個性『魔法少女』   作:Assassss

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高評価、誤字報告、感想いつもありがとうございます。


長いから分けようかと思ってたけど、まあいいやで一本にします。(表示が重くなるとか読みにくいとかあったら言ってください。)

また、本作はほむほむは一人の時はラーメンとかのおっさん臭い(超偏見)メニューを食べてそうという解釈によって構成されます。


憧れ

最近、変装が得意になった。

 

夜に出歩く高校生なんてどう考えても警察に止められるから、なるべく大人っぽい格好をするようになった。例えば都心部だと、ネットで探したカジュアルスーツを中心に、OLっぽくハイヒールなどを履いたりしてみて歩いてみたら割と誤魔化せた。とりあえず、すれ違う人は夜にすれ違う私のことを怪しんだりはしていなかったように思う。まさかこんな場面でファッションに力を入れるようになるとは思わなかった。ある意味JKっぽい、かもしれない。

今日は月曜日。けれど、私は始発電車に乗ってここまで来た。土日は沖縄に行ってきて、怪しい場所を片っ端から回った。今後は季節的に暑くなってしまうから今のうちに、というかなり安直な理由だ。

一発で当たりを引くなんていう幸運がある訳もなく、今回は不発だった。行く前は、本当にバレずにやれるのかと不安もあったけれど、実際は意外と何とかなった。時間停止があることもあるが、そもそも私には意外と隠密行動のスキルが身についていたようだった。思い返してみれば、まどか達にバレないようにキュゥべえを始末するのが必須だったので、その過程で自然と身に着いた……と思う。魔法での補助もいろいろしているけれど、ひとまずそう簡単にはバレないだろう。ただ思っていたよりも交通費がかかったので、お金の方面での心配が出来てしまった。まだまだオール・フォー・ワンを倒すために考えるべきことはたくさんある。

 

「……ちゃん?ほむらちゃん?どうしたん?」

「え?あ、いえ、何でもないわ。」

 

……今、麗日さん、飯田君と、私達4人で一緒にまた食堂で昼食をとっていたけれど、この件で頭がいっぱいになってしまっていたせいで呼びかけに反応することを忘れてしまった。

 

「……大丈夫かい?疲れてないか?」

「いえ、多分疲れていないわ。」

 

さやかの回復魔法は実際に効果があり、掛けてもらった瞬間眠気が吹っ飛んだ。だから多分本当に大丈夫で、上の空になってしまったのは多分今考えるべきことが多いせい……だと思う。

……魔法少女の健康状態なんて私にも詳しいことは分からないけれど。

 

「あー……その……暁美さん、今その、なんていうか、プライベートの事情がこう、複雑で、ちょっと大変な時期なのよ。」

 

しかし、どうも私の疲労感が隠せていなかったのか、マミさんがフォローのようなことを言い出した。

 

「そうなん!?大丈夫……?」

「心配には及ばないわ。」

「詳しいことは言えないのだけれど、できれば暁美さんのことは労わってほしいわ。」

「うむ……プライベートを詮索するつもりはないが、ヒーローの基本は人助け。何か助けが欲しければ、すぐに僕達を頼ってくれたまえ。」

「ありがとう。」

「疲れ溜まってるなら野菜もっと食べないかんのちゃう?後で果物とか買ってあげよか?前もラーメン食べたよね、栄養のバランスは大事よ?」

 

確かに、なんとなくストレスが溜まったせいか勢いに任せて「ランチラッシュ特製!肉ドカ盛りまくり脂身マシマシラーメン!」なんていう女子が頼まなそうなものを食べていた。……魔法少女が栄養不足で病気になったりするのだろうか。正直よく分からない。……こういうのも、さやかの回復で何とか出来るんじゃ、とちょっと思ったけれど、本当にそれを実行してもらうのを想像するとなんとなく情けないような気分になった。「えー!?首が飛んでも平気な魔法少女がラーメン食べ過ぎで死ぬのー!?」なんて罵倒してくる様子が眼に浮かぶ。野菜食べなかったから病気になった魔法少女って、自分でも正直情けないと思う……。

 

それに加え、この麗日さんがどうも余計な気を回しているらしく、本気で心配そうな顔をしてしまっている。なんとなくいたたまれなくなった私は、無理矢理にでも話を変えることにした。

 

「そういえば、あなた達と一緒に居る緑谷君は、今日は一緒に居ないのかしら。」

「ああ、彼は先ほど、オールマイトに昼食に連れていかれたんだ。」

 

弟子だからそういう時もあるか、と特に感慨を抱かずに聞いていると。

 

「……あ、え、えー!?あのオールマイトに!?」

 

さやかがなぜか驚いたような返事をした。……彼女、オールマイトに対して特段興味なんてなかったはずだけれど。

 

(3人とも、なんかビックリ系のリアクションして!この世界でオールマイトって超有名人なんだから、元の世界だとテレビでゴールデンタイムのレギュラー張ってる芸能人に誘われたみたいな感じ!)

((あ、確かに!))

 

……なるほど、言われてみれば確かに。

 

「……あ、す、すごいわね緑谷君!まさかあのオールマイトに誘われるなんて!」

「そ、そうだね!さすが雄英のヒーロー科、あのオールマイトに気にかけてもらえるなんて!」

「……すごいですね。」

「ああ、驚くのも無理はない。確かなことは分からないが、彼はオールマイトに個人的に目を掛けられているようなんだ。」

 

飯田君がさもありなんという風に、私たちのリアクションに応えた。

 

「へー……そうなんですか。でもどうして緑谷君が?」

「それも分からないが……USJで、オールマイトが(ヴィラン)に襲われたとき、真っ先に飛び出したと聞いた。その関係もあるのかもしれないな。」

「USJ……あなた達、大丈夫だったのかしら?たくさんの(ヴィラン)に襲われたって聞いたけれど……」

「うわあ、それ聞かれるの多分10回目です、マミ先輩。」

 

USJ事件は、世間的にも大ニュース扱いだったので、直接その場に居合わせたA組の生徒はその話をたくさん訊かれるのだろう。

 

「あ、ごめんなさい。もし言いたくないなら……」

「い、いえそんなんじゃないです。ただ滅茶苦茶聞かれるなー……ってだけで。」

「無事……とは残念ながら言い切れませんね。相澤先生や13号先生、緑谷君は大けがを負ってしまったわけですし。」

 

この話の流れなら、彼女たちから自然にUSJを襲ってきた連中の話を聞けるのでは?と私は思い立った。

 

「私も興味があります、その話。」

「あ、ほむらちゃんが私たちの話にやっと興味持ってくれたね、私嬉しい!」

 

……いや、その反応は何?私、普通にしていたつもりだったのだけれど。

 

「……どうしたの?」

「いやー、ほむらちゃんあんま喋ってくれへんかったから、私たちに興味ないんかと思ったんよ。」

「あ、えーとね。ほむらちゃんは口数は少ないけれど、頭の中ではいろいろと考えているタイプなんだよ、お茶子ちゃん。」

「なるほど、そうだったんやね!」

 

満面の笑みでそう言われた。私に対しての印象がポジティブなのかネガティブなのか、分からない。

 

「いやどちらかというと、僕たちよりUSJ事件の方に興味を持っているように見えるが……」

「うわあ、飯田君水差す……」

「……ともかく、USJを襲撃してきた連中は、ただの(ヴィラン)じゃなかったんですか?」

 

私の評価が思っていたよりもネガティブ寄りだったのを聞くのが少し嫌になり、私は話を促した。

 

「ああ。まあ、大方の情報はニュースで流れている通りだ。いわゆるチンピラのような(ヴィラン)だったのだが……死柄木と呼ばれた男と、黒霧と呼ばれた男、そして脳無と呼ばれた……おそらく男の(ヴィラン)が強かった。特に脳無が非常に強力で、あのオールマイトと同等に殴り合えるほどに強かったんだ。黒霧もワープという強個性を持っていて、プロヒーローの先生方は苦戦させられていたよ。」

「脳無というのは、何か言っていましたか?」

「……そういえば、話しているところを見ていないな。僕と麗日君は途中から、助けを呼ぶためにUSJの中心部から離れたから、オールマイト先生の戦いはあまり見れていないんだ。……あ、轟君!」

 

突然飯田君が、人混みの中にいるであろう誰かに声をかけた。

 

「……なんだ?」

 

彼の目線の先の人ごみから、白と赤の髪が特徴的な男子が歩み寄ってきた。ざるそばを手に持っている。ヒーロー科のクラスメイトだろうか。……そういえば、USJの中に彼がいた気がする。

 

「君はUSJの時に、オールマイトの戦いを間近で見ていただろう?その時の脳無のことを彼女が聞きたいと言っていてな。」

「もういろんな人に何度も話した。今更大した情報なんてねえよ。」

「それも、そうだな……まあ、せっかくの機会だ。たまには一緒に昼食を食べないか?」

「まあ、別にいいけどよ……」

 

そうして、彼は飯田君の隣に座る。彼は私たちのことを訝しむ目で見た。おそらく何度もUSJのことは聞かれているので、またこの話かとうんざりしているのだろう。少し睨まれている、が完全拒否というほどでも無いようにも見える。多少は質問に答えてくれると思いたい。

 

「……飯田、こいつらは誰だ?」

「ああ、紹介しよう。彼女たちは普通科の人たちだ。」

「普通科?ヒーロー科の俺達と接点は普通無いって思ってたんだが……」

「いやー、ほらさ。私達将来人救けするのに、高校時代の友達がヒーロー科ばっかってバランスが悪いかなーって。」

「……バランスをとるべきもんなのか?それ。」

「だって、私たちが相手する対象って基本ヒーロー科じゃない人たちだよ?いわゆる普通の人で、でもヒーロー科のカリキュラムだと殆ど他科の友達作るタイミング無いからさ。この縁は大事にしたいんよ。」

「そういうもんか……?」

「あ、どうも。巴マミ、普通科の2年生よ。」

「美樹さやかです!よろしくね!」

「か、鹿目まどかです。よろしくね。」

「暁美ほむらです。」

「……轟焦凍だ。よろしく。」

 

轟君はそう言うと、興味なさげにそばを啜りだした。しかし、口に含んだものを呑む込むと、私に問いかける。

 

「……別にUSJのことを話すのは構わねーけどよ。ニュース以上のことなんて多分ねえぞ?俺はもう何度も警察の人に事件のことを話したんだ。聞くなら警察の人に聞いた方がいいぞ。」

 

ありがたいことに、隠すつもりはないらしい。少しでもオール・フォー・ワンに繋がる何かが聞ければいいのだけれど。

 

「脳無の個性を聞きたいのだけれど、教えてくれるかしら?」

「詳しいことは俺も知らねえ。緑谷から聞いた話だと、『ショック吸収』と『超再生』その他オールマイト並のパワーっていう、強力かつ複雑な個性を持ってた奴だった。まあ、奴らの親玉が強い個性を持った誰かを誘拐して、全身薬かなんかでいじくりまわしたんだろ。奴らもオールマイト専用とか言っていたからな、人体実験する外道連中ってことだ。……まあ、こんなのニュースで大体知ってるだろ?」

 

言い終えると、彼はまたそばを啜りだす。言いなれたことを話す口ぶりだった。この話を長く続けるつもりはないらしいが、特に何かを避けながら話している様子は感じられない。本当に出回っているニュース以上のことは知らないのだろう。

……とはいっても、その場に居合わせた彼だけが感じ取れたこともきっとあるはず。ここで引き出すべきは、彼は話す必要なんてないと感じているけれど、私にとっては知らないような情報だ。話を聞いた感じだと、親玉に「個性を付与することができる存在」がいることは思い至っていないようだった。まあ、私もオールマイトの発言が無ければ分からなかっただろう。彼にそれを加味させてあげれば、何か必要な情報を思い出すかもしれない。

 

私はさも自身が論理的思考でそれに思い至ったという風に、そんな存在があるという仮説を話し出す。

 

「知らなかったことが一つあるわ。『ショック吸収』と『超再生』って、(ヴィラン)は言っていたのかしら。」

「ん?ああ……確かにそう言ってたな。……それもニュースでやってる内容のはずだ。」

 

話すのを面倒くさがっている彼はそう付け加えた。私は怒りで席を移動されないよう祈りつつ続ける。

 

(ヴィラン)が直々にその個性名を呼称したという情報は出回っていなかったわ。『ショック吸収』と『超再生』なのよね?『ショック吸収と超再生ができてオールマイト並のパワーも持てる個性』じゃなくて。」

「……なんか違うのか?それ。親の遺伝とかで……複雑な個性とかあるだろ、普通に。」

 

轟君が多少の興味を持ってくれただろうか?目線が少しこちらに向いた。

私はこの世界で散々調べてきた魔法のように不思議な『個性』について、現状認識している情報を確かめるように口にする。

 

「あくまで私の考えだけれど、『個性』は多種多様のようで一定の秩序を持った力よ。その3つは単体なら個性として自然だけれど、単一の個性因子として、『ショック吸収と超再生ができる個性』が自然発生するとは考えにくいわ。つまり、普通あり得ない個性ということね。」

「……珍しいのは分かるけどよ、あり得ないとは言い切れないんじゃねーのか?例えばオールマイトだって相当な無茶苦茶だぞ。」

「確かにそうだけれど、その前にもっと他の可能性を考慮すべきということよ。」

「…………悪ぃ、よく分かんねえ。そんなことを言い出したらキリがねえだろ。偶然でいいんじゃねえか?」

「そうね。あなたは、『普段は火を吐けるけれど、西暦2729年3月4日に雄英高校にいる間だけは23.1%の確率で海水を吐くようになる個性』は実在し得ると思う?」

 

即興で頭の中で考えた「絶対にありえないような個性」を披露することに妙なむずがゆさを覚えつつも私がそう言うと、皆はきょとんとした。

 

「…………いや、意味わかんねえよ。なんだそれ。」

「そうね。意味不明だわ。でも、どんなに低確率でも『あり得る』と、あなたは思うのよね。」

「………………いや、まあ……いや、さすがにあり得ねえよ。何がどうなったらそんな個性になるんだ。なんで雄英にいる間だけなんだ。23.1%ってなんだよ。」

「私もあり得ないと思うわ。あなたもそうなのね。それで、どうしてあり得ないと思うの?」

「いや……個性としておかしいっつーか……何というか……」

「私が思うに、個性は人間がある程度理解しやすいような『モチーフ』のようなものがあるのよ。」

 

実のところ、この世界自体魔法少女の願いによって生まれた世界なのだから、人間に理解できるようになっているのは当然だ。この世界の人間には言えない事実を回避して、私は説明を続ける。

 

「個性は無秩序のようで、その実『おかしい』と思えるようなボーダーラインがある。程度の差はあれ、人間に理解できるようになっているのよ。つまりインテリジェント・デザイン……ああいや、これは大昔の言葉だったわね。要は、個性はまるで、人間には理解不能な超常現象ではなくて、『人が思い描いた異能』のような形をしているの。異形型なら分かりやすいかしら。大抵は実在する生物か、超常黎明期以前の有名な空想上の生物、またはそれらの生物の特徴がある程度混じったような形態をしているわ。完全に未知の生物の特徴が発現したなんて事例、私は知らないわ。あなたは知っているの?」

「……俺も聞いたことはねえ。…………それで、結局脳無の個性がどうだってんだよ。」

「つまりは、『ショック吸収と超再生ができてオールマイト並のパワーも持てる個性』が自然発生したと考えるべきじゃない、ということよ。この3つの特徴は、共通点が見受けられないわ。この3つの機能を持つ個性、個性としておかしいわ。一人の血の繋がった親は普通二人よ。」

「現に俺は見たんだ。脳無は、ショック吸収、超再生、オールマイト並のパワーを持っていた。両親の個性を受け継いで、さらに突然変異の個性が発現したとか……あり得ねえと思うしかない偶然でも、それ以外考えようがねえだろ。」

 

彼はかなり不信がって反論するけれど、私の話に付き合ってくれるようだった。

 

「もっと他に考えるべき可能性があるわ。」

「……なんだよ、それ。」

「その3つの個性が後天的に与えられた可能性よ。」

 

そう言うと、彼の顔がいよいよ信じられないものを見る顔になった。だが、長くは続かなかった。

 

「……つまり、『個性を与えることができる個性』って言いてえのか?そんな個性あり得ね……!そうか!お前の言いてえこと、少しわかったぞ。」

 

多少は信じられるものを見る顔になった。

 

「そう。『個性を奪い与える個性』なんてほとんどありえないけれど、『ショック吸収と超再生ができてオールマイト並のパワーも持てる個性』よりはあり得る。少なくともそういう技術を持っている。そういうことよ。」

「ちょ、ちょっと待ちたまえ暁美君!いくら何でもそんな無茶苦茶な個性が存在するわけないだろう!飛躍しすぎだ!」

 

黙って聞いていた飯田君だが、彼はまだ私の話を信じられないようだった。この個性社会だと他者に個性を与えるのは夢物語扱いらしいが、ここまで説明してもまだ信じられないのかと思ってしまう。

 

「そうかしら。私は殆ど確信しているわ。」

「そんな個性があったら……既にとっくに名が知られているはずだ。その、オールマイトが狙いなら、脳無など作らずに自分が戦いに出ればより確実なはずで……。か、仮に慎重な性格であったとしてもだ、その、わざわざそんなことをする、理由は……」

 

飯田君の声は次第にしぼんでいった。最初のうちはとにかく否定したくて、思いつくことを言っていたようだったけれど、そのどれもが決定的な反論にはならないことに自分で気が付いたようだった。

 

「……一応答えるけれど、まず名が知られていないなんて言うのは参考にならないわ。頭が良くなる個性でも奪えば、事を起こすまでに自分の個性を秘匿しておこうなんてことは思いつくはず。脳無を作って襲わせた理由も、そもそもオールマイトを殺すなんて話は自己申告であって頭の中でどう思っているのか分からないわ。動機を推測するには、言葉を行動の一種とみなして決して鵜呑みにしないことが重要ね。今回のような襲撃を繰り返してオールマイトを疲弊させて、弱ったところを満を持して自ら一気に叩くつもり……なんて可能性もあるわ。」

「……本当に、そんな個性持ちを……想定しなければならないのか。」

「そうね。付け加えて言うと、その存在が現れたときにその対処に当たるのは、おそらく私たちの、飯田君の世代ね。」

「そ、そんなあ、どうすればええんや……!?け、警察に言えばいいのかな!?」

 

麗日さんがかなり怯えている。飯田君は、こめかみに手を当てて苦悩しながら答える。

 

「…………今の僕達に、どうにかできる話じゃない。暁美君の話は、おそらく警察の方々も想定している……はずだ。」

「でも、警察はそんな発表してへんよ?」

「……おそらく僕たちに、市民の皆さんに余計な不安を与えないためだろう。個性の性質次第ではオールマイト先生でも確実に倒せるかどうか。……いや、それ以前にオールマイトの個性が奪われたら、世界最強最悪の(ヴィラン)となってしまうだろう。」

「て考えると、(ヴィラン)連合も相当厄介だぞ。強個性持ちを片っ端から手に入れて、手下に与えまくれば(ヴィラン)連合は複数個性持ちの集まりだってことになっちまう。……もしも手に入れた個性を際限なく自分のものとして使えるようになるんなら、どんな化け物が生まれるか考えたくもねえ。流石に何か制限はあるはずだけどよ……。」

 

オール・フォー・ワンの個性の脅威を、3人は十分認識してくれたようだ。飯田君と麗日さんは焦りと恐怖が混じり、表情があまり変わらかった轟君も眉をひそめている。

これなら、新しい視点から襲撃時のことを真剣に思い出してくれるかもしれない。

 

「私が脳無の個性に注目していた理由、分かってくれたかしら?」

「ああ、よく分かったよ。」

「それを踏まえて、あなたにもう一度聞くわ。脳無についてどう感じたかしら?」

 

轟君は、しばらく手を顎に当てて考え込んだ。出会った時と違い、かなり真剣に考えてくれているように見えた。30秒ほどすると、こっちをむいて話し出した。

 

「……悪ぃ、やっぱり大した情報はねえ。けどお前……悪ぃ、名前何だっけ?」

「暁美ほむらよ。」

「暁美の言う通り、脳無が個性付与をされた対オールマイト用の……こういっちゃなんだが、人造兵器ってのは本当だと思う。まともに会話が成立せず、うめき声すらなかったような気がする。兵器なら思考能力、会話能力は必要ねえ……ますます(ヴィラン)連合はクソだってことだな。人を、人の個性を道具みてえに扱って本人を尊重しねえ奴らか、ああ…………今回の話で奴らがますます嫌いになった。」

 

他二人と比べて随分と憤っている。そばを啜る勢いが心なしか荒々しくなった。何か彼の逆鱗に触れたのだろうか。

 

(ヴィラン)連合の目的はどうかしら?」

「オールマイトを殺すとか言ってたけど、本当かどうかはわからねえな。死柄木の言動はイカレてたから当てになんねえし。」

「何処から来たのかとか……」

「そういったことは全く言ってなかったな。(ヴィラン)連合は馬鹿だが、阿呆じゃねえってことだ。大事な情報を自分から言う奴なんて普通いねえ。」

「その割には、個性のことを口走ったりするのね。……目的、その兵器のテストだったりしてね。」

「……!あり得そうだな。ハァ……嫌な話だ。」

 

バカとアホの違いってなんだろうというどうでもいい疑問が頭をかすめたところで、私は話を切り上げることにした。真面目に考えてくれたうえでの発言だったと思う。これ以上有益な情報は聞けないか。まあ、さすがにそんな重要情報をポロポロ話すわけがない。すこし都合よく期待しすぎたかもしれない。

 

その後は、特におかしなことも無く時間が進んだ。轟君は黙って食べていて、飯田君と麗日さんは今度ある体育祭に向けて頑張っているなんて話をしていた。ヒーロー科にとっては重要なイベントだが、私達普通科にとってはただの体育祭だ。さやかは授業が無いから実質休日だなんて喜んでいたけれど。

 

食べ終わってそろそろ移動しようとした時。しばらく何か考え込んでいた轟君だが、ふと「個性付与……まさか!」と呟くと、私に向かって口を開く。

 

「なあ、俺からも一つ聞いていいか?」

「何かしら。」

「自分の個性を付与する個性、何てのがあったとしたら……付与する奴は、どんな奴に、どんな理由で与えると思う?複製とかじゃなくて、与えたら自分の持っている個性は無くなる、つまり譲渡するタイプだ。」

「……普通与えないと思うけれど……そうね。与えること自体に何かしらのメリットが発生する個性だから、自分が持っていても無意味な個性になった、本人が寿命だから身内に渡した、金銭などでそういう契約をした……逆に、持っているとデメリットな個性だから無理やり押し付けた、なんて場合もあるかもしれないわね。」

「暁美、色々と思いつくんだな……。ありがとよ。……ああ、そうだ。一応言っておくけどよ。」

「何かしら。」

「なんで聞き込みしてるのか詮索する気はねーけどよ。そいつらを見つけ出して倒そうだなんてバカな考えは捨てとけよ。チンピラはともかく、相手は俺達ヒーロー科が束になっても倒せなさそうなほど強かった。オールマイトですら余裕じゃなかった。お前の個性は知らねえけど、プロヒーローじゃねえ奴が好奇心で手ぇ出したら死ぬかもしれねぇ。……俺からの忠告だ。」

「……肝に銘じておくわ。」

 

内心全く守るつもりはないことを謝りつつ、それで話は終わり、私たちは教室へ戻った。

今回はあまり収穫は無かったけれど、こういう地道な情報集めもやがて実を結ぶと信じたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……緑谷、もしかしてお前、オールマイトの個性を……?」

 

 

食堂での食事を切り上げて、スマホに入れた雄英の職員室にあった脳無の戦闘データを眺めながら、私は普通科の教室の扉を開ける。あと10分で授業が始まろうかという時間だ。

 

「あ、来た来た!暁美さーん!ちょっといいかなー?」

 

扉を開けた瞬間、私を呼ぶ男子の声が聞こえた。スマホから目線を上げて見ると、心操君を中心に何人かの男子が固まっていて、こっちを見ていた。……私は呼び止められる心当たりは全くない。

今日の夜はどこに飛ぼうかを考えるのに忙しい私だったが、無視して印象を悪くするとまどかやさやかにどんなダメ出しをされるか分かったものじゃない。ひとまず話を聞いてみることにした。

 

「……何かしら。」

「心操がな、体育祭でヒーロー科編入目指すんだってよ!」

「多分今、普通科の中で本気でヒーロー科編入を狙っているのは心操だけ、そして心操だけが編入の可能性がある!暁美さんもそう思うだろ!?」

「……そうなのかしら。」

 

とても明るい雰囲気の男子が当然と言った風にそう言ってくるが、私にはまったくもってよく分からない話だ。

 

「おいおい暁美さん、最近のCクラスの中心は心操だぜ!心操の周りに集まってるの見ただろ!?なんせ『洗脳』個性が最近めきめき伸びてきて、(ヴィラン)っぽいのにむしろヒーロー向き、人助け向きなんて言われ始めたんだぜ!すげえだろこれ!まさに大逆転劇!」

「……ハハ、まあありがたい話だね……」

 

心操君は少し照れながら頬をかいた。

 

「謙遜すんなって心操!お前、この前の中間一位だったじゃねえか!放課後、大胆不敵にもA組に宣戦しに行くんだってよ、自分を追い込むために!(ヴィラン)の襲撃受けた連中にそんなことやるなんてやっぱ心操すげえよ!めっちゃ肝が据わってる!普段「僕は特徴のない普通科生徒です」って顔しておきながらそんな漢見せられたら応援したくなるって!ヒーロー科に一矢報いれるのはコイツだけだ!そう思わないか暁美さん!」

 

……彼らは心操君のファンクラブか何かだろうか?私には到底理解できないノリでテンションが上がっていて、正直ついていけない。なんでそこまで彼らは心操君を評価するのだろう。

 

私から心操君への印象は……正直言って個性以外は他の男子と大差ない。思い返してみれば、最近彼の周りには人が集まって何かをよく話していたような気がするけれど、いちいち内容を聞いていない。あとは、さやかが世話になっているくらいか。中間一位を獲ったのはすごいと思うけれど、そもそも私は成績にこだわっているわけじゃないからどうしても関心が持てない。

 

「……それで、私に何の用なの?」

「心操に、体育祭でどうやったら勝ち上がれるかのアドバイスが欲しいんだ!」

 

私、個性アドバイザーじゃないのだけれど……

 

「いやだから、なんで私に……」

「まあ待てって。暁美さん興味なさそうだしそれ以前に事情をよく分かってないみたいだぞ。」

 

テンションがやたら上がっている男子を心操君が止め、私に向かって説明を始めた。私の困惑を察してくれたのは素直にありがたいと思った。

 

「あー、まず、最初からちゃんと説明させてほしい。暁美さんにアドバイスを貰ってから、俺は色々な試行錯誤を始めたんだ。」

 

アドバイス?と一瞬疑問に思ったが、前に心操君と一度会話をしたことを思い出した。確か、個性の偏見がなかなかひどかった中学校にいた……ということをちょっとだけ覚えている。

 

「つまり、俺の個性は、俺が思っている以上に色々なことができるんじゃないかって。それで、クラスの皆に協力してもらって、個性の訓練……みたいなことをしてみたんだ。もちろん先生の許可を貰ってな。で、色々試してみた。最初は全然成果が出なかった。『集中して勉強しろ』が効いたのはいまだに美樹さんだけで……他に何人かのクラスの奴に協力してもらってみたけど、ダメだった。でも、ある時、転機があったんだ。」

「ああ、俺の時だな!」

「ああ。コイツ、前に女子……それも先輩に一目惚れしたって馬鹿な理由でラブレター書いて告白したらしい。」

「バカにすんなよ!めちゃくちゃ綺麗だったぞその先輩!普段「俺は負けず嫌いなんだァ!お前よりキツイ境遇を跳ねのけたことを証明してやる!」とか言いながら努力する俺の先輩が『間違いなくあの人は雄英の中でトップレベルの歴戦の猛者!僕が支えるべき人はまさしくあの人だァ!!!』って認めてたから見てみたんだけどよ、なんかすげえ美人だったぜ!あとで聞いたけど、運動神経よくて、個性も便利で、それでいて面倒見もいいから普通科2年のアイドル的存在なんだってよ!」

 

……マミさん、また告白されたのか。というかいつの間にアイドルになっていたのか。……本人からはそんな話は全然なかった。ここまで大きい自己評価と他者評価のズレはなかなかないと思う。

でも思い返してみると、マミさんは良く人から話しかけられているのを見ることが多い……気がする。今度から注意して見てみようか。

 

「……それで結局玉砕したんだけどな。」

「うぐ、そ、そうなんだよ……クソ、一体何が悪かったってんだ……」

「初対面で告白する時点で何もかも間違ってるだろ。」

「それは心にナイフだぜ心操……」

「まあコイツのことはともかく……コイツが振られた日、めちゃくちゃ落ち込んでた。ネガティブなことをグチグチいうもんだから、つい洗脳で『落ち込むな、シャキッとしろ!』ってやってみたんだ。そしたら……」

「おう!なんか元気100倍になったぜ!」

 

……彼には悪いけれど、頑張った成果が出てよかったわね、程度の感想しか出てこない。私にどうつながってくるのだろう?

 

「コイツが、俺が洗脳で新しいことが出来た第二号ってわけだ。で、その後は流石に知ってると思うけど……クラスの奴に『集中して勉強しろ』が、少しだけだけど、効く奴がポツポツで始めたんだ。」

「……知らない話だわ。」

「お、お前本当に鹿目さん以外に興味無いんだな……『成績ヒーロー』なんて呼ばれ始めるくらい俺たちのテスト対策の希望になってるんだぜ!?」

 

思い返してみると……ここに入学してからの思い出と言われて、第一に思い浮かぶのがまどか、次点で美樹さやかとのことだけだった。他のクラスの子とのことを思い出そうとして、私は殆ど何も思い出せなかった。根本的に魔法少女仲間以外に興味が無い私に、少し愕然とした。

もしかしたら、私の他人への興味の無さのせいで、話しかけてくれる他の子との機会を失ってきてしまったのかと思うと、ちょっと申し訳なくなった。

 

「……なんだかごめんなさい。」

「ま、まあ暁美さんがそんな感じなのは初日あたりからわかってたし、気にしてない。で、俺の個性がこういうことに……人の為に活かせないかって、先生に相談してみたんだ。事の経緯を話したら、俺も予想外の人物のところに連れていかれたよ。誰だと思う?」

「……さあ?」

「なんとリカバリーガールだ。で、そん時の会話がな……」

 

『条件込みでも、強制的に気分を明るくさせられたり勉強させられたって本当なのかい?』

『ええ……本人が心のどこかで本当はやりたいとか、なりたいとか思っているとうまくいく、ことが多いみたいです。雄英入学以前に試してみたことはあるんですけどそん時は上手くいかなかったのに……』

『きっと、個性が伸びたんだろうね。』

『個性が……伸びる?』

『個性は身体能力の一部。筋肉と同じように、鍛えれば伸びるもんなんだよ。あんた、洗脳とかいう名前のせいで色々苦労したみたいだね?そのせいで、他人に向かって個性使ったことなんて入学以前は殆ど無かったんじゃないかい?』

『まあ……中学通算で10回超えるか位です。』

『そんな程度じゃ鍛えられないさね。でも、さっき聞いた話だと最近はクラスメイトと協力してもらって訓練してるんだろう?それによって、急激に洗脳の性能が伸びだした。そういうことだろうね。』

『……そうだったのか。個性を鍛えるなんて、今まで考えもしなかったです。洗脳をかければ終わりだと思ってて……』

『そうだね。まあアンタは残念ながらあの入試方式のせいでヒーロー科に落ちちまったけど、それでヒーローになれなくなったってわけじゃない。少なくとも個性の有用性は、今回の件ではっきりしているわけだ。』

『……実力不足だったことを言い訳するつもりはありません。』

『おやまあストイックだね。でも、せっかくならその個性を売り出してみたらどうだい?』

『売り出す?』

『精神医療系ヒーローっていう分野があるのさ。主にメンタル面の救助……例えば、過酷な訓練でも心を折れないように頑張らせるとか、つらい目に遭った人を立ち直らせるとか、そういった需要は結構高いんだよ。特に災害現場だと顕著だね。気が滅入る話だけど、例えば地震で建物が倒壊して、家族を亡くしてしまった人がいるとすると、その事実だけでエネルギーを消耗してしまう。例え無理やり安全なところへ連れて行ったとしても悲しみが軽減されるわけじゃないからね。そもそも避難生活自体が心に負荷をかけるものさ。でも、そんなときに君が『落ち込むな』とか洗脳できるなら、それだけで精神面の問題が9割解決すると言っても過言じゃない。彼らだって落ち込みたくて落ち込んでるわけじゃないからね。ハッキリ言って、君の個性は精神医療系にとっては引く手数多だろう。いやはや、まさか普通科にこんな個性持ちがいたなんて。私は結構驚いているよ。』

『そんな……ヒーローの在り方が……』

『あんたがどういうヒーローになりたいかにもよるけど、どうだい?心を救けるヒーロー、目指してみないかい?私は長く医療ヒーローやってきたからね、そういった方面のヒーローともまあまあ付き合いがある。将来のサイドキックの有望株として紹介しても良いんじゃないかと思ってるよ。』

 

「……そういうわけで、なんとリカバリーガールがその系統のヒーローに声をかけてくれるって話になったんだ。まあそれ以前に、そもそもどうやって免許取るかとか、俺の個性の細かい性質を病院で検査しようって話とか、やらなきゃいけないことは山積みになったけど……」

「お前ならいけるって!いやー、お前のヒーロー心がついに認められたってことだな心操!」

「ヒーローになるために勉強量が2倍になるのに即『やります』って言いだすの見るとマジで本物だなって思ったぜ!あんな漫画みたいな量のブ厚い本の山、見ただけで鳥肌立つよ俺なら!」

「自分で自分に洗脳を掛けたくなるけどな……」

「……よかったわね。」

 

やっぱり普通科でもヒーローになりたがるのだなという薄い感慨とともに、私は席に戻ろうとしたけど

 

「あ……長々と話してすまん。もうちょっと待ってくれないか?」

 

引き留めるようにそう言われた。まだ話が終わっていなかったらしい。……正直面倒くさくなってきた。結局何が言いたいのだろうか。

 

「その、まあ……何というか、暁美さんにはちゃんと礼を言っておきたかったんだ。あんたが先入観無く俺の個性を扱ってくれたおかげで、俺は、俺の個性で人を救けられるかもしれなくなった。だから、礼を言わせてくれ。」

「良かったわね。まあ、礼には及ばないわ。」

「……で、強欲で悪いけれど、俺が体育祭で活躍できないか、暁美さんにアドバイスが欲しいんだ。」

「……え?」

「暁美さんなら、俺の攻撃力が無い個性でも活躍できる方法を思いつくんじゃないかって。」

 

……また話が全く分からなくなった。どうして体育祭が出て来るのだろうか。

 

「あ、すまん、流石に色々要求するのは悪いよな。」

「まあ、話は聞くけれど……」

 

話が分からなくなって、聞く聞かないの判断ができなかった私はとりあえずそう言った。

 

「そうか、ありがとう。ええと、先生がクラスの初めの時に、リザルト次第でヒーロー科編入もあり得るって言ってたの、覚えてるか?」

 

……そういえば、そんな話もあった。この瞬間まで完全に忘れていた。

でも、話によれば心操君は順当にその精神医療系のヒーローになる勉強をして、資格を取れば、ヒーローとしての雇用先が見つかる状態らしい。今だって勉強で相当忙しいらしいのに、その上ヒーロー科編入を目指すのはまったくもって理解に苦しむ。俗にいう学歴コンプレックスなのだろうか?

 

……学歴がどうかなんて言ったら怒り出すかもしれないし、ここは適当に流しておこう。

 

「……今思い出したわ。」

「ああ。それで、俺の個性で高い順位に食い込むためには、個性の訓練以外にも工夫や戦略が要る。競技科目は毎年変わるけれど、大体物理的な攻撃力や、派手さがある個性が上位に食い込みやすい。名目上は体育祭だから、当然っちゃ当然だ。俺も毎日走りこみや筋トレはしてるけど、どうやったって増強系には追いつけない。俺の個性は体育祭でも活躍しにくいって思ってる。だから、何か思いつかないかって、暁美さんに聞いてる。」

 

謎の高評価を貰って困惑したが、この流れなら彼の洗脳の発動条件を聞けるのではと思いついた。

 

「そもそもあなたの洗脳の発動条件はなんなの?」

「俺の呼びかけに応えることだ。俺の意思を持っての呼びかけに反応して、対象が何かを口にすると洗脳がかかる。録音とかじゃだめで、肉声じゃないといけない。複数人同時にかけるのは無理だけど、複数人を同時に洗脳状態にすることはできるし、同時に操れる。上限何人かは知らないけど、今のところ結構たくさんの人にかけられてる。……こんなところだな。」

 

意外な洗脳トリガーだ。なんとなく、この種の能力は眼を合わせたら発動……とかが多い気がする。

人間相手ならかなり有効だろう。例えば銀行強盗に「いくら金を払えばいい!?」とか言えば簡単に無力化できる。ただし、彼の能力が知られていない前提だ。知られていたら黙るだけで無効化されてしまう。その他色々使い道がありそうだ。

……なんてことを考えつつ、私は深く考えずに口を開いた。

 

「意外ね。」

「……え、意外?」

「あ、いや……ええと、強い『個性』だからもっと条件が複雑なのかと思ったのよ。」

 

同系統の個性持ちを知っているとでも思われてしまったかもしれない。魔法少女や魔女で似たようなのを時々見たから間違っていないのだけれど、この世界だと希少扱いなので適当に誤魔化した。

 

「なるほど、そういうことか。まあ、条件が単純なのはメリットでありデメリットでもあるけどな。それで、何かアイデアはあるか?」

「……え、何の?」

「いやだから、体育祭で俺が活躍するための作戦だ。基本的な肉体づくりは当然してるけど、個性を使った活躍方法があんまり思いつかないんだ。まあ暁美さんに無理に案を出してほしいなんて言うつもりは毛頭ない。思いついたらでいいよ。」

「…………???」

 

私は、彼の言うことがいよいよ理解できなくなってしまった。

将来ヒーローになって活躍できる伝手が出来たのに、わざわざ競争率の高い体育祭で上位に食い込みたい?何故そんなことをする必要があるのだろうか。将来のことを考えるなら、その精神医療系のヒーローとやらになるための勉強に集中すればいいのではないだろうか。聞いた限りでは相当学ぶことが山積みになっていそうなのだし。

 

「そもそもどうして高い順位に入りたいの?増強系じゃないんだから難しいと思うのだけれど。」

「マ、マジで興味ないんだな暁美さん……ええと、いやそもそも、雄英体育祭はかつてのオリンピックに代わる一大イベントで、毎年日本、活躍次第では世界中と言っても良い程の注目がそこに集まるのは知ってるか?」

「……まあ、そんな感じみたいね。」

 

去年のこの時期、街にいたおじさんたちが改変前の世界での五輪のノリで楽しそうに話をしていた光景を見たのを思い出した。

 

「そこでいい成績を獲れば、当然注目される訳で、そうなればプロヒーローに覚えてもらえてサイドキックに雇ってもらえる可能性が上がる。まあ暁美さんのお陰で、俺はもうそういうチャンスを得ているけど、でも、もっと上に行けるチャンスがあるのにそれに向かって努力しないなんてヒーローらしくないだろ?俺の個性が体育祭で輝きにくいことは分かってる。それでも、やれることはやっておきたいんだ。」

「流石心操、ヒーロー科に一番近い男だな!」

 

肩をバンバンと叩かれて照れ笑いする彼に、私は何と答えるべきか分からずただ見つめることしかできなかった。彼らは何に喜んでいるのかまったく共感できない。

 

「…………」

「俺達もいくつか考えたんだ。例えば、銀行強盗に『てめえらこんなことして恥ずかしくねえのかあ!?』とか煽ってやれば絶対一人は無力化できる!(ヴィラン)退治にも有効な個性だっていう話で最近は結構盛り上がっててな。暁美さんもそう思うだろ!」

「………………あなた、(ヴィラン)退治もやりたいの?」

「ああ。あ、ええと、ちゃんと説明するとだな。ヒーローの仕事は、救助、(ヴィラン)退治、避難誘導の3つが基本だって言われてる。どれがやりたいって言われるとまだ決めかねてるところもあるけど……少なくとも、今のうちから『これ』って決めつけて可能性を狭めるなんてことはしたくない。(ヴィラン)退治ができるってんなら、そのための努力は惜しまないつもりだ。」

「で、どうだ暁美さん!?心操に前みたいに常識に囚われない斬新な意見ってやつを出してやってくれよ!」

 

常識に囚われない意見が欲しいと言われて、私は空気が読めないと分かりつつも先ほどから抱えていた考えを何も加工せずに口に出してしまった。

 

「じゃあ言うけれど。心操人使。あなたは体育祭で活躍するべきじゃないわ。」

「……は?」

 

彼の表情が驚愕とわずかな怒りに染まる。そしてそれ以上に、彼に取り巻いていた二人が怒りに近い感情を私に向けた。

 

「……いやいやいやどういうことだよ!?常識をひっくり返すどころかちゃぶ台をひっくり返す意見だぜそりゃ!暁美さん、こいつにヒーローになってほしくないのか!?」

「そういうわけではないけれど。」

「じゃあなんで!」

「あなた、(ヴィラン)退治がしたいのでしょう?」

「まあ、俺の個性でできるのなら……」

「なら、あなたの個性が(ヴィラン)にバレていないことが前提条件となるわね。あなたの個性が割れていたら、その時点で役に立たなくなるわ。それくらいわかるでしょう?」

「……いや、バレてても使い方次第によってはなんか役立つかもしれないだろ。」

「それでも、有効性は段違いになってしまうわよね?」

「…………まあ、そうっちゃそうだけど。」

 

心操君は渋々私の言うことを認めたが、まったくもって納得できないようだった。でも、私だって心操君が目立とうと頑張る気持ちが分からない。

今の状態で心操君は十分幸せなはずなのに、それを理解しているはずなのに、欲を出してさらに名声まで手に入れようとしている。そのうち強欲で不幸になるとしか思えない。

 

……ただ、一つだけ推測できることが分かる。多分今の心操君は、魔法少女にあこがれるまどかに似た気持ちなんじゃないだろうか。私が必死に止めようとした、いわゆる憧れと呼ばれる気持ち。殆ど満たされている今の私には到底持ち得ないものだ。

 

「それなのにわざわざ体育祭に出て注目されて、知名度を上げるの?どう考えたって不合理よ。(ヴィラン)退治をしたいなら、むしろこれからは徹底して知名度を下げることを考えるべきね。そうすれば(ヴィラン)が不用意にあなたに返答してくれる可能性が上がる。そうでしょう?」

「……そう、だけど……」

「あなたは何がしたいのか、私にはよく分からないわ。ヒーローになって人を助けたいの?ヒーローになって(ヴィラン)退治がしたいの?ヒーローになってチヤホヤされたいの?それとも、単にヒーローという称号が欲しいの?特に、前二つと後ろ二つは時に相反するものよ。ヒーローになってどうしたいのか、よく考えるべきね。」

 

そこまで言うと、心操君は悔しそうに黙ってしまった。上昇志向は多分良いことなのだろうけれど、今の彼はあまりにも将来について考え無しだと思ってしまう。

 

「あ、暁美さん!言い過ぎだって!多少向こう見ずだったかもしれないけど、今まで滅茶苦茶頑張ってきたんだからさ!もうちょっと言い方ってもんがあるだろ!?」

 

隣に居た男子が心操君の擁護をしてきた。……私にだって、私の発言が彼を傷つけてしまったという自覚はある。悪いとは思っている。

けれど、眩しいものにひたむきに走っている彼を見ていると、水を差したくて仕方なくなってしまう。

 

「言いすぎたかもしれないわね。でも事実でしょう?」

「体育祭で活躍するななんておかしいだろ!そもそも今のヒーローは人気商売、例えばビルボードチャート3桁以内に入るには一定の人々からの支持が必要だし、今の時代はヒーローが多くて競争率が激しいから、知名度が無かったらチームアップの要請とかされないかもしれないだろ!?」

「彼の個性を知っていて、必要なのに要請しないのは職務怠慢よ。そして、要請する必要が無いならそれだけ世間が平和ということ。喜ぶべきではなくて?」

「いや……そうだけどさぁ、だからって目立つななんて、なんかおかしいだろ!?」

「すまん、俺の為にありがとな。」

 

心操君が、私に反論してくる男子を止め、私に向き合って口を開いた。強い意志がこもった目をしていた。

 

「……暁美さんのいうことは、もっともだと思う。」

「そう。」

「確かに、俺は将来どうなりたいか、あんまり考えてなかった。でも、体育祭で目立たないようにするなんてやっぱりおかしいって俺は思ってる。」

「…………」

「暁美さんの言った中では、人救けが一番やりたい……と思ってる。でも、俺の原点(オリジン)は……多分その4つの中のどれでもない、と思う。俺は……ヒーローになりたいんだ。」

「……つまり免許が欲しいということ?」

「いや、その、それはなんか、違う気が、する……」

「何がよ。」

 

心操君はしばらく目線を私から外し、モゴモゴ口を動かして言葉にならない言葉を発した。

 

「その、こう、なんというか……悪い、うまく言い表せない。……でもさ、例えば暁美さん、オールマイトとか見てかっこいいとか思ったことないか?」

「オールマイトは……まあ、強いヒーローだと思うわ。」

「それはそうだけど、そういうことじゃなくてさ、ほら、こうなんというか、見ていて安心するというかさ、多少なりとも、自分もああなりたいって思うだろ?」

「そんなの演出次第じゃないかしら。」

「え、演出!?いや、オールマイトは役者じゃねえんだぞ!」

 

隣に居た男子が再び叫び、心操君が再び宥めた。

 

「見てれば分かるでしょう?ある程度の地力は前提だけれど、そもそも彼が活躍する場面は表立って殴れるか救える犯罪ばかり。でも、この世界の悲劇、犯罪がそれだけで構成される訳じゃないのは、あなただって分かっているはずよ。まあ、もしかしたら彼は人目につかないところでそういう問題も解決しているかもしれないけれど、少なくとも彼が注目される場面というのは、今まさにあなたの頭に思い浮かんでいたものよ。そして彼は、そういう場面で最も映える立ち振る舞いをしている。だから人々を魅了している。おそらくそのための努力もしているのでしょうし、そうするべきだと思っているのでしょうね。」

「……」

「そもそも、ああいうサービスする暇があるんならさっさと別の犯罪現場にでも向かうべきだと思わない?……いえ、彼の実績を考えると文句は言えないわね。でも、私達もう子供じゃないのだから、そういうショー感覚でヒーローを見るのは卒業するべきよ。人の憧れは、技術によって『作り出せる』のよ。」

 

魔法少女が何たるかを知らずに、命を懸けて魔女と戦っていたかつての魔法少女たちのことを思い浮かべながら私は隠しきれない嫌悪感と共に吐き捨てるようにそう言ってしまった。

これを聞いた心操君達はさらに怒った顔をし始めた。私も言い過ぎたと感じ、このままだと喧嘩になるんじゃと思った。見ると、周囲の人々も私達の言い合いを不快に思っていたり、口を出そうとしているように見受けられた。

ヒーローのすばらしさを大声で説いてくる二人を見ながら、この場をどうしようか考えていると。

 

「……そうか、分かんねえのか、感じねえのか、暁美さん。ヒーローに憧れるってことが……」

 

心操君が不意に、何かに納得したように口を開いた。

 

「どういうことよ。男子の興味なんて分からないわ。」

「ヒーローに憧れる女子だっているだろ?いやそれ以前に、そういう話じゃなくてだな。」

 

えーと、なんていいつつ後ろ手で髪を搔きながら、彼は不快感がにじみ出ているであろう私の目を見据えて言葉をゆっくり紡いでいく。

 

「……ヒーローに対する態度なんて個人の自由だと思ってたけど……悪い。見てるとやっぱ無視できない。多分さ、そういうのがない人生ってつまんないって思うんだ。」

 

今の私は十分幸せなつもりなのだけれど。(ヴィラン)連合の件は不安だけど、それさえ片付ければまた脅威に対して神経を尖らせずに済む生活が来るかもしれない。そんな未来は刺激は無いけれど、刺激が無くてつまんなくても、私が、私たちが望んだ未来だ。

……彼はそんなつもりで言ったんじゃないだろうけれど、なんとなく私の望む未来を否定されたように感じてしまう。

 

「だからそういうのって何よ。」

「暁美さん……俺は、本物のヒーローになりたいんだ。」

「ええ?……免許取れば本物のヒーローになれるのではないの?」

「次の体育祭、騙されたと思ってしっかり見てくれねえかな。暁美さんみたいな態度取られたら、さすがに俺もタダじゃ負けられないってなる。だから俺、絶対体育祭でいい成績取ってやる。何かを、暁美さんに見せてやる。」

 

私の疑問に答えず、彼は決意表明をした。この場面で、疑問に答えることよりも、自分の気持ち、決意を言うことが絶対に正しいと確信しているようだった。

 

「……だから何の話よ、分からないわ。」

「憧れたものを否定されたら誰だって嫌だろ。根っこはそれだけだ。否定されても無感情でいられるほど俺は達観してる人間じゃないんだよ。」

 

そう言って、心操君は踵を返すように席に戻ってしまった。直に授業が始まるのも相まって、私達の会話をみていた人も席に戻った。……何人かは私に不愉快そうな目を向けていた。やっぱりヒーロー科落ちが多いとあって、私に賛成できない人が多いのだろうか。

 

……確かに、私は雄英に関しての体育祭をちゃんと見てない。見てないから、私は無知なのかもしれない。でも最後まで、私には彼が求めているものが存在するということが信じられないのだった。

 

雄英の体育祭は来週あたりだ。魔法少女の私たちは適当に第一種目を楽しんで終わりだろうけれど、彼が第二種目以降に残ったときは、暇な時間にはその活躍を見てあげるのが最低限の礼儀、だとは思う。




次回から体育祭ですが、そこでやっとA組に殆ど縁が無い現状が変わり始める予定です。

・戦闘データを眺めながら、私は普通科の教室の扉を開ける。
ほむらは魔法による安全策を講じています。良い子のみんなは歩きスマホは……やめようね!

・成績にこだわっているわけじゃない
ほむらが中の上程度、、まどかが中の中~中の下、さやかが下の下程度を想定している。

・「苦労が報われてよかったぜ心操」
ここまで素直に祝われるのは間違いなく彼の人徳である。

・「なんでわざわざ知名度を上げるの?」
この時のほむらは変声機使っても通用することを知らない。

・憧れ
ループ前のほむらならある程度ヒーローへの憧れというものを持てたかもしれないが、現状のほむらでは全く理解できない代物となっている。
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