個性『魔法少女』   作:Assassss

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高評価、誤字報告、感想いつもありがとうございます。

推奨書いてくれる人がいてリアルで声が出ました。ありがとうございます。


この状況はマズいよほむら!

「……というわけで、私は試験当日の朝に緑谷少年に個性『OFA(ワン・フォー・オール)』を継承させたというわけだ。質問はあるかな?」

「沢山あります。」

「ありまくりだわクソが!」

 

鹿目まどかがA組の皆と戦闘訓練をした翌日の放課後。爆豪と轟は緑谷と共にオールマイトに呼び出され、改めて自身の個性のこと、緑谷との関係を説明していた。ただし、AFOに関してはまだ説明していない。説明する必要が無いことを聞かせて不安にさせてはならないというオールマイトなりの配慮だった。

 

一通り本人なりに丁寧に説明したオールマイトは「ここまでちゃんと説明すればとりあえず納得してくれるだろう」と思っていたが、二人には全く納得されなかった。

 

「え!?そ、そうかい?じゃあその、轟少年から質問を聞こうか。」

「俺から先に聞けぇ!」

「か、かっちゃんオールマイトは後でちゃんと聞いてくれるだろうから……」

「俺は質問というか、その後が聞きたいんですよ。個性を渡した後を。」

「無視すんなァ半分野郎!」

「え?いや、君も緑谷少年と同じクラスにいただろう?君の見ていた通りだと思うよ、少なくとも学校にいる間はね。」

 

爆豪を無視して轟に質問を聞いたオールマイトは、その質問の意図が分からず訊き返す。

 

「……ええと、緑谷に個性を渡して、その後アイツに何を教えてたんですか?」

「え……?私が特別教えることなんてあるかい?」

「いや、一杯あるでしょう、特に個性に関して。」

「……?勿論、さっきまでしていた話を緑谷少年にはしたさ。……えーと、緑谷少年は一年間のひたむきな努力でOFAに耐えうる体を手に入れた。あとは体を継続して鍛えつつOFAに慣れていくだけだろう?ヒーローになるための知識は、私じゃなくても雄英の素晴らしい先生方に聞けばいいじゃないか。いや、勿論聞かれれば答えられることは答えるけどね。」

「いやいや、緑谷は全然個性を扱えてないじゃないですか、入学の時も今も。俺は初めて緑谷の戦闘経験を見たときはなんであんなに個性の扱いが下手で受かれたんだって思ってましたよ。」

「……???そりゃあ初めてのことは誰しもが慣れないものだろう。でも現に緑谷少年は少しずつ扱いが上手くなっていっているじゃないか。このまま順調に行けば、卒業する頃には100%を確実に扱えることだろう。」

「いや一応そうですけど……緑谷、オールマイトはOFAの扱いをどう教わってきてたんだ?」

「えーと、確か『感覚が重要』で、『イメージが大事』とも言ってて、僕は電子レンジに入れた卵が爆発しないイメージを持ってやってたんだけど……」

 

緑谷がそう言うと、轟の表情が曇りだす。

 

「…………マジか……お、お前それでいいのか?」

「え、何が?」

「…………」

(め、珍しい表情だなあ……)

 

轟は珍しく驚愕した顔を見せ、緑谷が逆にその表情に驚くというカオスな状況が生まれた。

 

「いや……それは何も教えてねえよ、オールマイト先生……」

 

轟にとって、弟子というからには技術的な指導をするのが常識だった。例えば父親のエンデヴァー。虐待と言えてしまうほどの過酷な訓練を強制していたが、彼は何もただ殴りたかった訳ではなく、どうやったら最強のヒーローになれるかを必死に考え、ギリギリ健康に支障が出ないレベルを見極めて負荷をかけていた。個性をどう使えば能力が伸びるか、どうやったら戦いが有利になるか、ヒーローになるためにどのような知識を得るべきか。その指摘は的確だった。実際そのおかげで彼は雄英への推薦を受けるほどの実力を得ている。

彼の事務所のサイドキックへの指導もそうだった。エンデヴァーのヒーロー事務所は世界レベルで見ても最高レベルの人材が揃っている。それはエンデヴァー事務所を志願する人自身の才能もあるが、エンデヴァーの指導能力が高いがために事務所の人々の成長も著しい、という事情があるのだ。

 

そんな父親、事務所を幼いころから見てきた轟焦凍。父親は憎いが、その姿を見てきたので「先達は後輩に教えるのも立派な役目」が常識だと思っているのだ。しかしその常識にはたった今罅が入ってしまった。世界ナンバーワンのヒーローの後輩への指導が余りにもお粗末だったからだ。少なくともエンデヴァーは「イメージ」だの「感覚」だのといった曖昧な言葉では済ませず、具体的に上達方法を轟に伝えてきた。

 

露骨に残念がる轟の姿を見て、オールマイトも余り緑谷に時間を掛けられなかったことに対し罪悪感を持つ。が、その方向性は正しいとは言えない。

 

「その……轟少年、私も彼の為に時間をかけたいのは山々だったけれど、どうしてもヒーローしていて時間が取れなくてね。」

「それはそうかもしれませんけど……何から突っ込んだらいいのか分からなくなってます……」

「え、えっと?」

「まず、オールマイトは個性の扱い方を殆どなにも緑谷に教えてないって事なんですよね?」

「扱い方を教える……?」

「……さっきからどうしたんだい轟君?オールマイトは『感覚が重要』って言ったって、僕はさっき言ったはずだけど……」

「いつもの分析癖はどうしたんだよ緑谷…………」

 

余りにも話が通じず、彼は天を仰いだ。少なくともオールマイトは何か自分たちとは全く違う上達方法を経験したことを轟は感じ取った。ついでに何故か緑谷の知能も下がってしまっているように感じられた。

ナチュラルボーンヒーローのオールマイトが自分たちと違うのは仕方がないかもしれない。だが、違うなりにできることはあっただろうと彼は思う。

 

「まずですね。えーと、緑谷はもともと無個性で、そこにOFAという大きな力を与えられたんですよね。全力で使ったら腕がボロボロになっちまう力を。」

「ああ。だから、一年間海浜公園で鍛えさせて、急ごしらえではあったけれど器を完成させたんだ。」

「……つまり、『使ったら死ぬ』から、『使ったら大怪我』に軽減させただけ、ってことなんですよね。」

「まあ、そうなるね。」

「体鍛えるのは確かに必要だったんでしょうけど、まだまだそれじゃ不十分でしょう。使ったら大怪我ですよ?だから普通、次はどうやったら怪我をせずにOFAを使えるのかを緑谷に教えるべきなんじゃないんですか?」

「…………い、言われてみれば……」

 

オールマイトは少しハッとしたようにそう返す。轟は目の前のナンバーワンヒーローがヒーロー以外の分野で如何にポンコツかを、戦闘訓練の時の様子を思い返しながら実感していた。

 

「言われてみればじゃすまないと思いますよ、これ。緑谷の手を見てくださいよ。俺の為にゴツゴツになっちまった。あんたがしっかり制御を教えときゃ、こんな手にはならなかった。そうじゃないですか?俺、今怒ってますよ。人のためにどこまでも突っ走っていけるやつにそんな力渡したら、無茶するに決まってる。なんで……今の緑谷に『怪我しないようになるまで使うな』って言ってくれなかったんですか、オールマイト。」

 

自分の抱えていたものに罅を入れてくれた緑谷に、轟は少なからず感謝し、そして親愛の念を持っていた。小学校中学校の頃は父親に訓練漬けにされてしまっていたために、対人経験が少なくそれゆえに友人もほぼいない。会話しても、エンデヴァーの息子として見る人間が大半で、対等に接してくれるクラスメイトは皆無だった。そんな中で初めて対等に話ができたのが緑谷だ。

そんな彼が、自分の為に腕を犠牲にしてしまったことを轟は少なからず気にしていた。彼自身の選択でそうなったとはいえ、轟は歪になってしまった彼の手を見るたびに少し罪悪感を覚える。

そして、そうなった原因が彼の師のあまりの至らなさであったと知れば、怒りの感情を覚えるのも当然なのだった。

 

「た……確かに、私は何という事を……!!緑谷少年、本当に申しわけない!!!私がもっとちゃんと教えていれば!!!」

 

今になって罪悪感が湧き出たらしいオールマイトは、緑谷にものすごい勢いで頭を下げ始め、緑谷は「オ、オールマイトはちゃんとやってますよ!僕の為に!」というたいして中身のない擁護を返していた。

轟は呆れつつも「まあ謝る分クソ親父よりは全然マシか……」と思い直し、話を進めるために口を開く。

 

「ええと、話進めていいですか?」

「……ああ、すまない、私が至らないばかりに見苦しいものを見せてしまったね。」

「…………ええと……で、これからはOFAの使い方を緑谷に教えてくれるんですか?」

「ああ、勿論だ!しっかり彼の為に時間を取るさ、怪我をさせないための時間をな!」

「具体的に何を教えるつもりなんですか?」

「うむ!まずは私が今までどのようなイメージでOFAを扱って来たのかについて」

「ちげえっつってんだろ……」

「え、え?轟少年……?」

 

再び若干の怒りが混じった轟の声に、オールマイトは心なしか小さくなってしまう。

 

「イメージとか感覚とかじゃ緑谷分からないですよ、多分。例えばOFAを扱うのにどんな訓練方法が良いかとかですよ。もっと具体的にしろって話です。」

「……OFAを扱うための訓練方法……?イメージを掴むんじゃダメなのかい?」

 

本気で分かっていなさそうなオールマイトに、轟は自分が教師役になっている気がした。

 

「……そもそもあんたはどうやってOFAを扱えるようになったんですか?」

「どうやって……?」

「今の緑谷みたいに、扱いきれずに怪我してしまった時期がありますよね?」

「え、ないよ?」

「へっ?」

「私は渡された直後から100%を扱えていたからね。師匠からはひたすら実戦訓練を受けていたよ。」

「な……」

 

彼にしては珍しく「なんでやねん」と全く違うキャラで頭をはたきたくなった。 

 

「……オールマイト、元々持っていた個性のお陰で上手く扱えていたとか」

「いや、私も元々無個性だったからね。そういうのは無いよ。」

「………………」

 

轟は確信した。オールマイトは人に教えるのに向いていない。特に理屈派の緑谷には、と。ヒーローとしての気質は似ているのかもしれないが、それ以外の性格や環境などが余りに違いすぎるのだ。個性の制御で苦労した経験すらなかったのでは、緑谷に教えることは無いというのは真実なのだろう。逆に問題が増える話だが。

 

「オールマイト、俺はよく分かりました。人には向き不向きがある。あんたが全部悪いわけじゃない話です。」

「えーと……?」

「……とりあえず、あんたがこれ以上OFAのことを教えるのは無理があると思います。誰か別の人に教えてもらった方がいいですよ、マジで。」

「そ、そんなわけ無いよ轟君!オールマイトは」

「結果だけ見りゃお前腕ぶっ壊しまくってるだろ、どこが成功なんだよ。」

「……あ、あはは……それは……」

「ごめん、マジでごめん緑谷少年、轟少年……」

 

ようやく自分の適性の無さに気が付いたオールマイト。しばらく下を向いていたが、やがて「ああ、そうだ!」と言い鞄から書類を出す。

 

「……これは後で話そうと思っていたことなんだけど、緑谷少年に追加で職場体験の指名が来ている。名はグラントリノ、私のお師匠だったヒーローだ。このか、か、かかか方におおお、教えてもらいいいいなさい、緑谷少年!!!」

「オールマイト、座ってるのに脚がプルプルですよ!!!」

「す、す、すまない過去のトラウマがちょっと……し、しかし実力は確かだ!存分にしごかれてきなさい!」

「緑谷……もしそのグラントリノって人までおかしかったら俺に連絡してくれよ?親父の事務所のサイドキックを当たってみる。」

「さ、さすがに大丈夫だと思うぞ轟少年!多分、きっと!」

 

震えながら持っていた書類を緑谷に渡すオールマイト。轟は、ひとまずこれでマシになるだろうかと思った。そのグラントリノというヒーローまで教えるのが下手と言うことは無いだろうと信じて。

 

「おい、俺もいいかよオールマイト。」

「あ、ああすまないね。爆豪少年。何も言わないから言いたいことが彼と一緒だったのかと。」

「違えわ!あんたがアホすぎんから呆れてんだろうが!」

 

緑谷の置かれていた異常な訓練環境に唖然としていた彼が、ようやく気を取り戻し口を開く。

 

「俺の質問は、なんでこのクソナードに個性渡したかっつーことだ。」

「……なるほどね。」

 

この質問はオールマイトもある程度予測していたらしく、居住まいを正す。

 

「オールマイト……言ってたよなあ、ヘドロ野郎に捕まってた俺を……助け出しに向かってったデクを見て心打たれたってよ。」

「ああ、その通りだ。」

「……ック……!」

 

爆豪は歯ぎしりした。やはり個性を手に入れ、より高みへ行きたかったのだろうかとオールマイトは推測する。

が、その予測とは少し違う方向性の質問を彼は始めた。

 

「今まで……似たような奴に出会わなかったのかよ?」

「似たような?ええと……いやまあ、例えば人を助ける素晴らしいヒーローには沢山出会ってきたが……」

「そン中で一番よえー奴がデクだったってか?」

「一番弱い……?」

「そうだよ!オールマイト、あんたが言ってんのはつまりそういうこった!個性渡した理由は『弱かったから』だ!ヘドロ野郎に立ち向かうのが勇敢だったからじゃねえんだな!?」

「あ、ああ。」

 

そこで言葉を止め、爆豪はオールマイトを見る。彼の言うことはおおむね真実であったためにオールマイトは特に含みの無い視線を返し頷く。それを受け取った爆豪は。

 

「意味わかんねーよ!!!なんだよそれ!!!」

 

と悲痛な叫びを放った。怒りではなく、戸惑いの表情だった。

 

「え、か、かっちゃん?」

「え?わ、分からないのかい?」

「じゃあなんだよ、もし俺があのUSJン時の脳無みてーな奴に立ち向かってたとしても、あんたは俺に個性渡さなかったってのか!?!?」

「まあ、そうだね。その、欲しがるのは分かるが、これは相応しい人物に渡るべきであって」

「欲しいとかそういう話じゃねえ!アンタの考えが訳わかんねえんだよ!強え個性は、一番強え奴に渡すべきだろうが!なんでデクに!?」

 

オールマイトはこのあたりで、なんとなく彼が言いたい事を理解した。要は弱い奴にOFAを渡す行為が彼には理解できないのだ。発言内容からして、ここで説明を受けるまではヘドロ(ヴィラン)に立ち向かった勇敢さという『強さ』が評価されていたと思っていたらしい。

が、オールマイトがそのことを説明する暇もなく爆豪は立ち上がりまくしたてる。

 

「いや、これはそういう話じゃ」

「現にデクは殆ど使いこなせてねえ!仮に俺にでも渡してくれりゃ、そりゃあもうすぐにでも使いこなして見せてやるよ!あんたが初めから100%を使えてたようにな!俺の力を疑ってんのかあんたは!?」

「まあ確かに、君なら骨折などせずすぐに調節ができそうな感じはあるが……」

「そうだ!ハッキリ認識してんだろ!俺の方がOFAを使いこなせるって!じゃあ今は俺に渡しゃよかったって後悔してるよなァ!?」

「……一切後悔していない。彼はOFAに相応しい人間だ。今もそう思っている。」

「ハァ!?!?!?なんでだよ!OFAは弱い奴がヒーローやるための補助輪だってのか!?」

「落ち着くんだ、爆豪少年。」

 

オールマイトはマッスルフォームになり、彼の肩に手をおき、無理矢理座らせる。なじみ深い憧れの姿を見て、彼は少しだけ落ち着いた。

 

「まず、OFAはヒーローとなるための補助輪などではない。何世代もの間、救いを求める声と義勇の心が紡いできた、力の結晶だ。さっき『弱かったから』が継承の理由だと言ったけれど、あれは語弊があったね。正確に言えば、『弱い身でありながら人を助けに動いたから』さ。」

「親切なヤツなんかこの世にいくらでもいンだろ!なんでその中でデクなんだよ!なんで!」

「そうだね、確かに親切な人間、他者を助けるのが好きなヒーローを私は沢山見てきたが、その……なんというか……」

 

オールマイトは自分の中にある想いを言語にするのに苦戦した。それほどに深く彼の根幹を成す部分だったからだ。

 

「こう……つまり……」

「言葉に出来ねーってことはバカの証拠だ!つまり何も考えてねーってこった……結局、大した理由なく決めたんだなオールマイト!?単に俺は運が悪かったってのかァ!?」

 

爆豪の口がオールマイト相手であるというのにどんどん悪くなっていく。部分的になら、それは真実なのだろう。走り出す緑谷を見たオールマイトが、「雷に打たれた」ような衝撃を彼から受けたのは事実。それは理屈ではなく、直感であることは間違いない。

 

だが今の爆豪の言葉に、オールマイトは何かはっとしたようになった。

 

「いや……今わかったよ。私も、緑谷少年も、バカだからさ。」

「……ハア!?」

「これは私が個性を受け継ぐ前、お師匠に出会った頃の話だ。私が棒一つで、人を襲おうとしていた個性持ちの悪漢を退治しようとしていたけれど、当然多勢に無勢で私は負けそうになっていた。爆豪少年。君ならこういう時どうする?勿論君は無個性であったとする。」

「不利だろーが関係ねーよ!俺はそいつらをぶちのめす!!!」

「ちなみに、当時近くには自警団のような人たちがいてね。助けを求めれば多少時間は掛かるだろうが駆け付けてくれる。つまり、客観的に見て君が戦うのはまったくもって非効率だ。ついでに言っとくが、仮定での君に戦闘の才なんてないぞ?客観的に見ると99.9%負けるような戦いだ。いやあ、思い返してみれば当時の私は無茶をしたもんだね。HAHAHA!まあ私の若気の至りはともかく、賢い君ならどんな行動を取るべきか分かるだろう?」

「…………」

 

オールマイトが持ち出した状況に、爆豪は最初は威勢よく吠えていたがやがて何も言えなくなる。

爆豪は戦闘訓練を思い返していた。緑谷に執着したことで、八百万やオールマイトに痛烈に批判されたこと、彼自身もあれが愚かな行動であることを反省したこと。

 

オールマイトが出した状況は、その反省を踏まえれば交戦せずに助けを求めるのが最も賢い。自分が交戦して死んでしまえば、その襲われている人が死ぬことは間違いなくなってしまう。多少時間がかかってしまう事は不安材料ではあるが、それが最も合理的と言えるだろう。

 

「しかしそこで、私も緑谷少年もつい助けに走り出してしまうという訳さ。」

「ハアアア!?!?!?授業と言ってることが逆じゃねーかオールマイト!!!」

 

ちゃぶ台をひっくり返された爆豪はかなり本気でキレる。オールマイトはバツが悪そうに答える。

 

「そうさ、バカなのさ。実際あの時、お師匠が助けに入ってくれなかったら死んでいたかもしれない。もちろんいつもそんな感じってわけじゃないけれど、危ない場面だと体が動いてしまうんだ。言っておくが、君たちには決してこの行為を真似してほしくないと思っている。でもそんなバカな行動を、他人の為に出来てしまう人間。私以外でそんな人は、緑谷少年が初めてだった。」

「…………」

 

爆豪は、緑谷の性格にそのような部分があるのを思い出した。どれだけ突き放しても何故か俯瞰したように自分の後ろをついてくる。明らかに自分の方が強いのに、自分に手を差し伸べてくる。自分より他人の方が大事とでもいうような、信じられない思考回路を幼馴染で付き合いの長い彼は確かに感じ取っていた。

 

「……ングググググ……!」

「だから、OFAの資格というのは……というか、これほぼ私の好みかもしれないね。決して、努力や強さの称号じゃないんだ。君は、君自身のやり方で上へ行けばいい。OFAに頼らずとも、君はヒーローになれるさ。」

 

君はヒーローになれる。

 

この一言で、爆豪の怒りが少し和らいだ。四六時中怒り散らしている彼でさえ、憧れのオールマイトの言葉は一蹴できなかった。

オールマイトは、爆豪にとってのOFAの価値を下げた。最強の持つ個性から、すこし頭のおかしいお人よしの為の個性へ。これは爆豪を少しだけ納得させることに成功させ、その結果彼は悔し気に歯ぎしりしている。

 

「……OFAは、いやあんたは、それで良いのかよ。自分で頭イカれてるっていってんだぞ。」

「まあ、嬉しくはないよ。けれど、このまま誤解されるのはもっと良くないと思ったんだ。君はOFAを継承できる人間になるために努力するのではなく、君の目指すヒーローとなるために努力するべきだ、そうしてほしいんだよ。」

 

しばらく震える爆豪。オールマイトの言い分を認めれば、確かに彼の自尊心はある程度保たれる。OFAは強さの称号ではなく狂人の証となるのだ。がしかし、オールマイトの力は彼が憧れたほぼ唯一のもの。それを貶めることには抵抗があった。

 

「ね……ねえかっちゃん。」

「アァ?」

 

緑谷がおずおずと話しかける。爆豪のすごみに少しビクつきながらも、説得を試みた。

 

「その、客観的に見て、僕は君より下だと思う。」

「み、緑谷少年、そんなに弱気にならなくても……」

「……」

 

緑谷は轟に以前言われたセリフを無意識に出してしまい、轟は少しだけ顔が曇った。

 

「ハ、たりめーだ!」

「だから……君を超えたいんだ。」

「クソナードのテメエにできる訳ねえだろ!テメエが一歩進むに俺は百歩進む!差は開くばかりだ!!!」

「そうだ。そんなすごいかっちゃんだから、僕はOFAという力が無いと足元にすら及ばなかったんだ。その……今のままでも、今のままですら、かっちゃんって十分、す、すごいんじゃないかな!?僕は、そ、そんな君を超えたいんだ!」

「緑谷……?」

 

緑谷は「OFAなんていう外付けの力があったら、君にとって『完璧』じゃなくなるんじゃないかな?」と言いたかったが、流石に直接言うのが憚られ、轟に不思議に思われてしまうなんとも迂遠な言い方になってしまう。

しかし頭がよく付き合いが長い彼は、少なくとも負ではないメッセージを受け取ったようだ。緑谷からのメッセージに心を動かされることの悔しさのせいで中々認められなかったが、しばらくすると逆に自分がダダを捏ねる子供のように感じられてしまった。

結局、彼はとても攻撃的な妥協を口にする。

 

「…………ッハ!俺はテメエらみてえに頭イカれてねえ!!!OFAなんかあってもテメエはクソナードだ!分かったかァ!?」

「この文脈でもそんなに口が悪いの君……?」

 

オールマイトは呆れるが、しかしその声には多少の笑いが含まれていた。

 

この場は丸く収まったことを感じたオールマイト。〆のつもりで彼は二人に向かって言う。

 

「じゃあこの場はそろそろいいかな?私はこの後予定があるからね。二人とも、情報漏洩にはくれぐれも気を付けてくれよ。」

「「いや危ねーのはそっちだろ!!!」」

 

シンクロする二人の突っ込みに、緑谷とオールマイトは目を丸くした。

 

 

教室でプリントを配る際、一番前に座っている人にまとまった数を渡して、自分の分をとって後ろに回していくのが普通だと思う。そういう時、後ろを見ずに渡すか、後ろを向いて顔を見せるかに好感度の違いが出ることに、私は最近付いた。

私は前から二番目で、前の席にいる女子がプリントを渡すときにはいつも後ろを向くタイプだったのだけれど、最近ちょっとだけ見てすぐ前を向くようになってしまった。

 

(ほむら!多分またしかめっ面になってる!なんか楽しいこと考えて!)

(ほむらちゃん、ほら笑顔笑顔!)

(…………)

 

まどかにそう言われて何とか顔を取り繕おうとしたけれど、多分私の顔を見た先生が引いた顔になった。

 

「あ、暁美さん?すごい顔ですけど、大丈夫ですか?」

「……いえ、何でもないです。」

 

クラスの視線が私に向くのを感じる。顔の温度が急激に上がるのを感じた。

 

(……ごめんほむらちゃん、今のは忘れていいよ……)

(分かったわ、まどか。)

(ほむら、今どんな顔してたの?先生に後で聞こうかなぁ~?)

(もうあなたの為に時間停止してあげないわよ、美樹さやか。)

(ああああ!マジでやめてそれ!成績とか人生上での負担が倍になるの!お願いほむら様ぁ!)

(まったく……)

 

私はため息をついて、目の前の授業に集中する。放課後の時間は殆どが捜索のための移動時間になってしまうので、授業中はちゃんと集中しないといけない。

……けれど、最近そんなことをする必要が無くなるかもしれないことを思い出した。時間が取れるようになるかもしれないのだ。普通は嬉しいことなのだろうけれど、私にとっては憂鬱の種だ。それを思い出して余計イライラしてしまう。

 

イライラの原因その1。まどかに時々変なのが寄ってくる。

 

具体的にどんな相手と言えるものがある訳じゃない。例えば、体育祭の時からファンになりましたと言いに来る人。まどかは優しいから、邪険にせずにいちいち対応してくれるけれど、正直かなりうっとうしい。学内なら最近は落ち着いてきたけれど、学外ではいまだにそういう人が来る。

また例えば、取材の申し込み。もはやまどかはちょっとした有名人だ。ネットの配信者やらテレビの出演依頼が、体育祭直後はそれはもうたくさん来た。対応に当たってくれた先生によると、体育祭で上位になったヒーロー科生が大体こんな感じらしい。今回は普通科がそうなってしまったということで、学校側としても少し対応に苦戦していると聞いている。

 

個々は小さくても、甘い蜜に群がる蟻のようなのがまどかに寄ってきているようで嫌になる。こういうのには対応策が無い。幸いにも、雄英の先生は「もししつこいようだったら対処するから言って欲しい」と言ってくれているのでその点はありがたいけれど、とにかく小さなストレスがボディーブローのように溜まる状況だ。

 

イライラの原因その2。職場体験の誘い。

 

私は別にそんなのに行かなくてもいいと言っているのに、まどかは比較的乗り気らしい。というのも、まどかの親が今回の件ですごく喜んでいて、「いやあウチの娘にこんな個性が発現するなんて!」「ヒーロー事務所に職場体験!?いいね、まどか、是非行くべきだよ!」とノリノリらしい。担任の先生も、クラスの人たちも当然行くべきという雰囲気だ。

理屈は分かる。この世界でのヒーローの社会的地位は、ピンキリな面はあるけれど平均的には高い。そういうところに職場体験に行ったとなれば、経歴に箔が付く、ということなのだと思う、多分。まどかの経歴に箔が付くことは私としても悪い話だとは思わない。

けれど、カリキュラムを見たら平日の授業中にねじ込む予定らしい。つまりそれは、私が一緒に居てあげられないということ。あまりにも不安な話だ。相手のヒーローにもよるけれど、もし(ヴィラン)退治が中心のヒーローなどになってしまったら、もう強引に事故的な何かを起こしてでも止めさせようかと思っている。流石にまどかは自発的にそういうところへ行きたがらないと思うけれど……

それにそもそも、誘いが1000件以上あり選別するだけで疲れる、というか無理だと思う。こんなのどうすればいいというのだろう。頭のリソースをこんなことに使わされることにさらにイライラさせられる。

 

そしてイライラの原因その3。これが目下一番の懸念事項だ。

 

私が寝る間も惜しんでのAFOの捜索、もう殆ど怪しい場所が残っていないのだ。100か所以上あったから時間がかかるだろうと思っていたのに。

 

理由は複数ある。一つ目は、単純に移動時間が想定より短かった。この世界では超常社会の黎明期の混乱で科学技術に停滞があった、と言うことになっているけれど、それでも元の世界よりは進んでいる。車両やらなんやらの性能が上がっていた。

次に、人が多い都心部はマミさんやさやかが手伝ってくれたお陰でかなりスムーズに進んだ。やってくれたことというのは、ソウルジェムの悪意感知機能を使って明らかに人がいない場所を除外したというもの。これでそれなりに負担が減ってくれた。

そして最後に、警察が勝手に私が探そうとしてくれたところを捜索してくれていたのだ。理由はよく分からないけれど、明らかに私が探し始めたときから摘発が加速してくれていた。

これに思い当たる節はある。犯罪組織のアジトみたいなところに入り込んだとき、重要そうな書類があったら頂戴していたのだ。まあ中身はほとんど読んでいない。役立ちそうだったから、目についたのを盗ってるだけ。パッと見た感じでは違法個性ブースト剤の取引の何かが多かったと思う。そういうのを警察署に忍び込んで偉そうな人がいる場所に置いておいたけど、それを警察の人が読んでくれていたのを見たことがあるので無視はされていないと思う。

 

まあ、公権力がちゃんと仕事をしてくれているのは素直に嬉しい。けれど、これは同時に私にできることが無くなることを意味する。結局私がやったのは、ちょっとだけ日本から悪い人を消したボランティア活動だったのだ。

 

なんとなく恐れていた事態になってしまった。考えてみたら、悪の親玉として一時代を築いた人間なら、警察内にスパイか何かが居ても全くおかしくない。AFOに関する都合の悪い情報は消されてしまっているということなのか。私は警察署内のデータを盗んでいるとは言ったけれど、重要そうな金庫などに入っている物は流石に見れない。書類以外に何かないかと、パソコンからデータを取れないかと思って人がいない時を狙ってPCの一つにUSBを挿してみたら、突然警報が鳴りだしたことがある。セキュリティロック的な何かだったんだろう。時間停止で逃げたけど、それ以来PC内のデータには手を出せていない。私にパソコンの専門的な知識なんて無いし……。

 

……そもそも、私はソウルジェムの悪意感知をアテにしていたけれど、よく考えたら杏子はAFOと接触した当時は直前までその異様さに気がついていなかったのだ。そういう感知を妨害する個性だって持っていてもおかしくはない。なんでこれに今まで気が付かなかったんだろう……考えればもっと懸念材料はある気がする。

 

ともかく、私がこれ以上警察から情報を得るのは無理だ。じゃあ、わたしはまどかを守るために次に何をすればいいのか?おびき出すとか?最近発信器代わりの魔法を頑張って作ってるから、脳無が表に出てくれればそれを使って敵のアジトを割り出すことができる……表に出てくればだけど。

 

……やっぱり、わからない。

 

常識的に考えればわかることだった。時間停止があるとはいえ、一介の女子高校生にできることなんて限られている。まして、相手は何年もの間悪の親玉をしていて、今はおそらく力を蓄えるためにどこかに全力で隠れている。警察が最優先で探しているのに見つけられない相手を、私一人がどうして見つけられるというのか。

 

流石に相手は人間だ。ワルプルギスの夜くらい硬いなんてことはないだろうから、見つけさえすれば少なくともダメージを与えられると思う。なのに、見つからない、だから手が出せない。

 

ただただ焦りだけが募っていく。まどかの為に何もしない自分。その事実を認識するたびに、無意識の内に胃のあたりを押さえてしまう。

まどかは体育祭の時になりたい自分になれたという感じだったけれど、今の私はなりたい自分じゃない。

そういう面では、まどかが羨ましくなる。

 

 

そんな現状をさやかとまどかに相談してみたが、案の定「気にしても仕方がない」と言われてしまった。

 

「ねーほむら、やっぱこれ以上は無理があるって、警察やヒーローに任せようよ。」

「しつこいわよ美樹さやか。オールマイトが危うく負けるところだったのよ。むしろあなたはどうしてそうヘラヘラしていられるのかしら。」

「だって気にしてもしょうがないし……」

「そうやって襲われて、誰かが死んだら一生後悔するのよ。まどかが死んでも『何もできなかったからしょうがなかった』って言うつもりかしら?しょうがないんじゃなくて、どうやったら可能になるかを考えなさいよ。」

「それは……そんなの嫌だけど……でも実際ほむらなんも思いつかないって」

「だから困ってるんじゃない……」

「ほ、ほむらちゃん、そんなに私達って危ないの?体育祭から何日か経ったけど、なんともないよ?」

「…………」

 

実際のところ、目立った実害は出ていない、今のところは。変な人がちょっかいをかけてくる程度にとどまっている。

まどかの個性をほじくり返されることを恐れていたけれど、病院の検査では何も出なかった。最近まどかは放課後に個性の危険性を調べるという目的でヒーロー科と会う機会があるのだけれど、そこでは「他の個性とは何かが違う個性」とはならず「前例のない珍しい個性」として認識されていて、従来の個性の延長上にあるものだと認識されている。私たちが変に情報を出さなければ、「偶然強い個性が出てラッキーだね」で済ませられるかもしれない。

 

けれど、これもそういうわけにもいかない。

 

杏子との繋がりが雄英の先生達におそらく伝わってしまったのだ。

 

最初に私たちがヒーロー科と一緒に模擬戦闘をした日の終わり際、イレイザーヘッドが不意打ち気味に杏子の写真をまどかに見せてきたのだ。あの人は杏子が捕まる時にいた人らしい。驚いた顔からしてあてずっぽうだったのだと思う。でもそのとき、まどかがとっさに杏子の名を出してしまった。

その件はそれ以降何か聞かれたわけじゃないし、先生たちが杏子のことで何かしている様子は見られない。でも絶対なにか疑われていると思う。杏子は表に名前が出ている人間じゃないから、(ヴィラン)とつながりがあるとでも疑われたら本当に面倒だ。

 

ちなみに、今はまた放課後に模擬戦闘に呼び出されたまどかに付いて行く最中で、またそのイレイザーヘッドと顔合わせをすることになると思うと少し不愉快になってしまう。

 

「ねーほむら、もうちょっとゆっくりしなって。せっかく華のJKなんだからさー、もっとおしゃれとか趣味とか色々やることあるよ?このままだとブラック労働で埋め尽くされた真っ黒の青春になっちゃうよ!?」

「そんなこと言って、殺されたら黒どころか青春の色そのものが無くなるわよ。」

「強い個性だって言うなら私達以外にもいるんじゃないかな?私たちが住んでるところって雄英が近いお陰で(ヴィラン)の脅威は少ないって言われるし……わざわざ白昼堂々と個性を奪いに来るなんて考えにくいんじゃないかな。自分から危険に突っ込まなければそこまで心配することないと思うんだけど……」

「だからって……でも……」

 

私はそこから先が続かなかった。まどかの言うことは実際筋が通っている。今の状態のまどかに襲い掛かって来るなら、もうとっくにAFOは表に出ているだろう。

 

これは私のわがままなのかもしれない。私は、まどかのために何もできない自分が嫌で嫌で嫌で嫌で仕方がない。何もせずノンビリしていることを考えるだけで吐き気がする。もう時間の巻き戻しは出来ない。この世界は死んだらそれでお終いなのだ。

嫌すぎて、非合理的でも、何かせずにはいられないのが私、なのかもしれない。

 

「……と、というかほむらちゃんはもっと別に心配しなきゃいけないことがあると思うよ?」

「何かしら、まどか。」

「その、ほむらちゃんのクラスの立ち位置が……」

「立ち位置……?」

 

正直私のイライラは最近増すばかりで、クラスの他の人たちの様子なんて気にする余裕が無い。下手したら暴言を吐いてしまいそうだったのでむしろ接触を避けている。

 

そう考えていると、さやかががしっと私の肩を掴んで目を合わせてきた。

 

「ほむら!マジで分かってなさそうだからハッキリ言うけど、正直今のクラスの状況めっちゃまずいんだよ!」

「……え、何かあったかしら?対立でも起こったの?」

 

クラスが荒れたとか言う話は聞いていないけれど……

 

「そうじゃなくて、ほ、む、ら、にとって悪いの!ハッキリ言って今のほむらは嫌われ者に足突っ込んでんの!私たちはほむらがそんなんじゃないって分かってるけど、客観的に見たら今のほむらって四六時中イライラしてるから触りたくない人間になってる!この前私他のクラスの子に『あんた良く暁美さんと付き合ってられるわね。』って言われたの。ヤバいって!」

「そうなのかしら……」

 

いつの間にそんな評判になっていたの……全然気が付かなかった。さやかの表情はかなり真剣なので、程度は無視できないレベルなのだろう。

 

……まあ最近のイライラが悪影響を及ぼしているのはなんとなくわかる。でもこればっかりはどうしようもない。私だって人間だもの、自分の感じる不快さを全部表に出さないなんて無理。

評判が悪いのは嬉しくないけれど、まあこういう時もあると納得するしかない。

 

「まあ仕方ないわ。人生上手くいかないものねえ。」

「か、軽くない……?」

「その楽観をもっと他のところに発揮してほしいんだけど!?」

 

私の発言にまどかが何故か引いていて、さやかに突っ込みを入れられた。

まあ、正直実害が無ければどうでもいい。たまにいじめとかで物を隠されるとか言う話を聞くけど、そういうのが無ければ問題ない。雄英の普通科は一応ヒーローを目指していたという人が多いだけあって治安が良いみたいだし、そんな心配はないだろう。

 

「実害ないからいいじゃない。」

「ど、どうしよう……」

 

まどかが私を見てなにか焦りを感じているらしい。それを見て私にも焦りが浮かんだ。……でも今のAFOが生きている状況を何とかしないとどうにもならないと思う。

 

 

それで、A組とまた簡単な模擬戦闘をして今日の帰路につく。

 

「いやー、今日も楽しかったねえ。」

「うん、楽しかった!」

「……楽しそうでなによりだわ、まどか。」

 

やったことは前回と同じ模擬演習。あの爆豪という人はずっと歯ぎしりしながら拘束されてて、あの峰田とかいうセクハラ野郎はいなかった。

それ以上のことは無く、私としては……まあ捜索に当てられる時間が削られて嫌だった程度しか思っていない。まどかとさやかはA組の女子を中心にお喋りしていた。私は、別に興味が無かったのでそこまで話していない。

 

「今日はA組の女の子みんなとLINE交換しちゃったし、もうすっかり仲良しだよね!」

「そうだねえ……。」

 

……なぜだろう、さやかの発言には若干の面倒くささというか、疲れが見て取れた。

 

「あれ、さやかちゃん?どうしたの?」

「え?いやいや、何も?」

「あー……そういえば、さやかちゃん連絡先交換してなかったね。私が後で教えてあげようか?」

「い、いやあ大丈夫だよ……」

 

……やっぱり元気がない。どうしたのだろう?

精神に不調をきたしたのなら早めに共有してくれないと困る。ソウルジェムの濁りに関わるのだから。

 

「不満があるなら、言ってくれないと解決するものもしないわよ、さやか。」

「……わかっちゃう?なんだかんだほむらも付き合い長いもんね。」

 

さやかはお手上げというジェスチャーをすると、本音を語りだした。

 

「恥ずかしい話だけどさ……感じちゃうんだよ。」

「……何を?」

「…………劣等感。」

 

さやかの言葉が堰を切ったように溢れ出す。

 

「正直、私ヒーロー科舐めてた。何あれ、人間的にめちゃめちゃ強いのがわらわらいるんだけど!?」

「人間的に強いって何よ?あなたも個性、というか能力じゃ負けてないわよ。」

「そうじゃなくてさ。ほら例えば……小中の頃、クラスにいたじゃん。頭が良くてスポーツもできて、性格さえ良くてすんごいモテる、みんなの中心みたいな完璧超人、中学の頃にいたでしょ?」

「あ~……いたね、そんな人。今どうしてるんだろう?私は全然接点ない人だったけれど……」

「……みんなの中心って何?」

「あー……ほむらはそもそもクラスに最後まで馴染んでいなかったからわかんないか……ともかく、あんま良くない言葉だけどカースト最上位みたいな人。で、その上位互換がわらわら集まってんのがA組なの!なんか私一緒に居て逆に恥ずかしくなってきたんだよ……ほんと何アレ!?話はみんな面白いし冗談が上手いし、人を褒めるのがメチャメチャ上手いの。麗日としゃべってこの人すごい話上手いな~いいな~と思ってたけど、まさかほぼ全員があんな感じだったなんて……!」

 

麗日お茶子さんは、よく喋るなとか、ずっと笑顔だったなという印象はある。人間関係に敏感なさやかから見ると、麗日さんはそう映っていたのか。結構面白い感じ方の違いだと思う。

 

「麗日さん受験の時の筆記の偏差値とかしれっと私より15くらい高かったし、如何にも普通の人ですって空気出してた尾白君でさえ突然『これは俺が全国柔道大会で優勝した日の帰りの話なんだけど~』ってナチュラルに言い出すし、みんななんかの賞とか標準装備みたいに持ってんの。わ、私ってここまで何の取り柄もない人間だったっけぇ……」

 

さやかの腰が幽霊みたいに曲がってしまった。落ち込んでいる……けれど、さやかは落ち込みと喜びの波が私の5倍速い人だ。この程度ならすぐ立ち直ると思う。

 

「そうだね……すごい人たちばっかりだよね。私は身の周りがすごい人たちばっかりだからそんなに驚かなかったかなあ。」

「まあ……元気出しなさいよ。あなた私達の中で成績ドベだけど私より人付き合い上手いじゃない。」

「ほむらぁ……言っとくけどそれはほむらが言っても元気出る言葉じゃないからね!あと多分あの人たち私より人付き合いも上手いんだよ!」

「悪かったわね。じゃあもう何も言わないわ。」

「……やっぱなんか続きがあるなら言って。」

 

……なんだろう、すごく面倒くさく感じてしまった。

 

「A組の人たちだって探せば欠点の一つや二つあるでしょう?多分。」

「私が出来てあの人たちができなさそうなこと……なんかある?」

「私には魔法少女としての能力以外は思いつかないわ。」

「ダメだ……私はダメな人間だ……」

「さやかちゃん元気出してよ!わ、私はさやかちゃんと友達で嬉しいよ!」

「まどかぁ……!ありがとう、今私に存在意義が生まれたよ!」

「……結局長所見つかってもないけどいいのかしら?」

「いーんですよーだ!!!長所なんかなくったって人は生きていけるもんね!」

「はぁ……元気になったわね。」

 

予想通りすぐ元気になったさやか。面倒ごとにならなくて良かった。

 

「A組……あっ!!!」

 

私がさやかに気を取られていると、突然まどかが思いついたような声を上げ、すこしビックリした。

 

「どうしたの?まどか。」

「えーっと?」

「ん?まどか……え、えーと……」

 

まどかとさやかが目配せし合っている。……私抜きでテレパスしているらしい。

私の前で堂々とそんなことするなんて……一体どういうつもりなんだろう。

 

「……なるほど!私たちじゃあ限界を感じてたもんね!」

「うん、やっぱりこれがいいよ!」

「ほむら!今のナイショ話はほむらのためだから、期待して待っててね!」

「……なにをするつもりよ。」

「それは当日になってからのお楽しみ!まあ待っててよ。悪いようにはしないからさ。」

「うん!私たち、ほむらちゃんの状況を少しでもいい方向にできるよう頑張るからね!」

 

まどかが笑みを浮かべてそう言った。……まあ、まどかがそういうなら大人しく待ってみようと思う。

 

 

数日後、再び模擬演習のイベントがあって、それが終わった後。

 

「じゃあほむらちゃん。ほむらちゃんは今日はここでA組と一緒だからね!」

「うん。……えっ?」

 

まどかと帰ろうとしたら、突然そんなことを言われた。まどかとさやかはそそくさと一緒に校門へ向かった。遠くにマミさんが見える、一緒に帰るつもりなのだろうか?

 

いや、私も一緒に……

 

(暁美さん、鹿目さんのことは私と美樹さんが一緒にいるから安心して。じゃあ、頑張ってね!)

 

……え?いや、何が起こっているの?

 

「暁美さん!」

 

後ろから元気よく声を掛けられたので、振り返ってみると……

 

「クラスで独りぼっちなんだって!?大丈夫、僕たちがいる!」

「ああ!心配するな、友達の作り方を一緒に学ぼう!大丈夫、君ならできるさ!」

 

A組の面々がやる気に満ちた笑みで私を見ていた。

 

…………いや、まどか達が仕組んだのだろうけれど、本当に何よこれ?




・ A組
日本最強陽キャ集団を舐めてはいけない
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