個性『魔法少女』   作:Assassss

38 / 66
高評価、誤字報告、感想いつもありがとうございます。

まどドラの確定有償ガチャ+星5確定+かき集めた石でガチャを回しましたが、出てきたのはやちよさん、いろはちゃん、そしてキリカさん×2でした。

ほむほむとまどかはいずこ……



- 追記

後半の飯田君のくだりを修正しました。


もう平穏じゃいられない

ステインを撃破した4人だが、油断せずしばらくはステインの状態を注視していた。人間離れした戦闘力を持った彼が突然起きだすのではと警戒しているためだ。

氷での拘束は、しばらくすれば溶けてしまう上に移動ができない。幸い、近くにロープが落ちていた。体中に隠し持っていた刃物を全て取り上げ、改めてロープでグルグル巻きに拘束したところで、ようやく緊迫した空気が抜け始める。

 

「……はぁ。とりあえず、この場は凌いだか。」

 

轟の一言で、4人は息をついた。

 

「し、死ぬかと思った……」

「ああ……」

「まー、みんな無事でよかったよ。はぁ、全身血まみれじゃん、べたべただし早くシャワー浴びたい……」

「ぶ、無事じゃないよ!」

 

美樹さやかは能天気にそう言うが、緑谷はとんでもないと否定する。

 

「へ?」

「だ、だってさっきステインに胸を突かれていたし、その、腕も……」

「あー……」

 

緑谷が申し訳なさそうに言う。後々他3人が振り返っても、今回の緑谷の行動は特別失敗が無いと思われるものだった。それでも、責任のようなものを感じているのだ。

そのような目線に、さやかはむずがゆそうに反応する。

 

「ま、まあ、気にしないで!隠してたけど、そういう個性なの!」

「……悪ぃ、俺達は美樹を前線に立たせすぎた。その結果があの傷だ。ヒーロー科の俺たちが普通科に守ってもらうなんて、今思えば情けねえ限りだな。」

「い、いやほら、正直自分の意志で戦ってたところあるから、ホント気にしないで!」

 

本当に申し訳なさそうにする二人に、さやかは手をあわあわと細かく振り、困ったような顔を見せた。

 

「て、ていうか?ほら、ステインはこの後どうするの?」

 

彼女が無理矢理切り替えた話に、緑谷は慎重に考えつつ答える。

 

「ええと、拘束したままヒーローに引き渡すよ。」

「いや、でもこのロープなんだかぼろいし、大丈夫かなあ?」

「確かにこのままだと不安だ。でも、(ヴィラン)専用の拘束具っていうのがあって、それならさすがに大丈夫じゃないかな。流石にステインが起きるまでにはヒーローや警察が来る……はずだし。」

「えー……でもコイツ放っておくのも不安じゃない?二度と悪さできないように腕くらいやっちゃったほうが……」

「ちょ、待っ!」

 

未だにステインへの怒りが収まらないさやかは剣をステインの腕に近付ける。緑谷と轟は待ったを掛けようとするが、それとは別に予想外の声がかかった。

 

「ま、待て、止まるんだ君!」

「こ、今度は誰!?……あ、あの人か。」

「ネイティブさん!動けるようになったんですか!?」

 

ネイティブは、拘束が完全に抜けきらないのかぎこちなく体を動かしながらも4人へ近付いていく。

 

「こ、この状況下でこれ以上ステインに攻撃したら、過剰防衛になると思うんだ。法律的に。」

「ハァ!?なにそれ、ふざけてんの!?コイツ何人もこの腕で殺してきたのに、こっちがやるのはダメな訳!?」

「ま、まあ、怒りたくなる気持ちは分かる。けれどどうか耐えてくれ。君のような子供がそんな罪に問われるのは俺も見たくない。」

 

ネイティブは本心から彼女を気遣って止めたが、今まで大人が自分たちの重要事件に関わってきた経験がない美樹さやかは、それを良い方向には解釈しなかった。

 

「ちょっと、何その上から目線!なんもせずに寝てたくせに……!」

「いや、それは、本当に悪いと思っている。もともとプロヒーローの俺が対処すべき案件なのに、仮免すらない子供に任せっきりになっちまっただなんて、プロ失格と言われても仕方ない……。」

「み、美樹さん。ネイティブさんは意地悪したくて言ってるわけじゃないと思うんだ。だからどうかここは矛を収めてほしい。僕もあんまり頼める立場じゃないけど……」

「うぐぐ……イライラするぅ……」

 

納得しきれていないが仕方なくそれ以上追及するのを止めた美樹さやか。

大きくため息をつくと、諦めたように話を続けた。

 

「はぁ、しょうがないや……ステインをこれ以上ボコボコにするのは諦めるよ、すっごい不満だけど。」

「ああ、助かる。さあ、コイツを警察の所に連れて行こう。たしか、もう警察に通報してるんだったよな。ステインは俺が運ぶよ。」

 

そうして大通りに向かって5人は歩き始める。ステインはネイティブが注意深く抱えている。

 

さやかは一仕事終えたような、悪くない気持ちで歩いていたが、飯田、緑谷、轟、ネイティブは沈痛な表情を隠せない。飯田は言わずもがな、自らの過ちを深く悔いている。緑谷と轟も、彼女に大けがをさせてしまったことを深く後悔していた。たまたま彼女が強力な個性を持っていたからいいものの、普通ならば死なせてしまった場面だった。

実際のところ、彼らは何度も彼女に「逃げろ!」と言った。その上で彼女はここに留まったのだから、その怪我は自業自得の面も少しある。ただそれでも、彼らは責任を感じずにはいられなかった。

 

さらにネイティブに至っては、血液型の相性もあってずっと寝ているだけだった。歩く途中、彼は改めて申し訳なさそうに口を開く。

 

「……ええと、4人とも、特に美樹さん。本当に申しわけない、こんな危険に晒してしまって。特に美樹さんは、その、俺は見てないけど、刺されたって聞こえたんだけど……その様子を見るに傷は浅いようだな。不幸中の幸いだよ。」

「いや、心臓を刀で突き刺されて、腕を斬り飛ばされていたんですよ。」

「……は!?な、なんでピンピンしてるの君!?ていうか、腕繋がってるじゃん!」

「またその話……だーかーら、個性ですよ、こ・せ・い!!!」

 

整合性をとったごまかしが面倒になり適当が極まった言い訳を、ネイティブは「助けてくれなかったお前に秘密を教える訳ないだろ!」と受け取り、さらに暗い顔をする。

 

「……すまない、美樹さん、俺がしていい発言じゃなかったな。それにしても、一体どんな個性だっていうんだ……いや、流石に腕が生えるなんて個性だったらとっくに有名になってるはずだし、幻影の類か……?」

「もうそれでいいです……あ、個性と言えば!みんな、私の個性のこと、絶対に周りに言いふらさないでよ!絶対だよ!」

「あ、うん、それは勿論良いんだけど……」

「……言わねえよ。確か、治癒系ってだけでも一生仕事に困らねえ程度には貴重なのに、あそこまで戦えるなんてな。周りにバレたらやべえ、何が起るか分かったもんじゃねえ。美樹が今まで隠していたのは、そういうことだろ?」

「そ、そうだね。僕たちは絶対に言いふらさないよ。」

「え?まあ、その、そうなんだよね。協力してくれてありがとね。」

 

緑谷と轟の、決意に満ちたような発言に美樹さやかは少しだけ居心地の悪さを覚える。

実際のところ彼女は、バレたらマズいとは思っているが具体的に何が起るのかまでは考えが及んでいない。彼女の友人が隠せと言っているから隠してきただけなのだ。

 

「でも、気になるぞ。……まさか、あの鹿目と同類なのか?」

「まあ、そんな感じ。でもごめんね、あんま詳しいことは言えないんだ。まあ、可愛い魔法少女が来たって思ってくれればいいよ。」

 

場を和ませるちょっとした冗談のつもりでさやかはそう言ったが、あまり効果は無かった。特に飯田は暗い表情を全く取り払えない。

 

「…………」

「ね、ねえ飯田君さっきから黙っているけどどうしたの?大丈夫?」

「僕は……!」

 

飯田は小さい声で何かを言おうとしたが、その前に割り込む声があった。

 

「な、なぜおまえがここに!」

 

声の方を見ると、黄色いコスチュームを来た小柄な老人が立っていた。

彼はグラントリノ。緑谷の職場体験先の担当ヒーローで、オールマイトの師匠でもある。

彼の個性は「ジェット」で、脚から空気を高圧で放出することで自由自在に空を飛び回る。ステイン相手にも戦える有力者だ。

 

「グ、グラントリノ!?」

「新幹線で座ってろって、オイ足を掴むな!」

 

緑谷は元々新幹線で座って待っていろと言われた身だった。友のためではあるが、緑谷はヒーローの指示を無視してここにきてしまった形となっている。

勝手に動き回った彼に説教の一環で軽く蹴るつもりで飛び出したグラントリノだったが、当たる直前に両手で足を掴まれてしまう。

 

美樹さやかが反射的にグラントリノの足を掴んだ。思っていたよりずっとジェットの勢いが強いため、両手でがっしりと押さえる形となり、そしてグラントリノは足を掴む相手が明らかに(ヴィラン)ではないために、どう対応するべきか分からず混乱してしまう。

ひとまず余計な怪我をさせるわけにはいかないので、ジェットの勢いを落とした。

 

「な、何この人、また不審者!?」

「俺はプロヒーローだっつーの!というか誰だ血まみれの君は!?い、今俺のスピードに付いてきたのか!」

「美樹さやか……って、人をいきなり蹴ろうとした人がヒーローだなんて信じらんない!絶対嘘でしょ!緑谷君、このヒーロー知ってる?」

 

ヒーローオタクの彼ならば、きっと知らないと自信を持って言ってくれると期待しての質問だったが、緑谷は困ったような表情を浮かべる。

 

緑谷は彼女に対して、(なんて言ったら納得してもらえるかな……)と少し胃を痛めつつさやかに説明を始める。

 

「ええと……美樹さん、この人はグラントリノっていう人で、僕の職場体験先のプロヒーローなんだ。その、怪しい人じゃない……から、降ろしてあげてくれないかな……?」

「小僧!なんだ今の間は!?」

「……いやでも、いきなり人を蹴ろうとした時点でやっぱり怪しいし……」

「ぼ、僕にも非はあるんだ、美樹さん。この騒ぎが起きたとき、僕はグラントリノに座ってろって言われてたんだ。それを僕が勝手に判断して飛び出しちゃって……」

「え……でも、それって飯田君を」

「いや、僕はその時飯田君がピンチだなんて知らなかったよ。ただあの時は、衝動的に体が動いたっていうか……」

「えー……うーん……」

 

一応彼にも非があることを認識したさやかは、渋々グラントリノを地に降ろした。

 

服を払い、グラントリノはため息をつきつつも面倒ごとにならずに済んだことをひそかに喜んだ。

 

「はぁ……まあ、よぅ分からんが、とりあえず無事ならよかった。」

「グラントリノ……ごめんなさい。」

「ったく……。」

 

こういうところが俊典(オールマイト)にそっくりだと思いつつ、グラントリノは頭を下げる緑谷、そしてその周囲の人間を見た。

 

(隣にいるのは、轟の息子か。で、こっちは飯田、確かインゲニウムの弟か。で、問題のこっちの娘っ子は……誰だ?全く知らん奴だ。ヒーローコスチュームを着ているからおそらく雄英のヒーロー科の小娘だと思うが……こんな奴テレビで見てないぞ?俺は。妙に力が強かったから、おそらく増強系の個性だが……)

 

頭の中で、この状況の考察をしていると。

 

「ここか!?」

 

さらに新しい声が聞こえてきた。エンデヴァーに指示されたプロヒーローの3人が来たのだ。

 

「エンデヴァーから応援要請承ったんだが……」

「子供?」

「全身血まみれだ……今すぐ救急車を呼ぶから!」

「おい、コイツ、ヒーロー殺し!?」

「ええっ!?」

「すぐ警察にも連絡だ!」

 

状況の重大性を把握した彼らは、テキパキと各種連絡を始める。

その間、ヒーローの一人が学生4人の体を気遣う。初見時は血を浴びていたことで反射的に救急車を呼んだが、思いのほか彼らは元気そうに振る舞うために拍子抜けしていた。

 

「君は、大丈夫か?」

「僕は平気です。」

「君は……ああ、エンデヴァーの息子か!特に腕が血まみれだが、怪我をしてるのか?傷跡が見当たらないが……」

「……俺は平気です。怪我は……多分無いです。」

「君は……肩に刺し傷がある!大丈夫かい!?」

「……いえ、僕なんかの傷は気にしなくて大丈夫ですので……」

 

飯田は肩に刺し傷がある。緑谷と轟は、攻防の最中相応の傷を負ったが、さやかが治してしまったために見た目不相応の傷の少なさとなっている。

 

そして問題が、美樹さやかだ。自身の血と、ステインを刺したときの返り血を浴びている。

 

「君は血まみれじゃないか!一体どこを怪我してるんだ!?というか、無理して立つ必要はない、横になって安静にするんだ!」

「あ、いえ!別に私は怪我してません!」

 

誤魔化すための笑みを作り腕をブンブンと無邪気に振り回して見せるが、それでもヒーロー達の顔は晴れない。

 

「……と、とりあえず命に別条はなさそうだが、し、しかし何故そんなに血まみれなんだ?」

「いや、ステインと戦っている時に浴びた返り血です!」

「か、返り血!?」

「そ、その、襲ってきたのでその辺にあった刃物を振り回してたら、偶然コイツの腹に刺さって、その返り血です!」

 

確かにステインには腹に傷があり、一応つじつまの合う発言だった。

 

「な、ならいいんだが……いや、そもそもこの状況自体がよくないんだけどな。とにかく、君も念のために救急車に乗せてもらって、病院で検査を受けてもらうんだよ。」

「へ、平気ですよ!だって私」

「すまない!皆さん、僕のせいです!」

 

突如として、飯田が彼女に、この場にいる人々全てに向かって頭を下げる。

 

「ど、どうしたんだ君!?」

「彼女は、その、僕の為に」

「ちょ、飯田君ストップ!」

 

飯田が隠していて欲しいことを口走るのではと恐れた彼女は止めるようにいうが、しかし飯田は耐え切れないという風に言葉を続けた。彼女に迷惑を掛けないように言葉を選びながら。

 

「……美樹君は、皆に心配を掛けさせまいとああいってくれているが、しかしとても危険な、恐ろしい、酷い目に遭った。今こうして元気なのは、本当に、その、偶然が重なってたまたまなんです。僕がここに来たのは、兄が傷つけられたことの復讐のためです。でも、そもそも見つけた段階でヒーローに連絡をして応援を待つべきだったんだ。冷静に考えれば、僕がステインを倒せるわけがないと分かったはずなのに。僕の勝手な行動のせいで、ヒーロー科ですらない美樹君に、緑谷君と轟君にも、大変な迷惑をかけた。怒りで何も、見えなく、なってしまっていた……。だから、本当に、すまない!」

 

心からの懺悔をする飯田を、その場にいる人々は何も言わずに見守っていた。本来ならば叱らなければならない行為だが、事情が事情なだけにプロヒーロー3人は何も言わなかった。

 

「僕もごめんね。君があそこまで思い詰めていたのに、全然見えてなかったんだ。友達なのに……」

「しっかりしてくれよ、委員長だろ。」

「……うん!」

 

緑谷と轟は、迷惑をかけたはずの飯田に全く怒らなかった。飯田が立ち直ったことの方が嬉しかったからだ。

飯田は涙をふく。このまま涙を流しつつ頭を下げ続けることが迷惑だと判断したこともあるが、彼の決意表明のような行為でもあった。

 

「な、なぁ……ちょっと気になる点があるんだが。」

 

そこへ、グラントリノが困惑をはらんだ声で切り出した。

 

「はい、何でしょう?」

「その娘っこ、美樹さやかだったか?彼女、普通科の学生なのか?ヒーロー科じゃあなくて?」

「え?そ、そうですよ、私はいっぱんじんですよまったくもー!」

「……でもお前さんなんでヒーローコスチューム着てるんだ?」

「え?………………あ゛っ」

 

魔法少女の姿のまま人前に出てきてしまったことに今更気が付いたさやか。今後のことが頭のなかでグチャグチャと浮かぶ。学生三人も頭から抜けてしまっており、「しまった!」という言葉が頭に浮かぶ。

 

しかしさやかが言い訳しようとした瞬間、グラントリノが鋭い警告を発した。

 

「伏せろ!」

「ヴヴヴアアアァァア゛ア゛ア゛ーーー!!!」

 

現れたのは、翼が生えた脳無だった。脳から血を流しているが、まだ十分息がある。

それが、カワセミのように真っすぐ緑谷に向かっていた。

 

「えいっ!」

「うわ!?」

 

幸いにも、この中でもっとも反射神経に優れる美樹さやかがギリギリのところで彼を押し、脳無に彼が連れ去られる事を防いだ。

 

「あ、ありがとう美樹さん。また助けられちゃったね。」

「いいってこのくらい。それより、アイツなんか緑谷君狙ってたよ!」

「えっ?僕を!?」

「心当たりとかないの?」

「うーん、全然無いよ……って!脳無がこっちに戻ってる!皆さん気を付けて!」

 

脳無はわざわざUターンをし、再び彼らに突っ込んでくる。ここにいる人々は戦闘態勢を取った。

 

だが、彼らが戦うことは無かった。

 

「ウ、ウアアア……!?」

 

しかし途中で、突如として脳無は動きが鈍くなり、やがて落下する。

 

「贋物が蔓延るこの社会も!」

 

ステインの仕業だった。いつの間にか目が覚めていた彼は、4人が見逃していた隠しナイフを使って拘束を自力で解き、周囲にまき散らされていた脳無の血を舐めたのだ。

さらに、両腕を拘束されたままにも関わらず、全く衰えていないスピードで脳無に接近する。

 

「徒に力を振りまく、犯罪者も!」

 

一気に脳無に飛び乗り、地面に叩き落とす。

何の迷いもなくナイフを脳無の脳に刺し、ひねり、再生できないほどに脳組織をグチャグチャにした。

 

「粛清対象だァ……!」

 

ステインが拘束を抜け出した。その事実に一気に緊張が走る。

 

「野郎、あの怪我で動き出すなんて!」

「躊躇なく人殺しやがったぜ……!」

「と、とにかく戦闘態勢取れ!」

「ほらー!やっぱり腕の一本くらいやっちゃった方がいいって言ったじゃん!」

「……それとこれとは話が別だとは思うけどよ。確かに俺達の見通しが甘かった、それは認めるしかねえな。」

「……うっ!」

 

改めてステインを見た彼らは、その異様な状態に恐怖を感じる。

 

「ハァ……全ては、正しき社会の為に……!」

 

どこかに行ってしまった瞳孔のせいで白目を剥き、開けっぱなしの口からは涎が垂れ流し。「ハァ……」と吐き出される言葉は、震えが入っているがしかし意志はさらに込められていた。

明らかにボロボロの体でも立ち上がるステイン。先ほどより戦闘的に有利な状況であるにも関わらず、ステイン以外の人々は凄まじい威圧感を感じてしまう。

 

「なぜ一塊で突っ立っている!」

 

そこへ新たな声が聞こえた。エンデヴァーだ。

 

「こっちに(ヴィラン)が逃げてきたはずだが……」

「あっちは、もう!?」

「多少手荒になってしまったがな。」

 

脳無を片付けたスピードにヒーローたちは驚きつつも、確かな実力を持つ彼の到着を心強く思った。

 

「して、あの男はまさかの……」

 

エンデヴァーがこの街へ来た理由はまさにステインを確保するためであった。

ようやくお目当てが現れ、口角が吊りあがる。

 

「ハァ、ハァ、エンデヴァー……!」

「ヒーロー殺し!」

「っ!待て轟!」

 

早速炎でステインを攻撃しようとするが、何かを感じ取ったグラントリノにストップをかけられた。

 

その理由は、ステインを見ればすぐに分かった。

 

「……贋物ォ……!」

 

圧倒的な狂気。たった一人の人間の感情が、その場の人間を縛り付けるというまさに非現実的(コミックのよう)な現象を、ステインは起こしていた。

 

「正さねば……!誰かが、血に染まらねば……!」

 

ここにいる人間は、ステインがどれほどボロボロかを実際に見ているし、彼の個性は身体増強には関係ないことの情報共有も済んでいる。

にもかかわらず、増強系であっても難しいことをやってのけるステイン。これほどの不屈の意志を見せられると、何をどうやっても彼の意志を折ることは不可能であると直感してしまう。

自分たちはここまでの意思でヒーローを出来ているかと聞かれれば、おそらく誰もが肯定を躊躇するだろう。

 

英雄(ヒーロー)を、取り戻さねば!」

 

ステインの主張は、美樹さやかを除きこの場にいる全員がその内容、英雄回帰の概念を理解している。

彼の用いる殺人という手段には全く賛成できなかったが、彼が訴えている昨今のヒーローの状況の問題には確かに思うところがあるし、思わず眉をひそめてしまうようなヒーローも現実に存在する。

 

だからこそ、ここにいる殆どの人間は、ステインがいわゆるファッション的な理論武装ではなく、本気で英雄回帰を目指して行動していることが分かってしまう。その行為がどんなに狂っていても、その信念そのものには、確かに人の心を打つ力があった。

 

「来い、来てみろ贋物共ォ!」

 

ドスン!とステインは一歩踏み出し、ヒーローたちは一歩下がる。あのエンデヴァーでさえ。

 

「俺を殺していいのは、本物のヒーロー、オールマイトだけだアアアァァァ!!!!!

 

ここにいる人々は、ステインが何十倍にも大きな存在となり、自分たちに叛逆していると、そんな錯覚を覚える。客観的には彼は叫んでいるだけなのに、攻撃しようとする者は皆無。逆に尻もちを突くヒーローさえいる。

血走り痙攣しつつも確かにこちらをとらえているように見えるステインの瞳は、まるで個性のような理不尽さで彼らを威圧していた。

 

 

 

しかしここで、カラン!と。

 

ステインが持っていたナイフが落ちた音。それにより、人々は一斉に我に返る。

ステインは元の大きさに戻り、ただ口を開け汚く涎をたらす、薄汚い(ヴィラン)が立っているだけだった。

 

「気を……気を、失っている?」

 

エンデヴァーの言う通り、いつの間にかステインは立ったまま意識を失っていた。しかし、ナイフの音が場を仕切りなおすまで、誰もその事実に気が付けなかった。

 

「……はっ。」

「…………はあ……。」

「ね、ねえみんな?これもう動き出していい感じ?」

 

後に残るのは、気が抜けて腰が落ちてしまう人々。

そして、そもそもステインの言っていることを理解していないがために彼の狂気を受け取れず、彼女視点でなぜか固まっている周囲に合わせ何もせずにいた美樹さやかだった。

 

 

面構犬嗣(つらがまえけんじ)は保須警察署の署長であり、今回の事件の対応に追われていた。

 

今回の事件は、大きく二つの問題に分けられる。(ヴィラン)連合が放ったと思われる脳無が暴れたことと、ヒーロー殺しステインが逮捕されたことだ。

その2つのうち、今彼が当たっているのはステイン事件に関して。凶悪な連続殺人鬼ステインが捕まったことは喜ばしいが、そのプロセスが問題だった。

 

捕まえたのはプロヒーローではなく、仮免すら取得していない学生4人だった。話を聞く限り、その場に偶然居合わせたのではなく、自らの意志でステインのいる場所へ来たらしい。一人は兄の復讐のために、他3人はその一人を助けるために。他者のためとはいえ、立派な規則違反だ。

警察署内でも、彼らを非難する声は少ない。むしろ、友達がよく頑張った、ステイン相手に勝利するなど信じられない、という感想さえ出る。がしかし、違反は違反である。人のためだからと言って無断の個性使用を認めだしたら際限がない。個性とはまだまだ研究が進んでいない未知のもの、人の手に余るもの、法律が対応しきれていないものなのだ。現実にも、個性が思わぬ方向へ作用して、人を助けようとしたら事態が悪化したなどという例は枚挙にいとまがない。だから現在個性使用は資格制になっている。

 

以上の理由から、警察という組織の人間としては彼らを規則違反者として叱り、彼らと彼らの監督ヒーローには処罰を下さなければならない。だが現実にそうした場合、そのことが知られたら民衆がどんな反応をするかなど目に見えている。「人が死にかけていても規則を守れと言うのか!」「ステインを捕まえる仕事はサボっていたくせに、子供の規則違反には全力で仕事をする連中だ!」と批判されるに決まっている。面構犬嗣個人としても、若者の英雄的活躍(過ち)にケチをつけたくない。

 

署内で諸々調整した結果、今回のステイン逮捕の件はエンデヴァーのみを立役者として扱うことになった。幸い、ステインには火傷痕があるので、それでゴリ押すことになった。4人の功績と英断は誰にも知られることが無くなってしまうが、彼らの処罰は免れる。

ただ4人に対して何も言わないでいると、今回の規則違反を認めたと解釈される可能性もあった。そのため、まずは彼らに「規則違反なので処罰する」と話し、反発された後で「汚い話だけれど……」と、今回の揉み消しを提案する流れに持っていくことにしていた。

 

嬉しい役回りではない。しかし、これも社会人として、上に立つ人間としての責務だと自分に言い聞かせ、彼は学生がいる病室に向かった。監督ヒーロー達も引き連れて。

 

だが、彼が思っていたよりも話はうまく運ばなかった。

 

「人が死にそうでも規則を守れっていうの!?お断りだよ!ていうか、そもそも突然出てきて何なの!?すごく感じ悪いんですけど!!!」

 

目の前で面構犬嗣に大声で怒り散らかす少女は美樹さやか。

彼女の存在が、事態を非常にややこしくしていた。

 

「……結果オーライだからと言って規則を有耶無耶にしていいという訳ではないんだワン。」

「どーせここで私達を罰さないと自分の評価が下がるとかそんなんなんでしょ!?ほら、よくあるアレだよ、現場に立ってないから私たちのこと分かってくれないやつ!」

「根拠薄弱にも程があるんだワン。先ほどから論点ずらしがひどいから、まずはそれを止めなさい。ほら、ええと、社会に出て苦労するから、今のうちにそういう話し方は止めるようにするんだワン。」

 

一応親切を含んだ警告ではあるが、彼に反抗することが自分のため、ひいては友達の為だと信じている彼女には完全に逆効果だった。

 

「それ今言うこと!?しゃしゃり出てきてグチグチお説教とかあり得ないんですけど!こーいうのが権力に胡坐をかいてるっていうんだ!」

「ま、まあまあ娘っ子、コイツにも立場ってもんがあるから、大目に見てやって……」

「そもそも、私がいなかったら飯田君殺されてたんだよ!?私たちの命なんてどーでもいいんだよコイツは!」

「だからそれは、さっきも言ったが……」

 

彼女の頭に血が上ってしまい、収拾がつかなくなってしまっていた。面構は内心(ここまで怒らせることは望んでいないんだワン……)と天を仰いだ。

 

 

他3人と違って、彼女は立場が特殊だった。

 

まず彼女は雄英普通科である。初見では、警察の人間はそう見抜けなかった。他3人とそこそこ交流のある仲らしく、他のヒーロー科生と普通に話していた様子を見て、初めは彼女もヒーロー科だと決めつけた。しかし確認のためにある職員が雄英に彼女の身元の確認を取ったときに、「美樹さやかというヒーロー科の学生が……え!?ヒーロー科じゃなくて普通科!?」という声が響き、それが聞こえたときに「えっ!?」という反応がそこかしこから上がったのを面構はよく覚えている。

 

聞けば、彼女は飯田が襲われる音を聞きつけ駆け付けたらしい。ならば、彼女はその場でステインから飯田を逃がそうとし、ギリギリヒーロー科の緑谷と轟が来るまで奇跡的に持ちこたえたのだ……と誰もが最初に思ったが、これも違った。

 

なんと、彼女は対ステイン戦でも特に貢献したらしい。

 

最初は、彼女を含む4人が「美樹さやかは見ていただけ」と口を揃えていた。しかし、詳しく状況を聞き始めると矛盾点が目立ってしまったのだ。轟は比較的嘘をつき通そうという姿勢があったが、飯田と緑谷は初めから彼女に絡む話題に関してはかなり挙動不審だった。嘘にならないように表現をこねくり回しつつ答えていた3人だったが、不審に思った刑事が細かく追及したところ、最終的に観念して彼女が関与したことを認めた。ちなみに、決め手は現場に血液痕が残っていたことだった。DNA検査でもされれば彼女であることはすぐに分かる。それを調べられては、どうあがいても誤魔化しきれないと判断したのだろう。

 

だが、観念して彼らが話し出した「真実」もなかなか受け入れがたいものだった。戦闘訓練など無縁のはずの美樹さやかが、ステインとの戦闘で大活躍したというのだ。彼女には隠された個性があり、それがステインと戦えるほどに戦闘能力を向上させるものだったらしい。なぜそんなものを都合よく持っているのか、と言いたくなる話だが、実際に今年の雄英体育祭で鹿目まどかという似た事例が存在していたために信じるしかなかった。他につじつまの合う現場の説明が無かったのだ。

実際、彼女はプロヒーロー達と合流したときにヒーローコスチュームのような華麗な服を着ていた。鹿目まどかと同類の個性であることを、彼女も周囲の人々も認めている。

 

話しぶりからして、彼女は自身の個性の事を前々から認知していたらしい。ならば個性の虚偽申告と言える。では具体的にどのような個性なのかと追及しても、「なんかとにかく強くなって戦える個性!」という余りにやる気のない説明の一点張りであり、本人に説明の意思は全くないようだ。

この態度も相まって、他3人と比べ彼女に対しては処罰が重くなるのでは、というのが面構の予想だ。

 

ちなみに、彼女の行動に関する法律上の問題はまだある。彼女が罰せられる話ではないが、美樹さやかは当時プロヒーローのウォッシュの監督下にあったので、彼に監督不行き届きの疑いがあるのだ。疑いというのは、状況的にウォッシュに責任があるのかどうかがかなり微妙だからだ。ウォッシュが元々監督していたのは、鹿目まどかの職業体験。さやかは、まどかの要望により単に一緒に見学していただけ。特に何かさせたわけではない。

加えて、ウォッシュは当時保須における脳無の対処に当たっていた。当時ステインが現れたことなど知らなかったウォッシュがそちらにかまけていたのは当然だろう。そして彼女たちにはサイドキック達を同行させ避難をさせていた。戦えなどとは一言も言っていない。彼らに責任があるとすれば、飛び出していったさやかを止めなかったという点が挙げられるが、彼女が個性を隠していたこともあって、彼女の違反行為を防ぐのは物理的に難しかったのでは、という見解が大方だ。

それでもさやか本人にとっては不愉快な話であるだろう。自分のせいで他人が罰せられるのだから。

 

問題が多い彼女だが、しかし面構犬嗣はその件を今問題にするつもりがない。話が余計こじれそうだからだ。

 

 

「だーかーら!しゃしゃり出てくんなってさっきから言ってるでしょ!ルール守ってるのがそんなに偉いってわけ!?」

「いやだから、さっきも言ったけれど、他人のためだからと言って多くの人がルールを破りだしたら……」

「あー!また屁理屈いう気だね!?それ三秒後に(ヴィラン)に殺されそうになってる人に向かって言えるの!?『君は3秒後に死にそうだけど個性勝手に使ったら違法だから先にヒーロー呼んでね!』ってさ!」

「はぁ、だからそれは正当防衛の話で君の状況は違っていて」

「私が死にそうか、飯田君が死にそうかの違いでしょ!?命かかってたんだよあの時は!」

 

こちらがどんな正論を言おうが、正論と屁理屈と感情論をごちゃまぜにして反抗してくる彼女に面構はいい加減うんざりし始めている。女性の話には否定せず頷いておけという言葉の意味を身をもって体験していた。

 

そもそも、彼は美樹さやかにこの話をする気は無かった。さやかは4人の中で唯一の女子と言うことで、別室に入れられている。ヒーロー科の生徒ならば、理不尽に聞こえる話でも多少は理性的に対応してくるだろうという前提で、彼は頭の中で事前に話を組み立てていた。

それ自体は間違っていない予想だったのだろう。しかし、間の悪いことに、3人の様子を見に来たさやかが彼が話しているところにやってきたのだ。その威圧的で理不尽にも聞こえる話を聞いてしまった彼女は割り込みだし、その若さを以って面構に正面から全力で突っかかっていた。

 

彼女に対する3人の反応は様々。緑谷と飯田は最初のうちは彼女を宥めようとしたが、しばらくすると諦めてしまい今は何も言わずに見守っている。轟は、さやかの話に時々頷いている辺り、かなり彼女に同調しているようだ。グラントリノとマニュアルは、粘り強く彼女を宥めようとしている。しかし事実として彼らプロヒーローは、ステインを抑え込めなかった実績の無さや、「家族を傷つけられた飯田君の気持ちなんかわかんないでしょ!?」という感情的な発言力の無さにより、説得は成功していない。(ちなみにグラントリノはそれを言われたときかなり何か言いたそうになったが、口には出していない。言えない事情があるのだろう。)

 

そしてさらに悪いことに、面構自身もそもそもこのような一般市民、特に思春期の女子高生に接する機会は非常に少なく、接し方を間違えてしまっている。

さやかが間違ったことを言えば、警察の人間として否定しなければならないことは否定する義務があるので否定する、するとさらに彼女の怒りが増し暴言が増える、という悪循環になってしまっていた。

こうなってしまっては、無理矢理話を切り上げ揉み消しの件は別の機会に話そうかという諦めが頭に浮かび始める。揉み消しという相手に利を与える話は、このような敵対的な相手にはあまり気が進まないことだろう。

 

彼女の話に耳を貸さず、「法律上違法だから」の一点張りで彼女を処罰しても規則上は問題ない。しかし彼個人としては、彼女の友人を助けるという行為や、ステイン逮捕に大きく貢献したことで心証は良かった。ステインを大人のプロヒーローや警察が捕まえられなかった引け目もあった。そういう事情から、なぜ悪いのかを根気強く説得するために時間を割いてやる心が面構にはあった。しかしそれがそろそろ限界を迎えようとしていたのだ。

 

このままでは彼女の処罰は免れないだろう。

ところがここで、突然扉が勢いよく開かれた。

 

「さ、さやかちゃん大丈夫!?」

「あ、まどか!」

 

3人の女子が入ってきた。うち一人は、雄英体育祭で注目を浴びたあの鹿目まどか。おそらくこの3人はさやかの友人なのだろうと彼は思った。

 

実はこの3人は、緑谷が呼び出した。自分たちでは彼女を説得することが難しいと判断した緑谷と飯田は、こっそり3人にここの場所を送信。なんとか引き取ってもらおうと考えた。(ヴィラン)と戦ったことはあまり言いふらさないように警察の人間に言われているので、なるべく最小限の情報だけ渡して呼び出した形だ。

 

本来ならば、事情を知る人間が増え揉み消しが難しくなる行為。しかし、面構はナイスタイミングだとこの時感じた。実際この行為によって、場が一気に収束に向かう。

 

「マミさんに、ほむらも!よかった、ちゃんと帰ってきたんだね!」

「さやかちゃん、平気!?(ヴィラン)に襲われたって!」

「あ、うん。全然平気だよあんなの。それより、その、ま……その、隠してた姿が……」

「ううん、気にしないで美樹さん。まずは無事で本当に良かったわ。」

「…………なにがあったのかしら。さっきまで上手くいって……いえ、さっき良いことがあったのに、その姿を晒したなんて聞いて、寝耳に水だったのだけれど。」

「ちょ、ほむら、ごめんって!いろいろ事情があったんだって!」

 

先ほどの怒りはどこへやら、談笑に近いテンションで会話を始める美樹さやか。

年の近い友人とはこれほど影響力を持つのかとある意味感心しつつ、ここぞとばかりに彼は話を切り出す。

 

「あー、君たち、彼女の友達かワン?」

「あ、はい。鹿目まどかです。」

「落ち着いて聞いてほしいことがあるんだワン。このままだと、彼女は個性を勝手に使ったことで法律上どうしても処罰を受けることになってしまう。」

「ええ!?どういうことですか!?」

「君たちは(ヴィラン)に彼女が襲われたことは知ってるかい?」

「は、はい。でも詳しいことはまだ……」

「彼女はヒーローの制止を振り切り、自分の意思で(ヴィラン)の元へ向かってしまった。そしてさらに、(ヴィラン)を攻撃し友人を助けるために個性を無断で使ってしまったんだワン。これは立派な規則違反なんだワン。」

「そ、そんな……」

 

当然彼女達に困惑や不満が広がるが、今回は間髪入れずに揉み消しの話を打ち出す。またややこしいことになることを防ぐために。

 

「ただし、それはあくまで公表すればの話だワン。火傷の痕から、ステイン逮捕にエンデヴァーを立ててしまえるんだワン。」

「ちょ、私と話してるときはそんなこと一ミリも言わなかったじゃん!?」

「あんな勢いで突っかかられたら切り出せるものも切り出せなくなってしまうんだワン……」

「あんな態度とられたらそりゃ誰だってそうでしょ!」

「と、ともかく。この違反はここで握りつぶせるんだワン。だがそうすると、君たちが得るであろう英断と功績も無くなってしまう。さて、どっちがいい?」

 

もともと功績目的で戦っていたわけではない彼らの答えは決まっていた。

さやかは面構に対して怒りが残っていたが、流石にそれを表に出さずに返答する。

 

「……それなら握り潰す方で。」

 

これに、他3人も続いた。

 

「す、すみませんでした。」

「……よろしく、お願いします。」

「承知した……ハァ……思っていたよりこじれたワン。」

 

面構は、この面倒な状況を切り抜けた安堵から深いため息が出る。

マニュアルとグラントリノも少々うんざりしていたらしく、面構につられてため息を漏らした。

 

「はぁ……まあ、どのみち俺らは監督不行き届きで責任取らないとだしな。」

「……申しわけ、ございませんでした。」

 

飯田は、再び周囲に迷惑をかけてしまったことを感じ取り、深く謝罪する。

社会人としては相応に重い罰を下されたが、マニュアルは飯田の頭を軽く小突くだけで済ませた。

 

「よし!他人に迷惑掛かる。わかったら二度とするなよ。」

「はい!」

 

少しだけ空気が軽くなり、面構も立場を超えた個人の思いを口にする。

 

「まあ、一個人としては、未来ある若者の偉大な過ちにケチをつけたくなかったんだワン。」

「……最初から言ってくださいよ。」

「そ、そうですよ……めっちゃ怒っちゃったじゃん私……」

 

事情も知らずにガミガミ言ってしまった事を少し後悔しているさやかは、気まずそうに言った。

苦言を呈したい気持ちが面構には少しあったが、また面倒になることを嫌がり適当に流す。

 

「まあ……元気があってよろしいんだワン。ともかく、君たちが無事で何より。ステイン相手にその怪我で生還したことは奇跡なんだワン。」

「あはは、本当に運が良かったですよ……」

「まあ、実際美樹が居なかったらああも上手くは行かなかったからな。」

「え、ええ~?そんなぁ~。」

 

直球の誉め言葉に、頬に手を当てて照れるさやか。

雄英推薦入学者の轟に普通科の学生が称賛されるという光景に、面構は不釣り合いなものを感じた。本当に彼女は戦闘能力があるのだな、と。

 

彼にちょっとした好奇心が生まれる。

 

実際の戦いはどのようなものだったのかを詳しく聞きたくなったのだ。公式的な取り調べでは、彼女が戦いに関与し、また個性を隠していたことまでは分かっている。ただしそれ以上の話は、彼らが怪我人であることも鑑みひとまず日を改める、ということになっていた。

 

彼としては、彼女があのステインと戦いきったなど未だに半信半疑である。またこれは現場調査が一通り終わってから出てきた謎だが、彼らの怪我の割に現場に飛散していた血液量が証言と合わず気になっていた。

彼らが説明したところによると、実際は美樹さやかは一度ステインに斬りつけられたが、彼女の個性「強力治癒」により傷を塞いだとのことだ。ただ、現場には彼女以外のDNAを持つ血液、おそらく他3人の雄英生の血と思しきものがあった。しかし、彼らはごく小さい傷しかついておらず、その場にあった血の量とは辻褄が合わないように感じられた。

 

「ちなみに、彼女以外は本当に怪我をしていないのか?」

「え?ええ。その、見ての通りですよ。」

 

緑谷は、自らの健康を示すために手をわざとらしく広げてそう言うが、面構は直感的に感じ取った。まだ何か隠していると。被疑者の取り調べも相応に経験してきた彼の持つ勘だった。

 

もちろん、普段ならば嘘をついている相手に無遠慮に嘘を暴こうとするようなことはしない。それはあくまで仕事の範囲内の行いだ。

この時の彼は、さやかとの衝突で疲れていたこともあり、多少の詮索と忠告で終わりにするつもりだった。

 

「ふむ……まあ、これはただの忠告だが。個性に関して隠し事はするべきではないんだワン。規則以前に、個性とは危険なものなのだ。もう君たちは耳にタコが出来るくらい聞いている話だろうが、よかれと思って個性を使って、それが思わぬ副作用を生み、事態が悪化したなどという事例は非常に多いんだワン。君たちがステインとの戦いで何か言えないような個性の使い方をしたとしたら……もう二度としないか、それが問題ないかを必ずプロヒーローに聞いて、必要ならば訓練を行った上でするべきだワン。」

「あ、あはは……ごもっとも……。」

 

緑谷と飯田は誤魔化すように笑みを浮かべる。(それでは隠し通せないぞ、若者たちよ。)と言いたい気持ちを面構は抑えた。

 

実際、彼らは美樹さやかの個性に関する重大な情報を隠している。他人の事も治癒できるという非常に強力な力。他人にバレたら何が起こるか分かったものではない。相応に賢い彼らはそれを承知しており、その点は他者に漏らさないつもりだった。

 

だがここで、そのことを考えた飯田は、ある可能性に思い至る。

 

今までの飯田は、うすうすその可能性が頭によぎっていた。だが今の今まで、彼の心の中では後悔が荒れ狂い、さやかにまた頼みごとをするなど恥ずべきことだと思っていた。だから、その可能性は努めて考えないようにしていた。そもそも、彼の兄がその能力の範囲内だという保証はないだろ!と、そのことが頭に浮かぶたびにそうやって押さえつけていた。

 

だが少し落ち着いてみると、兄のことがふつふつと心に浮かび始める。それはだんだんと大きくなっていき、チラチラとさやかをみて考え込むようになる。さやかは飯田の視線に気が付いているが、意図が分からず不審に思うだけだ。

 

面構の話でついに我慢ができなくなり、結局飯田は、ただちょっと聞いてみるだけだと自分をだました。

 

「み、美樹君!」

 

思い詰めていた自覚が無かった飯田は、自分が思っていたよりも遥かに大きな声を出してしまった。

 

「え、ちょ、何!?」

「君の個性は……」

 

ここで「兄さん」の「に」まで声が出かかった飯田だが、済んでのところで留まる。

 

「い、いや、何でもない。」

「え?私の?……あっ……」

 

しかしさやかはここで何の話をしているかを察した。

 

この件に関して、さやかはまだどうこうしようという考えがある訳ではない。魔法少女の能力に関する話なので、さやか以外の魔法少女達と話し合って慎重に決めようとは思っている。ただ今のところ、それをすることについて嫌な思いはそこまでない。

 

しかし先に、慌てた緑谷が止めに入る。彼の早とちりだが、飯田が兄のことでまた頭がいっぱいになり余計なことを言うのではと思ったからだ。

 

「い、飯田君!ちょっと、ストップ!」

 

だがこれは、飯田を余計に刺激してしまうこととなった。

それを美樹さやかに頼みたい気持ちを、大変な迷惑をかけた身であるのに不誠実だと押し殺している精神状態だった。

 

緑谷の指摘に、後ろ暗い部分を刺激されてしまい過剰反応をしてしまう。

 

「待ってくれたまえ緑谷君!な、何も僕は、その、これ以上彼女に迷惑を掛けるつもりはない!」

 

何か言い訳をしようとした飯田。具体性は無いが、彼の止めに対する強い否定だけが出た。

 

「飯田、落ち着け!……いろいろあるんだろうけどよ。」

「…………す、すまない。」

 

轟にも止められた飯田は再びベッドに腰を落とす。

褒められたものではない利己的な態度だったが、しかし飯田の抱いた希望を考えれば仕方ないことでもあるだろう。

 

この並々ならぬ様子を面構は流石にスルー出来ず、状況の考察を始める。

 

(……彼らは何を見たんだ、ワン?誤魔化すのが下手なのはともかくとして……かなり必死に見えるな。「迷惑」か……確か彼は、自らの身勝手な行動を悔やんでいる、のだったな。しかし、「これ以上」か?美樹さやかの個性と関係ある何か……か。彼らはステインとの戦闘で何を見たんだワン?)

 

面構は警察の人間なので、今回の事件現場に関する調査内容を詳しく知っている。戦った彼らよりも。捜査状況はいちいち彼らに共有されるわけでは無いので、その点持っている情報には差があると言える。

学生の彼らがどのような点から警察の人間が状況や証言を不自然に思うかを予測することは、非常に困難なのだ。

 

彼らは「危なかった、飯田の話で危うく隠されていた個性の話が出てしまうところだった。怪しまれるだろうけれどまさか治癒ができるなどとは思わないだろう」と思っているが、実際のところ血液の飛散状況が彼らの証言と合わないことと、そもそも美樹さやかの個性が怪しまれている時点で、治癒の件がバレないことを期待することは無理があった。

 

(彼女の個性は、あくまで伝聞だが高い戦闘能力、それもおそらくステインを抑え込んでいたということから近接系のはず。しかしそれ以外に隠していたと仮定すると……彼女はもともと個性を「強力治癒」と申請していて……治癒…………いや、まさかそんな。しかし、戦った彼らは妙に怪我が少なくて……)

 

彼の脳内に、一つの可能性が頭に浮かぶ。

 

(まさか彼女は、自身だけではなく他者も治癒可能……?)

 

治癒個性はそれだけでさまざまな現場に引っ張りだこになる希少個性。治癒が出来る個性と発覚した時点で、国に登録義務が生まれ、厳重に管理されることとなる。超人社会となっても人間の頑丈さは大して変わっておらず、医療水準も超常黎明期からすこし成長した程度とされている。

有用性が高すぎるゆえに、表からも裏からも狙われることになる個性。そんな個性だからこそ、雄英生の3人はそのことを隠そうとしているのではないか?

 

そんなことを考えた面構は、いやいやそんなことはないと頭を振る。ステインに対し、おそらく戦闘経験もないであろう彼女が戦える時点で強個性であるのに、他者の治癒が可能などどんな低確率の突然変異強個性なのか、と。

 

しかし、疑問を捨てられない面構えは、質問を投げかける。

 

「君、まさかとは思うけれど、他人すら治癒可能であるとか、そんなことはないよね?」

 

ただの軽い問いかけだった。

しかし悲しいことに、彼らは学生でヒーロー志望。大人を騙せる演技など守備範囲外だった。

 

「そ!そ!そそそそそそんなことないですよ美樹さんは普通の普通科生徒ですよ!そんな個性持っていたらとっくに有名になってますって!」

「い、いや、違います。」

「っ!い、いえ、そんなことはないですよ。」

 

緑谷はまさにオーバーリアクション。コミックのように手をバタバタさせ、口数多く言い訳を始めるという、嘘をつく者の典型の反応をしてしまっていた。

轟はまともな誤魔化し方をしているが、しかし面構の目を欺くレベルではない。目をそらしている点で怪しいと思われてしまうだろう。

飯田も否定はするが、下を向きただひたすら何かを悔やむ。にじみ出る暗さを隠しきれない。

 

ずっと話を聞いていた彼女の3人の友人の顔を見ると、だれもが「あっ」とでも言うような顔をしていた。

 

面構は確信する。

 

美樹さやかは他者を治癒可能であると。

 

「………………………………………………………………マジでか、君。」

 

言い争いの精神的疲労など吹き飛んでしまった彼は、あんぐりと口を開けるばかりだった。

 




能力がバレたらエラいことになる順番は、

ほむら > さやか >> 杏子、マミ、まどか

だと思う。

・ツンツンプンスカガミガミブチギレさやか
危機は友達同士で乗り越えるのが当たり前だったところへ、突然感じ悪い大人がズカズカ入り込んできたので全力防御反応をしている。



- 追記

飯田君当たりの話、確かに口が軽すぎた感があったので修正しました。

え?まだ違和感があるって?もうここでバレることを前提にして話を進めるつもりにしちゃったんで許してクレメンス。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。