個性『魔法少女』   作:Assassss

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高評価、誤字報告、感想ありがとうございます。

ヒロアカアニメ完結おめでとうございます。


顔パン決定

はあああぁぁぁぁぁぁ???????

「ごめんなさい!本当に隠しててごめんなさい先生!」

 

緑谷は何度も腰を90度曲げて相澤に謝罪する。腹筋と背筋が鍛えられそうな謝罪だった。普段の相澤ならばこのような謝罪をされれば、モヤモヤしていようとそれ以上うるさく言うことは無い。本人が反省していることを口うるさく言うのは時間の無駄だからだ。それなりに年を取った彼は、どんな相手でも感情を制御することに苦労することも少なくなっている。

 

だが、今の相澤は緑谷を責め立てたい気持ちを必死に抑えていた。

 

緑谷が言い放った秘密。オールマイトから「OFA」という個性を受け継いだという衝撃的な内容は、相澤を感情的にさせるのに十分すぎた。

最近はまどかとさやかの個性の関係で多忙であったのに、その忙しさが倍になるかもしれないことに今から気が滅入って仕方がない。

 

(……落ち着け、落ち着け俺。せっかく緑谷が勇気を出したんだぞ。コイツは、言うべきことを言っただけ。ここで叱ってどうする。)

 

自分の都合で話を聞けなくなることなどあってはならないと、相澤は自分に言い聞かせる。

 

何度も深呼吸を繰り返し、息を整える相澤。

ようやく続きを聞く覚悟が出来た彼は、前屈運動をする緑谷を止めた。

 

「とりあえず落ち着け、緑谷。…………なんで今まで黙っていた?」

「オールマイトが「社会に混乱をもたらす」という理由で、周りに秘密にしておくように僕に言ったからです。」

あ゛ん゛の゛似非教師がああああああ!!!

「ごめんなさい相澤先生!本当にごめんなさい!!!」

 

落ち着きを失った相澤に、緑谷は再び前屈運動を繰り返す。周囲に誰の目もないからこそ、今の緑谷は全力で頭を下げる行動に没頭できたと言える。

 

相澤はしばらく必死に耐えていた。手を上げてしまわないように。耐えるために体がプルプルと震え、それが緑谷を余計に怖がらせる。

 

再び時間をかけ、双方は何とか心を落ち着ける。少し言葉を交わしただけのはずなのに、どちらも息が絶え絶えだった。

 

眉間に深い皺をプルプル震わせながらも、相澤は話を進める。

 

「ハァ……緑谷、この個性のことを知っているのは、オールマイトと緑谷だけか?」

「いいえ、他にもいるそうです。オールマイトと昔からの付き合いのあるヒーローが何人か。例えば、僕が職場体験でお世話になったグラントリノさんです。」

「……オールマイトから聞いた話だと、学生時代の師だったか。指名が来た時は怪しい奴かと疑ったもんだ。そうか、OFAのつながりがあって指名したんだな、あれは。他には?」

「えっと、他には校長先生と、リカバリーガールが……」

「……は?おい、ちょっと待て!リカバリーの婆さん!?それに根津校長だと!?」

「は、はい、そうです。」

 

相澤は再び通信機を荒っぽく取り出し、電源を入れる。ボタンを押す力は先ほどの3倍はあっただろう。

 

緑谷から少し距離を置いた相澤は、生徒に向けない声色を根津にぶつけ始めた。

 

「……もしもし。校長ですか?」

『10分ぶりだね、相澤君。さて、用件を聞こうか。』

「わかっているでしょう校長。緑谷がOFAというオールマイトの個性を受け継いだ、というのは本当なのですか?そしてそれを知っていたと?」

 

相澤は緑谷をちらりと見る。黙って様子をうかがっている。しかしその表情には、小さな驚愕と恐怖が混じっていた。

悪いことをしていると思いつつも、根津を問い詰めることを止めることは到底できない。

 

『ああ、やっぱり緑谷君は言ったんだね。その通り、彼の個性は「超パワー」ではなく「OFA」。ずっと前から知っていたさ。』

「なぜそれほどの重要事項をあらかじめ俺に、俺達教師に伝えなかったのです!?俺が信用できないからですか?答えてください!」

『いいや、君のことはとても信頼している。その上で、秘密にしていたのさ。もちろん理由はある。最も大きい理由は、オールマイトに言わないように強く頼まれたからさ。』

「校長、まさかオールマイトの話をそのまま鵜呑みにしたのですか?俺が、いや雄英教師が緑谷の個性を知らなかったことでどれだけ遠回りをさせられたか。緑谷が個性を制御できなかったことも、回避できた可能性は大いにあります。体育祭、緑谷が場合によっては後遺症が残り得るほどに自身の身体を傷つけた。

勿論俺にも責任はある。あの時の緑谷の意志を尊重して、俺は何も言いませんでした。しかし、あの怪我をさせずに済ませられるなら俺だってしたかったですよ!!!」

「相澤先生……」

 

緑谷は初めてあの戦いに対する相澤の評価を聞いた。

 

(……そうか。確かに不思議だった。過去の体育祭のガチバトルでは、生徒同士があまりに危険なことを始めるとストップをかけていた。僕と轟くんの戦いは、明らかにそのレベルだった。後から動画を見返してみて、自分でもちょっと引いちゃったくらいだ。

それでも止めなかったのは……あの時のぼくの意志に、それほどの価値があるって、認めてくれていたんだ。相澤先生……)

 

緑谷の中で、相澤先生に対する好感度は一気に上がった。しかし表情は喜びではない。その相澤の剣幕が、今まで見たことのない方向性で恐ろしかったからだ。

 

「最初から緑谷の個性がそれほど特殊なものだって知っていれば、俺は指導方針を全く違うものにしていた。まずは個性を調べることから始めさせる。俺は……緑谷のことを「今まで個性の制御に手を抜いていた」とどこかで決めつけてしまっていた。そのせいで、どれだけ労力と時間が無駄になったか。

それが分からない校長じゃないでしょう!?」

『相澤君、僕は当然反対したさ。相澤君たちには言うべきだとね。何時間も話し合って、どちらも納得した結果が「言わない」さ。これは決してオールマイトの判断ではなく、僕自身の判断でもあるのさ。』

「……デメリットは何ですか。OFAのことを俺に言った場合の、これまでの俺達と緑谷の時間と労力の無駄を上回るデメリットとは、一体なんなんですか。」

『それは、緑谷君が殺されてしまう可能性さ。』

 

相澤は一瞬詰まる。本当ならば、確かに特大のデメリット。

だが相澤は、根津が何か重大な事実誤認をしているようにしか思えなかった。

 

「殺されるとは、誰に?」

『AFOさ。』

 

相澤は一瞬だけなるほどと思った。

 

緑谷の説明では、OFAとAFOには長年の因縁がある。OFAの継承が何かの拍子でAFOに知られたら、全力で個性を奪いに来るだろう。

そして相澤は、直接的にではないがAFOと対峙したことはあり、どれほど強大な存在かを知っていた。

今の緑谷は、強くなってきているとはいえプロヒーローと肩を並べて戦えるかどうか怪しい。そんなレベルでは、彼を確実に守り切れる自信は相澤には無かった。

 

情報漏洩を防ぐために、OFAのことを知る人間を最小限にする。言いたいことは山ほどあるが、一応分からない理屈でもない。

 

しかし、すぐにその説明の矛盾点が彼の頭に浮かぶ。

 

「……継承時はUSJの前。その時はまだAFO生存は疑惑の段階であったはずです。死体が確認されていないというだけの。」

『君にとっては小さな疑念かも知れないけれど、それだけでも僕とオールマイトにとっては秘密にする理由たり得たのさ。君と僕、いやオールマイトとでは、おそらくAFOに対する感覚に大きな差があるのさ。彼が社会を裏で支配してきた時間の長さを知っているかい?人が一生を終えられるほどの時間さ。

それほど長く人々を支配し、反逆者を返り討ちにしてきた相手。しかも暗黒期は個性の使用禁止なんて無かったから、向けられる武力の高さは今よりずっと強大さ。そんな環境で生き残ってきた相手が死んだかもしれない。でも確証はなく怪しい部分もあるから、何年か様子を見て大丈夫そうか確認しよう。

……これはそんなに変な発想かな?』

「おかしいとは言いませんが……しかし、リカバリーの婆さんや校長に言ってもいいなら、なぜ俺には言わなかったのです。担任ですよ?見込みのある生徒の面倒を見て、成長させる義務があるのです。リカバリーの婆さんが生徒の身体を守る義務がある様に。」

『リカバリーガールに対しては、彼の身体を診察するときにきっとバレてしまうだろうから仕方なく話したという経緯があるんだ。バレる可能性が無ければ言っていないのさ。ちなみにリカバリーガールも言わないのは、校長としての権限を行使している。彼女を責めるなら僕を責めてくれ。』

「リカバリーガールは……いったん置いておきます。情報漏洩を気にしている、ですか。……今のように俺にバレる可能性のことをどう見積もっていたのですか?」

『……相澤君。この件はデリケートなんだ。残念ながら、話さなかったことが最良であるかどうか、正直僕にも自信をもてていない。ヒーロー達との政治的な何やらで、言えずじまいになってしまった部分もある。その点、君に不誠実な行動をしてしまったことを認めよう。申し訳なかった。何か君たちが損害を被ったことについては、僕が責任をもって対処しよう。』

「そういう請求をしたいわけでは……」

『でも、相澤君。これだけはどうか信じてもらいたい。僕とオールマイトは、君を高く評価し、信頼している。君のせいで秘密が漏れるなんてこれっぽちも考えていないんだ。そうでなければ、いちクラスまるまる除籍してしまうような人間を教師職にずっと置いておくわけがないだろう?

それに、信頼しているのはここに在籍する教師たちも同じさ。でも彼らに対しても秘密を共有し始めたら、漏れる可能性は一気に高まる。どの人間に対して話していいのかの線引きは、僕とオールマイトも相当に悩んだのさ。』

 

スピーカーの声からは確かに謝罪と誠意が感じられる。嘘はついていないように感じられた。

 

相澤は今までの根津の自分に対する行動を思い返していた。確かに、普通の学校としてはあり得ない程に自分を信頼してくれている。例えば、相澤の除籍の時には保護者などからのクレームが凄まじいものだが、その際の説得には根津校長は常に同行していた。

 

今日何度目か分からない意識的な深呼吸をして、感情に身を任せて言いすぎたかもしれないと自省する。

 

「……分かりました。今回は、もう言いません。校長に対しては。」

 

ただ、少し冷めた頭でもオールマイトに対する怒りは収まらなかったが。

 

『ああ。オールマイトとはよく話し合った方がいいと僕も思うよ。彼も相当苦悩していたようだったし、ここらで腹を割って話し合うべきだろうね。』

「当然です。……それで、今後のことですが。」

『うむ。本格的に隠し通すのが難しいように感じられるね。緑谷君の黒い鞭というのは、僕には心当たりがない。おそらく鹿目君の個性と何かしら特殊な反応をした結果だろう。……そうだね。ブラドキングとプッシーキャッツには、話すということでいいだろう。ラグドールのサーチもあるしね。オールマイトには私から説明しておくよ。』

「……そう言えばラグドールはどう認識しているんでしょうね。後で聞いておきましょう。」

『よろしく頼むよ。改めて、今回の件は本当に済まないね、相澤君。』

「これからは隠し事ナシでお願いします。お互いの為に。」

 

相澤は通信を切断。

 

疲労のため息を吐きつつそれをしまう彼に、緑谷がおそるおそる話しかける。

 

「えっと、相澤先生?校長と一体どんな話を……?」

「色々とな。とりあえずオールマイトは腹パンすることを決定した。」

腹パン!?!?!?

 

彼の口からヒーローらしからぬ暴力的発言が出たことに驚く緑谷。

 

「だ、ダメですよ先生!オールマイトは腹部にAFOとの戦いで出来た古傷があるんです!シャレにならない怪我になる可能性が!」

「チッ……じゃあ顔パンだ。」

「そんなあ!?」

 

お前のツッコミは独特だなという感想を相澤は少し抱いた。

心を落ち着けるために目薬を差し、眉間を強く絞る。

 

「とにかく何かしら落とし前を付けさせないとやってられん。とりあえず、ブラドキングとプッシーキャッツの皆さんには個性のことを話すことが決定した。校長の責任の下にな。生徒にはまだ言うなよ。」

「……そうですか。分かりました。あ、それと、轟君とかっちゃんは僕の個性のことを知ってます。色々あってバレちゃって……。」

「はあ、そうか……いや待て、なんであいつら俺に言わないんだ?」

「え?あー……多分、相澤先生は当然知ってるものだと思っているからじゃないですか?おいそれと口にできる話じゃないから、報告も気軽にできなかったんじゃないでしょうか。」

「…………「担任は緑谷の個性のことを当然知ってるだろう」と考える、当然か。俺だってそう考える。俺の立場なら、当然把握するべき話だ。」

 

緑谷は見たことが無い程に相澤が憔悴してしまっているのを目撃した。罪悪感は膨れ上がるばかりだった。

 

「すみません、本当にご迷惑をおかけしてしまって。」

「どれもこれもオールマイトのせいだ。気にするな。」

 

憧れの存在ということもあり、緑谷はどうしてもオールマイトの擁護に回ってしまう。

 

「そ、そんな!えっと、元を辿ればAFOという(ヴィラン)のせいでややこしいことになったんです!オールマイトにも事情があったんじゃないかなって。」

「…………そうだな。あんまりにも事実が大きすぎるから少し他責思考になっていたかもしれん。はあ、もういい。いったんこの話は終わりにするか。もう30分も経過してしまっているな。」

「あ、もうそんなに……」

「確認したいんだが、黒い鞭はもう出そうにないのか?」

「はい。大丈夫だと思います。鹿目さんが個性を使わなければ。」

「……あの時、何か言いかけていたな。今は言えるか?」

「はい。とはいってもぼんやりしたものではないんですけど。鹿目さんが僕の手を握った瞬間。僕の……奥底から、って言えばいいんですかね。面影の一人、が引っ張り出されたよう感覚があったんです。」

「面影ってなんだ?」

「継承した力に人格の残滓……みたいなものが残っているらしいんです。体育祭の心操君との戦いでは、それがトリガーになって洗脳解除ができました。でもオールマイトによると、意思疎通できるようなものじゃなく本当にただの面影だったんです。それが……」

「今回は違った、と?」

「はい。なんというか、ほとんど一瞬だけのことだったんですけど、無理やり引っ張り出されたみたいな感じだったんです。その人の面影、焦った感じでした。たしか……『まだ早い!なにが起きている!?』みたいなことを言っていたような?

もしかして、OFAには歴代継承者の意思が宿っているのでしょうか……?」

「ふむ……先ほどの黒い鞭は、その継承者の個性か?まあ、これは合宿が終わった後に調べることにするか。ともかくこの合宿中はそれを探ろうとするなよ。さっきも言ったとおり、ここにリカバリーの婆さんはいないからな。」

「わかりました。」

「さて……最後に聞きたいんだが。」

「は、はい。」

「緑谷。お前、OFAという力を継承したこと、後悔していないか?」

 

そんなことない、と緑谷は常識のように言おうとした。しかし詰まる。相澤の目が、いつも通りに、厳しくも温かい教師の目だったからだった。

 

「俺はOFAを継承させたオールマイトが何を考えていたかなんて探るつもりは無いし、緑谷がどういう気持ちでそれを受け取ったかなんて知らん。この場で簡単に伝えられるものでもないだろう。

しかし、だ。お前のいく道は、周りの生徒たちよりも何倍も険しい道だ。」

「それは、もう、本当にそうだと思っています。」

「本当に分かっているのか?」

 

相澤は脅すような声を出した。

 

「現代社会、情報ってのは簡単に出回る。お前がオールマイトの後継者だということは何かしらの形で世に出るだろう。」

「え?それを防ぐためにOFAのことを秘密にしていたんじゃあ……」

「そりゃオールマイトの判断がおかしいだけだ。オールマイトの個性の情報が世間に出回らなかったのは……俺にもよく分からん。だがともかく、仮に世間に秘密を隠し通せたとしてもだ。お前がプロヒーローになったときはどうだ?オールマイトと同じ個性で仕事するんだぞ?オールマイトと入れ替わりで登場するであろうお前がだ。規模は違っても、戦闘方式などは必ず似る。そうなれば、勘のいい奴の中にはオールマイトとつながっているんじゃないかと疑う奴が必ず出る。お前とオールマイトとのつながりを隠し通すなんて不可能なんだよ。」

「……そう、ですね。」

「世間はオールマイトと同じ個性を持った奴に何を期待すると思う?オールマイトと同じ、他のヒーローを凌駕する圧倒的な結果だ。存在そのものが平和の象徴とされるほどの結果。

……そして、事実。今のお前は高校生の頃のオールマイトほどの力はつけていない。言っちゃ悪いが、今のお前を見てるとな。プロヒーローには成り得るだろうがオールマイトの代わりは無理だ。もしくは、お前が他の何かでオールマイトを上回らないと、ずっとオールマイトの下位互換などと言われ続ける。ヒーローってのは人気商売だからな。そういう無遠慮なことをいう奴は必ずいる。」

「…………そう、ですね……。」

 

考えればわかることだった。だが、緑谷は意識して考えないようにしていた。それを考えても、緑谷のやるべきことは何も変わらないから。

 

しかし相澤は必ず考えるべきだと判断していた。すこし将来の考察をしただけで心が折れてしまうようならば、オールマイトの個性を持ったヒーロー業など不可能であり、別の道を考えるべきだからだった。

 

「お前は他のヒーローの卵たちよりも個性の経験が足りないのに、彼らを圧倒する結果を出さなければ、世間から指を指され続ける。お前がOFAを持つんじゃなくて、オールマイトがずっと持ち続けていれば、とな。

そんな評価の中、本当にヒーローを続けられるのか?」

「やります。」

 

緑谷は即答だった。

 

(…………驚いたな。これほど脅せば、必ず心は揺れ動くと踏んでいたんだが。)

 

相澤は緑谷の意志力は評価していた。ライバルたちに食らいついていく姿勢は確かに他の追随を許さないほどに必死なものだ。

 

ただし、それは雄英生によくある上昇志向と同じだと認識していた。このように夢の根幹部分を揺り動かせば、雄英生といえども必ずぐらつく。

 

(他の生徒と何が違う?コイツの原点(オリジン)はなんなんだ?)

 

そこからどう復帰するのかを観察するつもりだったのだが、緑谷はそもそも揺らいでいるように見えなかった。

 

「……そう簡単に言われると、本当に俺の話を理解しているのか疑いたくなるな。」

「確かに、将来そういうことを言われるのは、僕としても苦しいです。でも……」

「でも?」

「個性がなくて何もできない方が苦しいと思います。」

「……お前は元無個性だったか。」

 

相澤に無個性持ちの気持ちを真に理解することはできないだろう。

『抹消』は自分でも恵まれた個性だと認識している。そんな自分が無個性持ちの人間に対して「個性があるからといって活躍できるとは限らない」などという理屈をぶつける気には流石になれない。

 

それでも相澤は緑谷の考えを、今は推し量りきれないと感じていた。個性持ちに食らいつくキツさは相応に味わったことだろう。個性を持っているからといって楽になる訳ではないと知っていても、彼の意志が変わっていないことは信じ切れた。

 

(……無個性を経験していたことによって見えるものもある、か。だが本当にそれだけか?)

 

相澤は緑谷の目を改めてよく見た。

確かな意思がこもっている。少なくとも空元気ではない。だが同時に、個性を持たなかった渇望からあのような即答ができるのか、ということは疑いをぬぐえない。

 

ただ相澤がひとまず認めたことは、緑谷のヒーローとしての意志がどのようなものかを、自分は理解しきれていないということだった。

 

(全く問題児め。仕方ない。しばらくは付き合ってやるか。)

 

相澤は目から力を抜く。

 

「……いいだろう。ひとまず訓練に戻れ。俺はこれから山ほど増えた雑事を整理する。」

「うっ……すみません。わかりました。では僕は訓練に戻ります。失礼します!」

 

遠回しの愚痴に慄きつつも、緑谷は虎の元へ走り戻る。

 

相澤はオールマイトに緑谷に聞かせられない暴言を言ってやろうかと意気込んで通信機に指をかけ、そういえば今は重大事案に当たっているとかで連絡不可だったことを思い出す。

そうして相澤はさらにフラストレーションを溜めこんでしまうのだった。

 

 

「みんな大変!さやかちゃんとまどかちゃんが死んでるー!!!」

「私生きてる、はず……」

「もう動けない……」

 

日中の訓練が終わった後。そこには干からびたミミズの死体のように横たわるまどかとさやかの姿があった。

 

雄英とプッシーキャッツの用意した訓練は過酷を極めた。ヒーロー科の生徒は個性を限界まで酷使。雄英にはいるまでの彼らの殆どは、社会の事情でずっと個性を思い切り使えずいつも「思い切り個性を使いたい」という欲望に駆られていた。

雄英入学以降は相応に使えるようになったが、これまでは常識的な範囲で使ってきた。今日、彼らは初めて自身の限界を超え(Plus Ultra)個性を使い、初めて「もう個性を使いたくない……」という思いを抱いたのだった。

 

普段から鍛えているヒーロー科生徒でさえこの感想だ。鍛えるということを彼らほど必死にやってこなかったまどかとさやかは、教師たちの想定以上に負荷がかかってしまった。個性を使う彼女の高い身体能力のイメージがどうしても先行してしまい、つい負荷を上げ過ぎてしまったかもと後に彼らは反省している。

 

現在は夕食を作る時間となっている。全員分のカレーの食材、調理場が用意されている。

山奥での旅行なら、野外の料理は定番の楽しいイベントかも知れない。しかし疲労困憊の彼らにとってはもはや試練だ。

 

「えーっと、さやか、まどか。カレーを作れって先生に言われたけど……いける?」

「…………う……」

 

何か言おうとする二人だが、発音はほとんど意味をなさない。

ちなみにさやかの能力を使えば疲労状態から簡単に回復できるが、虎に「それは筋肉の超回復が促進されるか不明なため、軽微であっても使用禁止とする!」と言い渡されてしまっている。

 

(みんなと一緒に作りたいけど、正直疲れすぎてもう動きたくないよ……)

(私も……かなりギリギリ……)

 

うめき声に近いものが口から出る二人に、ヒーロー科の彼らは気遣うべきかと考える。

 

「うーん……予想外にハードだったみたいだね。二人にとっては。」

「普段鍛えていないとなると、そりゃきついよなあ。先生たちは多少は手加減するって言ってたけど」

「俺、二人の近くで虎さんに見てもらってたんだけど……見た感じ俺たちとやってること変わってねえように見えたぞ。」

「…………マジか?回原?」

「お、俺も自分の訓練に必死で正確なところは分かんねえけど……」

「二人は椅子に座って休んでなよ。42人いるんだから2人くらいいなくても何とかなるはずだよ。どう?立てる?」

 

芦戸がさやかに手を差し伸べた。それに続いて麗日もまどかに寄って手を差し伸べる。

 

それを起点に二人は何とか立ち上がり、肩を貸されて何とか歩き出す。

 

2人ははじめ、近くにある椅子に向かって歩こうとした。

 

しかし芦戸はさやかから抵抗を感じ取る。

 

「ん?さやか、どうしたの?やっぱり歩けない?」

「……いやだ。」

 

芦戸は、さやかが自分の意志で抵抗していることに気が付く。

 

「私、みんなと一緒にカレー作りたい。」

「えっ?でも見るからに疲れてるし、ムリしないでもいいんじゃ?」

「それでも、私、カレーを作りたい。だって、私にとっては修学旅行なんだもん!」

「さやか……お前、本気なのか!?」

「切島君…………あたし、やるよ!」

「……うおおおおお!女だけど漢らしいぜ!最高のカレーを作ろうぜみんなぁ!」

 

さやかや切島を中心に熱い空気が生まれるが、この流れに乗りきれる生徒は半数ほどだった。

 

「なんかクラス全員で乗り越えようって空気だけど、やってることカレー作りだよな?」

「ちょっとそこ!それは言わない約束だよ!?」

 

それまでは「あのキツイ訓練の後にカレーまで作るのか」という空気だったが、消え失せ代わりに合宿というイベントらしい雰囲気が少し戻る。

彼らの脳にアドレナリンが戻り、疲れた体に構わずカレー作りが始まるのだった。

 

(……あれ?洸汰君?)

 

緑谷出久はその空気に乗り切ることができない組だった。その少年の視線に気が付いたからだ。

 

 

カレー作りとその食事が終わった後、緑谷は出水洸汰を追っていた。

A組の面々には、「洸汰君に作ったカレーを届ける」という理由で彼らから離れていたのだが、本心は別のところにあった。

 

(ごめん洸汰君。尾行みたいなことしちゃって。でも、どうしても気になるんだ……さっきの君の視線が。)

 

明らかに敵意を含んだ視線。それがA組の彼らにずっと向けられていた。カレー作りに必死だったためにそれを気にかける者は緑谷以外いなかったが、彼の心には強く引っかかってしまったのだった。

 

というのは、昨日マンダレイから聞いた話が理由だ。

 

峰田の覗き事件の後、緑谷は気を失ってしまった洸汰をマンダレイのところに連れて行った。そこで、彼が何故敵意を向けるのかという話を聞いたのだ。

 

 

 

 

「この子、最近ご両親とうまくいっていないみたいでね。喧嘩することが多いみたい。私の親戚ってことで、最近預けられることが多いんだ。」

「そうなんですか……。しかし、それがヒーローに否定的なことと、何か関係あるんでしょうか?」

「うん。この子の両親は、プロヒーロー・ウォーターホース。知ってるかな?」

「ウォーターホース!もちろん知ってます!主に水系個性への対処が一流のプロヒーロー!水を生み出す個性の汎用性はすごくて、(ヴィラン)への対処から緊急時の水の用意まで幅広く活躍している夫婦のヒーローですよね!」

「く、詳しいね君。まあその通りだよ。」

「でも、ちょっとびっくりしました。ウォーターホースへのインタビュー動画を見る限り、人当たりが悪いなんてことは全然ありませんし、模範的なヒーローのふるまいをしているように思えます。……あれ、でも、そうだな。確かに二人の息子の話をしているところを見たことがないや。その話を振られても、あんまり深い話はしていなかった記憶があります。まさか家族の問題を抱えているなんて……一体何があったのか、よければ教えていただけませんでしょうか?あ、もちろん家族のことなので、言える範囲で構わないんですけど……」

 

緑谷はエンデヴァーのことを思い出しつつ尋ねる。ヒーローとしては一流でも家庭で一流ではない最たる例だ。

家族の話なのであまり話されることを期待していなかったが、マンダレイは包み隠さず話し始める。

 

「……ヒーロー志望なら、知っておいた方がいい話だね。えっと、1、2年くらい前だったかな。ウォーターホース夫妻が活動休止していたことがあるんだけど……」

「ああ、はい。知ってます。確かマスキュラーという凶悪な(ヴィラン)と戦ったためでしたよね。あの時はすごく心配になったなあ……」

「え、な、なんでそこまで知ってるの君?すごいね。素直に感心するよ。」

「あはは、ヒーローの情報は目が離せなくて。」

「……でね。洸汰、その時の現場に居合わせていたんだ。」

「そう、なんですか。えっと、その時に(ヴィラン)に怪我を負わせられたんですか?」

「ああ、いや。洸汰自身は無事だったんだ。ただ、その時とてもひどいものを見てしまったみたいでね。」

「ひどいもの?……そういえば、あの事件の映像ってすぐ削除されたみたいで、情報が殆どネットに無いんですよね。確か、(ヴィラン)同士の戦いだったらしい、というのは知ってます。」

「うん。それは間違いない。ただ洸汰から聞いた話だと、その戦いぶりがすごく悲惨だったみたい。……それにしては不自然な気がするんだけど、ネットに書かれている情報は表面的なものでしかないみたいなんだ。

……マスキュラーの身体、公式発表じゃ死亡としか書かれていないけれど、死体はぱっと見じゃ人間だと思えないほどに原形をとどめていなかったんだって。ヒーローだったら避けるような殺し方。それを、洸汰は間近で見てしまって。」

「それは……ショックだろうな……」

「うん。さらに言えば、あの事件では応援に駆け付けたヒーローも殺されている。ご両親が手ひどく攻撃されてしまった場面も見ちゃったみたい。それが、洸汰にはトラウマになってしまったみたいなの。」

「……その後、洸汰君は大丈夫だったんですか?」

「洸汰自身は何とかなったんだ。初めはフラッシュバックに悩まされたりしていたけど、ご両親やカウンセラーの方々の協力があって少しずつ立ち直っていけたの。」

「ほっ、よかった、洸汰君……。」

「ただ、それとは逆にご両親とはうまくいかなくなっちゃったんだ。ヒーローをしていることで、ね。」

「え?なんで……あ、そうか、ヒーローが危険な職業だって認識になってしまったから、ですか?」

「うん。ご両親も相当悩んだみたいなの。でも、ヒーローって職業は潰しが利きにくいのと、自分の仕事を待っているファンを無視できないって、最終的には続ける決断をした。でも、洸汰くらいの年齢の子にそんな事情は分からない。親が世界の全てだもの。そのせいで、ヒーローのことを恨みだして、ご両親との喧嘩が頻発するようになっちゃって。

今日私たちのところにいるのも、仕事の関係もあるけどまた喧嘩をしてしまったからみたい。私達とは一応普通に喋ってくれているけれど、やっぱりあまりよく思っていないようなのよね。

私達も、ヒーローだもの。」

 

 

 

 

 

(……あの後、僕は何も言えなかった。いろんな考えの人が世の中にはいるんだって頭では理解していた、つもりだった。でも洸汰君の話を聞いて、初めて「ヒーローを嫌って当然だ」って思えた。最近までは、ヒーローを嫌う人のこと正直全然理解できなかったな。洸汰君の場合、お父さんお母さんを危険な目に遭わせようとする存在だから、そりゃそうだって感じだ。というか、ヒーロー社会そのものを嫌っているんだろうなあ。)

 

緑谷は手に持ったカレーをこぼさないように気を配りつつ、かろうじて道と呼べる道を進んでいく。

気が付くと少し熱が失われており、緑谷は足を速めることにした。

 

(最近は、色々ヒーローの明るくない部分を知って、悲しいことが多いけれど……ヒーローって何なのか、よく分からなくなっちゃったなあ。オールマイトのような最高のヒーローになりたいって気持ちは絶対変わってないって言えるけど、でも何か引っかかるところも僕の中にある。

……そう言えば、暁美さんも初めて会ったときはヒーローの悪口言っていたなあ。最近は忙しいとか何とかで、また会ってくれなくなっちゃったけれど、どうしているんだろう。今度、ちゃんと話してみたい、かも……って。)

 

気が付くと、視界が開けた崖があった。洞窟の入り口があり、今回の森林地帯が一望できるスポットだ。そこに座り込み、夜の森を眺めている少年がいた。

 

直後、ぐぅという小さな音が緑谷の耳に届く。周囲に人がいないと思い込んでいる彼は無反応だった。

 

「……お腹、空いたよね?これ、食べなよ。カレー。」

 

しかしその声が彼に届いた瞬間、バッと飛びのき緑谷を睨みだす。カレーに毒が入っているとさえ警戒していそうな勢いだった。

 

「てめェ!何故ここが……!」

「あ、ごめん。足跡を追って……!ご飯食べてないのかなと……」

「いいよ、いらねえよ。言ったろ、つるむ気などねえ。俺のひみつきちから出てけ。」

「ひみつきちか……!」

 

軽くあたりを見回して、緑谷は確かにこの景色や程よい空間の広さから、ひみつきちにはもってこいだと感じた。

 

「個性を伸ばすとか、はり切っちゃってさ、気味が悪い。そんなにひけらかしたいかよ、力を。」

「(昼の訓練、見ていたのかな。)……君の両親さ、ひょっとして水の個性の「ウォーターホース」…?」

 

「ウォーターホース」の単語が放たれた瞬間、洸汰はさらに警戒を強める。

 

「……マンダレイか!?」

(し、しまった!しくじった~!)

 

可能なら彼の話を聞きたいと感じていた緑谷。しかし余計なことを口走ったせいで、明らかに拒絶の色が彼に浮かんでしまう。

 

「あ、いや、ごめん!うん、その、流れで聞いちゃって……」

 

誤魔化そうにも、うまい嘘は都合よく口から出ず、結局緑谷はマンダレイとの話を正直に言ってしまう。

 

「……とっても怖い事件だったんだよね。その場にいなかった僕が言うのもアレだけど……」

「…………」

 

洸汰は緑谷に背を向ける。話から逃げることはしなかったが、その代わり苛つきが緑谷に吐き出され始めた。

 

 

 

「うるせえよ。」

 

「頭イカれてるよみーんな……」

 

「馬鹿みたいにヒーローとか(ヴィラン)とか言っちゃって殺し合って。」

 

「みんなのせいで、ヒーローのせいで、僕のパパとママがヒーロー続けてるんだ。ずっと危ない場所にいるんだ。」

 

「みんな本物の(ヴィラン)を知らないんだ。本物の(ヴィラン)は、ヒーローを簡単に殺すんだ。言ってることも意味わかんないバケモノだった。あんなのに立ち向かうのなんてどう考えてもバカだ。僕のパパとママが生きていたのは運が良かったから。同じくらい強い(ヴィラン)が偶然勝って、偶然パパとママに興味がなかったから生き残ったんだ。」

 

「なのに、みんな「流石ウォーターホースだ」とかなんとか言っちゃってさ。本当はどんなに危なかったのか、知りもしないでパパとママを唆すんだ。またヒーローをやってくれって。」

 

「パパとママに何度も言った。あんな危ない仕事は辞めろって。でも、みんなのためとか言って結局言うこと聞いてくれなかった。」

 

「ふざけんなよ……!パパとママがまた怪我したらどうするつもりだ!?またあのマスキュラーみたいなのに当たったら、今度は死んじゃうかもしれねえのに!」

 

「お前らみたいな連中は、ヒーローなんて嫌いだ!パパとママに、近づくな!!!」

 

 

 

殴りつけるように放たれた拒絶は、緑谷のとにかく何か言葉をかけたがっていた口を完全に機能停止させた。

 

それでも、とにかく放っておけないという思いだけはしつこく残る緑谷。義務感に近い感情で、言葉を吐き出す。

 

「……そう、だね。無責任にヒーローに頑張れって言ったりするのは、よくないよね。」

 

普段の緑谷ならば言いたくも無いような話だったが、この場面では全く抵抗感がなかった。

 

しかし肯定の言葉でさえ、洸汰には苛つきの種になってしまう。

 

「やっすい同情しやがって……絶対分かってないだろ。お前らがどれだけ目障りか……!」

「いや、まあ、そのさ。ヒーローを名乗っていても、むしろ迷惑をかける人だって、世の中にはいる。」

 

全く着地点のない話が緑谷から始まった。

 

「えっと、そのさ。これはとっても残念な話なんだけれど……最近、ヒーローに携わっているのにすごく重い犯罪行為をしていることがあるって、そういう事例があるんだって最近知ったんだ。しかもヒーローのすごく大事な部分にかかわる人たちが。」

「はあ!?」

 

これは洸汰にとっても驚きだった。彼のイメージでさえ、ヒーローやそれにかかわる人々が故意で悪行をするイメージは無かったのだ。

 

「なんだよ……ヒーローって、どこまでクズな連中なんだよ!」

「その、そういう人もいるんだって最近知って、そのおかげって言ったらすごく不謹慎なんだけど、君の話をちゃんと聞くことができたんだ。ヒーローは迷惑だ、邪魔だっていう君の考えを受け入れられたっていうか。僕は元々ヒーローがすごく大好きで、憧れてて……」

「……知らねえよ。お前の都合だろ。」

「そ、そうだね。関係なかったね、ごめん。」

 

こんな話をして結局何が言いたいのか、緑谷自身にもわからないままに話は進む。

 

「でもさ。世の中には、その、いいヒーローだっていっぱいいる。いや、その、割合とか分かんないけど、僕としては大体のヒーローが悪いことをしないって信じてる。」

「……なんだよそれ、当たり前だろ。だからヒーローを持て囃す奴らはみんなバカなんだ!ヒーローの連中だって、自分が悪いことしませんって顔してるけど、例えばあのマスキュラーみたいなのに当たったらどうせ殺されるか逃げるのに。そんなの、何にも偉くねえんだ。カッコよくないんだ。」

「そうかもしれないけど……えっと。君のご両親って、どんな人?」

「はぁ?なんでお前にそんなこと言わなきゃいけないんだよ?」

「あ、ゴメン……」

 

彼の正論に対し、「そりゃ家族の話なんて通りすがりのぼくに言いたくないよな……」と納得し、緑谷は勝手に落ち込んだ。

それでも、話を切り上げる気は湧かなかった。

 

彼の話を聞いているうちに、ある部分をとても肯定したくなったからだった。

 

「でも、君の話を聞いていて思ったんだ。多分、君はお父さんとお母さんのこと、嫌いじゃないよね。」

「……まぁ、嫌いじゃねえけど。」

 

洸汰はここでは渋々と言った様子で同意した。

 

ここまで言って、緑谷はようやく洸汰が悩んでいる理由を理解できた。

 

(……そうか、洸汰君、お父さんとお母さんのことが大好きなんだ。だから、危険から両親を遠ざけたがっている。親思いのとってもいい子なんだ。でも、その両親がその危険なヒーローを続けたがっているから、とても悩んでいる。

ヒーローが嫌いなことは、僕は悲しい。でもお父さんお母さんのことが大事にしていることは、これからも守ってほしい。……ああ、これ、結局僕がどうにかできる話じゃないじゃん!ヒーロー志望が何を言ったって……)

 

自らに必要性がないことを理解して、さらに勝手に緑谷は落ち込む。

 

黙り込んでしまい、それをみた洸汰は言い負かしたと判断して少しスッキリしたように鼻を鳴らす。

 

「……わかったなら出てけよ。迷惑なヒーローの卵め。」

「…………(……僕に言えることなんてない。けど、洸汰君のつらそうなのを何とかしてあげたいと思う、どうしよう……)」

 

彼の為に必死に脳をフル回転する緑谷。

その結果出てきた言葉は、慰めるには明らかに下手くそなものだった。

 

「あ、あのさ。そこまでヒーローのことを否定しちゃうと、君が辛くなるだけだよ。」

 

それは効果覿面だった。ただし、緑谷が望んでいた方向にではない。

 

「……っ!」

 

洸汰の中で反発心が一気に肥大化した。二度とこのうるさい人間の言葉を聞きたくないと思ったが、彼のこの言葉にすぐさま反撃することはできなかった。それがさらに彼を苛々させてしまう。

 

「えっと、だから」

 

補足し始める緑谷に洸汰はようやく我に返る。

 

「うるせえズケズケと!出てけよ!!!」

「……取り留めのないことしか言えなくて、ごめん。カレー置いとくね。」

 

緑谷はようやくこの場から去る決意をする。ずっとこの場から去ろうとしていたのにも関わらずグズグズと居残っていた緑谷だったが、ようやく足が外に向けて動き始めた。

 

残された洸汰は、うるさいと口走りつつも緑谷の言葉がずっと頭に残っていた。

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