個性『魔法少女』   作:Assassss

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高評価と感想がマジで多くてビビってます。誤字報告も含めありがとうございます。

ウォーターホース夫妻の設定捏造、残酷描写等々注意。


VSマスキュラー

 

佐倉杏子は無意識的に自分に言い聞かせていた。私は自分の為に戦うと。だから、目の前の蹂躙に介入する必要などないのだと。

勿論、マスキュラーと戦うのは、殺害宣言を受けた以上決定事項だ。だが、今戦いだすと結果的にこのヒーロー2人を助けることになる。ヒーローは嫌いだ。だからくたばるまで待つか。……彼女はそう考えていた。

ただ。

 

「!洸汰逃げるんだ!早く!」

「あ、あああ……パパ、ママ!」

 

そこには、息子を何としても守ろうとする父親の姿があった。ボロボロになりながらも、勝てない相手を懸命に何とかしようとしていた。佐倉杏子は、自分の父親と大違いだ、と思った。どう違うのかと言われると、もちろん色々違う。おそらくは酒におぼれていないのだろうし、子供を罵倒しないし、周囲から拒絶など当然されていない。

だが、そんなロクでもなくなってしまった自分の父親が嫌いかと言われると……分からない。自分の願いのせいで嫌な思い出はたくさんできてしまったが、それ以前は本当に優しく、正直な父親だった。よく頭をなでてくれた、愛情ある父親。……その優しさがかえって貧乏を呼び寄せてしまったが、今でも杏子はその優しさが悪いものだったとは思っていない。

……そのような優しさを、目の前のヒーローの父親は、持っているのだろう。でなければ、あんな必死の形相で、痛みに耐えて立っているなどできない。それが今にも、マスキュラーと呼ばれる凶悪殺人犯にグチャグチャにされようとしている。

 

「じゃあな死ね!血、見せろやあああ!!!」

 

そして、佐倉杏子はマスキュラーの足に多節棍をひっかけ転倒させた。

 

「えっ?あれ?」

 

その直後、彼女は自分の行いを自覚した。ピンチのヒーローを助けた。大嫌いのはずなのに。

 

「……はぁー……、何やってんだろ、アタシ。」

 

杏子は深くため息をつく。そんなに私は父親のことが頭にあったのか、と。……いや、別に私はヒーローとしての彼らを助けたんじゃなくて、父親としての姿が立派だったから助けただけ。……などという理論武装が、彼女の頭を巡る。

本当はあんな父親にいて欲しかったという本音を認められるほど、今の彼女は素直ではないのだ。

 

「……ま、どうせこいつら生きてようが死んでようが、アタシには障害じゃないもんな。」

 

杏子は、横にいた洸汰に少し言い訳するように言った。彼は相変わらず腰を抜かしているが、彼女が父親を助けた光景を目撃しており、すこし「そこまで悪い奴じゃないんじゃないか?」という気持ちが芽生えていたため、目線は先ほどほど鋭くはない。

 

「さて……久しぶりに派手にやるかあ。」

 

そう言うと、彼女は赤い光に包まれた。直後、ポン、ポン!というある種のかわいらしさを伴う効果音とともに、彼女は魔法少女の姿へ変身した。

 

「……いてて。……おい、今のやったのは……お前か?女のガキ。」

 

マスキュラーは、彼女の多節棍をひっつかもうとした。それを見て、杏子は反射的に多節の途中をパージする。掴まれて自分が逆に引っ張られることを直感したのだ。そして、相手をしげしげと観察し、どういう相手なのかを考察する。

 

(うーん……典型的な筋肉野郎だな。遠距離攻撃はできないっぽいけど、その分移動も素早い。鎖であのパンチを防御……頑張ればできそうだけど、魔力も食うしな。ここは相手をスっ転ばすことを考えるべきかな?)

 

などと戦術を考えながら、マスキュラーに向かい歩いていく。口が寂しいのでポッキーを一本取り出し口に含んだ。

 

「……そうさね。やったのはアタシ。いやー、久々に手ごたえのありそうなやつを見つけたよ。」

「……は、ははは!おいガキ!なんだその恰好は!ヒーロー気取りってわけか!?」

 

佐倉杏子は少しイラっとした。確かにこの格好がヒーローっぽいのは自覚しているが、自分をあんな連中と一緒にしないで欲しい、と。もう少し悪っぽいデザインにしようかと、最近彼女は悩んでいる。

 

「は?ヒーローなんて連中と一緒にすんなよ。」

「へええ?ヒーローが嫌いなのか?お前!ヒーローはうざってえよなあ!いつもいつも正義ヅラしやがってよお!いっつも、いっつも、俺と会敵すると全力を出さずに多対一で袋叩きにしようとしやがる!個性使わないでよお!お前はどうなんだあ!?思いっきりその個性で俺と戦って殺されてくれるのかあ?」

 

……この男は、ヒーローが正義ヅラして他者を助けていることよりも、ヒーローがまともに自分と戦ってくれないことに怒っているらしい。自分に正直な奴だと、佐倉杏子は思った。

 

「……半分正解。良いぜ、思いっきり戦ってやるよ。でも半分は不正解。だってアタシがお前を殺すんだからな!」

 

佐倉杏子は、マスキュラーに向かい槍と一体になって突撃した。杏子はマスキュラーと比べ小柄な体だ。想定以上の突撃スピードだが、これなら受けられる、とマスキュラーは考え、防御を選択。腕部に筋肉装甲を用意し、腕をクロスさせた。直後、槍がそこへ衝突する。

 

「!?うぐ、うおおおお!?」

 

しかし、その衝撃は思っていたよりもはるかに大きかった。まるで自分が持てる最大威力で殴られたような衝撃。明らかに、彼女が持っていたであろう運動エネルギー以上のものだった。

ズガガガと、筋肉の装甲が削れていくが、やがてその勢いはマスキュラーの筋肉装甲に吸収され、停止する。

そして、その槍先を個性で再生した筋肉がからめとり、固定する。

 

「くくく……思っていた以上だったぜ、ガキ。そこの雑魚よりは手ごたえはあるな。だけどよお。」

 

マスキュラーは、もう一方の腕で杏子の腕をつかむ。彼女の腕は、マスキュラーに比べて細い。

 

「不用意に近づきすぎだぜ!捕まっちまって残念だったなあガキ!まずは腕の一本をぶっ壊してやるよ!」

 

マスキュラーが、掴む手に筋肉を纏わせ、握りつぶそうとする。次の瞬間には、彼女の腕は彼に握りつぶされるだろうと思われた。

 

「血、見せろ…グアア!?」

 

マスキュラーがそう叫んだ瞬間、血が噴き出した。ただし、佐倉杏子の腕からではなく、彼女の槍をガードしている方の腕からだ。

 

「不用意はアンタだよバーカ!」

 

彼は腕の痛みにひるみ、慌てて槍を引き抜き投げ飛ばし、さらにバックステップで距離を取った。

何が起こったのかを確かめるために、彼は腕を見た。腕には、筋肉装甲を貫き骨まで届こうかという穴が開けられていた。マスキュラーが彼女に目を向けてみると、彼女の槍の先端がドリルのように高速回転しているのが見えた。ここで彼は、彼女が持っている得物が単なる槍ではなく、個性産の槍だということを思い出す。

 

「……武器生成の個性か?さっきも物理的におかしく伸びやがってたな。」

「さーね。アンタがそう思うんならそうなんじゃねえの。」

「面白え。お前、俺が殺してきた中で一番生意気なガキだよ。強さもピーピー泣きわめいてた今までのガキ共とは段違いだ。よぉし、遊んだ後はじっくりなぶり殺してやるからな。」

 

傷穴を筋肉で塞いだマスキュラーがそう言うと、マスキュラーは杏子に突っ込んでいった。今度は足元のトラップに気を付けつつの突進だ。彼女が武器生成の個性ならば、本体はそこまででもない。だから武器に気を付けつつ、接近するのが得策だと考えた。

 

「おっと危ない!」

 

しかし、彼女は横に飛んで回避した。5m程の彼我の距離を0.5秒もかからずにマスキュラーは詰めてきたのだが、その異常肥大した筋肉を伴う拳はただ地面を砕いただけで終わった。彼が見たのは、彼が突進を始めてから、大して踏み込みもせず、足だけの力で4m程その場から跳躍した彼女だった。

 

「武器生成に加え増強型並みの反射神経と身体能力を持つ個性……なるほど、こいつは生意気なガキになるのも納得だな。今まで殺し合いで負けなしだったんだろ?俺みたいにな!」

 

マスキュラーはさらにそこから彼女の居る方向に飛び掛かるが、

 

「ほい!ほい!ほれ!」

 

彼女は軽やかなステップを踏むようにすべて回避してしまう。さらには。

 

「カウンターだよ!」

「ってェ!」

 

隙を見つけ、槍で逆に斬りかかってくる。

 

「……だが、浅いィ!」

「ちぇっ」

 

しかし、マスキュラーの筋肉装甲が厚いため、カウンターで斬り返す程度ではあまり深く斬れない。彼女の一撃はコンクリートも砕ける程度にはあったのだが、血狂いマスキュラーの異名は伊達ではなかったのだ。しばらくそういった攻防が続くと、彼女は無理やりカウンターを狙うのはコスパが良くないと判断し、回避のみに専念しだした。

おちょくるように回避を重ねる彼女に、少しづつマスキュラーは苛つき始める。

 

「おいおいおい!ずっと逃げてるばかりかあ!?これじゃつまんねえ!さっきみてえに真正面から来いよガキ!それとも、さっきのが通用しねえから正面から戦う勇気はないってかあ!?」

「しらねーよ!なんでわざわざ真正面からやってやらんといけないんだあ!?」

 

マスキュラーは、相手がちょこまかと逃げ回ることにあまり慣れていなかった。同じような身体増強系のヒーローと戦ったことはもちろんある。しかし、ヒーローは人質や財産をも守らなければいけない存在だ。マスキュラーは、こういった逃げ回る相手に対しては、他の一般人を攻撃することで無理やり引き戻させようとする、ということをしてきていた。だが今目の前にいるのは、ヒーローではない。どころかヒーローが嫌いだと言う。おそらくそこにいるヒーローやその息子を攻撃しようとしても、彼女はわざわざ止めようとしない。ヒーロー嫌いを聞いた時は多少の親近感も湧いたが、いざ敵に回ると人質戦法が取れず厄介だと思った。

 

そして杏子も、少し困っていた。逃げ回っているのは考え事をしているのと、マスキュラーの能力を観察しているからだ。そこそこの頻度で、足元に鎖を用いたトラップを置いてみてはいるのだが、マスキュラーは回避してしまっている。伊達にプロヒーローを何人も殺してはいない戦闘センスだった。

 

(うーん、さっきのやつ、思いっきりやったつもりだったんだけどなあ。)

 

矢の部分をドリルにした攻撃のことだ。あれがリスクなくできる最大威力だったのだ。さらに上の威力の攻撃もあるが、ソウルジェムに気を配らなければいけないなどといった制約がある。なので、消耗を考えればできればそういった攻撃はしたくなかった。

 

(とはいっても今はグリーフストーンがたんまりあるし、いっちょかましてやるのも悪くねえか?)

 

そう考えていると、マスキュラーが不意に動きを止めた。杏子も、警戒して相手の様子を伺う。

 

「……いいぜ。遊びは終いだ。お前強いし、それ以上にうぜえもん。ちょこまかちょこまかと。」

「はー?今までアタシに攻撃できなかったお前が『遊びは終いだ』なんて言ってもだっせーよ!」

「そうだな。だからここからは、本気の殺し合いだ。」

 

マスキュラーの声が一段低くなり、雰囲気が変わる。どうするつもりかと彼女が注意深くマスキュラーを観察していると。

 

ドカン

 

「!グフッ……!?」

「やああっと一発入ったなあ、ガキィ!」

 

マスキュラーは再び佐倉杏子に殴りかかったが、その速度は先ほどまでの倍ほどもあった。想定以上の速度に、佐倉杏子は回避ができなかった。槍でのガードも間に合わず腹を殴られ、そのままマスキュラーの突撃の勢いのままに建物の壁に突っ込んでしまった。

 

「オエ、ケホッ……なんで急に速くなるんだ!?」

「今まではお遊びだったッていっただろッ!?真正面からのぶつかり合いをしようぜ、なあ!?」

「……チッ!」

 

マスキュラーの個性は「筋肉増強」。個性が持つ限りは、筋肉を無尽蔵に増やせるのだ。しかし、今までのマスキュラーは限界まで増やしたものではなかった。その理由は、骨だ。あまりに筋肉を増やしてしまうと、骨の方が耐えれられなくなってしまう。もちろんマスキュラーの骨格は戦闘狂らしく鍛え上げられているものだが、あくまで常人の範囲内で、個性の対象外。ゆえに、普段は使う筋肉の量はセーブされていた。

だが、ちょこまか動き回る杏子に対し怒りが爆発したマスキュラーは、骨の損傷を無視して戦い始めたのだ。事実、先ほどの跳躍で、骨には少し罅が入った。彼が本気を出すということは、そういうことなのだ。

 

杏子は、勢いが止まったマスキュラーを持ち前のパワーで軽く弾き飛ばした。だが、マスキュラーは着地した瞬間すかさず彼女に飛び掛かる。

 

「オラオラオラァ!もうさっきみたいに逃げ回れねえぞォ!?とっとと殺されろやあ!」

「断るに決まってんだろーがッ!」

 

そうして、連続で杏子に殴りかかるマスキュラー。彼のスピードを警戒した彼女は、槍でのガードに全力を注ぐようになった。その甲斐あって、今のところ全て槍でガードしているが、マスキュラーの殴打は回避は難しい攻撃ばかりとなった。大質量を伴う殴打が連続して杏子を襲っており、少しずつダメージが蓄積していく。ダゴン!ドゴン!という、まるでトラックでも衝突したような衝撃が杏子を襲っていた。

 

対してマスキュラーも、さらにイライラを募らせていた。

 

「チッ、タフネスまで個性持ちか!」

 

ダメージを与えられているのは良い。相手の攻撃手段も、先ほどの突撃が最大出力ならばすべて対処できる。ダメージレースでは今のところ勝っている。しかし、ガードされていることを加味してもその量が小さすぎた。身体能力も個性で強化されているのは分かっていたが、体の頑丈さまで強化されているとは思わなかった。実際のところは、杏子は魔力を防御に回して耐えていたのだが。

このまま時間を掛けるのも不安だと、マスキュラーは戦法を変えることにした。彼は、先ほどまで殴打の為に杏子にとびかかっていた。しかし今回は違う。

 

ガシッ、と。

 

「!?いてててて!」

「つぶ、れろやァ!」

 

彼は人を殴って血が出るとこを見るのが好きだったので、ずっと殴り続けていた。しかし今回、彼は彼女の頭を鷲づかみにする。そして、全力で筋肉で握力を強化し握り始めた。彼にとっては、彼女の持つ槍のような武器で体を貫かれるリスクがある行為だが、このままでは埒が明かないと、賭けに出たのだ。

 

(マズい、このままじゃあ流石に死ぬかも……!)

 

何もしなければ1秒で自分の頭が握りつぶされることを予感した彼女は、魔力で頭を防御しつつ、流石に出し惜しみせずに魔法を使うことを決意する。

 

が、その時。

突如、マスキュラーの視界が水流により塞がれた。

 

「ぶへっ!?……なんだあ?」

 

彼は今の攻撃の出所を反射的に探ろうとした。が、その瞬間一瞬気が緩み、その一瞬を突かれて槍で手を刺された彼は、杏子を手放してしまった。

舌打ちしつつも彼があたりを見渡すと、そこには応急処置だけ施したと思われる、ウォーターホースの父親の姿があった。

 

「そ……それ以上の戦闘行為は許さないぞ、マスキュラー!そっちの君も、よく頑張った。助けずに離脱してしまいすまなかった!マスキュラー、お前はプロヒーローに囲まれている。大人しく投降しろ!」

 

2人の周囲には、4人のヒーローが集まっていた。マスキュラーと杏子が戦っている間に、父親の方はボロボロの体に鞭打って、気絶した母親の方をおぶりつつ洸汰も連れ、遠くへ避難させた。程なくして、通報により駆け付けた救急車と、短時間で来ることができたヒーローと接触。母親を救急車に載せて病院へ運んでもらった後にヒーローと状況を共有し、マスキュラーと杏子を確保するためにここに戻ってきたのだ。

ひとりの植物系のヒーローが、マスキュラーを植物の根のようなもので拘束した。同時に、ほかのヒーローが叫ぶ。

 

「そこのあなた、私をジッと見て3回瞬きして!」

 

彼女の個性は『遠近法』。この個性は、彼女を見ながら3回瞬きをすると、彼女の正面へ移動してしまうという個性だ。戦闘にも役立つが、3回という回りくどさなどから、基本的には災害救助の場面で活躍するものとなっている。

だがそれを聞いて、マスキュラーはさらに気分が悪くなった。

 

「……あ゛あ゛?コイツを盗る気か!?でしゃばんな雑魚ヒーロー共!」

 

マスキュラーはブチィ!と拘束していた根をいともたやすく引きちぎり、遠近法のヒーローへ飛び掛かる。そして顔面を本気で殴った。硬化系でもない彼女の頭はスイカのようにはじけ飛び、首なしとなった彼女の体が一拍遅れて倒れこんだ。

 

「救けに来んなよ、雑魚のくせによぉ!」

 

マスキュラーは興奮状態のまま、さらに別のヒーローへ襲い掛かる。彼は個性で薄いバリアのようなものを前面に展開していたが、それごと彼の右腕にすりつぶされた。コンクリートを当然のように割る威力のパンチにさらされた人体が、原形を保っているわけもなかった。そしてさらにそれは、遊びでもなく、恨みのようなものが混じった殴打だった。

 

意気揚々と集まったヒーローは、しかしマスキュラーの凶悪性に震えだす。

 

「あ、アイツの根の拘束があんなに簡単に!?」

「速すぎる……いくらなんでも!オールマイト並じゃねえのか!?」

「ヒイイィィィ!し、死にたくねえ!」

「干渉系個性のヒーローがいただろ、何やってんだ!?」

「お、俺が個性の『怠化』で筋肉を抑えようとしてるけど……密度が高すぎで殆ど効いてねえ!」

 

マスキュラーは、その凶暴性に当てられ弱気になったヒーローたちを片端から殴り殺しながら叫ぶ。

 

「人がせっかく殺そうとしているところに水差すなよぉ、なァ!見ろよ、このガキは俺から逃げねえぞ?個性思いっきりぶっ放せる奴だ。お前らは一発で終わりだろうが、ガキ以下の血袋ども!ゴミはゴミらしく見えねえところでガタガタ震えてろよ!」

 

駆け付けたヒーローには、そもそも実力が根本的に足りていなかった。

彼らは、ウォーターホースの父親がとにかく早く来てくれと、HN(ヒーローネットワーク)で呼びかけた結果最速で集まった者達だ。まだ呼びかけから40秒も経過していない。いくらヒーローは迅速に駆け付けることが大事とはいえ、40秒というのはオールマイトやホークスでもない限りあまりに不自然な短さだった。

一応、この周辺でマスキュラーの目撃情報があったとはいえ、それで直ちにヒーローが集結するわけではない。彼は個性により移動能力も高いため、目撃情報があっても駆け付けた頃にはもう遠くの別の場所で目撃情報、などということもザラなのだ。それなのに、ここへ40秒もせずに集まったこのヒーローたちは何なのか?言ってしまえば、偶然近くにいた比較的暇なヒーローなのである。ヒーロー飽和社会と言われる現代では、一部のヒーローの質の低下が嘆かれているが、駆け付けた彼らはまさに嘆かれる対象となっている者達。ビルボードチャートでも3桁に食い込めない者達なのだった。

彼らには、危機感も足りていなかった。「マスキュラーは凶暴らしいけど、とりあえず様子見だけして自分の個性が効かなそうなら退散するかなぁ。」程度にしか考えていなかった。だから、マスキュラー相手に碌に準備もせずに40秒でそのまま来てしまった。マスキュラーは、逃げようと思って逃げられるほど甘い相手ではない。甘い相手しか相手にしてこなかった彼らにとっては、逃げようと思っても逃げられないことは全く想定していない状況なのだった。

 

「おい水のヒーロー!せっかくこの強いガキと楽しくやってたのに、興ざめのイライラさせるだけのゴミ共を連れてきやがって!オレをそんなに怒らせてえのかあ!?」

「……クソッ」

「せめてこんぐらいできる硬い奴を連れて来いよなあ!?」

「うおいいきなり来んな!?」

 

マスキュラーは杏子にとびかかって見せる。彼女は情けないヒーローたちとは違い、特に苦も無くマスキュラーの攻撃をガードした。

父親は、苦虫をかみつぶしたような顔をした。まさかここまで駆け付けたヒーローが情けないとは思わなかった。駆け付けたヒーローはあっという間に全滅してしまった。しかし、彼らの助けが無くても、彼女は戦えるのだった。父親は、彼女がこれほど強いとは予想していなかった。彼は助けを呼びに行ったために、最初の杏子の一撃以外見ていないのだ。さらによく見れば、マスキュラーの腕には傷跡らしきものが見えた。防戦一方などではなく、一定の攻撃にも彼女は成功していたことを物語っていた。

はっきり言って無駄死にとなった4人。父親は、ここに連れてきてしまったことに対する凄まじい罪悪感を持った。しばらく呆然とし、一つの疑問を口にする。

 

「な、なぜだ……」

「あ?」

「お前……何故そんな、『興ざめ』なんて理由で人をいたぶる!?なんで、子供をなんの遠慮も無く殴れる!?何故身を削ってまで他者を傷つける!?良心がひとかけらも、ほんの少しでも無いのか、お前は!?」

 

ウォーターホース夫妻は、普通の人間が努力してなった、普通の人のヒーローだった。いい大学を出て、結婚して、家庭も持った、普通の幸せを手にした人だった。ただ、他人より能力があって、人助けもそれなりに心が満たされることだったので、努力してヒーロー免許を取得し、ヒーローとなった。

だから、彼はマスキュラーの考えることに絶対に共感ができない。人を傷つけることは、「まあ嫌な相手なら別かもしれないが、普通は良くないと感じるだろう」と、特に疑問なくそれが当たり前だと思っている。自分が痛い思いをしているなら、一旦はやめるのが人間だろうと思っている。だから、他人を傷つけることが人生の目的のような狂人マスキュラーには、絶対に共感できないし、なぜ彼が怒っているのか絶対に理解できない。

ウォーターホース夫妻はそうだろうということを、マスキュラーは今までの人生経験から大体理解していた。どうせ理解できないんだからもっと怒らせてやろうと、マスキュラーはさらに煽りだす。

 

「何言ってんだァ?そうだな、『何故『興ざめ』なのに他人を許せる!?なんで、子供を殴れない!?なぜ身を削ったら殴るのを止める!?他人を傷つけようという気持ちが、ほんの少しでも無いのか、お前は!?』」

 

マスキュラーはニヤニヤしながら、父親の口調を真似て言った。そして、少しずつ彼に近付いていく。

 

「……は?」

「俺はそう思ってんだよ。お互い、やりてえことをやってるだけさ。俺はお前らを殴りたい。お前はそこのガキを助けて、俺を捕まえたい。な?お互いやりたいことをやってるだけだろ?なァにをそんなに不思議そうにしてるんだァ?」

「ふ……ふざけるな!駆け付けたさっきのヒーローたちは、そんな理由で!」

「知らねえよあんな雑魚共。死んだのは弱いアイツらが悪い。ヒーローはそうやってすぐ(俺達)に責任転嫁する。良くないぜ?そういうの。実力以上の俺に挑んだ雑魚だったのが悪いんだよ。俺はそんなことしねえ。自分に降りかかったことは全部自分のせいだ。今まで俺もそりゃあもうたくさん殴られたがよ、何一つ恨んじゃいねえ。その分俺が弱かっただけだ。それが嫌だから俺は強くなった。な?俺は正しいだろ?そんで弱いアイツらが悪ィんだよ!」

「ム、無茶苦茶な、貴様!」

「そして、これから死ぬのも、お前のせいだァ!」

 

マスキュラーは、父親に向かって腕を振りかぶる。そして、圧倒的な質量と筋力を以て振り下ろされた。

しかしそれは途中で、またしても佐倉杏子に阻止された。

 

 

 

盟神抉槍

 

 

 

「……!?グ、グオオオ!?」

 

マスキュラーの背に、佐倉杏子の槍が突き刺さる。着弾の瞬間にはなぜか爆発が発生した。

 

「はあーあ。私も鈍ったかねえ。黙って見てねえで、さっさとこうすればよかったよ。弱い奴ばっかと戦ってた弊害ってやつかな?」

 

だが、その槍は先ほどの数倍もある大きさの大槍だった。さらにその後ろには、何節もの多節棍が接続されていた。質量でいえば10倍以上には確実になっているであろうという、彼女の武器の変貌。その威圧感は、槍というよりも大蛇を思わせる凶悪さだった。

その槍が、一体何の力を受けているのか、ズガガガ!という掘削機を思わせる音とともに、マスキュラーの筋肉装甲を貫かんとしていた。背で受け止めているマスキュラーの足元はひび割れた。

そして、その槍部分には、佐倉杏子が立っている。挑発のつもりなのか、片手でリンゴを齧っていた。細かく振動する槍の上に当然のように立ち、もう片手には多節棍を持ち、不敵な笑みでマスキュラーを見つめている。

佐倉杏子は、リンゴを魔法で無理やり口に押し込み、乗っている槍の柄の部分にその空いた手を付いた。

 

「そら、もういっちょお!」

「オオ、オオオオオオ!?」

 

大槍が赤く発光したかと思うと、追い打ちするようにその威力が上がった。マスキュラーは筋肉装甲により貫通、というよりも大槍の大きさ的に圧潰せんと、マスキュラーを押し込み始める。彼の踏ん張っている足が絶えずコンクリートを割りながら、彼はあまりの衝撃にひたすら耐える以外のことを考えられなかった。

先ほどの攻撃とは明らかに威力が違う。マスキュラーは命の危機を感じ、このまま耐え続けることはできないと、防御することを止めその槍を全力で逸らすことにした。

 

「この……ふざけやがッて!!!」

 

痛みに耐え、マスキュラーは全力で腕を振るった。先ほどの刺突力はどこへやら、大槍は逆らうこともせず、自然にあっさりと彼の背から離れた。彼女も同様で、軽いバックステップで距離を取った。

彼の背はもう筋肉装甲が保てず、剥がれて背骨が露出していた。背骨にも罅が入っている。大動脈はギリギリ破られていなかったが、いくらかの臓器が傷つき、一部は破裂していた。

 

「はァ、はァ、クソ……血が止まんねえ……」

 

彼の個性では、血は増やせない。傷口は当然筋肉で塞ぐが、その出血分は戻らないのだ。

 

「まぁ、アタシも色々考えたんだけどさあ。」

「あ、あ……?」

 

佐倉杏子は、いつの間にか元の大きさに戻った槍を、首の後ろに回しながら言った。

 

「おめーのこともやっぱ嫌いだなって思った。」

「な、何を言って、やがる……?」

「ちょっとくらいは面白い話が出来るかと思ったけど、やっぱいいや。もう殺す。」

 

彼女はスッと、目を細めた。マスキュラーの脳内で警鐘が鳴り始める。

 

彼女の「面白い話が出来るかと思った」というのは、嘘ではない。

 

ヒーローが嫌いだという話を聞いて、多少は共感ができる相手が見つかったかと思ったのだ。奔放な生き方も自分に近いようであるし、実力も兼ね備えた存在。この世界は、どいつもこいつもヒーローヒーローって馬鹿みたいだと、そううんざりしていた佐倉杏子にとっては新鮮で親近感の湧く話だったのだ。

 

だが。

 

「俺はお前らを殴りたい。」「やりたいことをやっているだけだ。」

 

というマスキュラーの在り方には、どうしても共感できなかった。自分も同じことをしているはずなのに、どうしてかその在り方を良いものだと思えなかった。

 

「自分に降りかかったことは全部自分のせいだ。」

 

これは、かつて他人の為に願いを使い、絶望しそうになった美樹さやかに彼女が投げかけた言葉だ。なんでも悪いことは自分のせいになるような、生き方をすればいいと。だが、それを本当に体現しているのであろうマスキュラーを、なぜか醜く思ってしまった。

 

(……アタシって外から見るとこんなんなのか?)

 

その疑問が、佐倉杏子の中で生まれた。彼女は確かに他人の為に魔法を使わないと決意したが、こんな風になりたいと願ったわけではない。ワルプルギスの夜の頃は、偶然気が向いたり利害が一致したから手を貸しただけで、そこに倒れているヒーローのことなど知ったことではない。……杏子は、自分のことをそうだと思っていた。

だが、その疑問を押さえつけることができず、結局コイツはウザいから死んでもらおう、という決意をしたのだった。

つまるところ、彼女は狂人ではなかったのである。

 

「はァ……?俺は殺されねえ。お前が俺に殺されるんだよォ!」

 

そう啖呵を切るマスキュラーだが、消耗具合の差は明らかだった。彼は少しずつ意識が遠のいており、目から力がわずかに失われている。

 

「いいや。終わりだよ!そらっ!」

「来るか……んな!?」

 

多節棍が、彼の右足に巻き付いていたのだ。増強型個性並の力を伴って、それはマスキュラーを振り回し始める。

マスキュラーは、足に絡みついていた多節棍の存在に全く気が付けなかった。実はこれは、彼女が先ほど盟神快槍を放った際に仕込まれたものだったのだ。なぜ彼は気づけなかったのか?

 

「……!そうか、俺の足、背骨か!」

 

先ほどの重い一撃で、彼の背骨の中の脊髄は損傷してしまっていたのだ。この時点で、マスキュラーの敗北はほぼ確定してしまっていた。脊髄の損傷は、人によっては四肢の麻痺、感覚機能の喪失、自律神経機能の消失といった、様々な重篤な後遺症を残す。マスキュラーの場合、上半身は普通に動くが、腰から下からの感覚が無くなってしまっていた。興奮状態なのも相まって、彼は喪失した足の感覚に気が付けなかったのだ。そしてもう、彼は今後おそらく一生足を使って歩くこともできない。

 

が、それで狼狽え戦闘を止めるような、血狂いマスキュラーではなかった。

 

「……まだ終わってねええええェェ!!!」

 

下半身の筋肉はもう使えないのならば、上半身でこの状況を脱すればよい。彼は、上半身に再び筋肉を纏わせ、渾身の力でスレスレにあった壁を殴りつけ、佐倉杏子の方へ向かい加速する。振り回されてもなお正確に方向と力加減をコントロールし彼女の方向へ飛び出せたのは、彼の戦闘センスのなせる業だった。

 

「うおっ!?あぶねーなお前!」

 

初撃は回避されてしまった。だが、まだチャンスはある。彼はそう考え、振り回されつつも周囲の状況に神経をとがらせる。

だが、その思考は誤りだった。

 

「しょーがねえなあ、上でやるかあ。」

「んな……?」

 

佐倉杏子はそう呟くと、何を思ったのか、マスキュラーを振り回しつつも軽やかな身のこなしで、戦闘でボロボロになっている建物をヒョイヒョイと登っていく。

そして、彼女は彼をその間ずっと振り回しており、その速度は上昇していく。

 

彼の誤りは、彼女は自身を壁や地面に叩きつけてダメージを与えてくるだろうと考えたことだ。今まで、同じことをやってきたヒーローはいつもそうしてきたのだ。

佐倉杏子も、最初はそうしようと思っていた。しかし先ほどの振り回されながらの突進を受け、彼女はやり方を変えたのだ。

 

屋上に上がった彼女は、さらに近くの一段高い建物に飛び移り、周囲にひとまず邪魔な建物が無いことを確認する。そして、足元の建物を魔力で固定し。

 

「……!?な、何をする、つもりだテメェ!?」

 

マスキュラーは振り回されながらそう呟いた。彼女は振り回すことを止めない。そして、回転に使う分の多節棍を徐々に増やしていき、しかし回転数は落とさない。そのせいで、マスキュラーにかかるある力が増していった。

 

遠心力。

 

誰もが知る、回転する物体に乗っていると、外側に向けて引っ張られるように感じるあの力だ。

 

「……!そ、そうか、オレ、を、あっ…………」

 

回転に使われる多節棍の長さは最大10mにもなった。そしておおよそ秒間3回転という、魔力強化された多節棍だからこそできる回転数が保たれていた。それは、マスキュラーに地球の重力の300倍という加速度を、彼の内臓全てに与えた。彼女は、マスキュラーの身体が千切れたらグリーフシードの回収が面倒だと思っていたが、彼の体内にも張りめぐらされていた筋肉装甲が無駄に頑丈であったせいで、そうはならなかった。

この攻撃は、魔女を狩っていたころには割とよくやる戦法だった。とにかく表皮が固く、槍が刺さらない魔女や使い魔を相手にどうすべきかと彼女が頭をひねった結果、選択肢として生まれた戦法だった。ちなみに改変前の世界で、巴マミに編み出したこの戦法を「マミのリボンでも出来るんじゃねーか?」と提案してみると、「趣味が悪い攻撃だわ……」とあまり良くない顔をされた。

しばらくの間、佐倉杏子は魔力を多節棍の強度補強に使いつつ全力でマスキュラーを振り回した。そののち、「まあこんなもんかな?」と呟き、トドメとしてその回転の勢いのままコンクリートが敷かれた道路にマスキュラーを叩きつけた。

 

ベチャッ!

 

という気持ち悪い音とともに、マスキュラーは潰された。

魔女や使い魔を相手にすら、渋い顔をされる戦法を人間相手に実行したらどうなるか?佐倉杏子がそれに近寄ってみると……

 

「あちゃー、ちょっとやりすぎたかな……」

 

当然マスキュラーは死亡していた。おそらく、叩きつけられた瞬間ではなく、振り回された途中で心臓や脳がつぶれて死んだのだろう。その死体はかなりひどい有様で、口あたりから体の中身がいろいろと吐かれたような跡が見て取れた。彼女としても、ここまでしなくても良かったかと反省するものだった。

 

「……まあいいか。悪い奴同士のよしみで墓くらいは後で作ってやるよ。……っと、その前にグリーフシードっと。」

 

結局は先に襲ってきたコイツが悪いと結論付け、マスキュラーの死体の周辺に黒い物体がないかと探した。

だが、いつもはすぐグリーフシードが見つかるのだが、今回はなかなか見つからない。

 

「あれー?無いな……あ、あったあった。……て、これストーンの方じゃねえか!しかもちっせえ!ちぇー……」

 

この世界では、グリーフシードは(ヴィラン)を殺すことで入手できることが多いが、殺しても効果の低いストーンの方を落とすことがある。というのも、これは(ヴィラン)が深い絶望を味わったことに起因している、とのちに考察されている。魔法少女の願いにより生成された世界なので、いろいろと不確定事項や不明瞭なことも多いが、おおよそそういう傾向があるのだ。つまり、絶望といったマイナス感情を感じていない(ヴィラン)は、グリーフシードを落とさない傾向となる。そして、マスキュラーは人生に殆ど絶望していないタイプであった。なので、小さなグリーフストーンしか落とさなかったというわけだ。

 

「まあこういうこともあるか。あーあ、収支マイナスだぜ。さてコイツの死体は……ん?」

 

杏子がグチャグチャにしてしまった死体をどうやって運び、どこに埋めようか思案していると、不意に見覚えのある人影を見つけた。

 

「……あれ、お前、さっきのヒーローの子供か?」

「ヒィッ!?」

「……なにやってんだ?」

 

出水洸汰だった。彼は、父親に「ヒーローと一緒に逃げてなさい!」と言われていたが、そのヒーローが(父親がかなり慌てて指示を出していたとはいえ)聞き間違いというかなりの間抜けをやらかしており、戦場へと父親に同行してしまいマスキュラーに殺されてしまった。そして周りに誰も大人がいなくなりどうすればいいのか分からなくなった彼は、戦場へと、父親の様子を確認しに戻ってきてしまったのだった。

 

そして戦場に着いた彼が見たのは、屋上でマスキュラーを振り回して殺そうとする佐倉杏子だった。彼女は多節棍の制御に全力で集中してしまっていたために気に留めていなかったことだが、高速で振り回されていたマスキュラーはその途中、口から血だけでなく内蔵のような何かを継続して吐き出し続けるという、子供が見たらトラウマ確定の光景があったのだ。幸い彼の目には、高速すぎて詳しい状況は見えなかったが、それでも何が起きているかはおおよそ察してしまった。

さらにその後、佐倉杏子はトドメと言わんばかりにマスキュラーを地面に叩きつけた。その瞬間を、出水洸汰はバッチリ目撃してしまった。そしてその死体の悲惨さも。そして、マスキュラーをグチャグチャにした張本人が遅れてやってきて、なんでもないようにその死体を観察し始めた。ついでに彼女は返り血で血まみれ。これが彼が見たものだ。

 

そんな彼が、佐倉杏子に対してどのような感情を抱いているか。

 

「なんでそんなとこで座ってんだ?おめーはさっき」

 

杏子はちょっとした好奇心から彼に近付く。その瞬間、彼の顔が歪んだ。

 

「ヒィィィィィ!!!」

「ちょ、うるせー!」

 

その答えは簡単。「とても恐ろしい」だ。

マスキュラーが来るまでは、「綺麗だけどパパとママの悪口を言う(ヴィラン)っぽい嫌なお姉さん」だった。だが今は、マスキュラーと同程度に、いやそれ以上に彼女を恐れていた。まるで次は自分が殺されるんじゃないかというほどに。冷静に考えれば、そういうわけではないことが分かるものではあるが、まだ子供の彼にはそんなことはできない。

 

「こ、殺さないでええええ!!!」

「お、おいアタシは別にお前のことを殺さねーよ。」

「うわあああ!こ、こっち来るなああああ!!!!!」

「えええ……おい、お前の子供……気絶してやがんの。面倒くせーな……」

「ぎゃああああああ!!!」

「…………」

 

彼女は、呆れたように彼を見つめていた。そして、来るなという彼に構わず近付く。彼は泣きわめきながら後ずさるが、当然彼女の方が歩みが早く、あっという間に距離を詰められた。

 

「あばばばば……」

 

そう口にしながら震える彼を無視して、彼女は懐から一つの箱を取り出した。

 

「あー、その……」

 

そう言いながら、彼女は彼にその中身を見せた。

 

「食うかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、さっきのやったの、君か!?」

 

その声で、彼女は我に返った。見渡して、あまり良くない状況であることに彼女は気が付いた。実力のあるヒーローが集まってきたのだ。

彼女のマスキュラー振り回しは、障害物の無い高い所で行われた。つまりそれは、とても目立ったのだ。ウォーターホースの通報から駆け付けたヒーローに加えて、その光景を見た市民からの通報が相次いだのだ。

 

「あっ、やべ!じゃあな、ガキんちょ!それはアンタにやるよ!」

 

箱の中身を適当に彼に押し付け、彼女は持ち前のスピードでヒーローたちから逃げて行った。

その後、彼がその菓子を受け取ったかどうかは、もちろん彼女は確認できなかった。ただなんとなく、あの様子だと食べてくんねえだろうな、と思った。

 

そして、この戦闘が多くの人に目撃されてしまったことにより、彼女を取り巻く環境は大きく変化することになる。




・ウォーターホース
原作だと殆ど情報が無いので、普通に良いヒーローになってもらった。

・出水洸汰
原作と違い両親生存。しかし今回の戦いがトラウマになり、「ヒーローなんて危ない職業やめてよ!」と言うようになってしまう。

・一般雑魚プロヒーロー
正直弱体化しすぎ感があるけど許して
ちなみに彼らが虐殺されている間、杏子は「コイツら何しに来たんだ?」ってマジで困惑しながら見ていた。

・多くの人に目撃
建物の上で人をブンブン振り回してちゃそりゃ目立つ。ただ、彼女は戦いに夢中でそこまで頭が回らなかったようだ。
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