個性『魔法少女』   作:Assassss

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高評価、感想、誤字報告ありがとうございます。

まどマギの魔法少女の詳細については独自考察というか独自設定がかなり入ります。


幕間と職場体験編
個性『魔法少女』①


体育祭から数日経過したある平日の昼休み。

 

「鹿目さん、ちょっといいですか?」

「はい、何ですか先生?」

 

鹿目まどかは、普通科C組の担任に話しかけられる。

 

「今日の放課後は空いていますか?」

「ええ、空いてますが……?」

「実は、ヒーロー科の先生が鹿目さんの事を呼んでまして。放課後、時間が取れるなら職員室に来て欲しいとのことなんです。あとジャージに着替えておいて欲しいって……」

「そうですか……分かりました。」

 

そして放課後、言われたとおりにジャージに着替え鹿目まどかは職員室へと向かう。

 

「失礼しまーす。鹿目まどかです。ええと、先生に呼ばれたんですが……」

「来たね。」

 

現れたのは、教員とは思えないほど小汚い服装の男だった。

 

「ヒーロー科一年A組担任の相澤消太だ。よろしくね。」

「は、はいよろしくお願いします。……えーと、」

「よし、グラウンドβに行くぞ。説明は歩きながらする。ついてこい。」

「……え、え?」

 

当然のように説明なしで歩き出す相澤。しかし職員室の出入り口に差し掛かったところで足が止まる。

 

「……君たちは何か用か?」

 

相澤が面識のない女子生徒が二人いた。

 

「美樹さやかです!」

「暁美ほむらです。」

「鹿目まどかの友人か?俺が呼んだのは鹿目だけのはずだが……」

「友達なので、付き添いで来ました!えーと、一緒に行ってもいいですよね?」

「構わんが、邪魔はするなよ。」

 

特に拒否する理由が無い彼は、話が終わるや否や再び歩き出す。

妙にせっかちな彼にまどかは少し戸惑いつつも質問する。

 

「えーと、何の用ですか?」

「ああ。君にはこれからA組の生徒と簡単な模擬試合をしてもらう。」

「え、試合……ですか?」

「何のためにですか?」

 

暁美ほむらが、強引な彼に少しだけ不愉快そうにしながらも聞く。

 

「彼女の個性の詳細を調べるためだ。いつまでも正体不明では、今後何が起るか分からんからな。」

「……まどかは、病院の精密検査では何も出ませんでしたよ。」

「あれじゃとても不十分だ。」

 

彼はほんの少しだけ敵対的な声を出すほむらに構わず説明する。

 

「確かに病院での検査は必要だったし、それによってひとまずの危険がなさそうだということが分かって何よりだ。が、病院で行われている検査というのは個性に依らないものでしかない。超常黎明期以前の検査方法の延長でしかないんだ。個性を使った検査は、ヒーロー活動に免許が必要なのと同様に専用の医療免許が必要だ。が、医療に役立つ個性を持ち、なおかつその免許を取ることができる人材というのは非常に限られている。リカバリーガールが雄英の屋台骨と言われてるだろう?その両方を兼ね備えた人間は基本的に多忙で、常に重要度の高い相手を選別している。つまり命に関わる深刻な状態の患者だな。現実的なことを言うと高額な医療費を払える人間、地位の高い人間も優先されるし、もう少し優先度が低い所で言うと個性障害で生活に支障をきたしている人間が相手となる。鹿目は見たところ全くの健康体だろう?おそらくそのせいで、受けるように言われた検査は個性に依らない安価な検査だったというわけだ。」

「そ、そうなんですか……」

「だが、俺に言わせれば鹿目への個性による診察はまったくもって必要なものだと思っている。実際、個性の実態を良く把握していなかったがために起こってしまった事故というのはとても多いんだ。すこし状況は違うが、例えば俺のクラスに硬化の個性を持つ生徒がいて、幼少期個性が発現したときに目をこすって切ってしまって、その時の痕が今も顔に残っている。鹿目、体育祭前までの君は、個性発現前の幼児に状況が似ていると言えるだろう。」

「なるほど……」

 

相澤の合理的な説明を、まどかは特に反抗することもなく聞き入れる。さやかも「へー」と漏らしつつ聞いていたが、ほむらはほんの少しだけ顰めた顔を崩さない。

 

「幸運にも君に発現した個性は、誰も傷つけず、まるで今までそれを使って来たかのように制御でき、その上まるでヒーローのようだと持て囃されるほどに強力だった。が、結局のところ君の個性が具体的にどういうものなのかは不明なままだ。もしかしたら君自身も知らないデメリットがあるかもしれない。」

「まあ確かに……じゃ、じゃあその検査が出来る人を呼んだんですか?」

「いや。今回君を呼んだのは、他にもいろいろと同時並行で目的を果たすためだ。まあそれは今説明しても意味はない。さあ、着いたぞ。」

 

グラウンドに到着した4人。そこには、一年A組の生徒が集合していた。彼女たちの存在を見つけるなり、にわかにざわめきだす。

 

「おお、相澤先生来た……ん?あの人、鹿目まどかさん?」

「ああ、体育祭で個性がすごい事になってた人だ。」

「魔法少女ちゃんじゃん!いーなー羨ましーよね!個性だけでコスチュームまでできるなんて!」

「元の状態でもかわいい子だわ、ケロ。」

「来やがったなァ、ピンク髪ィ!!!」

「爆豪は俺が抑えとく!鹿目さんに迷惑かけないようにな!」

「お前ら静かにしろ。普通科にみっともない所見せないでくれよ。」

 

相澤はA組の生徒を眼力で黙らせ、集合させると説明を始める。

 

「さて、任意参加としたにも関わらず集まってくれたことに感謝しよう。」

 

彼は、A組に「今日は放課後に変則的な戦闘訓練をする予定がある。突発的に決まったために任意参加とする。興味のある者は体操服に着替えグラウンドに集合するように。」と事前に声をかけていた。しかし、任意にも関わらずここにはA組の全員が揃っていた。ひとえに彼らの向上心の高さゆえであろう。

 

「当然知っているだろうが、彼女は鹿目まどかさんだ。これから君たちには、彼女と戦闘訓練を行ってもらう。」

「先生!それは彼女の不思議な個性を調べるためなのでしょうか!?」

 

飯田は直立姿勢で手を真っすぐ上げた。

 

「ちゃんと説明するから落ち着け。まあその通りではある。しかし今回は複数の目的がある。その一つが『雄英施設一般開放プログラム』に向けてだ。」

「『雄英施設一般開放プログラム』……?」

 

生徒が皆頭の上に疑問符を浮かべた。

 

「さて、お前らも知っての通り、この雄英高校は君たちをトップヒーローに育て上げるための最高の環境が整っている。人材も豊富で、施設も充実している。」

「そりゃあもう……初めの頃は逆に使うのためらうくらい高いモノが揃ってるよね。」

「USJとか初めて見たときは、豪華さに正直ビビったよね!」

「で、だ。その施設なんだが、主なユーザーは君たちを含むヒーロー科だ。」

 

確かにそうだと彼らは頷く。

 

「さて。ここで思い出してみて欲しいんだが、お前らはその施設をいつ使っている?」

「えーと、ヒーロー基礎学の時、あと許可を取って放課後訓練をする時くらい……?」

 

ここでA組の多数はこのプログラムの意図に気が付いた。

 

「あー、もしかして、空き時間を埋めようってことですか?」

「そう。雄英には様々な状況を模擬する演習場、体育館が何個もある。そして個々も相当に大規模だ。そんな贅沢な施設が、雄英全体で見ても120人程度のヒーロー科生しか使っていない。」

 

確かに現状はもったいない、という納得が生徒の間で走る。

グラウンドやプールは普通科も使うが、USJなどの演習場は整備の手間も掛かるが為に一般開放されているわけではない。雄英ヒーロー科という有望な生徒に最大限活用されるべく設計されており、誰にでも開放できるほどに雄英の施設の整備は安くない。例えば整備の度にある程度の資材を調達する必要があり、無視できない費用が掛かるのだ。

しかし整備以外の時間はほぼ誰にも使われていないか、数名のヒーロー科生が貸し切りで使っているのが現状で、これを良く思えない人も一定数いるのだった。

 

「俺は、そんな贅沢な施設は決して無駄ではないと思っている。それらを有効活用できる、使うに値するポテンシャルが君たち雄英ヒーロー科生にはあると俺達教師は信じている。が、それはそうとして、そんな贅沢な施設が使われる時間の少ない現状はもったいないと根津校長は考えているようでな。どうせならヒーロー科以外、雄英外の人々にも空き時間に使ってもらおう、というのが『雄英施設一般開放プログラム』だ。まあどうやって使わせるとかは今後の検討事項だがな。」

「なるほど!確かに有意義な試みですね!」

 

飯田の発言に、確かにそうだという声が続く。

 

「で、そのテストの一環として今回鹿目まどかさんに来てもらった。普通科生徒との戦闘記録を取ることで、ヒーロー科以外の生徒を戦わせるとどの程度補修にコストが掛かるのか、などの簡単な指標を得るのが目的の一つだ。周りに機材があるのが見えるだろう?」

 

あたりを見渡すと、見慣れないカメラやマイクがあった。

 

「まあ個性の件を考えれば、鹿目まどかがこの試金石となるのは少々疑問が残るが……先ほどにも言った通り、今回は他の目的もあるからな。不足があるならまた別のテストをすればいい、別の日に他の普通科の生徒もこのプログラムに参加予定だ。というわけで、これから君たちの何人かには彼女と簡単な戦闘訓練をしてもらう。ルールはシンプル。体育祭の最終種目のガチバトルと全く同じだ。ただし今回は加減しろよ?リカバリーガールの世話になりそうなレベルで怪我しそうなら止めさせる。また、試合中に個性調査の為に中断を指示する可能性が高い。そして、戦闘回数は5回までだ。説明は以上だ。質問はあるか?」

「俺を最初に戦わせろォ!!!」

「爆豪、お前は今回無しだ。」

「ハア!?!?!?なんでだよ!!!」

「確かに、コイツは絶対リカバリーガールの仕事を増やすな!」

「どういうことだよテメエゴラ!!!」

「希望者は……多いな。委員長、適当に取りまとめてくれ。」

 

当然のようにA組は全員が手を挙げた。

 

「分かりました!委員長として、5人を迅速に選出して見せましょう!」

「ハイ!俺戦いたいです!」

「俺も!」

「ウチも戦いたいっす!」

「ほぼ全員か!まるで委員長決めの時の様だ……!」

 

話し合い、というよりも投票を始めた彼らを眺めつつ、相澤はここに至る経緯を思い返していた。

 

 

「鹿目まどかの個性を調べて欲しい?」

 

前日、相澤は校長室に呼び出され、そのように依頼された。しかし彼としては、必要性が理解できない。

しかし、この校長の個性は「ハイスペック」。人を超える頭脳を持つ彼がそう言うのだから必ず合理的な理由があるだろうと思い、続きを促す。

 

「どういうことでしょうか。」

「まず結論から言うと、彼女は何かを隠しているのさ。」

「そうかもしれませんが……」

 

彼としても、彼女の個性は不思議ですこし羨ましくさえ思う。彼女の言うところでは、あの力は体育祭の日に突然発現したという。しかしその後、鹿目まどかは何年もその個性と一緒だったかのように力を使いこなし、ヒーロー科の生徒たちと互角以上に戦った。彼としても純粋に驚いた戦闘能力だった。なぜそこまで出来るのかと聞かれれば、「個性でやり方が分かる」とまどかは答えた。

 

相澤はその説明を信じていない。個性とは身体能力の一部で、個性が経験や習熟を与えたなどという例は極めて少ない。それが出来る個性が突然芽生えたなどというとんでもない偶然を認めたとしても、彼女の弓矢を生成する能力や、強化された身体機能など、精神干渉と関係ない事象が多すぎる。超人社会でも強力とされる能力が一度に突然複数発現したなどという言い訳を信じるのならば、世の中のほぼすべての謎を偶然で片付けなければいけないだろう。

 

しかし、相澤としては彼女の件を深堀りする気はなかった。理由は複数ある。まず、彼女はヒーロー科の生徒ではない。彼女が困っていたり、道を踏み外しそうなのであれば、最初に対処すべきは自分ではなく彼女のクラスの担任の教師、または彼女の友人、家族であると考えていた。そもそも、彼女が発現した個性で困っていたり悪用をしたなどという話を彼は聞いていない。

そしてもう一つ、現代社会において個性はしばしばセンシティブな問題をはらむ。異形型の見た目の差別問題、個性の性質により他者を傷つけ(ヴィラン)となってしまった人々など、自分の個性で被害を被る例は少なくない。個性というのは、時としてそんな壮絶な苦労を含むのだ。相澤の考えでは、個性の問題に取り組むならば徹底的にやるべきで、中途半端に対処することはかえって事態を悪化させる。ただでさえ問題児の多い今年のヒーロー科A組の対応で今の相澤は忙しい。中途半端になってしまう可能性は高いだろう。

 

「順に説明するのさ。今から流すのは、体育祭での轟君との試合の映像だよ。」

 

根津がリモコンを捜査すると、部屋にあったモニターが起動し、鹿目まどかと轟焦凍の試合が流れ出す。

 

『魔法少女は……絶望を打ち破り、希望を振りまく存在です!』

『私は魔法少女だから!これはみんなに希望を届ける光!マジカル・スコール!!!』

 

ヒーローの技名のような宣言を繰り返し、ヒーローのように華麗な鹿目まどか。下手なヒーローよりもよっぽどヒーローらしいというのが今の彼女への専らの評判となっている。

しかし、相澤には根津がこれを見せる意図が分からない。彼も何回も見た映像だ。

 

「……この映像がどうしたのですか?校長。」

「発言内容に注目してほしいのさ。何か気付くことは無いかい?」

「……すみません、具体的に指定してくれないと俺には分かりかねます。」

「自身が『希望を振りまく存在』であることを強調してアピールしているだろう?これは彼女のクラスの生徒から聞き取り調査した話なんだけれど、あの体育祭で彼女にはちょっとしたファンがついたらしくてね。彼女はそのような人々を邪険に扱うこと無く比較的丁寧に対応しているとのことさ。それで、その時に彼女が高確率で聞き出すことがあるらしい。『魔法少女の私はどうだった?』『魔法少女の私を見て明るい気分になれた?』というものさ。どうも彼女は、『魔法少女』というものに強いこだわりがあるらしい。」

「本人の趣味でしょう。差別的な言い方ですが、強い個性を持つ者ほど自分に自信を持っている、という傾向はあるものです。」

「君の言う通りさ。確かに、体育祭の時の彼女は自信を持っているように見える。入試の時もそうだったけれど、以前は比較的遠慮がちな生徒だったようだね。そんな彼女が強い個性を手にして、品の無い言い方をすれば『勝ち組』になったことで自信を付けた。確かに自然な推理だろう。しかし、彼女はそういった者達と異なるところがあることを私独自の調査で発見したのさ。」

「独自の調査……ですか。」

「僕は雄英高校の校長だからね。ヒーロー科のみならず、全ての生徒の監督責任があるのだから調べるのは当然さ。そして掴んだことなんだけれど……どうも彼女の謙遜癖、普段の彼女においては変わっていないらしいんだ。しかし、個性の姿となると途端に良く見せたがる。」

「……なるほど、少し妙ですね。個性による自己肥大は、大抵個性に依らない領域への認識にも及ぶ。あの個性と共にずっと人生を歩んできた人間ならば、ですが。」

「その通り。彼女の個性への認識は、どうも他の人々と少し違うようだ。あ、一応言っておくけれど、彼女は個性のことを以前から知っていたものと決め打ちして僕は話しているよ。例えば障害物競走の終わり際で見せた慌てようは、『突然知らない自分になった』ではなく『見せてはいけない姿になってしまった』という反応に間違いないのさ。どう見てもね。」

 

人間よりも知能の高い根津なのだから下手な言い訳が通用しないのは当然だが、彼女の自己申告がまったくもって信じられていないことを少しだけ不憫に思いつつも、相澤は根津の考えに頷く。

 

「となると、次はどうして彼女がそんな自己認識しているか、という話だけれど……どうも僕には、彼女があの個性を後天的に何かから与えられたように見えるのさ。」

「……後天的に?」

「そうさ。物心ついた時は大した個性じゃなかったけれど、ある時自分の外側から、あの強い力が与えられた。だから、今の周りがチヤホヤしてくれる状況は自分ではなく個性によるものだと認識できる。自分がすごいのではなく、自分の個性がすごいのだ、とね。」

 

あまり表立って言う話ではないが、現代社会では強い個性を持っている人ほど高い社会的地位に就く傾向はある。個性の使用は禁じられていると言っても、例えば「人よりもミスなく作業をこなせる個性」ならばもはや禁止のしようがない。そんな人は常時無制限に個性を使えるようなもので、ホワイトカラーの職に就くのは有利だ。学校のペーパーテストの結果も良くなるだろう。

そのような人間は、頭脳労働への認識が他者と大いに異なる。小学校などからそういう経験を積めば、「他の人は難しいとか言うけど、こんな作業できるのが当たり前!」という認識になる。そうなると例えば「人より頭脳労働にミスが目立ってしまうが、単純作業ならば長時間続けられる個性」の人と一緒に仕事をすることになると、その人に対して「なんでこの人こんな簡単な作業すらできないんだ?やる気がないのか?」となってしまう。個性抜きなら同等の能力であるかもしれないのに、個性ではなく、人間の根本的な能力差や、やる気の違いという発想になってしまうのだ。

もちろんこれは例えばの話だ。実際にこんなことを表立っては言わないだろうが、しかしそのような認識の不一致によるトラブルは時々発生する。これは超常黎明期以前からあった人間の欠陥と言える。人は自分の認識の及ばない世界に対して残念ながらそう簡単には理解できないし、そもそも理解する気も、理解しようという発想すら起きない。

 

ちなみにこの話は、種族が異なるというだけで虐待じみた扱いを人間から受けてきた根津としてはたびたび特に力を入れて主張する話である。

 

もし鹿目まどかがあの強力な個性を生来から所持していたのなら、多少なりとも「ヒーロー科はエリートらしいけれど、正直大して強くなさそうだよね。」という汚い認識を持っている方が不自然ではない。しかし根津が調べたところでは、彼女は「私の個性は強いのだろうけれど、ヒーロー科の人たちはやっぱりすごい。」という態度を一貫して崩さないらしい。

単に彼女が取り繕っているだけかもしれないし、彼女が他者に敬意を払える素晴らしい人間なのかもしれない。しかし人間の負の面をよく知っている根津としては、どうしてもこの謙虚さに引っかかりを覚えるのだ。

 

「……確かに不自然ですね。そもそも入試の時も周りに対してかなり遠慮していた態度だったのを覚えています。やる気が無くふざけていた、という可能性もありますが……。」

「入試の時の様子も確かに不自然だったね。特に0P仮想(ヴィラン)に相対したときさ。あの落ち着きよう、自身があれほど強力な個性を持っていると認識していれば、納得できるだろう?」

「そういえば……そうですね。」

 

相澤は再び納得する。入試審査の時、教員が皆「あれほど危機感の無い態度は問題だ」として減点対象にしたものだ。しかしもしあの強力な個性を認識していたのならば恐れていないのも頷ける。ただそうすると、そもそもなぜ使わなかったのか、なぜ雄英を受けたのかが分からなくなるが。

 

「さて、彼女が後天的に力を得たと仮定してだ。その場合、我々は彼女に何があったと推測できるか、という話に移る訳だけれど。」

「……俺には皆目見当が……いや、まさか、あの(ヴィラン)ですか、校長?」

「そうさ。AFO(オール・フォー・ワン)。君も知っているはずだよ。」

 

相澤はごく最近その存在を警察から知らされた。思い浮かべる(ヴィラン)の凶悪さに思わず気が張りつめる。

 

AFOの存在は、USJ事件にて存在が確実視されて以降、一部の信頼できるプロヒーローに極秘裏に存在が伝えられていた。発見し次第その場から逃げ報告を。仮に戦闘となっても自身の生存最優先、また捕縛ではなく殺害となっても一切の責を追求しない、と。ヒーロー公安委員会からのそのなりふり構わない姿勢に、相澤はうすら寒いものを感じていた。この(ヴィラン)に関して相澤は特別な情報は持っていないが、しかしその強さや性格を鑑みれば、それもやむなしと納得してしまう。超常黎明期に人々を恐怖でまとめ上げ、歯向かう者を片端から殺し悪逆の限りを尽くした悪の親玉なのだから。

ちなみに正確というのは、実は彼は一年ほど前に彼と思しき人物に接触したことがあるのだ。ほとんど言葉は交わしていないが、異様に嫌悪感を掻き立てる喋りを覚えている。

 

そして、AFOの個性は、個性を奪い、与えることができる個性。後天的に与えられたというのならば、その要因としてこの悪魔が関わっていることは考慮するべきだ。

 

「……なるほど、校長が彼女について憂慮する理由は分かりました。」

「ありがとう。しかし……自分で言っておいてアレだけど、そうだとしたら一体何のために彼女に個性を与えたのか、僕は見当がつかないんだよね。調べてみたところ、彼女の家庭は母親がキャリアウーマンの円満な家庭のようだったよ。AFOは、その昔有用な個性を恵まれない人間に与えたり、逆に持ち主に害をなす個性を取り除くことで恩を売り、人々を支配していったと聞く。しかし……彼女がそれを受ける理由なんて無いはずなんだ。ましてや、あんな強力な個性を与えるなんてね。もともと『ピンク・マテリアル』なんていうなかなか有用そうな個性を持っていたはずなのに。」

「ふむ……」

 

根津は珍しく困ったように言った。相澤としても違和感はある。あれほど有用な個性ならば、自身の陣営の為に取っておくのが普通だ。

 

「しかしそれでも、AFOの件は考えるべき可能性ではある。というわけで、私達は彼女の個性がどのようなものなのかを調べるべきなのさ。そして万が一AFOと関わっているのならば、その支配から彼女を助け出す必要がある、ヒーローとして。そうだろう?」

「……わかりました。では、どうやって調べるかですが」

「ああ。簡単な模擬戦闘をさせるのが一番だろう?」

「そうですね。で、念のために『抹消』の俺ですか。」

 

彼の個性『抹消』は、見た人の個性の発動を封じることができる。その万能性から、予測困難な個性の暴発が予想される案件はとりあえず彼があてがわれる傾向すらあった。

 

「それもあるけれど、どうもA組の一部の生徒と彼女が仲が良いらしくてね。知っている顔がいた方が、彼女もやりやすいだろう。」

「なるほど。しかし、調べるとなれば相応に時間や回数が欲しい所です。彼女は普通科でしょう?なんども放課後などに呼び出すのは少々……」

「ああ、それなら『雄英施設一般開放プログラム』を名目にすればいい。」

 

根津は彼にそのプログラムの内容を説明した。

 

「……というわけで、彼女に『ヒーロー科と縁のある君に、このプログラムを手伝ってほしい』とか、『普通科の友達も連れて、プログラムのテスターとなってほしい』と言えばいいのさ。君が気になっている心操君もついでに参加させてあげればいいだろう。」

「助かります。しかし、わざわざこの件の為にこんなプログラムを?」

「もともとコストパフォーマンスが微妙で迷っていた案件だからね。構わないのさ。」

「そうですか……分かりました。」

 

相澤は部屋を出る。それを見送りながら、根津は後ろ手を組みながら、窓の外を見て思考する。

 

(じきに彼は、鹿目まどかの個性とあの佐倉杏子の類似性に気が付くだろう。形態は違うが、あの『魔法少女』ともいうべき個性の万能性、特徴は似通っている。なにかきな臭い匂いがするね。現段階ではAFOとの関係を調べるのが最優先……か。)

 

まったくもって根拠が薄いために口にすらしなかった推測だが、しかしずっと頭の中を渦巻いて離れない疑惑だった。

 

 

そして今、相澤の目の前では切島鋭児郎と鹿目まどかが相対していた。

 

「対戦よろしくお願いしまあす!鹿目さん、俺をお前の矢で全力で撃ってくれ!」

「え、えええ!?」

「頼む!俺の個性『硬化』は、打たれれば打たれるほどに硬くなる個性だ。その不思議なピンクの矢に耐えることで、俺はさらなる硬さを手に入れる!」

「そ、そうなんだ……えーっと、じゃあ、ちゃんと構えてね。」

「まどかー!ぶち抜く勢いで頑張れー!」

「いやぶち抜いたらダメだろ美樹さん。」

 

友人であるという美樹さやかと暁美ほむらに見守られながら、変身した鹿目まどかは弓矢に何かを「溜め」た。矢の先にピンク色の光が集まる。

真剣勝負ならばここで水を差すようなことはするべきではないが、それほど重い場面ではないため相澤は口を挟む。

 

「……今君は何を「溜め」てるんだ?」

「え?何……って?」

「あー、つまり例えば、オールマイトなら攻撃の際に『力』を溜めるし、エンデヴァーなら『熱』を溜める。で、君は今、威力を上げるために矢の先にピンク色の何かを溜めているだろう?それは何か、と聞いているんだ。」

「……なんか……エネルギー?」

 

困ったような顔で彼女はそう表現した。言語化能力がさほど高くない彼女にこれ以上訊いても仕方ないと判断した彼は質問を打ち切る。

 

「……中断して悪かった。続けてくれ。」

「あ、はい。じゃあ切島君、行くよ!」

「ッシャア!来い!」

 

彼女の弓から強力な光を伴う矢が放たれ、腕をクロスさせガチガチに固めていた切島に直撃。派手な爆発音とともに光る煙のようなものが発生する。

それが晴れると、切島の姿が見える。立ってはいるが、痛そうに腕をさすっていた。

 

「切島、大丈夫か?」

「大丈夫っす!でも、なんかヒリヒリするっす!」

「ヒリヒリ?」

「なんかこう、固めてた部分にもダイレクトに来るものがあるっていうか、なんていうか……」

 

感覚を言語化することは難しいが、ひとまず普通の衝撃とは違うということは伝わる。

それを受け、周囲にいたA組も口々に考えを出す。

 

「なんかエネルギーの塊っぽいんだろうけど、具体的になんなんだろうなアレ……」

「うーん、もしかしてエネルギーそのものを扱う個性とかかなあ……?」

「いやでもなんで弓出せるんだよ。それに花がついててついでにステッキに変形するし。」

「マジェスティックと同じ系統なのかもね。光弾を出す個性のヒーローもいるし、あんな感じなのかな?」

「耳郎さん、エネルギーの塊を射出するヒーローは確かにいるけど、それと鹿目さんが決定的に違う点は矢にそれを収束させている点だよ。体育祭でも見せたとおり、鹿目さんの矢はホーミングするんだ。つまりあの光が射出後の軌道変更を可能にしているんじゃないかな?となると、あの光、いやエネルギー塊って言えばいいのかな?とにかくあれは鹿目さんから距離が空いても制御可能ってことを示してるんだ。これはすごいことだよ、マジェスティックのヒーロー活動が参考になるけれど、例えば(ヴィラン)が射線の通らない複雑な地形の奥にいたとしても制御次第では攻撃できるってことで」

「緑谷、怖い。」

 

生徒が一通り意見を口にしたと判断した相澤は、次の生徒を呼び出す。

その間に、今の出来事を少しだけ考察していた。

 

(緑谷の言う通り、マジェスティックに似た系統だとは思うが……服装が変わったり弓を生成するのはなんなんだ?エネルギーそのものを操るのが個性の正体だとしても、服装は関係ないだろう。……今は、下手に考察するより色々やらせてみて観察するのが吉、か。)

 

そんなことを相澤が考えている間、次に出てきたのは八百万百だった。

 

「初めまして、鹿目まどかさん。八百万百と申します。私からは一つ、創造系個性対決をさせていただきたく思います。」

「創造系個性対決……ですか?」

「ええ。ええと……ここではあまり、その、激しい戦いはよろしくない場なので……ルールは、お互いにより価値のある創造物を作り出し、クラスの皆にどちらが……そうですね、どういった判定基準にしましょうか……」

「ふつーに『どっちが強そう』でいいんじゃねーのか?ヤオモモ。」

「なるほど!では上鳴さんの案を採用し、どちらがより強力な武器を作成できるかを競いましょう!」

「……わかった、よろしくお願いね!」

「お前ら、あまり後始末に困るような武器を作るなよ?特に毒物や爆発物は無しだ。」

「承知しましたわ、相澤先生。」

 

戦いを避けたのは、体育祭以後の彼女の自信の喪失の現れであろうと相澤は心配しつつも、二人が何かを作るのを見守る。

八百万はおもむろに持参しているらしき分厚い本とタブレットを操作し、兵器に関して調べているようだ。

そして鹿目まどかはというと。

 

「うーん、やっぱり大きい方が強いよね……?あと、こうした方がかっこいいし、宝石とかもあった方が……つ、疲れる……」

 

固体とは思えないほど弓をグニャグニャ変形させ、どういった形が良いかを試行錯誤していた。その現実離れした変形プロセスに、A組の視線が集まる。

相澤としても気になる光景だった。宝石(ちなみにこれは個性検査ではコランダムの一種、つまり宝石のルビーだと判定されたらしい。)の数で性質が変わるのかとでも思いつつ、彼女に質問する。

 

「鹿目さん、ちょっといいか?」

「はい、なんでしょう?」

「その……君は、今持ってる弓の『強さ』が分かるのか?」

「はい、なんとなく。」

「こんなことを後から言うのはおかしいかもしれんが、そもそも今君は何を基準に『強い』弓を作ろうとしているんだ?」

「基準……?」

「つまり例えば、その弓により放たれる矢のスピードを上げることが目的なのか、着弾後の爆発を強力にしたいのか、貫通性能……つまり矢自体を強靭かつ鋭利にして、物体を貫くことができるようにするのか、という意味だ。」

「……考えてもいませんでした、そんなこと。」

「……」

 

なぜそこを明確化せずに『強さ』が分かるのか、と相澤は突っ込みたかったが、現在進行形で彼女がそのことを考えているためにしばらく口を開かず見守った。

うんうん唸りながらもグニャグニャ弓を変形させるまどか。個性と言われればそれまでだが、今まで出会ってきたことが無い発動型の個性の形態に軽くめまいがした。

そして、彼女は思いついたように話し出す。確信を持った表情だった。

 

「私にとっては、友達を守れる力が『強い』んだと思います。」

「は?」

「力にも色々あって、例えば敵を消しちゃうことが好きな人や、自分の安全の為に嫌なものを遠くに追いやる力、精神的に打ち負かしちゃうことが好きな人だっていると思うんです。そんな色々な力の中で、私がやりたいって思えるのは……友達を守って、人々を救い、守ること。だから、そういう風に私が強く願えば、きっとこの個性『魔法少女』は応えてくれるって思えるんです。それが私にとっての『強い』力じゃないかって思います。」

「…………」

 

それは俺の質問に答えていない。

 

相澤はそう言いたくなった。彼女の精神的な事情について聞いたつもりは全くない。彼女の話に乗るならば、「人々を守るためにどんな方向性でその弓矢を強くしたいのか」であって、まどかの回答は因果関係が逆転している。

しかし、目の前の鹿目まどかは心底この答えに納得したような表情をしていた。

 

「……よし、できました!多分一発撃ったら終わりになっちゃうけど、一番強いと思います!」

 

といって、まどかは弓を掲げる。先ほどよりも大型化していて、宝石のようなものがいくつもついていた。先端にある花も鮮やかさが増している。

 

確かに強力そうだ。より強く弦を引くことで、大きな運動エネルギーを持った矢を射出できるだろう。

……それなら、先ほどは「より大きな運動エネルギーを持った矢を打ちたかったです!」とでも言えばよかったと相澤は思うが、しかし同時にこの弓はそれだけではない気もした。単にまどかが物理の話が苦手なのかもしれないが。

 

「おー!めっちゃ綺麗!」

「花が咲いてて宝石も沢山、女子の夢の塊だ!」

「いや、これ多分男子も欲しがんじゃねーの!?つーか俺欲しい!」

「ねえねえ!これ持ってみてもいい!?」

「うん、いいよ。気を付けてね。」

「いいんだ……」

 

意外にも、持ってる弓をまどかはあっさり他人に触らせる。受け取った芦戸は女子高生とは思えないようなはしゃぎ方をした。

 

「ありがとー!うわ、なんか見た目の割に軽い!なんか力が湧いてくる気がする!」

「マジで!?俺も俺も!うおー、な、なんかすごい神聖なパワーを感じる!」

「ぼ、僕も良いかな!?弓の素材とか気になるし、宝石とかどうしてついてるんだろう!?この弦の部分はかすかに発光しているけど一体どんな材質で」

「緑谷、まさか売る気じゃあ……」

「売らないよ!?」

 

振り回してみたり、弦の部分を引っ張ってみたりとかなり好き勝手しているが、まどかは特に怒ったりする様子は無い。

弦の部分は、見た目では切ってしまうのではないかと心配になるほどに細かったが、引っ張る生徒の手は特に傷ついてはいなかった。

 

「お待たせしました!私が今作れる最高の武器です!」

 

ドン!という音と共に、八百万は創造を終えた。

 

「……なるほど、これは」

「大砲だ、でかい!」

「大砲ではありません。これは電磁投射砲、レールガンですわ。私の創造可能な最高火力です!」

「おおお、こっちも男の夢!」

「すごそうだけど、レールガンって何……?」

 

明らかにミリタリーに興味がなさそうなまどか。知らないのは当然だとA組の誰もが納得する。

 

「し、失礼しましたわ鹿目さん。レールガンというのは」

「とにかくちょーつよい弾を打ち出すんだよまどかちゃん!相澤先生、ここでぶっ放してみても良いんでしょうか!?」

「ダメだ。そういうのは事前に申請してくれ。」

「だ、だよね……」

「となると、勝ち負けどうしよう?」

「ふつうに多数決でよくね?」

「まどかちゃんの弓の方が強いと思う人―!」

 

まどかの友人二人を含む、過半数が手を挙げていた。完敗とまではいかないが、八百万には厳しい結果だ。

 

「そ、そんな……ここでもわたくしは……」

「げ、元気出してよ八百万さん!まどかちゃんは弓だけだけど、八百万さんは何でも作れるから!」

「麗日さん……!」

「あれ、でも鹿目さんのそれステッキにできるんじゃなかった?」

「え、もしかしてそれ剣とかに出来たりするの?」

「どうだろう、やってみたことないからなあ……」

 

出来ないと言い切らない彼女に、クラスの人々の期待が高まる。

 

「え、なにその反応、実はできたりして」

「ス、ストップ!ストップ!八百万さんが!!!」

「わたくしは……わたくしは……」

 

最近自己肯定感を得る機会が乏しい八百万は目に見えて落ち込んだ。

 

「あああ、ごめんヤオモモ!お、お詫びに後でなんか買ってやるから元気出してくれ、な!」

「八百万にそれ言っていいのかよ!?」

 

その後、クラスメイトは八百万を宥めるのに必死だった。体育祭の敗北もあり、今後の彼女の精神的ケアについては一層注意を払わなければと相澤はひそかに思う。

 

結局、彼女が前々から興味があったというスーパーの大安売りに一緒に行くということで少し元気になり、この場は落ち着いた。

 

「次はオイラだ!」

 

次に出てきたのは峰田実だった。

同時に、相澤は目つきを厳しくする。彼は性欲に基づく言動が余りにも多く、鹿目まどかに対して何かやらかさないかと注意深く言動を監視する。

 

「オイラは峰田実!よろしくな!」

「うん、よろしく。」

「オイラとしては、体育祭で空中戦に注目していたんだ。」

「空中戦……がどうしたの?」

 

彼のことを全く知らないであろう彼女は、特に疑うこともせず首をこてんと傾ける。

 

「空中戦……まさにヒーローの花形だ。超常黎明期以前、人々は空を飛ぶ鳥に憧れた。地に縛られること無く、鳥のように自由になりたいと。個性を得て、初めて飛行が可能な個性を得た人物は、それはもう四六時中飛び回り地面にいる時間の方が短かったと記録されている。」

 

突如として人間の自由を語りだす峰田。その語りは徐々に熱を帯び、身振り手振りも大仰になっていき普通科の3人は普通に聞き入っていた。

 

「そう。空を飛ぶ力は、人を自由闊達にする。鹿目まどか、君の体育祭の動きは、それはもう『自由』そのものだった。重力から解放されたその動きはそれはもう素晴らしいものだった。そして、人が動くとそれに伴って動くものがある。服だ。空中宙返りの時は特に顕著だった。布の間から見えるそれは、まさにロマンそのもの。しかし不可解なことに、鹿目さんにはそれはなかった、布が多すぎたから。だから、ここでオイラが求めるのはそのスカートの中の布を無くしたらあおべびゃぎゃぶべぐぶおああああああああああああ!!!??!?!?

 

突如彼の悲鳴が響き渡りる。一拍遅れて、この場にいる人々は彼が吹っ飛ばされた事に気が付いた。

 

皆が事態を飲み込めず唖然とする。遥か遠くに逝ってしまった峰田をA組の皆は呆然と眺めていた。

 

「……ちょっと、なんですかあの人。セクハラですよセクハラ。ヒーロー科になんであんなのがいるんですか。」

「あのー、これちょっとシャレにならないとさやかちゃんは思うんですけど?」

 

暁美ほむらの非難する言葉でここにいる皆は意識を取り戻した。美樹さやかも腰に手を当てて分かりやすくプンプン怒っている。

クラスメイトがかなりまずいやらかしをしてしまったことを認識し、他科にクラスの恥を見せてしまったことを恥じる。

 

「え……あ、僕のクラスメイトが大変な迷惑をかけた!これは委員長の監督不届きゆえだ、大変申し訳ない!!!」

「ちょ、ちょっとなにそれ飯田君……ププ!」

 

飯田の直角に腰を曲げる見事な謝罪に、まどかとさやかはあっさり怒りが消えてしまったようだった。

 

「ご、ごめんねまどかちゃん!峰田はうちらがきつーくお仕置きしとくから!」

「まったく……次やったらもう二度とヒーロー科にまどかを近づけさせませんから。」

「……担任の俺としても謝る。監督不届きだった、悪かった。」

「…………あ、あはは……」

 

まどかはひたすら困り顔で、ほむらは未だにかなり怒っている。峰田の方を見たさやかは再び顔を少し顰めた。ただA組の一斉の謝罪を受けこれ以上何か言う気は無いようだった。

 

「……で、でも、今の何?俺、武術にちょっとだけ詳しい身のつもりだけど、全く何も見えなかった……」

 

謝罪が一通りに済んだ空気になり、先ほどの不可解な現象への疑問が湧き始める。

 

「峰田が……何かに殴られた?鹿目さん個性使った?」

「…………な、何もしてないよ、不思議なこともあるんだねー……」

 

まどかはそう言うが、語尾が不自然に少し伸びていた。

 

「一体どういうことだろう、まさか鹿目さんの個性には自動迎撃機能があるのか?でも体育祭でそんな様子はなかったし、いやそもそも鹿目さんの個性はまだまだ不明点が多いから決めつけは良くないか?うーん一体」

「緑谷、今はそれやめとけ。」

 

緑谷のブツブツをBGMに、相澤は低い音の息を深く吐いてから、吹っ飛ばされピクピク痙攣する峰田を回収しにいく。

 

「オイ峰田、…………いや気絶してるのか?」

「い、生きてます……」

「そうか。それはよかった。では一週間以内に反省文100枚の提出。それから普通科の教室に赴いて今回の件を自分の口で説明し謝罪しろ。それが終わるまで謹慎処分とする。……おい、お前どういう攻撃受けたんだ?」

 

罰を言い渡しつつも、一応彼の身体を心配する相澤。命の危険がある、または後遺症が残る可能性がある怪我は流石に看過できない。また、今の彼に何が起きたかは相澤としても気になるところである。

 

「全身、あ、あらゆるところから殴られた感じだ、金玉まで攻撃するなんて容赦がまるでねえ……」

 

見たところ確かに全身あらゆるところに打撲痕があり、個性による何かの攻撃だということは明白だ。

ただ相澤としては、先ほどまでまどかが見せた個性とは全く違う攻撃であったことを不思議に思う。少なくともピンク色の光はまったく見えなかった。

ともあれ、今は疑問より峰田への怒りが大きい。相澤は質問をそこそこにさっさとこの問題児を連れて行くことにしていた。

 

「どう考えてもお前の自業自得だ。一応攻撃の主体が不明だからリカバリーガールに診察はしてもらう。ただし個性には頼るな。勝手な傷は勝手に治せ。」

「オイラには分かるぜ、正体が……!」

 

正体という言葉に相澤の好奇心が刺激され、問答無用で連行する姿勢だったところから続きを聞く姿勢が引き出された。

 

「……正体?」

「あれは時間停止攻撃……!相澤先生は知らないだろうけど、エロ同人では定番の、停止中の責めによる快楽蓄積から来る絶頂……あの亜種が」

「お前もう口を閉じろ。」

 

耳を傾けたことを後悔した彼は、ふざけたことを言う峰田の口に捕縛布を巻き付けこれ以上問題を起こすことを防ぐ。

 

「お前ら、俺は峰田を連れて行く。悪いが待っていてくれ。」

 

相澤が離れると、一時的にすることが無くなった彼らが談笑する声が聞こえ始めるのだった。

 

 

「今日は時間を取ってくれて感謝する。それと峰田の件はあらためてすまなかった。」

「あはは……ど、独特、な男の子ですね……」

「セクハラ野郎に気を使わなくたっていいのよまどか。」

 

予定していた内容を一通り終えた相澤は、3人を校門まで送るところだった。峰田の後、2人と簡単な戦闘を行い、体育祭で見せたような華々しい個性を見せつけたのだった。

 

結局、相澤は彼女の正体に結論を出せなかった。出来ないことの方が少なかったのだ。体育祭でうすうす感づいていたことだが、(ヴィラン)退治にヒーローが必要なことが一通りできてしまう、まさに万能にふさわしい個性だと認めざるを得ない。彼女がヒーローを強く志していたら、将来TOP10入りは確実だと確信できた。

 

(……本当に『魔法少女』になる個性、なんて俺らしくもない非合理的な結論だな……)

 

頭にふと浮かんだ仮説。彼女は本当にテレビや漫画の「魔法少女」そのものになるのではないかと。彼女の「魔法少女」のイメージ次第で何でも出来てしまう夢のような個性なのかもしれないという疑いを捨て去ることができなかった。「それができるようになる個性」という表現はつまりその個性の仕組みの理解を諦めることと同義で、一種の努力放棄だと相澤は考えている。しかしそんな彼をして、「魔法少女になる個性」というのが妙にしっくり来てしまう。自身の個性を最大限生かすために、(ヴィラン)の個性の研究を怠らない相澤にとっては敗北とも言える結論だった。

 

しかしそれでも、知れることは知らねばと質問を繰り返す。

 

「そういえば、君は轟との戦いで羽を生やしていたが、アレをやらなかった理由はあるのか?」

「うーん……なんかあれ、出来なかったんですよね……どうしてかはよく……」

「まどか、戦いでテンションが上がったせいじゃない?すっごいいい笑顔だったよ。」

「確かにさやかちゃんの言う通りかも……あの時結構、こう、ハイになってて、ちょっと恥ずかしくなることも言っちゃってたし。」

 

精神の状況が個性の出力に影響する例は珍しくない。相澤はひとまずその仮説が有力かと納得する。

 

「そういったことを踏まえ、俺としては可能なら君に今後もあのような訓練に参加してみて欲しいんだが……どうだ?より君の個性を知るために有効だと思うんだが。」

「ええ、大丈夫ですよ!」

 

思っていたよりもあっさり快諾され、相澤は拍子抜けする。何か隠しているらしき彼女は、てっきり個性を調べられる機会を嫌うと思っていたのだ。

 

「いいのか……?」

「A組の人たちとお話しするの、楽しかったですし!みんなとっても良い人たちでしたよ!」

「……一人除いてね。」

「ほ、ほむらちゃん、私はもう怒ってないから……」

 

峰田以外のA組の生徒はヒーロー科として流石の人徳であり、いつの間にか彼女から好印象を持たれていたらしい。

 

「……勝手な話で悪いが、ヒーロー科と普通科の橋渡しの役割も君には期待したいんだ。例年、体育祭の扱いの差などで溝ができてしまってな。雄英教師として恥ずかしい話だよ。」

「ああ、そういえばそんな話、マミさんから聞いたなあ……」

「マミさん?」

「あ、中学の時から一緒にいる私達の先輩です。……わかりました。どこまでできるか分からないですけど、やれるところまでやってみようと思います。」

「そうしてくれると助かる。」

 

そうこうしていると、校門に到着した。

 

「今日はありがとうございました。それでは。」

 

まどかが礼儀正しくお礼を言うが、相澤は引き留める。

 

「ああ、悪いがもう少しいいか?5分で終わる話だ。」

「はい、なんでしょう?」

「……早くしてください。」

 

何故かまどかよりも苛ついているほむらを少し不審に思いつつも、相澤は書類を取り出す。

 

「職場体験の誘いだ。」

「……?えっと、聞いたことが無いんですが」

「当然だ。これはヒーロー科だけにあるカリキュラムだからな。体育祭で活躍した生徒は、ヒーロー事務所が指名する制度があるんだ。そこで活躍できれば、ヒーローとしてのキャリアにもプラスになる。制度の詳しい内容は同梱の書類を見てくれ。質問があればそこのメールアドレスに頼む。」

「はい……う、うわわこれ全部!?」

 

分厚い教科書並みにある書類が渡され、まどかは危うく落としそうになる。

 

「あの……え、これ全部ですか?い、いくら何でも読み切れませんよこんなの!」

 

美樹さやかもあり得ないという顔で相澤を見た。

 

「欲しいなら後で電子データをメールでも送ってやる。元々ヒーロー科しか受け付けてないってのにダメ元で連絡をよこした所が1000件くらいあってな。勿論この話は強制じゃない。が、もし君が望むなら、普通科のカリキュラムを少し修正して職場体験をねじ込んでも構わないということだ。ヒーロー志望でないならキャリアには関係無いだろうが、まあ人生経験としてプラスにはなるだろう。」

「そ、そうですか……ありがとうございます。」

「……お話は以上ですか?」

「ああ、待ってくれ、あと一つ。」

 

相澤には、ずっと心に引っかかっていた人物がいた。

 

佐倉杏子。

 

社会の闇に家庭を破壊されてしまい、(ヴィラン)に堕ちてしまった悲劇の少女。彼のヒーロー活動の中でもトップレベルに後味の悪い事件だった。まさか、自分の所属している組織の上が積極的に殺人に加担するなど、下手な(ヴィラン)よりも(ヴィラン)らしい行為に加担していたなど。ヒーロー免許を返納してやろうかと一瞬でも考えてしまった事件だ。

一年弱ほど前、彼女が暴れた事件に相澤は関わった。その時、彼女は非常に強力な個性であのNo.6のミルコと渡り合った。それも遠距離戦に持ち込むといったものではなく、彼女の十八番である近距離戦において互角だったのだ。おそらく当時15歳の子供がそれほどの戦闘技術を身に付けていることへの驚き、そして身につけざるを得なかった環境の過酷さに酷く心を痛めたために、彼女のことはよく覚えている。

 

彼女の個性の詳細は不明だ。そもそも彼女は自身のことを殆ど喋らないこと、自分の事を調べなければ施設で大人しくしてやると言っているために、個性の詳しい検査はされていない。

ただ戦闘時に見せた能力のうち、変身する、武器を生成する、やたら体が硬い、身体能力が高い、といった点が鹿目まどかの個性によく似ていた。しかし、まどかは弓で杏子は槍。変身後の服の構造も全く違う。社会的立場も、性格もだ。

 

単に似ているというだけ。それ以上のつながりは無い。が、不思議さという点において妙な同一性が感じられ、相澤は自分の中のそれを無視できなかった。

相澤はどうせ関係ないだろうと思いつつも、スマホで彼女の顔写真を出し、鹿目まどかに見せた。

 

「彼女の事を知っているか?」

 

期待せずに聞いた相澤。

 

だがこれに、普通科の生徒3人は反応を見せた。

 

「ん?杏k」

「急いでいるので帰らせていただきます。それでは。」

「……あ、ああ。気を付けて帰れよ。」

 

まどかの発言中に暁美ほむらが割り込み、彼女たちはそのまま帰ってしまう。

 

だが、まどかは明らかに「杏子」と言いかけた。それを中断させた暁美ほむらも何か知っていることは間違いない。

佐倉杏子の名前は表に出ていない。公安もかなり苦労してインターネット上から記録を消したと聞く。明らかにアウトロー世界を生きていたであろう佐倉杏子。直接会ったことがある以外に、そんな彼女の名前を知り得るはずが無いのだ。ましてや一般家庭の鹿目まどかが彼女を知っているなど、何か特殊な事情があるとしか思えない。

 

相澤は、何かとんでもない秘密の一端に触れてしまったような気がした。




- 心操
筆者は原作でなんで後期までヒーロー科の誰とも一緒に訓練させなかったんだろうと思っている。相澤先生放課後に彼の為に時間取ってあげる位入れ込んでたのに……

- 『雄英施設一般開放プログラム』
監視役の人材も必要なのでそれなりにコストはかかる。根津的にはコストとリターンはトントンなので、やってもやらなくてもいい制度。

- そもそも理解する気も起きない
要はトガヒミコなどである。

- 峰田
この世界の峰田はギャグ補正によりパンツを覗こうとしてもほむらに殺されません。(無事とは言っていない)
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