個性『魔法少女』   作:Assassss

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高評価、誤字報告、感想ありがとうございます。


対AFO編
対AFO特別対策会議


 

オールマイト

 

あなたたちヒーローが何年たっても倒せない相手、AFOを打倒するチャンスをあげるわ。

以前蛇腔病院でAFOの地下研究施設を爆破したのは私よ。

私はAFOの出現位置を知っているので、共に戦ってほしい。具体的な日時は―――、場所は―――。詳細は後日、―――にてまた書置きを出す。

質問があればそこで範囲で回答する(言える範囲で)。

 

あなたは私と共に戦うことが最善だと理解しているはず。必ず来るように。

Homulilly ホムリリィ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけるな何だこのやる気のない予告文はアアアアアア!!!」

「エ、エンデヴァー、どうどう……」

 

警視庁本部庁舎の大会議室の一つ。エンデヴァー、オールマイト、ベストジーニスト、エッジショットをはじめとする名だたるヒーロー、ヒーロー公安委員会会長、さらにはその上の警察庁長官を筆頭として、あまりにも多くの治安維持のための有力者たちが一堂に会していた。

 

「こんな紙切れ一枚を信じるなどどうかしている!!!」

 

先ほどから暴言すれすれの言葉を吐くエンデヴァーだが、諫める者はいなかった。

 

実際、彼らが普段扱う重要書類と比べれば、紙切れと表現しても差し支えない安い紙だ。安い、というのは紙の材質だけでなく、例えば公文書における印鑑や様式が一切存在しないという意味である。

文章は手書きである上に、消しゴムで何度も消された跡があり、軽く皺もついている。さらに花の柄入りという、内容の重要性とはあまりにそぐわないプリントだった。

 

だがそれでも、彼らは議論をせざるを得ない。議題は、AFO。

過去100年以上にわたり裏社会に君臨し、悪逆の限りを尽くした大犯罪者。

 

最近までAFOに関する情報は少なくとも表向きは隠されていたが、もはや隠しても仕方ないと判断したオールマイトを始めとしたトップの面々は、過去のAFOの所業、オールマイトとの因縁の情報を、ヒーローや警察の組織内までだが正式に公開した。オールマイトの個性に関する情報だけは除いてだが。

これほど情報を行き渡らせてしまえば、一般市民にAFOのことが知られてしまうのも時間の問題だ。だが、問題ない。今回の作戦で、警察もヒーローも公安も、AFOとの戦いには完全に決着をつけるつもりなのだ。

 

最近のAFO復活の報から最優先案件として方々が力を入れてきたのだ。そのクライマックスが訪れようとしているのだから、緊張も高まる。

 

日本でも最高の頭脳、人間力を持つ者達だが、彼らがこの目標の達成のために常に理性的に動けているかというと、一部怪しい者がいる。

 

「だ、だからね?私に気づかれずにポケットに入れられたわけだから、少なくとも無視できない相手ではあるだけで」

「そもそも鑑識の結果はまだ出ていないのだぞ!それなのにこの規模の招集だと!?貴様は組織人としての道理をわきまえんかアアアァァ!!!」

「ヒ、ヒィ!ごめんなさい!」

 

エンデヴァーはチャック付きビニールに入れられた紙を掲げ、オールマイトに迫る。体格的に勝っているオールマイトを押す勢いだった。

 

ここにいる数名、特に警察内部の人間はなんども頷いた。オールマイトは、この手紙を受け取るや否や各方面の上層部に勝手に連絡を取り、今回の会議を開催してしまったのだ。普段の突撃気質のあるオールマイトでも控えるような進行ぶりだ。

これがAFO絡みでなければ、平和の象徴相手といえども苦言を呈さなければならない。

 

「エンデヴァーの言うとおりです。この件、あなただからこそ予定を無理やり空けてきたものの。その根拠がその紙一枚は弱すぎる。私の元の予定が何か月前から組まれていたのかご存じで?」

「す、すみません!その件は大変申し訳ない!あとで何らかの埋め合わせをさせていただきたく思います!……し、しかし。今回はどうか、打倒AFOのために、なにとぞここにいていただきたく思っております!」

「まあまあ、その辺にしておきましょうよ。彼でなければこんなに早く情報伝達の場を設けられなかったでしょうし。なにより、勘 マイトセンスがそう言っているのですよね?」

 

警察の幹部らしき男から援護射撃かどうか疑わしい発言が出た。マイトセンス、の部分はいやにはっきりと発音された。

オールマイトは、不機嫌そうな表情を浮かべる彼らに対しひたすら頭を下げる。

 

「え、ええ。本当に勘という根拠薄弱さも申し訳なく思っております。」

「あなたの勘 マイトセンス、毎度憎々しく感じますよ。我々警察の捜査を簡単に飛び越えてしまうのですから。」

「すみません!!!」

 

実際、オールマイトの勘 マイトセンスは外れた経歴がない。毎度毎度勘 マイトセンスが発動するわけではないのだが、発動した場合それに従って動いた方がよかったことしかないのだ。

直近では、USJに向かおうとするオールマイトを根津が引き留め、結果襲撃にすぐさま駆け付けることができなかったということがあった。

本来個性でもない勘などというものを頼るなどどうかしているのだが、世界一のヒーローに数十年間それで活動され、誰にも文句が言えない成果があるために、皆認めざるを得ない。

この件に関し、オールマイトは「実は勘で情報が得られる個性なのか?」と何度か真剣に疑われており、その度にはっきりと否定している。

 

しかし勘であるからこそ、今回のオールマイトの動きは褒められないものだった。今回に限ったことではなく、個性は全く関係ない部分であるがゆえに、それが特別という自覚はないのだが。口では謝りつつも、結局何か感じるところがあれば勘マイトセンスで動き、そして事件を解決してしまうのである。

 

「で、なぜこれほど大規模の会議を招集したのだオールマイト。AFOの対応の意思決定に私の役職は不要だろう。理由の如何によっては……」

「ま、待ってちゃんと理由あるからエンデヴァー!……ゴホン。皆様に集まっていただいた理由は、まずこの指定の日時、場所になるべくたくさんのヒーローを集めていただきたいのが一つ。」

「まあ、その場所は人口が少ないとは言え居住区ですからね。AFOとの戦闘以外にも、大規模な避難誘導が必要でしょう。」

「その通りだ。ただしAFOのことを表に出すわけにはいかないので、何か別の理由で避難勧告を出していただきたい。そしてもう一つ、警察とヒーローの皆様に、協力して、総力を挙げて取り組んでいただきたいことがあります。」

「というと?」

「その前に……確認ですが、この部屋の防音対策は完璧ですよね?それと皆様、念のためにスマホが通話状態ではないかを確認していただきたい。」

 

この会議室は最高レベルのセキュリティ。防音どころか、防電波、防火、そして防視。あらゆる情報漏洩対策がなされている。、

一通り彼らの確認作業が終わったことが確認されると、オールマイトは意を決して言った。

 

「ヒーロー、警察の中に敵 ヴィランと繋がっている者がいる。彼らを探し、適切な対処をお願いしたいのです。」

「……言いましたね?」

 

警察庁長官はすさまじく不愉快な顔をした。

それは、自分の所属する組織を悪く言われたからではない。警察内部に不正がないわけがないことなど当然。ここにいる彼らは相当に有能であるからこそ、このヒーロー社会にいる大半の市民たちのようにヒーローに夢など見ずとも、この不安定な個性社会を堅実に捉えられている。

 

彼の不愉快は、オールマイトへの信頼からくるものだ。このように力強い瞳をしているということは、何か証拠をつかんでいるということ。

それを、わざわざこの場に持ってきた意味。

 

(……正義の味方らしく『正しく』対処しろ、か。警察はヒーローじゃねえんだぞ、全く……。)

 

ここで証拠を出されては、無視など不可能。救いがあるとすれば、オールマイトが彼らに「適切な対処」ができると認識しているという意思表示。すなわち、「まともに」対処すればオールマイトはこれまで通り社会に警察が必要であることを認めるということだ。

 

オールマイトは警察に口出しする権限はないのだが、社会のためだと判断できれば、警察に強力な罅を入れられる。

警察を始めとした公組織にとっては虫唾が走る事実だが、民衆は警察よりもオールマイトの言うことを信じることなど火を見るより明らかなのだ。

 

慣れた苦い感情を飲み込み、オールマイトに形式的に確認を投げる。

 

「証拠はあるのですか?」

「はい。こちらに。」

 

オールマイトは、プロジェクターに懐から出した書類を映す。

 

「これはその手紙と同時に仕込まれた書類です。」

 

オールマイトは声に悲しみを抱えていた。

その内容の理解が広まるや否や、会議室は怒りと嘆きに包まれた。

 

「……実をいうと、招集理由が勘という話というのは建前なのです。嘘をついてしまったこと、お詫び申し上げます。まずは皆様の記憶にだけこの情報を入れておくべきかと思いまして。」

「…………敵 ヴィランの取引記録に、帳簿改竄前のデータ!?さらに証拠品の捏造記録だと!?馬鹿な、何処から手に入れた!!??」

「なるほど……こりゃ、事前に言えないわけだ。」

 

警察庁の組織下の者は愕然とした。

 

彼らの信用を破壊できる強力な情報兵器がそこにあった。

もはやこの会議は彼らにとって最重要となり、今日この後の彼らの予定はすべてこの会議のために費やされることが決定した。

 

そしてもう一つの決定。彼らはホムリリィを決して無視できない。強力な個性を相手にオールマイトをその日時に出すほかないのだ。わずかでも、捕まえられる可能性があるかもしれないのなら。

 

「…………それが、そのホムリリィとかいう者から渡されたというわけですか。相当、嫌われているらしい。いや、馬鹿にされているのか。」

「そのとおり。これを事前に共有しなかったのは、ここに名前がある者達にこれを知られることを避けるためなのです。」

「警察のメンツは……もはや、丸つぶれ、か。それが真実ならば、少なくとも2件の裁判の冤罪が確定だ。」

「……警察だけではありません。ヒーローもです。皆様、今はまず巨悪と戦う計画を練る時。ここで汚名を返上しなければ、ほつれた正義を編み戻すことなどできません。」

 

ヒーローたちも、それを見て呆れるわけにもいかなかった。警察だけでなくヒーローの名前もそこにはあったのだから。

 

「…………そう、だな。オールマイト、今回のあなたの判断も結果的には正しかった。早急に信頼できる者達のみでこの件を調査します。ヒーローとも密に連携をして。マスコミへの対応も考えねばならないし、表に出た場合の見解の意識のすり合わせ……ああ、頭が痛い。」

「となると、この意思決定の場を設けたことも正解と言えてしまう。これほどの機密、共有する相手を選ばなくてはいけないからな。」

「皆様……本当に、このような形で不正の証拠をお見せすることになったこと、心苦しく思います。ですが、私は信じています。皆様に、国民を守りたいという心があることを。今回、法律を破ることになってしまったことは、私も看過できません。

しかし、皆様は人間として非常に優秀です!だから、この件は乗り越えられる!そう信じております!このオールマイト、このような法律問題には全くの無力で悔しい限りです。しかし私は!!!!」

「す、すいませんオールマイト。なんだか長くなりそうなので、ちょっと失礼します。」

「あ、ごめん塚内君……」

 

感極まりだした彼に司会をさせてはあと百回は中断してしまいそうだと感じた塚内警部は、彼からマイクを受け取ることにした。

 

「改めて整理させていただきたい。

まず今回の手紙の出し主について。この主『ホムリリィ』は、過去の推定ヴィジランテの犯行とされる一連の事件の犯人であり、同時に蛇腔の地下爆破事件の主犯であると推測されています。

その主は何かの理由でAFOの殺害を目論んでおり、前回の爆破でも殺せなかったがために、オールマイトに協力を要請している。

ここまでの前提認識に異論はありますか?」

 

一部が渋い顔をしつつも誰も手を挙げなかった。

 

「そして……もう一つの確認を。この『ホムリリィ』と共闘して、対AFO作戦を進めるということも、合意でよろしいでしょうか?念のために、反対の方は挙手をお願いします。」

 

顔がさらに渋くなる。主に警察の面々が。

「ふざけんなよ……」などという声が小さく漏れるが、しかし必死に腕を机に押さえつけていた。

 

これは、ここ最近の敵 ヴィランとの対応経験を踏まえてのものだ。

10年ほど前だったら反対も出ていただろう。しかし、鳴羽田市においての大規模敵 ヴィランとの経験。市に大規模な被害が発生した事件があり、最終的に事件を解決したのは一介のヴィジランテ。そして、警察やヒーローはそのヴィジランテを先に追っていたということが明らかになり、当時相当な批判にさらされたのだ。

 

もちろんヴィジランテをもう少し認めよなどという単純な話ではないが、一つ、不文律として警察やヒーロー内で共有された掟がある。

 

 

 

敵 ヴィランより先にヴィジランテを追ってはならない。

 

 

 

この格言は、個性使用の特権階級として批判されがちなヒーローの、法律の最終信用ラインとして機能している。どれほど法律に忠実でそれ以外の正義など論外だと主張する者も、これにだけは反対しない。

 

ヴィジランテも警察も、人々を守りたいという意思だけは貫徹しなければならない。長い議論の果てに生まれた理念である。

 

「よろしいようですね。では次に、今日の議論にて話し合うべきことについてです。大きく分けて二つ、いや三つでしょうか。第一に、汚職への対応方針。第二に、この予告文の当日に準備するべき事項。第三に、当日AFOと戦うヒーローの選出。」

「……まだ時間は数日ある。今日は第一の件だけにしてくれ。それにここには、この話に関わる必要のない奴だっているだろう。」

「ええ。その予告文を信じれば、質問を受け付けているそうですな。癪ではありますが、この機会は逃せない。今日中に内容を考えましょう。」

 

そうして、日本の優秀な人材達が一か所に集まり過密な議論が重ねられることとなる。腐敗が進むヒーロー社会だが、巨悪に対して理性的にかつ合理的に進むことはできる者たちなのだ。

 

 

 

 

 

 

「……しかしところで、ここにいる者たちがシロだという根拠はなんですか?」

「え?……え、えっと、すみません。勘 マイトセンスです。」

「オイ貴様ァ!!!!!」

「ヒィ!!!」

 

キーマンのオールマイトは会議中最も多く縮み上がってしまうことになったが。

 

◇

 

深夜、決戦の日。

 

その場所にはオールマイトをはじめとした多数のヒーロー、警察官が集結していた。

 

やることはオールマイトからの言葉を受けること、すなわち挨拶だ。敵 ヴィラン相手に何か大規模な行動を起こすときはこのような悠長なことなどしないのだが、オールマイトがいるとなると話は別だ。

彼がいるという事実で、その言葉だけで、人々の心は見違えるほどに安定する。いつからか、オールマイトがいる現場においてはパニックを起こす者がいなくなったとさえ言われている。今回が対AFOという修羅場なのだから、その安定はどうしても必要だろう。

 

ただし今彼はこの場にいない。時間ギリギリまで調整する予定だ、という報告がありそれまで待機することになっていた。実際のところ、彼のトゥルーフォームの時間をギリギリまで温存するためであるが。

それまで沈黙するというのは難しい選択肢で、各々必要な作業は進められつつも、気を紛らわすための雑談がひそひそと続けられている。

 

特に機動隊の彼らの士気が微妙だった。事前に与えられた情報が、普段の任務と比べて少なすぎる。AFOに関する情報が半分以上オールマイト経由だったことが大きい。組織の末端の人員なので、開示される情報が名だたるトップヒーローと比べるとどうしても差があった。

信じられないような個性を持った悪の親玉の存在を突然知らされて、その情報源も怪しい手紙一通からというありさま。この世界で最も信頼できるヒーローからの依頼であったとしても、疑惑はどうしても拭えない。

 

「……なあ、なんでこの場所、この時間なんだ?やっぱ悪戯とかじゃねえの?」

「さあ……こんな田舎に悪の親玉が用があるなんて信じらんねえよ、俺も。まあ、オールマイトさんが責任をもって今回の作戦を立てたって言ってるんだから、大丈夫だろ。外れたとしてもあの人ならちゃんと責任取ってくれるだろうしな。」

 

ホムリリィからの手紙にあった場所は、決戦の地バトルフィールドとするには何とも微妙な土地だった。

 

内陸部の中央高地であり、なだらかな平野が続く見晴らしのいい場所だ。ある程度は人工物のある一応の居住地域ではあるが、言葉を選ばなければ現代の田舎。敵 ヴィラン襲撃予告を名目として行われた避難誘導は、その対象面積の大きさに反して驚くほどすんなりと完了した。

特に目を引く観光スポットがあるわけでもなく、調べた限りではオールマイトともAFOとも因縁のない場所であり、敵 ヴィラン犯罪の発生もゼロに近い。

当然事前にこの場所に細工が仕掛けられていないか調査が行われたが、何も発見できず。いったいなぜこのような辺鄙な場所を選んだのか、だれもが頭を捻る場所だった。

 

「……オールマイトだけでなく、ベストジーニストや、エッジショット、エンデヴァーまで。本当にここまでの戦力が必要なのかよ?」

 

彼らの視線の先に集まる、ビルボードチャート一桁のヒーロー達。彼らには気のゆるみなど微塵もなく、忙しく常にどこかと無線通信で指示を出している。

 

「さあな。……でも、いくら何でもトップを集めすぎだろ。あのオールマイトがそんなに警戒する敵 ヴィランがいるなんて信じられないな。そもそもなんで……」

「いや、ヤツ相手には警戒してもし足りないのですよ、警察の皆さん。」

 

突如として、ドシンという爆発にすら近い音。

 

音の方を見ると、発光しているわけでもないのに輝いて見える筋骨隆々の男、オールマイトが立っていた。

その圧倒的な存在感を前に、彼らはたまらず背筋を正す。そして、オールマイトに関する失礼なことを口走ったことを知られて焦ってしまう。

 

「え、い、いえ。その、すみません……」

「いえ、私こそ時間ギリギリの登場になってしまいすみません。そして、皆さんの疑問ももっともです。AFOについては公では情報が規制されていましたからね。突然悪の親玉の存在を知らされても、信じきれないのも無理はない。ですが、事実なのです。」

「…………な、なるほど。」

 

彼の強圧にさらされ、機動隊やヒーロー達は黙るしかない。

しかし、オールマイトは少し申し訳ない気持ちになっていた。畏縮して口を閉ざしてしまったことは感じ取れる。

 

オールマイトがこの空気をどうしようか頭を回していると、横から近づいてくる者がいた。

ベストジーニストだ。

 

「オールマイト。今こそ、話に聞いた腹の破れデニムを見せる時ではないでしょうか。」

「ベストジーニスト……し、しかし」

「オールマイト、あなたの気遣いには感謝しています。しかし、今の我々はともに巨悪と戦う仲間。隠し事はやめるべき、そうでしょう?」

「……」

「平和の象徴としての矜持、義務は理解できる。今までその傘下で日本を守ってきた我々に、そのやり方をどうこう言う権利はないかもしれない。」

「そ、そんなことはないぞ!?今の平和は私一人の成果じゃない!君たちにだって、人々を守るための発言権はあるに決まっている!」

「なればこそ、その発言を正確かつ正当なものにするために、見せるべきです。ここに集まっているヒーロー、警察の方々は、日本における最強強度を誇るまさにケブラーデニム。あなたのほつれでにつられて、自らも破れてしまうような者達ではありません。それとも、この中に不良ジーンズがまぎれているとでも?」

「それもない!私は君たちを信じている……!」

 

オールマイトはベストジーニストと、発言した機動隊の一人を交互に見て、やがて観念した。

 

「……そうか、わかった。ならば、見せよう。AFOの存在を信じてもらうために。」

 

創造系個性持ちによって出された金属台の上に行くオールマイト。何を見せられるのかという視線の中、オールマイトはコスチュームの裾部分に手をかけた。

 

そして、広がる動揺。

 

腹部の傷跡は、この情報社会にあっても流出していない情報で、ごく限られた者達しか知らない。

 

その傷跡は美樹さやかの力によってかなり回復されており、元の鬱血したものから表面の凸凹という程度になっている。それですら、彼らの心が揺れた。オールマイトという伝説の瑕疵がゼロではなくなったという事実自体が大きいのだ。

 

完璧で最強のオールマイト像に罅が入り、今までオールマイトの完璧さが当然だと思っていた者たちは、途端に不安に襲われる。

 

この世に、オールマイトを殺しうる存在がいることに。この社会の平和が絶対のものではないという、ある種当たり前の事実に。

 

「これは、数年にAFOとの戦いで受けた傷だ。一時期私が活動休止していた時期があることを知っている方もいるかもしれないね。その時さ。私はヒーローとして、このような痛々しいものはあまり見せたくなかったんだが……ここで、対AFOに従事する皆さんに言わないことはやはり不誠実だと、ジーニスト君の話を聞いて思ったんだ。」

「う……嘘だろ?オールマイトがこんな傷……」

「これでもかなりマシになった方なんだよ、戦いの直後と比べるとね。AFOがどれほど強大な敵 ヴィランか、その一端でも理解していただけただろうか?これを見て、もし降りたくなった者がいたら遠慮なくいってくれ。君たちの仕事は避難エリアの境界線維持で、直接戦闘しないとはいえ……ヤツの脅威にさらされるのは間違いない。もちろん君たちがそうならないように、私たちヒーローは最善を尽くすつもりだけどね。」

「…………」

 

かすかだが、ヘルメットが揺れてカチカチと何かが小刻みにぶつかる音がする。

 

「ここから離れるという選択をした方を私は責めない。もし職務放棄だと非難する者がいたら私が擁護しよう。君の選択は、大勢の人を守るためのものではなく、大切な家族、友人を守るためのものだった、とね。逃げることは決して悪い選択ではない、むしろ場合によっては賢いとさえ言えると私は思っている。

……もう一度言う。ここから離れることは決して躊躇するべきことじゃない。そのうえで、聞こう。皆さん、私と、我々と共に、巨悪との決着に力を貸してくれるだろうか?」

 

彼らからの次の言葉までに、一瞬の躊躇の間はあった。

 

賛同する声があるとしたら、それは彼の近くにいるヒーロー達が最初に上げるとオールマイトは思っていた。平和を守る志の高さの話ではなく、ショックの差だ。特に順位の高いヒーロー達にはAFOに関する情報や、オールマイトの体調の情報が事前に共有されていたために、落ち着いて彼の話を聞いていた。

だが、そうではない彼らに落ち着きを期待するのは酷だ。つい先ほどまで、平和の象徴としてのオールマイトしか知らないのだ。どうしても、心と頭を整える時間は必要だろうと彼は踏んでいた。

 

「……逃げるわけがないじゃないですか!オールマイト!」

 

しかし最初に声を上げたのは、名も知れぬ機動隊の一人だった。

途端に目立ち、オールマイトを含むトップの視線を集めたことに一瞬狼狽えたが、すぐに調子を取り戻す。

 

「そんなこと気にしていたら、私はこんな仕事していませんよ!AFOなんかなくったって、毎日危険な敵 ヴィランの相手をしてるんです。それに、AFOの話が本当なら、放っておいてもいつかは誰かが犠牲になる……そうでしょう?ここで逃げても、危険が消えるわけじゃない!」

 

彼の熱が、無意識下でモブとして扱われていたヒーローや警官たちにも広がっていく。

 

「……その通りです、オールマイト!むしろ、俺みたいな木っ端のヒーローは成果を出す機会に飢えていたくらいですよ!ここで逃げたら、また成果がオールマイトさんにとられちゃいます!そ、そんなことはさせない!」

「オールマイト!あなたはいつも独りで事件を解決しすぎです!少しくらい、私たちを頼ってくれてもいいじゃないですか!私たちは……ビルボードチャートで目立たないからって、そんなに頼りないですか!?」

 

そうだそうだと、オールマイトに挑戦するかのように広がっていく声。

ヘルメットで見えない瞳から放たれる熱視線がオールマイトを撃ち、その熱で彼の瞳には涙が浮かんでいく。

 

「オールマイトさん。あなたは少し抱え込みですよ。あなたの重荷を、俺だって持ちたいんです。」

「その通り。オールマイト、あなたの目が、力が、社会の解れを幾度も撚り戻してきた。だが、あなたの戻し方は一辺倒で、少々力強すぎる。それが必要になる時は大いにあるでしょうが、戻し方に個性があってもいい。」

 

エッジショット、ジーニストの言葉を受け。

オールマイトは、個性に近い力を発動し、体から湯気が出始めた。

 

「…………私は、君たちを侮っていたようだ。」

 

オールマイトの笑みは、凶暴なほどの深くなった。

 

「私の横にいる彼らのようなプロヒーローのことは前から面識があったけれど、君たちのことは流石に役職でしか知らなかったからね。実をいうと、本当にAFOとの戦いに参加してもらっていいのかと不安だった。

だが、杞憂だった。君たちも、この国を守る立派な柱だと、今思い知らされた。信じきれなくて、すまなかった。そして、だからこそ。」

 

オールマイトは、右こぶしを天に突きあげる。風圧が彼らを打った。

青い瞳が、彼の決意に呼応して表に出る。

 

「今こそ!長年の巨悪との因縁にケリをつける!君たちの熱のおかげで、それができると確信できた!皆、力を貸してくれ!!!」

 

熱狂と歓声。

本来このような場では、感情が理性を邪魔しないようにと、避けるよう教育されている空気だった。しかしオールマイトは間違いなくそれを作成成功に寄与するものとして扱える力を持っていた。

 

オールマイトの目が熱くなった。AFOさえいなければ、彼らに安心して日本を託せる。

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