弊ヒロアカ世界は、まどマギ世界とヒロアカ世界が良い感じに融合した世界です。その中で、佐倉杏子の過去はどういう扱いになっているのか、という話です。
それと、話の都合でヒロアカの歴史の解説(ただし自己解釈である程度補完してます)になっている部分がありますが、知っている方や興味の無い方は読み飛ばしていただいても多分支障ないです。
今回の「佐倉杏子特別対策会議」はそのヒーロー公安委員会が警視庁総監をはじめとした有力者を集めて開催された。オールマイトは会長判断により呼ばれなかったが、エンデヴァー、ベストジーニスト、ミルコ、イレイザーヘッドといった錚々たるヒーロー、そして彼らのサイドキックが集められている。盗聴対策が完璧にとられた窓の無い部屋で、ヒーロー公安委員会会長はその地位にふさわしい重みをもたせつつ、口を開く。
「……決定事項が一つあります。マスキュラーを殺したあの
挨拶を除けば、会議の第一声がそれであった。その抑圧ぶりに顔をしかめる者が多いが、それよりも説明を求める声が最初に上がった。
「……会長。拒否するわけではないが、まずは説明を頼む。」
エンデヴァーの問いかけに、そうね、と会長は返した。そして警察の補佐役の一人に目配せし、部屋のプロジェクターに佐倉杏子の情報が映像と共に投影される。
インターネット上で大量にアップロードされている彼女の動画の一シーンが投影された。マスキュラーを殺害した彼女の戦闘動画は、その強さからトップヒーロー達の目も引いた物であり、これが初見であるという者はここにはいない。
解説役が話し始める。
「まず、彼女の身元ですが、比較的簡単に割れました。名前は佐倉杏子。個性届では、個性は『誘引』ということになっています。人を特定の者に引き付ける精神系の個性、とのことで……」
「いやぜってー違うだろそれ。お前出す情報間違ってねえか?槍みたいなのを使って大暴れしてんだろ、どう見ても。」
ミルコが呆れたようにそう言った。解説役も、かなり疑問形でそれを言ったのだった。
「当然こちらとしても疑いましたが……しかし何度も確認した結果なのです。こちらとしては虚偽の申請であると考えておりますが、現在調査中です。」
「はあ……そうかい。」
ミルコはそれ以上追及せず、続きを促すように目をやった。
「次に、現在判明している彼女の行動遍歴ですが…… 諸々調査した結果、おそらく最近発生している
最近、
警察はこの事件の犯人の人物像を絞り込めずにいた。まず、サポートアイテムなどで武装したかなり実力のある
生活費を稼ぐために襲っているにしてはその対象が強すぎ、そしてそもそも殺害をする必要が無いのであり、
が、彼女ならば、不明瞭なところはあれど一応の説明はつくのだ。そして、普通ならばなぜそうなのかの説明を始めるべきだろう。
しかし、会長はここで話の流れをなぜかぶった切った。
「エンデヴァー。あなたから見て彼女の強さはどのような感じですか?判断材料はあの動画だけで構いません。実際、あれ以上の戦闘能力に関する情報は出ていません。」
エンデヴァーは、明らかに話の流れに合わない問いかけに「は?」と言いつつも、何か理由があるのだと、一応会長を信用しているエンデヴァーは、説明を始めた。
「……個性は出力も汎用性も強く、加えてコイツ自身の練度も高い。
彼女の戦闘能力が高いことは誰もが感じていたことだが、エンデヴァーというNo2からのお墨付きが出たことは、改めて驚きをこの場に齎した。
エンデヴァーは手元のスマホで、アップロードされている動画の一つを再生し、途中で止めた。そしておもむろにプロジェクターのケーブルに刺して投影権を奪い、その場面を映し出す。
「見てみろ、これだ。槍でこの、マスキュラーの拳をこの槍でガードしてるところだ。目を開きながらやっている。」
マスキュラーの拳を受け止めた瞬間をとらえたコマがあり、そこでは眼前ギリギリで拳を止める杏子の姿があった。そして、その目は全く動揺することなく、マスキュラーの動きを観察していたのだった。
「並のヒーローなら頭が弾け飛ぶ一撃だ。そしてガードしてるということは、喰らったらマズいと本人も思っているということ。実際、本人が一発喰らった場面ではせき込んでいたからな。この様子ならば、おそらく頭部にこの打撃を受けた場合は少なくとも戦闘不能になっていると考えられる。が、それに怖気づいている様子が無い。つまり、普段から死亡スレスレの戦いをしていた可能性もある、ということだ。」
まあ俺ほど強くはないだろうがな。と、余計ともとれる一言を付けくわえながら、エンデヴァーは解説をした。
それを受け、ここにいる者は一様に顔を険しく、またある者は怪訝な顔をした。なんで年端もいかない少女がどこで戦闘経験を積んだのか、と。
「……だそうです。」
と、会長が一聞すると微妙に意味不明な言葉を発した。そして、その目線の先には、警視庁総監がいた。彼は忌々し気にその目線を受け止めため息をついたのちに話を繋げた。
「……おかしいだろう、エンデヴァー。近年はオールマイトの活躍により、組織だった
警視庁総監が疑義を呈した。
「俺にもそれはわからん。ただ少なくとも、並大抵の
「……非常に厳しい訓練を受けた結果という可能性は無いのか?」
「なおのことおかしい。じゃあその訓練を受けさせていた
「……逃げ出してきた、という可能性はどうでしょうか?」
「ならばなぜ警察に駆けこまない?それに、おそらく命からがら逃げだしたのならば、ますますゲームセンターに入り浸っている場合じゃない。この小娘、調べたところ複数のゲームセンターで呑気に遊んでいた事が判明したと、資料にある。この小娘は、それほど喫緊の状況に置かれてるわけじゃない。」
「なるほど……」
ここで一瞬会話が途切れた。そうすると、すかさず会長が話を振った。
「イレイザーヘッド。あなたから見て、彼女の個性はどう?」
彼は個性上、様々な個性の持ち主と会敵している。その経験からの意見を欲しがったのだ。
「……そうですね。個性は発動型に分類されるのでしょうが、その幅が一線を画すものです。マスキュラーの動きに対応できていることから、筋力、瞬発力、動体視力、スタミナ、防御力といったものが全て強化されているように見えます。あの槍の性能もトップヒーローに迫る勢いですね。伸縮自在、空中で推進力を得られる、多節に分離可能、そしてマスキュラーの筋肉装甲を貫けるほどの攻撃力を生み出している。さらにここの……この場面では、個性で鎖のようなものを作り出し、足場やトラップにしています。ここまで様々な機能があるとなると、発動型というより『それができる何者か』になる変形型、と表現した方がしっくりきますね。例えるなら、リューキュウが近いでしょうか。しかし彼女と比べると、彼女の個性の特異性は余りにも色々なことができるということです。俺が知る限り、その幅は世界的に見ても最も豊富であると考えられます。」
「……世界トップなのですか?流石に、例えばオールマイトやスターアンドストライプには届かないかと……」
「強さとはまた違う意味です。例えばオールマイトは、その『超人的な肉体能力』を駆使してヒーローとして活動しています。スターも、まあ詳細は知りませんが、『新しい秩序を付与する』という能力を使ってヒーローとして様々なことを成し遂げています。どちらも、元となるのは単一の種類の能力。がしかし、彼女にはそれが見当たらない。武器を生成することと、身体能力を強化することは、ほとんど関係のないことです。まったく関係のない力を複数持っているように見受けられる、というのが俺の言いたい『豊富さ』という意味です。一応考えられるのは、両親の異なる個性をどちらも受け継いだ複合系個性である可能性。がしかし、彼女の母親は無個性で、父親に関しては詳細不明だったと記憶しています。……俺には突然変異の強個性と考えるしかできませんね。」
イレイザーヘッドが考察を述べると、エンデヴァーが怪訝な顔をする。
「イレイザー、彼女の両親のことを知っているのか?」
「事前に説明されてないんですか?」
「ああ、聞いてないぞ。」
イレイザーは、深くため息をつき、会長へ向けて少し非難するような目を向けた。
「会長。情報伝達を迅速に行うためにも、この会議の参加者に事前に資料を配っておくべきかと。今までの話、別に俺が時間を取って説明するようなことでもないでしょう。合理的じゃない。まずは目下最大の問題である彼女の身元に関して話すべきでは?」
それはここにいる者の過半数が感じていることだった。傾向としては、ヒーローやそのサイドキックはその通りだという目線を向ける者が多いが、警察の関係者はなんとも言えない面倒そうな顔をする者が多かった。
会長は、特に表情を変えることなくこう返した。
「……イレイザーヘッドの主張は全く合理的なものです。が、ここではまず彼女がどのような戦闘能力を有し、どの程度のヒーローがいれば確保が可能かを話し合っていただきたい。」
会長が有無を言わさぬ様子でそう言い、イレイザーは「……仕方ありませんね。」と諦めたように言った。
「……個性と戦闘能力の話に戻りますが、俺から見ても、彼女は戦い慣れている様子。エンデヴァーの言う通りだと思いますね。おそらく戦闘経験も並のプロヒーロー以上のものを積んでいます。彼女、確か今15歳ですよね?ありゃ化けますよ、この調子なら。もしこのまま成長したら……5年もすれば、戦闘能力ではオールマイトにすら届くんじゃないですかね。」
もちろんそうなる前にここで捕まえようって話でしょうが、とイレイザーヘッドは付け加えたが、この言葉に動揺を見せる者は多かった。現代では、オールマイトのその圧倒的強さから、ただひたすらその輝きに脳を焼かれ、オールマイトが具体的にどう強いのか、ましてやどうやったら彼を超えられるのかを考えることを諦めるヒーローもいるのだ。「自分たち凡人とは違い、生まれたときから運命づけられたヒーローの中のヒーロー」であると。だが、越えようとしているのかは別として、イレイザーヘッドはオールマイトがどう強いのかを冷静に分析できていると会長からみなされている人間だった。その彼が、将来の彼女はオールマイトに届き得ると評したのだ。その重みは確かなものだった。
自分を差し置いてオールマイトに届き得ると評されたことに対し、エンデヴァーが露骨に不愉快そうにイレイザーヘッドを睨みつける中、会長が問いかけた。
「それで、彼女の確保は可能だと思いますか?」
「可能でしょう。強いとは言っても、さすがに今のエンデヴァー程ではないと思います。俺が個性を封じて妨害しつつ、エンデヴァーをはじめとした対
「そう、それはよかったわ。」
この言葉には、多少の安堵が含まれていると、イレイザーヘッドは感じた。
そして意外にも、会長以上に安堵や喜びを含む言葉を発したのが、警視庁総監だった。
そこへ突然、総監の部下が割り込んで発言した。
「……可能なんだな?感謝する、ヒーロー。で、いつ頃確保できるかわかるか?」
「突然どうしたんです?話の順序が飛びすぎです。そもそもまずは彼女をどうやって見つけるか」
「その、今朝から○○の××市にあるゲームセンターで相変わらず遊んでいる事が発覚しております。どうも隠れる気が無いようでして」
イレイザーヘッドは彼女の行動に少し驚いたが、だからといって彼の疑念と困惑が消えたりはしなかった。
「……だからって、彼女に関する身元の話が全然されてないでしょう。特に彼女の父親が持っていた例の教会が」
「やはり……知っているのだな……」
「どうしたんです……?」
警視庁総監は天を仰いだ。明らかにこれが厄介ごとだと知っている態度だ。しかしイレイザーは総監がなぜ焦っているのかを把握できずに困惑するばかりだった。
そして、そのイレイザーに質問をする者がいた。
「……まさか、イレイザーヘッド。その教会の名前、救いの光ではないか?」
ここまで聞き役に徹していたベストジーニストが、それを破り緊張感をもってイレイザーにそう質問した。イレイザーが「ええ、そうです。」と答えると、彼はこめかみを抑え、少しうつむき深い溜息を吐く。そして何かを考えこみ始めた。ジーニストのサイドキックは、ベストジーニストらしくない闇を感じさせる様子だと感じた。
イレイザーの出した名前は、この場にいるヒーローの一部に衝撃を与えたらしい。それについて知っているヒーローからは「なんてことだ……」と言ううめきが一部から上がった。エンデヴァーもこれで事態を把握したらしく、「……フン、そういうことか。」というだけだったが眉間に皺が寄った。ミルコは相変わらずよく分かっていないようだった。
そこへ、会長が切り出す。
「……そうね、その名前が出た以上、こちらが把握している情報をここで全て開示させていただきます。こちらをどうぞ。」
「……隠す気はないということか。公安も、昔の隠蔽体質がずいぶんと変わったものだ。」
「ここまで大々的に人を集めた場所で、いつまでも情報を隠したまま話を進めるなど合理的ではありませんからね。」
そうですよね?イレイザー。と、会長は彼に向って言う。彼は何とも言えない表情を浮かべた。少なくともあまりいい感情ではないが、かといって悪感情でもなかった。
彼女の部下により、警察の捜査により判明した佐倉杏子の情報が掲載された資料が、各々に配布される。警視庁総監は背もたれに寄りかかりながら、「バカなことを……」と呟きつつ、その様を見ていた。そして、さっそく資料に目を通し始めた者の中から、徐々に彼女の状況に関して理解がいった者たちが出始めたのか、険しい目つきをする者が多くなっていった。
しかし、ミルコはそれを読んでもやはりよく分からないようだった。
「なーおい、結局何なんだってんだよ?コイツがその救いの光教会の牧師の娘ってことは分かったけどよ。それがなんか問題あんのか?」
「大いに問題なのだ。ミルコ、君はインターネット、SNSは興味が無いのだったな?」
「おう。全然興味ねえ!」
ミルコは開き直るような元気でそう言った。
「ならばその反応も当然だろう。この件は私から説明させていただく。見たところ、事態が把握できていない者も多いようだからな。」
その言葉通り、この場には理解できずに怪訝な顔を浮かべる者もいた。彼らは、「ようやくまともに一から説明してくれるのか」と、期待するような目をジーニストに注いだ。
◇
「では改めて。私から彼女、佐倉杏子について、そして彼女の置かれている状況について説明させていただこう。そのために、まずは彼女の父親が運営していた救いの光教会について、説明しなければならない。」
ベストジーニストは、おもむろにプロジェクターに接続しているノートPCを操作し、一つのネット記事を出した。5年以上前の日付だった。
「この記事は、件の教会の一般的な評判を代表する記事としてピックアップした。この記事は大手のものということもあり比較的理性的に書かれているが、それでも
ジーニストは理性的と言ったが、周囲で
「そのような情報を受け、警察が主体となりこの教会を調査する機会があった。私がこの件を知っているのは、その調査チームに護衛のヒーローとして同行したからなのだ。」
ジーニストは次に、その牧師とされる男、つまり佐倉杏子の父親の画像を映し出した。
「さて、ここからは調査結果をお話ししたいかと思うのだが、会長、総監。ここまで私の説明を止めなかったということは、このまま続けても良いと受け取って……よろしいですね?」
会長は普通に頷いた。総監は、苦々しい顔をしつつも、
「……隠していてもどうせ漏れる話だ。構わん。」
目を閉じつつ投げやりに先を促した。
「ありがとうございます。実際に現地へ赴いたところ、特に武力的抵抗も受けずに、この牧師に中に入れていただきました。確か……」
『私はベストジーニスト。ヒーローをしている者です。今回伺ったのは、我々の調査にご協力願いたいからでして。この教会の付近で
『ええ、いつかあなた方が来るだろうとは思っていました。さあ、どうぞ中へ。ヒーローの皆さまとは、じっくりお話しさせていただきたい。』
『……よろしいのですか?ありがとうございます。』
「という感じでしたね。そのまま我々のチームは中へ通されました。内部は、少なくとも犯罪的観点からすれば不審な点は無く、本当に平凡な教会でした。ただ、中にいた人々は我々ヒーローの姿を見ると、怯えるか睨む者が多かったですね。彼はそれを宥めつつ、我々を談話室らしきところへ通しました。そこで普通に紅茶を出されて、歓迎されましたので我々は拍子抜けしたものです。さて、なぜ
『さて……こちらをご覧ください。この近辺で
『……警察の耳にはいつかこの話が届くであろうとは思っていました。』
『心当たりがあるのですね?ぜひお聞かせ願いたい。』
『……この教会で、どのような教えを説いているかは調査済みでしょうか?』
『一通り調査はしましたが、特別なものは確認していませんね。』
『この世界では
これを言った瞬間、総監の顔は一層不愉快そうに硬くなり、ヒーロー達からは「何を言っているんだそいつは」と、おかしなものを見る目を向けられた。
『……それを、
『私としては、別に
「その後、彼はここに来た
『……ということを、私はここに来た者に説いているのです。最近までは人などほとんど訪れなかったのですがね。私にも原因は分かりませんが、ある時から急に人々が私の話を聞いてくれるようになったのですよ。それに伴い通報も増えてしまったのでしょう。』
『なるほど。しかし、なぜ犯罪者をそのように庇うのです?』
『先ほどの申しました通り、
『……一度聞いただけでは賛同しかねる意見ですね。確かに、彼らの中には同情すべき境遇の者も多くいる。しかし、だからと言って被害者を無視してよいわけではないでしょうし、『可哀そう』という理由だけで法を犯すことを許せば社会は混乱します。繊維が飛び出たジーンズは、誰もがそれを余計なものとしてカットする。残酷かもしれませんが、自然なことです。』
『……ヒーローさん。犯罪者と
『個性を使わないで罪を犯すか、個性を使って犯すかの違いでしょう。』
『まあ法律的にはそうなのでしょうが、どうも私は違うように思うのです。そうですね。よく、子供たちがヒーローごっこをするでしょう?その時に、大抵誰もがヒーローをやりたがって、そして
『……申し訳ありませんが、概念的で共感しかねるお話です。』
『例えば、万引きを働いた
『……状況設定等に無理があるとは思いますが、理解できない話ではないですね。ですが先ほども申しあげたとおり、『可哀そう』という理由だけで罪を許すことはできません。』
『ええ、もちろん。ですが私が言いたいのは、ヒーローごっこをする子供たちは、
『……あくまで子供のごっこ遊びの話でしょう。彼らの年齢でそこまで考えろと言うのは酷な話です。そして、それがあなたの主張とどう関係するのですか?』
『ヒーローさん。現代の私たちは、大人になっても同じことをしていると思いませんか?』
ここまでジーニストが話すと、ある程度ヒーローの社会問題に興味がある者達は、悲しそうな顔や、少し驚いたような顔を浮かべたりした。しかし、ヒーロー公安委員会の者達や、警視庁総監をはじめとした警察関係の人々は、努めて無表情、もしくは不愉快そうな顔が多かった。
『先ほどの万引きの話に戻りますが、あれを悪と断定するのは、少々抵抗がありませんか?繰り返しますが、万引きを逮捕するなとか言っているわけではありません。なんで家族を養おうとして万引きするんだ、もっとほかの手段があるだろ、とかいろいろおかしな点があるのは承知しています。しかし、家族のためという動機を前提したとき、それを悪と断定することにほんの少しでも抵抗を感じませんか?』
『……ええ、まあ、理解できる話ではあります。私の立場上、あまり頷けるような話ではありませんが。』
『ありがとうございます。ほんの少しでも、この話をして理解を示してくださったヒーローさんはあなたが初めてです。……今までここを怪しんで個人的に調査しに来たヒーローさんはいましたが、この話をすると皆さん怒ったり呆れたりして帰ってしまいましたから。』
『……そうでしょう。残念ながら、それで自分の正義感や正当性に傷をつけられたと考えたのでしょう。昨今、ヒーロー活動のエンタメ化が問題だという話は出ています。』
『ええ、それに近いですね。それで、私が言いたいのはですね。このヒーロー社会においては、万引きが、『必ず』、悪とされてしまっていることなのですよ。だから……これをヒーローさんの前で言うのは心苦しいのですが、万引きを捕まえるのは『常に正しい』とされてしまっている。』
『……行動と善悪を分離すべきということですか?』
『そう!そうなのです。』
『…………確かに、現代のヒーロー社会の問題であるとは思います。しかし、もっと他に目を向けるべきところがある。超常黎明期以前と比べ、個性による犯罪の脅威は格段に増しているのはご存じでしょう。ヒーローとしては、先にその脅威に対処すべきである、私はそう考えている。』
『ですが、悪ではない犯罪も、そして必要以上に悪となってしまう犯罪も、増えていると思いませんか?』
『……』
この主張に、心当たりがある者は多かった。
『実際、そういった犯罪は、私が調べた限り撲滅されておらず、むしろ世代の積み重ねによる個性の強力化によりますますその問題は大きくなっています。そしてそんな彼らに、人々はあまりに無関心すぎる。そしてヒーローは、平等に彼らを逮捕してしまう。人々はそれを見て、『流石ヒーロー!』と持て囃す。まるで
無論、全ての人がそうだなどというつもりはありません。こんなお話を聞かされて不愉快であると思います。しかし私は……』
『いえいえ、興味深いお話です。主張はおおよそ理解し、納得しました。……ところで、なぜ犯罪の被害者の救済ではなく、犯罪者を助けようと?』
『誰も、彼らに手を差し伸べないからですよ。誰もやらないのだったら、私がやるしかないじゃないですか。』
『なるほど。では……』
「……その後も、私と彼は、様々な話をした。私は、普段思想や哲学に傾倒するような人間ではないつもりではいるが、それでも彼との対話は非常に有意義だったと思っている。その後も、彼とは何回か言葉を交わす機会があった。それらをそれらを総合して、私の所感を述べさせていただくと……彼の考えはこのヒーロー社会にとって、毒寄りの薬に成り得る、といったところでしょうか。彼の考えには、あまりにも尖っていたり、少々現実を無視していた部分があったのは否定できない。がしかし、彼は
そこまで一気にベストジーニストは喋り切った。一息ついて、ジーニストは聴衆がどのような反応をしているのかを確認しようとしたが、それよりも自分があまりにも自分語りをしていることに気が付き、少しだけ恥じた。
「……失礼。今は教会の話をしなければなりませんでしたね。つい脱線してしまったことを謝罪します。」
「へー?お前が
ミルコが気に入ったような風でそう言い、ジーニストは彼女がこの手の話に興味を示したことを意外に感じつつもミルコに答えた。
「……たしかに、私の不良更生活動の
「いいぞ。生意気だ。」
ミルコのように、ジーニストの話に感動する者は、特にヒーローやその関係者に多かった。彼らにとって多少なりとも耳の痛い話であった筈であるが、それでも感動しているというのはまさにヒーロー精神を正しく持った者達がここにいることを示していた。
ベストジーニストの高い支持率の要因の一つに、不良更生活動が挙げられる。表向き、テレビやネットに上げられる動画では、ジーニストが凶暴な
だが、彼の活動の驚異的な点は、その更生させた相手から文句が出ているどころか、感謝されている点である。これは、特にヒーローとして社会の闇を垣間見た者たちから評価されているポイントだ。
そもそも、
しかし、ベストジーニストはそのヒーローにとって逆境ともいえる不良更生活動に力を入れており、しかもほぼ全て成功させている。彼はヒーロー活動の傍ら、彼らの生い立ちを調べ上げ、どうしたら彼らが社会復帰できるかを真剣に考える。もちろん彼自身多忙であり、大抵の更生の仕事はサイドキック任せになってしまう。がしかし、本人は更生相手とはかならず一度は言葉を交わす。その結果、ジーニストに対して怒りを覚えただけで終わる不良は今までほぼいない。もちろん反発の言葉を吐く者は多いが、それでも何かしらの心境の変化があるのだ。それは、ジーニストが彼なりに社会のグロテスクな闇を調査し、向き合い、どうして不良になってしまうのかを彼なりに考えた賜物と言えるのだろう。不良更生活動の以前でもヒーローランキング上位に上り詰めるほどに優秀な彼なりに努力した結果、一部の福祉団体、教育団体から彼に講演依頼が来るほどの不良更生のノウハウを持つに至った。それを知っている者達からの支持が非常に高く、彼の支持率を押し上げている。
その事情を知っている者からのしばらく暖かな沈黙が続いたのち、エンデヴァーが口を開く。
「……貴様がその教会を知っているのは理解したが、イレイザーは何故知っている?」
「俺ですか。……その後の事件に、ジーニストに同行したからですよ。」
「……そうか、理解した。」
その後の事件?と、周囲に疑問が浮かぶ。エンデヴァーもイレイザーもあまりいい顔をしていない。イレイザーがジーニストに目配せすると、ジーニストは続きを話し始めた。
その目からは、少しだけ光が失われた。
「そのような経緯で、私はこの件を警察等に報告しました。しばらくすると、当時の公安委員会から『現段階では逮捕まではしなくても良いが、突然人が集まりだしたのは不可解。個性の無断使用が見られる場合、また法律上の
……さて、その数か月後のこと。私の事務所のもとに一本の通報が入った。曰く、その教会に
そこで、ジーニストは言葉を切る。少し目を伏せており、なにか心の準備をしているようだった。
「……どうしたんですか?ベストジーニスト。そこで何があったのですか?」
「ジーニストさん。そこから先は俺が説明しましょう。」
イレイザーがそういい、立ち上がる。代わりに説明しようとしたようだが、ベストジーニストは彼を手で制した。
「いや、私から説明させていただきたい。…………そこで我々が見たのは、牧師の家族を含めた心中の現場だった。」
余りの急展開に、そしてその悲しい出来事に、事情を知らない者達は一様に息を吞んだ。