個性『魔法少女』   作:Assassss

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高評価、誤字報告、感想ありがとうございます。

作画スゲーって口開けながらヒロアカアニメを見ています。


緑谷、お前もか

佐倉杏子が一年ぶりに出ることが叶った出口は、施設から秘密裏に掘られた地下道の先にある雑居ビル。

 

今回の為に新しく支給された、彼女のセンスにそこそこ合った服を纏って、佐倉杏子とその他数人の大人たちが現れた。

 

ここから少し歩いて、ホークスとの待ち合わせ場所となっている建物へ徒歩で進む。とはいっても数分程度の距離であり、移動とも呼べない時間。

そもそも移動するだけならば車でも使えばいい。歩いているのは彼女が「せっかくだから少し散歩させてくれ」と頼みこんだためで、10分程度ならと許可が出されたのだ。

 

今の彼女は誰の記憶とも合致しない姿。この時間は彼女が感慨に浸りながらぶらぶらするだけの時間だろうと、職員達は気を抜いていた。

 

しかし突如として、佐倉杏子に声がかかる。

 

「あ、あそこにいるのはもしかして、佐倉さーん!?」

「へっ?」

 

只の散歩だろうと油断していた職員達は、思わず間抜けな声を出してしまう。

 

声を見ると、金髪ロールの女性が手を振っていた。

それに対し、杏子は知らない人間に対する対応を取る。

 

「えー?ア、アタシはお前なんか知らないぜー。」

「そんな!?せっかく久しぶりに会えたのに!心配したのよー!」

 

駆け寄る彼女に対し杏子はそっぽを向いている。職員達は混乱するばかりだが、冷静な者が観察すれば杏子が一切慌てていないことに気が付くだろう。

彼女が杏子の手を取ったところで、慌てて職員の一人が声をかける。

 

「え、えっと、どちら様、かな?お嬢さん。」

「私は巴マミと申します。えーっと、皆さんは?」

「私たちは……彼女を保護していた者です。」

 

それを聞いた彼女は露骨に心配そうな表情を作った。

 

「保護、ですか?佐倉さん、もしかして何か危ない目にあっていたの!?」

「い、いやー。なんども言うけどアタシはアンタなんか知らないぜー。」

 

杏子の演技は通常ならば見破れる程度のクオリティだが、突如として彼女の知人を名乗る人物が現れたことへの対処に忙しい彼らに気にする余裕はない。上司を始めとした各所への連絡に大忙しだった。

 

「巴さん、でしたか。えっと、もしかして彼女の知り合いなんですか!?」

「ええ、そうですよ。小学校の時に一緒に居たんですよ。」

「あ、ちょっとストップいいすか。」

 

ひょうきんな声が上から放たれる。

 

彼女たちの上に、ホークスが浮かんでいた。彼は元々待ち合わせ場所のビルの中にいたのだが、報告を受けすっ飛んできたのだ。付き添いの職員達は「連絡を入れる前に到着するなんて速すぎる、流石ホークス……」と呟く。

 

それを見た巴マミも、驚きの表情を作り口を少し大げさに開けた。

 

「えー!?ま、まさかホークスさん!?トップヒーローがこんなところにいるなんて!」

「どもども。自己紹介の必要はなさそうっすね。あ、ついでに俺のファンだったりする?」

「ファンとかではないんですけど、テレビでよく見る人が目の前にいるのにとってもびっくりしています!せっかくなのでサインをいただけませんか?このノートに……え!?」

 

マミはノートを取りだす。その瞬間風のようなものを手に感じ、何かが高速で横切ったのを何とか目でとらえた。

 

ノートに目をやると、すでにホークスの字のような何かが油性インクで描かれていたのだった。

マミは純粋に驚いてホークスを見ると、ペンにキャップを戻し、カチと音を鳴らせていた。

 

「さ……流石ホークスさん!もうサインをしているなんて、本当に「速すぎる男」ですね!」

「どーもどーも。そっちも結構動体視力いいね。巴マミさん、って名前聞いてるけど合ってる?」

「はい、そうです。」

「今時間はある?ちょっといろいろお話ししたいから、そこの路地に入ってもらってもいいかな?ここだと人の目があるかもしれないんでね。」

 

杏子が歩いていた道は閑静な住宅街。現在は偶然にも周囲に誰もいないが、ホークスが来ているとなれば騒ぎ出す人間は必ず現れるだろう。

 

巴マミは了承し、車すら入れない小道に場所を移す。道の両端には職員が見張りとして立った。

成人男性が女子高生をこんな場所に連れ込むなど普通は拒否されるだろうが、ヒーローとして信頼のある彼だからこそスムーズに移動できたのだろう。

 

「さて、場所を移してくれて感謝するよ。いくつか質問をさせてほしい。」

「え、ええ。どうぞ。」

 

巴マミは困惑の表情を浮かべた。自分の行動の何が不自然なのか分からないという風に。

 

「彼女……佐倉杏子とは、友達なのかな?」

「ええ、そうです。と言っても、昔の、ですけれど。」

「詳しく聞かせてもらっても?」

「小学校の頃、よく一緒に遊んだんですよ。学校は違った、というより家の事情で行っていなかったみたいなんですけど、放課後になると一緒にお喋りしたりしました。ただ、小学校の高学年の頃だったかしら……急に居なくなっちゃって。佐倉さんの家族も、突然失踪したって聞いたんです。それからずっと探してたんですけど見つからなくて。

でも、今日見かけて本当に安心しました。無事でよかったわ、佐倉さん!」

「うぶっ」

 

巴マミは杏子を抱きしめる。顔が胸に当たってくぐもったような声になった。

 

直視してセクハラと言われないように気を遣いつつも、ホークスは佐倉杏子に向かって少し懐疑の目を向ける。

 

「えーっと、今の話、本当?」

 

杏子はマミの胸から無理やり顔を離し、腰に手を当ててなぜかふんぞり返りながら答える。

 

「バ、バレちまっては仕方ねーな!そうだ、コイツは巴マミ。アタシの昔の友達だ。」

「佐倉さん、なんでさっきは知らないんて……」

「それは……ア、アンタに迷惑かけて借りを作るなんてまっぴらごめんだったからな!」

「そんな!私たち友達よ!そんな水臭いこと言わないで、なんでも相談してほしかったわ!佐倉さん、今までどこで何をしていたの?」

「何もしてねーよ。ただちょーっと悪い連中をとっちめまくって、そのおこぼれで生きていただけだぜ。」

「まさかヴィジランテ活動して(ヴィラン)からお金をせしめていたの!?そんな危険な生活をしていたなんて!放っておけないわ。これからは私の家に来て、一緒に暮らしましょう!」

「えー?確かに悪い話じゃねーなあ。でもなー。これからホークスに連れられて九州に行くって話になってんだよなー。」

「な、なんてこと!九州に行ってしまったらとても会いにくくなってしまうわ!何とかして一緒に住めないかしら!?」

 

チラッ。

 

杏子とマミは、そこで同時にホークスに視線をやる。

視線を受けた彼は、なんともむずがゆい感情を抱いた。そして努めて顔に出さないように薄ら笑いを保つ。

 

(……いや。これ絶対前から示し合わせてたでしょ。)

 

話の内容に一応矛盾はない。しかし明らかに演技。たまたま佐倉杏子が出所する日に、公安が探しても出なかった彼女の友人が現れるなど都合が良すぎる話だ。

 

(佐倉杏子が外部と接触したという話は無い。驚くほどに素直に施設で生活していたと聞いている。どうやって彼女と示し合わせた?情報漏洩の可能性……いや、見たところ彼女はこちらに敵意を向けていない。少なくとも話をする気ではあるようだ。まずは情報を一通り揃えてから。焦るなよホークス。)

 

外見的には女子高生に見える、巴マミと名乗る女性。気難しい時期なのだから、最低でも機嫌を損ねないようにすることを彼は胸に刻んだ。

 

「えーっとね。その話をする前に、巴さんのことを教えてもらってもいいかな?」

「私のこと、ですか?えっと、私は佐倉さんみたいに犯罪歴はありませんよ?」

「ごめんごめん。もっと基本的なことだ。身分証明になる物はある?高校とかに通っているなら学生証を見せて欲しいんだ。」

「あ、ああ!そうですよね。どうぞ、これです。」

 

あっさりと承諾する様子を見て、ホークスは頭の中で彼女が(ヴィラン)関係者である可能性をひとまず消した。

年相応の女性向けバッグから財布が取りだされ、その中から一枚のカードが抜きとられた。

 

受け取ったホークスは何の変哲もない女子高生であることを確認できたと思いつつ、しげしげとそれを眺めていた。しかし、学校名を見て純粋に驚く。

 

「えっ!?雄英高校に通ってるの?」

「はい。でも、ヒーロー科ではなくて普通科ですよ。……そんなに驚くことですか?」

「ああいや。気にしないで、こっちの話。」

 

(パッと見偽造品には見えない。雄英関係者のところに佐倉杏子が住むならばこちらとしてはありがたい。ヒーローと連絡が取りやすくなる。俺たちにとって理想的なのは彼女が今後も施設に住み続けてくれることだが……流石にあの性格じゃずっと大人しくしてくれるとは考えにくい。

……彼女が本当に(ヴィラン)と関係ないただの一般市民ならばかなりいい話じゃないか?本当に何もなければ、だけどな。)

 

言葉の裏で思考を回転させつつ、さも裏でなにも企んでいませんという体で会話を続ける。

 

「ちなみに、今日巴さんはどうしてここに?」

「えっと、今日ここに新しくパフェ屋さんができるって聞いていて。せっかくだから友達と行こうとなったんですけれど、予想外に早く着いちゃったんです。せっかくだから軽く散歩をしていたんですけど、そうしたら偶然ここで佐倉さんに出会った……という感じです。」

「……なるほど。ここに来たのは偶然だったってことかな?」

「あら、偶然以外に何かあるのでしょうか?」

 

直後、巴マミは一瞬ハッとなって口を押さえる。

そして「ごめんなさい、ちょっと失礼な言い方でしたね。」と謝罪した。

 

ホークスは、彼女に対する評価を上げた。

 

(……曲がりなりにも名の知れたヒーローの俺に対し、強気な態度、か。悪い言い方だが、地位が無いのに俺に対しそんな態度を取る人間は大抵は自信過剰や井の中の蛙が理由。疑り深い性格ということもあるかもしれないが、俺に対して露骨にそう表現するか。……しかし、話し方やしぐさを見る限りそういう人間にも見えないな。俺たちに対して敵対心?こちらのことをやはり知っている?)

 

佐倉杏子の友人だったという事実が、彼を警戒させていた。

ホークスからしても彼女の戦闘能力には目を見張るものがあり、(ヴィラン)として戦った場合完全に被害ゼロで捕縛するのは難しいという印象を抱いている。そんな彼女と友人であるからには、彼女もなにか能力を隠している、というのが自然な発想だろう。

 

思惑を隠して、彼は笑顔を絶やさず話を続ける。

 

「いやいや、気にしないで。むしろ時間取ってもらってるのはこっちだから。単に偶然か聞きたかっただけで、それ以上の意味はないっすよ。」

「そ、そうですよね。一瞬変な想像をしちゃって。すみません。」

 

その想像の内容を聞きたい気持ちをホークスは堪えた。

 

「それで……えっと、こちらからも質問してもいいですか?」

「ああ、なんだい?」

「えっと、佐倉さんは警察に捕まった……ってことですよね。」

「そうだ。ごめんな、細かいことは喋れないんだけれど、ざっくりそう理解してくれればいい。」

「わかりました。それで、これから佐倉さんはどうなるんですか?さっき九州に行くと聞いたんですけど……」

「うん。彼女は身寄りが無かったからね。いろいろ話し合った結果、俺の監視下で生活する、みたいな方針だったんだ。」

「えっ……一緒に暮らすってことですか?」

「実はその辺色々揉めててねえ。」

 

一瞬不満を露わにした彼女の表情に、ホークスは「自分も困ってるんス。」という表情をすぐさま作った。

 

「君の言いたいことは分かる。彼女のような年頃の女性が、俺のようなお兄さんと一緒に暮らすなんて嫌だってね。とはいえ、彼女がしてきたことは立派な犯罪行為。情状酌量の余地が十分にあったとしても無視できるものじゃない。今回出所したとはいえ、一時的なもので完全に自由になったってわけじゃないんだ。彼女の実力を踏まえると、監視に当てられるヒーローは相当限られる。あのリューキュウですら実力的に難色を示されているレベルだ。個性の相性とかもあるしね。」

「そうなんですか……やっぱり色々と大変なことに……」

「まあひとまずのところ、あの狭苦しい場所からは出そうか、って話になっていたんだけど……」

「つまり、私と一緒に住めれば大体解決じゃないですか?」

 

いいことを思いついたというように提案する巴マミ。

 

「いやいや、君じゃ彼女が暴れた時ちょっと困るでしょ。相応の実力がなきゃ、彼女を捕縛することはできない。流石にそこまで彼女を信じられるわけじゃないんだ、ごめんね。」

「うーん……佐倉さんはそんなことをする人じゃありません。それに、見ず知らずの人と暮らすよりはよっぽど大人しくなると思うのだけれど……」

「そうだなあ。少なくともこんなむさっくるしいおっさんと同棲なんてゴメンだな!」

「そこはお兄さんって言ってくれよ、まだ22だし。」

 

冗談を言いつつも、ホークスはこの話に魅力を感じざるを得なかった。

実際、佐倉杏子が今後どうするかは不確かな状態だった。先ほどホークスが言った懸念もあるが、佐倉杏子が腹の内で何を考えているのかが全く推測できないことが彼らにとって大きな不安要素だった。現在はおとなしいが、彼女が秘密を暴露するだけでこのヒーロー社会の秩序を大きく揺るがせることができるのだ。

彼女に対しコストをかけることは許容するが、とにもかくにも彼女を目の届くところへ置いておきたいという意向が強い。わざわざトップヒーロー・ホークスの時間を取ってまでこのような場を設けているほどに。

 

精神も状況も難しい彼女を、友人の家に同棲させるというのであればある程度は精神的に落ち着くことが期待できる。巴マミの提案は道理だった。ホークスの近くに置くよりは遥かに安定するだろう。

 

巴マミという人物が信用に足るのであれば、という条件さえクリアできればだが。

 

(……戸籍を軽く調べた結果、犯罪歴はありません。雄英在籍も事実です。)

(了解。)

 

片耳に常に入れてある小型スピーカーからの情報を受け、ホークスはひとまずこの場をまとめることにする。

 

「ふむ……巴さん。この話、お世辞抜きで前向きに検討させてもらいたい。連絡先を教えてもらっても?」

「は、はい!もちろんです。」

「ありがとう。そう言うわけで、佐倉杏子。いったん施設に戻ってもらっていいかな?話がまとまるまでの間ね。」

「しょーがねーなあ。あとちょっとだけ我慢してやるか。」

 

そうしてこの場はいったん解散となる。巴マミには後日改めて事情を聞くこととなり、佐倉杏子はもうしばらく施設で生活することとなった。

 

ただ、ホークスは一つだけこの場で実証しておきたかったことがあった。

 

別れを告げ、巴マミが後ろを向いて数秒。

 

羽の一枚を、トップスピードで彼女の首元に飛ばす。事前に分かっていたとしても、並のヒーローでも対処はギリギリ叩き落とせるかという速度。

 

「っ!?」

 

彼女は明らかに反応した。

体を横に傾け、羽の直進線上から避ける。その表情は、先ほど全く見せなかった警戒の色があった。

 

「いきなり何をするんですか!?」

「あ、ごめんごめん。首元に蜂が近づいていてさ。刺されたら嫌だろうって思って捕まえといたんだ。事前に言っておけば良かったね。」

「え?あ、本当ですね……。そういうことなら分かりました。じゃ、じゃあ私は今度こそ失礼します。」

 

浮いている羽についている蜂の死骸を見て納得した彼女は、今度こそ去った。

 

彼女の後姿を眺めながら、ホークスは頭の中に小さくメモを残す。

 

(アレに反応できるのは相当鍛えている奴だけだぞ、巴マミ。この自称ただの女子高生も実力的には要警戒……っと。)

 

 

合宿二日目。

 

朝5:30という早くに外に集合させられた生徒たち。目をこすらずにいられた者はいない。

 

そして始まったのは、まどかとさやかの個性の話。そのリスクに関してだ。

口外禁止という前置きの後に語られた二人の個性の秘密。A組の生徒たちにとっても衝撃的だった。話し終わって、彼らの眠気は吹っ飛んでしまう。

 

「…………という経緯で、二人の個性には大きなリスクがあることが判明した。」

「そんな……」

 

A組の生徒たちは、一様に気づかわしげな視線を二人に送る。

 

それを受けた二人は、慌ててそれが不要なものだと伝える。余計な心労をかけさせることは二人の望むところではなかったから。

 

「あ、気にしないでみんな!なんとなく察してたことだから!」

「えっ?どういうこと?」

「その……隠しててゴメンね。実を言うと、この個性のこと結構前から自覚してたんだ。」

 

さやかは嘘をついていたことに怒られるかもしれないと身構えていたが、彼らの反応は怒りよりも納得だった。

 

「……まあ薄々そんな気はしてたよ。」

 

保須の件で認識がある轟、飯田、緑谷以外の生徒たちも、まあそうだろうという反応だった。

 

「んなこととっくに察してたんだよどう考えても体育祭での動きは個性に慣れてただろバァカ!」

「……意外とバレてた?」

 

さやかは自分ではかなりうまく誤魔化してきたつもりだったので、軽く自信を喪失してしまう。

 

「それでもなあ。死ぬ危険があるって怖えよ……」

 

さやかの話を聞いても、生徒たちの表情は変わらない。

 

「自分の個性がそんなリスクを持っているなんてなあ。俺だったらおちおち使ってられねえよ。」

 

ヒーロー科というだけあって、彼らの殆どは使うことで自分に利益があるタイプの個性持ちだ。

まるで個性障害を打ち明けられた気持ちであり、多かれ少なかれ同情が生まれる。

 

「うーん、というか、今までなんで言ってくれなかったの?治癒関係は別として、隠しておく必要あった?」

 

芦戸の疑問には「確かになあ」と賛同がちらほら起きた。

 

「これが発現したのは本当は中学の頃だったの。その、すんごく個性が変化して、驚いて、言うに言い出せなくて、それがズルズル続いて……みたいな感じ。」

「あー、そういうのって言い出しにくいよね。分かる、私もそういう経験あるもん。」

「それって例えばせいブへラッ!?」

 

峰田が何かを言いかけた途端、蛙水の舌が彼の頬を思いっきり弾き言葉が出るのを阻止。

続いて瀬呂がテープで首から上を、特に口部分を重点的にグルグル巻きにした。

そしてまどかとさやかに対して90度腰を曲げた。

 

「うちの峰田が失礼しました!!!どうか聞かなかったことにして続けてください!」

「あ……うん。」

 

ミイラのようになった彼を見て、息はできるのだろうかと少し思いつつも話を続ける。

 

「……まあ、とにかくそういう感じ。ごめんねみんな、隠してて。」

「俺は全然気にしてねえよ。これからは正直に喋ってくれれば大丈夫だろ。みんなもそうだろ?」

 

A組の生徒たちは頷く。

しかし、さやかとまどかは浮かない顔だ。二人には隠しておきたいことはまだまだ沢山あるのだから。

 

「ね、ねえみんな……先生にも言われたんだけど、個性のこと隠しておくのってやっぱりヤバいの?」

 

慣れたとはいえ、個性の常識については周囲とのずれを感じることを未だに経験するまどかとさやか。

2人の感覚では、例えば通販サイトの会員登録をするときに、なんとなく個人情報を入れるのが嫌だから偽名や偽住所を入れるような、その程度の迷惑だと認識していた。

 

「そりゃぁ……事情によるけど、何の理由もないのに嘘ついてましたって言われたら、流石にどうかと思っちまうかな。」

「え……マジで止めといた方がいいって感じ?」

「俺はそう思うぜ。っていうか、みんなも多分同じだろ?」

 

A組の彼らは、常識であるかのように口々に「俺もそう思う」「個性関係はねー……」「まあ常識的にはそうだよな」と同意。

さやかとまどかは、まるで自分たちだけが目立つ奇行を今までしてきた気分になってしまい、顔に熱がこもるのを感じる。

 

「マジで?そんなに?ちなみに理由とか……」

「……個性に関することはできる限り正直に言った方がいいと私も思うよ。」

「麗日もそう思うの?」

 

さやかは麗日に視線を向けた。多少はフォローしてくれないかという救いを求める視線を向けた。

 

しかし残念ながら、彼女が告げる内容はフォローではなく説教だった。

 

「そうだね……雄英の先生、私たちの個性のことをすごく沢山考えてくれてるよ。他の高校に行った友達から聞いたんだけど、そこだと個性のことは自分で面倒見て、もういい年なんだから、って感じなんだって。多分ここって日本一私たちの個性を考えてくれる学校だと思う。私達をトップヒーローにするために、みなさんすごい頑張ってる。さやかちゃんだって、学校の先生が護衛のヒーローつけてくれたりしてくれたでしょ?

そういう先生方の頑張りを、無駄にしたらいけないと思う。そんな相手に、個性のことを正直に伝えないって言うのは、やっぱりちょっとダメだと思うなぁ。」

「……マジでごめんなさい。」

 

さやかとまどかは、親しい友人にも諭されてしまいかなり本気で落ち込んでしまう。

 

麗日に続いて、他の生徒たちも雄英がいかに自分の個性の相談に乗ってくれるかを二人に話した。例えば葉隠は裸になったときにも使えるヒーローコスチュームの相談。障子は異形型個性向けのトレーニング機器の相談。雄英がいかに自分たちをプロヒーローにするためにコストをかけてくれているのか、ということが伝わってくるものだ。

 

さやかとまどかは聞いたことがない、あるいは意識したことがない話ばかり。ヒーローに関する話なので、二人との会話にはあまり上らない部分の事情だった。

 

麗日としては落ち込ませたいわけではなく単に自分の考えを言っただけだった。二人の様子を見て、慌ててフォローを出す。

 

「あ、で、でも二人にも事情はあったよね!二人みたいなすごい変化、私だって言いづらいもん。」

「……先生、みんな、本当にごめんなさい……」

 

まどかの本気で申し訳なさそうな表情。それを見た生徒たちは、大急ぎで明るい話題にしなければという使命感に駆られる。

 

「まあ誰にだって言い出しにくいことの一つや二つはあるだろ。これからは個性の隠し事はナシで行こうぜ。それで良いだろ!先生、みんな!」

「……ああ、これからは正直に頼む。時間やコストを無駄にしないためにな。」

「わ、わかりました。隠し事はなるべくしません!」

 

そう言いながらも、まどかの心中は不安の謝罪で一杯だった。

 

(うう……ごめんみんな、本当はまだまだ隠していることが一杯あるの。でも、キュゥべえのことは言えないし、世界が書き換えられたなんて信じてもらえるかもわからない。でも、『個性』……っていうか、魔法少女の能力のことは包み隠さずいうつもりだから。『個性の隠し事』はしていないことになる……かな?)

(ごめんまどか。正直それ屁理屈だと思う。)

(だよね……)

 

「『なるべく』って、なんか他にもあるのか?」

 

轟が尋ねる。真顔なので怒っているのかの判別がつかないが、あまり肯定的には見えなかった。

 

「えっと……」

「まあまあ轟。今回二人は勇気出して打ち明けてくれたんだから、勘弁してあげようよ。あんま無理して聞き出すのも悪いしさ。聞いた感じ、意地悪したくて秘密にしてたわけじゃないんだから。仮に秘密があったとしても、これからもっと仲良くなれば、きっと喋ってくれるよ。」

「……そういうもんか。」

(み、三奈の人間的な器の大きさが眩しい……!)

 

さやかには芦戸が光り輝いているように見えてしまう。

彼女を直視できず思わずのけぞってしまうような錯覚を覚えた。

 

 

さやかとA組生徒たちとのやり取りの間。

 

まどかはその会話に加わることなく、ある人物に注目していた。

 

(……あれ?緑谷君、どうしたんだろ?)

 

集合の端にいたために誰にも気がつかれていないが、緑谷は挙動不審だった。

 

話が進むたびに顔色が悪くなっているのだ。目線は自分の手に固定されて、決して誰も見ようとしない。特に麗日の「先生方の頑張りを、無駄にしたらいけない」の発言あたりで、完全に顔を伏せてしまった。

 

「緑谷君?」

あひゃい!?!?

 

普段の3倍周波数が高そうな声を出す緑谷に、A組全員から奇異の目が向けられる。

 

「ど、どうしたんだ緑谷?」

「大丈夫?緑谷。顔色悪そうだけど……」

「あああああああ全然!全然大丈夫だから気にしないで!」

 

残像が見えるレベルで手を振って否定する緑谷。

どう見ても怪しさ満点だが、自分も秘密を抱える身である以上、深く追求する気にはなれなかった。

 

「……クソナードのアホ声はどうでもいい。重要なことはよぁ。」

「な、なに?」

「テメエら、その『穢れ』とやらをどうやって消してんだ?完全に使用禁止にならねえってことは回復手段を持ってるってことだろ?」

「鋭いなあ……それねえ。」

 

さやかは、昨日の先生たちの混乱を思い出して少し辟易しながらも、二人以外には見えないであろう黒い石を取り出す。

 

A組の生徒たちには、さやかがパントマイムをしているようにしか見えない。

 

「……何してるの?」

「みんなには見えないだろうけれど、私とまどかには黒い石を手に持っているように見えるんだ。……一応聞くけど見える?」

「ふざけてんのか。何も見えねエよ。」

「やっぱり……私たちは「グリーフストーン」って呼んでるんだけどね。」

「…………なんだそりゃァ?」

「爆豪がマジで驚いてる声出してる、めっちゃレアだなぁ。」

 

上鳴はそう言いつつも、目を細めてさやかの指先に注目していた。

彼含め、透明な石でも持っているのかと目を凝らしていたが、本当に何も見えず首をかしげるばかりだった。

 

「……っていうか、何その不吉な名前?」

「これをさっき言ったソウルジェムに当てると、穢れが吸い取られるの。つまり、私達には「グリーフストーン」っていう穢れの回復アイテム……って言えばいいのかな?っていうのがあるから、個性を絶対使っちゃダメ!みたいなことにはならないんだよ。もちろん、気が付かないうちに穢れが溜まっちゃってソウルジェムが大変なことに!みたいな可能性は十分あるから、危ないことには変わりないんだけどね。」

「……話の通りなら、『闇の癒石(ダークヒーリングストーン)』に改名するべきではないか?あるいは『穢の代闇石(穢れの肩代わりの石)』はどうだ?」

「な、長くない?流石に言いにくいよ常闇君。」

「でも名前に回復とかヒールとかは入れた方がいいよな。なんだよ「嘆きの石」って。」

「…………みんな流石ヒーロー科だけあって英語にも強いんだね。私昨日の夜言われるまで全然そこに気が付かなかったなあ。」

「え?美樹さんが名付けたんじゃないのか?じゃあその名前はどこから?」

 

段々と彼らから疑問が泉のように吹き出し始める。貴重な合宿の時間をもう20分消費してしまっているが、話が終わる気配が全くない。

 

相澤は口を挟まず見守り、やはりこうなるだろうなと共感しつつも、いつこの話題を切り上げるかを探り始める。

 

「みんな、重要なのはそこじゃないわ。確認しておかなければいけないのは、その「嘆きの石」が今どのくらいあるのか、そしてそれはどうやって手に入れるのか、よ。」

「あーっと、量は十分あるから安心して。入手方法はね。実は町のそこら中に落ちてるんだ。」

「……え?落ちてる?」

 

A組の生徒たちの表情がさらに困惑に染まる。言葉は分かるが、意味が分からないのだ。

 

「えっとその……私達には、このグリーフストーンが町のそこら中に落ちているように見えるの。本当にどこにでもあるから、量には困らないんだ。」

 

さやかは詳しく誠実に説明するが、A組の彼らの表情に納得が出ている者はいない。

 

「……ん、ん???落ちてるって、たばこのポイ捨てみたいに地面に落っこってるってこと?」

「だいたいその通りだよ。……まあ、みんな困惑しちゃうよね。こんなの言っても絶対信じてもらえないだろうから、今までなかなか言い出せなくて……」

「えっじゃあここにも落ちてるの?」

「どうだろ、人の居る場所に割と落ちてるからなあ。この辺じゃまだ見かけてない。でも、雄英の近くにはたくさんあるよ。」

「…………ちょ、ちょっと待って。なんかすごく気持ち悪いんだけど。台所の裏にどれだけゴキブリが潜んでいるかみたいな話じゃない?得体が知れないって言うか……」

 

耳郎響香は、自分には見えない物体の話に本能的な恐怖を感じ始めたようだった。腕を掻き抱いて縮こまる。

 

まどかとさやかは慣れ切ってしまったがためにどうしてそんな反応をするのか違和感を覚えていたが、相澤は「そりゃそうだろうな……」と共感の念を抱いていた。

 

「いやいや、そこまで気持ち悪い話じゃないと思うよ響香。……でも言われてみれば、黒いのは同じ、かな……?」

「マジで止めて怖い!言ったウチが悪かったから!」

 

腕を掻き抱いて座り込んでしまう。

そうしたのは彼女だけだが、他の生徒たちも気味悪さを感じているらしく、表情が明るくない。

 

「つまり……え、なんで???なんでそこら中に落ちてるの???」

「わ、私たちがいつもいる場所にそんな変な物が落ちてるの?」

「実害は多分無いよ。私たちにも詳しいことは分かんない。とにかく落ちてるとしか……」

 

ここで突然、パン、という音が響く。音の方を見ると、相澤が手を叩いた音だった。

訓練されたA組の生徒たちはそれだけで頭のスイッチを切り替える。一瞬遅れて、まどかとさやかも彼の方を向いた。

 

「……お前ら、困惑するのは分かるが、そろそろ締めさせてほしい。俺達にも分からないことだらけなんでな」

 

生徒たちは、いくらでも湧き出る疑問の数々を頭の隅に追いやった。

 

「というわけでだ。このようなリスクがある以上、二人に個性の使用を強要することは厳禁だ。場合によっては犯罪と見なされる危険行為となる。それを肝に銘じてくれ。」

「は、犯罪!?」

 

上鳴は相澤の言葉に委縮するが、彼らの半分程度は恐れると同時にさもありなんという理解を示す。

 

「使用することで死亡のリスクがある個性。そんな個性は聞いたことがないだろうからそんな反応するんだろうが……現に存在する事例だ。大抵その種の個性持ちは普段ほぼ個性を使わないからあまり聞かない話ではあるだろうな。だが実際に犯罪として成立した裁判例もある。お前たちが思っている以上に、個性は危険なことが多い。雄英は環境が整っているからお前たちは個性をバンバン使えるが、本来はこうやって規制の対象となる恐ろしい力だってことを忘れるなよ。」

「……はい!」

 

生徒たちの息の合った返事が響き、相澤はやっと訓練に移れることを喜んだ。

 

「さて、諸君はこれからその最高の環境で個性を伸ばす幸運を得ているわけだ。今日の日中の訓練の内容だが……」

 

 

A組の生徒たちが一通り持ち場についた。そうして、各々が予定されていた訓練が始まる。

林間合宿を通して、メインとなるのは「個性伸ばし」である。世間一般ではあまり認識されていないことだが、個性とは筋組織と同じように、酷使すればするほどに強化される。

 

ここでは虐待一歩手前ではないかと懸念されるほどに個性を酷使させることが目的である。ただし真の意味で虐待となってしまわないよう、プッシーキャッツの協力の下各々の状況を注視し、体に支障が出そうならば即座に休ませる。それに集中するための林間合宿という環境だ。

 

元々は、まどかとさやかも同じようにさせる予定だった。普通科の彼女たちには酷かもしれないが、そもそも事前に強化合宿と伝えたうえで彼女たちはここに来ている。二人を甘やかしては本人のためにもならず、生徒たちの士気も下がるだろう。

 

だが、個性のリスクが判明した以上は流石に予定通りとはいかない。それを変更し、いま彼女たちが行っていることは。

 

「ぬおおおおおおお!!!さあ我に続いて復唱!『健全な肉体に、健全な魔力がやどる』!!!!」

「け、けんぜんなにくたいにけんぜんなまりょくがやどる……」「け、健全な肉体に、健全な魔力がやどる!」

「声が小さい!あと動きが鈍っておるぞ!!!」

 

滝の汗を流して必死に体を動かすまどかとさやか。圧をかけるかのようにキレのあるダイナミックな動きをする虎の動きを必死に追うが、虎から出るのはダメ出しばかり。

個性は一切使っていないので、純粋に肉体がきつい内容である。

 

「ちょ、ちょっと待ってください、ま、マジでキツイんですけ、ど……」

「これでも一般的なヒーロー科生徒の7割に手加減しておるのだぞ!!!さあもっと筋組織をイジメるのだ!貴様らそれでも『ダンシング魔法少女』を志す者かぁ!?!?!?」

「ハァ、ハァ、いや、だから何それ、ハァ……」

「なんだろう、夢の中でなってた、ような……?」

「まどか、絶対ナイ。無いったらない。」

 

プッシーキャッツの虎による「我ーズブートキャンプ」に参加させられ、いつの間にか「ダンシング魔法少女」志望になったまどかとさやかはひたすらダンスをさせられる。

 

元々は増強系個性向けの訓練内容で、そこに二人が加わった形となる。基礎体力はどんな状況でも腐らないだろうという無難な判断だった。

 

二人はヒーロー科生ほど鍛えていないために流石に虎は手加減するだろうと相澤は推測していた。だが二人は、始まったばかりだというのに既に疲れが隠せなくなっている。虎曰く手加減しているらしいのだが、傍目にはそうは見えない。横で一緒に訓練している緑谷やB組の回原、宍田が「大丈夫かこの二人」と言いたそうな目で時々二人を見ていた。ただし本人たちも肉体を酷使するのに忙しく気遣う余裕はない。

 

(……彼もプロヒーローだ。加減を誤ることは無い、目を離しても問題ない。……おそらく。)

 

先ほど彼が「そこを我が、殴る蹴るの暴行よ……」と言っていたことには全力で目を瞑り、二人に背を向けその場を去る。背中から「助けて相澤先生、筋繊維が全部切れそうです!」という声が聞こえた気がしたが、無理やり足を進めた。

 

そうしてきたのは、ちょっとした丘になっている部分。訓練する生徒たちを一通り一望できる場所であり、それでいて少し距離がある場所。話し声が聞かれることは無い。

 

探知・傍受対策がなされたプロヒーロー用の特殊仕様の携帯端末を取り出し、彼と相手の脳中にのみ存在する番号を入力する。

 

『……やあおはよう。昨日ぶりだね、相澤君。』

「おはようございます、校長。」

 

相手とは根津校長だ。相澤は周囲をチラりと見渡し、誰も聞き耳を立てていないことを確認した。

 

『さて、この通信の目的は昨日の話の詳細なすり合わせ、でいいのかな?』

「はい。こちらは少し時間が取れましたので、そちらは問題ないでしょうか?」

「ああ構わないとも。ちょうど日課の毛づくろいが終わったところさ。」

 

昨日、まどかとさやかが部屋に戻った後。教師たちがしたことは、情報の整理と共有だ。

 

だが、まどか達がもたらした情報は余りに予想外な内容だった。そのうえ、次の日が朝早いのは生徒たちと同じ。相澤としては情報共有を各所にしたかったが、ひとまず根津に対してまどか達が話したことを最低限伝えることに留まり就寝した。

教師と言えども、睡眠は確保しなければならない。彼らにとってもハードなスケジュールの合宿なのだ。

 

断念した話の続き、それが今回の目的だ。

 

『さて、まず君に伝えておきたいことだけれど……『ソウルジェム』に『グリーフストーン』だね。今日ここに来るまで、僕の方で軽く調べてみたよ。残念ながら、と言っていいか分からないけれど、類似したものは見つからなかったね。』

「……そうですか。」

『個性の力の源が、宝石となって現れる。僕が知る中で既存例として挙げられるのは、「宝石」という異形型の個性だね。これは、例えばB組の鉄哲君のように体を構成する物質がアメジストやルビーになるものだ。その個性は単に宝石の体になるだけじゃなく、臓器の構造が抽象化されていたらしい。つまり、心臓に当たる部分が一つの赤い宝石になっていたんだ。』

「それは……おそらく違いますね。『ソウルジェム』は、単なる宝石ではなく、縁取りのような装飾がついていました。」

『その通り。でもこれ以上の類似例は見つからなかったんだ。次に『グリーフストーン』だけれど……これは本当にお手上げさ。いったい何なのか私には見当もつかない。』

 

根津のため息がスピーカーから漏れる。

 

「そうですか、俺もいまだに何なのか……」

 

相澤としては、流石に根津ならばその高い知能で何かしらの推論を立ててくれているだろうと期待していた。しかしその期待は外れ、柄にもなく落胆してしまう。

 

『ふむ……まず、その『グリーフストーン』の性質を整理させてほしい。第一、ソウルジェムの『穢れ』を吸い取る。……『穢れ』が何なのかも気になるけれど、ひとまずさておこう。第二、二人以外に見えない。触れない。単に透明になっているのではなく、昨日君たちがした「実験」を鑑みると、世界が書き換えられたような不可解な現象を引き起こしている。』

「そんな大仰な表現はしたつもりはありませんが、不可解なのは強く同意します。」

『今度写真データのバイナリを見せてみて、01にしても見え方に違いがあるのかとか、色々実験してみたいのさ。まあそれはともかく、第三。これが最も意味不明なのだけれど……『グリーフストーン』はそこら中に落ちている、らしい。』

「本人曰く、ですがね。今は信じるほかありませんが。」

『仮にそうだとすると……相澤君、どうして第三が最も不可解なのか、わかるかい?』

 

相澤は、この話を聞いた時の衝撃、感じた不可解さを思い返す。時間をかけ、どうしてそれが不可解なのかを丁寧に言葉にしていった。

 

「……判明事実のうち、影響範囲が大きすぎるから、でしょうか。そして、彼女たちの個性が不可視の黒い石を落とすようには見えない。」

『流石相澤君、いい線行っているのさ。でも残念、80点くらいかな。』

「何が足りないのですか。」

『まず、「彼女たちの個性が不可視の黒い石を落とすようには見えない」は僕もその通りさ。個性は一つの概念を体現するもの。最近は親世代の遺伝で複合個性なんてのも出てきたけれど、プリミティブな個性は「一つ」なのさ。』

「個性のインテリジェント・デザイン説ですね。彼女たちの場合は「魔法少女」という個性。体育祭などで見せた力をよく表しているように見えます。妙に強力なのが気になりますが、まあ『強い個性』で括れないこともない力に見えました。しかし、黒い石というのは……」

『そう、あまりにも彼女たちの個性から逸脱しすぎているのさ。』

「つまり……そうか、別の個性の仕業、でしょうか?」

 

この瞬間相澤は脳内に電流が走ったように感じられたが、スピーカーから聞こえてきたのは気持ちよさのかけらもない言葉だった。

 

『ありえないとは言わないけれど、二つ謎がある。一つは、影響範囲が大きすぎること。聞いたところによれば、彼女たちが訪れたところにはどこにでもあったそうじゃないか。』

「ええ。ただし人がいる場所に存在する傾向はあるらしく、例えばこの山岳部では見ていないそうです。」

『仮にそういう黒い石を生み出す個性持ちがいたとして、そんな人物が日本全国を回って石をバラまいた、なんて話を考えるほどに僕らは暇人じゃないのさ。』

「ごもっともです。もう一つは、なぜピンポイントで二人にのみ関わるのか、ですよね。」

『その通りさ。今回は100点。花丸をあげちゃうのさ!』

 

上ずった声に、相澤は怒りとまではいかない苛立ちを覚える。

 

「要りません、それより続きを。」

『まあ相澤君の言った通り。二人と同系統の個性を持つ変人が日本のどこかに隠れ潜んでいる、という線もゼロではないけれど……』

 

ここで言葉が途切れる。根津にしては珍しい歯切れの悪さだった。

 

「校長?」

『相澤君。僕らは今、個性に関わる何か重大なものを相手にしているんじゃないかな。』

 

相澤が根津の声から感じた感情がある。恐怖だ。

彼の異様に発達した知能が、一体何をとらえたのかと彼も恐怖を感じてしまう。

 

「……というと。」

(ヴィラン)がヒーローに倒されたときにグリーフストーンが現れたのを見たことがある、だったね。』

「ええ。ただし見たというだけで詳しい検証はしていないそうです。あまり真面目に考える話ではないと俺は思っていたのですが……」

『仮にそれが事実だとすると、そこら中にグリーフストーンが落ちていることの謎は説明できる。芋づる式に謎は増えるけどね。……そして僕たちは、二人の謎の個性を、ものすごく風呂敷を広げて考える必要があるんじゃないかって、思うのさ。』

「広げるとは、どの程度?」

『個性とは何か、世界の成り立ちについて。』

 

相澤は黙って聞いていた。常人の発言ならば相手にしないが、頭脳面において優秀と認める相手の発言。一笑に付す気にはなれなかった。

 

『相澤君、個性とは何か知っているかい?』

「……どのような答えを欲しているのか分かりませんが、個性因子によって発現するものです。」

『その個性因子、それがどんなものかは?』

「俺は研究者じゃありません。なので一般常識しか答えられませんが、いまだ未解明事項多数だとか、いまだ理論的統一的枠組みができず百家争鳴状態だとか……」

『そう。分からないことだらけなんだ。およそ100年前までは、人類が科学という研究をしてきた。それは数千年間謎だった世界の仕組みに合理的な説明を付けることに成功し、未来永劫その世界の説明に反するものは現れないだろうと思われていた。でも100年前、突如として世界に今まで全く見られなかった現象が発生し、今までの科学者の苦労が水の泡になってしまった。』

「……よく、個性の歴史の語りで使われる前口上ですね。」

『まあ水の泡って言うのは誇張表現で、個性がかかわらなければ物理法則というものは今まで通りだったのだけれどね。だが、今回の事象はそうじゃない。』

「…………現象が「人」に起きているのではなく、「場所」、ひいては「世界」に起きている。」

『その通り。相澤君。100年前、中国で光る赤子が生まれた時、一体何が起きたんだろうね。宇宙からの未確認生命体の仕業だの、神的存在が世界に降りて来ただのいろいろ言われているけれど……今回の事象、その世界に何かを及ぼした何者か、のせいだとは思わないかい?』

「その何者かのせいだから、日本中に変化を及ぼしていると?個性が世界中に影響を与えたように。」

 

何者か、などというあまりにも不確実な存在を仮定しての推測。普段の相澤ならば「そんな不確実な存在のことを考えるのは合理的じゃない」と切り捨てるところだが、根津が言っていることに加え、今回の件の不気味さが彼にのしかかっていたのだった。

 

先ほどの耳郎のように、相澤はずっと気味悪さを感じていた。綺麗だと思っていたコンクリートの床を詳しく調べてみたら、それが実は塗料で、剥がしてみると全く理解できない機械で構成されていたような感覚だった。

 

『君の言いたいことは想像がつくよ。すべては仮説だろうとね。だけれど、僕の中では最有力候補さ。』

「それは俺も同意です。未だに何か隠しているようですしね、あの二人は。」

『今回、彼女たちが僕たちに秘密を打ち明けてくれたのは大きな前進さ。それも、君が根気強くコミュニケーションを取ってくれたおかげさ。僕から改めてお礼を言わせてほしい。』

「教師としての責務を全うしただけですよ。それより、この話題について喋り過ぎました。この回線は高い。次の話をして欲しいです。」

『ああ、美樹さやか君の個性行使についてだね。ヒーロー公安委員会と交渉結果、『無理矢理個性を行使させることは殺人罪に相当』という公式見解を公表することにしたそうだよ。』

「昨日の今日ですよ?もう決定したんですか。」

『ああ。もう飛びつく勢いだったのさ。なんでも』

 

う、うわあああああああああ!!!!!

きゃあああああああ!!!

 

突如として響く悲鳴。緑谷とまどかのものだった。

 

相澤は何事かと慌てて彼の声の方に目を向ける。その光景を見て、すぐにこの通信を終わらせることにした。

 

「校長、話の続きは今度。緑谷の個性がおかしい。」

『お、おかしいって?一体何事かい?』

「黒い鞭のようなものが出ているのが見えます。いったん通信切ります。失礼。」

『え、あ、緑谷君の個性?えっと、ちょっと待』

 

相澤は通信を切り、大急ぎで緑谷の元へ向かう。

体育祭のような怪我をさせてはないという危機感が彼を急がせていた。

 

 

「すみません先生、とりあえず落ち着きました……」

 

座り込み、荒い息を整える緑谷。先ほど見えた黒色の物体はすっかり消えており、ひとまずの危険は去っているように見受けられた。

 

訓練は一時中断させられ、共に励んでいたまどか、さやか、回原、宍田、そして鬼教官のようだった虎さえ緑谷を心配そうに見ている。

 

相澤は緑谷の正面にしゃがみ込み、身体を一通り観察。何も問題ないことを確認し、あらかじめ発動しておいた個性の「抹消」を解除した。

 

「緑谷。体に異常はないか?痛みはあるか?」

「えっと、今は大丈夫です。さっきは痛みというか、感じたことのない感じがして、えっと……」

 

混乱しているらしい緑谷に対し、相澤は努めて落ち着いた声で話しかける。

 

「今は急がなくていい。深呼吸して、何があったのかを起きた順に話せ。」

「は、はい。ええと……」

 

緑谷は周囲を見渡し、というよりも虎の顔を一瞬見て、その表情を確認してから語りだした。

 

「えっと、事の始まりは、僕が訓練中に虎さんに殴り飛ばされたときでした。」

「うむ。……ん?」

「ん?どうしたイレイザー。我の顔に何かついているのか?」

 

イレイザーは一瞬「冷静に考えてみれば虐待に分類されるのでは?」と虎に視線を送ったが、彼は悪いことをしたと全く思っていない様子だった。

プロヒーローなのだから流石に理由なく暴力を振るうことはないだろうと思いなおし、今のは言葉の綾であろうと流すことにする。他の生徒たちが何とも言えない表情を虎に向けていることは気にしないことにした。

 

「……いや、気にするな。続けてくれ。」

「はい。僕が殴り飛ばされたときに鹿目さんが驚いちゃったみたいで、僕のところに駆け寄ったんです。それでその、て、手を、僕の手を握ってきて……」

 

何かを意識してしまい慌てる緑谷に、まどかは少し困ったような表情を向けた。

 

「えっとその、私、立ちあがるのに手を貸そうとしただけだったんです。」

「ガッハハハハ!青いな若造共!」

 

虎が豪快に笑うが、取り合う者はいなかった。

 

「その時、思わずなんだと思うんですけれど、個性を少し発動してしまったみたいなんです。その時、僕の体、いえ頭の中で不思議なことが起こりました。」

「不思議なこと?」

「頭の中にその、人が映、あ、ちょっと待てよ……」

 

緑谷は突如として口ごもる。自分が何か不味いことを言いかけてしまったように。

 

「……えっと、すみません。なんとも形容しづらいものが頭に浮かんだような……そんな感じでした。それが終わると、黒い物が僕の手から突然出てきたんです。」

「ホントビックリしたよね緑谷君。私には不気味な鞭みたいなものに見えました。」

「腕から……か。」

「はい。それが鹿目さんの方に出ちゃったので、すごく焦りました。でも、時間が経つとすぐに消えました。煙みたいに。……以上が一部始終です。すみません、僕には何がなんだかさっぱりなんです……」

 

相澤は頭の中で彼の個性について思い返す。

緑谷の個性は「超パワー」。フルパワーで使えばオールマイト並の威力となるが、反動で自損してしまうという難儀な個性。

 

最初、相澤は余りに彼の個性と異なるために緑谷は関係ないのではと考えていたが、話を聞く限りは彼の個性によるもので間違いないと言えた。

 

「お前が謝ることじゃない。こういう不測の事態に備えて俺たちがいるんだ。一応聞くが、あの黒い物体が出たのは今回が初めてか?」

「はい、初めてです。今出そうとしても……うーん、出ませんね。」

「緑谷、出そうとするな。俺たちが許可を出すまではその力を出さないようにしろよ。」

「え、え?つまり禁止ってことですか?」

「そうだ。今日は虎の下で基礎的な肉体増強の訓練に励め。」

「せっかくの個性訓練なのにですか!?ちょっともったいない気がするんですけど……」

「緑谷、我も同意見だ。」

 

虎も同意する。緑谷は何故と視線を送った。

 

「何故、と言いたげだな。この「我ーズブートキャンプ」は、肉体の損傷を緻密に計算し最高効率で筋肉の超回復を促すプログラムとなっている。だが、今ここに我が制御できぬ不確定要素が現れたわけだ。我は、その個性の使用許可を出すことによる責任を負いきれん。だから我からも禁止とする。」

「そんな……」

 

緑谷は、個性の成長の機会を失ったことに落胆してしまう。

 

「な、なあ……緑谷。怖くないのか?」

 

回原がおずおずと尋ねる。

 

「えっと、何が?」

「だってお前、体育祭で腕ボロボロにしてたじゃん。マジでグロくてB組の奴ら全員引いてたぞ。アレ痛くなかったのかよ?」

「すごく痛かったよ!?」

「『痛かったよ!?』って『何当たり前のこと聞いてるんだこの人』みたいなテンションで言うなって!つまり、お前また個性を暴発させて怪我するんじゃねえかって心配してんだよ!」

「あ、あー!なるほど、確かに!」

 

緑谷はここでようやく回原の懸念に合点がいったようだった。

 

「回原の言う通りだ。加えて、この場にはリカバリーの婆さんがいない。身体能力や個性の性能強化が目的の合宿なんだ。そこで能力を低下させるなど本末転倒。……まさか美樹の能力に頼ろうとか考えていないよな?」

「ぜ、全然!これっぽっちも考えてないです!」

「ならいい。ついでに言えば、あの体育祭のお前の行動に関しては終わった後に雄英にクレームが入ったんだよ。『雄英は生徒の安全管理もできないのか』って。」

「そんなことが……」

「まあ正直そりゃそうだよね。放送事故とか言ってる人もいたし。」

 

さやかの発言に皆も頷く。対照的に、緑谷は「僕ってそんな風に見られていたの!?」と驚愕の表情となっていた。

 

「だから、お前には余計怪我をして欲しくない。大人の都合で悪いがな。」

「……分かりました。今日は身体能力の向上に努めます。……あの、相澤先生。合宿が終わった後は、いつ頃使用許可、というかあの黒い物を訓練する許可が出るんでしょうか?」

 

周囲の心配をよそに、緑谷は今の力をものにしたくて仕方がない様子だ。

 

「気が早い話だな。ま、しばらくお前がやることは訓練じゃなくて個性の調査だ。」

「調査、ですか。」

「俺はな。鹿目と美樹ほどではないにしろ、お前の個性も謎が多いものだと思っている。そして、さっき言った理由もあって特に怪我をして欲しくない。お前、状況次第では自分の身を顧みずに個性をぶっ放すだろう?入試の時も、USJの時も、体育祭の時もそうだった。だから、お前がそう言う状況に陥る前に徹底的に調べる。……俺はな、反省してるんだ。」

「先生が反省、ですか?」

 

緑谷は、相澤は自分のようなレベルの生徒相手に失敗などしない人間だと思っていたために驚きを隠せなかった。

 

「ああ。流石に生徒の自主性に任せすぎたか、とな。無論、雄英のヒーロー科たるもの自分の個性の面倒は自分で見るべきだ。つまり俺はお前に個性の制御、それを自律的に行えることを促してきた。だが、その結果があの体育祭だ。」

「すみません、僕が至らないばっかりに……」

 

緑谷の中で、体育祭が失敗の象徴になりつつあった。

 

「いや、お前は実際自分ができる範囲でやれることをやっていた。「自律」という面では十分合格だ。しかし、お前の個性はお前の手に余るようだな。珍しいケースだが、そのパターンが頭から抜けていた俺にも責任はあるだろう。この合宿が終わったら、個性関係の病院に行って検査だ。治療費は俺か雄英から出すから心配するな。お前の個性は他と違うのか、違うならどう違うのか。お前の個性が妙に遅咲きだったことを含め、謎を解明するぞ。」

「…………」

 

緑谷は、相澤が予想もしなかった表情を見せる。

何か思い詰めているような表情。まどかとさやかの個性について話している時も同じ表情をしていた。

 

一体なぜそんな反応をするのか相澤は不思議だったが、一つの可能性を思いつく。

 

(……緑谷、まさかお前もか?)

 

問いただそうとしたとき、それは緑谷の方から切り出された。

 

「相澤先生。」

「……なんだ。」

 

緑谷は決意と苦渋に満ちた顔。

 

出てきた言葉は、相澤としては正直聞きたくない言葉だった。

 

「二人きりでお話しできる場所に移動していただけませんか?僕の個性について、とても大事な話があるんです!」

 




オールマイト。OFAに関しては色々事情があったんだろうけど、流石に相澤先生にすら言ってなかったのはどうかと思うんだ。

・我ーズブートキャンプ
アニメで映ってたの回原だと思うけど、なんで個性の旋回使わないんだろう……?それと拳藤は参加していそうな気がするけど、まあとりあえず原作通りということで……
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