個性『魔法少女』   作:Assassss

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高評価、誤字報告、感想、ここ好き等いつもありがとうございます。

最近は雑談みたいな内容が続いていましたが、今回の終盤や次回からまたギアが上がっていきます。

最近はワイルズが楽しいです。ラスボス戦直後に崩壊する禁足地からナタ達を逃がすためにアルシュベルドが親指を立てながら溶鉱炉に沈んでいくシーンは涙無しには見られなかったですね。(大嘘)

追記: まどかと脳無のくだりは少し修正しました。


VSステイン編
会敵


 

職場体験二日目。保須市というところでウォッシュさんとパトロールに来ています。私は勿論魔法少女の姿。この姿、周囲の人たちにヒーローコスチュームって言われるので、時々頭が混乱してしまいます。

まあ実のところ、魔法少女が出張るような事件もなくて、平和に街を歩いているだけですけれどね。

そんな事情もあって、今の状況はあんまりパトロールっぽくありません。

 

「まどか!ねえみてみて!あっちもこっちも私たちのこと見てるよ!なんかすごくない!?ついにさやかちゃんも有名人の仲間入りかぁー!」

「あなたじゃなくてウォッシュさんとまどかが目当てよ、美樹さやか。」

「ほむほむ、またコミュ力落ちてるよ!こういう時は『まさかあなたがここまですごいなんてね!』って返すのがノリが良いとされているの!」

「さすがにその嘘は通じないわよ、美樹さやか。あとそのほむほむ呼び止めなさい。特に人前では。さっきからなんだか鳥肌が止まらないの。」

 

私はあんまりほむほむ呼びをする勇気はありません。心の中で嫌がっていたら怖いから……。

……でも、今のほむらちゃんの様子を見ると、本当に鳥肌が立っているようにも見えません。腕で体を抱えるジェスチャーをしているけれど、あんまり深刻にも見えないし。……機会があったら私も勇気を出してみようかな?

 

「えー?いいじゃん、ほむほむ。コミュ力お化け集団のA組のお墨付きの呼び方だよ?」

「み、美樹さんもうちょっと静かにした方が……ヒーローの皆さんに迷惑が掛かっていると思うわよ。」

「いえいえ、構いませんよ巴さん。たまには緩いのもいいものです。」

 

私のことが心配になってついてきたほむらちゃん、さやかちゃん、マミさんが一緒に来たのです。最初はウォッシュさんのお仕事の邪魔になるんじゃって心配だったんですけれど、ありがたいことにウォッシュさんが許可を出してくれました。

そういうわけで、魔法少女の4人、ウォッシュさんとそのサイドキックさん達という大所帯で保須市を練り歩いています。さっきから私たち時々かなりうるさくしちゃってるんですけど、ウォッシュさんやサイドキックの方々は温かい目で見守るだけで特に何も言ってきません。本当にお仕事の邪魔になっていないか心配で、そして申しわけないです……。

 

でも実際、そんな私たちは特に事件に巻き込まれることもなく平和にパトロール、というか散策が出来ています。時々、ウォッシュさんや私目当てに写真を求める人や、握手をお願いする人がいるくらいですね。

あ、前方から女の子が走ってきます。また写真かな?

 

「ねーねー!もしかして魔法少女まどかちゃん!?」

「うん、そうだよ!」

 

魔法少女としての私をキラキラした目で見てくる、ファンと言えるような女の子。魔法少女になる前の私は、魔法少女をこんな風に見ていたのかな?と少しだけ感慨深くなります。

 

「サ、サイン頂戴!」

 

色紙とペンが、私に差し出されました。手がほんの少しだけ震えていて、勇気を出して私にお願いしているのが分かります。

 

……え、え!?サイン!?有名人がよく求められるものです。まさか私が求められるなんて……!

 

「サ、サイン……!?うぇ、ひひ……」

(鹿目さん、嬉しさが隠しきれていないわね……)

(へ!?あ、あうう……)

(……そういえば私たち写真とかは一杯一緒に撮ったけど、まどかのサインは持っていないわよね……)

(ほむほむ、今のほむほむは専門用語で「まどかオタク」っていうんだよ?いや、「まどか厄介ファン」かな!?)

(…………)

(みんな、そ、そんなにおだてられるとちょっと恥ずかしいかな……)

「ま、まどかちゃん?」

 

あ、いけない。気恥ずかしくなってしまう話がテレパスでされていたので、つい目の前の女の子を放ってしまいました。

私は誤魔化しの笑みを浮かべて、目の前の女の子が差し出す物を受け取ります。

 

「ご、ご、ごめんね!ええとサインだね!もちろんいいよ!えーっと……」

 

サインを書こうとして、ふと手が止まります。何を書けばいいんだろう?

 

(……ね、ねえみんな。サインって何書けばいいんだろう?普通にまどかって書けばいいの?)

(うーん……有名人がサイン書いてるのは時々ネットで見るけど、なんかすごく読みにくい字だったよ。)

(読みにくい字?難しいなあ……)

(そういうのは、鹿目さんの個性が出ていれば喜ばれると思うわよ。無理に読みにくくする必要は無いと思うわ。)

(なるほど、私らしいサイン……あ、そうだ!)

 

私はペンのフタを閉じ、女の子に返します。不思議そうに見るこの子の目の前で、色紙に指をなぞらせていきます。

 

指で文字を書くのはちょっとだけ慣れていないので時間がかかりますが……よし、できました!

 

「はい、これ!魔法のサインだよ!」

「……!あ、ありがとうまどかちゃん!一生大事にするね!」

 

私は魔力で桃色の線で色紙に『まどか』を描きました。魔力が籠っているのでキラキラ光るし、マミさんに憧れていた時のことを思い出して、ポジティブな感情を込めて描いたのできっと持ってて良いことがあるはずです。

満面の笑みで色紙を抱きかかえ、お礼を言ってくれる女の子を見ると私も嬉しくなってきます。そんな気持ちで、立ち去るその子を眺めていると。

 

「あの……鹿目さん、今のは?」

 

ウォッシュさんが不思議そうに私に質問をしました。……あれ、サインとかってやっちゃいけないんでしょうか?

 

「……ええと、サインをしたんですけど、なにか問題ありましたか?」

「いえ、問題行動だとかでは全然無いんですけれど、その、色紙に桃色の文字を書いていましたよね。あれは一体……?」

 

……?もう私の個性は体育祭で十分見せたので、そんなに変ではないと思うんですけれど……。

 

「えっと、個性を使って描いた方が喜ばれるかなって思ったんです。……もしかして、個性の無断使用とか?」

「いや、その、あの程度で口うるさく言うつもりは無いんですけど、あのピンク色の光る線は一体?」

「えっと、個性を使ってキラキラさせてみました。あっちの方がサインとしていいかなって。できるだけ明るい気持ちを込めたので、きっといいことありますよ!」

「……???」

 

ウォッシュさんが、よく見るとサイドキックさんたちも、目を点にしています。……どうしてそんな反応になるのでしょう?

 

しばらくそんな様子でしたが、何かを諦めたように息を吐くと、ウォッシュさんは話題を切り替えました。

 

「ま、まあいいでしょう。しかしせっかくの職場体験なので、ヒーロー活動に関するお話をしましょうか。」

 

真面目なお話が始まるようです。……思い返してみれば、私ここまで殆ど楽しいことばっかりしてきた気がします。遊び気分でごめんなさい、ヒーローさん……。

ウォッシュさんは、人差し指を立てて授業の先生みたいに話し始めます。

 

「さて、鹿目さんはそもそもどうしてヒーローがパトロール活動をするか、ご存じですか?」

「……悪い人がいないか見回るためですか?」

「それもあります。しかし一番の理由は、(ヴィラン)の存在を抑止するためです。」

「なるほど……」

 

ヒーローの近くで悪いことをする気は起きない……かなあ?びびるとか、そんな感じなのかもしれません。でも、悪いことしようとする人はそもそもヒーローに近付かないでしょうし……?

 

「とはいっても、効果覿面!という程でもありませんけどね。鹿目さんは、凶悪(ヴィラン)の出現率は屋外、屋内のどちらが多いと思いますか?」

「え、屋内じゃないんですか?」

「えっ!?すごい自信ですね?」

 

あれ?私、おかしな答えを言ったかな?ウォッシュさんとサイドキックさんたちが驚いた顔をしています。悪い人って普通人目につかないところでコソコソするものだと思うんだけど……も、もしかして違うの?

 

「ほ、ほむらちゃん。ほむらちゃんはどっちが多いと思う?」

「屋内だと思うわ。」

「マミさんは?」

「屋内、じゃないの?」

「さやかちゃん……」

「常識的に考えれば外で悪い事する必要ないでしょ。この世界、あ、いや、とにかくさ、人前で(ヴィラン)名なんて名乗りながら暴れてるのなんて、退治してくださいと言ってるようなもんだよね!目立ちたがり屋なのかな?ああいうの。……え、なにこれ、もしかしてひっかけ問題?」

 

やっぱりみんな屋内って思ってるみたい。さやかちゃんはひっかけを疑い始めています。私も、普通に考えれば屋内だと思うんだけど……

 

恐る恐るウォッシュさんを見ると、答え合わせと同時に拍手をしました。

 

「いやー、流石雄英生、と言うことなのでしょうか。そうです。屋内の方が多いんですよ。真に賢しい(ヴィラン)は闇に潜む、なんて格言が僕たちヒーローにはあるくらいです。」

「そうですよね。普通悪いことする人が堂々と人前でやる訳ないですよね……?」

「ええ。でも、君たち位の年齢の子にこの質問をすると、大体屋外って答えますよ。これ、(ヴィラン)にまつわる小話としてよくやるネタなんですけど、鹿目さんたちはまるで常識かのように自信満々に言ったことに僕は驚いたんです。」

「……逆に聞きたいのですけど、なんで屋外っていう発想になるんでしょうか?ウォッシュさん。」

 

マミさんが純粋に気になるみたいで、ウォッシュさんに質問を投げかけます。

 

「え?うーん言われてみると……」

 

ウォッシュさんは腕組みをして考え込みました。

 

「……まあ、昔からテレビやネットで映るヒーロー活動というのは屋外メインですし。自然と(ヴィラン)も屋外に現れるもの、みたいなイメージがつくんじゃないですか?」

「そういうことなんですかね……?」

 

だからこの世界の人たちはそういうイメージが……でも、わざわざ目立つように活動する(ヴィラン)も元の世界よりは多いと思いますし、そんな単純なお話じゃないのかな?

 

「まあともかく。今のように僕たちがただ歩いているだけでも意味があるのです。時々『歩いてるだけで高給取りやがって!』みたいなことをいう人もいますけれど、僕としてはそんな世界の方が平和で良いと……あ、いや、これは嫌味になるかもしれませんね、忘れてください。さて、パトロールにはそういった抑止力のほかに副次的効果も期待できるのですが、それは何かわかりますか?」

「えー?……ごめんなさい、思いつかないです……。」

「答えは、僕らヒーローの存在を示し、市民の皆さんに安心を与えることです。守る者と守られる者との信頼関係を築くのです。」

 

なるほど、確かに信頼関係は大事だと思います。杏子ちゃん、初めて出会ったときは「もしかしたら殺されるかも」って怖かったのを覚えています。たとえ本人にその気が無くても、力を持った存在というのは怖いですよね。

 

「なるほど!力を振るう存在が自分達にも牙を剥くかも、という不安を払拭する為のアピールなんですね。」

「い、いや流石にもうちょっと僕たちヒーローはそんなことするわけないと信じて欲しいですけどね!?もっとこう、反抗期の子供を相手にするようなイメージでしたよ。鹿目さん、思っていたよりも結構物騒な発想が出ますね……」

「へ!?あ、はは……すみません。」

 

パトロールを続けていると、さやかちゃんが話し出します。

 

「そういえば、なんかさっきからヒーローをよく見ますね。なんかあるんですか?」

 

……そう言えば、さっきからヒーローとよくすれ違う気がします。

さっきから困っていそうな人が全然見つかりませんけれど、もしかして集まっていた他のヒーローが全部解決しちゃっていたりするのでしょうか?

 

「ああ、最近はこの辺物騒でしてね。沢山のヒーローに出動要請が掛かっているんです。ヒーロー殺しはご存じですよね?」

「え?ああ、あの飯田君のお兄さんがやられちゃったっていう……」

「飯田君……ああ、インゲニウムの弟さんのことですか。ええ、そうです。ヒーロー殺しステイン。奴の行動パターンからすると、しばらくこの保須市で活動するのでは、と予測されています。その対処のためにヒーローが集められたり、捕まえようと戦闘向きのヒーローが集まっているのです。」

「へー。じゃあ、ウォッシュさんも奴と出会ったら戦うんですか?」

「いえいえそんな。僕は戦闘は得意じゃありませんから。事件が起きた際の避難誘導がメインですよ。仮に会敵したとしても、撃退メインで捕縛などするつもりはありません。まあ、今回僕達が襲われることなんて無いと思いますけどね。大通りしか歩いてませんから。流石に奴も白昼堂々人を襲った事なんてことありませんし。」

 

まあ、危ないと思っていたら私達を連れてこないよね。私達にはあんまり関係なさそうです。

 

「……暗い話で申しわけないのですが、インゲニウムがやられたと聞いた時は本当に悔しい気持ちになりました。癖のあるヒーローを取りまとめ、適材適所に配置する能力は僕も素晴らしいと思っていたのです。まだまだこれからだという時にあんなことになってしまって……本当に残念です。」

 

早く捕まってほしいね、ということで私たちはこの会話を終えました。

 

……そういえば、飯田君の職場体験先ってどこだろう。私は聞いていません。……もしかしてここに来ていたり……しないよね?

 

 

まどかから、もし飯田君を見つけたら目を掛けて欲しいと言われてしまった。

 

職場体験二日目が終わった後、ヒーロー殺しという凶悪(ヴィラン)の話を聞いたまどかは、そいつに兄をやられた飯田君の職場体験先を調べた。

結果、悪い予想が当たってしまった。飯田君の体験先のヒーローはマニュアルというらしく、彼は保須市を中心に活動しているとのことだ。まどかは心配して飯田君に心配のメッセージを送ったが、「僕なら大丈夫だ。心配してくれてありがとう。」という1文のみ返ってきたらしい。もし見つけられたら復讐を!と考えている可能性は大いにあるだろう。

 

「いやーパトロールって楽しいねまどか!昼食代わりの限定クレープはホント最高だったよ!しかもヒーローの奢りだし!」

「さ、さやかちゃん流石に無遠慮すぎだよ……す、すみませんウォッシュさん。お仕事の邪魔になってしまって……」

「いえいえ、構いませんよ。僕から見れば娘、孫みたいな感じですし。あ、でもお昼ご飯をクレープだけにするのは今日だけにしてくださいよ?体に悪いですからね。」

「……あはは、すみません。というか意外な事実……。」

 

でも、保須市は広い。2日目は会わなかったし、もう3日目の終わり際になっている今この時までも出会わなかった。多分飯田君の身に何かあったら、私よりも先に他のヒーローが駆け付けるだろう。

 

それよりも、明日からは月曜日でまどかと一緒に居られないことがとても心配だ。仮病はまどかに禁じられてしまったし、思い切って本当に風邪を引くことを検討している。……魔法少女が風邪ってかなり間抜けな気がするけれど、このくらいの恥は受け入れるしかない。

 

(意外な事実と言えばさ。ほむほむが職場体験前にズル休みするとか言い出したのはマジでビビったよね!)

(ほ、ほむらちゃん、ずる休みしようってまた考えてない……よね?)

(アハハ!あのクール系美少女ほむほむがズル休みとか無いって!ね、ほむほむ!ね!!!)

(暁美さん……いい年して仮病はちょっと、ねえ……?)

 

思考が漏れていたのだろうか。テレパスで物凄く不審がられてしまった。こんなに疑われたら、多分わざと風邪を引いてもそのことがバレてしまいそう……

……私、考えていることがテレパスで伝わったりしていないだろうか?今のは流石に偶然……よね?

 

「さて、暗くなってしまいましたし、本日の職場体験はここまでと言うことにしましょうか。みなさん、パトロールはどうでした?」

「ええ。ウォッシュさんやサイドキックの皆さんから貴重なお話が聞けて、とても有益でした。2日間ありがとうございます。」

「……貴重な体験でした。ありがとうございました。」

「楽しかったですよ!パフェとてもおいしかったです!」

「さやかちゃんはそれが一番みたいだね……。」

「皆さんに喜んでいただけて、僕もヒーロー冥利に尽きるというものです。ではこれで―――」

 

ウォッシュさんの発言はそこで止まった。

 

爆発音。

 

見ると、火の手が上がっていた。……事故だろうか?いや違う。久しぶりに感じるものがある。悪意だ。複数感じる。

 

「何事も無く終われたと思ったら、最後の最後で事件ですか……君たちは避難してください。僕は火災の消火と救助に行くので」

「みんな上!!!」

 

この中で一番感覚が鋭敏なのは、美樹さやか。杏子もそうだったのだけど、私たちの中で近距離戦闘をメインとする彼女は、他者の動きや気配といったものに敏感だ。魔女退治をしていた頃、いつの間にか暗黙のルールとなったことがある。佐倉杏子と美樹さやかの咄嗟の指示には従え、だ。

 

「上?いった……!!!!!」

「ン゛ギイイイ!エ゛エ゛エ゛アァァ!!!!!」

 

なぜなら、次の瞬間にはこうして奇襲攻撃が来るからだ。

 

上から降ってきたそれは、私たちの殆ど中心部に落下以上のスピードで衝突。アスファルトを割り、土煙を発生させる。普通なら地面の赤いシミになっていたであろう攻撃だった。

私たちはこういうのに慣れているので淀みなく動けたが、(ヴィラン)との戦闘に不向きそうなウォッシュさんは大丈夫かと一拍遅れて思い至る。

 

「イタタ……皆さん大丈夫ですか!?……よ、よかった無事ですね。なんですかあなたは、まさか(ヴィラン)ですか……!?」

 

しかしさすが高ランクのヒーローとあって、普段のコミカルなイメージからは想像できない俊敏な動きでその場から回避。すぐに体勢を立て直し、落下した相手に向き合っていた。

普通の(ヴィラン)ならば投降でもするよう言うのだろうが、彼は言葉を失ってしまう。異形型が存在するこの世界においても不気味と感じられるその風貌のせいだ。

 

明らかにメラニン色素ではない黒色を持つ肌、尾てい骨の部分から生えている骨がなさそうなグニャグニャの複数尾、凶器としてデザインされたような爪や筋肉、理性を感じさせない瞳と垂れる長舌。

そして、露出した脳。

 

間違いない、USJの時に現れたという脳無の亜種だろう。

 

「い、一体あなたはなんなんですか!?」

「ギャオオォ゛アア゛アア!!!」

「うわ!?」

 

会話を無視して、脳無は尾を束ねて伸ばすことでウォッシュさんに攻撃する。ゴムのように伸びたそれは、金属の槍のようにコンクリートの地面に突き刺さった。ギリギリで避けたウォッシュさんは明らかに普通の(ヴィラン)とは違うと見做したようで、声に緊張が籠る。

 

「何も言わず攻撃ですか……サイドキックの皆さん!」

「戦闘メインのヒーローに既に応援を呼びました!ただ、似たような要請が多いそうです、つまり……」

「ま、まさか同時多発的襲撃、ということでしょうか!?さっきの爆発もコイツの仲間が!?一体こいつらは何者なんだ……」

 

迅速に対応してはいるけれど、ウォッシュさんは何故か脳無のことに思い至らないらしい。

でも思い返してみたら、脳無の見た目はショッキング扱いされていたから、ニュースメディアなどに出なかったような気がする。言葉の上では知っていても、姿は知らないのだろう。

私たちは警察から頂戴した写真を見慣れているけれど、この人たちには共有されていないらしい。

 

見かねたさやかが口を開く。

 

「ね、ねえ皆さん!あれってUSJを襲撃した脳無って奴じゃないんですか!?」

「美樹さん!?どうしてそう思うんですか!?鉄火場なのであんまり適当なことは言わないでくださいね!」

「私もそう思います!ほら、ニュースで脳を露出した見た目って言ってた気がします!」

 

マミさんが援護射撃を出したことで、ウォッシュさんはとりあえずまともに聞いてくれたようだ。

が、鵜呑みにもしていないようだった。

 

「……そんなことニュースで言ってましたっけ?まあなんであろうと、僕らのやることは変わりません。応援のヒーローが来るまでこの(ヴィラン)を足止めすることです!救助専門だからって舐めて貰っては困りますよ!デタージェント・バブル!!!」

 

ウォッシュさんが洗濯機の蓋を開けると、中から大量の泡が放出される。しかも個性産は普通よりも強固なのか、普通の泡なら潰れてしまうであろうスピードで脳無に殺到。そのまま泡まみれにしてしまう。

一瞬、泡なんて攻撃力が無いじゃないの、と思ってしまったが、すぐに認識を改めた。洗剤は当然滑る。脳無は転んでしまい、起き上がれない。尾で攻撃しようにも、上手く地面に踏ん張れずにあらぬ方向へ振り回してしまうという、すこし滑稽な姿を見せることとなる。

振り回される尾は依然脅威だが、行動阻害や時間稼ぎとしては十分だった。

 

「よし!物理攻撃だけのようでよかったです。今のうちに!」

 

ウォッシュさん的には、すんなり脳無を拘束出来たために少しホッとしたようだった。

……けれど、ウォッシュさんはこの場から動かない。ジタバタ動く脳無を見張るつもりのようだった。

 

「あ、あの、ウォッシュさん、この脳無はどうするんですか?」

「僕が見張っているから、心配しないでください。」

「でも、その、まだ元気に動いていますよ……?」

 

流石にこのジタバタ動いている脳無を放っておくのは不安に狩られる。ウォッシュさんが絶えず個性で泡まみれにしているとはいえ。周囲の人々は既に逃げているけれど、万が一奴の攻撃が当たるということもあり得ると思う。

 

しかしヒーローとしては違うようだった。まどかが弓を構えると、ウォッシュさんは慌ててまどかの前に立つ。

 

「ダ、ダメですよ鹿目さん個性使って攻撃しちゃ!」

「え?で、でもこの脳無というの、明らかに私達を殺しに来てますけど……」

「不安なのはわかります。しかし、不必要に攻撃を加えると過剰防衛になってしまう恐れが高いのです。なぜなら、今の時点で既に奴はすでに動けませんから。それに、鹿目さんの矢の威力ですとおそらく殺してしまいます。そうなったら大変でしょう?個性の違法行使や過剰防衛を疑われてしまいます。」

「ええー……」

 

……多分人造人間だから死体に近いと思うのだけれど。知らないとはいえ、聞いていると呆れすら感じてしまう。

 

「おかしいと感じる気持ちは分かりますし、僕もこの法律には思うところがあります。しかし、今は非常事態ですし、どうか僕の指示に従っていただきたいのです。この脳無は、後で別のヒーローに拘束してもらう手はずになっていますから。」

「わ、分かりました……」

「ご理解いただきありがとうございます。さあ皆さん、行きますよ。大丈夫です、僕たちがついてますから。」

 

そうしてサイドキックの人たちに促されて、私たちは避難を始める。ウォッシュさんは警察が来るまで本当に脳無を見張るようだ。コイツを殺しておけばウォッシュさん他のところに行けるだろうに……。

 

ともかく私たちは、多少の緊張感を持ちながらもサイドキックさん達に連れられて街の外へ歩き出す。ちなみに電車は止まっているらしい。すこし長く歩くことになりそうだ。

ここでお喋りするのは不謹慎だと感じられたので表面上は黙っていたけれど、テレパスでは愚痴が飛び交った。

 

(なによ、さっきのアレ!向こうは殺しに来てるのにこっちは抵抗しちゃいけないわけ!?)

 

私達からすれば、外敵に対抗するための大切な武器を勝手に禁止された気分だ。正直個性の不正使用と言われるとすごく不愉快になってしまう。

 

(まあまあ美樹さん。色々と大人の事情というものがあるのだと思うわ。でももう少し、柔軟っていうか、大目に見て欲しいものよねえ……)

(ご、ごめんみんな。迂闊な行動だったね。あの不気味さから魔女を思い出しちゃって、つい……)

(いや、この社会がバカバカしいんだからまどかはぜーんぜん気にしなくていいよ!ヒーローは『どんな時でも』殺しをしちゃいけないって聞いてたけど、まさかあんな場面でそれを持ち出すなんて……)

(そうよねえ……脳無の命より自身や私たちの命を優先してほしいわ。)

 

この世界は、確かあの名も知らない魔法少女が願った結果の世界で、確か話の内容的に『ヒーローが活躍する世界に行きたい』という感じだったと思うけれど、ヒーローにこんな不殺まで求めていたのか、とは聞きたくなる。もう一年以上たってるし、彼女の捜索は諦めているけれど。

 

社会への愚痴はともかく、私は今回の事件のことに頭を回していた。

 

(……今回の事件、一体何なのかしら……)

(暁美さん?何か気になることが……)

(脳無は、(ヴィラン)連合の手下、というか兵器よね。つまり(ヴィラン)がこの町を襲撃した、と言うことなのでしょうけれど、一体何の目的があるのかしら……)

(……何かしらね。この保須市って特別なものってあったかしら?)

(最近ここらにヒーローが集まってきてるから、一気にヒーローを一網打尽!っていう感じじゃない?)

(そうね……無いことも無いでしょうけれど、ちょっと根拠が弱い気もするわ。ヒーローを潰したいなら、闇討ちされたとか、行方不明のヒーローが増えてるとか、そんなニュースがあってもおかしくないわ。)

(そうかぁ……。というか、ほむら。時間止めて奴らを消さないの?ほら、まだ試作段階だけど発信器代わりの魔法とか頑張っているじゃん。)

 

やっとほむほむ呼びを止めたわね、という呟きが危うく出そうになった。

 

(まどかが近くに居るからね。今日は止めておくわ。放っておけば、ヒーローが倒してくれることでしょう。)

(ほ、ほむらちゃん。そんなに心配しなくても……)

(……でも……)

(………目的も気になるけれど、私はどうしていきなり現れたのかが気になるわ。)

(マミさん?)

(ほら、脳無って人造兵器だから普通の人間からはかけ離れた挙動で不気味だし、見た目も異形型で片付けられない程に人間離れしているでしょう?そんなのが街を歩いたら、きっと騒ぎになっていると思うのよ。見た感じ、手あたり次第人を襲う感じだったわ。でもその脳無が、突然町中に沢山現れたって、どういうことなのかしら……)

(……!)

 

私の頭に一筋の電流が走る。

 

マミさんの言う通り、奴らは人目につく。何らかの方法で、突然人前に姿を現したと考えるべきだ。

事前にコソコソ隠れて事前に町中に潜んでいたのかもしれないが、それだったら奴らの悪意に私たちが直前まで気付かなかったのと矛盾する。

 

なら、奴らはどんな手を使ったというのだろうか?

 

普通なら頭をひねるところだけれど、(ヴィラン)連合にはそれを可能とする便利な個性がいる。

 

(話が変わったわ。ふたりとも、まどかをお願い。)

(え、ほむらちゃん、どうしたの!?)

(ここでまどかと離れるリスクを受け入れてでもやるべきことがあるのよ。)

(あ、暁美さん……あ、そういうことね!これは暁美さんにしか頼めないわ!)

(マミさん、二人に説明お願いします。)

 

「すみません、私はここで別れさせていただきます。」

「え!?し、しかし危ないよ?もう少し離れて」

 

サイドキックさんたちは驚いて私を見る。黙って歩いていた人たちが突然こんなことを言い出すのだからちょっとおかしいかもしれないけれど、それを押してでも私はここを離れることにした。

 

「実家に連絡を入れてありまして、今日は泊めてもらうんです。それでは。」

 

私は速足で道を曲がり、彼らの視線を切る。サイドキックの人たちは追いかけようとしたけれど、マミさんが「噓じゃないみたいですよ!」と引き留めてくれた。

 

そして時を止める。かすかに聞こえていた悲鳴や叫び声は完全に無くなり、色すら止まって、私の音しか聞こえない、私の世界がやってくる。

 

何にも邪魔されないまま、ビルの屋上へ跳躍。そしてあたりを見渡す。何体か脳無が見える。翼のある脳無、口から異常発達した舌を振り回す脳無、高圧の体液を吐く脳無。その大多数はヒーローと戦っていたが、腹立たしいことに大半が脳無の優勢だった。やっぱり、(ヴィラン)連合はこの国を脅かすテロ組織だ。その光景に、一刻も早くこいつらの親玉を潰さないといけないと決意する。

私はそいつらに、前から試作していた発信器代わりの魔法をかけた。私が脳無に近付いて手をかざすと、脳無の首に普通の人には見えない魔女の口づけのような印が現れる。とはいっても、場所を感知しやすくなるというだけで、GPSのように地球上のどこにいても場所を特定できるような代物ではない。それに、時間が経過すれば解けてしまう。私たちは、これを改良してもっと効果が強いものに出来ればAFOを見つけられるのでは、という小さな望みを持っていた。結局(ヴィラン)連合の構成員を見つけないと意味ないよねなんて話をしていたのに、まさか今日(ヴィラン)の手先を見つけられるなんて。

 

……だけど、さらにそのうえ、この脳無が現れたことすら感謝できる、願ってもなかった対象を見つけることができた。今日は間違いなく幸運な日だ。

 

あるビルの屋上に、二つの人影が見える。

片方は顔に手のようなお面をつけた白髪の男。同年代にも見えるが、服装やしぐさが余りにも暗く、年齢の推測に私は確信は持てないけど。

 

おそらく死柄木弔だ。USJを襲撃した(ヴィラン)の中心的人物で、当時は脳無に指示を出していたらしく、(ヴィラン)連合の中で相応の地位にいると推測できる。が、あくまで中心的人物というだけで個性が飛びぬけて強力というわけではない。彼の個性は『崩壊』と呼ばれており、手で触れた物をなんでも粉々にするというものと推測されている。しかし性能はそこまででもないらしい。もし一瞬で粉々にするのだったら強く警戒しなければいけないだろうが、A組の人の話や警察内の資料によると完全に崩壊させるのにそこそこ時間がかかるらしい。人格は、幼児的万能感が抜けない子供大人などと評されていた。襲撃時の彼の発言も調べたけれど、確かに社会のことが嫌いな子供というような印象を受けた。

つまりAFOなどと比べれば大した脅威ではない。なぜこんな男が(ヴィラン)連合で高い地位を得ているのかは謎。AFOの息子か何かなのだろうか?無力化できるならしておきたいが、優先度は高くない。

 

そして、もう片方が本命だ。

顔の部分を中心に、体が黒い霧に覆われている男。彼は黒霧と呼ばれている。こいつもUSJを襲撃したらしい。言動としては、死柄木を守る保護者のようだったらしい。

 

彼の個性は『ワープゲート』だ。なにかしらの制約はあるのだろうが、離れた地点を繋ぐことができるというのは非常に強力と言える。これによって、(ヴィラン)連合はUSJに内部から侵入できたそうだ。

厄介な個性であり、(ヴィラン)連合に欠かせない存在であることは間違いなく、コイツも無力化したいとは思う。

 

けれど、私は奴らをここで殺す気はない。

 

非常事態であるがゆえに人々はこの区域から避難している。私は奴らが見える無人のビルに侵入した。そして時間を動かし、奴らを見張り始める。人が消え人外の声が響く不気味な夜が再開された。

普段ならばこんな場面で嬉しくなどならないが、今の私はかなり興奮していた。本当にラッキーだと。

 

だって、脳無やあの二人は、黒霧の個性でここに現れたに違いないのだから。

 

なら、彼らはしばらくすれば個性を使って「帰る」んじゃないかしら?

 

それなら、私はその時にワープゲートを通れば、奴らの潜伏地点に侵入できるんじゃないかしら?

 

脳無を帰す為のものでも、自分たちが帰る為のものでもいい。ワープゲートが開く、その瞬間を捉えさえすれば、AFOの場所特定に大きく近づく。

 

私は気配を夜の闇に溶け込ませ、脳無の位置と、奴らの言動を監視し続けた。

 

 

 

 

 

 

美樹さやかは、女子高校生としても、魔法少女としてもかなり上手くやれている方だ。

 

まず、戦闘の才がある。もともと活発で運動神経も悪くない方だった。生まれれば一週間で死ぬことも不思議ではない魔法少女という存在としては、生き残っているだけで十分有能な部類だろう。ただ突出と言える程のレベルではないが、生き抜くには十分である。

そして人格に関して言えば、魔法少女の中でもごく平均的な「活発で正義感のある子」だ。彼女は正義に狂っているわけではないため、自分の欠点を自覚するとソウルジェムは濁ってしまうし、その欠点を開き直って受け入れるほど自分を諦められない。この世界のヒーローに思うところはあれど、悪人を成敗するヒーローを見るとそれなりに盛り上がれるし、怪我人を見て自分の個性で治そうかと思ったことも何回かある。

 

精神面に関しては、水と油のように思える暁美ほむらに比べると、特徴はあるが特異性はない性格なのだ。ほむらはさやかを「自分とは違いコミュニケーション能力がある」と評している。確かにその能力はほむらより高い。しかしさやかにも欠点はある。それは平凡な欠点であるために、ほむらと比較すると印象に残らないだけだ。

ほむらは仲が良い人間とそれ以外の人間で世界を分けるが、さやかは仲が良い人間と仲が悪い人間で世界を分ける。仲の良い人間には積極的に手を差し伸べ、仲の悪い人間を追い詰めようとする。彼女の活発さは、どちらにも発揮される。仲の良し悪しはさやかにとって正義、悪と同義語となってしまうのだ。それは乱暴な思考だが、しかし未熟な思春期においては特に珍しくもない。これを先鋭化した精神構造と捉える人には、少々自己反省能力を疑わざるを得ない。

 

だが、かつての苦難を乗り越え、さやかはその点において成長している。ほむらや杏子との出会いを経て、自分が正義感で突っ走ってしまう人間であることを自覚したり、初対面の印象だけで人を決めつけるのを止めようという意識が芽生えている。劇的に変わったわけではないが、自己変化の重要な一歩である「自覚」を手に入れている。

その甲斐あってか、今のところ彼女の周囲に「仲が悪い」人間はいない。雄英の人間は少なからずコミュニケーション能力が高いためでもあるだろう。この世界において、美樹さやかは対人関係のストレスを感じたことがほぼない。

 

つまり何が言えるかと言うと、今の美樹さやかには他人を気にかける意識、精神的余裕があるのだ。雄英高校で魔法少女以外の友人が最も多いのはさやかだろう。話す機会が多い緑谷、飯田、お茶子などはもう「特に仲のいい友達」として扱っている。暁美ほむらは、ここまで彼女が人と仲良くなれることに少し驚いている。彼女のループ中の印象では、魔法少女のショッキングな事実や、恭介の感謝が自身に向かなかったことによる自分の醜さの自覚のせいで、友達を作れるなど到底思えないヒステリックな姿を晒し魔女となることが大半だったからだ。

 

正義感が強いけれどちょっぴり神経質な思春期の女子高生。それが美樹さやかである。

 

 

ほむらと別れたさやか、マミ、まどかは、ウォッシュのサイドキックに同行されつつ、引き続き避難の為に騒動の中心部から離れていた。

周囲には人気が感じられず、遠方に見える火災の炎が夜闇を照らす。時々聞こえる脳無のうめき声が、常人にこの夜をとても恐ろしく感じさせていた。

彼女たちが遭遇する人は、大抵(ヴィラン)に怯え逃げる人々。サイドキック達は、あの恐ろしい脳無と対峙したにもかかわらず、彼女達が落ち着いて余計なことは喋らず避難行動を取っていることに感心している。

 

実際のところは、テレパスで普通に雑談をしているのだが。

 

(これで敵の親玉が見つかるといいんだけどね……)

(はやくほむらちゃんにはゆっくりしてもらいたいよね……私がいくら大丈夫って言っても、最近はますます焦り出していたもん。見ているこっちが不安になっちゃうくらい。)

(それだけ鹿目さんが大切と言うことなのかしらね……。それだって、最近の暁美さんはぜんぜんゆっくりしてくれないもの。)

 

暁美ほむらのプライベートは、文字通り全てがAFO捜索に充てられており休憩時間というものがない。肉体的な疲弊は美樹さやかに治してもらっており、文字通り24時間ブラック労働状態。

彼女の時間停止でしかできない仕事があるためにこれが一番効率が良いことは頭では理解できるかもしれない。しかし納得することは難しい。3人も何もしていないわけではなく、手伝えることは手伝っているが、ほむらへの負担の偏りは否定しがたい。

 

加えて、ほむらのAFO排除のモチベーションは異常に高い。まどかの、自分たちの安全のために常に何かしないと気が済まない彼女の執着心は、魔法少女3人にさえ理解できないところがあった。

暁美ほむらの魔法少女歴は、ループ中を含めると数年で、古参として知られているマミに匹敵する。が、ほむらが繰り返したあの期間は、ただでさえ辛いことが多い魔法少女生活の中でも特に辛い期間だったと、巴マミは感じている。その期間を何度も繰り返した人間の心境はもはや考えることすらおこがましく思えてしまう。

 

(……過去のループ、ホントに危ない場面ばっかだったのかな。)

(なんだか嫌な思い出ばっかりらしいから詳しく聞くのは気が引けるけれど……ああならないと気が済まなくなるくらい、危ない場面の連続だったということなのでしょうね。)

(ほむらちゃん……どうすれば安心できるのかな……この調子だと、AFOを倒してもずっと安心できないままじゃないかって、私不安なの。)

(……長い時間の記憶を上書きするには、長い時間が必要だと思うわ。ほら、A組の人たちとの交流で、すこしだけ暁美さんは前向きになれたでしょう?ああいう細かい積み重ねを頑張るしかないと思うわ。)

 

「君たち、顔が暗いけれど、大丈夫かい?やっぱりさっきの暁美さんのことが……」

 

テレパスで話していた内容の暗さが顔に出てしまったらしく、3人は付き添いのウォッシュのサイドキックに心配されてしまった。

 

「えっ!?あ、いや、ほむらは多分マジで大丈夫だと思います!心配かけてすみません、ちょっと(ヴィラン)の事を考えていたら嫌なこと思い出しちゃっただけで……」

「さ、3人ともかい?まあ大丈夫ならいいけれど……何か困ったことがあったら言ってくれよ?」

「あはは、お気遣いありがとうございます……。」

 

この横槍によりほむらについての会話はテレパスでもされなくなり、3人は真に無言でまたしばらく歩いた。

 

しかし数十秒すると美樹さやかが口を開く。

 

(そういえば……飯田君大丈夫かなあ?)

 

友人の兄が大けがを負ってしまい、仕事を続けられなくなってしまったという事実に彼女たちは心を痛めていた。

 

(え、飯田君?)

(ほら、お兄さんを傷つけた(ヴィラン)がここに出るんじゃって話だったよね。ステインだっけ?)

(うん……その、朝にも言ったけど飯田君の体験先、ここだって。多分、ステインを追って来たんじゃないかなあ……。)

(……まさかとは思うけど、この脳無の襲撃ステインが関係してたりするのかな?)

(ええと、多分それはないと思うわ、美樹さん。たしか刃物を使って犯罪をしているってニュースで見たから、爆発は起こさないと思うわよ。(ヴィラン)も殺しているから(ヴィラン)連合にも加わらないでしょうし。)

(……そうですよね、マミさん。今回のことは関係ないですよね、多分。)

 

その流れで、美樹さやかにはほんの小さな好奇心が生まれた。

 

(まあ、この混乱に乗じてそいつがまた誰かを殺そうとしてて、飯田君がそれに鉢合わせなんて運命的なこと……ある訳ないか。例えば私が全力で聴覚を魔力強化してみても、どうせ脳無の叫び声しか……)

 

コストもリスクも殆ど無い行為なので、特に後先考えずにさやかは魔力で聴力を大幅強化する。脳無のうめき声、ヒーローや市民の叫ぶ声、火災や事故の音、車のクラクションなどが聞こえてくる。

 

しかしその中に、予想していたが期待していなかった声が届いた。

 

「…………血のように赤い巻物と、全身に携帯した刃物。ヒーロー殺しステインだな?そうだな!?」

 

(……え?)

 

飯田の声だった。「飯田君、怒るとこんな声出すんだ」とさやかが感じるほどに、普段の印象とはかけ離れた声であったので、演技での発言には思えない。

 

彼が危機に直面しているのではと、さやかは一気に焦り出す。事態は説明する時間も惜しい程に逼迫しているのだと。

 

(さやかちゃん、どうしたの?)

(……飯田君がステインと戦ってるっぽい。)

(…………え、ステイン!?)

(マミさん、まどかのことお願い!ごめん、説明する時間なさそう、私ちょっと見てくる!)

 

「すいません、ちょっと助けを呼ぶ声が聞こえたので私見てきます!!!」

「え?それなら方角を教えて、ってちょっと!?どこ行くの君!?救助はヒーローに任せないとって速っ!?」

 

サイドキックに最低限の言葉だけを伝えるさやか。サイドキック達は、先ほどのほむらと同じような事態が再び発生して面食らってしまう。

 

そして美樹さやかは、突如として増強系並のスピードで飛び出してしまった。彼女の言葉が真実ならば、それはヒーローに任せるべき事案だ。サイドキック達は咄嗟に止めようとするが、次の瞬間には曲がり角を曲がってしまい見えなくなってしまう。

 

近距離で戦うことに向いているために、美樹さやかは脚力はまどか以上。魔法少女の姿に変身しなくてもその移動速度はヒーローが一目置くほどだろう。その身体能力を活かし、彼女は弾丸のように飛び跳ねながら一気に路地裏を駆け抜ける。

 

「ぐああああ!!!」

「……お前も、お前の兄も弱い。」

(飯田君の痛そうな声と、なんかおじさんの舐め腐ったような声!うわ、間違いない、これ飯田君が殺されるかも!!!)

 

飯田の危険を再確認し、足がついた建造物や地面にひびが入ることなどお構いなしに、さらにスピードを上げる美樹さやか。実はこの場にはもう一人彼を探す雄英生がいたが、さやかの方が先に着く。

 

(方向的にこっち……見つけた!刺される寸前じゃん!!!)

 

美樹さやかは、ついに飯田とステインを発見。飯田は地に伏せ、今にもステインに刃物を突き刺されそうな恰好となっていた。

 

(ええと、個性使うのは良くないから、あ、良いものある!!!)

 

個性を使うとまずいことがかろうじて頭にあったさやかは、周囲を見渡し適切なものを発見する、

 

さやかは迷わずそれを手に取り、ステインの頭上に投げつける。

 

「あいつをまず助けろよ。自らを顧みず他を……!!!」

 

ステインの頭上に、それは正確に投擲された。そして、その位置でさらに別の何かが高速でそれに飛来。

 

直後、爆発。しかしそれはよくある熱を伴うものではなく、周囲は白い霧に包まれた。

さやかが投げたのは消火器。業務用なので両手で持つことを想定されている程度には中身がある。魔法少女の腕力で遠距離から投擲され、さらに一拍遅れてさやかの剣がそれに放たれた。

高圧で封された内部の粉は一気に外へ漏れ出し、一帯に煙幕を生み出す。その直後、剣は消失する。

 

触れても実害はないものだが、ステインは初見ではその正体が分からず念のためにそこから離れた。そして飯田は動けないために、霧に包まれるほかない。

 

周囲は視界が利かなくなるが、しかし、ステインは音で何が行われたかを判別した。

 

「……新手か。今のは消火器の爆発、その隙にそいつを助け出す、か。速度からして増強系だな。今のは少なくとも初撃なら通用する手だ。さて、お前は……」

 

煙幕が晴れると、その場に飯田の姿はなかった。さやかは煙の中飯田を運び出し、壁へもたれかけさせていた。

 

「飯田君大丈夫?私が助けてなかったら殺されてたじゃん!あ、やっぱ怪我してる!ホント危なかったね……」

「……き、君は、美樹さやか、君?」

 

自分が助けられた事を認識した飯田。彼が見た彼女は、腰に手を当て、武器も持たずにステインに向かい立っていた。

 

飯田は、彼女がステインを倒しに来たヒーローの様だと感じた。そして同時に、来ないでほしかった、とすら思ってしまう。兄の仇を討つのは自分でなければならない、他の人間にやらせてはいけないのだと。ヒーローとしては失格レベルとさえいえる視野狭窄だが、憎しみに囚われたこの瞬間の飯田はそう思ってしまう。

 

そして、ステインもある印象を抱いていた。

 

「ここは子供の入る領域ではないが、しかし一杯食わされてしまったな。ならば油断はしない。……今の一瞬の判断、身体能力、貴様も雄英ヒーロー科か。さて、貴様本物か?」

 

飯田の救助速度から推測されるさやかの速度は、研鑽を積んだ様に感じられた。すなわち、彼女はヒーロー志望。だから飯田を助けに来たと、ステインは順当な推測をした。

 

「さっさと逃げるよ、飯田君。あの頭がおかしいのは後にして!」

「逃がさんぞ。そいつは正しき社会の供物だ。」

 

飯田を連れ逃げようとするさやか、それを阻止せんとナイフを構えるステイン。

この場にいる誰もが、ヒーローと(ヴィラン)の戦いが始まるのだと予感した。

 

だがステインは、そして飯田も、勘違いをしていた。

 

ヒーローが助けに来たのでない。友達が助けにやってきたのだ。

 





近距離スピードアタッカー型の魔法少女が現れた!

・死柄木弔
え?ほむほむは漢字の書き方までは知らないはずじゃないかって?まあ話の都合と言うことで……(いちいち変換がめんどくなりそうなので……)

・脳無
改めてコイツの法律上の扱いを考えるために原作見直しましたけど、エンデヴァーは多分焼き殺してるのに、ステインのところに来たヒーローはステインが殺したことに「躊躇なく殺しやがった!」とか言ってるし。どうなってんやろ……
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