魔法少女まどか☆マギカ Magia Exedra 3/27に配信決定!
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「逃げるよ!飯田君立てるよね!?」
「あ、ああ、立てるが……僕は逃げるわけには……!」
飯田は肩に刃を突き立てられたが、下半身は無事なので立つことに支障はない。さやかの肩を借りつつも痛みを堪え立ち上がる。
しかし、飯田は逃げること自体を拒否するようなそぶりを見せた。兄を傷つけたステインへの復讐で彼の頭は一杯だ。
「あー……やっぱりお兄さんの敵討ちって感じ?」
「そうだ。僕は、インゲニウムの名を継いだんだ。僕がやらなきゃ……!」
「それは分かったけど、飯田君勝算無いでしょ?ヒーロー何人も倒してる相手に無謀だっての。」
「出来るか出来ないかじゃ、ないんだ、美樹君。僕はやらなきゃ……なっ!?」
飯田は言葉の途中で、突然体から力が抜けてしまい、再び地面に倒れ伏す。
「え、飯田君!?立ってよ!」
「すまない、何故か体の自由が突然利かなくなったんだ!」
「逃がさんと言っただろう?」
「あーお前の個性のせいか!」
詳細は分からないが、さやかと飯田はステインの個性により飯田が動けなくなったことを理解する。
「美樹君、僕のことはいい。逃げるんだ!」
「あーもうそういうの後にして!復讐は後でもできるでしょ?」
「僕と一緒に行動すれば、どうやったって機動力の低下は避けられない。そんな状態ではステインからは絶対に逃げきれない!それに元々君は関係ないだろ!」
「えー……ええと、私昔から走るの得意なの!気合で担ぐから任せて!」
ステインの厄介さを先ほど飯田は身をもって感じた。人並はずれた身のこなしで、ヒーローとなるために日々鍛えた自分が圧倒されてしまうほどだった。既にヒーローを何十人も殺している相手に戦闘を仕掛けるなど無謀だったことを、飯田は理性の面では感じ取っていた。感情的な判断は全くできないでいるが。
美樹さやかもそれは分かっているはずだと、飯田は感じ取っていた。がしかし、その上で彼女は自分より体格が二回りも大きい飯田を担ごうとした。
そして本当に言葉通り軽々と担がれてしまい、飯田は彼女の個性は増強系なのかと驚く。
「駄目だ美樹君!それでも無謀すぎる!」
「その点はそいつの言う通りだな。」
「!!!避けろ美樹君!」
ステインはさやかに向けナイフを投擲する。ただでさえ鍛えていない一般人には避けられない速度であったのに、成人に近い男性を一人担いだ女子高生。ここにいる誰もが、彼女は避けられないと思った。
「邪魔しないで!」
「なっ!?」
「……ほう。」
だが、さやかは軽快にステップを踏み、避ける。増強系か、相当鍛えていないと出来ない動きだった。
ステインはさらに加えて、常人離れした身体能力で一気に二人に接近。ナイフを避ける隙を突いた一撃が狙いだった。水平に斬りかかるが、さやかは流暢な動きのヤクザキックで迎え撃つ。狙いはかなり正確であり、ステインの鳩尾を正確にとらえた一撃となった。
ドガッ!というかなり重い音が発生、常人ならば相当辛い一撃となると思われた。しかしステインも直前で腕でガードし、蹴られた後も綺麗に受け身をとりほぼ無傷。
ほんの少しだけしたり顔をしつつ、さやかは飯田を担ぎ逃げだそうとする。飯田は裏で格闘術でも習得していたのかと驚きが止まらない。
ステインは感心しつつも、次の手を打った。
「いい動きだ。だがコイツがどうなってもいいのか?」
「……?え、人質!?」
ステインは刀を路肩にむける。そこには、ネイティブというヒーローが倒れていた。彼もステインの個性で動けないでいる。
それを認識し、さやかは思わず足を止める。
「飯田君、この人は!?」
「……僕が到着したときに襲われていたヒーローの方だ。」
「くっそー、勝てないからって卑怯な手を使うなあ!」
「…………すまない、二人とも。俺のことはいいから逃げるんだ……!」
「まるで邪魔が無ければ勝てるような言い草だな。まあいい。」
ステインは、動けないネイティブに悠々と近づいていく。そして、首に刃を向けた。
「コイツも贋物。粛清対象だ。さて、ヒーローならそのまま逃げる筈はないが?まあ、そこの贋物は気にも留めないだろうがな。」
「黙れ犯罪者……!」
「…………」
飯田はステインの指摘に一層険しい表情になる。実際、ここまででネイティブのことはほとんど頭に残っていなかった。だが今の飯田がステインの言葉を素直に受け取る訳もなく、「犯罪者め、また僕を愚弄する気か!」と怒りを増すだけだった。
そして足を止めたさやかだが、彼女はどうすべきか迷っていた。この状況でステインの攻撃をかいくぐりながらネイティブまで担ぐ余力はない。
(……優先順位、かあ。嫌だなあ、私がこんなこと考えるなんて……)
はっきりいって、ネイティブはさやかにとって完全に赤の他人だ。加えて、本人にすら「俺のことはいい!」と言われてしまっている。リスクを冒してまで助ける気が起きないのだ。美樹さやかは、助ける気が起きない自分に対し嫌悪を感じていたが、しかしどうやってもその事実を否定し、自分の心に嘘はつけなかった。
魔法少女になる以前の美樹さやかなら、正義感からネイティブまで助けようと突っ走っていたかもしれない。しかし、魔法少女になり死にかけた経験を経て一歩踏みとどまる意識が生まれ、結果助けるのを躊躇し足を止めている今の状況が生まれている。
しかし完全に割り切っている訳でもなく、見捨てるという行為も嫌だった。魔法少女の力を万全に使えればネイティブも助けられるかもしれない。しかしこんなところで自分の正体は明かしたくない。赤の他人の彼に、そこまでする価値をさやかは感じられない。そして、そんな事を考えた自分に再び嫌気がさす。さやかが生まれつき持っていた正義感と、状況を冷静に判断する最近獲得した合理性が、彼女の中でせめぎ合っていた。
迷い何もしてこないさやかに、ステインは目つきを険しくする。
「……助ける気が無いのか?ならば贋も」
「SMAAAAAAAASH!!!!」
「え゛っ?」
突如、ステインに緑色の閃光が衝突する。
緑谷出久だった。彼は、グラントリノのところでの職場体験でフルカウルと呼ぶ技を身に着けていた。全身に常に少しだけOFAを発動させることで、身体許容内でOFAの力を扱える、というものだ。つまり彼は、ついに増強系個性としての動きで継続戦闘をすることが出来るようになったのだ。もはや自壊する大砲しか撃てない彼ではない。
増強系らしく不意打ち気味にステインに高速で殴りかかり、吹き飛ばす。その間にネイティブをステインから離れたところに動かし、彼に危害が及ばないようにする。そして改めて状況把握に努めた。
「助けに来たよ、飯田君!……と、み、美樹さん!?なんでここに!?」
「あ、あはは……偶然ここに来てたんだけど、偶然飯田君の悲鳴が聞こえて……」
「ぐ、偶然……」
緑谷は、あまりにも出来すぎている偶然を受け入れることが一瞬できなかった。保須市は、彼女の地元の雄英付近から電車を乗り継ぐ必要がある程度には離れた地だ。緑谷自身もほとんど偶然ここに来た身だが、友人3人が同じ場所に同じ時間に集まるなど偶然で片付けていいのかと彼は言いたくなる。ついでに凶悪犯罪者のオマケ付きだ。
だが、今はそんなことを言っている場合ではない。緑谷は疑問を頭の隅に追いやり、今すべきことに頭を回す。
「……と、とにかく!ステインから離れるよ美樹さん!もう警察には連絡した?」
「警察?え、ごめんしてない……」
「わかった。飯田君を担いで歩ける美樹さん!?この騒ぎだ、数分もすれば誰か来るはずだけど、安全な場所においておけるならそれに越したことは無い。ネイティブさんは動けます?」
「お、俺の名前知ってるのか?すまん、動けない、おそらく奴の個性で……」
「なるほど、動けなくするのが奴の個性って訳か。よく見たら、飯田君は脚に傷跡が無い。それにも関わらず担がれているのはそういうわけか。」
現在、飯田とさやかが大通り側、緑谷とネイティブが路地側にいる形で、ステインは挟み撃ち状態だ。
緑谷は、長所である柔軟な思考能力で的確に状況把握をし、さやかに指示を出す。考えるべきことを的確に頭で処理していく。
(……この状況下で、もし二手に別れて逃げれば、明らかに動きが遅いであろう向こうを追うに決まってる。ネイティブさんは、見た感じ刺されてるけど重傷って感じじゃない。それに、ステインのせいで外傷以外の要因で一生動けなくなったって話は聞いたこと無いから、いつか必ず拘束は解けるはずだ。ってことは、プロヒーローであるネイティブさんは放っておいても勝手に逃げてくれる可能性がある。普通の人よりも身体能力は高いはずだから。なら、僕のやるべきことは……!)
「ネイティブさん!動けるようになり次第逃げて応援呼んでください!」
「は!?お、おい君何をする気だよ!?」
「二人を逃がす時間を稼ぎます!美樹さん、体格的にキツいかも知れないけど、飯田君を大通りへお願い!」
「わ、わかった!ほら、飯田君行くよ!」
「やめろ、待ってくれ……!」
ステインに復讐したい一心の飯田は逃げることを拒否するが、今の彼は動けないがために運ばれるしかない。
しかしそれは、ステインの気に障ったようだ。
「させん。誰一人として贋物は逃がさん。それが俺の義務だ。」
「やめろ!!!」
ステインは再び飯田とさやかのいる方向に飛び掛かる。先ほどよりもスピードが上がっていた。
緑谷は許容上限ギリギリまで出力を上げステインに追いすがる。フルカウル習得の甲斐あってステインより多少速いが、距離の差を埋めるほどではなかった。
「だから、あっち行ってって!!!」
「ヌウッ!?」
美樹さやかは再び迎撃に成功した。ステインは蹴りを警戒し、距離を詰めたところで不意打ち気味にナイフを放った。
しかし、カキン!という小気味よい音にそれは弾かれる。
「え!?あ、ス、SMAAAAASH!!!」
彼女の行動に緑谷は驚愕するが、ステインが一瞬隙をさらしたことを確認しすぐさま殴りにかかる。壁を伝ってステインの上を取り、真下に殴りぬいた。真後ろから殴らなかったのは、ステインと二人との距離を縮めないためだ。
そして、緑谷が飯田とさやかと同じ側に立つ。息を整えたところで、さやかが持っているものを緑谷は再び確認し、疑問を投げかける。
「は、刃物!?なんでそんなもの持ってるの美樹さん!?」
「あ、いや、その辺に落ちてて咄嗟に……そいつの落とし物じゃない?」
美樹さやかは、ステインが投げた刃物に合わせて何かを振るい、ナイフを弾いたのだ。
それが一連の攻防で緑谷が最初に見た光景だった。増強系でもない彼女が、そんな器用なことを成し遂げたことにまず驚いた。
そして彼女が使った道具を見て、二重に驚いた。使った物はステインが持っているような形状の刃物だったのだ。しかし彼が持っているボロボロの物とは対照的。グリップがあり、刃物というより剣。もっと具体的に言えばサーベルのようなものだ。装飾も凝っていて、演劇用の道具と言われても信じられる代物だ。さらに刃こぼれなどは無く新品のようで、この場に似合わない美しさだった。
そんなものが都合よく落ちていたなど、簡単に信じられる話ではない。
緑谷は美樹さやかがなにかおかしいと疑い始める。ただしステインを警戒する方が優先順位が上なので、努めて気にしないようにする。
「そ、その、色々気になるけど、無事でよかった!さあ早く大通りへ!」
美樹さやかは彼の言葉に頷き、飯田を担いで脱出しようとする。自分より大きい人間を担いでいるにしては軽やかな動作が目につくが、ともかくこれで良しと緑谷は一安心した。
ところで、彼にとって違和感のあることがもう一つあった。
(目の前のステインが睨むだけで何もしてこない?ヒーロー殺しステインは、その並外れた執着で多くのヒーローを消したんだ。そんな奴が黙って見逃すなんてありえるのか?コストとリターンが割に合わないって思ってるのか?それとも、視線は全然向かないけど、背後のネイティブさんを狙ってる?とりあえず、応援も呼んでおかないと。くそ、何の確証が無くても、プロを説得して一緒に来てもらうべきだった!)
緑谷は、いつでもステインに飛び掛かれるように準備していた。さらに、裏手でステインに見えないようにスマホを操作。一斉送信で位置情報を連絡の付く友人に送信した。
少しずつ遠ざかる足音を嬉しく思いつつ、緑谷はステインの一挙手一投足に注目する。
(二人が逃げられる十分な時間を稼げたら、次はネイティブさんだ。出来ればヒーロー殺しを退ける!)
だが、その目論見は成功しない。
緑谷の作戦には、この場にいる人間すべてが合理的に動くという前提が含まれていた。
「放してくれ、放せ!美樹君!頼む!」
「ちょ、ちょっと耳元で大声出さないで飯田君。」
「俺は、俺は兄を傷つけたあのステインを討たなければならないんだ!!!」
「今じゃなくても雄英出て大人になってからでいいでしょ?今のまま突っ込んじゃダメだって!」
「……脊髄損傷で、下半身麻痺だそうだ。」
「飯田君?」
飯田は、苦しさを腹の底から吐き出すように兄の話をする。
このまま去ることは、彼にとっては余りに悔しくて、緑谷達にさえ言わなかった弱音のようなものが出てきたのだ。
「もうヒーロー活動は、叶わないそうだ。今まで多くの人を助けて来た人が、今や人に助けられなければ生活できなくなってしまった。」
「……」
「立派な兄だったんだ。毎日ヒーロー活動で忙しいのに、その合間を縫って僕に構ってくれた。仕事でクタクタになって帰ってきた後も、僕にその日のヒーロー活動の話を聞かせてくれたんだ。」
「……いいお兄さんだったんだね。」
「ああそうさ!僕は、僕はあんな立派な兄のようなヒーローになりたかった。兄の事務所にサイドキック入りするのが夢だったんだ。その為にたくさん努力して、雄英に入ったんだ。……だけど、もう、それは叶わない。」
「…………」
美樹さやかは足を止めた。彼女は彼の顔は見ていない。ここで彼の表情を覗けるほど、彼女は図太くなかった。
「奴のせいで……ステインのせいで!僕は兄と、大事な夢を失った!僕にはステインを倒す義務がある!病院にお見舞いに行ったとき、僕は見たんだ。兄は泣いてたんだ。いつも笑顔を絶やさず、冷静に人々を導く、あの兄が!お見舞いの時でさえ僕にそんな感情は見せなかったのに、人に見えないところでコッソリ泣いてたんだ。当たり前のことだ、下半身不随がショックでない訳がない。誰にも見せられなかった兄の無念を、僕には晴らす義務がある!そうだろう!?美樹君!!!」
飯田の涙がさやかの私服を汚す。普段の彼女なら嫌がるだろうが、何も指摘しなかった。
「……でもさ、今の飯田君、ステインに勝算あるの?」
「そ、それは……でも、僕にはやる義務が……」
「はあ……仕方ないなあ。」
さやかは、飯田を路肩へ降ろす。
彼女は180度反転し、大通りに背を向けた。
「な、何を……?」
「……動けるようになるまでだよ。誰にも言わないでね、飯田君。」
彼女は半身不随の辛さを知っていた。彼女は過去に上条恭介に会いに足しげく病院へ通ったものだが、それまで何不自由なく暮らしてきた彼女にとって恭介の病院生活はかなりの衝撃だった。日常生活に必要なあらゆる動作に補佐が必要な為に、ずっとベッドに縛り付けられる彼の生活は、自分ならばとても耐えられないと思えるものだった。当然バイオリンなど夢のまた夢であり、それ以前は流暢に弦を操っていた左手がピクピクとしか動かなくなった衝撃は、今も彼女の記憶に残っている。
その辛さを見たことがある彼女にとって、それが悪意を持って人為的に引き起こされたとなれば、復讐したいと思うのも当然だと思えた。
美樹さやかは、飯田に共感した。
飯田を離れたところに置いて戻ってきた美樹さやかに、緑谷は一気に焦りを募らせる。
二人の会話は聞いていたので、事情はおおよそ把握しているが、彼女がこれからしようとしていることは彼にとって決して容認できないことだった。
「美樹さん!?なんでこっちに来たの!」
「まあまあ、こっちは勝算無いってわけじゃないから。」
「ま、まさかステインと戦う気なの?駄目だ、逃げて!」
「でもさー、どっちにしろそいつに目を付けられたっぽいしね、私。」
「ハァ、その通りだ。」
ステインは顔では笑ったが、読み取れる感情からは嬉しさが微塵も感じられなかった。
「俺の読み通りだ。こうなると思っていた。」
「な、だから二人を追わなかったのか!?」
「その通りだ。男の方はまさに論外、ヒーローの風上にも置けない人間だ。そこに倒れているあいつなぞ視界にも入らず、ただ俺への復讐のみ考えていた。本物のヒーローなら、自己を顧みず他を救い出すだろう。目先の憎しみに囚われ私欲を満たそうなど、ヒーローから最も遠い行いだ。だから、贋物だ。」
「ふざけるな!お前がインゲニウムを傷つけたのが悪いんだろ!」
ステインの身勝手な論理に緑谷は怒りを増す。が、ステインは緑谷の叫びに全く心を動かされない。
「その通り。俺は悪い。が、そいつが贋物であることには変わりない。そして今の世には、こういう奴が多すぎる。だから俺は贋物を粛清し、世間に警鐘を鳴らし、正す。これが、悪に染まってでもなすべき俺の義務。」
「勝手なことを言うな!お前の物差しじゃないか!」
「そして、そこの青髪の奴も同じく、贋物だ。」
ステインは忌々し気にさやかを刃で指す。唐突に彼女の名が出て、緑谷は面食らう。そして、焦りが一段階上がった。守るべき対象が一つ増え、この場を切り抜ける難易度が上昇してしまったからだ。
「美樹さんを!?関係ないだろ!」
「こいつもヒーロー志望だろ?少し戦ったが分かる。贋物の男の方と知り合いのようじゃないか。つまり雄英生だ。そして相当の戦闘経験がある。個性の使い方も慣れているようだ。ならばヒーロー志望と見て間違いない。」
「ハ、ハァ!?何言ってるんだ!?美樹さんは普通科でヒーロー志望でも無い、普通の高校生だぞ!」
しかし緑谷は、彼女に違和を感じていたことを心の中では否定できないでいた。
彼女の申告では、個性は「強力治癒」で増強系ではない。しかし、ステインの攻撃に反応したのを目にしている。飯田を抱えながらだ。緑谷でも出来るか怪しい慣れた動きだった。
もしかしたら、彼女は裏で鍛えていたのかもしれない。個性の真の性能を隠していたのかもしれない。その程度の話だったら、緑谷は信じられる。が、ステインの評価はそれより遥かに高く、頷ける物ではなかった。
ここまで考えたところで、緑谷に一つの仮説が思い浮かぶ。
(……まさか、鹿目さんと同類?)
体育祭で隠れていた個性を解放した彼女のことを思い出す。元の個性とは比べ物にならない性能の個性を体育祭で見せつけ、話題をかっさらっていった女子だ。
(もし、彼女のように美樹さんも強力な個性を隠していたとしたら?あれくらい強ければ、協力してもらえればステインを退けることも十分可能だ。……って、何を考えているんだ僕は!?ヒーロー志望でもない人を巻き込める訳ないだろ!何とかして逃げるよう説得しないと!)
ステインから目を放せないためにさやかを視界に入れられていないが、しかしこちらに近付く気配を緑谷は感じ取った。
「美樹さん逃げて!個性が強い程度で倒せる相手じゃないんだ!冷静に考えてくれ!ヒーローを目指す飯田君の為にもならない!」
「え?なんで?……ごめん緑谷君、私ヒーローのことよく分かんない。でもこのままじゃ飯田君のお兄さんすごく悔しいんじゃない?」
「……そ、そうだけど、ええと……」
元々さやかはヒーローへの興味が薄いことを思い出した緑谷は、ヒーローの話で説得が難しいことを感じ取る。ヒーロー志望ならば、「君が目指す奴はそんな顔をしない!」という形で説得ができる。しかし、彼女の場合「友達が可哀想だから復讐を手伝ってあげる」なのだ。身内同士の助け合いに近い行動。これを下手に否定すれば、「飯田君のためにやってあげてるんでしょ!?本人も望んでるんだし、緑谷君は邪魔しないでよ!」とでも言われかねない。発言内容からして、そもそも私怨で動くヒーローが歓迎されないことも感じていないようだった。
説得の次善策は思いつかず、場合によっては個性で乱暴にでも逃がすことも頭に入れた。
そして、向かってくるさやかを見たステインは不愉快そうに確信を深めた。
「俺の目はやはり間違っていないようだな。コイツは贋物に感化された。己の欲に従い力を振りかざす獣だ。粛清対象だ。」
「……コイツの話よくわかんないけど、なんかカルト信者っぽい発言だし、ボコボコにするべきだってことだけは分かる!」
「ハァ、俺もよく分かった。他者の言葉を戯言として切り捨てる、ヒーローとして論外!」
「まずッ……!」
緑谷がまずいと思った直後、ステインとさやかは同時に飛び出す。
緑谷は止めようとした。殆ど勘でだが、彼女の居たところに手をやろうとした。しかしその動作をした直後、緑谷は風を感じた。何かが高速で横を通過したと感じられるものだった。
さらにその直後、前方から金属同士のぶつかる甲高い音が聞こえた。
ステインとさやかが鍔迫り合いをしていた。そこでやっと、緑谷は彼女の移動スピードが止めようとしていた手より早かったことを認識した。
「……え、は、速!?」
「やはり……貴様は油断ならん。」
「うわ、思ってたより全然力強い!」
ステインは、その身体能力も増強系と見まがうほどに鍛え上げられていた。彼の個性『凝血』は血液摂取を必要とするものだ。当然ヒーローが彼に大人しく血を渡すわけがないので、ステインは何らかの方法で血を奪う必要がある。それを可能にしているのは、個性ではなく、無個性に等しい肉体だ。
そのステイン相手に、美樹さやかは押し合いを実行。彼女は運動部に所属して鍛えているわけではない。無個性の中で最高レベルの肉体性能を持つステインに力で拮抗しているのは、誰が見てもおかしい光景だった。
そして、美樹さやかもかなり驚いていた。ステインの反応速度に、鍔迫り合いのパワーがかなりのものだったからだ。変身状態ではないために全力ではないが、およそ人間が出せるとは思えないパワーだ。
(ちょっと危ないかも。なんかさっきもすごく慣れた感じでナイフ投げてきたし。ほむら、聞こえる?マミさん、まどか……ああもう、範囲外!)
いつの間にか離れた場所に来てしまったらしく、この街にいる他の3人とテレパスは繋がらない。さやかはそのイライラを目の前のステインにぶつける。
「あんたみたいな頭のおかしい奴に褒められても嬉しくないっつーの!」
「貴様が正しき心を持っていたのならば本物のヒーローになれた筈だ。その能力は惜しいな。お前、正義を成したいと思っているか?」
「突然何よ。私は正義のま……友達の為に戦ってるの!」
「ならば最後のチャンスとして、問おう。貴様はその力で何を成す?ヒーローに比肩する力で、社会のために何をする?」
ステインは値踏みするようにさやかを見るが、彼が期待した答えは返ってくるわけもなかった。
「知らないよそんなの!とりあえず、お前みたいな悪い奴をぶちのめすのに使う!」
「……少しだけ期待した俺が愚かだった。貴様はこの社会の事を何も考えない自己中心の小娘だ!」
「自己中心はお前のことでしょーがあ!」
実際のところ、さやかがステインに対しどう思っているかだが、「特に何も考えていない」と表現するのが正しい。
勿論名前は知っていた。ヒーローを大量に殺害していること、正しき社会のためと叫んでいることは、ニュースで耳に入れたことがある。
だがそれだけだ。ステインの主張するヒーロー社会の腐敗などについて、さやかは何も知らない。この社会が良いか悪いか以前に、社会のことを考えていないのだ。たしかにこの世界に来てヒーローのすることに違和を感じたことはあるが、翌日には忘れている。そんなことより、友達や魔法少女、学校の勉強の事を頭に入れることの方が彼女にとっては重要事項。
ステインは、自身を「この腐敗したヒーロー社会を正すために血に染まってでも警鐘を鳴らし続け社会に真の
ヒーローに関係する人間ならば、ステインの言うことに多少なりとも思うところがあるだろう。肯定でも否定でも、彼の発言に何かしらの言葉を返すかもしれない。
しかし美樹さやかは、ヒーロー社会に関する発言を全て「意味不明」でカテゴライズしてしまうのだ。
その会話で、緑谷は思いつく。
ステインは、美樹さやかをヒーロー志望だと思っている。これを利用できないか?
確かに、行動と強さを見れば勘違いしてもおかしくない。さやかが雄英生であることが事実なのもややこしさに拍車をかけている。
が、もしこの誤解を解けたなら、ステインは美樹さやかを狙うことを止めるのではないか?ステインは今までヒーローと
その考えに至った瞬間、緑谷は飛び出す。
「美樹さんに手を出すなステイン!そっちはヒーロー志望じゃない!そうだろ美樹さん!?」
「え?そ、そうだけど。」
「だから、僕を狙えよ!一般人を巻き込むのがお前の信条なのかよステイン!」
「ハァ。お前は、良い!」
友人の為に体を張る緑谷を気に入ったステイン。見ていても嬉しくなれない彼の笑顔に向かい、緑色の閃光が突撃。位置的にさやかがステインの前にいる形だったので、緑谷は横から殴りかかろうとした。
だがここで、ステインは予想だにしない行動に出る。緑谷が殴る直前、3mほど跳躍したのだ。
「上?それなら……」
さやかは、単に避けるために跳んだと判断してステインが次にどう斬りかかってくるかを観察していた。
だが、それは先入観だった。
ステインはナイフを構える。が、さやかや緑谷にではない。
「!!!やめろおおおお!!!」
緑谷はステインの目論見に気が付いた。ナイフを倒れて動けない飯田に投げるつもりなのだ。
さやかは気付くのが遅れている。緑谷はステインの後を追って飛ぶが、ステインが投げる方が一歩早い。
あわやナイフによって飯田が殺害される。緑谷は一瞬絶望する。
だが、それは直後に困惑に変わった。
ステインのやったことは、追いすがる緑谷を踏みつけさらに高く飛ぶことだった。
緑谷はなぜ投げないのかと疑問に思ったが、すぐに謎は解けた。
ステインのいた高さに炎が迸った。
暗い路地裏の方に、力強く照らす光を纏った轟焦凍が立っていた。あれほど憎んでいた左の炎の個性を使って緑谷達を助けたのだ。
ステインは彼らから距離を取って着地。「今日はよく邪魔が入る!」と愚痴る。
「緑谷……こういうのはもっと詳しく書くべきだ。遅くなっちまっただろ……!」
「轟君……なんで君が!?それに、左を使って!?」
「なんでって、こっちのセリフだ。位置情報で……いや待て。それより、そこにいる女の人は誰だ?」
「あ、私服だったから分かんないか。ほら、私。美樹さやかだよ!まさか覚えてないなんて言わないよね?」
さやかは持ち前の明るさを伴って、冗談めかして彼に言う。轟はそれを受け困惑が芽生えた。まさか彼女がここにいるとは思いもしなかったのだ。
「……いや、覚えている。私服だからわからなかった、すまん。でもなんでここにいるんだ。」
「い、いや偶然このあたりをうろついてたら飯田君の叫ぶ声が聞こえて、それで……」
「…………そうか。すげえ偶然だな。」
彼には相当無理のある言い訳に聞こえたが、そういうこともあるかといったん納得する。その淡白な反応に、さやかは逆に(あっさり納得してくれるなあ……)と驚いていた。
「……ともかく、こいつ確か普通科の生徒だろ。見たところ鍛えてるようには見えねえ。さっさと逃げろ!緑谷もこいつに避難するように説得しとけよ!」
「ごめん、色々想定外の事態なんだ。確実に言えることは、彼女はステインを倒そうとしていること。それと、なぜかわかんないけどステインと普通に正面から戦えていたことだ!」
「ハァ!?どういうことだ!」
「僕にもわかんないけど、実際に見たんだ!ステインのスピードに付いて行ったのを!」
「…………」
普通の女子高生にしか見えない彼女がステインと戦えるなど轟にも信じられないが、しかし緑谷がこの場面で嘘をつくなどもっと信じられなかった。
よって、ひとまず美樹さやかが何故か戦えるという事実を受け入れ、もう一つの事実に頭を回すことにする。
「……戦えてたってのはともかくだ。お前、なんでステインと戦おうとしてんだ?」
「飯田君のお兄さんがコイツのせいで下半身不随になったっていうんだよ!?このまま逃がしたらめちゃくちゃ悔しいじゃん!」
「話は分かるけどよ、お前がすることじゃねえだろ!プロヒーローに任せろよ!数分もすれば現着する!」
「そのプロヒーロー、そこで寝てるじゃん!せめて飯田君が起き上がれるまではやってあげないと!それにそもそもそっちだってこれが良くないのは一緒でしょ!」
「……すまん、俺が不甲斐ないばっかりに……。」
実際にステインに負けてしまったヒーローが後ろにいることに気付き、轟は言い合いでの分の悪さを感じた。
「……緑谷、美樹を止める説得は出来そうか?」
「ごめん、飯田君のお兄さんの話にすごく感情移入しちゃったみたいで、僕には……」
家族が大切だという気持ちは、彼にもわかる。轟は母はもちろん、兄、姉のことも大切にしている人間だ。それらを失うことを考えれば、その痛みの深さが分かる。
「…………仕方ねえ。美樹!退く気がねえなら協力しろ!お前の個性はなんだ!?ステインとやりあってたなら「強力治癒」以外になんかあるんだろ!」
「あ、えーと、実は増強系みたいな感じなの!」
「ならまず飯田をステインから射線が通らないところに移動させろ!あの位置だとまたさっきみてえに狙われる!」
「わ、わかったよ!」
美樹さやかは、飯田を抱え大急ぎで離れたところに運び出す。増強系持ちであることを隠さなくなった彼女は、軽々と彼を抱えて行ってしまった。轟は確かに増強系の動きだと感じる。
「緑谷!奴の個性はわかるか!?」
「多分体の自由を奪うものだと思う。でも発動条件まではわからない!」
「それなら仕方ねえ。奴が変な挙動をしないかに注意して観察する。」
「まず個性にあたりをつけるってことだね。分かった!」
「ああ。だけどその前に、そこに倒れてるヒーローを安全な所へ動かすぞ。」
そうして轟はチラリと背後を見て、氷を生成する。器用にスロープの形にして、ネイティブを転がして距離を置かせる。飯田と同じように、この場所から射線が通らない場所に転がした。
「よしこれで……しまっ!?」
「よけて轟君!」
目を離していた時間は1秒も無かった。だというのに、目の前には投げナイフが飛んできた。既のところで首を傾け回避に成功する。そこでやっと、緑谷の警告が脳に届いた。
「ハァ!」
「っっぶねえ!!!」
さらに間髪入れずに、ステインが迫ってきていた。右手で振るわれた刀を氷でガードする。が、見越していたかのように左手に握られていたナイフでステインは轟を刺しにかかった。轟は咄嗟に炎で迎撃し、退ける。0.1秒でも反応が遅れていたら切られていたと、背筋に冷たいものが走った。
「強え……拘束系と増強系の複合か?なんにしてもヒーローを何人も殺してきただけはあるってことか。」
「轟君!飯田君を見えない所に運んできたよ!」
戻ってきた美樹さやかに、轟は再び疑念がわく。
「ああ、ありがとな。……おい、お前本当にこのステインと戦えてたのか?」
「え、そうだけど?」
何故今更疑うのか、と言わんばかりの表情で彼女は答えた。
色々と突っ込みたくなるのを抑え、轟は緑谷とこの場を切り抜けるための話をする。
「…………緑谷。美樹を戦闘に組み込むとしたら、どう立ち回ってもらうのがいい?」
「そ、そんな、普通科なのに!?」
「そんな悠長なことを言ってる場合じゃねえ。逃げねえってんなら、突っ立ってもらうより戦ってもらった方が遥かに撃破の可能性が高いだろ?実際、お前そいつがステインと戦ってたのを見たって言うじゃねえか。」
法律や規則のことを抜きにすれば、緑谷は轟の言うことに納得した。
未だに、さやかを説得する方法は思いつかない。こうなったら腹をくくるしかないと、緑谷は覚悟を決める。
「……わかった。美樹さんは、ええと」
「ていうか、私が得意なことは私に聞けばいいじゃん!もうぶっちゃけちゃうと、個性隠してたのは事実だよ。で、自分の個性は私自身が一番把握してる。それで、スピードには自信あるから私が前に出て戦うよ。」
「そんな、無茶だ!」
彼女が一番安全になりそうな戦闘方法を……と考えていた矢先に前に出るなどと言われ、緑谷は即座に反対する。
「まあ見ててって。さやかちゃんの真の実力を見せちゃうから!あ、他の人にはナイショでお願いね?コイツ明らかに強いし私も多分余裕はないの。だから絶対、ぜーったい他の人に言わないでよ!」
しかし、さやかの調子は変わらない。緊張してはいるのだろうが、普段の快活な印象そのままに前に出る。イタズラっぽくウインクしながら指を立て口に当てるという余裕まで見せた。
それは、自身への鼓舞なのだろう。強敵と相対する際に、恐れを隠して自分を大きい存在だと思い込む。オールマイトもしていることだ。
轟と緑谷は、ここに至ってついに彼女がどうなるかを察した。
「ま、まさか君も!?」
「いっくよーーー!!!」
美樹さやかは走り出す。
いや、走るというより跳躍だった。それほどの勢いで地を蹴ったのだ。そして直後、空中で腕をクロスさせる。
美樹さやかはまばゆい光に包まれた。
光が収まって轟と緑谷の目に飛び込んだのは、すこしだけ既視感のある変化だった。
スピードを殺さずそのままステインに斬りかかる彼女は、私服姿ではなかった。青に統一されたマント、ブレストプレート、スカート、ブーツ。そして、鹿目まどかの弓のように生成したのであろうサーベル。
まるで、ヒーローのような姿でステインと鍔ぜりあう。
彼らにとっての第二の魔法少女が現れた。
・恭介
原作だと左手だけ負傷が確定してたけど、まあ自動車事故だったんだし下半身やられていてもおかしくないやろ。
・ステイン
ヒロアカクロスオーバーものとしては、それはもう前代未聞レベルに主人公サイドと因縁がない