論理的にはオリキャラじゃありませんがオリキャラに近い存在とオリキャラが出ます。もちろん今後殆ど出番は予定されていません。
変化、そして進展
美樹さやかの件は雄英高校にも当然伝えられた。
そして今、さやかは雄英のとある一室にてヒーロー教師に囲まれひたすら話を聞いていた。呼び出されたさやかの両親、根津校長をはじめ、生活指導のブラドキング、イレイザー、ミッドナイト、リカバリーガール、その他多数の大人が詰めかけているという、さやかにとってはうれしくない豪華さだった。
内容としては違反に関する少しだけ説教が入っていたが、それ以上に余りに多くの説明や忠告が並べられ、美樹さやかはいい加減この部屋から出たくなっている。
「…………はい、はい、わかりました、はい……」
「というわけで、君の力は本当に多大な影響を社会に及ぼし得るんだ。って、ちゃんと聞いているかい?」
根津の話は長いことで有名だが、今回は普段の『校長先生の話』の10倍を超える話の長さを記録している。
「あー……え、ええ、聞いていますよ、はい……」
「ほらさやか、ちゃんと聞きなさい!さやかの将来に関わる大事な話なのよ!」
「うえっ……」
傾いた頭を無理矢理母親に戻されたさやかの顔は、もはや人の話を聞くものではなくひたすら遠ざけるものになっている。
「君のご家族にもこれから毎日ヒーローの護衛をつけるのも理解してくれたかな?最初はあれだけ嫌がっていたけれど……」
「えー、もうしょうがないんでしょうね……」
話の最初、「君の家の周りはこれから毎日プロヒーローが護衛するからね!」という話があり、さやかはまるで監視されているようだと反発したのだが、彼女の治癒の力はいずれバレるであろうこと、その力は様々な人々に強く求められるであろうこと、そして法律に則らない手段でさやかに力を使わせようという人間が現れることなど、長い長い根津の説明が続き、さやかはいい加減に面倒くさくなり「はい」しか返さなくなってしまっている。
その様子を見かねたブラドが口を挟む。
「校長。流石にもう3時間経っていますし、今日はこのあたりで……」
「ええ?もうそんなに経っているのかい?僕はまだまだ言いたいことの1割くらいしか言っていないんだけど。」
「し、しかし、彼女も限界の様ですし……」
さやかはもう目を半分開いていることを保つので精いっぱいの様子だった。
彼女に言いたいことはまだまだ多々あるヒーロー達だが、ひとまず最低限の話は終わったためにこの場は終わりで良いのではと全員が感じている。ただし根津以外は。
「うーん、仕方ないね。細かいことはあとで僕から書類を渡すから、必ず!目を通すように!」
「はい……」
「あ、じゃあ最後に、ちょっとした雑談としてなぜ超人社会において治癒個性が生まれないかについて、個性と人体の複雑性の関係に関する最新研究を」
「校長、だからもう止めときましょうって。」
もはや溶けだしてしまうのではという顔になりかけたさやかを見かねたイレイザーは、根津の肩に手を置く。「むう、しかたないねえ」と彼は渋々話を止める。
イレイザーは一息つくと、さやかに今回の話を簡潔に要約した。
「まあ、今回の個性の件は大事だから話が長くなったが、とりあえず今日君に覚えてもらいたいことは3つ。『勝手に治さない、他人に口外しない、影響力の大きさを自覚してくれ。』だ。これ以上細かく説明するのは、君のキャパシティを考慮すれば合理的じゃない。」
「あー、はい、わかりました。とりあえずそれだけ覚えて帰ります。……帰っていいですよね?」
「ああ。まあ、今日のところはな。明日から個性の検査で忙しくなると思ってくれ。」
「え゛え゛ェェ……」
もはや女子高生とは思えない、人間であるかすら怪しいうめき声を出した。
「色々負担がかかることに同情はするが、こればっかりは仕方がない。社会の不合理だと思って諦めてくれ。」
「はああああああぁぁぁ……」
「……引き留めて悪かった。もう帰って良いぞ。」
「失礼しまぁ~す……」
さやかはフラフラになりながらも部屋を出て行った。
残ったのはヒーロー教員たちとさやかの両親。根津の指示でヒーローの一人がさやかが出て行ったことを確認し、さやかがいない所でしかできない話を始める。
「さて、お二人とも。今回は本当に心労をかけましたね。」
「ええ、もう本当に、襲われたこともそうですけど、あんな個性を隠していたなんて……」
さやかの両親は、ある時突然「そちらの娘さんが
ただいまー、といつも通りに帰ってきたさやかが「え、何、事故!?」と驚いてしまうような血相で、両親はさやかをここに引っ張ってきたのだった。
「ステインと遭遇させてしまったのは我々の落ち度。本当に申しわけない、改めて謝罪させていただくのさ。」
「いえ……その、学校外のことですし、とにかく無事で本当に良かったです。その件はそれ以上言う気はありません……。」
親としては守ってくれと言いたい気持ちも無いわけではなかったが、常識外の事が起こりすぎたためにそれを言う気は完全に消え失せていた。
「承知しました。さて、彼女の治癒、そして『魔法少女』の力に関して、改めてお二人にお伺いしたいのですが。何かご存じでしたか?」
「ほ、本当に何も知りません。私たち夫婦の個性だって、私は『身体活性』で夫に至っては無個性です。そちらが仰るような個性を隠していたなんて、今でも信じられない気持ちです。ええと、私たちが知らなかった証拠は、すみませんがありません……」
「ふむ。ひとまず、お二方は本当に知らなかったとして話を進めさせていただきます。まあ、突然変異で親と全く関係のない個性が生まれることは時々ありますから、絶対にあり得ない現象とは言い切れませんよ。彼女の場合は流石に特異すぎますけどね。」
「根津さんがおっしゃるなら……そうなんでしょうか。」
個性教育の第一人者の言うことを鵜呑みにするしかない彼らは、親としては少々頼りない返答をしてしまう。
「まあ、人並み以上には個性に詳しいつもりなのさ。むしろ、僕らはこれからのことをお二人にも謝らなければならないのです。」
「これから……?」
「彼女の治癒の個性が知られれば、多くの人に狙われることでしょう。娘さんだけでなく、お二人も。最悪、人質として
これは今回の長話の中で特に力をいれこんこんとさやかに聞かせた話だった。彼女の真剣さが足りていない態度から、本人自身が相応に強いので油断してしまうのでは、と彼らは危惧している。毒、不意打ちといった手段で狙われることも十分想定しなければならないのだが、それを彼女に伝えたところ「えっ!?そ、そんなことされるんですか!?」という反応が返ってきたのだ。
「ああ……その話ですか。でも、ヒーローの方に守ってもらえると聞きましたが?」
「もちろんその通りです。しかし、犯罪に巻き込まれる可能性が上がることは否めません。
「そ、そんな!仕方のないことですから!もう十分いろいろしていただいてます!」
世界的な偉人である根津に頭を下げられ、二人は慌てて止めた。
ヒーローは基本高給。一部例外は居るが、少なくとも今回つけられるヒーローは十分有能な部類であり、相応の人件費というものが掛かる。さらには、登下校中のさやかだけでなく、美樹一家の家にも護衛のヒーローがつけられることになっていた。ひと月に掛かる費用は、両親の月の稼ぎの何倍かと二人は一瞬考え、恐ろしくなってやめた。
わざわざ専任のヒーローがつけられることには、両親が知らない事情も実はある。個性を奪う個性を持つAFOという最悪の
「ご理解、感謝します。」
「いえいえ……本当にうちの娘にここまでしていただけるなんてありがたい限りです……」
しかしそう言う二人の声は疲れていた。二人は特別なことは無い、今までヒーローなど見上げる存在でしかなかった夫婦であり、今後そのような状況になることを不安に感じるのは止められない。
次に口を開いたのはリカバリーガールだった。
「……一応、治癒系個性持ちの先達としての話なんですけれど。」
「は、はい。なんでしょう?リカバリーガールさん。」
「娘さんのこと、よく見ておいてあげてください。治癒系個性持ちの人間には、私は今までの人生で10人くらい出会ってきましたけれど、誰もが平均から逸脱した性格をしていました。それも悪い方向に、です」
「な、なぜですか!?」
「厳重に管理されている治癒系個性持ちにわざわざ接触してくる人々というのは、それだけ切羽詰まっているということ。精神に余裕のない人が多いのです。患者も、その家族や友人も。そんな彼らを治せれば良いのですけれど、治せないことだって当然あります。そうなった場合の失望の感情というのは、予想以上に辛いものです。場合によってはその治癒しようとした人を逆恨みするケースさえあります。「高い金を支払って頼み込んだのに、なぜ治せないんだ!」と。特に彼女の場合、今まで治せなかった負傷を治せる見込みがある訳ですから、そういう余裕のない人間が多く押しかけることでしょう。」
「そんな……うちの娘に……」
「ハッキリ言いますけれど、見たところあの娘さんの精神は常人のものです。そんな沢山の人間の感情を受け入れられるとは到底思えない。だから、お二人の力が大事なのです。」
精神が常人のもの、という言葉は人間の形容として良い意味で使われることが少ないが、この場では非常に重要な要素だった。両親ですら考えたくないと感じる、さやかに降りかかるかもしれない悪い現実を直視するために。
「……わかり、ました…………できることはやります……」
「まあ、幸い彼女は社交的で友人が多いタイプだから、彼女たちも支えになってくれるかもしれません。」
相澤は、多少の安心材料をと、そうフォローした。
実際さやかの両親は昔から人付き合いの良さはさやかの長所だと感じており、むかしからさやかの友達だった鹿目まどかの家族とは今後もいい関係で居たいと強く思った。
「ちなみになんだけれど、彼女と鹿目まどかさんは昔からの友達なのですか?」
「え、ええ。小学校からの付き合いです。」
「先ほどの述べた通り似た個性を持っていますが、何か心当たりは?」
「いえ、本当に何も。」
「ふーむ……」
根津は思考の海に沈んでいた。腕組みをし、上を見る。
(何かあるのは確実だね。……なんだけれど、具体的に何なのかが想像がつかない。AFOは、おそらく関わっていない。あのような強力な個性ならば、与える理由が無い。そもそも自分の怪我を治して表舞台に出て来るだろうと考えるのが妥当、か。となると個性を与える『何か』がいる、もしくは『何事か』があった……だ。あのような強力で特徴的な個性が自然発生したとは考えにくい。しかも発現した者同士が昔ながらの友人だった。必ず何かがある。……しかし、一体何の目的で?あのような個性を与える、または作り出すことになんのメリットがある?……ダメだ、まだまだ情報が足りない……地道な調査がまだまだ必要だね。)
そこまで考え、根津はふうと息をつく。彼の個性で常人以上のものとなっている頭脳をもってしても答えが出ないのならば、おそらく大抵の人間にも分からない問題なのだ。
「……まあ、考えるべきこと、分からないことは多いね。ちなみに他に思い当たることは……、例えば彼女が過去に様子がおかしくなったことはありますか?」
「さあ……もともと感情の浮き沈みが激しい子でしたから……」
両親は顎に手を当てて考えるが、ピンと来るものは無かった。
ただ、心の中にしこりになっていた件を口にする。
「そういえば、中学2年の事だったかしら……」
「どうしました?」
「物凄く落ち込んでいた時があったんですよ。本当に身投げするんじゃないかって感じてしまったくらいです。聞いても答えてくれないし、友達の家に遊びに行くとか言って夜遅くまで帰ってこないことがあったんです。それにすごくイライラしていて、「どうせ私の事なんてわかんないでしょ!」的なことをよく言っていました。本当にどうすればわからなくてひたすら心配だったんです。でも、数週間すると勝手に立ち直ってましたね。ただ帰りが遅くなるのはしばらく続いたんですけれど……。」
「ふむ……なるほどね。」
中学2年は思春期真っ盛り。親に言えない悩みを抱えることはまったくおかしくない。
手がかりの可能性の一つ、と根津は心のメモに記した。
「ところで、彼女のことはご存じですか?」
次に質問を投げたのはイレイザーヘッド。スマホから見せたのは、赤い髪が特徴的な少女の写真だった。
佐倉杏子だ。鹿目まどか達と何らかの繋がりがあるようで、それ以来身辺周りの調査は行ったが、「個性は似ていて、こっそりあっていてもおかしくない」以上のことは何も判明していない。信用を失うことを恐れ、彼女たちへの踏み込んだ聞き込みも出来ていないでいた。
「えっと、誰でしょう?」
「あ、ほら!一年くらい前に話題になっていた、
「あー……そんなニュースもあったかしら?彼女がどうかしましたか?」
「端的に言えば、この少女とさやかさんは面識がある可能性があります。」
「えっ!?うちの子が!?」
「実は……」
鹿目まどかにこの写真を見せたときの反応の事を、イレイザーは簡潔に説明した。
「……というわけです。彼女はもう……すみません、守秘義務があるために詳しくは申し上げられないのですが、捕まって今はとある施設に入れられています。」
「危険な
両親は、娘に信用されていないと感じ気を落とす。
「個性がこの件と関係あるかは分かりません。ただ俺が言いたいのは、見たところお二人は娘さんから悪く思われてはいないように見えることです。どうか自信を持って、さやかさんを支えてあげて欲しいのです。」
「……一般人の私たちに出来ることがあるでしょうか?」
「ヒーローでないからこそ、親であるからこそ出来ることもあると俺は思います。すくなくとも、お二人は俺たちより心の距離が近い。俺達とお二人が協力すれば、さやかさんを守る大きな力になる。どうか、今後ともよろしくお願いします。」
イレイザーは、これをお世辞ではなくかなり本心から言っていた。
いくらか彼女たちと接する時間はあった。彼女たちからイレイザーの、ヒーロー達への態度は、一見すると他の生徒と何ら変わりないように見える。
しかし、イレイザーとしては少し壁のようなものを感じていた。すこし傲慢な言い方をすれば、ヒーローという存在に対する尊敬が無い。鹿目まどかからは比較的それが感じられたが、彼女は元が卑屈なタイプで、その態度はヒーローにのみ向けられるものではない。暁美ほむらに関しては、そもそも対人関係の構築が苦手らしく、誰に対してもそっけなさがある。さらに刺々しくなることもあるらしく、同級生といさかいを起こしたこともあったらしい。いわんや、ヒーローや教員に対して親しくするはずがない。
そして美樹さやかだが、どうも他の生徒と比べヒーローに関心が無いように感じられた。3人の中では社交的な部類の彼女だが、他の社交的な雄英生徒と比べると、ヒーロー教員に対して会話をする率が非常に低い。特にこの雄英では顕著な話ではあるが、ヒーローがいたら積極的に話しかけるのがこの年頃の少年少女。しかし彼女はそうではなく、廊下などでプロヒーローとすれ違っても会釈がせいぜいらしい。オールマイト相手でさえもそうだったという目撃談がある。
理由は不明だが、自分たちは距離を置かれている。だからこそ、距離の近い二人にしかできないこともあると、部屋にいるヒーローが揃って頭を下げる。プロヒーローという、自分たちよりも社会的地位が高い人々から本気でさやかの力になりたいと思われていることが感じ取れ、両親はその誠意を受け止めきれずただひたすら謙遜するばかりだった。
◇
「あなたが美樹さやかさんね。私の個性は『感情探知』。強い感情を持つ人間を探知することができるの。まあ、その感情を検知するかを決めないと出来ないとか色々制約はあるけれどね。元々は別の地域でヒーロー活動をしていたのだけれど、あなたの身の安全を守る為にこの周辺のヒーローと交代になったの。」
「は、はぁ……」
全く知らないプロヒーローの人が自己紹介をしてきた。長い時間魔法少女の力がバレた件で教室で話し合っていたさやか。私とマミさんとまどかと合流して、さあ疲れたからもう帰ろうとなっていた矢先に遭遇した。おかげで、さやかの返事は物凄くやる気が無い。
「流石にさやかさんとずっと一緒にいるってわけじゃないけれど、この周辺から出るときは私か学校に必ず連絡を入れて欲しいの。手間をかけさせて本当に申し訳ないわ。」
「あー……はい、正直嫌だけどもう仕方ないと思ってます……」
正直私達もなんだか嫌だ。私たちがお喋りしているところへしゃしゃり出てきたみたいな感じで。まあ一応、なるべく邪魔にならないように配慮してくれるみたいだけれど……
「……ごめんなさい、疲れているわよね。今日だけは一緒に帰ってもいいかしら?」
「わかりましたぁ……」
「さやかさん以外の3人も、お願いしていいかしら?」
「まあ今日だけなら……でも、ずっと監視っていうのは正直ちょっと困ります……」
「ごめんなさい。これはヒーロー公安委員会からの指示で、とにかく彼女の身の安全には気を付けろということになっているの。プライベートを侵害してるみたいで本当に申しわけないのだけれど、なるべく配慮するわ。」
……まあ、理屈上では仕方ないと思う。特にAFOなんて厄介な存在もいるし。
「うーん……そんな偉い所からとなると、仕方がないかしら……」
マミさんは、渋々この状況を許容した。まどかも嬉しくはなさそうだが、仕方がないといった風だ。
そんなこんなで、この初対面のヒーローの人と一緒に帰ることになったのだが。
◇
「あ、あの~?」
「なんですか?」
「あ、あなた達、いつもそんな感じ……なんですか?」
ついてきたヒーローの人は、妙な敬語を使いだした。
「いつも……?」
「だって、年頃の女子同士が集まっているのに、すごく会話が少なくて……」
「あー……」
「気に障るなら、私のことはあんまり気にしないでいいのよ?空気だと思ってくれていいから、もうすこしこう……ね?」
「あはは、別にそちらが悪いわけじゃないですから……」
ヒーローの人は物凄く気まずそうにしていた。
確かに今日の下校中、私たちは殆ど口を開かなかった。傍から見れば不気味だろう。だけど、会話していないわけじゃない。
(ど、どうしよう?テレパスの会話に夢中になりすぎちゃったよ!)
(そうね……話すことが多くて注意が散漫になっていたわね。)
魔法少女の事をずっと話していたのだ。当然聞かれたらマズいので、その手の話はテレパスでいつもしているのだけど、今回はやりすぎてしまったみたい。
(なにか表に出しても問題ない話、ないかな?ほむらちゃん。)
(え、そこ私に聞くの?)
私、そんなにお話しするの上手くないのに……
(あ、そうね!今日はA組の人とどんなことをしたのか聞かせて欲しいわ!)
(あー……)
A組の人たちは、下校途中などで私を見かけるといつも絡んでくるようになった。
やれ今日は楽しいことがあったかだの、今日はまどか達と何を話しただの、今日はご飯を一緒に食べようだの……とにもかくにも、隙を見つけては話しかけてくる。
正直距離感が近すぎて戸惑う。けれど、不快でもない。なぜだろう……自分でもよく分からない。これがコミュ力というものなのだろうか。
「今日は……ここに来る途中で葉隠さんに会ったわ。」
「ああ、あの透明の子よね。何を話したの?」
「『ねえねえ!ほむほむの個性は「所持物移動」だったよね!だったら、細い穴の中に手を突っ込んでおいて、逆の手で大きなものを持っておけばどうなるのかな?もしかして、物が重なるところは消失したりして!?意外と考えどころのある個性だよね!』って。」
「あ、ああー……そういう考え方もあるのか……」
「なるほど……それで、ほむほむはどう答えたの?」
「そもそもじ……いや、ええと、『大きい物は無理。手のひらサイズのものだけ』ってごm……とりあえず私の予想を言っておいたわ。」
「えー何そのつまんない回答!?もっと面白いこと言ってあげなって!」
「面白いことって……」
「うーん……『ほむほむパワーが足りなくて大きい物は無理なのよ』とか?」
だからほむほむってなんなのよ……最近、私の周りがその呼び方をナチュラルに使ってくる。嫌とまでは言わないけれど、なんというか、すごく、むずがゆい。
「なによそれ……」
「まあまあ美樹さん。ほむほむさんにはまだレベルが高いわよ。」
「マミさんまでその呼び方……」
「いいじゃない?可愛らしいと思うわ。」
そんな雑談をしつつヒーローの人をチラリとみると、少しホッとしたように私たちの会話を見ていた。
……それより、魔法少女の話をしたいのだけれど。どう考えても雑談より重要事項だと思う。
(で、さっきの話の続きだけれど。)
(えー、この流れでテレパスに戻るの?)
(仕方ないじゃない、重要なことよ。)
(むー……そうだけどさあ……)
(美樹さやか。ひとまずしばらくは個性の検査が続きそうだけれど、それが終わったらどうするつもり?本当に人を治してお金を稼ぐつもりなの?)
(ま、まあ?一応?ほら、前にまどかが個性検査を受けたときも大丈夫だったし、多分平気でしょ!)
さやかは心配をかけまいと笑いかけて来るけど、私には詐欺に遭って浮かれている人にどうしても見えてしまう。
(さやかちゃん……そっちも心配だけど、さやかちゃんがこれからどうなるのか私心配だよ。)
(そうよ……あなたのことが知られたら、それはもう多くの怪我人があなたの元へ押し寄せるんじゃないの?)
(だいじょーぶですよマミさん!向こうは「嫌なら断れ」って念を押してましたし!ソウルジェムが濁らない程度に頑張るだけにしますから!それであんまり治せなかったとしても、プラスがゼロになるだけですって!)
(そう上手くいくものかしら……私にもどうなるか分からないけれど、世の中そんなに甘くはないと思うのよ……)
マミさんは調子に乗っているさやかを見て心配する。キュゥべえじゃなくても悪徳詐欺師に騙されそうな感じだ。
嫌になったら断ればいいとさやかは言っているけれど、そう単純な話なのだろうか、これは。
(もー、みんな心配しすぎだって。本当にお金稼げたら、ほむらにも分けてあげるからさ。)
(え、ええ?)
(もうすっかり長い付き合いの友達だし、さ!)
満面の笑みでさやかはそう言った。
……正直、さやかとは険悪な仲の時間の方が多かった。今はもうそんなことは無いけれど、やっぱり彼女に対しては微妙に敵対的なイメージが付きまとってしまう。
でも、さやかはそれ以上の親近感を私に与えてくる。さやかの笑みを見ていると、なんだかんだ「まあいいか」と流してしまうし、彼女の直情的な発言につい心を動かされてしまうこともある。決まってそういう時は悔しくなるけれど。
(…………そう、友達、ねえ。)
(ほら、ほむらにはなんだかんだめちゃめちゃお世話になってるし?特に時間停止とか、時間停止とか、あと時間停止とか。たまには恩返ししないと罰が当たるって!)
(私じゃなくて、私の時間停止目当てじゃない、それ。)
(まあまあ硬いこと言うなってほむら!初めにお金が入ったら、ほむらの移動経費関係とか払ってあげるよ。あれ、なんだかんだバカにならない出費だったんでしょ?)
(まあ……それは嬉しいけれど……)
時々飛行機とか新幹線を使ったから、確かに懐にはダメージがある。いざとなったらお金なんて盗めば良いのかもしれないけれど、やっぱりそういうのはなるべくしたくはない。この社会、何がキッカケでバレるか分からない……というのもあるけれど、でもやっぱり気は咎める。
というか、これからまたどこかから盗む予定があるのだから、せめて悪い人たちから盗むくらいのことは腹をくくらないと。
(……あんまり気にしないでいいわ。これからはもうその出費も無くなるのだし。)
(へ?なんで?)
(ほむらちゃん。さやかちゃんずっと病院にいたから……)
さやかが怪訝な顔をしたが、まどかの一言で理由を悟った。
……ああ、そう言えばAFO探しに大きな進展があったことを言っていなかった。さやかが人前で魔法少女になった呆れとか、色々あって。
(ごめんなさい、言っていなかったわね。実は……)
◇
時を戻して、保須市にてまどか達と別れた後。
私はずっと死柄木と黒霧を監視していた。
死柄木達は、双眼鏡を持ってずっと脳無を観察していた。体質なのか、ずっと首を手で搔きながら、時々苛立たしそうに舌打ちしたりしていた。
……近くで見てみると、死柄木という男はマネキンの手を体中に貼り付けているのが最初に目についた。服装はパジャマみたいな恰好で、赤いスニーカーを履いている。自分たちは何もせず、脳無が暴れる様をただ観察しているだけだった。
彼らは何をしたいのだろうという疑問を頭の隅に追いやって、どうやってワープゲートの中に入るのが安全か、どうすれば確実に情報を手に入れられるか、元々よくもない頭を使って必死に考えた。
個性なんて何が起るか分からない代物だ。想定外の事態なんていくらでも起き得る。安全を取るとは言ったけれど、本当に安全を取るなら最初からワープゲートに突っ込むなんてしなければいい。今思い返せばそう思う。
私のような一人の人間が思いつく策なんてタカが知れているのだろうけれど、それでもここはリスクをとって実行するしかない。千載一遇のチャンスなんだから。
「おいおいおいおい……ふざけんじゃないよ!なに殺されてるあの脳無、なんであのガキがいる!?言いたいことが追いつかないぜ、めちゃくちゃだ!なんで、思い通りにならない!?」
ガリガリと首から血が出そうなレベルで掻きむしる死柄木。その体から発せられる悪意、不快感。しかも言っていることがかなり子供のワガママめいている。本当にコイツは一体何なのだろう。
……まあ、ともかく。聞いていた限り脳無を解き放ったのは彼らで間違いないらしく、そして今の状況は不本意らしい。
あるとき、おそらく個性で持っていた双眼鏡を『崩壊』させ、呟く。
「……帰ろう。」
……来た。勝負どころだ。
黒い霧が広がっていく。おそらくそれがワープゲートとなるのだろう。
そこで私は時間を止める。必死に考えた作戦のようなもの。正直自信はない。というか、今まで私が立てた作戦という物が、功を奏した気がしない。ワルプルギスと戦うループの中、私はまどかを魔法少女にしないために、ワルプルギスの夜を倒すために様々な作戦を試した。でも結局いつもどこかが破綻して、時を巻き戻し、その挙句にこの世界に続いている。まどかを魔法少女にしてしまったという、約束を守れなかったという事実に無理矢理蓋をして、のうのうと生きているのが今の私。今のまどかは許してくれているけれど、あの時のまどかのことは結局おざなりにしてしまっている。
こんな状態で、私が何かを成し遂げた人間だなんて、とても言えない。
それでも、今はそんな泣き言をいう場面じゃない。
まずやることその1。ワープゲートの性質を調べる。
見た限り、あれは黒霧の体の一部のように見える。そんなところに単身突っ込むのは、やっぱり不安が残る。
一番困るのは触覚がある場合だ。私が時間停止中に通り抜けられたことを「感じた」場合、警戒されてゲート先の拠点を移されてしまうかもしれない。
今回の私の目的は、敵の拠点の場所を知ること。今の私は、そもそも戦うための準備をほとんどしていない。こうなるって事前にわかっていたなら、武器や爆弾を大量に用意しただろう。だけれど都合よくそんな準備はしていない。
そもそも、今日中に敵の拠点を叩く必要はない。場所さえ知れれば、後日ゆっくりと準備してから乗り込めばいい。向こうは脳無なんて生体兵器を作っているのだから、そう簡単に動かせるような設備ではないはず。
だけれど、ゲートの向こう側へ行くという行為はどうやったって避けられない。それだけは何とかして実行しないといけない。スマホのGPS機能でも使えばと最初は思ったが、結局のところスマホをゲートの向こう側に投げ入れないといけないし、そしてそれを取り戻さないといけない。
だからまず触覚があるかを検証する。私が取り出したのは、自動販売機で買ってきた水入りペットボトル、そして拾ってきたバケツ。バケツに水を入れ、それをワープゲートに撒いた。当然と言うべきか、ゲートの後ろ側に水は届かず、向こう側の地面が濡れただろう。
そして彼らから離れ、時間を動かす。黒霧が反応しないことが最善だけれど……残念ながら時を動かした瞬間、ピクリと黒霧は動き、そしてまたピクリと止まった。
「……?」
「おい、どうした黒霧。」
「いえ、今何かがゲートを……」
そう言ってゲートの向こう側に首を突っ込んで何かを確認する黒霧。
残念ながら、触覚があることは確定だった。
まあこの程度は想定内だ。この場合どうするかの続きも考えてある。
やることその2。黒霧の感覚を一時的に麻痺させる。
やり方はいろいろあるのだと思う。けれど、私は魔法少女。せっかくだから魔力を使って解決しよう。
再び時を止めて、私は黒霧に近付く。
そして、手に思いっきり魔力を込めて。
「……あなた達のせいでこっちは連日大忙しよ!」
頭のあたりを殴りつけた。全身靄だけど、体に近い部分は普通に実体があった。黒霧は少しガクンとスライドしてすぐに再び静止する。
そして私は反対側に回り込んで。
「何が『思い通りにならない』よ!せめて脳無にでも裏切られてから言って欲しいわ!」
黒霧を再び殴りつける。ついでに鬱憤も溜まっていたので死柄木も一発殴った。
……まあ、その、個人的な鬱憤晴らしはともかく。彼らが死ぬほど殴ったわけではない。ただ、とにかく痛みや衝撃が来るようにした。私もそれなりに魔法少女歴は長いので、魔力のテクニカルな扱いもちょっとはできる。出来るだけ神経に作用するように魔力を使ったのだ。
そしてまた彼らから離れ、時を動かす。ただし、すぐにまた止められるように。
「!グブフ」
黒霧の潰れたカエルのような声が半分くらい聞こえてきたところで、また時が止まった。
とても痛がっているであろう今の黒霧なら、靄に突っ込まれても何も感じないだろう。
私は意を決して、黒い霧の中に突っ込んだ。目に靄が入り込むのが怖かったので、目はつむったまま。
粘度の高い空気を通ったような感覚の後、恐る恐る目を開く。広がる異なる風景。明らかに屋内で、どこかのバーのような光景があった。
大急ぎで周囲を見渡し身の安全を確認するが、特に罠らしいものは見当たらなかった。足元には先ほど私が投げ入れた水が撒かれている。
やった、成功だ!
ついに見つけた奴らの本拠地。あとは場所を調べて、後日関係者を全員爆殺なりすればいい。久しぶりに現代兵器を使う時が来るだろう。
私は意気揚々とこのバーを調べ始める。
……
………
10分ほど調べていたが、特におかしなものは見当たらない。本当にただのバー。ドアには鍵が掛かっておらず、普通に外に出れた。電柱にあった標識によると、ここは神野という場所らしい。
何かがおかしい。すんなり事が運びすぎじゃないだろうか?
なんでこんなシンプルな場所に通じたんだ。先入観かも知れないけれど、例えば武器や違法薬物が置いてある、もっと物々しい雰囲気の場所に来ると思っていた。
何か、何か見落としていないか?強い不安に苛まれた私は、必死に考え始める。
「……!脳無がこんなところから来るわけない!」
そして、問題点にすぐに気が付いた。
脳無。あれは明らかに人間ではない何かで、普通の人間の暮らしはしていないだろう。体格も(無個性の)人間より一回り大きい。
そんな彼らが、わざわざここから来た?こんなバーから?
調べて見た限り、周囲に強い悪意などは感じられず、そして他の脳無も見当たらないし、増してやそんな生体兵器を生み出すような場所には見えない。
つまり、脳無は別の所から来たのだ。
「……ど、どうしよう!これじゃ意味が無いわ!」
こんなところを特定できても殆ど意味がない。狙うはAFOを一撃必殺で仕留めること。そのために、敵の本拠地を知るのが私の最終目標なのだ。それができなくても、せめてあの脳無がどこから来たのかは知りたい。脳無の生まれる場所を叩ければ、敵の戦力を大きく削ることにつながるからだ。
「なんとかして、黒霧に脳無がいる場所へのゲートを開かせないと……!」
私は再びゲートをくぐって、黒霧と死柄木がいる屋外へ戻る。時間停止はあと15分程度しかできない。ゲートをくぐった後のことを考えると、あと5分くらいか。その間にその場所へゲートを開かせる案をひねり出さなければいけない。
どくどくとうるさい心拍を無視して、当てもなく必死に周囲を見渡す。何か使えるものは無いのか?黒霧に脳無の生産工場へのゲートを開かせる何かが。
「……ど、どうすればいいのよ……。黒霧に話術で交渉?できないわよそんなの……マミさん、さやか、まどか、杏子……だ、ダメ、今は私一人で何とかしないと……」
心臓がひたすらに嫌な鼓動を重ねる。私は座り込んで胸に手を強く押し付けるけれど、そんな行為で何かが変わる訳がない。ここ最近は何かするときにいつも4人の誰かに相談していたけれど、今やそれができないのがとても心細く感じてしまう。ループ中だとこんなの日常茶飯事だったはずなのに……。
そんな風に何もできないまま、止まった時間の時間が進んでいってしまう。私はただひたすら焦るしかなかった。脳がフル回転しているために熱を生み出すが、しかし全てが空回りの感覚だった。
だけど、ある時ふと思いついた。
……そうだ、脳無の現在の状況を特定しよう。元気に暴れているのが最低三体いたはずだ。生きている奴を見つければ、それを連れ戻すためにゲートを開くかもしれない。
念のために使っておいた発信器の代わりになる魔法が役に立つ。あの魔法、どうやってもGPSみたいに使えないだろうからもう没になるかと思っていたけれど、思わぬ活躍どころになった。
確認すると、ゲートから戻って4分くらい経過した。次の1分で脳無の状況を確認しよう。
まず一体目。……割とすぐに見つかった。頭の部分が黒こげになっている。生死は分からないけれど、客観的には死んでいるように見える。
流石に奴らに死体を回収するモチベーションは無いと思う。USJの時の脳無は回収されていないけれど……聞いた限りの話だと、ヒーロー達から逃げるのでいっぱいいっぱいだったようだから、余裕があれば回収してたんじゃないかと思う。……あくまで推測だけど。
ともあれ、コイツはアテにならなそう。次。
二体目。こっちも頭にナイフをつき刺されていたので多分死んでいる。
……のだけれど、私はここで無駄に一分ほどロスしてしまった。
「な、何やってるのさやか……!?」
なんと、さやかが魔法少女の姿で人前に姿を晒していた。隣には緑谷君達もいて、さらにあのステインまでいる。飯田君も居て血まみれなところを見るに、ステインが関わる戦闘があったのだろう。
「あとで問い詰めさせてもらうわよ?美樹さやか……」
どうして今ここでそんな事態になるのか、魔法少女の姿を晒すリスクを承知しているのかとグチグチ言いたくなってしまったが、努めて無視する。一発ビンタしたくなったのを何とか堪えた。
思わぬ時間ロスと精神負荷を負ったが、ともかく3体目の場所に来た。最低でも生きてて欲しいと願いながら。
そして辿り着くと、少しだけ気持ちが軽くなる。
「……よかった、生きているわ。」
三体目はウォッシュさんが対処していた。個性の泡で行動を封じているらしい。……なんで泡で行動を封じれるのかはよく分からないけれど、周囲に破壊痕が増えていないあたりからそう推測できる。
流石はトップヒーローといったところなのだろうか。私は彼に少しだけ感謝した。唯一の生きている脳無。コイツに賭けよう。
◇
その後必死に頭を働かせながら、死柄木と黒霧のいる場所へ戻る。
これからやることは一分くらいで考えた作戦。上手くいくかなんてわからないけれど、失敗してもマイナスじゃないはず。あのループの中でワルプルギスの夜と戦うことに比べたら、全然難しくないと自分に言い聞かせる。
私は魔力を喉に馴染ませながら、意を決して時を動かした。
「ァア!?」
「って……ッチ、どこにヒーローがいやがる!?」
派手によろける黒霧、少しだけたじろぐ死柄木。死柄木はあの細い体なのでもっと痛がるかと思っていたけれど、実は鍛えているのか思っていたよりもよろめかなかった。
……とりあえず、私がゲートを通ったことを感づかれてはいない。私の体感時間だと結構前の事だったので、確認を忘れそうになった。
さて、ありがたいことに彼はヒーローの攻撃だと思ってくれたようだ。
そのことを存分に利用させてもらおう。物陰に隠れ、慣れない大声を出す。
「逃がさないぞ、そこの
ただし、魔力を通してだ。声から私という個人を特定されるのが怖かったから。お陰でちょっと魔女っぽい不気味な声になってしまった。
しかしそれは彼らの気を引き、周囲を警戒させる。ゲートをくぐらせることを引き留められた。
「今の声……一体!?」
「んなこたどうだっていい、個性かなんかだろ。……黒霧、今のヒーロー探すぞ。やられたらやり返さなきゃなあ。」
ゲートから離れようと歩き出す死柄木。だけど、それを黒霧が止めた。
「いけません死柄木。今は撤退を。敵がどんな手段を用いて攻撃してきたか分かりません。」
「ア゛ァ゛……」
死柄木はご立腹だが、妥当な判断だろう。今の彼らに、ヒーローを迎え撃つ必要性は全くない。
だけれど、こう言われたらどうだろう?
少しだけ魔力で声色を変化させ、場所も移動し、新たに叫ぶ。魔力で無理矢理声を低くして、男っぽく喋ってみた。
「すごい、ウォッシュが不気味な
本当に
これを聞いた黒霧の様子は。
「……いけませんね、それは。生きている脳無は返してもらいましょう。」
嬉しいことに焦りを見せ、足を止めた。そして、私の目論見通りワープゲートが開かれる。
「オイ黒霧。何してるんだ?」
「脳無を返してもらうんですよ。万が一個性で記憶でも抜かれたら情報漏洩ですからね。」
「ハァ……好きにし」
ままならないこともあれば上手くいってくれることもあるんだなと思いながら、私は再び時を止める。ついでに黒霧をもう一回殴っておいた。そして時を動かしてまた止める。……なんとなく自分のやっていることがサイコパスのようだと思うが、ともかく安全にゲートを通るためには必要なこと。どうせ
ともかく、私に残された停止時間は5分を超える程度。その間に、あのゲートの向こうでやるべきことを終わらせないといけない。
魔力を使ってそのゲートのある場所まで一気にジャンプ。脳無とウォッシュさんを横目に、どうか違うところに繋がっていますようにと祈りつつ私は黒い霧をくぐった。
そして、そこは。
「こ、これ、脳無の生産拠点じゃない……!」
まさしく、大当たり。
無数に並ぶカプセル。そのうちのいくつかには、脳無が標本のように浮いている。薄暗い空間の中で妖しく発光している様は、まさしく悪の拠点という風で、尋常ならざる場所ではないことが感じられた。
ついに、見つけた!敵の本拠地、そうでなくても重要な場所であることは間違いない。AFOがいるかは分からないけれど、ここまで大規模な場所なら奴への手がかりも何かあるだろう。さらにこれらを全部破壊できれば今後が相当楽になる。
時間停止中とはいえ、敵の本拠地なのでなるべく周囲を警戒しつつも、時間制限があることから大雑把な探索をする。見たところ窓が無いので、ここは地下。そして広い。秘密の地下室というレベルではなく、もはや軍事施設と思えるレベルだった。そのなかに、数えきれない程のカプセル。それらを稼働させるためにチューブやコード類が大量に足元に敷かれていて、その先には得体の知れない機械が積まれている。
探したところ人は……一人いる。白衣を着た禿げの老人が大量に設置されたディスプレイに向き合ってなにか作業している。それらにはなんだかよく分からないグラフや、先ほどのバーの映像が流れていた。やはり、先ほどのバーは末端のアジトだったようだ。
もっと探せば色々と見つかるかもしれない……いや、確認したら、止められる時間が2分を切っている。探索は後でいい。とにかく場所の確認だ。
スマホのGPSでも使えば場所が分かる……
「……いや、リスクが大きいわね……どうしましょう……」
こんな得体の知れない施設内で時間を動かしたら、何が起るか分かったものではない。センサーに類するものなどが十分あり得る。それにここはおそらく地下空間。GPSが届く可能性は低いし、そうでなくても位置特定に時間が掛かってしまうかもしれない。そんな長い時間時を動かすなどできない。おそらくゲートは閉じてしまうだろう。
「……ど、どうしよう、あと90秒……!」
私は大急ぎで何かないかあたりを見渡す。外に繋がる扉などがあるかもしれないが、パッとは見つからないうえに、あったとしても鍵がかかっているかもしれない。
何とかしてここの位置を特定して、あのワープゲートから出る。それが最善。
でも、どうしたら……
「あ、あなた何か持っていないの?」
私が飛びついたのは、座っている老人。隣に口が開きっぱなしのバッグがあって、中に書類らしきものが見えた。もしかしたら良い情報があるのではあるのではと、適当にがさっと書類を半分ほど引っこ抜き、中身を読んでみる。
だがそこには、余りにも見慣れたいとおしい顔と共に、不愉快な記述が重ねられていた。
鹿目まどか 個性分析レポート
・本名: 鹿目まどか 20XX年10月3日生まれ 家庭環境に特筆すべき点は無し。
・雄英体育祭にて特異な個性を突然発現させる。調査の価値あり。あの方からも注視しろとの命令。
・個性届は「ピンクマテリアル」だったが、現在「魔法少女」に改名することを検討中という情報あり。
・発現した個性は様々な機能を有する。例として身体強化、エネルギー的性質の矢を生成。その際弓も虚空から作り出す(特殊な組成情報なし)。耐久能力の向上。衣服の改変(生成か改変かは不明、また元着ていた衣服がどこへ向かったかも不明。追記: GPSでもつけて変身させてみるか?)
・本人はあの場で同級生の「洗脳」個性により突然真の個性が発現したと主張。ただし真偽不明。(あの方曰く、突然力を与えられにしてはスムーズに動きすぎとの言葉を頂いた)
・鹿目まどかの家族には目立った特異性なし。ただし佐倉杏子との類似性もあり、本当に突然変異を起源とするかは疑問が残る。(しかし仮に共通するものがあるとすると、一体原因は何か?)
・脳無にこの個性を与える計画をあの方と話したが、結論としては保留。何らかのデメリットがあると疑うべきとのお言葉。脳無の素体にする案は本人の個性無しでの耐久性を鑑みて見送るべきか?
……
「コイツまどかのことを調べてる……!」
出てきたのは、まどかの顔写真と共にデータらしきものが記載された書類。見たところ、前にまどかが病院で検査を受けたときのデータを拝借したらしい。
嫌な汗が出てしまう。生体兵器を作れる危険な連中が、まどかの事を狙っているなんて。
「やっぱりこいつここで殺さないと……!?」
もう40秒しかない。リスクを承知で殺そうと考えた。
意を決して、盾の中に隠している刃物を取り出そうとした矢先。白衣の胸ポケットが膨らんでいるのをみえた。他の物の位置が変わらないように慎重に取り出してみる。
名札らしいものだった。そして、名札というからには名前が載っている。
蛇腔総合病院理事長
殻木球大
あと30秒。それを見て、私は賭けに出た。
私はスマホでその名札を撮影。そしてそれを老人の体に感触が残らないように戻し、書類も戻す。コイツはディスプレイに夢中だから、少なくとも書類の位置が変わったことには簡単には気付かないだろう。ここまで15秒。
そして残りの魔力を全て使い切る勢いでワープゲートまで戻る。一応全速力で突っ切るのは怖いので寸前で減速。そしてゲートを通り黒霧が居る屋外へ戻ってきた。ここまで計22秒。
最後に物陰に身を隠し、時を動かす。残り時間は3秒くらいだった。
気付かれていませんようにと祈りつつ様子を窺うと……
「グフッ!」
「ッち!またヒーローかよ!見えねえところから攻撃しやがって!!!」
「ええ、早く戻りますよ!」
その悪態に安堵する。ゲートをくぐったことは悟られていない。
そして、脳無は回収され、二人は黒い霧の中に姿を消した。その途端、どっと疲れが押し寄せた。
ボーっとする意識の中、スマホで「殻木球大」で検索をかけてみる。
約15,200件の検索結果
1. 蛇腔総合病院理事長 殻木球大からのご挨拶……
2. 殻木球大さん、新たに孤児院への寄付計画を発表。これで24件目か
3. 「個性とは能力ではなく、一人の人間を構成する『自己』の一部なのです。」 殻木球大さんが語る個性教育のあるべき姿―――
……
普通ならば裏で脳無の製造に関わっている人間が表ではこんな慈善事業に関わっている事を知って憤慨するところだが、私はむしろガッツポーズをしてしまった。
今回の行動は、大成功。今までの人生の中でも一番うまくいった挑戦だった。
殻木球大がAFOと密接に関わっているのは確実。つまり今後は、コイツを追跡していけば、AFOに辿り着く可能性は大いにあると言える。
あの空間が蛇腔総合病院の中なのかは分からないが、殻木球大をつけていればいつかまたあの空間に行くことだろう。
(これは後で苦労なく判明する事だけれど、蛇腔総合病院に行ってみて地下を探ってみたらあの場所を見つけた。殻木球大を追跡する手間はかからなかった。)
今日はまどかが危険に晒されたりさやかが魔法少女の姿を晒していたりして厄日だと思っていたけれど、これで帳消し。大きな変化の日だった。
これから武器や爆弾の調達で忙しくなるだろう。でも、これほど希望のある準備はしたことが無い。まどかに目を付けていたことが発覚したから時間勝負ではあるけれど、それでもかなり有利になったと言える。
しばらく時間停止出来ないことをうっかり忘れないようにしつつ、私は帰路についた。
……脳みそをフル稼働させたことによる疲労感が今になって私を襲ってきた。マミさんの家に上がって、久しぶりにケーキでも作ろうか。
・さやかの親
個性とか人柄は適当に決めている。
・潜入成功
もしかしたら個性のことを突き詰めて考えれば「あれ?個性にこういう可能性あるんじゃ?」と気になる部分があるかもしれませんが、多分私の頭がキャパオーバーして見逃してるだけなんで、そんな感じの矛盾点があってもあんまり気にしないでください。
・殻木球大
え?この名前表に出してないだろって?オリジナルの名前作るのもめんどいんで表では殻木球大って名乗ってたってことにしてクレメンス