個性『魔法少女』   作:Assassss

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高評価、誤字報告、感想ありがとうございます。

拳藤の能力に関しては完全に独自考察に基づきます。


第二回戦

 

保健室からまどかを見送って戻ると、さやかとマミさんが爆笑していた。

 

「うひゃ、ひゃ、ひゃひゃひゃははは!!!これ、何、コントォ!?」

「い、飯田君真面目過ぎて、ひ、ひひ……」

 

マミさんが口に手を当てて必死に下品にならないように頑張りつつ笑っていた。ステージの方を見ると、

 

「騙したなあああああ!!!」

「すみません、あなたを利用させてもらいました。」

「嫌いだ君いいいいい!!!」

 

飯田君と、確か発目という人がステージにいる……のだけれど、二人とも変な装置を身に着けている。第八試合がちょうど終わって、発目さんは場外で飯田君の勝利のようだけれど、飯田君は何故かかなり怒っている……のだろうか?彼らしく手をカクカク動かしながら、抗議のようなことを彼女に対してしていた。

 

「……何があったのよ?」

「いや、なんか、飯田君あのサポート科の発目って人に宣伝材料にされてて、なんか飯田君の真面目さがすごい噛みあってて!!!」

「あ、あとでこの試合の録画でも見直すといいわよ暁美さん、ほ、本当に面白いからフフフフフ……!!!」

「そ、そうですか……」

 

観客を見ると、笑っている人と戸惑っている人が半々くらいの印象だった。私は見ていないので今はリアクションのしようがないけれど、そこまで笑っているのを見るとちょっと気になってくる。普段落ち着いているマミさんがあんな風になるなんて相当だ。

 

……ちなみに後日、家でその動画を見てみてけど……一人で見ていて本当に良かったと思った。なんであんなに笑っていたのかよく分かった。このくらいふざけていた方が、いち高校の体育祭としてちょうどいいと思う。

 

それはともかく、第二回戦が始まった。

 

● 一戦目 芦戸 vs 常闇

 

再び速攻で勝負がついた。ダークシャドウの機動力はかなり高く、芦戸さんは翻弄されっぱなしだった。酸を投げて抵抗していたけど、軽々と避けられてしまい八百万さんと同じように場外へ押し出されてしまった。

彼の個性は、機動力や攻撃力も十分にあって結構強い部類だと感じる。特にダークシャドウ自体にも自我があるようなのが大きい。こういう試合の場でなく現場での(ヴィラン)退治だったら、ダークシャドウに前衛を任せて、攻撃力のなさそうな本人は私みたいに銃でも撃っておけば相当強力だと思った。

 

● 二戦目 拳藤 vs 爆豪

 

「第二回戦!拳は大きく心も大きい!正統派ファイティングガール、拳藤一佳!バーサス!騎馬戦以降ずっと女子をボコボコにすることになる男、爆豪勝己!」

「ンダコラ俺のせいじゃねえわクソマイク!」

 

まどかや麗日さんへの扱いをずっとネタにされ、かなりイライラしているらしき彼は実況にさえ悪態をついた。

そして、目の前の対戦相手を指してがなる。

 

「オイクソ拳!」

「クソ拳じゃなくて、私は拳藤一佳!」

 

……彼は暴言を吐いて敵を作る事に矜持でもあるのだろうか。

 

「まさかテメエまで女子だから手加減なんてクソなこと言わねーよな?麗日みてーになりたくなかったら今すぐ棄権しやがれ!」

 

それを聞いた拳藤さんは、それこそ心外だと息を吐く。

 

「……そういうこと?あのねえ……」

「スタート!」

「ボコボコにするのはアタシの方だよ!」

「へっ、上等ォ!」

 

好戦的に見える両者は、弾かれたように走り出した。示し合わせたかのように一気に互いに距離を縮める。爆豪君、拳藤さんともに右手による爆破と巨大化した拳でぶつかり合うのが初撃だった。

そして双方、少し距離を取った。拳藤さんは手が少しだけ焦げていて、爆豪君は拳のパワーを殺しきれなかったのか後ろに軽くよろめいている。

 

「両者、派手にぶつかったァ!ダメージ的には痛み分けくらいかぁ?」

「爆豪には物理的なダメージ、拳藤には爆破による熱のダメージが入ってるな。いい勝負といったところか。」

 

一瞬のにらみ合いの後、再び二人はぶつかり合う。お互い機動力も攻撃力も高い為に見ごたえのある試合となった。拳藤さんが横殴りしようとすると爆豪君は爆破でバックステップ、爆豪君が爆破すると拳藤さんは拳でガード。両者とも互いの攻撃手に対しベストな対応策を持っていて、派手な攻防が続く。

 

「うおおおおお!今の爆豪のカウンタースゲー!!!」

「拳藤さんの拳、攻撃にも防御にもつええ!!!」

「この二人はドラフト指名盛り上がりそうだな!」

「拳藤ォ!顎だ、顎!」

「あの舐め腐った態度をボキボキにするんだ拳藤!!!」

 

態度の悪さからか彼への応援の声は小さく、逆にB組で人気らしき彼女はかなり味方が多いようだった。

 

「爆豪。この会場の声、聞こえる?こんなに沢山の人がアタシを応援してくれる。今までの人生の中で、こんなにやる気の出る戦いは初めてだよ。ますます、負けてられない!」

「俺はいつでもやる気MAXだ舐めんな!!!」

「……こんなこと言っちゃなんだけどさ、アンタの応援の声正直殆ど聞こえないんだけど……まるで態度変わらないんだね。その、悲しくなったりしないの?」

「ア゛ァ゛ン!?味方がいようがいなかろうが、俺が勝つ!!!」

「マ、マジで!?ホントアンタは我が強いんだね!」

 

拳藤さんが精神攻撃を仕掛けた……のではなく、多分純粋に殆ど彼を応援する声が無いのを心配して声をかけたようだったが、彼は一蹴してしまう。

今は正面からの殴打を避けるために低姿勢で突っ込み、下から爆破……しようとしたところで拳藤さんがもう一方の拳を巨大化させて、彼に上から拳を叩きつけようとした。それを瞬間的に察知したらしき彼は、爆破の方向を咄嗟に横にして回避。一瞬遅れて振り下ろされた彼女の拳は地面をひび割れさせ、その威力を物語る。

 

「爆豪、危うく地面のシミになるところだったぜぇ!拳藤の個性、全体的に手堅く強いぜ、手だけにな!」

「何言ってんだ山田。」

「さァて、一進一体の攻防が続く!この競り合いを征するのはどちらか!?」

 

機動力の高い爆豪君が突撃して、拳藤さんが迎撃、という流れが続いた。一応動いているのは爆豪君だけど、全くもって動きが鈍る気配がない。もうかなり長い時間たっているのに、ここまで体力が続くのは流石日本トップのヒーロー科だと思う。魔法少女にも十分通用するタフネスだ。拳藤さんも武術でも習得しているのか、淀みなく彼のハイスピードな攻撃に対応し続けている。

 

……が、表情をよく見ると拳藤さんの顔が段々怪訝になっていき、逆に爆豪君は少しづつ自信のあるような表情になっていった。

 

「……アンタ、何か企んでるね?無策でただ突っ込むだけの男じゃ、なさそうだ!」

「ヘッ、当ててみろよバーカ!オラァ!」

「そのいちいち口悪いのはなんなのさ!?」

 

……嫌いでもなさそうな相手に死ねだのバカだの言うのは、本当にどういう精神状態なんだろうか。私には到底想像できない。

まあそれはともかく、今の会話を聞く限り爆豪君は何かを企んでいるらしい。私にはよく分からない。

 

…………いや、よく見ると、さっきから爆豪君は低姿勢からの爆破が多い。多分狙ってやっているのだろうけれど、それが何を意味するのだろう。

 

しばらくすると、爆豪君が距離を取った。意図が分からない拳藤さんは警戒して様子を見る。

 

「……っと、出来上がったァ……!」

 

爆豪君の顔がさらに凶悪になった。

 

「な……何する気!?」

「テメェみてーな腕力ヤローの対抗手段は、昔から決まってンだよ!!!」

 

爆豪君は地面に手を付き、叫ぶ。

 

地雷式面爆破(マイン・エクスプロージョン)!!!

 

その瞬間爆破が起きた……のだけど、威力がおかしい。まるでステージ全体が爆破したかのようになり、会場にいる人々の髪が重力に逆らって靡いた。

 

「だ、大爆発!いや、威力おかしいだろ!捨て身の全力攻撃かぁ!?」

「いや、段階を踏んだ準備により起こされた爆破だ。決して捨て身じゃあない。」

 

煙が晴れると、イレイザーヘッドの言葉通りそこに立つ爆豪君の姿があった。流石に彼自身もダメージを受けたようだが、戦闘不能にはなっておらず依然として力強く立っている。

ただ、それは拳藤さんも同じだ。「何か来る」と事前に警戒できていた彼女は、爆破の前に姿勢を低くしさらに拳でガード。こちらも地に足を付けている。

 

「爆豪、渾身の一撃を放つが、分かりやすく予備動作をしたせいで受け身を取られたァ!拳藤のダメージは少ないようだ。中々間抜けなことしちまったんじゃねーのォ爆豪!?」

「今のは間抜けじゃない。拳藤への攻撃が目的じゃないからな。」

「え、どういうこったいイレイザー!?」

「ステージの地面を見ろ。拳藤の足元を見ればわかりやすい。」

「足元ォ……!?」

 

実況に従って私も彼女の足元を見てみると……彼女の足首あたりまで、地面に埋まってる。コンクリートのステージはグチャグチャの破片まみれになっていて、それに気が付いた彼女は焦り出した。

 

「な、何……足場が、踏ん張れない!?まさか、私の個性にそんな攻略法が!?く、くそ、どうしたら!?」

「もう終わり、詰みだ!」

 

そう言って彼はしたり顔になる、が会場には何が起こったのか理解できない人の方が多そうだった。

 

「な、なんか当人たちは勝手に納得してるみたいだけど俺っちには何が起きたのか分かんねえよ!イレイザー解説プリーズ!」

「……異形型や増強型に共通して言えることだが、拳を使った攻撃には脚の踏ん張りというものが必要になる。つまり反動だな。同様に、殴打やガードという行動には、衝撃に耐えられたとしても本人がその場から動くかどうかは別問題だ。」

「ほうほう。」

「拳藤の個性は、分解して言うと拳の巨大化、それに伴う筋力の増加、破壊力の増加、そしてそれに耐える為の拳の強度の上昇、といったところか。つまり、彼女の脚部に個性の効果は及ばない。ああいうタイプの個性の性能限界は、個性が発現している場所よりも、それを支える部位がボトルネックになる場合が多いんだ。そして、その脚部という弱点を突くために、フィールドを破壊した。」

「なるほどな!試合中に的確に相手の弱点を突く今の攻撃は、流石に爆豪相手でもクレバーと言わざるを得ない!」

 

足元を気にする彼女。爆破の威力を上手く使ったのか、彼女の足元は非常に粗い砂場のようになってしまっていた。足を浅く地に刺せば踏ん張りがきかず、かといって深く突き刺すと機動力が失われてしまうようだ。

 

「……てかすげえな、爆破って極めればこんなテクニカルなことも出来んの!?フィールドがサンドボックスみてえだ!」

「これも事前に仕込みがあったな。」

「え、あったっけそんなの?……あ、もしかしてやたら爆豪に低姿勢が多かったのって!」

「拳藤の上段攻撃を誘発するためだ。あれによって、コンクリートの地面に大量のひびが入っていた。加えて、爆豪が地面に手をついていた場面が多かっただろ?アレはおそらく、起爆剤となる汗を地面にしみこませてたんだろう。それが一斉に起爆されたのがさっきの大爆発。あれでコンクリートの地面の下深くまで爆破し、粉々にしたってことだ。」

「すげえな!まるで畑を耕す耕作機、いや耕作爆破だァ!」

「……なんだそれ。まあともかく、この作戦は爆豪の爆破のコントロールの繊細さあってのもの。戦うたびにセンスが光るよ、アイツは。」

 

爆豪は爆風で軽く空に浮く。そして一層凶悪な顔になり、拳藤さんに急接近する。

 

「俺に地面は、必要ねエ!死ねエエエエエエ!!!」

 

BOOOOOM!!!

 

拳でガードしようにも、実況の言う通り踏ん張れないという分の悪さはどうにもならなかったようで、拳藤さんは場外に吹っ飛ばされ、爆豪君の勝ちとなった。

 

このテクニカルな勝ち方に、会場の観客も

 

「す、すげえ……いくら彼の暴言が酷いって言っても……」

「実力は認めざるを得ないな……プロでも、交戦中にあそこまで冷静に分析して対策立てられる奴なんてそうはいない。」

「爆破のコントロール、使い方も一級品だ。今すぐサイドキックにスカウトしてえ……」

「入試一位は、伊達じゃないってか……将来どんなバケモンになるんだか。」

 

と、彼への評価を見直す声が多くなった。

 

吹っ飛ばされた拳藤さんは悔しそうにしつつも、ステージの中央へ戻る。

 

「いやー……悔しいけどアタシの負けだね。こんな風に私の個性を攻略されるなんて思ってなかったよ……」

 

握手を求め手を差し出した。爆豪君はそれに応じ、握手しながら口を開く。

 

「俺の方が上、当然だ!」

「だから言動ぅ!!!」

 

このせいでブーイングが起き、再び彼の評価は下がった。

 

● 三戦目 轟 vs 緑谷

 

轟君は氷結攻撃……氷結なのだろうか?見た目からすると氷を生成しているようにも見える。ともかく氷結攻撃を放って、それを緑谷君が超パワーで吹き飛ばす、という流れが序盤続いた。

……のだけれど、緑谷君の指は個性を使った場所から黒く変色している。心操君との戦いの時もそうだったけれど、個性の使用箇所を大怪我するの、未だに対策できていないらしい。……つまり、この体育祭は彼が出場すると怪我確定ということなのか。それが事前に分かっていたはずなのに、何故学校はこれで許可を出すのだろう……。緑谷君に対しても、もうちょっと何とかならなかったのか、今まで何をしてきたのだろうと思ってしまう。

 

案の定彼の腕はボロボロになっていく。隣に居るさやかとマミさんもドン引きだ。そして、壊れていない部位がほぼなくなった彼に、轟君がとどめを刺そうとする。

 

「あぁーっと、圧倒的に攻め続けた轟、とどめの氷結をォー!」

 

ひときわ大きな氷結が緑谷君を襲うが。

 

「どこ……見てるんだ!!!」

 

もう使える部位は無かったはずなのに、再び超パワーによる衝撃波が発生した。どうやって今のを撃ったのかと思えば、なんと既に壊れた指を無理矢理使って撃っていた。

……あの指、普通だったら後遺症が残ると思う。リカバリーガールはこれを治せるのだろうか。確か、彼女の個性は治癒の為に体力を使うとかで、無尽蔵じゃない。

 

指や腕が壊れてしまったら、ヒーロー活動どころか私生活にまで影響が出るだろう。彼はそれをわかってるはず。何を考えているのだろうか。

 

「震えてるよ、轟君。"個性"だって身体機能の一つだ。君自身、冷気に耐えられる限度があるんだろう…!?でも、それって、左側の熱で解決できるもんなんじゃないのか……?」

 

彼は壊れた指をわざわざ握り、さらにすごんだ顔で轟君を見る。

 

「皆、本気でやってる。勝って……目標に近付くために……っ、一番になるために!半分の力で勝つ!?まだ僕は君に、傷一つつけられちゃいないぞ!」

 

そして、轟君を正面に捉え、痛みに耐える以上の何かに必死になりながら叫んだ。

 

「全力で、かかってこい!!!」

 

轟君は呆然と彼を見た。理解できない恐ろしいものでも見るかのように。

 

……話から察するに、轟君は個性で炎か熱も使えて、それで体の体温低下を防げる。確かに、今の彼には霜が降りている。でもそれを何故か使わない、ということらしい。エンデヴァーの息子だし、やっぱり炎熱が使えるのか。

使わない理由は、個性を使うのが単に嫌なのかもしれないし、個性に起因する身体構造の問題があるかもしれない、それは私には分からない。轟君の表情を見る限り、少なくとも軽い気持ちではないのだと思う。けど、どうも緑谷君は前者が真実に近いと感じ取ったらしく、それが我慢ならない緑谷君は彼に炎熱を使わせようと心の底から叫んだ、ということなのだろう……。

 

……いやいや、自分で言っておいてなんだけど、色々おかしくないだろうか。なぜ炎熱を使わせたがるのだろう。

 

「……緑谷君何がしたいのかしら……」

「ほむらが試合中に喋った!?めっずらしー!」

 

さやかの茶化しに対して、「何を言っているの」と言おうとしたけれど、口を噤む。実際私は今まで何も試合中に言わなかった。

 

「……悪かったわね。」

「いやいや、まどか以外に関心が向いた超貴重なシーンだよ!この調子でもっと試合見るべきだよ、ほむら!」

「ま、まあ、あんなの見てると……そりゃあ、気になるわよねえ。」

 

改変前の世界だと明らかに後遺症が残りそうなレベルでボロボロな彼は、依然強い意志の光を目に宿していた。その様子に、会場の観客も呑まれ、静かに成り行きを見守っている。

 

「緑谷君のことは、私は……普通に人がいい男の子としか見ていなかったけれど、あんな一面があったなんてね……色々と見直したわ。」

 

マミさんが感心半分呆れ半分でそう言った。

 

「そうだねー……なんていうか、ああいうのはある意味ヒーローらしいんだろうねえ。見た目なかなか怖いけど……あそこまでやれるのはすごいなー……」

 

さやかも同調するようにそう言った。

……いや、私には分からないのだけれど。

 

「二人とも、何を言っているのかしら?」

「何って……緑谷君すごいなーって。」

「すごいというか暴走よ。褒められるような光景では無いと思うのだけれど。」

 

私がそう言うと、二人は少し残念そうにした。

 

「え、もしかして緑谷君が何したいか分からない?」

「……あなたは分かるの?私には馬鹿な事をしでかしているようにしか見えないわ。彼は轟君に炎熱を使わせようとしているようだけれど……そんなことをしたら、彼の言う通り氷結も再び強力になってしまって、ますます緑谷君は不利になる。そもそもどうして炎熱を使わせたいのかしら……彼にだって何か事情があるみたいだし、ふざけて体育祭に参加しているようには見えないわ。」

「はあー……そうかあ……わかった。よし、このさやかちゃんが人の心がわからないほむほむの為に解説をしてあげよう!」

 

美樹さやかは指を立て、教師の真似事をし始めた。

 

「まず轟君の表情をご覧ください!迷っていそうな顔をしてますね?」

 

まあ……そう言われればそう見える。体を自己破壊しながら攻撃してくる相手に対しての恐怖、だけではなさそうだ。

 

「そして緑谷君のセリフをよく聞いて!なんて言っているでしょーか?」

 

 

……なんとなく癪だけど、さやかの言う通り緑谷君の言うことに集中してみる。

 

 

「期待に……応えたいんだ!笑って、応えられるようなかっこいいヒーローに、なりたいんだ!!!」

「だから、全力でやってんだ、皆!君の境遇も、君の決心も、僕なんかにはかり知れるもんなんかじゃない。でも……全力を出さないで一番になって完全否定なんて、フザけるなって今は思ってる!」

「だから……僕は勝つ!君を越えて!!!」

 

想いが籠っているのは分かる。この体育祭の場、ヒーローとしての人生が掛かった人も多いのだろう。けど、あそこまでやらなくても……

 

「要するに舐められた状態で戦われるのが悔しい……という感じかしらね。負けて恥をかくのは轟くんなのだからそっとしておけばいいのに……」

「そういうのもあるかもだけどちがーう!入試の時にまどかから聞いた緑谷の行動を思い出して!覚悟ガンギマリ男って言ったでしょ、私!」

 

確か……巨大仮想(ヴィラン)に潰されそうな人を見かけて、咄嗟に個性を使ってそのロボットを破壊したんだっけか。当然腕は見るに堪えないことになった。さらにその時、彼は全然ポイントが稼げていない状態で、その状態で他人を助けるなんて……と、まどかが困惑と称賛が混じりながら話してくれた。

 

…………え、じゃあ、入試の時と同じように、そういうことなの?

 

「…………あれ、もしかして悩んでいる轟君を助けようとしてるってことなの?」

「はいだいせーかい!ほら、少年漫画でお約束的なアレだよ!目を覚ませバカヤローパーンチ!みたいなやつ!」

「美樹さん、少年漫画を読むのかしら?意外ねえ。」

「あー、まあ昔恭介に紹介されてちょっとね。」

 

……とりあえず、何が起こっているかを私は理解できた……と思う。けれど、まどかと魔法少女以外のことに興味がない私は彼に共感しにくい。彼にとって轟君がそれほど親しい間柄なら別だけれど。

でも、過去に彼と似たような行動をする人は多く見た。ループ中の美樹さやかのような、新人の魔法少女に多い。特に「魔女を倒して人々を守る気高い魔法少女になるんだ!」と意気込んでいる子ほど、後先考えず人を襲っている魔女に突っ込むのだ。

 

そして、あっさりと死んでしまう。

 

さやかの場合は恋の話も絡んで特に死にやすかったけれど、彼女でなくても例えば他の地域に出張してみたときに、そういう話をよく聞いた。……ワルプルギスの夜に立ち向かった数多のまどかも、似たようなものかもしれない。

 

「彼、ヒーロー活動一年持つかしらね。」

「はぁ!?ちょ、ちょっとなによそれ!言い方酷くない!?」

(彼、こんな平和な世界だから今まで生きてこられたのよ。魔法少女の戦いの頃を思い起こして見なさい。後先考えずに突っ込んだら死ぬ、あなただって使命感に燃えてとか、逆に自暴自棄になって迂闊な行動取ったことあるでしょう?私がいなかったら死んでいた時もあったわよね。)

(うっ……)

 

いつかの世界線のように、自暴自棄になって死亡……なんてことにならないように最後のループでは色々対策を打ったけれど、それでもヤケになって魔女に突撃した記憶はあるさやかは苦い顔をした。

 

(この世界では……彼が飛び出して助けないといけない対象がそんなにいないから、魔女ほどの危険が無いから今まで怪我もせずにいられたけれど、これからはどうかしらね。)

(暁美さん……私も緑谷君の何もかもを肯定するわけじゃないけれど……そんなに否定しなくても。ここは魔女がいる世界とは違うのだし、彼みたいな勇ましい人の活躍できる場所もあると思うのよ。ああいう風に人を助けることに全力を出せる人、そうそういないわよ?人々がお互いに助け合わない世界なんて、嫌でしょう?)

(……)

 

少しだけムキになって否定してしまったことを自覚した私は、黙ることにした。頭の中では「人を助けてるの、この世界だとヒーローが多すぎない?」って言葉も浮かんだけれど、そもそも言い返すことがなんとなく負けな気がした。

 

試合が進んでいくにつれ、緑谷君はボロボロになっていき、轟君は感情が昂っていった。彼の出す氷の威力が弱まっていっているから、緑谷君の推測は当たっているのだろう。

そして、彼は轟君の心の鍵をこじ開ける。

 

「君の!力じゃないか!!!」

 

それを聞いた直後、轟君の左側から炎が吹きあがる。緑谷くんは痛みに歪みながらの心からの笑みを浮かべ、轟君も感謝と解放のような、さわやかだけど全力の笑みを浮かべる。彼の身体から、霜と迷いが立ち消えて行く。

彼の身を削る叫びは実を結び、彼の望む結果となったのだろう、たとえ試合に大いに不利になったとしても。そんなことは、彼の頭にはこれっぽっちもないようだった。

 

この世界では、彼はやはり生きていけるのだな、と心に引っかかるものがありつつもその姿を眺めていると……

 

「焦凍ォォォォ!!!」

 

突然野太い声が響く。見ると観客席にエンデヴァーがいた。息子の炎を見て、まるで欲望に塗れたような凄絶で嫌な笑みを浮かべている。

階段を降りながら、エンデヴァーは威圧感のある大声で轟君に語り掛ける。

 

「やっと己を受け入れたか!!そうだ!!!良いぞ!!ここからがお前の始まり!!俺の血をもって俺を越えていき…俺の野望をお前が果たせ!!」

 

……

 

…………これ、轟君が自分の炎を嫌っているの、父親のエンデヴァーのせいではないのだろうか。

彼の家庭事情は全く知らないけれど……『俺の血をもって』とか、不穏でしかない。幼少期に虐待みたいな炎の訓練でもさせたんじゃないだろうか。さやかとマミさんも同じ考えの様で、エンデヴァーに少し嫌悪のある視線を向けている。

 

まったく、嫌なものを見てしまって、爽やかだった気分が台無し。と、一瞬思った。

 

そして、私、緑谷君の行動を見て爽やかに感じたんだな、と感じた。決して善人ではない私にこんな感情があったなんて、と。自分の人間らしさに、すこしだけ嬉しくなってしまった。同時にちょっと恥ずかしくもあった。

 

「あー……他人の為に力を使う人間って、やっぱりあれくらい出来ないと向いてないのかなあ。」

 

さやかが何かを思いながら私を見ることなくそう聞いた。これだけじゃ意味がよく分からない。

 

「さやか?」

(恭介の為に私魔法少女になったけどさ……はあ、嫌な思い出だけど、結局見返りってのはどうしても求めちゃうもんなんだよね、普通の人間って。)

(そうね。多かれ少なかれ、人は自己利益というものと無縁ではいられないと思うわ。)

(私、あの時は私が普通の人間だってこと頭から抜けてたし、普通の人間の事、正直甘く見てた。……この世界でもそうだけど、やっぱり他人の治癒なんて早々できないし。そういう力って、やっぱり普通じゃない人が持つべきなんだろうね。例えばあんなことする緑谷君。)

 

あんなこと、とは体をボロボロにしていることだろう。治せる保証がないはずなのに、色々とやりすぎだ。

 

(緑谷君なら、助けた人から無視……拒絶とかされてもなんか平気そう。……いや、流石に平気じゃないかもしれないけど、なんか私みたいに絶望しなさそうっていう謎の信頼があるわ……少なくとも魔法少女じゃない頃の私だったらあんなの絶対ムリ。)

(そうかしらね……正直私はあまり想像できないわ。むしろ普段から我慢していて、ふとしたきっかけでそれが爆発してしまうタイプに見えるわよ。)

(うーん……そういう気もするけどね……いや、そうかも?ほむらと緑谷君って似たとこあるし。)

(何よ、私爆発なんかしないわ。)

(うっそだー、結構怒りっぽいよほむらー。)

(殴るわよ。)

(あはは、まあ勘弁してって。でも似てるってのは本当じゃないかな?あんなに必死に頑張るあたり。)

 

緑谷君と私が似てるって、ふざけて言っているのかと思ったら結構さやかの本音らしい。

正直心外だ。私とあの気迫で身を犠牲にする緑谷君はいくら何でも似てないと思う。他人の為にとはいってもあんな風にはならないはず。

 

「わ、私あんなんじゃ」

 

言いかけたその時、轟音が響く。そのせいで、この会話は立ち消えになってしまった。

 

試合が最終局面となっていた。個性を使って飛び出した緑谷君。炎を全開にして迎え撃つ轟君。ぶつかる直前に、衝撃緩和の為なのかコンクリートが間に立ち上がったけれど、それを粉砕するレベルの大爆発が起こる。

土煙が発生したとき、ステージに残っていたのは轟君。緑谷君は爆発で吹き飛ばされ壁に衝突したらしく、ステージ外の壁にもたれかかっていた。

 

勝者は轟君だけど、彼は勝利の喜びではなく感謝に似た何かで緑谷君を見ていた。

……後で思い返してみても、私はあんなんじゃないと思う。

 

 

「準々決勝第四回戦!ヒーロー科、飯田天哉!バーサス!君、日曜の朝にアニメに出てなかった?普通科、鹿目まどか!」

 

ステージに立つ飯田は、当然集中を高めようとしているが、しかしまさかの人物がまさかの状態でここに立っている戸惑いを隠せなかった。

 

「うむむ……まさか普通科の君がここに立つとは……全く想定外だ。」

「あはは……よ、よろしくおねがいします。」

「ああ、よろしく頼む。」

 

飯田天哉にとって、鹿目まどかは良き友人で在ろうという相手だった。将来ヒーローとして人助けをする事になるのに、ヒーロー科ばかり友達でいいのかという麗日お茶子からの指摘はハッとするものだった。縁があった彼女たちと会話してみたところ、確かにヒーロー科の人々とはものの考え方が大きく異なった。そこから、これもヒーローになるための立派な糧になる、という一種の打算を含んだ付き合いが始まる。鹿目まどかのイメージは、まさにクラスにいる大人しめの女子の代表格で、ヒーローとして彼女のような存在を守れる人間にならねば、というちょっとした決意も伴って。

 

だからこうして、越えられるかもわからない壁として立ちはだかって来るとは全く予想しておらず、どういう気持ちで臨むべきかいまいち決めあぐねている。

 

後ろに向かって手を振る彼女。見ると、普通科の生徒たちがまどかの顔が描かれた旗を持って彼女を応援しているのが見えた。巴マミが彼らにその旗を配っているのも見える。

 

鹿目まどかは良い友人を持っているのだなと思い、ほんの少しあった迷いを頭から追い出し、不甲斐ない戦いだけはしないようにせねばと切り替える。

 

「……一応言っておくが、僕とて将来がかかっているので、対(ヴィラン)にするような暴力的行動に出ることを許してほしい。今更言うことでもないだろうが……」

「あ、うん。こんな大舞台だもんね、みんなそんな感じなのは分かってるから、気にしないでいいよ!」

「ああ、感謝する。しかし……君の個性は……」

「あはは……沢山の人に聞かれるけどけど、ごめんね。本当に突然出来るようになったとしか言えないの。」

「そ、そうか……」

 

飯田からしても、彼女の個性はまったくもって不思議なもので、自分が今立てている作戦が本当に有効か自信がない。おおよそ身体能力と弓矢の生成が出来ることが主なのだが、細かくみると何が起こっているのか分からず首をかしげる場面もあった。分析が趣味の緑谷と彼女の個性について相談しても、やはり正体がよく分からないという結論になり、そのような正体不明の相手に立ち向かえるのか不安となってしまう。

そんな個性に加え、彼女自身なぜか戦い慣れているように見えるのだ。あの爆豪相手にやり合ったのだから間違いない。本人曰く「なんとなく個性で出来るようになったみたい」らしいが、本当にそうなのか。実はあの姿になったことは過去に何度もあって、戦いの訓練でもしたのか。少なくとも今考えても結論は出ないだろうが、それでもそんな疑問が時々頭を掠めるのだった。

 

(こんな時、どう戦うのがヒーローとして相応しいのか……いや。先ほどの緑谷君の戦いを見れば、おのずとわかることか。全力で、ベストを尽くす。僕にできることを、すべて出し切るんだ。兄さん……見ていてくれ!)

 

深呼吸をして集中力を高め、尊敬する兄を心に浮かべた瞬間、実況が試合開始を宣言した。

 

「試合、スタート!」

「レシプロ・バースト!!!」

「まず変身……は、はや、後ろ!?」

 

飯田の作戦は速攻だ。とにかく相手に何もさせずに場外へ押し出す。まどかが最初に変身することによる隙を予想しての選択だった。

案の定、最初に変身したまどかは彼の速攻に先手を取れず、後ろに回られることを許してしまった。クラウチングスタートの姿勢から彼女の後ろに回り込むまでの時間は一秒にも満たない。

彼のレシプロバーストは、個性の足のエンジン機構にあるトルクの回転数を無理に上げ、一時的な超加速を可能にするもの。代償として、この状態は十秒ほどしか持たずその後しばらく個性が使えなくなってしまうが、このまま何事も無ければまどかを場外へ押し出せるはずだ。

 

「うおおおおお!!!!……!?!?」

「え、えええええ!!!!」

 

まどかの肩を掴んで必死に押し出す飯田。しかし、ある瞬間から強烈な抵抗を感じる。同時に、ドガガガガという何かを削るような音が聞こえてきた。

 

(!?な、なんだ、彼女を押し出すのに凄まじい抵抗が!?まずい、減速してしまっている!)

 

猛烈な抵抗による減速は、10秒以内に彼女をステージ外へ押し出せるかかなり不安にさせるほどだった。

 

(いったいこの抵抗はなんなんだ……って、なんだそれは!?)

「と、止まれーーーーー!!!」

 

可愛らしい声で飯田の個性に対抗できる強烈な抵抗を生み出すまどか。

抵抗の正体は、彼女の武器だった。弓かどうかも怪しい個性産のその武器は、なぜかステッキ状になりコンクリートの地面へ突き刺されていた。後ろを見れば、地面を掘った跡が一直線になっており、つまりそのステッキは杭のような役割を果たしている。飯田のエンジンの出力ならば無理矢理押し出せるステッキの細さだったが、突き刺された先の地面は桃色に発光しており、個性による何か特殊な力が働いているようだった。

 

(くっ……ダメだ、いったんレシプロを解いて体勢を立て直す!)

 

減速度合いからしてこのままでは押し出せないと判断した飯田は、バックステップでいったん距離を取る。飯田から解放されたまどかは、ホッとした様子でステージの端から離れた。

飯田はこの落ち着いた状況から、どうすれば勝てるかを思考する。

 

(レシプロはおおよそ7秒持続したはずだ。まだ個性は使えるが、かなりガタが来てしまっている。長期戦は避けなければ。……騎馬戦の様子からして、鹿目君に空中戦を仕掛けるべきではないな、矢で迎撃される可能性が高いだろう。僕のアドバンテージは速度。地に足を付けつつ、それを活かした戦い…………!!!仕掛けてくる!)

「えーいっ!」

 

可愛らしい楽しげな声で放たれてたのは、数十の光る矢。観客にとっては美しいショーにすらなっているが、狙われる側にとっては恐ろしい光景だった。それらは最初は方向がバラバラだったが、次第に飯田のいる方向に収束し始める。

 

「う、うおおおおお!!!」

 

大急ぎでその場を離れる飯田。彼の全力疾走には流石に矢のホーミングは追いつかない。走っていれば、彼女の矢に当たることは早々ないだろう。

だが、それで飯田が有利になったわけではない。

 

「鹿目まどか、矢を連射、連射、連射ァ!放たれた矢は飯田を追いかけるお手軽仕様だ!しかぁし、飯田の脚力には追いつかず今のところ命中しない!これはアレだな、自機狙いってヤツか!」

「なんだそれ。……しかし、このままだと飯田はキツイな。」

「おお、流石にそれは俺っちでも分かるぜ!鹿目まどかはその場から動かず矢を撃ってるだけだが、飯田はメッチャ走らされてるもんな!」

「基礎体力では飯田の方に分がある……筈だが、それでもこのままだとまずいな。」

「さあて、逃げ回る飯田はこの逆境をどうやって切り抜けるのかァ!?」

 

飯田はまったくもってその通りだと、矢による美しい爆破の中で時折躓きながらも心の中で悪態をつく。

 

(何か手は……足を止めれば撃たれる、しかし足を動かし続けていると当たる!あのホーミングは個性無しの走りでは避けらない……どうする!?こういう時、兄なら、緑谷君なら、どうする……!?)

 

走りながら必死に思考する飯田の脳裏に、ふと、一つの場面が浮かんだ。

 

(そうだ……先の、緑谷君の戦い。あれほどボロボロになっても、彼は、緑谷君は轟君に想いを届けようと藻掻いた。たとえ体がボロボロになろうとも……!)

 

一つ前の試合で、緑谷出久は手術が必要になるほどに体を壊してしまった。その戦いを見ていた飯田は、感動よりも心配が勝るほどにある種悲惨な戦いだった。

しかし今一度思い返すと、あの戦いで見るべきことは決して悲惨さではない。

 

(なぜ、彼はあそこまで戦えたんだ?……そうだ、それが、緑谷君だったじゃないか。僕の恥ずかしい勘違いだったが、入試の時、彼は試験の構造を知らなかったにも関わらず、麗日君を助けようとした。その姿を、痛みを前にしてなお飛び込む勇気を、僕は見習わなければならないんだ……!)

 

飯田の目に、一つの意志が宿る。

そして彼は、今までまどかを円状に走っていたのを、90度方向転換した。

 

「ああーっと!飯田、方向転換!一気に鹿目に向かったが、多分それ真正面から撃たれるぞー!」

 

実際、これは考え無しの突撃ではない。例えばまどかと爆豪の戦いで、大技を喰らった彼は意識を保っていた。今まで、彼女の攻撃は得体が知れず無意識的に避けていた。しかし、喰らうと即座に戦闘不能になるものではないのだ。

 

「リスクを恐れて、何がヒーローかあああああ!!!」

 

やけを起こした突撃かもしれないが、しかしこれ以外に勝機のある作戦はない。何より、多少の傷を負うことすら避けて優勝しようなんて甘い考えは捨てるべきだと、飯田は決意した。

 

当然まどかは一直線に向かってくる飯田に向かって弓を向け、放つ。

 

そして、腕をクロスさせるという最低限の防御を挟んで、飯田は矢による爆発を受け止めた。

その瞬間、全身がシェイクされるような衝撃を受ける、が、自分の意識があることを認識した飯田は儲けものだとニヤリと笑った。

 

(痛い!……が、思ったほどではない!ここで決める!)

 

「レシプロ・バーストオオオォォォ!!!」

 

矢が命中した次の瞬間に、彼は回転数を引き上げる。ここまでの個性の酷使により、もうエンジンは一秒も持たない。

しかし、その一秒でも勝機につなげることは出来た。

 

「暴力を許してくれ、鹿目君!!!」

「えっ!?グホッ……」

 

エンジンの加速を上乗せした蹴りがまどかの鳩尾にクリーンヒット。このような無茶な攻撃に出るとはまどかは想定していなかったようで、モロに喰らってしまった。そしてそのまま、ステージの端の方まで吹っ飛ばされる。

傍から見ると女子相手にかなり凶悪な攻撃だったが、爆豪の時と違いブーイングが起きず称賛の声がちらほら聞こえたのは、彼が必死に戦ってきたことと、普段の素行のお陰だろう。

しかし、それと同時に飯田のエンジンは煙を噴いた。

 

(くっ……もう個性は使えないか。しかし、これで……いや!)

 

状況を確認した飯田は、まだ油断ならないと気を取り直す。

 

「ああーっと!飯田の強烈な蹴りが炸裂ゥー!!!鳩尾にエグいの入ったな!鹿目まどかは大ダメージで立ち上がれない!しかしそこはまだステージ内だ、殆ど場外一歩手前だがな!さあここからどうなる!?」

 

ぎりぎり場外で止まっていたまどか。しかし蹴りがかなり効いているらしく、せき込んでいるばかりで立ち上がれない。

苦しむ彼女の姿に良心が痛む飯田だが、可哀そうという考えを頭から追い払う。

 

(彼女には悪いが……ここで手を抜くわけにはいかない!彼女を場外へ放り出すまで、油断はしない……!)

 

個性を使わない普通の走りでまどかに近寄っていく飯田。純粋な肉体的痛み、疲弊もあるために片足を引きずるような形となってしまうが、それでもみるみる彼女に近付いていく。

まどかは相変わらずうずくまって動かない。地に着く手は時々ピンク色に光るが、何も起こらない。おそらくは痛みで個性が上手く発動できないのだろう、どうかそのままでいてくれと願いつつ必死に前へ進む。

 

(あと15m……10m……5m……!!!)

 

そして飯田は、ついにまどかに触れる。

 

しかしその瞬間、彼は彼女が小さく呟くのを聞き取った。

 

「……さん直伝の……アロー・トラップ!!!」

「ん?…………!?」

 

直後、飯田は衝撃により脳がショートし、正確に状況が捉えられなくなってしまう。少しすると、何かに激突したような衝撃が再び彼の体を襲った。

 

「ああーっと!飯田のいる場所で再びピンクの爆発が!な、何が起こった!?鹿目は弓を構えていなかったぞ!?」

「一瞬だったが……地面から矢のようなものが出るのが見えた。おそらくうずくまっている時に何か仕込んだのだろうな。」

 

実況により初めて状況を把握する飯田。同時に、浮遊感が消えたことで地面に着地したことを認識する。

 

(そうか、彼女はやはり油断ならない……まさかそんな小細工まで!しかし、僕はまだ、動ける!)

 

彼は無意識に閉じていた目を開けた。

 

そして視界に映り込んだのは、桃色のエネルギーの奔流だった。

 

飯田が吹き飛ばされてから立ち上がるまでは数秒あった。この場の緊張感を考えればあまりに長い時間。その間に、まどかは落ち着いて弓を構え、飯田を矢で撃ったのだ。

 

個性を使えない彼はなす術がなかった。

 

「飯田君、場外!鹿目さんの勝利!」

「や、やったー!」

 

歓声に沸く会場。しかし自分に向けられたものではない。

まるで普通の学校の体育祭で勝利したかのように喜ぶ鹿目まどかを横目に、飯田は下を向いた。

 

(兄さん……ごめん……)

 

成績ベスト8。世間ではエリート扱いされるヒーロー一家の人間としては、誇れる順位ではない。イレギュラーなことがあったせい、などというのは言い訳だと飯田は自らに言い聞かせる。

これを糧にさらに上へ目指さねばと、今回の敗因は何かと考え始めたとき。

 

「飯田君!かっこよかったよ!」

「流石飯田、タダじゃ負けなかったな!」

「矢を正面からぶち抜いたのは男らしかったぜ!」

「さっきプロヒーローが指名したいって言ってたぞ!」

 

A組の裏表のない声。長い付き合いではないが、それでも彼らの人となりを感じ取りつつある飯田は、それに不純物が混じっていないことを確信する。

 

そんな声援に、悔いはないという言葉を抵抗なく自分に認めることができた。




・女子ボコボコ爆豪
感想見て「そういえばコイツずっと女子ボコボコにしてるな……」ってなったので入れてみました

・まどか
一発飯田から貰ってしまう。この時正直かなり油断していた。

・アロー・トラップ
マミさんアニメで地面からリボン出してたし、まどかも頑張れば似たことできるやろたぶん。

・飯田
まあ特殊なことは無く普通に健闘した。
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