個性『魔法少女』   作:Assassss

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高評価、誤字報告、感想ありがとうございます。

廻天は今年中に発表されるのでしょうか?不安で夜しか眠れませんね……


合宿襲撃

合宿三日目。

今日もやることは相変わらず訓練の予定だが、まどかとさやかはそれどころではない。

 

「あだだだだ!き、筋肉痛があああぁ!」

「い、痛いよぉ!」

 

まどかとさやかがまるで拷問を受けたような悲鳴を上げ、ぎょっとした表情と視線が二人に集まる。

 

2人の前には虎が居るが、悲痛な叫びに助けを差し出すつもりはない。しかし、想定内というわけでもなく、困った表情を浮かべていた。

 

「なんと軟弱な!我ーズブートキャンプの最低負荷メニューですらこの有様とは。」

「せんせー!虎さんが普通科の子をいじめてまーす!」

「いじめとらんわ!」

 

外野から見れば、虎が虐待をしているようにしか見えない。

それはかなりまずい誤解であるために、虎は食い気味に否定せざるを得なかった。

 

「我の計算では、体育祭の様子からして個性無しでもこの程度は十分こなせるはずであるのに。いったいどの計算が間違っているのか……」

「とりあえずいったん休ませませんか?動くのも辛そうですし……」

「ヌゥ……仕方ない。では10分休憩とする。その間に我は昨日の訓練で虐め足りなかった筋肉を探さねば」

 

虎の頭に「鍛えない」という選択肢は最初から存在していなかった。

さやかとまどかは絶望する。そしてそれは、一緒に訓練していた緑谷たちも同じ気持ちだった。

 

彼らは将来の明確な目標がある以上納得はしている辛さだが、それでも人間である以上多少なりとも嫌だと感じてしまう。

 

「もう勘弁して下さぁい!!!歩くのもキツいんです!」

「しかし何もせず時間を浪費するのもまずいのだが……」

「あの、個性を、使った、訓練は、しないん、ですか?」

 

虎が対応に頭を悩ませていると、緑谷から質問が上がる。

ただし虎考案のとにかく全身の筋肉を使うことに特化したダンスを踊りながらの為に、かなり聞き取りづらい話し方だが。

 

「ダメだ。グリーフストーン……だったか?その詳細な量、許容量が分からない限りはできない。少なくとも合宿後の話だな。」

「……量的には大丈夫ですから、個性を使う訓練しませんか?というか、ぜひそうさせてください……!」

 

さやかは懐からグリーフストーンが入った袋を取り出し見せつける。昨日は丸一日魔法を使わなかったので、残数には十分な余裕がある。

だが、まどかとさやか以外の目には奇怪にしか映らない行動だ。中身が空の、風に揺らされる頼りない布袋を見せつけられているのだから。

 

「…………昨日も聞いたが、我々にはそれが空の袋にしか見えんのだ。」

「え?あ、そっか……。」

 

困ったように返す虎の表情から、さやかはグリーフストーンの見え方が違うことをようやく思い出した。

 

「で、でも、とにかく残りは沢山あるので、個性を使った訓練をした方がいいかなって、さやかちゃんは思うんですよ!」

「ならん。……ええい、少し待っていろ。」

 

虎はさやかとまどかの嘆願を切り捨てる。

しかし自分のやり方に問題があることも認識したようで、後ろを向き手元の端末で何かを調べ始めた。

 

「それに、しても、本当に、不思議だな。二人には、僕たちには、見えない、黒い石が、見える、だったよね?」

 

彼は休憩が指示されていないために、「我ーズブートキャンプ式マッスルエクササイズレベル3」を遂行している真っ最中。虎は後ろを向いているが、サボることなど頭に浮かばない程度には緑谷はしごかれている。

 

普通ならば、この過酷なトレーニングの最中にエネルギーを雑談に割くなどしない。しかし今の緑谷は、好奇心の方が勝っているようだ。

かなり聞き取りづらい話し方を緑谷は少し申し訳なく思っているが、それでも聞かずにはいられない事象だった。

 

「うん。……まあ、信じられないかもしれないけれど。」

「もちろん、疑っている、わけじゃ、ないんだ。でも、本当に、不思議だよ。見えない、だけじゃなく、触れられない、なんて。」

「……緑谷君、お話しする時くらいは体を動かすのを止めてもいいんじゃない?とっても話しづらそうに見えるんだけれど……」

「僕は、休め、って言われて、ないから、ひい、ひい……」

「……真面目だなあ。今なら虎さん後ろを向いて……」

「なんだあ?なにやら良からぬことを企む声が聞こえてきたようだが……」

 

位置的に、虎に対してさやかは背を向けていた。そして、聞こえないように小さめの声で話していたつもりだった。

さらに虎も後ろを向いていたはずだが、さやかとまどかは強烈な視線を感じてしまう。

 

「……な、何でもないです。」

「そうだろうそうだろう。この場には勤勉に我考案の訓練をこなす『我ーズブートキャンプ・チルドレン』しかいないのだからな。」

「そ、そうですねー。あは、ははははは。」

「そ、それで緑谷君。話しづらそうだし、これでどうかな?ちょっとした個性の応用で、こんな感じで……」

 

さやかが指先から個性を使う。それは緑谷の喉に作用したらしく、緑谷は体の異変を感じ取った。

 

「え、ええ?美樹さん何を……?」

「おい!個性を勝手に使うなと言ったではないか!」

「手持ちのグリーフストーンはこれを一万回やっても残るくらいありますから!このくらい全然大丈夫ですよ!」

「…………まあその程度なら問題ないが。何をしたのだ?」

「それで、緑谷君、どう?これで話しやすくなった?」

「え?……あ、本当だ!息切れしているのに普通に話せる!すごいなあ、さすが個性『魔法少女』!汎用性は他の追随を許さないレベルだね!」

「そ、そんなこともできるのか……む、いかん。さっさと調べものを終わらせねば。」

 

しばらくあっけに取られていた虎だが、時間を浪費していることに気が付き作業を再開する。

 

「せっかくの機会だから聞いていいかな。グリーフストーンのこと。不躾だとは思うけど、色々気になることが多すぎて……」

「いいよ、そんな気を遣わなくって。言えなかったら「言えない」って言うから。」

「ありがとう美樹さん。そうだなあ……どうして『グリーフ』ストーンって名前なの?」

「え?あー……」

 

早速答えにくい質問だった。魔法少女の成り立ちから考えれば「嘆き」は当然だが、この部分は言えるものではない。

しかしこれに関しては、昨日から巴マミとも相談し、どうするかをスマホ越しに話し合った。

 

特に口を滑らせてしまいそうと言われてしまったさやかは、事前に練習までした『答え』を話す。

 

「えっとね。これは私たちが付けた名前じゃないの。中学の時に私達とよく付き合っていた先輩がいて、その先輩がグリーフストーンと似た黒い宝石みたいな物に『グリーフ』の名前を付けてたんだ。結構カッコつけがちな先輩でさ。『嘆き』のイメージがそれにピッタリだって言ってた。それで、それと似てたからこっちもグリーフって呼ぼう、っていう経緯……だったかな。数年前だからちょっと怪しいところがあるけど、大体こんな感じだよ。」

 

間違ってはいない。だが事実を都合の良いように切り貼りしたような日本語と言える。接続詞が怪しい部分には目を瞑ってほしいと二人は心の中で願っていた。

 

まどかとさやかとしては、こんな凝った言い方をせずとも適当に嘘をついて誤魔化せばいいのではと感じていた。しかし調べてみると、この世界には嘘を見破る個性が実在することが判明し、仕方なく巴マミが中心となって頭をひねり、昨日この回答を作ったのだった。

 

彼女の頭脳労働の甲斐はあり、緑谷はひとまず納得する。

 

「そうなんだ……『嘆き』なんてついているから、なにか秘密でもあるのかって思っちゃったんだ。」

「あ、あはは……そうだよね。名前変えようかな?いちいちビックリされるのもちょっと困っちゃうもんね、さやかちゃん。」

「うん。やっぱり常闇君が言ってた『ダークヒーリングストーン』とかがいいかな?ちょっと長いのが気になるけど。緑谷君はどう思う?」

「『ダークヒーリングストーン』はシンプルでカッコよさもあっていいと思うよ。特徴もわかりやすい。常闇君はこういう名づけに関しては流石のセンスだよね。でも確かに長いかな?うーん……」

「…………器用だなあ。」

 

身体を動かしつつなにかブツブツ呟き始める緑谷。

微妙に気味悪く思いつつも、この話題を乗り切ったことにひとまず安堵した。

 

「……呑気なものだな?緑谷。そして魔法少女達よ。」

「へ?」

 

気が付くと、虎が腕組みをして自信満々の笑みでさやかとまどかを見ていた。

 

「喜べ。筋肉痛状態でも効果のあるトレーニング方法を組み立てた。これで時間を無駄にせずにすむ。」

「あ、あの……」

 

虎は端末をさやかとまどかに見せつける。

そこには「※筋肉痛です」とテロップで示されている人が「なんで俺は痛みを無視して動けるんだ!?」と恐怖交じりに踊る映像が流れていた。

とても痛みを感じているようには見えないキレのある動きだった。

 

「これこそが我々増強系ヒーローが生み出した最高効率の訓練法。これから行う訓練は、筋肉に低負荷を長時間かけることがコンセプトだ。常に全身の血流を活性化させ、疲労回復と負荷を一挙に行うトレーニング法。我も久しくやっていなかったな。さあ、共に汗を流そうではないか、魔法少女達よ!」

「いや、それって魔法少女っぽくないでしょ絶対、ちょ、ま、うわああああ!!!」

 

 

「ま、まどかちゃんとさやかちゃんがまた死んでるー!!!」

「い、生きてる……多分、きっと……」

 

昨日とまったく同じ光景。

疲労が全く抜けていないにも関わらず、虎の卓越したコーチングによりまどかとさやかは昨日に引けを取らない運動量を結局こなした。

もはや動いてはいけないのではと不安になるほどに二人の身体は重い。

 

その疲れぶりは、見る者にすら不安感を与えるほどだった。マンダレイとピクシーボブが心配そうに二人の顔を覗き込む。ラグドールは「大丈夫かにゃ?」と口では言いつつもニヤニヤと笑っていた。

 

「……だ、大丈夫かにゃん?今日はこの後お楽しみが待ってるにゃん。」

「と、虎。流石にしごきすぎじゃない?」

「ぬぅ……しかしこれこそ最大のトレーニング効果が見込めるハズなのだが……」

 

ワイルドワイルドプッシーキャッツの3人に囲まれて、やりすぎではと詰められる虎。

きまずそうにはしているが、しかし自分の指導が間違っているとはやはり感じていない様子だった。

 

「流石に夜のレクリエーション分くらいは体力を残しておいてあげなよ。」

「『夜』の……レクリエーション…………!?お、おいまさかグヘッ!?」

 

しゃしゃり出てきた峰田を瀬呂が拘束する。

恒例行事と化しているので、もはや誰も反応しない。

 

「峰田やめろって。普通科に変な噂流れたらどうすんだ。」

「だってよォ、お前らも気になるだろ!?『夜のレクリエーション』!肝試しと言われてはいるが、詳細は明かされてねェ!!!つまり『夜』にちなんだ運動が絡む可能性もあるわけでェ!!!」

「もちろん君の期待するようなことは一切ないにゃん。」

 

ラグドールの当然の宣告。

しかし峰田は、現実をうけいれられないとばかりに表情を絶望で満たしていった。

 

「……は?おい、おい?嘘だろ?嘘だと言ってくれ。希望を断つことが、ヒーローのやることかよ!」

「お前は肝試し中ずっと訓練だ大馬鹿野郎。」

「ぎゃあああああああああああ!!!女体、女体いいぃぃぃ!!!」

「当たり前だにゃん。一体なんなのこの子は……」

「……いろいろと溜まってるんだろうなァ」

 

相澤に引きずられていく峰田に対し、さやかとまどかは無反応だった。疲労もあるが、一緒に居る時間が他A組生徒と比べて短い二人ですらなれたのだ。

 

「……で、あんなのはどうでもいいとして。今日肝試しやるんですか。」

「あれ?言ったはずだけど、聞いてなかった?」

「踊るのに精いっぱいで……」

「あらそうだったの。その通り。今日の夜は肝試しがあるにゃん。しっかり頑張った後には、しっかり楽しいことがある!そういうことだにゃん!その準備として、まずはにくじゃが作り頑張ってね!」

 

さやかは「それなら寝っ転がって女子バナさせて……」とこぼす。残念ながらいつもの声を出す気力がないために誰の耳にも届かない。

横にいたまどかだけが「私も肝試しはあんまり好きじゃない……」と心の中で同意する。

 

「こ、これ毎日やるんですか……?できれば、ちょっと手伝ってほしいんですけど……」

「うわ、まどかが。めずらし……」

 

まどかが珍しく先生に「お願い」をしたことにさやか達は軽く驚く。

 

その言葉を聞いた教師たちも意外に思ったが、応えるつもりはなかった。

 

「俺たちにも仕事があるから難しい。だから事前に言っただろ、旅行じゃねえって。」

「ううう……そんなぁ……」

 

全身の水分が接着剤にでもなったかのように感じるさやかとまどか。

なまじ教師たちの負担が増えた理由に心当たりがあることもあって、それ以上嘆願する気は起きない。

 

仕方なく、さやかは全身の粘付きに全力で抗い、何とか立とうとする。

 

「……お、おい?大丈夫か?昨日にも増して疲れてそうだぞ?」

「な、なんとか気合で……みんなとの料理がんばる……」

「すごい、すごいよさやかちゃん!そんなにプルプルしながらも立ち上がるなんて!よーし、私達も最高のにくじゃがを作るよ!!!」

「お前、見直したぜ!思ってたより何倍もガッツがあるんだな!」

「ちょっと、思ってたよりって何!?プルプルしてるのはしょうがないでしょー!」

 

抗議するさやかだが、その顔に嫌悪は一切ない。フラフラしつつも嬉々として作業に取り掛かるさやか。

いつの間にやら、声量は普段と同じ大きさになった。

 

(……こんなにみんなのキラキラした顔が見れる。ここに来て本当に良かった!)

 

合宿は3日目。心の中でその日数を数えた時、残り半分も残っていることを嬉しく思っていた。

 

 

そうして楽しい時間はあっという間に過ぎる。

 

夜の山の中にA組とさやかとまどかは集合していた。

時間が経過して少し体力が回復し、さやかはなんとかレクリエーションは出来そうな体調だった。

 

「肝試しの時間だァーーー!」

「試すぜーーーーー!!!」

「み、みんなすごい元気……」

「まどか、疲れるのは分かるけどテンションあげてこ!ほらほら!」

「さやかちゃんもすごい元気……私、正直寝たいよぉ……」

 

この中で一番テンションが低いのはまどかだった。彼らの中で体力が無いのはさやかとまどか。しかしまどかはそもそも肝試し自体好きではないために、テンションを上げきることができないでいた。

 

芦戸の手も借りて何とかまどかを立たせているさやか。足が震えているように見えるが、ここでは不幸なことにまどかは自分の為に何かする友達の気持ちを無下にすることがとても苦手だった。

 

しかしここで、まどかを支える手が一つ消えることになってしまう。

 

「その前に、大変心苦しいが、補習連中はこれから俺と授業だ。」

「……う、そ、だ、ろおおおおおおおお!?!?!?」

「すまんな。日中の訓練が魔法少女の個性のゴタゴタもあっておろそかになったんでな。こっちを削らせてもらう。」

「そんな!ごめん、三奈!私の個性のせいで……!」

「さやかちゃんは悪くないよ!悪いのは慈悲のかけらもない相澤せんせえええぇ!!!!」

 

相澤の名前を口にしたところで、芦戸の口に捕縛布がかかる。

 

「何言ってるんだ。あんまりふざけたことを言うと明日にも補習を入れるぞ。」

「爆発してくれええええ!試させてくれえええええ!!!」

 

建物に引きずられていく補習組5人を、さやかは断腸の思いで見送る。

 

「……まどか、頑張ろう!消えて行ったみんなの分まで、私たちが!!!」

「あ、あはは……」

 

ノリについていけてないまどかは、ひとまず彼らの叫びを無駄にしないために地に立つことにひたすら集中することにする。

 

本人たちは自覚していないことだが、肝試しにもかかわらず、疲労のせいで恐れという感情は全く感じていないのだった。

 

 

肝試しは脅かす側とされる側にA組とB組が分かれる。

 

される側は森の中の決められたコースを歩き、奥にある名前の書かれた札を持って帰ることが目的。

脅かす側は創意工夫を凝らして脅かしにかかるが、直接接触禁止。2人1組となり、3分おきに出発する。

 

ちなみにこれは勝負事扱いのようで、虎によると「より多くの組を失禁させた方が勝者」らしいが、条件が汚いこともあってあまり真面目に受け取られていない。

 

それはさておき、くじ引きの結果。

 

「……なんとも言えないペア。まあ、よろしくね。」

「えっと……よろしく。」

「ああ、よろしく頼む。鹿目君。」

 

さやかは尾白、まどかは飯田と組むことになった。

 

接点ゼロではないが、とても仲のいいとまでは言えないペアたち。それがお互いの認識だった。

尾白は挨拶以上に言うことが思い浮かばず頭を掻き、飯田は誠実だが全く女子受けしない態度でまどかに話しかけていた。

 

まあ現実はこんなものかとさやかとまどかは納得し、どうやって待ち時間を持たせようかと考え始めた。

 

しかしここで、さやかの表情を見た尾白は少しだけ傷ついた表情になってしまう。

 

「……美樹さん。言いたいことは分かるよ。」

「へ?」

「…………どうせ『普通の男と一緒になっちゃったな~』って思っているんでしょ?」

 

さやかは予想だにしない言葉に面食らったが、確かにほんの少しだけ『普通だなあ』とは感じていた。

後ろめたさを感じ、慌てて言い訳に走る。

 

「そ、そんなことないよ。普通って、なんにも悪いことないでしょ?それにそもそもヒーロー科ってだけですごいよ。」

「いや、いいんだ。美樹さんは何も悪くない。悪口言ってるんじゃないって分かってる。それに、『普通』ってのも悪いことじゃないって。……でも、でもなぁ。」

「でも……?」

「俺だって、俺だってヒーロー志望なんだよぉ!相応に目立ちたいんだよ!微妙な顔されたら、多少なりともガッカリしちまうんだよー!!!」

 

尾白の叫びに、周囲の男子達も「なるほどなぁ」と同意する。特に砂藤は「俺の個性とか特に被ってるからなぁ……」と、深い頷きを示していた。

 

さやかはアウェーの空気を感じ取り、慌てて否定の言葉を重ねる。

 

「…………ま、まあほら?尻尾ってシンプルイズベスト感あるし、そんなに落ち込まなくても……?」

「さやかちゃん、それは追い打ちだよ……」

「シン、プル……!尻尾は、シンプルゥーーー!」

 

涙を流す尾白を適当に慰めることに、彼らの待ち時間の大半は費やされることとなる。

 

「男ってめんどくさい」「肝試し中何を話せばいいの?」という本音を隠しつつ、さやかとまどかは待ち時間を潰した。

 

 

 

 

 

 

実際のところ、このくじ引きで誰とペアになったかというのは、二人に限って言えば大して重要ではない。

 

この後の展開に関していえば、重要なことは、二人の出発はかなり後ろの方だったということだ。

 

 

「……なんだか嫌な感じがしない?」

 

最初に気が付いたのはまどかだった。

 

「鹿目さん?嫌な感じって?」

「その、説明が難しいんだけど……悪いことを考えている人がいる気がする、っていうか。」

 

なんだそれはと周囲は首をかしげる。

 

しかし、ソウルジェム(悪意感知機能を持つ)を知っている魔法少女仲間のさやかは一気に気を張りつめさせた。

 

「え、まどか、マジ?」

「うん……冗談とかじゃないよ。」

「えっと、美樹さん?」

「みんな、警戒して!!!」

 

美樹さやかは突如として大声で叫ぶ。個性を使ったもので、周囲に危機感をあおるものだった。

 

警戒した一同は、すぐに周辺の異変に気が付く。

 

少し遠くに目を向ければ、夜の森を蒼い光が美しく彩っていることが分かった。

だがそれは、彼らに安らぎではなく恐怖を与えた。それは蒼炎(完全燃焼)なのだった。

 

「何、この臭い……!?」

「まさか、山火事!?」

 

その声につられて彼らの意識が遠方に向いた、その瞬間。

 

近くの人間への警戒がおろそかになるのは、人間の注意能力の限界だろう。

 

「……え、何!?」

「ピクシーボブ!?」

 

謎の力によって、ピクシーボブは何の前触れもなく森に移動した。

 

吹っ飛ばされたというよりも、引き寄せられたというような動き。そして、彼らの注意が遠くに向いた瞬間を狙ってものだった。

 

「え、何だ今の!?ピクシーボブを追わないと!」

「……待て、お前たち!奥にいるのは……!」

 

虎が、訓練とは違う種類の緊張した声色で森の奥を睨みつける。

 

直後、ゴッという鈍い音がかすかに聞こえた。

 

「ピクシーボブ!……まさか、これって!」

 

マンダレイの声から、現実を認めたくないという欲求が感じられる。

 

今の鈍い音は、勢いのせいで木に衝突した音であってほしいと彼らは一瞬願った。

 

だが、無情にも数秒後にその音の正体が前に現れる。

 

その答えである、気を失い頭から血を流すピクシーボブ。

彼女は乱雑に彼らの前に放り出され、直後その頭の上に、布でくるまれた重そうな箱が乗せられる。

 

顔を地に押さえつけ、悪意を湛えて笑う2つの人影が現れてしまった。

 

「……飼いネコちゃんは、邪魔ねえ!」

 

ユーモアを交えつつも威圧する男――外見的には男性に見える人物。荒事で生きてきましたということを誇示するかのように、傷を持つ筋骨隆々の肉体を持っている。

 

そしてその横に、トカゲのような風貌の異形型個性らしき男。こちらは少し小柄だが、背に武器らしきものを背負っており、眼光鋭くヒーローと生徒たちを睨みつけてきていた。

 

「……そっちの、異形型の方は知らんが。貴様は(ヴィラン)名『マグネ』!」

 

異形型の男は、この扱いに軽く眉をひくつかせる。

 

「あら、私を知っているの。まあ、やることやってきたし、有名人ってことかしらね。光栄だわ。」

「強盗、殺人、殺人未遂……そのほか細かい容疑がゴロゴロとかかっている。ついに罪を認め、ヒーローの前にノコノコと捕まりにきたのか?」

 

マグネの凶悪さが説明され、周囲の生徒たちに恐怖が満ちる。

 

「大した口ねぇ。でもいいのかしら?このかわいいお仲間がどうなっても。」

 

ゴッ、ゴッという音を立てて、何kgもありそうな物体でピクシーボブの顔を小突く。

 

人質。

さしものプロヒーローも、苦虫をかみつぶした顔で止まるしかない。彼女を諦める気は毛頭ないが、やみくもに突っ込むこともできない。

 

「くっ……」

 

虎を始めとして、マンダレイや生徒たちも無力さを感じ手に力が入る。

 

このような場合どうするべきか、その対応策をヒーロー達は皆頭に叩き込んである。しかし流石に相手の情報もなしに突っ込むことは、基本愚策という扱いだ。

直ちに人が死ぬのでなければ、(ヴィラン)の個性、目的、戦力を把握してから動くことが大前提。これが常識である。

 

しかしこの場には、その前提を教育される前のヒーローの卵がいる。

 

「マンダレイ!」

「待て!」

 

緑谷が飛び出そうとするのを、虎は慌てて引き留める。

 

「……!」

(よかった、止まってくれたか。信じていたぞ、緑谷。貴様なら頭を働かせて最善の行動ができるとな。)

 

緑谷は制止に素直に従った。この年齢のヒーロー志望には正義感だけで動いて余計に場を混乱させてしまう者も多く、そうならなかったことに対し虎は心の中で感謝を述べ、緑谷に目線でそれを伝えた。

緑谷も自分の停止が間違いではないことを認識する。

 

客観的に見れば、ここでヒーローに任せて自らは安全なところに避難するのが、A組生徒たちの最適な行動だろう。

 

だがこの鉄火場では、最適行動では救えないこともあった。

 

「……ヤバい。」

(…………マンダレイ?)

 

かすかに届いた、マンダレイの呟き。ヒーローが人々を安心させるものではなく、本心からこぼれ出てしまった言葉。

 

緑谷がマンダレイの表情を見ると、虎以上に焦った顔だ。

 

単に襲撃されて焦っているのかもしれないと、緑谷は最初判断していた。

しかし頭の回る彼は、少しするとある人物が危険極まりない状況に置かれてしまっていることに気が付く。

 

(…………洸汰君!)

 

ハッとして、昨日こっそりと出向いた彼の秘密基地の方を見る。蒼い光が見えた。

 

その炎の出所が秘密基地と被っているかは流石に判断が付かない。だが、この合宿の人員の中で最も戦闘能力がないであろう彼。ゆえに最も危険な状況であることは明白だった。

 

そして彼の秘密基地の場所を知っているのは、彼を迎えに行けるのは、緑谷だけ。マンダレイは場所を知らないと言っていたのだ。

 

「ご機嫌よろしゅう雄英高校!」

 

異形型個性の男が、堂々と躍り出る。

 

「我ら(ヴィラン)連合、開闢行動隊!」

 

手を広げ、ヒーローに攻撃されるリスク度外視で彼は名乗りを始めた。その表情は使命感に満ちている。

 

(ヴィラン)連合!?なんでここに!」

「この娘の頭、潰しちゃおうかしら。どうかしら?ねえ、どう思う?」

 

ニヤニヤとピクシーボブの頭に圧をかける男は、自分の敵を嬲り、優位に立てる愉悦を存分に噛み締めていた。

 

「させぬわこのッ……!」

「まてまて、早まるなマグネ。それに虎もだ。落ち着け。」

「……?」

 

異形型の男はマグネと虎の間に割って入る。どちらもが愚かな行動をしていると言いたげだった。

 

ヒーローたちにとっては、仲間割れという一瞬の期待を抱かせる言葉だった。

 

「生殺与奪は全て、ステインの仰る主張に沿うか、否か…………って、ああああああ!!!貴様アアアァァァ!!!」

 

演説のような言葉の中で、その男は突然生徒の一人を指す。

 

「貴様、貴様は、美樹さやか!!!」

「……へ、え?」

 

まさかピンポイントで自分が当てられると予想していなかったさやかは、素っ頓狂な声を上げた。

 

「あらホント。治癒個性でお騒がせの美樹さやかじゃない。よく見れば、体育祭で大活躍の鹿目まどかもいるわ。想定外よ。」

「ステインを終わらせた者の一人!何故ここにいる!?貴様、ヒーロー志望だったのか!?」

「ひっ!?」

 

またもや興味も理解もない思想を元に動いていそうな犯罪者。それが親の仇でも見るかのような視線を彼女に送っている。

同じ人間なのに今後全く分かりえないであろう人間に対し、さやかはすさまじい悪寒を感じてしまった。

 

直後、さやかの前に、飯田が立ちはだかる。

 

「なんだお前は!奴の主張に当てられた連中か!」

「そうさ!そこの眼鏡君!保須市でステインの終焉を招いた人物!まさか2人まとめて粛清できるとは、好都合!!!」

「粛清、だと!?」

 

飯田の反応にニヤリと笑い、彼は背負っていたものを取り出す。

 

「そうさ!俺はスピナー!ステインの夢を、紡ぐ者だ!」

 

展開されたものは、無数の刃が集合し一つの凶悪な剣のようになっている武器。

 

ステインの持っていた刃を、紡ぎに紡いだ武器なのかもしれない。

 

 

相澤消太は、補講組5人とこれから毎日謹慎させられそうな峰田を引きずって宿泊施設に来ていた。

 

これから夜の1時ほどまで講義をするのが当初の予定。そのあと朝5時に彼らを起床させる。まさにヒーロー科生の試練ともいえるほどの殺人的スケジュールである。

それゆえに相澤は生徒たちの健康状態に心を砕き、無理がたたって倒れることは無いよう苦労を重ねてきた(ただし峰田は除外される可能性が出てきている)。

 

その彼の苦労が水の泡となっては、怒りもその分大きくなる。

 

「目的人数配置を言え。」

「なんでだよ……」

「こうなるからだよ。」

 

ボキリと他人の腕を折りながらそう要求する相澤。何も知らない人から見れば、彼の方こそが(ヴィラン)に見えてしまうだろう。

 

凶行に近い行いことをしている理由は、相澤が乗っている男が(ヴィラン)だからだ。

 

合宿所に入り、さて講義を始めようとした矢先のことだ。

突如としてマンダレイのテレパスが彼の頭に届く。

 

(ヴィラン)2名襲来!他にも複数いる可能性あり!動ける者は直ちに施設へ!会敵しても、決して交戦せず撤退を!」

 

テレパシーだからこその、アナウンサー顔負けの早く正確な情報伝達。それが彼の耳に届き、相澤は警戒のスイッチを一気にONにする。生徒たちはブラドキングに任せ外の生徒たちを迎えに走った。

 

そして外に出た直後、(ヴィラン)らしき男の炎攻撃を受ける。しかし自前の身体能力を生かし逆に制圧。ここ最近の細かい苛立ちもぶつけながら、襲ってきた継ぎはぎの男を地に押さえ込んでいた。

 

「……焦ってんのかよ、イレイザー。……あ゛っ」

 

減らず口の男の腕をさらに折った、その直後。

 

「……!?なんだ?」

 

地響きが起こる。

 

それは一過性の爆発などではない、現在進行形で起きている現象。自然の地震とは明らかに違う揺れ。

 

個性によるものなのかは不明だが、脅威になることは必然といえるレベルだった。

周囲の様子に変化は見えないが、絶対に何かが変わっているはずだと相澤は忙しく首を回す。

 

「おい答えろ。何をした。何が起きている!?」

「やっぱ焦ってんじゃねえか。なんだ、次は足まで折るのか?ヒーローの所業とは思えねえが……っ!」

「問答をするつもりはない。答えろ。」

 

全身を複雑骨折させる勢いでボキボキ折っていく相澤だが、継ぎはぎの男は不敵な笑みを絶やさない。

この拘束されている状況が不利だとは全く感じていない様子だった。

 

「ま、すぐに分かる。俺から言えるのは、お前らここで全員死ぬってことだけだ。残念だったなァ、ヒーロー。」

「……中を襲うつもりか?」

 

男の目線を辿ると、施設を向いていた。

 

「無駄なことだ、諦めろ。ヒーローは俺だけじゃない。」

「中?ハッ!呑気なことだ。じゃあ特別に教えてやる。屋根の上を見てみろ。」

「……!」

 

目を凝らすと、見慣れない物体が施設の屋根の上にあった。箱のようなものだが、それ以上のことは暗闇のせいで分からない。

 

だが、この状況下であれば正体は決まっている。相澤はそう考えた。

 

「爆弾か?無駄だ。この施設は元対(ヴィラン)訓練として作られたヒーロー向け施設。その構造は個性で暴れても簡単には壊れないような強化構造だ。物理的衝撃だけでなく、熱、酸、電撃、あらゆる攻撃に耐性がある。あんなチンケなもので壊れるヤワじゃない。」

「ざんねーん、大外れ。そのどれでもねえよ。ありゃ余りのプレゼントボックスだ。箱なんて本当は必要ねえが、洒落は効いてる。あの世への手土産ってな。」

「何?」

 

相澤は本気で見当がつかなかった。(ヴィラン)の攻撃方法でめぼしいものを一通り頭に思い浮かべて、そのどれでも「簡単には壊れない」のがあの合宿施設。

 

小さなパカリという音が耳に届く。

あの箱の蓋が開いていた。

 

「おめでとうイレイザー。可愛い教え子と死ねるなんて、教師の本望だろ?」

 

直後、相澤の全身を衝撃が襲い、彼の意識は途絶えた。

 

 

「洸汰君!」

「……な、なんだよ?」

 

出水洸汰は言葉の上ではやってきた緑谷を拒絶しているが、今回ばかりは本心ではない。目にはわずかに涙がにじんでいた。

 

彼は昨日と同じように秘密基地で独り森を眺めていたのだが、ある時から異変に気が付いた。

 

そこら中にあがる蒼い炎。その発生個所がまだらにあることからも、人為的に起こされていることは若い彼にも理解できた。

すなわち(ヴィラン)が襲ってきているのだと。

 

それを認識した途端、彼は動けなくなってしまっていた。施設に戻ればいいのか、と思ったが、あいにくと施設との間に炎があった。この秘密基地から続く道は施設へのもの以外知らない。まさに陸の孤島だった。

 

どうすればいいか分からずガタガタ震えていると、緑谷がやってきた。

ヒーローとつるむ人間を見てホッとした自分に洸汰は嫌悪感を感じるが、緑谷の必死な表情を見てそれも掻き消えた。

 

緑谷はマンダレイの制止も振り切り、無我夢中でここに来た。

無事な洸汰を見て彼はひとまず安心する。

 

「洸汰君!(ヴィラン)が襲撃してきたんだ!早く施設に戻ろう!僕の背に乗って!」

「え、えっと……俺、自分で走れる……」

「僕の個性ならスピードが出る!一刻を争うんだ。ヒーロー志望と一緒なんで嫌かもしれないけれど、お願い!僕の背に乗って!」

「わ、分かったよ。そんなに俺はワガママじゃねえし……」

 

渋々1割安心9割の感情で緑谷の背に乗る洸汰。

 

駄々をこねるのではと緑谷はひそかに恐れていたが、すんなりと彼を施設へ連れ戻せそうだと安堵した。

 

しかしいざ個性でフルカウルを発動させようとした、その瞬間。

緑谷はその異変に移動することを止めることを選択する。

 

「……地響き?(ヴィラン)!?」

「お、おい!!!なんだよこれ!?ヒーロー志望なんだからわかったりしねえのかよ!?」

「ごめん、流石に地響きだけじゃ、なんとも……」

 

緑谷はその場から移動せず、周囲の様子を探る。

 

すぐに飛び出せるように足にOFAを5%発動させながらの警戒であり、個性による緑色の稲妻が簡易的な光源になっていた。

もちろん茂みにでも隠れている相手を照らし出せるほど強い物ではなかったが、それでも探るということを緑谷に可能にさせていたことは、小さくない安心材料だろう。

 

しかし数秒経過しても、人影らしきものは目に映らない。

 

(……どういうことだ?地震を起こす個性持ちがいるのか?地割れを作ってそこに人を落とすとか?いや、でもそれにしたって……)

 

緑谷が自分の思考に入り込み始めたその時、彼の背から響く悲鳴が、緑谷の意識を叩き起こす。

 

「おい上!!!!!!」

 

背からの声と同時に、バッと上を向く緑谷。

 

迫りくる()()が目に入った緑谷は、反射的にOFAを60%腕に込めていた。

 

「SMAAAAASH!!!!!」

 

人智を超えた暴力が()()にぶつかり、爆ぜる。たった数秒その力の解放が遅れたら、二人は飲み込まれていただろう。

 

迫っていた物体が何だったのか、この瞬間の緑谷にははっきりとは分からない。暗い夜の森だ。月明りしかない。

 

見えたのはとにかく大質量の何か。それが、木々を巻き込みながら迫ってきたのだ。

本当ならば個性で迎撃するのが正しいのかを考えるのが正しいのかもしれない。この個性社会、迎撃という手段が銀の弾丸にはならないことは常識だ。

 

緑谷は頭を回すことが得意だ。それでも、この瞬間は何も考えずに個性を放った。それほどに、本能に訴えかける迫力だった。

如何に自分の恐怖が刺激されたのか、緑谷は一拍遅れてやってきた腕の痛みで自覚することとなる。

 

そしてこの段階で、緑谷におおよその正体の予想はあった。

 

(土砂崩れ……!?)

 

緑谷の個性によって宙を舞う大量の土を眺めながら、必死にこの攻撃の正体を考える。

 

(土を操る個性か!?だからピクシーボブを最初に襲ったのか!なら、この攻撃の犯人はここが見える位置に居るに違いない!ラグドールだって見えない場所にある土流は扱えないはずだ。いや、でもここに光源は……この周囲を手あたり次第にやってるのか?なら、ここから離ることがまずは先決)

 

「おいまた来てる!!!」

「はぁ!?!?!?」

 

上を見る。

と同時に、緑谷は痛みをこらえて再び50%OFAを腕に発動させて、上方向から来る大質量の何かに体を向けた。

 

「TEXAAAAS SMAAASH!!!」

 

先ほどと同様に、自然災害にすら立ち向かえるエネルギーが迫り来るものを迎え撃った。

 

周囲の土や木が、巨人に弾かれたように飛び散る。

 

しかし先ほどの反省を踏まえ、緑谷は相変わらず暗くてよく見えない上方向を見ていた。

 

(なんだ?土砂崩れってこのくらい長く続くのか!?まさかピクシーボブのように大質量の土を操れるのか!?いやでも、あの迫り方は明らかに重力任せって感じで……って!)

 

緑谷は油断せず首を上に向けていたことを正解だと感じる。

 

「DETROIT SMAAAASH!」

 

未だに()()が迫ってきていた。

 

痛みをこらえ、緑谷は腕に個性を発動させ、ぶつける。

 

緑谷は強烈な圧を腕に感じ、それに見合う成果として再度飛び散る土や木々。

 

しかし、連続使用の疲弊からか、今度は40%の出力だった。

 

さらにその手ごたえに、緑谷は焦りを感じる。

 

(……今、腕じゃなくて拳の方にすごい重みを感じた。40%で、パワーギリギリだってのか!?ピクシーボブの土魔獣だって簡単に吹き飛ぶ威力だぞ!)

 

驚愕が緑谷の頭を埋め尽くすが、彼に立ち止まっている暇は与えられていない。

 

「まだ来るのか!?なら逆の腕で、MANCHESTER SMAAAASH!

 

少しずつ状況に慣れ始めた緑谷は、出力を意識しつつ対応できるようになる。コントロールされたSMASHは、迫りくるものを腕にダメージを残すことなく迎え撃った。

 

思考のスペースにも少しだけ空きができた。緑谷はいったい何が起きているのかと周りを観察する。

 

そしてこれが、単なる土砂災害ではないことを感じ取った。

 

(なんだ?僕たちの横を、多分僕のSMASHが入らなかった分の土砂が通り過ぎていくけれど、スピードが速すぎる!テレビで出た土砂崩れの映像だと、ここまで無茶苦茶じゃなかった。土砂崩れの圧力がふつうどれくらいかなんて知らないけれど、OFA40%なら土砂崩れは余裕で迎え撃てるはずなんだ!それに、時間も長すぎる。多分1分は耐えてるぞ!

 

……あ、流石に打ち止めか。よかった、これで落ち着いて移動できる……うん?)

 

ようやく息を整えられた緑谷。

するとそこで、自分の鼻に刺激があることに気が付いた。

自分の知らない物質を思わず腕で殴ってしまったことに恐怖し、腕に異変が無いかを急いで確認した。

 

(……なんだろう、この臭い?絶対嗅いだことがあるはずなんだけど、なんだっけ?有毒じゃないといいんだけれど……

……いや、これって。もしかして。)

 

ある仮説が緑谷の頭に思い浮かぶ。

 

USJの後から、薄々は感じていた恐怖だった。

 

この超人社会、やろうと思えば何でもできてしまう。

 

もしもあの(ヴィラン)が本気を出したらどうすればいいのか。頭の中で何回も浮かび、どうすればいいのか分からず結局放っておいてしまっていた懸念だった。

 

「…………」

「……お、おい?緑谷兄ちゃん、なに腕舐めてるんだよ?」

「まさか……」

 

仮説の検証の為に、腕についた土を緑谷は舐めた。

 

口に入れてはいけないことがよく分かる苦みが彼の口を支配したが、同時に別の味を感じ取った。

 

そして仮説はおそらく正しいと、緑谷は判断せざるを得なかった。

 

「……攻撃の正体が分かった。」

 

緑谷は、()()が迫ってきた方向に目を向ける。

 

暗闇越しでもはっきりと分かることがある。二人がいる上部分がごっそりと消失している。

横を見れば、二人を残して山肌は大きく削り取られていた。二人の居た場所は、本当に陸の孤島になってしまっている。地図は大きく書き換えられることだろう。

 

緑谷は、これから対処しなければならない脅威の大きさを、そしてプロヒーローや生徒がどれほど危険な状態かを認識し、顔を大きく歪めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは、黒霧の個性!さっき迫ってきていた物体は海水だ!個性の『ワープゲート』で、深海とここを繋いでいるんだ!!!」




・ペア
緑谷は口田とです。まあほとんど意味ありませんが。

・想定外
某青い山の裏切り者は「合宿の場所を教えなさい」と言われたのであって「合宿のメンバーを教えなさい」とは言われてないので……
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