスコミの時に、正門付近まで入られただけであの鳴りようだったのだ。もしあの悪意を持つ
どういう理屈で警報が鳴るのか詳しく知らないが、少なくとも私達の学生証がセキュリティカード代わりだということは知らされていて、それをいつもスキャンさせるようなことは生徒にさせない。つまり、権限を持たない人が勝手に校内に入ったらその時点で検知される仕組みのはずなのだ。それが働いていないということは……まさか、わざわざ個性を使って無効化したのだろうか?もしそうだとしたら、テロのような計画性、危険性をもつ
悪意を感じる場所が近づいてきた。反応があるのは……見たところ大きな体育館のような、ドーム状の設備だった。正式名称は知らないけれど、多分ヒーロー科のための訓練施設だと思う。周囲にはヒーローの先生らしき人が集まっていたから、場所は間違いない。……しかも、屋根に穴が空いている。内から穿たれたような破損具合だった。元々あったものなのかもしれないが、ますます嫌な予感がする。
正面のドアが開いていたので、ピクリとも動かない彼らの横を通り、私は中へ堂々と入る。
そして、最近私が感じていた楽しい学生気分は消え去り、あの繰り返す時間の戦いの感覚が戻ってきた。
入り口付近には、ヒーローの先生達と、ヒーロー科の生徒らしき人が何人かいた。そしてその中で、明らかに大人の男の人が一人、おそらく生徒に介抱されながら血まみれで横になっていた。息があるのかは分からないが、少なくとも重症であり、目と腕がボロボロになっていた。もう一人、宇宙服のようなものを着た人もいて、その人も個性か何かで服と背中が傷ついていた。個性か何かで、ドーム内の中央部に向けて、指を向けて個性で吸い込み?のようなことをしていた。
ドーム状の建物の中では、明らかに戦いが繰り広げられたであろう痕跡があった。周囲には倒れている人がたくさんいて、中央部では特に激しい戦いがあったのか、地盤が叩き割られたようになっている。そこにもヒーロー科らしき人がいて、あの緑谷君が倒れていた。後でまどかから聞いた話によると、彼の個性は『超パワー』で、彼自身にも制御できないほどの力を発揮し、そして身の丈に合わない力を出すと逆に負傷してしまうらしい。おそらくそれであろう傷跡が、今の彼の腕と足にあった。
つまり、この場は戦場となっていたのだ。安心して訓練なんてしている場合じゃなかった、そんな場所。私が雄英に進学することに賛成したのは、こんなことは絶対起こりえないと思っていたからなのに。
そしてその中心部に、あのオールマイトもいた。力強く立っているが、かなり傷跡が目立つ。何故か彼から湯気のようなものが発生していた。そして彼の目線の先には……黒い靄のようなものがあった。それが、私の感じる悪意の源だった。何かは分からないけれど、立ち位置的に考えて敵対的な何かなのだと思う。落ちていた棒でつついてみたがすり抜けた。物理攻撃は効かないらしい。
ロクに生徒を守れていなかったであろう先生たちを蹴っ飛ばしたい気持ちを抑え、状況を把握するために、私は物陰に隠れ、時間を動かす。
途端に周囲の人々の一部は動き出す。倒れ伏した人たちは殆どがそのまま動かない。黒い靄はそのまま消え、私の感じる悪意もそれに伴って消失した。緑谷君は相変わらず倒れたままだけど、ピクピク動いているので生きているようだ。
そして、オールマイトと緑谷君が何か話し始めた。魔力で聴覚を強化して、聞き耳を立ててみる。
「何も……出来なかった!」
「そんなことはないさ。あの一瞬が無ければ、私はやられていた。また、助けられちゃったな。」
「オールマイト……無事で、よかったです!」
……察するに、オールマイトが「助けられた」と表現するほどに激しい戦いがあったらしい。結果はともかく、流石に先生たちはちゃんと生徒を守ろうとしていたらしい。
けれどそれは、襲撃者の危険性を裏付ける事実でもあった。
「なんてこった……」
「これだけ派手に侵入されて逃げられちゃうなんて。」
「完全に虚を突かれたね。それより今は、生徒らの安否さ。」
入り口付近にいたヒーローの先生たちがそう話した。雄英高校のセキュリティシステムを上回られたのは確実だと分かった。今後は、校舎内も安心できないということなのか。
改めて見まわしてみると、倒れている人に私の同年代は殆どいないように見受けられた。この世界では異形型の存在があるのであまり見た目での判断はアテにできないが、少なくとも異形型以外に関してはそうだった。つまり、彼らはここに襲撃をかけた
オールマイトが来ているのに、なぜか緑谷君や入り口にいた人は怪我をしていて、そして主犯を取り逃がしている。彼やヒーローがこれだけいるのに、そこらのチンピラにここまで手ひどくやられるなんて考えづらい。オールマイト相手にそこまでできる相手だったということなのか。
……じゃあ、私達魔法少女が本気で相手をしても、倒せるかどうかわからない、むしろおそらく負けるであろう相手ということなのか。時間停止を持つ私でも、オールマイト相手に戦えるかと言われると、正直自信がない。
「緑谷ー!大丈夫か―!?」
「あ……切島君。……あ、か、き、切島君待って!」
赤い髪の男の子が緑谷に寄ってきた。……が、なぜか緑谷君がオールマイトを横目で見ながら焦り出す。
すると、彼と切島君と呼ばれた男の子との間に突如壁がせりあがった。
「生徒の安否を確認したいから、ゲート前に集まってくれ。怪我人の方はこちらで対処するよ。」
「そりゃそうだ。ラジャっす!」
声の出元を見ると、何というか、頭が豆腐みたいな服を着ている人がいた。この人が今の壁を作ったらしい。彼が特に警戒しないことから、この人もヒーローなのだろう。
……しかし、どうしてわざわざ壁を作るような真似を?立ち位置的に、オールマイトと緑谷君を彼の視界に入れさせないようにしたいようにしか見えなかった。
好奇心半分、嫌な予感半分で、再び時間を止め、壁の裏側を覗いた。
そこには、前に海岸で会ったときにいた、金髪のやせ型の人がいた。微妙に筋肉が残っていて、オールマイトの面影が見て取れた。
つまり結局、この人はオールマイトだったのだ。まあ、それはいい。あの筋骨隆々の姿は個性か何かなのだろうし、多分緑谷君はオールマイトの親戚(見た目的に実の息子には流石に見えないけれど)か、弟子のような存在なのかもしれない。私に、私たちにとって重要な事実は、世界最強のヒーローオールマイトが手こずった相手が、私たちの通う学校をロックオンしたということだ。
「はぁ……ありがとう、助かったよ。セメントス。」
「俺も、あなたのファンなので。このまま姿を隠しつつ、保健室へ行きましょう。しかしまあ、毎度無茶しますねえ。」
「無茶をしなければやられていた。それほどに強敵だった……あの脳無とやら、複数個性を持っていた。オール・フォー・ワン、やはり生きていたか……!」
「オールマイト……そのオール・フォー・ワンって……?」
「折を見て、ちゃんと話すよ。大きい声で言える話じゃないからね。今は、一緒に保健室へ向かおう、緑谷少年。」
……オールマイトは、その「オール・フォー・ワン」というのが黒幕だと思っているのだろうか?話しぶり的に、並々ならない因縁を持っているように感じられた。なら、放っておけば、彼らを討伐するためにオールマイトをはじめとしたヒーローのチームがそいつをそのうち……
…………
いや、私は何を甘く考えているんだ。
話からして、「オール・フォー・ワン」がここに来たわけではなさそうだ。そいつは、世界最強のヒーロー、オールマイトが手こずる程の手下を差し向けてきた、というのは状況からして確実だ。狙ったのはヒーロー科なのかもしれないが、そのヒーロー科が同じ学校にいる以上は私たちが標的になる可能性もある。
……それ以前に、そもそもオールマイトを殺せる可能性のある存在がこの世にいるという時点で、もう看過できない。雄英高校の中で完結する話ですらない。そんな連中が、ヒーロー科をわざわざセキュリティ対策までして襲撃してきた連中が、今後どうしたいかなんて大体わかる。オールマイトを殺し、日本を混乱に陥れるのだろう。
せっかく魔女がいなくなって、世界的に見ても特に治安の良い日本で平和に暮らせると思っていたのに、こんなのがいたんじゃ、まどかが安心して暮らせない。
そんな状況下、ヒーローに任せる?たった今、彼らにはそれができないことが証明されたのだ。横たわっている緑谷をはじめとした人たちがその証拠。法律違反だから、一般人が
もう二度と、あんな悲劇は起こさせない。絶対に。
襲撃した連中は、私が全員始末する。
◇
私の部屋は、魔法で常にディスプレイを浮かせている。ワルプルギスの夜の出現場所の調査や、ループ中の人々や魔女の行動、そして時には誰かを招いて作戦などを説明するためのものだ。久しぶりに使うそれらは、魔女に関する古文書や絵画などではなく、警察署内から盗ってきたデータや、雄英の職員室に忍び込んで撮影してきたものが含まれている。
私はまどか、さやか、マミを家に呼び出し、用意した資料を宙に浮かせて、USJ事件と呼ばれるようになった件の事件の調査結果の説明を始めた。3人の顔は、説明が進むにつれて曇っていった。危険な集団が自分たちの通う高校を襲ったとなれば、当然の反応だろう。
「……というわけで、これが私が警察と職員室の資料を漁った結果よ。」
「いや、何堂々と犯罪告白してるの!?」
……そこを気にするの?もっと大きな問題があるというのに。魔法少女なのに何を今更。
私はこのはっきりいってどうでもいい突っ込みを無視して話を進めた。
「USJを襲撃したのは、まず主犯が死柄木と呼ばれる男。まともな性格ではなかったようで、言動的に子供の癇癪のようなことを繰り返したようね。オールマイトがラスボスだのなんだの。次に、黒霧と呼ばれた男。個性が『ワープ』で、これのせいで侵入を許したようね。個性なのか何なのか、物理攻撃が効かない体をしていたみたい。実際に私も確かめたわ。それで、一番危険だったのが脳無と呼ばれていた男。……男というのもおかしいかもしれないわね。これがその風貌よ。」
私はディスプレイの一つを前に持ってきて、警察署の中の資料をスマホで撮影したものを投影した。脳がむき出しで、目の焦点が合っていない。異形型にしてもあまりに正気が感じられない風貌だった。
「うわっ、なにこれ……魔女に匹敵するグロさかも。」
「警察の資料を見た感じだと、全身薬物か何かでいじくりまわされているうえに、個性を複数持っているらしいわ。平たく言えば、改造人間……みたいな感じかしら。そして、こいつがオールマイト並のパワーと、さやかみたいな再生能力をもってオールマイトを追い詰めたらしいわ。」
「ちょっと、私をこんなのと一緒にしないでよ!」
「一緒にしていないわ。後は、まあ有象無象のチンピラがぞろぞろいたらしいわ。ヒーロー科の生徒が大体返り討ちにしたみたいだけれど。」
私はそこまで説明して、一旦3人の顔を見る。皆戸惑った顔をしていた。
そして、最初にマミさんが口を開く。
「えっと……つまり、オールマイトという日本社会の中核となっている人を殺し得る犯罪者がいて、それが私たちの学校の生徒を狙ったってことなの……?」
「その通りよ。事の重大さを理解してくれたかしら。」
「え……そ、そんな……。」
まどかが不安そうに声を上げる。なんとなく申し訳ない気分になった。
「はぁー……なんでこの世界でも私達こんな目に合うのよ……まあ直接的に狙われたわけじゃないのが救いかな……。」
「そうも言ってられないわ。雄英のヒーロー科を狙ったってことは、その周囲も安全とは限らないわ。例えば、普通科の生徒を人質にとって、雄英のヒーローを脅す、なんてことも考えられる。」
「あー……なるほどね。なんか普通にあり得そう。」
「……み、みんなで一緒に別の高校に転校とか、できないかな?」
転校か。可能ならばしたいところだけれど、まどかやさやかは家族がいて難しいだろうし、そもそも危険な犯罪者がいるという現実は変わらないから、問題の先延ばしに近い気がする。
「……まどかのパパとママにどうやって説明するの?流石に今の私たちが親元を離れるのは、それはそれで難しいような……」
「私も、転校はちょっと難しいわね……」
「……マミさん?」
マミさんは一人暮らしのはずだ。転校を渋るのは意外だった。
「その、お金がね……。」
「えーと、引っ越しのお金?」
「そうなの。ちょっと、大きな出費は避けたくて」
「……そういえば、マミさんってどうやってお金稼いでいるんですか?」
私もそれは不思議だった。雄英の学費とか、普段の生活費とか、どうやって稼いでいるんだろう。
「お金は稼いでいないの。」
「え?」
「ええと、親の保険金よ。」
「うわ、生々しいやつ。」
「な、生々しいって何よ!?」
「え?だって保険金って言ったら必ず刑事ドラマのネタっていうか……」
「そんな物騒なものじゃありません。」
マミさんはたしなめるようにそう言った。
「まあ、私はそれがあったからこの年までそれを使っていて、なぎさの学費もそこから出していたの。……でも、その、適当に使っていたら、私の見通しが甘くて、高校卒業後に残るお金、結構カツカツなのよ。」
「あー……」
「まあ、無駄使いしなければちゃんと暮らしていける程度にはあるのだけれど、引っ越しなんて大きな出費はちょっと遠慮したいわね。」
「……そういえば、大学に進学するなんて感じの話、マミさんから聞きませんね。」
「学費が払えないから、もう行かないことにしているわ。『リボン』が生かせそうな仕事に就ける資格をいい感じに取得して、それで就職できればいいかなって思っているわ。大学に行って高収入を狙うとか、そういうのは私は興味ないわ。……なぎさの将来がちょっと心配だけれどね。」
そこで、会話は途切れた。3人ともマミさんを気遣うような表情をしているが、お金の問題は流石に私達でも解決できない。マミさんは魔法が使えるから、ところどころ普通の人よりは出費が少なくて済む場面はある。例えば、マミさんのマンションは魔法で拡張されていろいろとかわいらしく飾り付けられている。普通なら何十万もしそうなクオリティなのだけれど、魔法なのでかかった費用はゼロ。……でも、税金や学費は必ず払わないといけない。どうしても払わなければならないお金というものはあるのだ。覚悟を決めて魔法でニセ札を作るという手もあるかもしれないけれど、この個性社会、どんなルートでそういう悪いことが発見されるか分かったものじゃない。……偽札を作ること自体に多少なりとも気が咎めた私は、まだなんとか現代社会の一員として暮らせているのだな、とふと思った。
そしてしばらく、無力感がみんなの頭を巡ったと判断した私は、本命の提案をする。
「……でも、引っ越しなんてせずに、私たちがまた安全に暮らせるようになる方法があるわ。」
「それって……?」
「奴らの大元を私たちが叩くことよ。」
私がそう言うと、皆は驚き半分、戸惑い半分の表情になった。
「えーっと、暁美さん、つまりUSJ襲撃事件の主犯の、確か死柄木、だったかしら。彼を殺すと……?」
「それはあくまで副目標。本命は、オール・フォー・ワンと呼ばれる男よ。」
私は、再び調べ上げた『オール・フォー・ワン』の情報をディスプレイの一つに持ってくる。顔情報は無いが、おおよその概要が文字として浮かんだ。
「もともとコイツの名前は、現地にいたオールマイトが口走っていたの。コイツの情報は、ネットで噂話として広まっていたわ。まあ、単なる噂だと私は今まで気にもしなかったけれど。オールマイトが口走ったことから実在の存在として考えてよさそうね。」
「あー、なんか私も聞いたことあるよそれ。でも噂にしてはよく見るなあって思ってた。」
「それで、彼の個性『オール・フォー・ワン』は、他者の個性を奪い、自分のものにでき、さらには与えることのできる個性。その個性で、強力な個性を自分のものにして好き放題やっていたらしいわね、」
「うわぁ……聞くからに厄介そうねぇ。」
「そうよ。あの脳無というのも、複数の個性を持っていたっていう話。つまりその『オール・フォー・ワン』が関わっているとしか考えられないわ。」
「……えーと、この世界で、個性の付与ってできないってことになってんの?オールマイトみたいな無茶苦茶なのがいるのに?」
「それがそうみたいなのよ、美樹さん。個性って、本当に色々なことができるのに、個性自体を与えたり消したりは難しいみたい。変な話よねえ。」
私もそう思う。なぜ魔法のように色々なことができるのに、個性を消したり与えたりはできないんだろうか。調べた限り、そういうのは夢物語扱いされていた。
「……ともかく、コイツは普通はできない個性の収奪、付与ができる。そして過去には、本当に悪の帝王として君臨していたらしいわ。危険性は分かってくれたかしら?」
「それは分かったけれど……その、なんで私達で『オール・フォー・ワン』を倒すって話になるの?オールマイトも知っているみたいだし、彼に任せておけばいいじゃない。そもそもどうやって見つけるのよ?警察だって把握していないんでしょう?」
「そうね。確かに探しているけれど、だからって私たちが動かない理由は無いわ。一つ当てがあるとしたら、ソウルジェムの持つ悪意を検知する機能よ。」
「ああ、前は魔女を見つけ出すのに使っていたやつね。……でもそれが何の関係があるの?ほむら。」
「前に、杏子が戦った謎の男の話を覚えているかしら?」
「ん?あー、なんか強いらしい奴……え、まさかそいつが?」
「あくまで話を聞く限りだけれど、攻撃方法が多彩なことに加え、言動がネチネチしていて、ヒーローと敵対していて、そしてその場にいたトップヒーローと互角以上にやりあっていた。可能性は高いとみているわ。佐倉杏子に接触したのは、身の上的にヒーローと敵対していると思われたからかもしれないわね。それで、杏子の話、覚えてる?」
「ワルプルギスの夜並にヤバい感じがしたって言っていたわよね。ソウルジェムの悪意感知がものすごい反応したって。……まあ、確かにそれで判別はできるかもしれないけれど、どこにいるのか分からないんじゃどうしようも……」
「いいえ、見つけるのよ。」
「……え?」
「時間停止を使うわ。」
「使うって、使い方がありすぎるんだけど……」
私は、警察署の中で盗み撮った資料の一つを表示させる。日本地図のいたるところに赤い点がつけられた地図で、総数は100以上ある。
「これは、警察がリストアップしている
「……あ、暁美さん。これ全部当たる気なの!?北海道から沖縄まで、全国満遍なくあるわよ!?」
「勿論よ。そのために、さやか。あなたの力が必要よ。」
「うぇ、私?」
「睡眠不足状態って、いわゆる一種のダメージ状態よね。私が夜に動き回って、朝になったらあなたの魔法で回復してほしいの。平日の夜はこの近辺、つまり都市部を全力で当たって、休日は遠方へ出かけて怪しい所を当たっていくわ。魔力を使わせてしまうけれど、それに見合う成果が得られるよう頑張るわ。」
「え、まさか、一日中起きている気?何その超ブラック労働!?」
「誰かが死ぬかもしれないんだもの、労働条件なんて気にしている場合じゃないわ。私は今日は後で杏子にこの件を話して、明日から片っ端からやるわ。忙しくなるわね。その間、二人にはまどかのことをお願いね。」
「それは任されたけれど、その、ほむらは……」
「ね、ねえほむらちゃん。ヒーローに任せようよ。わざわざほむらちゃんがそんなことをする必要ないよ……」
私だって忙しいのは嬉しくないけれど、この世界で最強のオールマイトが負け得る相手なのだから、そうも言っていられない。ループ中の時のように、自由にできる時間は全て行動、調査に費やす。何も楽しくはないけれど、それで大切な友達の死が回避できるなら安いものだ。
「ダメよまどか。こういうのは先手先手で動かないとダメなの。私の経験上、何もしなかった時というのは大抵悪い結果になるのよ。私の時間停止なら、一方的に殺すことが可能なのよ。見つけさえすればね。」
「……い、いや、私達魔女と戦った経験はあるけれど、
「そもそも、そのオールマイトは衰えつつあるわ。」
「えっ……」
私は、USJ内で見たオールマイトの様子をおおよそ説明した。
ちなみにだが、あの後オールマイトを追跡してみたところ、保健室で休んでいた。そしてそこに、なぜか緑谷君も一緒に居た。弟子か何からしい。二人とも寝ていたので会話は聞けなかったけれど、どうせならこの2人の関係性も一応知っておきたいところだ。
それはともかく、重要なのは。
「……あの後、ちょっとオールマイト……ええと、普段は八木と名乗っている人のことを調べてみたけれど、どうも活動時間が徐々に減っているようなの。これがどういうことか、わかるかしら。」
「…………時間をかければかけるほど、『オール・フォー・ワン』に負ける可能性が上がっていく、ということね。」
「そうよ。活動時間の減少はもしかしたら寿命のようなもので、どうしようもないのかもしれないけれど、その前にこの巨悪は何とかする必要があるわ。……いや、そういえば。美樹さやか。」
「うん?」
「あなたの治癒の魔法で、オールマイトの活動時間を伸ばせたりしないかしら?」
元々恭介という他者の病の回復を願った魔法少女だ。似たようなことができないかと私は期待した。
「うーん……もしかしたらできるかもしれないけれど、ほら、私って魔法使う時に魔法陣みたいなのが出るじゃん?絶対バレると思うんだよね。」
そういえば、美樹さやかは傷を修復するときに、その部位に魔法陣のようなものが現れるのだった。魔法のような音も出ていた気がする。コッソリ使うのは難しいのかもしれない。
「……目立つのは確かにリスクね。消せないのかしら?」
「どうだろう……やってみたこと無いからなあ……。」
「一旦保留としておきましょうか。あなたの能力がバレたら厄介だものね。でも、頑張ればできそうなのなら、訓練してみて欲しいわ。」
治癒系の個性は、この世界では希少扱いなのだ。さやかの能力がバレたら、何が起こるか分かったものではない。
「まあ、わかったよ。私は一回くらい試してみても良いけどね。適当に言い訳できるでしょ、多分。」
「ダメよ、もっと慎重にしなさい。」
「はぁーい。」
……気のない返事だ。本当に大丈夫だろうか。
「……でも、暁美さん、あなたの時間停止もバレるリスクがあると思うのよ。相手はどんな個性を持っているのか分からないんでしょう?やっぱりわざわざ暁美さんがそんなことをする必要は無いと思うのよ。見つけたらコッソリ教えるくらいで良いんじゃないかしら。」
「そんな風に悠長に構えて、次は校内の誰かが殺されるかもしれないのよ?魔法少女だって、何かのはずみでソウルジェムが砕けたら死んでしまうわ。黒霧という
「そうだけど……今までそれをやってきて無いんだから、これからもやる気はないんじゃないかな……?」
「まどか。今までやってこなかったから、これからもやらないなんて保証は、どこにもないのよ。」
「ほむらちゃん……なんで、そこまで?それじゃ、ほむらちゃんの生活はどうなっちゃうの……?」
「ごめんなさいまどか。あなたには、私の考えていることは分からないわよね。」
そういうと、まどかは悲しそうな顔をしてしまった。……しまった、何か良くないことを言ってしまったらしい。けれど、自分がどうしてここまで必死なのかを理解してもらえないことは、なんとなく想像がついてしまう。
今ここにいるまどか、さやか、マミさんは、大切な仲間を失うということが、どれほど辛く、恐ろしいことなのかを知らないのだろう。仲間の死に初めて直面した彼女たちは、場合によってはふさぎ込み、または冷静さを失い、ソウルジェムを余計に濁らせ、場合によっては仲間同士で喧嘩に発展する。キュゥべえ相手に疑心暗鬼になるのならむしろ歓迎できたことだが、実際は仲間同士で信じあえずに戦いに発展してしまうことが多かった。
私は、怖い。誰か一人でも死んだら、連鎖してみんな死んでしまうのではないかと。もちろん、私のループ中の時とは状況が違うだろう。美樹さやかに恋の相手がいるわけではないし、マミさんはもう魔法少女の真実を知っているし、杏子は敵対関係じゃなくなった。でも、どうしても、あの頃の何度も何度も私の脳内に刻み込まれた悲劇がチラつく。
私の考えが、リスク・コストとリターンが見合わないように見えるのはわかる。けれど、明確な危険があってそれを排除できる手段があるのに、何もしないなんて、あり得ない。もしかしたら私がやったことがバレてしまうリスクはあるかもしれないけれど、まどかが死んでしまうなら犯罪者になった方が何万倍もマシ。……もう犯罪者だけれど。
だからせめて、排除できる危険は確実に排除する。プライベートがどうとか気にする余裕はない。学校にいる間はまどかと一緒に居るけれど、まどかと一緒に居ない時間は全部この件に費やすつもりだ。……考えてみたら、今までまどかが家に帰った後の安全については気にかけていなかった。マミさんやさやかに一緒に居てもらうようにお願いするべきか。
「ああ、そういえば。まどか、帰った後もマミさんやさやかと一緒にいてもらえるなら一緒に居た方が良いわ。」
「え?そ、それは、良いんだけれど、その、ほむらちゃんは……?このままじゃほむらちゃんだけ負担がすごいことになっちゃう……」
「私のことは良いのよ。そもそも私にしかできない仕事」
「わ、私ほむらちゃんにだけ頑張らせるなんて嫌だよ!」
まどかが珍しく大きな声を出した。それだけ私のことを大事にしてくれているということなのだろう。嬉しい。
……でも、その想いを無下にしてでも、やらなきゃいけないことなの、まどか。
「まどか、心配してくれてありがとう。でも、これは私がやらなきゃいけないことなの。」
「わ、私だってほむらちゃんが死んじゃったら嫌だよ!このままだったら、私危険なことを全部ほむらちゃんに押し付けちゃってる、そんなの私嫌だよ!」
「あなたにはその権利があるのよ。まどか、あなたがそう考えるのは理解できる。でも、私には過去に、あなたとの約束を守れなかったっていう、前科があるの。だから、私は少しでも償う為に、動かなくちゃいけない。」
「そんなこと言われてもわかんないよ!別の世界の私のことなんて……。今の事情をその私が知ってたら、気にしなくていいって絶対言うもん!」
あの時のまどかと、今のまどか、どちらが大事かは時々私も考える。でも、分からない。いつもいつも、今までの私は何もできなかった無能で、今の私はそれを取り戻さないといけない……という結論に行きついて終わってしまう。
「まどか……ごめんなさい。でも、そもそも適任は私で」
「あー、もうわかったわかった!私達も手伝うからさ、さっさと全部調べて終わらせよう!うん、そうしよう!」
私とまどかの言い合いを見ていたさやかが、諦めたようにそう言った。……まあ、本当に全箇所調べて何もないのだったら、打つ手が無くなるのは本当だ。……だからって大人しくしたくもない。危険があるのに何もしない自分を想像するだけで自分を殴りたくなる。
「さ、さやかちゃん……でも、このままじゃほむらちゃんが……」
「多分、何言っても止まらないよ、今のほむらは。」
「よく分かってるじゃない、美樹さやか。」
「アンタはもうちょっとまどかの気持ちを考えなさいな!確かにほむらにしかできないかもしれないけど、まどかがなんか可哀想じゃん!なんかほら、惨めになっちゃいそうだなとか思わないの?」
「それは……ごめんなさい。……でも……」
……確かに、まどかの立場だと何もできずに歯がゆい思いをする、のだと思う。それを想定できなかったのは、私の落ち度かもしれない。
「……危険な存在を見逃せないのは私達も同じ。だから、暁美さんの負担がなるべく軽くなるように、サポートは私達でできる限りする。これで良いでしょう?」
「……わかりました、マミさん。」
別に私はさやかに回復の件以外は手伝ってほしいとは思っていなかったけれど、マミさんが折衷案のようにそれを出した。2人は、仕方ないという風にそれに同意した。
私もそれに同意した。探せば、3人に手伝ってもらえる事もあるかもしれない。
そういうわけで、今日以降、私は3人にいくらか手伝ってもらいつつ、平日は近場の、休日は遠方の、警察などがマークしている
ちなみに、休日にクラスの女子とホールケーキを作る話は断った。そんなことをしている場合じゃない。
・「もう犯罪者だけれど」
ほむらの遵法意識はこんな感じ。
「え、勝手に個性を使うな、ですって?勝手に
……え、まどかが危険?法律なんか守ってる場合じゃないわ!」
・「オール・フォー・ワン、やはり生きていたか……!」
原作にはないセリフだが、佐倉杏子の戦いの件でAFOの生存疑い話はオールマイトに来ているので、バトル中に「複数個性だと……まさか、奴か!?」みたいな会話が発生している。ただしヒーローサイドのストーリーに大した影響は与えないだろう。
・美樹さやかの治癒魔法
原作では「自分の」治癒能力に優れた魔法少女という描写だけだった。けどそもそも他人の病気を治したいという願いで魔法少女になったから、やろうと思えば他人を回復させることをできるよね……?とりあえず本作ではそういう設定で行きます。多分病気とかの回復もできる……はず。