ほむほむの姿はおおよそマギウスの翼の構成員を想定してください
2話同時投稿しています。ご注意ください。
今回の戦闘はおおよそ二つの役割に分かれる。まず一つは、AFO相手にメインで戦闘するのがオールマイトとエンデヴァー、そしてグラントリノ。主に戦闘能力と、対AFOでの経験量からの決定だ。ただし全体的な流れは、どうやってもオールマイトが主軸になるだろう。
エンデヴァーははじめグラントリノが参加することに関して、主に老体であることを理由に参戦に不賛成だった。しかしかつてのオールマイトの師匠であること、AFOに関してもかつて立ち向かった経験があることから、メインとサポートの中間という役割で渋々承認した。
もう一つの役割は、そのサポート担当のヒーロー達。リーダーはエッジショット、ベストジーニストとなっている。主任務は戦場から離れた位置で索敵。万が一避難区域に人が残っていた場合と、区域の境界に配置予定の警官、機動隊を守るのが彼らの仕事だ。ただしオールマイトから要請を受けた場合には、臨機応変に戦いに参戦する。
狡猾なAFOならば、隠密系個性を持った敵に奇襲の隙を窺わせている、ということも考えられる。
さらに加えて、脳無への対応。あの地下施設でかなりの数を失ったと考えたいが、あれで脳無の生産工場がすべてという保証もない。
各員が配置につき、あとはホムリリィと自称する何者かを待つだけとなる。
予告の時間の30分前に集合という手はずだ。本来ならばもっと早く集合し情報交換するべきなのだが、ホムリリィが「スパイがいるかもしれないので、極力姿を現したくない」と拒否してしまった。
しかしエンデヴァーとグラントリノ、オールマイトだけとなり、待機するだけの時間になると、エンデヴァーが突然激昂した。
「先ほどのアレは何だオールマイト!!!」
「ヒィ!?え、ど、どうしたんだい!?」
「どうしたもこうしたもない!情報共有は事前に済ませておけ!万が一欠員が出たら穴埋めはどうするつもりだった!?任務放棄しても援護すると言っていたが根回しは済んでいるのだろうな!?そしてあの返信文でホムリリィとやらを信じるのはやはりおかしいだろう!情報が間違っていたら具体的にどう責任を取るつもりなのだオールマイトオオォォォ!!!!!」
「す、すまないエンデヴァー!その、みんな不安そうだったし必要かなって思って……」
「本番でアドリブをやるな馬鹿者オオォォォ!!!」
オールマイトの独断専行はよくあることであり、エンデヴァーもそれを知っていた。
だが、ここで彼をイラつかせていたもう一つの要因がある。それは、ホムリリィからの返信だ。
Q: 君の個性は?
A: テレポーテーション 物体の位置を任意の場所に移動できる。
Q: 共闘というが、具体的にどのようにするつもりか?まず対敵の基本戦場である市街地においては……(後略)
A: 危険が迫ったら安全な位置に移動させることでサポートする
Q: 日時と場所をどこで知った?
A: AFO本人がそう言った
Q: オールマイト以外に協力してほしいヒーローはいるか?
A: AFOに対し有効な個性を持ったヒーローを知っていたら呼んでほしい
Q: 君の本名、年齢、性別は?
A: あなたたちは知る必要はないはず。
Q: 君のヴィジランテ行為の法律的問題についてどう考えている?
まず最初の事件〇〇は個性法第××に違反し、これにより考えられる被害が……(後略)
A: 法律違反だと思っている
Q: 機密文章をどのように手に入れた?文書はそれぞれ……(後略)
A: 悪いことをしている連中が持っていたのを手に入れた
Q: なぜ表立ってヒーローと協力しようとしないのか?一般市民として貸与可能なサポートアイテムは個性制限法第13条における……(後略)
A: (空白)
Q: 我々警察に対しいかなる理由があって機密文章を送りつけているのか?高裁裁判所におけるヒーロー知財解釈事件の証拠品そのものは個人情報保護の観点から……(後略)
A: (空白)
Q: 君の最終的な行動目標は?君は……(後略)
A: (空白)
…………
このような質問がこの何倍もの長さで書き連ねられているのだが、ほとんどの解答欄は空白。
回答文は質問文の5%の文字数でしか埋められていなかった。
「こんなもので信用などできるかァ!!!」
エンデヴァーがオールマイトに回答文書のコピーを叩きつける。
オールマイト自身も、それの信用性が低いことは自覚していたので歯切れの悪い答えしか出せなかった。
「う、うん、気持ちは分かるけど……ね?」
「まあ気持ちは分かるけどよ、轟。ほかにAFOと接触する手段もないんだからよ……」
オールマイトはなだめるものの、グラントリノの顔も歓迎ではない。
むしろ、オールマイトの人の好さが裏目に出ているのではと怪しんでいる。
「……この様子だと、やはり連携は難しいか。」
グラントリノは予想通りだと思いつつも、このような決戦の場に不確定要素を入れざるを得ないことを嘆く。
「当たり前だ!義務教育を終えているかどうかすらわからん相手に連携などバカげている。理由をつけてAFOから遠ざけろ!戦闘は俺とオールマイトで十分だ!ご老人はホムリリィとかいうふざけたやつをの相手でもしておけ!」
「で、でもその、AFOに関する何か有力な情報を持っている可能性は大きいし……」
「話だけ聞き出して遠ざければいいだろう!」
「それにほら、強力な個性を持っていることは間違いないし、敵連合の一大アジトを突き止めた功績は大きいから、要所要所でも協力してもらえば十分役立つかなって。」
「なぜそこまでしてヴィジランテという名の犯罪者に協力を求めるのだ貴様はァ!!!」
「無理して私に協力する必要はないわ、エンデヴァー。」
「ッ!?!?」
あまりにも唐突。
手を伸ばせば届くかどうかの距離。数々の戦場を潜り抜けたこの3人の誰にも気づかれることなく、彼女はそこにいた。
「疑心を持っている相手と連携など望むべくもない。この戦いに参加するか否かはあなたの自由よ。エンデヴァー。」
「……君が、ホムリリィかい?」
「ええ。」
現れた彼女の風貌は、およそまともな地位にいる人間とは思えないものだった。
まず全身フード付きの黒いマントを着込んでおり、そして顔には仮面が付けられている。この時点で敵という印象を与えるものだ。あと視覚情報からわかることと言えば、前髪が黒いことくらい。
身長はマッスルフォームのエンデヴァーの胸当たり程度で高いとも低いとも言えず。声は、なにか変声機を使っているのか機械が勝ったような印象を受けるものだった。
女性ではあるのだろうが、実際の年齢も推定しにくい。身長からすれば、女子高生の平均程度には見えた。
ただ、声からわかることがある。
拒絶。
協力すると口では言っている。実際、攻撃されていない。AFOを倒すために共闘したいというのは真実なのだろう。
だが、この利害関係が消えた場合、彼女はどう行動するのかが、オールマイトやエンデヴァー、グラントリノには全く分からず、そして不安に感じた。
少なくとも、好印象を抱かれている気がしないからだ。
そしてもう一つ、オールマイトはある違和感を覚えていた。
(うーん……なんか、聞いたことがある声な気がするんだけど……)
当然オールマイトは彼女を知らない。が、そんなデジャヴがぬぐえない。
その間に額に青筋を浮かべたエンデヴァーがズカズカと彼女に歩み寄る。
「貴様がホムリリィか。さんざん俺たちを愚弄してくれたな。貴様に対して行うのは共闘ではない。個性の不正使用容疑での確保だ!」
そういうや否や、エンデヴァーは一瞬で炎噴射で加速し彼女に手を伸ばす。彼女の個性はテレポーテーションだというが、エンデヴァーの動きも常人にはテレポーテーションにしか見えない。
「無駄な争いは勘弁してほしいわ。」
「……!」
エンデヴァーの過熱した体表に、冷たい金属が当てられた。
相当の慣性で動き続けている間も当てられるそれに、エンデヴァーはホムリリィがどうも個性だけの相手ではないことを悟る。
「9mm拳銃……SIG SAUER P220か。ずいぶんと旧式のようだが、旧自衛隊の武器倉庫でも漁ったか?銃刀法違反と窃盗罪も追加だ。」
「AFO相手にそんなことを気にしている場合ではないわ。あなたもそれは分かっているはず。」
銃を突きつけるホムリリィと、首を最小限に捻って睨み返すエンデヴァー。
肩から炎を出せば払える位置関係だが、エンデヴァーは無駄な攻撃はしない主義だ。それに加え、思考を回転させていたこともある。
(……『テレポーテーション』だけではないか。単に位置関係を変えただけでなく、向きが反転しているな。それにあらかじめ銃を出していたのも手馴れている。
俺の攻撃を見切り、冷静な対処、そしてこの落ち着き様……個性の強大さに胡坐をかいた阿保ではないか。厄介だな……)
視線で火花を散らす二人に、オールマイトとグラントリノは焦りを募らせるばかりだ。
「ふ、二人ともやめるんだ!大事な戦いの前だぞ!?争っている場合じゃない!」
「……ええ、そうね。」
「フン!!!」
ホムリリィは大人しく銃を下すが、剣呑とした空気は拭えない。エンデヴァーも、個性の相性的に現時点で確保することを諦めたというだけのようで、ホムリリィを睨むことを止めない。
オールマイトは、グラントリノにすがる気持ちで相談した。
「せ、先生。私たち、共闘、ちゃんとできますかね……?やはり無理があったんでしょうか?さっきヒーローや警察の皆さんにあんなことを言ったのに、これじゃ示しがつきません……!」
「まあ、轟のアレを避けられるってんなら最低限に実力はあるって認識もできるだろう。……気難しそうなヤツなのも確かみたいだがな。不安は分かるが俊典、おめーのカリスマでもう少しこう、シャキっと場をまとめてくれ。お前が今回の作戦の言い出しっぺなんだしよ。」
「そんな無茶な!?……ううむ、しかし確かに言い出したのは私だし、何とかしてみます……。」
オールマイトはゴホンと大仰に咳をして、二人の注目を自身に集めた。
「さ、さて!君がホムリリィ君か。知っているとは思うが、私はオールマイト。こっちがエンデヴァーだ。」
「……その老人は?」
「グラントリノ、私のかつての先生だ。AFOと戦った経験があることから、サポートメインではあるが参戦してもらうことになった。」
「個性は?」
「『ジェット』だ。足の裏から空気を出すことで自由自在に空を高速で飛びまわれる強力な個性だよ。」
「わかったわ。」
沈黙。
オールマイトは何か彼女から言葉があるのかと構えていたが、何も言わない。わかったのだから、どうしたというのか。
仮面のせいで表情が読み取れない。オールマイトの理不尽な状況把握能力をもってしても、意図が察せない。やりにくいことこの上ことなかった。
「……言うべきことは一通り言い尽くしたようね。では指定の場所に案内するわ。」
「ま、待て待て待て!ストップ!まだ言いたいこと沢山ある!」
勝手に歩みを進めようとするホムリリィに対して、オールマイトは慌てて前に出た。
グラントリノは思わず頭を掻く。
「まだ何か?」
「そ、そもそもね!私たち君のこと何も知らないんだよ!それで協力って言ったって、無理があるだろう!?ほら、君の個性のこととかもっと詳しく……」
「なるほど、作戦ね。……そうね、私としたことが、事前に言っておかなければならなかったわね。」
ホムリリィはこの問いには納得いったらしい。オールマイトは少しホッとした。
少しだけ考えるそぶりそ見せた後、口にする。
「事前に伝えたから、私の個性は知っているわよね。」
「ああ。『テレポーテーション』、だったかな。それでAFOの地下研究施設に爆弾を移動させた、ということでいいのかい?」
「その通りよ。あのありったけの威力でも、AFOは死ななかった。私の個性だけではどうしても威力が足りない。だから、あなたのパワーをアテにしているのよ、オールマイト。」
オールマイトは、ここまでは比較的建設的な対話ができることに安堵し、この調子で頑張れ自分と言い聞かせた。
「……なるほどね。ひとまず理解できたよ。
ただ、君に言っておかなければならないことがある。本来ならば、それらは犯罪行為だ。今はAFOという巨悪の前だから突っ込まないけれど、戦いが終わったらいろいろと話を聞かせてもらう必要がある。」
「今この時、AFOに対して戦ってくれるというならそれで充分よ。犯罪者として私を追いたいなら、好きにすればいいわ。」
「そうかい。なら……この間だけ、よろしく頼むよ。ホムリリィ。」
「ええ。よろしく、オールマイト。」
「待て、なぜ納得しているのだオールマイトォ!!!」
エンデヴァーが我慢しきれずといった風で、再びホムリリィに詰め寄る。
彼女はNo.2の威圧感に怖気づくでもなく、直立して顔を向けるだけだった。
オールマイトは、(頼むから余計なことをしないでくれ……)とすがる思いになる。
「今度は何かしら。」
「エ、エンデヴァー。法律的に許しがたい部分があるのは分かるけれど、AFO相手にそういうことも言ってられないってさんざん説明しただろう……?」
「百歩譲って法律に目をつむったとしてもだ。共闘など出来るわけがないだろう!!!」
エンデヴァーはホムリリィを堅い指で指した。
「個性の詳細も不明、戦闘経験も不明、身体能力、個性の熟練度、そして何より身元すべて不明!こんなヤツとコミュニケーションなどとれるものかァ!!!」
「……個性はすでに、伝えたはずだけれど。」
ホムリリィは不満げに視線を逸らそうとしたが、エンデヴァーはさらに追及する。
「アレでは何もわからん!使用可能インターバル、対象物の許容質量、体積、構造、素材、移動可能範囲!何もかも言っていないではないか!大方オールマイトが危なくなったら動かすとでも考えているのだろうが、そもそも貴様が戦闘中にオールマイトを適切に移動させられる根拠はどこにある!?超高速で移動するオールマイトを本当に移動できるのか!?」
「…………聞かれたら答えるわよ。言える範囲で。」
「聞かれる時点で失格だ!貴様は俺やオールマイトの戦闘能力を知っているのだろうが、俺たちは貴様のことを何も知らんことがわからんのか!?
戦闘中は一瞬の間が命取りとなる!ヒーロー同士のチームアップ任務では綿密な情報共有、意図目的のすり合わせ、それは事前にすべてしておかなければならないものだ。
敵に殺されかけている最中に
「今体の中に敵が入り込んでいるが、個性で移動させると中の敵もついてくるのか!?」
と聞くノロマさをイメージしてみろ!
情報整理コストを俺たちに押し付けるなアアアァァァ!!!」
言いたいことを一通り言ったらしいエンデヴァーはようやく口を休ませ、ゼエゼエと荒い呼吸音を響かせるだけになった。
オールマイトは何も言えなかった。エンデヴァーの言っていることはまったく正しいのだが、このままでは彼女が去ってしまうのではないかと。
追いかけなければならない、とオールマイトは先ほど言ったが、テレポーテーションという個性ではあまりにも捕えようがない。このチャンスを逃した場合にはもう二度と捕まえられないのではと内心思っていた。
ホムリリィはしばらく沈黙。
不機嫌なのだろうか。オールマイトがハラハラしながらもどうか逃げないでくれと見守っていると。
「……悪かったわね。」
どういう感情なのか、オールマイトは声色から判断できない。
ただ、帰らないでくれと願うことしかできない。
「私が想定していたのは、AFOに対してはオールマイトがメインで戦って、危険が迫ったら安全な場所に移動することよ。ただ、超高速で移動される状態だと、できるかわからないわ。……私の目では、オールマイトを捉えられない可能性が高いわ。」
「ほらみろ!やはり重要な情報が眠っていたではないか!貴様はAFOの情報だけ吐いた後、余計な手間をかけさせる前にパトカーの中で手錠をつけて大人しくしていろ!」
「ま、まあでも移動していないとき限定でも手伝ってもらうだけありがたいし……彼女の個性なら、AFO相手でもそう簡単にダメージを食らうことはないだろう。それに彼女が言った作戦なら高度なコミュニケーションは不要だろう?」
「だからなぜそこまでしてこのヴィジランテに協力してほしいのだ貴様はァ!」
「……エンデヴァー、そもそも。」
ホムリリィが不満げなことが分かってしまう声色だった。
「情報をすべて共有しろと言うけれど、あなたたちだって秘密の一つや二つやあるはず。私にも非はあるかもしれないけれど、だからと言って戦いから降りろというのは筋違いよ。」
「なんだと?確かに俺が持っている情報はすべて公開されているというわけではないが、それは任務に関係ない個人情報や、公開すると支障が出るものだけだ。例えば俺の個性の詳細は、俺のサイドキックやプロヒーローに対してはすべて公開している。戦闘に支障が出ないようにな。
だが貴様は違うだろう?戦闘に関する重要な情報を、現に言っていなかったわけだからな。」
「そうね。でも、あなた達ヒーローが言っていないというのも疑わざるを得ないわね。例えば……そう、オールマイト。」
「え、私!?」
ホムリリィはオールマイトを見、オールマイトは不意打ちを食らった。
「いつまで無駄に個性を使っているのかしら。戦いの前にエネルギーを消耗するなんて、筋違いもいいところよ。」
「なっ!?」
エンデヴァーは何を言っているのかわからなかったが、オールマイト、グラントリノは額に冷や汗が流れる。
(まさか……トゥルーフォームのことを知っている?)
彼女の個性が読心のそれではないことは明らかに見えたが、同時に所在が一切知られていなかったAFOのアジトを突き止めたのは彼女、または彼女の仲間であることが頭によぎる。
「……何の話かな。私は万全の準備をしてきたつもりだよ。今日という決戦のために、昨日は今まで何か月ぶりかの休養を取って、英気を養っていたのだどね。」
「私は今の話をしているのよ。個性を解除して、元の痩せ型の体型に戻ってほしいと言っているのよ。活動時間をこんなところで消耗しないで頂戴。」
「…………」
オールマイトから、ボンという煙が何かのサプライズのように出、そして筋骨隆々の男は姿を消した。
そして出てきたのは、トゥルーフォームのオールマイト。彼本来の姿。
グラントリノは一瞬止めようとしたが、オールマイトが手で制した。
「どこで……私の個性の秘密を知ったのかな。」
「秘密です。今は関係ないでしょう?」
この社会に生きる人々なら腰を抜かす光景だが、当然という風に話し続けるホムリリィに対して、オールマイトはお見通しかと、隠し事を諦める気になった。
「……ああ、そうだね。今は関係ない。むしろ、すまなかった。これから戦おうというのに、こちらの戦闘能力を秘密にしてしまって。普段の姿はマッスルフォームと呼んでいて、腹筋に力を入れているような状態なんだ。」
「他にあなたの個性に関して言っておくべきことはあるかしら?」
「うむ……実をいうと、他にも秘密はある。細かく説明するべきだとは思うんだけど、何から言えばいいものか……まあ、個性のおおよその枠組みは公開されている通りで、肉体強化がメインだ。ちょっと成り立ちが特殊なんだけど、それ以外に特別な力は……戦闘に関わる範囲では、とりあえず思いつかないかな。」
「肉体強化以外には、能力はないのね。」
「戦闘に関してはね。それと……これも言っておいた方がいいだろうね。知っているかもしれないけれど、私は全盛期に比べてはるかに弱っている。肉体も個性も。まあ肉体の方は最近かなり良くなってきたんだけど、それでも全盛期とは比べないでくれ。それと個性は、はっきり言って深刻だ。私は残り火と呼んでいるのだけど……使えば使うほど、個性の力が弱まっていく状態なんだ。
だから今日、なんとしてもAFOを打ち倒したいんだ。ヤツが再び力を取り戻す前に、私が力を失う前に。すまないね、いろいろと秘密にしてしまっていて。」
「謝罪は不要よ。それだけ分かれば十分ね。無駄に長い話をしてしまったから、さっさと」
「なんだその姿はアアアアアァァァ!!!オールマイトオオォォォ!!!!!!!!」
まさに怒髪天を衝く。
エンデヴァーは鬼の形相でオールマイトに詰め寄った。痩せ型の彼に、マッスルフォームのオールマイトに次ぐ体格を持つ彼が詰め寄るさまはまさに尋問のような上下関係に見えた。
「なんだその姿は!どういうことか説明しろオールマイト!!!」
オールマイトは、なぜエンデヴァーが激昂するのかわからず後ずさる。
「え、え?ああいやえっと、今言ったとおりだよ。かつてAFOと戦ったせいで、体と個性が弱ってしまってね。」
「休止期間があったのは知っている。だが、それを経て完治していたのではなかったのか!?」
「いや、完治とは程遠い。呼吸器官半壊、胃袋全摘。度重なる手術と後遺症で憔悴してしまって、今では一日に2-3時間程度しかマッスルフォームを保てないのさ。正直、引退も時間の問題だと思っているよ。」
「……つまり、そのボロボロの状態で、あの途轍もない結果を出していたと、そういうことなのか!?」
「え?そ、そうだね。戦いの後は体が重くなったものだよ。だから、まだ動けるうちにAFOを」
「俺を馬鹿にしているのかオールマイトオオォォォ!」
エンデヴァーはオールマイトの胸倉をつかむ。
「エンデヴァー!?ちょっと落ち着くんだ!」
「認めるか、認めてなるものか、引退など!このまま勝ち逃げなど、貴様、貴様アアアァァァ!!!」
刹那、エンデヴァーの耳は爆発した。
「ッ!?……どういうつもりだ?ホムリリィ!」
ただしそれは錯覚。正確には、ホムリリィの耳元の発砲により、耳が一時的に麻痺させられたのだ。
普段ならば痛みで反射的にエンデヴァーは耳を抑えるだろうが、視線を軽くやるだけだった。
「黙りなさい。あなたこそ、どういうつもりなの。エンデヴァー。」
エンデヴァーは再び後頭部に金属を感じた。
「あなたは感情を別にして理性的に動ける人だと見込んでいたのだけれど、見込み違いだったようね。ここで醜くオールマイトに詰め寄るしかしない気なら、ここから退場してもらうわ。」
彼女の言い方はきついが、しかしエンデヴァーの行動を今第三者が客観的に見れば、愚かな行動に見える。それはエンデヴァー自身も理解していて、だからこそ怒りも増した。
「黙れ!貴様には関係ない!俺は今オールマイトと話している!邪魔するな犯罪者!」
「あなたとオールマイトにどういう因縁があるのか知らないけれど、ここでオールマイトと喧嘩する愚かさが分からないの?彼はこの戦いの最重要戦力よ。聞いている限り、あなたはこの戦いに全く関係ない私情しか喋らないつもりね。違うかしら?」
「邪魔だと言っている!……ッ、ちょこざいな、煩わしい!」
エンデヴァーはしびれを切らしたのか彼女のいる方向に軽く炎を放ったが、その瞬間に銃口を突きつけられる角度が変わっただけに終わった。
「……こうしてあげれば少しは頭が冷えてくれるかと思ったけれど、その見込みはなさそうね。残念だけれど、やはり感情的なあなたはこの場にふさわしくないわ。ヒーローをアテにした私が愚かだったかしら。」
オールマイトは、これを聞いて反射的に手を動かした。
見えたのだ、彼女が右手に手を動かそうとしているのが。個性を使おうとしているのか何なのか不明だったが、比較的緩慢な動きであったおかげで、オールマイトは天性の勘を働かせ、最適解を導き出す。
「CALIFORNIA SMAAAASH!!!」
オールマイトの個性により強大化した拳が、エンデヴァーの頭の隣に降りぬかれる。ただし、拳は握られておらず開かれた形だ。
普段よりも対空面積の大きいそれにより、エンデヴァーのようなトップヒーローでもなければ耐えられない衝撃があたりを襲った。
次いで派生する豪風と、手のひらの裏に生まれる低気圧。それはごく一瞬の間に断熱膨張を引き起こし、熱を急速に奪う。
燃え盛っていたエンデヴァーは、その炎が半分ほどの規模になる。それにつられてなのか、エンデヴァーは呆然とした表情になった。
「しっかりしろ!エンデヴァー!」
マッスルフォームになったオールマイトが、エンデヴァーの肩に手を置き、顔を覗き込む。
「いったいどうしたんだ!?今はこんなことをしている場合じゃない!AFOがどれだけ危険か、君もわかっているだろう!?君の力が、必要なんだ!」
「な、なんだと……嘘だ、貴様のような超人が、なぜ努力するしか能のない俺の力など……」
「君の炎は、全盛期のAFOに通用しうる威力だ!私が保証しよう。次期のNo.1の力は伊達じゃない!私はそう確信している!」
次期No.1。
オールマイトが引退すればそうだろう。ビルボードチャート上などからも、異議を唱える者はいないはずの事実ではあるのだが。
「……だが、次期のNo.1になったところで、貴様を、超えることなど俺には……いや、もはや誰にも……」
エンデヴァーの脳内に、これまでの人生における血を吐くような努力が思い出される。
どれほど努力を重ねても重ねても、むしろ彼我の差が分かっていくからこそ感じてしまう力の差、その絶望。
彼の超人的意思でこれまで絶望など何度も乗り越えてきたが、今ここでそれが折れるような気がしてしまった。彼自身も、息子も、オールマイトに勝てるわけがないという事実。
今一瞬、オールマイトには何も言わないでほしいとさえ感じてしまうほどに。
「自分だけでなく、周りを見ろ!エンデヴァー!」
この言葉は、エンデヴァーが全く予想だにしていないものだった。
「ま、周り……?」
「君には、私を超える前にやるべきことがあるだろう!息子の焦凍少年を思い出せ!AFOが表にいたら、次は君の息子が、家族が殺されるかもしれないんだぞ!」
「あ……」
思い出す。
息子。虐待に等しい扱いで教育してきた焦凍。ほとんど無関心に育てた夏雄と冬美。そして逆にヒーローの道から遠ざけようとして、死んでしまった燈矢。
罪悪感から目を背けるために、息子たちに力を与えることを至上命題としてきた。
その教育は90%が打倒オールマイトのエゴだが、残り数%、残っていた心が今復活しようとしている。
彼らが殺されるかもしれない?
有名ヒーローの子供ということで、今までも高いセキュリティのもとで暮らさせてきた。だが、そこに親の心配のような感情があっただろうか。昔はあったかもしれないが、最近はそういう感情すら感じなかった気がしたことに、エンデヴァーは愕然とした。
「……~~~~~ッ!!!」
エンデヴァーは固く目をつぶり、折れそうなほどに歯ぎしりをした。
オールマイトへの暴言はいくらでもある。だが、飲み込み始めた。飲み込むべきだと心から思った。
何度も深呼吸して、意識して体温を下げる。
「…………悪かった、取り乱してしまった。」
「……そう。」
ホムリリィは銃を何処かにしまい、声に嫌悪感はわずかに残る程度になった。
「もう少しで、予告の時間だな。……貴様はいまだに犯罪者だと思っているが、俺の攻撃を見切るあたり、最低限の戦闘能力があるとひとまず認めてやる。」
「構わないわ。」
「……行くぞ。俺の気が変わらんうちにな。」
「よかった、それでこそエンデヴァーだな!あ、そうだ。せっかくだしこの4人のチームアップ名を」
「いらん!!!!!!」
オールマイトが場を和ませるために放ったギャグのような提案をエンデヴァーは切り捨て、率先して歩き始める。
悔しさを無理やり殺す、歪んだ顔をこれ以上見られないために。
◇
「……で、そろそろAFOの言っていた時間と場所、なのかい?」
「ええ。あと2分もすれば。」
移動した4人がたどり着いた場所は、ちょっとした広間のような場所。
一応警察の方でその場所に特異性が無いか調べられたが、そこが公有地であること以外は何もわからなかった。
その中心に向かってオールマイトとエンデヴァーが並び、その一方後ろのホムリリィとグラントリノが立っている。
「しかし……何というか、呑気なモンだな。あのAFOをノコノコ何もせずにこうして待ち構えているんだからよ。」
「準備は十分にしているわ。」
「何……?さっきの銃みたいなのを他にも持ってるのか?」
「それだけなわけがないわ。ほら、中心部のそこ、夜だからよく見えないでしょうけれど、掘り返された跡があるわ。」
目を凝らすと、確かに土を掘り返したらしき跡が見えた。
「……!?な、なんだあれは!?事前調査ではそんなもの報告されていなかったぞ!」
「当然よ。さっき私が埋めたもの。」
「個性で……?いつの間に!?」
「おおよそそうよ。埋められているのは対戦車用の地雷。ほかにもあそことそこに埋められているから、気を付けて。他にもいろいろと兵器を持ってきているけれど、見ればわかるから説明は省略するわ。」
「だからそういうことは先に言え!!!」
「警察の中にスパイがいて、盗み聞きして情報を漏らしているかもしれないわ。」
「……ッチ!警察官の中に敵と繋がっていた者がいた以上、可能性ゼロとは言い切れないか。」
「……改めて見ると、本当にすごい個性だ。君が無意味に人を傷つける人間じゃなくて、本当によかったよ。」
「私は間違っても正義の味方じゃないわ。よく覚えておいて頂戴。
それに、罠を仕掛けるという選択肢は敵も持っているわ。私は感知がそんなに得意ではないから、あなたたちももっと周囲を警戒して。」
唐突に、空間が悪意に満ちた。
「ひどいなあ。わざわざ僕がこの場」
ヒーロー3人の中に、2つの驚きが生まれた。
一つ目は、AFOが何の前触れもなくそこに現れたこと。かの悪の帝王ともなれば、その存在感はまさに災害ともいえるレベルだが、オールマイトですらその出現に気が付くことができなかった。
そしてもう一つが、銃声。ただし、先ほどの拳銃の比ではない。
AFOが言葉を止めたことから、彼が撃たれたことに一瞬遅れて気が付いたオールマイトは、まさかとホムリリィを見る。
「……どこからそんな大きなものを取り出したんだい?なんて、今聞くことでもないね。」
「人がせっかく喋っているのに撃つなんてひどいなあ。ヒーローもののコミックを呼んだことはないのかい?台詞を中断して攻撃するのはお約束違反だよ。」
ホムリリィが持っていたのは対物ライフルだ。
普通ならばしゃがんで撃つことを想定されている長身を、スコープも除かず伸ばし腕で構えていた。
AFOの顔面からパラパラと黒い欠片が崩れ落ちる。元々は生命維持用のマスクをかぶっていたのだが、彼女の攻撃で破壊された。
そして放たれていた弾丸は一発だけではないようで、あらゆる方向からAFOの頭部を襲ったらしく、光源が月明り以外にもあれば、足元に散らばる無数の空薬莢が見えたことだろう。
しかし、やはり威力が足りない。AFOの表皮は破壊できたようで、頭部は血を滴らせる肉の化け物になっていた。しかし生命維持に支障はないらしく、やれやれと肩をすくめるばかりだ。
ホムリリィの隣にいたグラントリノは、いつの間にか状況が進んでしまったことに思わず言いたくなった。
「ホムリリィ……今聞くことじゃねえってのは分かっているけどよ、あえて言わせてくれ。容赦ってもんがねえな、本当に。」
「敵を過小評価していないだけよ。」
オールマイトとエンデヴァーは一瞬の出来事に面食らっていた。しかし心の中で頬を叩き、誰よりも前に出る。
「久しぶりだな、AFO。すべてを終わらせに来たぞ。」
マッスルフォームで立つ姿は、エンデヴァーやグラントリノでさえ頼もしさというものを覚えてしまうものだった。
「ああ、久しぶりだねオールマイト。さっそく銃刀法を破る不審人物を仲間にしているようだけど、平和の象徴の特権でも行使したのかな?わかるぜ。楽しいよなあ、人様ができないことをやってのけるのは。」
「黙れ!貴様だけは、それを言う資格がない!」
「ハハハ、そうかそうか。じゃあもっと言っちゃおう。僕を殺して殺人者になるか?オールマイト。」
「私がこれからすることに特別なことはない。弱った貴様を刑務所にぶち込む!ただの敵と同じようにな!」
「……えっ?オールマイト、それはどういう意味?」
「僕が弱った?ハハハ、やってみろよオールマイト。」
瞬間、豪風。
『空気を押し出す』+『瞬発力×2』+『膂力増強』をメインとした個性の組み合わせにより生み出されるのは、強力な空気砲。
「ARKANSAS SMAAAASH!!!!!」
だがそれは、オールマイトにもできることだ。彼の殴打から繰り出される空気砲はAFOからのそれを相殺し、後ろにいるホムリリィ、グラントリノ、エンデヴァーを守る。
そして周囲の建物が倒壊し木々が根元から抜けていくだけで、攻撃は終わった。
ちらりと後ろを確認し、3人に怪我がなさそうなことにオールマイトは一安心するが、同時に焦りも生まれた。
「この威力……!?弱って、いない!?」
オールマイトは、ホムリリィからの話をアテにしていた。あの地下施設にて、ありったけの兵器でAFOを攻撃し、生きていたとはいえ非常に弱たような声を出していたという話を。
話を聞いて、多少なりとも弱っているだろうという話は誰もが合意していた。
だが、今の威力はそんな楽観を吹き飛ばす威力。数年前にオールマイトが戦った時と比べても、遜色ない威力。
今回、準備を万全にしたがために被害は最小限にできるだろうとオールマイトは考えていたが、そうもいかないことを予感してしまう。
土煙が晴れると、個性で少しづつ頭部の皮が修復しているAFOが変わらずそこに立っていた。
「オールマイト、ちょっと僕を舐めすぎじゃあないかな?僕はわざわざこの時間、この場所をこっちから指定したんだぜ。そのホムリリィに向けて言ったとはいえ、君が来る可能性を考慮しないわけがないじゃないか。
存分に準備させてもらったよ、オールマイト。」
口元はいまだにグロテスクに赤い肉で構造が判然としないが、嗤い声が混じっていることは誰もが理解できた。
「……フン。この程度の想定外、よくあることさ。貴様こそ、ずいぶんと行儀がいいな、AFO。」
「ほう?」
「警戒はしていたとはいえ、ノコノコと姿を現した私たちに奇襲もかけずに現れるとは。さては、我々ヒーローに恐れをなしたか?」
「ふうむ……ヒーローはともかくとして、そのホムリリィの個性を警戒しているのは事実だね。」
「教えてやろう。彼女の個性は『テレポーテーション』だ。物体を任意の位置に移動させられる、非常に強力な個性だ。つまり、彼女の協力があれば貴様の攻撃など何一つとして当たらない、そういうことだ。」
「奇襲を受けた僕が、その程度のことに気が付かないとでも思ったのかな?いやはや、虎の威を借るなんてらしくないじゃないか。」
「そうではない、彼我の戦力差は歴然だと言っているのだ。彼女だけではない、エンデヴァーにお師匠もいる。投降しろ、AFO!正々堂々とこの場に決闘しに来たことは褒めてやるが、貴様にやる慈悲など一片もないと知れ!」
「……ハハハハハハ!!!」
AFOは嗤った。グチャグチャな口をはっきりと開いて、圧倒的不利の状況にも関わらず、馬鹿を罵るように。
「正々堂々と戦わないよ?」
AFOは浮遊し、オールマイトとの距離を倍ほどに取った。
しばらくすると、手を横に広げ、赤い線の入った細い鉄骨のようなものを指からはやす。
同時に銀色の泥のようなものが3つ、空中にいる彼の周囲のあらわれた。
「何をする気だ?」
「実に敵らしいことだよ。」
泥はやがて、物体を吐き出す。月光しかないために見えづらいが、目を凝らすと人であることが分かった。
細い鉄骨のようなものが3人に痛々しく絡みつく。鉄骨の接触部からわずかに血がにじむが、3人は気絶しているらしく、うめき声は出なかった。
「……人質か。卑怯な真似を!」
「僕がやりそうなことだぜ、オールマイト。何をそんなに驚いt」
AFOの口元が突然爆発した。ついで、火薬の匂い。
オールマイトはまた一瞬何が起こったかわからなかったが、即座にホムリリィのせいだと思い至る。
ライフルでまた撃ったのだろうが、人質がいる状況では危険な行為だ。跳弾が当たる可能性があるためである。
そう注意しようと、オールマイトはホムリリィに視線を向けるが。
「……どうした?大丈夫かい?」
「…………」
彼女の銃を持つ手が震えている。
オールマイトを含む彼らは、ホムリリィが感情を発露しているところをようやく見た気がし、どうやら普通の人々のように感情を持ち合わせていることを納得した。
だが、動機が分からない。なぜ突然このタイミングで撃ったのか。
そう聞こうにも、彼女は余裕がないらしく、聞くのはなんとなく憚られた。
「ハハハ、どうしたホムリリィ。」
「黙りなさい、AFO。」
「黙るわけがないじゃないか。これから大事なことを言うんだからね。」
AFOは、人質の3人の顔が月光に照らされるように調整した。
「さて、もうわかっているだろうけど、万が一にも勘違いがないようにハッキリと言っておこう。
この3人の名前は順に、鹿目知久、鹿目詢子、鹿目タツヤという。」
・マント
マミさんお手製である
・私としたことが
もともとは流石にもう少し説明をするつもりだったが、エンデヴァーにイラついていたので段取りを忘れている。
・悪かったわね
素直に悪かったと思っている