今回ある一キャラにとても焦点が当たっています。理由は筆者の趣味です。
そして廻天は8月28日公開予定ですってよ奥さん!ホンマか?
(まったく……最初からこんな人質作戦を決行するなんて、恰好が付かないわ!)
当初は積極的に攻撃を仕掛けていく予定だった。この襲撃は、
そのためにヒーローの卵たちを襲い、雄英の評判を地に落とす。そして、世に潜む
その手始めとして、この場にいる雄英生徒やプロヒーローを殺し、力を見せつけるつもりだった。
だが、その計画は初っ端から狂ってしまった。
「もぉ~~、なんでこの場所はこんなに戦力が揃っているの?嫌になっちゃうわ!」
「こちらのセリフだ
「当たり前じゃない。私たちは
「ふざけたことを抜かすな!」
双方が言い争うが、手は出していない。膠着状態だった。
ヒーロー側が動けない理由は人質だ。マグネの鈍器が彼女の頭の上にある。さらにその下にはもう一つ金属の板が敷かれていた。
マグネの個性は『磁石』であり、個性を発動すれば一瞬で彼女の頭はつぶされてしまう。
しかし思いのほかここに集まった人数が多いのだ。マグネとスピナーだけでは確実に勝てるか分からなかった。
それは、ヒーローだけではなく。
(んも~~~、なんであの魔法少女二人がここにいる訳!?普通科はおとなしく学校に居なさいっての!)
この場にいるのは、プロヒーローのマンダレイ、虎、ピクシーボブ。そしてヒーロー科の飯田天哉、尾白猿夫、口田甲司。ここまではおかしくない。
しかし、予想外なのが美樹さやかと鹿目まどか。個性が派手で強力なために、一部の
特に美樹さやかは、その治癒個性に目を付ける者も多かった。流石にヒーロー側もそれを理解し全力で防衛策を打ってきたために迂闊なことはできなかったのだが。
(鹿目まどかは……体育祭の映像を見る限り遠距離攻撃がメイン。一瞬でもこの人質を解放させるスキを見せちゃいけないわ。美樹さやかの方は、あんまり情報が無いけれどさっきの動きが尋常じゃなかったわね。個性に恵まれてる上に見た目も可愛らしいなんて、ホント癪に障るわね!)
この状況に至る直前、小さな競り合いが発生した。スピナーが美樹さやかに突撃したのだが、彼女は個性持ちらしい身のこなしで大剣を真正面から迎え撃ち、スピナーの持っていた得物を両断。
あっけにとられたスピナーをさやかが蹴り飛ばし、その隙にマンダレイが拘束。地面に押さえつけてしまった。
戦闘能力を目の当たりにしたマグネは、これは迂闊な攻撃はできないと人質をメインにこの場を抑えることを決断。長年
「あ~~~~もう!イライラするわね~!今頃子供を一人か二人潰していたつもりなのに~!」
「誰一人として潰させんわ!直にヒーローの応援が来る。貴様はもう逃げられん。さっさと彼女を解放しろ!」
「いやに決まってるじゃない。彼女はアンタ達が全員死ぬまでずっとこのままよ。……ちょっとスピナー!さっきからボーっとしてないで戦って頂戴!いつもの覇気はどうしたの!」
「…………俺は……」
マグネは、この状況にイライラしていた。
膠着状態が鬱陶しいというのはある。しかし、マグネたちはもともとこの場から動く気が無かった。所定の時間になると、黒霧の個性を使った海水超高圧砲で一定範囲を吹き飛ばす予定で、それが終わると作戦の第二段階が始まる。そうなれば、もはや人質を取る必要もない。時間稼ぎが必要だった。
特にメインターゲットのイレイザーヘッド。厄介な個性を持つがゆえに、彼は確実に葬ろうという話になっており、彼の場所を特定してから個性を発動させる。
最初は場所の選り好みなどせずここら一帯を黒霧の個性でグチャグチャにすればいいという話もあったが、死柄木が「目撃者がいないと脅威が伝わらない」「それじゃ『黒霧の個性が脅威』になって、『
この状況は決してマイナスではない。だから、マグネの苛立ちの原因はそこではない。
「……なあ、マグネ、俺がやってたことってさ。」
「うるさいわねえ!男の子だからもっとしゃんとしなさいよ!」
「…………」
突如としてやる気をなくしてしまったスピナーに対してだった。
マグネは、彼を弱者だと思っていない。連合はある程度メンバーを選別している。スピナーは弱くはないのだ。
残念ながら今回は相手が悪く瞬殺されてしまった。だが彼の突撃は全くの無駄というわけではなく、美樹さやかが力を見せなければ「たかが普通科」とマグネは侮ってしまっていたかもしれない、とマグネ自身は思っている。
スピナーも、やればできる男なのだ。連合内での士気は高く、スピナーに当てられて連合内に熱も生まれた。口を開くとステインの話ばかりなのが玉に瑕だが、嫌いなタイプでは決してなかった。
それが、今の彼はどうだ。その熱が尽きてしまったように動かない。いや動いてはいるのだが、抵抗というものが感じられない。濁った目つきになってしまって、見ているだけでこちらまでやる気がなくなる。
(ちょっとプライドが傷ついたくらいでへこたれないでよ!やっぱり
確かにスピナーは先ほどヒーロー達と問答をしていたが、あれはそれほど気に病むような内容だっただろうか。マグネは何度か思い返してみたが、どうにもここまで消沈する彼に共感できない。
なぜスピナーから熱が抜けてしまったのか、それを理解するにはまず彼の
◇
マグネの感想通り、客観的に見ても彼は決して雑魚ではない。連合内では襲撃に際して訓練があった。最低でも、並のヒーローは抑えられる程度の実力を身に着けるために。連合内では実力は下から数えた方が早いが、彼はその訓練をサボっていたわけではなく、むしろ高いモチベーションで参加していた。
「俺の手で……ヒーローを粛清してやる!」
そういって筋トレを兼ねて重い剣を振るスピナーの姿は、連合内でも浮いていた。しかし、彼のある種ヒーローとなる人間がするような態度を「不愉快」と感じるメンバーはいなかった。
「アンタは気合入ってるわねえ……」
「まァ士気が高いのは歓迎するぜ。その調子でヒーローをガンガンぶっ殺してくれよ。」
「おう!贋物どもは全員粛清してやる!全てはステインの意志の元に!」
「相変わらずね、アンタ。まあ嫌いじゃないわ。」
必死に刀を振り回す彼は、連合内でも一目置かれるほどに集中していた。
個性が「ヤモリ」の彼は、夏に差し掛かる時期である頃からますます絶好調。仮に異形型個性でなければ、額から爽やかな汗を流していたことだろう。
このように書くと、この伊口秀一は情に厚い活発な性格に思えるだろうが、実は少し前までは、彼は引きこもりだった。
その原因は、異形型個性のせいで虐められたため、というこの社会ではありふれた理由だ。
そんな彼が、なぜこれほどまでに熱を持って努力してきたのか。
原点は、ヒーロー殺しステインだ。
きっかけは特殊なものでもない。直接邂逅したことがあったわけですらない。伊口秀一が初めてステインを知ったのは、今から数年前、単なるニュースサイト。引きこもって惰眠をむさぼる日々の中、暇つぶしのネットサーフィンの一環でのことだった。そして興味本位で彼の名前を動画サイトの検索フォームに打ち込み、偶然引っかかった再生回数ギリギリ2桁の動画。
再生した瞬間、伊口秀一は画面から目が離せなくなる。
「なんだよ……なんなんだ、お前……!?」
それまで彼は、たかが映像上の人物にこれほどの衝撃を受けることなどあり得ないと思っていた。そんな常識が粉々に打ち砕かれた。
人間かどうかも怪しい狂った形相から放たれる、ヒーロー社会をえぐる言葉の数々。狂気じみた練度から放たれる、人間離れした動きがヒーローを追い詰めていた。
「……ヒーローを、取り戻す、か……。考えてみれば、俺が今まで苦しんでた時に、ヒーローは……」
その先は口から出なかった。単に怖かったからだ。しかし同時に彼の中に怒りが生まれる。
自分が差別に苦しんでいた時、ヒーローは来てくれなかった。そんな奴らヒーローの訳がない。世間がはやし立てるヒーローは、人々のためではなく自分の名誉のために動いていると言われた方がしっくりくる。
今画面に映っていたヒーローもそうだ。そのヒーローは自分の住む地域を中心に活動していたが、彼のことを助けに来たことは全くない。
頭ではいちいち子供同士の争いに関与するわけにもいかないことは彼も分かっている。だが、感情の面では不満がどうしても溜まる話だ。
画面では、ステインがそのヒーローに対して問いかけていた。
「貴様ァ、昨日のインタビューで異形差別反対を宣っていたな?なぜあの少年を見て見ぬふりをしたァ!?」
ステインが指さす方には、自分と同じくらいの年の少年がいた。頭が蛇の様相であり、目に涙を浮かべている。
「…………」
そのヒーローは、目を泳がせるばかりでステインの問いに何も答えられなかった。
「……『贋物』」
伊口はその単語が自然に口から出た。
気が付くと彼は、検索フォームにステインと打ち込み、その経歴を調べ始めた。
「……ステイン。ヒーローを目指そうとヒーロー科に通ってたけど、現代のヒーロー社会に疑問を感じ退学。その後『英雄回帰』を掲げて活動開始……。すげえな、芯があって。」
社会の「まとも」とはおよそ外れた経歴だが、確かな意思の籠った道のりでもあった。
そして同時に憧れた。差別を受けても引きこもるだけの自分と違って、社会に対して戦っている。途方もない努力を重ね、ヒーロー科を出ていないのにも関わらずヒーローを倒している。
「なんでこんなに……そういえば個性は?……不明?少なくともそんなに強くはないだろう、でも親の個性からすると血液系と言われている?え、でもこの画像とか、増強系ヒーローとチャンバラでやりあってて……つまり、鍛えてここまでできるようになったってことか?……あっ。」
唐突に映像が再生できなくなる。再リロードすると、「この動画は警察の申し立てにより削除されました。」の文字。ヒーローや警察からすれば、人殺しの
だが同時に、それは伊口秀一のステインへの印象が固定化された瞬間でもあった。
「個性が無くても、あんなにできるんだな……。
……俺は?」
自分の個性を思い出す。「ヤモリ」は、壁に張り付くことができる性能がある。他の異形系に比べると目立たないが、ステインの持つ個性より強いのだろうか、もしかして自分の個性より弱いのでは、という疑問が頭に流れる。
なんとなく興味が出た彼は、数日振りに外へ出た。そして、落ちていた木の枝を振ってみる。
しなる枝の感触を感じながら、これは無個性が振った時よりも勢いがあるのか、ということをぼーっと考えた。
「秀一!どうしたの外に出て!?偉いじゃない!」
嬉しそうな声が聞こえた方を見ると、母親が驚きつつも彼の方を見ていた。
なんとなく恥ずかしくなった彼は、出まかせを言う。
「え?あ、いや、その、ゲームばっかりってのもアレだし、新しい趣味でもどうかなってちょっとチャンバラを……」
「新しいことにチャレンジするなんて、修一は偉いわ!お母さん、頑張る秀一をいつでも応援するからね!」
「あ、ありがとよ……」
引きこもりでゲームばっかりの息子が表に出てきたことが嬉しかったのだろう。親としては当然の行動だった。
それが、彼の自己肯定感に火をつける。
「なあ母さん……努力すれば、何か成し遂げられるって、信じるか?」
「秀一ならきっとできるわ!なにを目指してるの?」
「それはス……」
慌てて口を閉じる。母親はごく普通の感性を持っている。心の中で、彼はどういうことをしたいのかを自問した。
(……あの動画みたいに、俺も『贋物』を打倒できたらなぁ……)
これを、彼は最近働かせなかった頭を必死に回転させて言い換えた。
「その、は秘密だけど……ちょっと社会を良くしよう、的な?」
「すごい立派じゃない!お母さん、応援するわ!そうだわ、少し離れたところにそういう系のスポーツ塾みたいなところがあって……」
真意を理解していれば、この母親は真逆のことを言うだろう。それは彼も頭では理解していた。
しかし、彼にとってこれは久しぶりの「肯定」だ。感情というものは、善悪と違うところで動くこともある。
「……そうか。俺、頑張ってみるよ。」
ニコニコする母親を視界の端に置きながら、彼はもう一度枝を振った。
◇
他のステイン信者と異なり、伊口秀一には戦闘の才能があった。
それまでスポーツなどに彼は興味が無かった。誰かと一緒に運動していると、いつか必ず個性で何か言われるから。
ただ運動が嫌いというわけでもなかった彼は、意識的にネットに転がっていた情報を元に格闘技を齧ってみた。
自分でも分かるほど、上達が早かった。
それを自覚した彼は、本格的に鍛錬を始めた。その道のり自体は至極真っ当なもので、異形型向けの格闘技を教えてくれる教室に入ったのだ。母親は、引きこもり脱却の第一歩だとして快く支援した。
幸か不幸か、そこの参加者の間ではちょうどステインの話が盛り上がっていた。流石に表立って話しているわけではないので、伊口両親は把握していなかったことだが。
当然彼らと意気投合した伊口秀一は、裏でステインとヒーロー社会で盛り上がり、政治やヒーローの歪んだ知識を身に着けていく。
ヒーローを断罪する、まるで
もともと引きこもりということでコミュニケーション能力に軽いコンプレックスがあったのだ。それでその者達とどういう接し方をすればいいのか分からなかったために、つい特殊な態度を取ってしまっていた。だがそれを、彼らは自信の表れだと解釈し、流石伊口だと評価した。
その頃だっただろうか。自分の戦いの才能で、ヒーローに先んじて
ステインが逮捕されて以降はますます躍起になった。
道半ばで警察に捕まってしまったであろうステイン。仲間にはやし立てられたこともあって、「俺がステインの意志を継げば、この力で……!」とますます修練に身が入る。同時に、ネット上で犯人捜しにも没頭していた。表ではエンデヴァーの功績ということになっていた。しかしどこから情報が漏れたのか、アンダーグラウンドな掲示板ではヒーロー科の生徒、さらには強個性を持つ普通科の女子高生がかかわっているなどという噂が広がっていた。
(……ヒーロー志望ですらない女子がステインを倒した、だと?ステインは、ステインの成したことは簡単につぶしちゃならねえ!……もしそいつを見つけたら、徹底的に問いただして、後悔させてやる!今のヒーロー社会をどう思っているのか、漫然と流されるままに生きることがどれほど愚かしいかを、俺の行動をもってな……!)
◇
そんなことを続けていると、ある時伊口秀一の前に継ぎはぎの男が現れる。
「あんた、ヒーロー社会が嫌いか?」
修練中、名乗りもしないで唐突に問いかけられた。
一瞬、その男の放つ狂気を感じ取り、伊口秀一は一瞬ひるんだ。なんだこの、人を何人も殺していそうな男は、と。
しかし、問われている内容は自分にとっての重大事項。
伊口秀一はよどみなく答える。もはや引きこもっていたことなど忘れていたかのように仰々しいものだった。
「ああ勿論!ステインの示すメッセージを無駄にする、これほど不愉快なことはねえよ!」
この時の返答が本心なのか単なるノリだったのか、後々振り返っても彼はよく分からない。
それを聞いた男は、二ィっと口角を吊り上げる。何かが彼の琴線に触れたのだ。
「なら、来いよ。俺達
伊口秀一も直感した。目の前の男にも、ステインのような確固たる意志があると。彼も、自分同様ヒーローの欺瞞を打ち破りたいのだと感じ取ったのだ。
そうして伊口秀一は
同士がいた嬉しさから、彼は即日でその男に付いて行く。親に連絡など一切しなかった。
◇
伊口秀一改めスピナーの置かれる社会的状況は、常識的に考えれば悪化の一途だったと言える。
しかし、本人の精神状況は改善の一途だった。
リーダー格の死柄木に対しては、最初こそその不気味ないで立ちから壁があった。しかし、オンラインゲームのLoLという共通の趣味から話が合うようになり、スピナーは連合内でも特に死柄木と仲が良い人物となる。
スピナーにとって、少なくとも引きこもって以降は初めて気の置けない友を得たと言える瞬間だった。
他の者達も、
社会からのはみ出し者同士、ヒーローや社会への悪口で盛り上がり、スピナーにとってはかつていじめを受けていた学校など比べるべくもなく大事な居場所となった。
連合のメンバーはかつての格闘技塾にいた者達よりも遥かに実力があった。それこそ、ヒーローを打ち破ることが夢ではない程に。当初のスピナーは、連合内では弱者だった。
しかしスピナーは、青春真っただ中の若者らしい反骨精神で必死に努力した。そして襲撃の時期になったとき、彼らと肩を並べられるほどに成長したのだ。
雄英の合宿所という、強者揃いのところに襲撃をかけることに対して恐怖はあった。しかし死柄木がスピナーをメンバーから外すことは無かった。そのことを言い渡されたとき、スピナーは死柄木に見えないよう嬉し涙を流した。
「死柄木に認められたんだ。俺が、俺たちが、ヒーロー社会の欺瞞を暴く。ステインの示す英雄を、この社会に取り戻す。そして、俺達を見て見ぬふりしてきた連中に目にもの見せてやる……!」
襲撃直前、黒霧のワープゲートから出てきた彼は、「スーパーナイフナイフソード」を持つ手に力を籠める。こけおどしの継ぎはぎの大剣だが、必死に努力してきた自分ならばやれると言い聞かせた。
◇
戦いの火ぶたを切ったのはスピナーだ。彼は真っ先に、美樹さやかに斬りかかった。
もっとも許せない相手だった。ステインを逮捕したという噂にあったほか数人はまだいい。
緑谷、轟はステインが「良い」と認めたらしいので殺さない。
飯田天哉は「マシ」ではあった。ただし、飯田に関しては兄が傷つけられていることから、情状酌量の余地はあるとスピナーは持論を持っていた。彼もヒーロー科だ。根気強く説得すれば、ステインの思想を理解するかもしれない。飯田についてスピナーなりに調べた限り、「ヒーローの資格なし」と断ずるに至る言動はステインの件以外見受けられなかった。粛清対象ではあるが、気持ちは分かる、という評価だ。
だが、美樹さやかに関してはどうしても許せなかった。
スピナーがどんなにネットで調べても、彼女が主義主張を語っている記録は見つからなかった。唯一、一年以上前に
人質にされているのだから嫌がるのは当然だが、もはや一般的な感覚を持っていないスピナーにとってはそんな感想を抱くことは無い。
「こいつ、
が動画を見た彼の第一声だ。
そしてこの場で彼女と直接出会ってスピナーは確信した。
(コイツは、このヒーロー社会の歪みを見ても、見ないふりをするヤツだ。かつて学校で、俺がいじめられたときも手を差し伸べずに「ヒーローになりたい!」とかほざいてた連中と同類!)
この場で前にも出ずに、「早くこの状況終わらないかな」とこちらを打ち負かすヒーローのような意思が一切見られない。噂によれば強い個性を持っているのに、後ろで隠れているだけ。これがスピナーの印象だ。直感ではあるが、彼女にヒーローとしての資格などかけらもない。
そんな人間に尊敬するステインがやられたなど、どうしても認められなかった。
彼女は虎と
「個性使って疲れ治してもいいですか!?」
「……ウグ、仕方ない、許可する。…………積み上げてきたこれまでのトレーニングの成果がぁ……。」
などと話していて、やはり噂は間違っていなかったのかとスピナーは確信する。
最後の理性を働かせ、スピナーは美樹さやかに問いかける。
「美樹さやか……お前が奴がステインを終わらせた。そうなんだな?」
「へ?そ、多分そうだけど……?」
「あ、ちょっと、迂闊に答えちゃ……!」
そこまで聞いて、スピナーは理性に従うことを止めた。
「テメエは社会の膿!粛清されちまええええええ!!!」
鍛えた腕力で、重量だけは一級の「スーパーナイフナイフソード」を上段に構えつつ美樹さやかに突撃。
剣筋がバレバレだが、武器を持たない彼女ならばまず避けるだろう。その方向それぞれに対して、次に剣をどう振るべきか、スピナーは今までの鍛錬から導き出される答えを頭に入れていた。妄想に近いイメージトレーニングで何度も思い描いたものだった。
突撃からさやかに接触するまで約3秒だった。
1秒目。スピナーが突撃してくることを認識し、彼女は身をこわばらせる。同時に、体が輝き始めた。おそらく個性由来の何かなのだろうが、スピナーには当然見当もつかない。しかし、鍛えた自分ならば何が来ても大剣で断ち切れるはずだと進むことを止めない。
2秒目、光が収まる。すると、美樹さやかは「魔法少女」のコスプレをした格好になっていた。さらに、右腕にはいつの間にかサーベルのような武器が握られている。
流石にスピナーは突然物が出現したことに戸惑うが、あの細い武器に自分の大剣を受け止められるはずがないと思いなおす。
剣の重量を生かすべく飛び上がり、地面の赤いシミにする予定のターゲットから目線を離さないようにした。
3秒目。さやかはサーベルを横に構え、こちらもスピナーから目を離さない。こちらを恐れていない目だった。
自信を持って迎え撃とうとする彼女に、やれるものならやってみろとスピナーは不敵に笑う。
そして直後、スピナーが大剣を前に振る。それに合わせてさやかもサーベルを振った。
だが、スピナーはその動きが見えなかった。一瞬、世界が横に斬れたかと思った。さやかの目の前に降り立ったスピナーは、手にずっと感じていた重量が無くなっていることにまず気が付いた。
「……へ?」
あっけに取られて剣を見ると、綺麗にあるラインから上が消失。まるで空間ごと切り取られたかのような断面だった。直後、右手から何かが落下した音が耳に入る。続いて束ねていたナイフたちがバラバラになる音が聞こえていた。
「フンッ!」
「ぐはあっ!?」
直後、スピナーの視界はひっくり返る。腹の痛みから、思いっきり蹴り飛ばされたと一瞬遅れて気が付いた。
そうして地面に叩きつけられ、転がるかと思ったらうつ伏せ状態のまま動けなくなる。そして、背中には強烈な圧迫感。
「スピナーとか言っていたわね?そのまま大人しくしていなさい!」
マンダレイに組み伏せられ、スピナーは完全に無力化された。手に持っていた「スーパーナイフナイフソード」は柄の方も蹴られた衝撃でどこかに行ってしまった。
鍛えた肉体でマンダレイの拘束から逃れようと身を捩るが、それ以上に鍛えられた肉体を持つマンダレイを跳ねのけることはできない。
「……そ、そんな、俺は……」
何もできないまま終わった。完敗だ。
一番士気が高かったスピナーは、どこかで「まさか何もできずに終わったりはしないだろう」と思っていた。
だが、現実は残酷だった。ヒーローの欺瞞を暴くどころか、ヒーローの名声にエサを与えてしまった。
そこには小難しい理屈などない。彼が全身全霊で挑んだ戦いは、ひたすら能力差が開いていたために一瞬で終わったのだ。
「さやかちゃん、危なかったね!」
「ありがと!こっちは大したこと無くて良かった。……で、でも、ピクシーボブさんが人質になってるよ!あっちが問題だね。どうしよう……!」
「ちょ、ちょっと何よ今の!?振りの速度が尋常じゃないじゃない!いい?アタシから半径10mに近付くんじゃないわよ!その中に入ったら殺す。逃げても殺すわ。」
さやかの一言で気が付いた。もはや自分は蚊帳の外。戦いは、人質をとっているマグネをどうするかという話になっている。
「俺は、何もできずに……」
この惨めさを認識したスピナー。目から熱いものが流れ始める。いじめを受けた時に耐えきれず流した涙と同種のように感じられる涙だった。
本当にこのまま何もできずに終わるのか。スピナーが出来たことは塞がれていない口を使って空虚な抗議を始めることだった。
「お前らは……本当にこの社会がこのままでいいと思っているか!?ステインの仰った言葉に何も感じなかったのか!?貴様らァ!!!」
普段の彼らならば
しかし彼の渾身の言葉がヒーロー達の心に届くはずもなく、チラリと横目で見られただけで完全に無視されてしまう。
雑魚と見られた。その事実は、スピナーをさらに怒らせた。
「……そうやって、俺達の言葉を無視していられるのも今のうちだヒーロー共!虚飾にまみれたヒーローの名誉はいずれ剥がれる!貴様らの私利私欲のために消費された俺のような者達が、
「あ~もううっさい!さっきからイミフなことばっかり!」
「特にお前のような人間が社会の毒なのだ美樹さやかァ!」
「えっ……私?マジで何言ってんの。」
ここで名指しされると思わなかった美樹さやか。勝手にヒートアップする彼からジリジリと距離を取り始めるが、それを上回るようにスピナーの叫びは大きくなる。
「恵まれた個性を持ち、ヒーロー共の保護を受け、金を得ている社会的強者。なのに、お前からは社会を良くしようという意思を全く感じられない。今一度、ステインを継いで俺が問う。その個性で何を成すつもりだ!?」
「知らないってそんなの……ステインが関わってるだけあってやっぱり変なこと言うんだね……」
「お前、ステインの仰ったことをなんとする!?英雄回帰思想は、ヒーローが見返りを得るこの社会に警鐘を鳴らすもの。だがお前はそれ以前のレベルだ!世の為人の為、という建前すら消えているぞ!」
「英雄回帰?なにそれ?」
「……は?ま、まさか、お前、ステインのメッセージを調べすらせずに、ステインを地に堕としたというのか!?」
スピナーは、脳の血管が切れるのではというほどに頭に血が上る。
「当たり前じゃん。そもそも殆ど初対面だったし。」
「貴様アアアァァァ!!!それがどれほどの社会的損失か、お前は全く理解していない!お前のような凡愚に打倒される器じゃねえんだ、ステインはアアアアアァァァ!!!」
「こわ……まどか、こういうのがカルト宗教って言うの?」
「わ、私はひたすら怖いよ、さやかちゃん……」
「美樹さん。
「はい、マンダレイさん。……とりあえず親切で言っとくけど。スピナー、だっけ?君の言ってること全然分かんないから、私に話しかけても意味ないよ。」
「ステインのメッセージを聞けヒーロー共!ステインの意志は、俺たちが絶対に絶やさせねえ!!!」
「だから私はヒーロー志望じゃないって。……人の話を全然聞かないところはステインそっくりだなあ。」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あああああ!!!!!」
大声、というよりも奇声に近い声をあげ続けるスピナー。一つの傷だけでもつけてやると美樹さやかに向かおうとするが、マンダレイに押さえつけられているために出来たことは芋虫のように身を捩るだけ。
1分ほど、スピナーが大声を上げ続けるだけの奇妙な時間が続いた。仲間のマグネですら、黙って見守るだけだった。
すると、さしもの彼も喉に限界が来たのかせき込み始める。
耳障りな叫びが鼓膜に届かなくなり、人質を取られたこととは別種のフラストレーションからやっと解放されたヒーロー達。
しかし少しすると、別の音が響き始める。彼のすすり泣く音だった。
「……俺は、結局、何もできないで……」
このつぶやきはさやかにも理解できた。無力だった自分が不甲斐ないのだろう。
これが友達の言うことならば慰めの言葉をかけるだろうが、
「マグネ、死柄木、トガ、トゥワイス、荼毘……みんな済まねえ……」
「ちょ、ちょっと!勝手に名前出すのは止めて頂戴!」
「ああ……俺がこんなに役立たずだなんて……初めて出来た仲間なのに、何にも出来ねえでよ……」
「
「当たり前だ!お前らみたいな恵まれた人間には分からねえだろうけどな!」
さやかに対する怒りが再燃したスピナー。さやかは今の独り言を後悔する。
迂闊な自分の口を反省し、努めて無視することを決心した。
「お前らには分かるか!?ヒーローを目指すと宣う連中が俺たちのようなはみ出し者を虐げる……その被害者の気持ちがよ!ステインが『今のヒーローは贋物』って言ってくれた時、どれほど俺達は救われたか!お前らみてえなのには分かんねえんだろうな!」
「…………」
「目を逸らすな無視するなァ!これこそがヒーロー社会の闇!真に苦しむ被害者を見て見ぬふりをするヒーロー社会の縮図じゃねえか!
「………………………」
「ああ……捕まる前に、一度ステインと対話をしてみたかった。無念、だ……」
「えぇ……あっ。」
彼の発言にうっかり反応してしまったさやか。表情にも信じられないという感情が出ていた。
落ち着きかけたスピナーがまた怒り出す。
「何がおかしい!?『なんだこのバカ』みてえな反応しやがって!」
「…………ステインに会ったことが無いの?マジで?」
「……何が言いたいんだよ。」
「会ったこともない人の為に、よくそんなに必死になるなあって。」
一瞬、スピナーは「会ったことが無い」ことの何が問題なのか理解できなかった。
反射的に反論しようとするが。
「……た、確かに一度も、俺はステインに会ったことはねえ、けど……」
彼は、自分で言っていてだんだんと声が小さくなっていったことを自覚した。
(……そういえば俺、「仲間と出会って、俺は心からの対話ができた」ってさっき自分で言ったな。…………勢いもあったけど、嘘じゃねえ。)
実際、
他の連合のメンバーも同様だ。全員なかよしこよしというわけではないが、スピナー自身意外なほどに彼らと打ち解けられたと感じている。その過程で現実で言葉を交わしたことによる影響は大きいことを、スピナーは肌で感じていた。
人生で最も本音を打ち明けられた仲間の為にスピナーは襲撃に力を入れられた、という面は少なからずあるのだった。
(……い、いや、でも!一番大きな目的はステインの意志を継いで正義を成すことだ!)
自分が目標を見失っていることを自覚し、スピナーは自身に活を入れようとする。
声に出し、それを再確認しようとするが。
「い、いや!ステインの意思を、俺は……」
あの時動画で見た彼の意思。しかし、改めて頭に浮かべようとするが、なぜだか心に響かない。
内容を忘れたわけではない。ヒーロー社会の膿を正確に突くような言葉の数々は確かに凄みがあった。
だが、何かが違う。今求めていることは、そういうことではない。
(……意思を継いだ結果がこれか?なんで今、俺はこんな情けないことになってるんだよ。なんでだよ、誰か教えてくれよ……)
この答えが知りたかったのだった。
スピナーは、心に表現しがたいモヤモヤが広がっていくことを感じる。
自身の行動原理の矛盾を直視できるほど、今のスピナーは強くなかった。
『会ったこともないヤツの為に、なんでそこまで必死なんだ?』
頭の中にそんな幻聴が響いた気がしたスピナーは、顔を苦悶に歪める。
「う、うるせえ!黙れ!」
「……今度は何なの?誰もしゃべっていないってのに。独り言?」
上からマンダレイの呆れたような声が聞こえてくるが、スピナーにとってそんなことはどうでもよかった。
『そもそもお前、ステインの何を知ってるんだ?話したこともないヤツの意思を継ぐってなんなんだよ。』
「ヒーロー共より遥かに知ってる!ネットで色々調べたんだ、経歴とか、思想とか!どれだけヒーロー社会を憂いているか!掲示板で色々真面目に議論したんだよ!」
『そんなのをホントに誇れるのかよ?仲間と直接話した本音よりネットの便所の落書きの方が大事なんだな。流石元引きこもりだぜ。』
「う、うるせえ、黙れよ、頼むから……」
スピナーの眼から再び涙が溢れ出す。
頭の理性的なところから出て来る言葉を無視することに限界を迎えた。
「……じゃあ今までの俺って……何だったんだよ……。」
スピナーは消えたくなるほどに、急に自分のここまでの道程が恥ずかしくなった。
自分で自分を騙せるほどに口達者でもないスピナーに出来ることはもう殆ど無かった。
「静かにするから、もう止めてくれ……。」
だから、自分を正当化する言葉を考えることを止めた。何もかもが黒歴史となってしまいそうだったから。
今の伊口秀一は、やる気をなくしているわけでは決してない。
認めたくない現実と戦うことに必死なのだ。自分の母親に全く連絡を取っていないことを思い出したあたりで、ついに彼は口を開かなくなる。
「……よかった、やっとおとなしくなったよそいつ。ステインステインってうるさくて、頭おかしくなりそうだった。」
「んも~!どうしたのよスピナー!さっきから独り言ばっかり!いつものステインファンっぷりはどこへ行ったのよ!!!」
しかし周囲の人間は、知ったことではないのだが。
◇
「今の音はなんなんだ!?」
「我にも分からん、だが慌てるなよお前たち!」
スピナーが何も言わなくなった直後、周囲から轟音が響く。
それは黒霧の個性によって引き起こされた人工的な土砂崩れの音だ。
しかし夜で視界が悪いこともあり、それを把握しているヒーローや生徒はこの場にはいない。
ここで虎が、マグネの表情に余裕が戻ったことに気が付いた。虎の反応に気が付いたマグネは、悪意たっぷりの笑みを返す。
「はぁ~、やっと始まったのね!おかげで後生大事に人質を抱える必要もなくなったわ。ま、返さないけど。」
「貴様、何をした!今の地震は何だ!」
「こんな暗えんじゃ分かんねえよな。見やすくしてやるよ。」
虎の問いに答えたのは、マグネではなくこの場にはいなかった男の声だった。
「火の手が!?……新手?誰なの!姿を見せなさい!」
直後、言葉通り周囲が見やすくなった。
だがそれは、例えば人工照明が持ち込まれたという話ではなかった。
蒼い炎だ。
周囲の木々が一瞬で燃え上がった。一瞬遅れて皮膚から熱が伝わってきた。そしてその炎は、彼らを取り囲むように発生していた。
つまり、逃げ場を無くすために。
そうして大慌てで周囲の状況を把握した彼らは、おかれている状況の過酷さを認識し始める。
「……ちょっとまって、あっちの方向、木がゴッソリ消えてない!?」
「というか、山肌がむき出しになってる!なによこれ!?」
「どうせバレるから言っちゃうけど、土砂崩れを起こしたのよ。ここら一帯を残してね。」
「なんだと!?貴様、雄英のヒーロー科生徒たちをどうするつもりだ!」
「知らないわよ。みんな死んだんじゃないのぉー?だってこの場にいる数人のヒーローにしか用事が無いもの。」
「き、貴様ァ、ふざけるなあ!!!」
人質さえいなければ、今にも飛び掛かりそうな様子の虎。常人が見れば裸足で逃げ出す怒気を放っているが、目の前の
さらに飯田が、最もまずいことに気が付く。
「虎さん、あ、あの方角を見てください!」
「
「……僕たちの宿泊施設方向です。木々が見当たりません!つまり……!」
「なっ……!貴様らよくも!」
この場で、ヒーロー科の生徒三人とまどか、さやかは、虎とマンダレイの指示を待っていた。ステイン事件に際して、大人の言うことをよく聞くよう何度も説教されたのだ。
相応に筋が通っている物だったので、彼女たちは素直に受け入れ、先ほどテレパシーで伝えられた「指示があるまで、こっちから絶対に手を出さないこと!」を忠実に守っていた。
そしてその姿勢だからこそ、二人からの次の指示を待っている。
チラチラと二人に「どうすればいいのか教えて」という視線を送るが、二人は苦し気な顔をするばかりだった。
(……マズい、マジでこの状況はマズい。宿泊施設が土砂崩れに巻き込まれた?
そして宿泊施設への攻撃。あそこは頑丈だから、建物の中に入っていれば最低限死にはしない……はず。でも通信手段が断たれた。携帯端末に何もメッセージが来ないってことは……それにイレイザーが引率していた生徒が外にいたかもしれない……って、何を弱気になっているの私は!この合宿企画を了承したのは、私たちが彼を信頼しているからだったじゃない!
この状況で、私たちがするべきこと……この場の子供たちを守りつつ、土砂崩れに巻き込まれたかもしれない子供たちの救助。それを確実にこなすには……ああ、
奥で待機していたはずのラグドールが上手いことやってくれてるのを願うしかないわ!)
義務を果たせない悔しさに顔をゆがめる二人。今後一生肝試しなどやらないと誓うくらいしかできないとすら感じてしまった。
「随分と顔が歪んでんな。もう打つ手なし、ってか?」
「貴様……何者だ?」
「荼毘、と名乗っとくよ。」
いつの間にかマグネの横にいた、顔が継ぎはぎの男。身動きできないヒーロー二人を見て、ニヤニヤと笑いながら手のひらの蒼炎を見せびらかす。
「おっと俺だけに集中してていいのか?ほら後ろ。」
「!?っぶない!」
マンダレイが反射的に横に飛びのく。
ちょうど入れ替わる形で蒼炎がその場を襲った。目の前の荼毘は何もしていない。
炎が来た方角を見ると、なぜかもうひとり荼毘が立っていた。
「な、なんなの!?分身の個性?発火が個性じゃないの……!?」
「さて、なんでだろうなァ。ってオイスピナー、なにシケた面してんだよ。起きろ。」
「ごぶっ」
後から来た方の荼毘は、マンダレイが手放してしまったスピナーを回収していた。
気力を失ったスピナーを荼毘は軽く殴り、スピナーは何が起きたか分からずきょとんとしている真っ最中だ。
「……貴様ら、よくもまあ寄ってたかって来るものだな。数をそろえたということは、それだけ個々の実力に自信が無いということか?」
「さあてね。それよりお前ら、上を見てみろよ。」
癪だが、全く見ないわけにもいかず最小限チラリと彼らは上を見る。
「…………何アレ?カメラ?」
黒い霧の中に、小さく光る物体があった。黒い霧から機器のカメラ部分が覗いている形だった。
「その通り。ネットに繋がってないお前らは知る由もねえだろうが、今20個くらいの動画共有サイトで生放送を始めててな。……おっと、同接がもう万超えたか。」
「はあ!?何やってんの!」
「それはな……」
荼毘は、大きく息を吸い込み、上のカメラに十分聞こえる大声で宣言した。
「これから!俺達
もうすでに!土砂崩れで何人か!生き埋めになってまァーす!
雄英生の!明るい未来を!焼き尽くしまァーす!!!」
胸糞悪いそれを、荼毘は愉快そうに実行した。ヒーローの鋭くなる目つきがとても嬉しそうだった。
(……そうか、見せしめに何人か殺して世の中の
「絶対させない!放送するのは、私たちが
この状況下では難しいことだ。だが、マンダレイはヒーローとして言わなければならないのだ。
マンダレイはヒーローだが、オールマイトのような最強ではない。精神もだ。
どうしても、動揺や焦りが顔に出てしまう。虎も同様だった。
ふと、彼女の頭にとある選択肢が浮かぶ。
(……この場で直接戦闘能力があるのって、虎と飯田君、尾白君、ギリ私。口田君はこんなところじゃ動物呼べないだろうし……。
でも、テレパスで個性を使った戦闘許可は出さないと。
……鹿目さんと美樹さんは?でも、例え能力があっても普通科だもの……)
しかしマンダレイが二人の様子を見ると、いつの間にか、二人はそんな葛藤の先にいた。
「まどか!来るよ!まずピクシーボブさんを助けないと!」
「うん!絶対殺させないんだから!」
いつの間にか変身していたまどか。
あの強面と不気味な男と戦うことを、一切恐れていない態度だ。
(ステインと戦ったとか聞いてたけど、もしかして本当だったの?流石に誇張話だって思ってた。)
むしろ、この場でそんなことを躊躇していたのはマンダレイと虎だけだったのかもしれなかった。
荼毘やマグネも、当然そう来るだろうという反応。マグネは威嚇するようにゴンゴンとピクシーボブの頭を小突く。荼毘は、蒼炎を放つ構えを取った。
「さあ、
こんなに書いてるのに状況が全然すすまねえ……