個性『魔法少女』   作:Assassss

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皆さんの最近のビッグニュースは何ですか?

僕は当然、廻天が来年に延期したことです。

▂▅▇█▓▒░(’ω’)░▒▓█▇▅▂ うわあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!


佐倉杏子特別対策会議(後編)

「…………あれは、私の人生の中でも一、二を争うほどショッキングな出来事だったよ。一種の尊敬の念を覚えた相手が、家族の死体と共に首をくくっていたのだから。あの時ほど、なぜもっと彼と言葉を交わさなかったのかと、後悔したことは無い。」

 

このことを語るベストジーニストの目は、目を伏せ、ヒーローとしては表に出せない程に沈んでいた。内容的に当然ではあるが、彼のことを良く知る周囲の人間の中には、この様子に彼の話以上のショックを受けた者もいた。

 

「当然、私はこの件に関して警察と連携して調査を開始した。首をくくっていたとは言ったが、調べれば調べるほどに自殺とは思えなかった。まず近隣住民や、その教会に来る者から聞き取りをしたところ、牧師の家族はある時から突然雰囲気が悪くなったのだという。原因は、彼自身も誰にも話していなかったそうだ。そして、今回の問題の佐倉杏子だけは当時見つからず、行方不明扱いとなった。不可解な点はまだまだある。近隣で謎の人影が目撃されていたこと、その仲の悪くなったときから、話を聞きに来る者がパッタリいなくなったこと。私は、当時彼の話を熱心に聞いていたが、その後聞かなくなったという者を発見し、話を聞いた。彼曰く、『その時までは、その牧師さんの話を聞きたくて聞きたくて仕方なかったが、ある時から急にどうでもよくなった』らしい。そして極めつけは……そのような解決すべき問題が山積みにも関わらず、警察の方から突如、自殺と断定し捜査を終了する、という宣言が出されたことだ。」

 

そこまで話し終えると、ヒーローたちの疑惑の目が警視庁総監に向けられる。エンデヴァーは「さっさと話を続けろ」と言わんばかりにベストジーニストを睨みつけていた。

 

「おそらくここにいる皆が感じているように、私も何か陰謀のようなものを感じた。とはいえ、私はヒーローの身。捜査というのは、基本的に警察の権限だ。本当に忸怩たる思いだったよ、当時は。その警察が打ち切ると言った以上、私が下手に捜査を行えば法律違反となってしまうこととなった。それでも、当時は何とか真実を見つけ出そうと藻掻いていた。しかし、個性を使わないで個人にできることなど、高が知れていたがな。

 

……だが、それらの謎は、突如として一部が明らかにされることとなる。当時の公安委員長殺害事件がキッカケだ。ここにいる皆様なら、その実情は知っているだろう?」

 

当時の公安委員長殺害事件。これは、表向きにはヒーローと言い争いになった公安委員長が殺害された、ということになっている。しかし実のところは、レディ・ナガンというヒーローが明確に殺意を以て殺したものだった。レディ・ナガンは表向きは遠距離狙撃に優れるヒーローとして有名だった。しかし実は、彼女はヒーロー公安委員会専属の暗殺者だった。彼女は、ヒーロー社会の表に出せない事件、例えばヒーローと(ヴィラン)が癒着していたといった事件に対処していた。そしてその手段は、捕縛ではなく殺害。かつてヒーローを志した彼女は、そのようなヒーローから外れる行いばかり命令する公安委員会に、そしてヒーローという偶像を人々に見せるこの社会に失望し、精神的に追い詰められた結果、当時の公安委員会会長を殺害するに至った。

 

勿論この話は表には出ていないが、公安関係者や、エンデヴァーなどのトップヒーローの耳には入っている話で、この話を聞いて特別動揺している者は少なかった。

だが、嫌な予感を覚える者は多かった。当時の公安委員会会長は、ヒーロー社会を維持するためとはいえあまりに行き過ぎた行動をとったために殺されたのだ。その当時の公安が一体どのようなやらかしをしたのかと、話を聞いている者達は恐れた。

 

「次期会長……つまり現会長に、いろいろと前会長の行いに関して調べて頂いた。その中に、この件に関する情報があったのだ。曰く、この件はやはり前会長が指示したことらしい。彼は、死んだ彼の思想が社会に伝搬することを恐れたようだ。」

「……なんでだよ?聞いた限り立派な社会奉仕じゃねぇか。」

 

ミルコが、心底分からないという風に聞いた。ジーニストは、なんとも残念そうに続きを話す。

 

「ヒーローと(ヴィラン)の分断を侵すから、だそうだ。正直私は、まったくもって賛同しかねる意見だがな。現代のヒーロー社会は、ヒーローという存在の絶対性に依拠する社会だ。」

「あー……そういうことかよ。ケッ。」

 

ミルコはこれで理由を察したようで、嫌悪感を含む目をなんの遠慮もなく現会長に向けた。会長は、その目線を真正面から黙って受け止めていた。エンデヴァーやイレイザーなどのほかのヒーローも、一瞬だけ会長に非難の目を向けたが、何か思うところがあるのか、すぐにその目線を止めた。

 

「……つまり、この社会において、ヒーローは絶対に正しく、(ヴィラン)は悪の存在である。彼らにどのような事情があろうとも、そう定義づけられてしまった社会なのだ。もちろん、このヒーロー社会において、すべての全てハッキリと切り分けられる訳ではないし、(ヴィラン)の背景に思いを巡らせる者も存在する。が、当時のヒーロー公安委員会が守ろうとしていた社会のビジョンとはそれだった。ヒーローの履くジーンズは必ず美しくピッチリした物であり、(ヴィラン)は違法ジーンズを必ず履いていると宣言したのだ。ヒーローが絶対に正しいから、人々はヒーローが現れると安心し、個性を法律を超えて使ったりはしない。美しいジーンズを履く者が品行方正な印象を与えるように、な。自衛や他者を助ける目的にも、だ。暴れる(ヴィラン)は愚か者だと、単純に考えるだけで人生を歩めるのだ。……私としても、そのような考えが日本の犯罪発生率6%に寄与していると考えている。……それで良いのかはともかくとして。」

 

この話を不快に感じつつも、実際その通りだと考えるヒーローは多かった。ヒーローのやることは、ほぼすべて称賛や羨望の対象なのだということに対し、自分の経験を思い返してみると反論しにくくなった。言葉の問題かもしれないが、このヒーロー社会において『良い』とされるものがヒーローと定義づけられている節がある。意地悪な言い方をすれば、ヒーローは(ヴィラン)と呼ばれる人々から、『正しさ』を奪っているのだ。個々の事例を良く調べれば、ヒーローにも非があったり、(ヴィラン)にも正当性がある事件などいくらでもあるだろう。しかし、人々はニュースに流れるヒーローが対処した事件に、そんなことを考えたりはしない。ただ、ヒーローが悪い連中をやっつけた、と思うだけという傾向があることは、ここにいる者達全員が実感していることだった。

 

「……あのー、ジーニストさん。」

 

自省を促すような空気の中、イレイザーが手を上げる。

 

「イレイザー?どうした。」

「俺は、その時にジーニストさんとチームを組んだだけなんで、公安の会長が絡んでたなんて話は初めて聞きましたね。」

「ム、そうだったな。すまない、私としても色々衝撃的な事件だったもので、失念してしまったようだ。」

「いや、まあそもそも俺はあの事件限りの協力だったはずなんで、別にいいんですけどね。それで、公安委員長が絡んでたってのはどういう意味なんですか?いくら何でも、まさかそれだけでその牧師に暗殺命令を出したわけではないでしょう。」

「…………それが、そうでもないのだ。」

「え?」

「私が話しましょう。」

 

ここで、意外にも現公安委員会会長が声を上げた。今までほとんど黙ってヒーローに話させるだけだった彼女が、突然立ち上がる。ジーニストは黙ってマイクを渡した。他の者が会長直々に何を言い出す気かと警戒を強めた。

 

「……間接的な形ですが、当時の公安委員会会長はその牧師を殺害する命令を出していました。」

 

俄に部屋がざわつき出す。いくら当時の公安が過激だからといって、そこまでするイメージは無かったのだ。殺しを禁忌とするヒーローの取りまとめが直々に殺害命令を出すなど、尋常ではない。一気に会長への非難の目が集まる。「国家権力が法律を破ってまでやらなければいけなかった理由が本当にあるのか?」と。その実力からたびたび公安から協力要請が来るエンデヴァーすら知らない話であり、これには彼も「どういう経緯だ?さっさと話せ!」と口にした。

 

「……驚くのも当然ですね。当時の会長がそれをする決断をしたのは、一つの情報が切っ掛けだったようです。『罪を犯したヒーローが、彼のもとへ懺悔に来ている』と。」

「いや、なんでそれが殺そうって発想になるんですか。」

 

それを聞いても、困惑が消えない者は多かった。イレイザーが非常に不愉快そうにそう尋ねる。

 

「彼は公安直属のヒーローだったそうです。いわく、そのヒーローは『社会に必要なこととはいえ、(ヴィラン)を殺してしまった。人々を救けたくて、ヒーローになった俺が、だ。俺の罪はどうすればいいんだ?』と、相談に来たらしいのです。それを察知した当時の公安委員会会長は、大いに焦りました。裏で直属のヒーローにやらせたことが漏れるのでは、と。あの牧師は、相談事に関して口は堅いようでしたが……それでも、前会長はその疑念を無視できなかったようです。そして、(ヴィラン)の仕業に見せかけて、彼を闇に葬ろうとした。」

「ハアアァァァァ!?ふざけてんじゃねえぞテメェら!」

 

ヒーローを統括する組織にあるまじき非道さに、ミルコの堪忍袋の緒が切れた。発作的に立ち上がり会長に詰め寄るが、会長の近くに来たところでジーニストがミルコを拘束した。ミルコは身を捩りながらも、依然として不動の会長に向かい言葉を吐く。

 

「テメエら何のためにいるんだよ?社会守るためだろ!守らなきゃならないヤツを殺してどうすんだよ!自分の理想通りにならないなら守らなくていいってか!?いいか?ヒーローは人を守るためにいるんだよ。法律を守るしか能のないバカになるなんてゴメンだ、アタシは!おい公安、テメエらの考える社会とやらのために動くのがヒーローってんなら、アタシはヒーローを辞めるぞ!人を殺すことの重さを分かってねえ奴が、アタシの、ヒーローの上に立つなんてアタシは絶対認めねェ!聞いてるのか会長!?黙ってねェでなんとか……」

「ミルコ、落ち着け。画策したのはここにいる現会長ではない。それに、それに関わった者達は既に全員法の裁きを受け、牢の中だ。少なくとも件の牧師に関しては、片が付いた事件なのだよ。私とて腸が煮えくり返る思いだが、今回は別の事件の話し合いだ。……ここは押さえてくれ、どうか。」

「……チクショウ……お前がそう言うってんなら、やめるしかねえじゃねえか……」

 

ジーニストの説得に、ミルコはようやく暴れるのを止めた。そのまま元居た席に戻り、ドカッと不愉快さを誇示するように椅子に腰を下ろす。会長はその間、ひたすら黙ってミルコの話を聞いていた。

この会長の話を聞いた者の反応は様々だ。涙を流して悲しむ者、前会長の過激さにひたすら困惑する者、そしてヒーローに一般人の殺害を命じたという事実に怒りを覚える者。ただ共通していることは、ヒーローは現実を見れば見るほど汚く残酷なものを見ることになるということを実感し、かつて憧れたキラキラしたヒーロー像が崩れ去るという、大人になったと表現するにはあまりにも悲しすぎる世界観の変化だった。ヒーローとしての経験が浅いものほど、その変化は大きかった。

 

「……そういう重要なことこそ、事前に共有しておいてくださいよ。そうすれば俺たちも心の準備をしながら落ち着いて話を聞けたってもんです。今回は、皆感情的になってしまった。この会議のやりかたは全くもって合理的じゃない。」

「合理的ではないことは認めます。しかし、事前に伝えては情報が洩れる可能性がありました。今回の件は、非常に慎重に扱わなくてはなりません。下手な伝え方をすれば、ヒーロー社会に大きな負の変化をもたらす。」

「まーたお得意の秘密主義ってかァ?反吐が出るな。」

 

公安の姿勢が大して変わっていないと見るや、ミルコがまた怒りをあらわにする。

 

「……あなた達ヒーローにとって、不誠実であることは認めます。しかし……」

「会長。私からも進言させていただく。今回の件は公表するべきです。」

 

ベストジーニストがそう言うと、会長は少し目を見開くという変化を見せた。彼女にとっても、遵法意識が高く社会の歪みを見逃さないジーニストが、そのような変革を提案するのは意外だったのだ。

 

「現代の人々は、ヒーローにあまりにも『正しさ』を求めすぎていると感じております。このままでは、いずれヒーローへの期待と、求められる水準が、人間には耐えられないレベルになるのではと、私は恐れている。それこそ、オールマイトにしか達成し得ないほどのものに。だからここで、全てとはいかなくとも、せめてヒーローが悪事に手を染め、それを逮捕したという事実を、マスコミなどに公表すべきではないでしょうか。ヒーローもまた人間であると、時には道を誤り、悪に手を染めることもあると。さもなくば、ヒーローの背負うべき清廉の重みに耐えきれず、第二、第三のヒーローの懺悔があるでしょう。現代ではヒーローの質の低下が嘆かれているが、私からすれば、彼らも立派なヒーロー。至らぬ点は多々あれど、一般人にはできぬ仕事をこなしている。そも平常時の(ヴィラン)退治は、我々トップヒーローの能力が求められる事案ばかりではないのだ。彼らに与えられる不相応の称賛と責任を取り除いてやるべきだと、ヒーローとしてそこそこの経験のある身として愚考させていただく。」

 

ジーニストの提案に同意する者は多かった。ヒーローとなった者がよく感じることだが、人々はヒーローを人間ではなく、演者として見ている。これがかなり堪えるのだ。つまり、自分がつらい時でも弱音を吐くことが許されない。大人というものは概してそうなのかもしれないが、ヒーローの場合それに加えて「私にはそんな弱弱しい面などない!」という風のふるまいを常に求められ、その窮屈さは人一倍、愚痴をこぼせるのはヒーロー仲間だけなのである。しかし、自らもヒーローではなかった身の時は、ヒーローをそのように見ていた自覚があり、また社会にとっても必要であることを頭では理解しているため、表立って言いにくい話なのであった。

 

「……俺もジーニストさんの話に賛成です。ヒーローに求められる水準は、年々高くなっていると感じています。しかし、ヒーローの全てに雄英並の水準を求めるのは合理的じゃない。今はまだオールマイトさんがいるので何とかなるかと思いますが、彼とて人間です。いつかは引退します。あの人が年々衰えているのは皆さんご存じでしょう?彼がいなくなったとき、この社会はこのままでうまくやっていけるのか、俺はちょっと疑問ですね。」

「もっともな意見ですね。」

 

大抵がそうだそうだと頷きつつ、会長の言葉の続きを待つ。多少なりとも前向きな返答を期待して。

 

「……しかし、今回の事件に関しては佐倉杏子の確保を最優先で行います。そして、一連の問題に関しても公表は極力規制させていただきたいのです。」

 

落胆の雰囲気が広まったが、会長は止めることなく話し続ける。

 

「話がそれてしまいましたが、件の事件の話はまだ終わっていません。まず、かの牧師がその後どうなったかを話させていただきます。前会長は、マークしていた(ヴィラン)に件の牧師を襲うように誘導しろと、周囲に悟られぬよう極秘命令を部下に出しました。……警察関係者の一部に協力を仰いで。」

「ハァ!?警察までグルかよ!?」

 

ミルコが再び激怒する。ジーニストが横で「念のため言うが、そこにいる彼は無関係だったことを確認している」と、警視庁総監を見ながら言った。

総監は、手で目を覆い、再び天を仰ぎながら話し出した。

 

「ハァ……まあ、事実だ。その牧師の殺害が成功した場合に、その直属部隊がやったという証拠が出ないよう工作しろ、だったらしい。……つまりそれが成功すれば、その部署が成果を確実に上げられるってわけだ。まるで公安に餌付けされてるみてえな話だがな。初めてこの件の報告を受けたときは、開いた口がふさがらなかったもんだ。あの時べ……いや、何でもない。俺からこれ以上言うことは無い。」

「……」

 

警視庁総監は、一瞬ジーニストを見てそう言いかけたが、すぐやめた。というのも実のところ、警察としては関わった者に軽い処分だけ下して、揉み消そうとした経緯がある。警察としても、件の牧師のような存在は頭が痛いものだった。警察としては、捕まえた相手が情状酌量の余地があるかにいちいち頭を回したくない。そんなことをしても、警察内部からも外部からも評価はされないのだ。そして、現代のヒーロー社会を保つということは、警察にとっても楽な面もあった。(ヴィラン)受取係などと揶揄されてはいるが、その分役割ははっきりしているのだ。どんな(ヴィラン)が相手でも、個性を使っていたらヒーローに連絡し、自分たちは捜査に徹すればよい。それが正しいという肯定があるという点で楽だった。

しかし今回は、真実を知ったベストジーニストが猛烈に抗議した。事件の捜査は基本的に警察の管轄とはいえ、相手がトップヒーローでは、警察は無下に扱うことはできなかった。諸々の交渉の結果、関わった者には正しく法の裁きを下すが、事件のことは公表しない、ということで決着した。

警察関係者に対しても非難めいた目線が投げかけられる中、会長がさらに続ける。

 

「……しかし、前会長が嗾けた(ヴィラン)は、なぜか誰一人として帰ってきませんでした。発信器を仕掛けても、教会に到着した前後で突如として信号が途絶えたそうです。何があったのかは結局わからずじまいでした。業を煮やした前会長は、精神操作系の個性を持つ実力のある部下に、ついに直接あの牧師を自殺させるように命令。それは成功し、あの一家は皆死亡しました。佐倉杏子を除いて。……これが、事件の全貌です。」

 

自分が所属する組織のトップに当たる存在がしでかしたことの大きさに、そしてその倫理感の無さに、誰もが不愉快になっていた。公安会長がいる前で「まるで(ヴィラン)のような所業だ!」と言い出す勇気までは持ち合わせていないが、結局ヒーローも警察も、組織の闇は、社会の闇は(ヴィラン)退治のように解消できないのだという無力感だけを募らせるのだった。

 

「ハン、前会長はまるで(ヴィラン)だな!」

 

ただし、ミルコは面と向かって言うだけの胆力があったようだ。

 

またしても空気がひどく重くなる中、このまま黙っているだけの会議は合理的ではないと考えたイレイザーが手を上げる。

 

「あー、その。質問いいですか?」

「なんでしょう?イレイザーヘッド。」

「佐倉杏子を、捕まえた後はどうする気です?ここまで俺たちに話してくれたからには、その後のことも話していただきたいのですがね。非常に気になるので。まさか俺たちにまた暗殺を手伝えなんて言いませんよね。」

 

イレイザーらしからぬ刺々しい言い方だった。前会長の所業のひどさからして当然とはいえ、ジーニストやエンデヴァーは、イレイザーの感情が籠った物言いに少し驚く。彼は普段、会議の時も合理性を重視し、感情的なことは言わないからだ。

 

「勿論、暗殺など命令する気はありません。彼女は少年法に則り対処します。」

「流石に裁判で終わらせてハイ、終わり、というつもりではないでしょう?ヒーロー公安は、こういう個性やヒーローに関する裁判にも口出しできるって聞いてます。暗黙の了解みたいなもんですがね。その上であんたがたは、ここに真実を知っているジーニストさんを呼んだ。つまりそれは、公安は俺たちにこの情報を伝えたかったってことです。考えられるのは2つ。『これからやることを黙っていてくれ』か、『これから公安からの仕事に協力してほしい』です。」

「……流石イレイザー、聡明ですね。その通りです。今回の事件に関しては……はっきり申し上げます、一連の事実を世間に公表されないよう、動いていただきたいのです。」

「……あの話の後で、本気でそう仰るのです?」

「そうです。」

「公安委員長としての命令ですか?」

「そうです。……納得いただけないのは当然かと思います。が、今後のこの事件の成り行きを考えていただければ、ここにいる過半数の方には納得していただけると想定しています。」

「ハァー?ほぼ全部てめえらのやらかしじゃねえか。本気で説得できると思ってるのか?」

「いや、俺は賛成だ。ここにいる者全員が口を合わせる、という前提条件ならばな。」

「は?おい、エンデヴァー!?」

 

ミルコがあり得ないという風に、エンデヴァーを見る。エンデヴァーは冷静に説明を始めた。

 

「おそらく、公安としては佐倉杏子を迅速に拘束したのち、偽の彼女の生い立ち(カバーストーリー)を公表するつもりなのだ。大方、『ヒーロー公安委員会が直接教育していた強個性持ちのヒーロー候補生が、若気の至りで教育施設を脱走し、ヴィランを殺してしまった。』といったところだろう。確保後は『我々の教育方針に問題があった。今後は彼女にもっと思春期の子供として適切な余裕を与えるよう配慮する。』とでも謝罪文を出す気なのだろう?ヒーロー社会に何も痛みをもたらさない謝罪を、な。」

「……流石エンデヴァーですね。この短時間でそれを出せるとは。そうです。おおむね、我々公安委員会はその計画です。そして、裏で彼女の身元が特定されないよう仕組みます。」

「おい、エンデヴァー!コイツらのやってきたことはどうなるんだよ!?」

「俺とて不愉快な話ではあったが、この小娘の背景が世間に漏れた場合の影響が大きすぎる。公安の善悪を気にしている場合ではない。ミルコ。今、この小娘がネット上でどのような評価を受けているのか把握しているか?」

「……さっきも言ったけどよ。あたしはなんか、SNSとか、そういうのに興味ねえから、仕事に必要なもの以外はやってねえよ。」

「『(ヴィラン)は許さず、弱者に手を差し伸べる義侠溢れるヴィジランテ』だ。人気がうなぎ上り、と言って差支えない。まず、この小娘の個性らしき服や武器が非常に映像映えする。すでに戦闘の部分を好き勝手加工したような映像が出回っているのも確認した。そして、並のヒーローでは太刀打ちできないレベルの戦闘。それを15歳の子供が成し遂げているという事実。これだけでも大いに興味を惹かれるのは当然だ。……加えて、動画の最後のシーン。これだ。」

 

エンデヴァーが手元のPCを操作し、人々に画面を見せる。そこには、近くにいた男の子に困惑しつつも近づいて、

 

「食うかい?」

 

と、持っている菓子を差し出すシーンがあった。

 

「……このあと、ヒーローが駆け付けたために退散した。彼女が喋っているシーンは一応ほかにもあるが、戦闘で動き回るせいで、かなり断片的なものが多いようだ。その中で、最もよく発言が分かるシーンがここなのだ。このシーンがある種の……正直俺には全く共感できない話だが、『人の本質』とやらを表すシーンと扱われている、らしい。俺のサイドキックから聞いた話だがな。」

 

エンデヴァー自身はSNSに興味などないが、現代社会の動向を把握するためにチェックは欠かさないのであった。

馬鹿馬鹿しい評価だ……と愚痴をもらしつつも、彼は続ける。

 

「……それで、だ。もしこの注目度のまま、彼女を確保し、公安が馬鹿正直に公表した場合……連日ニュースをにぎわすことになるだろう。現代のヒーロー、公安への批判が一気に高まり、ヒーロー制度が崩壊するきっかけになる……ということを、公安は恐れているのだろう。現代は抑圧により平和を保っている時代。こういったことから一気に不満が噴出する可能性がある。何も公表しなくても、どうせどこかの暇人が、佐倉杏子の真実を発見する。だから嘘でもなんでも、公安自身が公表して支障ない『真実』を公表する必要がある、というわけだな。」

 

理屈として分かる話ではあるため、表立って感情的に反対する者はいなかったが、すんなりとは納得できない者が多かった。そもそもの始まりが公安の失態であるのに、社会のためとはいえまた隠し事をするのかと、皆一様に微妙な表情を浮かべた。

が、ここでジーニストが意見を出す。

 

「エンデヴァー……この機会に人々に変化を促せるとは考えられないか?」

「ジーニスト、どういう……先ほど言っていたことか。だが、おそらくは上手くいかんだろう。」

「何故です。私は、現代のヒーロー社会の在り方は犯罪率の低下に寄与するとは言いましたが、他の社会の在り方もあるはずです。様々なジーンズを試す貴重な機会ではないですか?」

「……ヒーロー社会は、一般の人々がそれをしようとして、失敗した結果できた社会だからだ。」

 

エンデヴァーが、超常社会の成り立ちから説明を始めた。エンデヴァー自身は歴史の話を好むわけではないが、そのヒーロー名が表す通り、勉学に関しても努力を怠らない。ヒーロー業に関わる知識は全て吸収しようとする姿勢を持っていた。この中で、ヒーローの歴史の知識を最も深く持っているヒーローは、エンデヴァーだろう。

 

「中国で光る赤ん坊が出生した後しばらくは、個性とは『生まれる子供に極まれに発現する』物であるという認識であり、病の一種であろうと考えられた。実際、個性を持った赤子のDNAを検査しても特に異常は発見できなかった。そのため、個性持ちが人類の大多数を占めるなどは想定されていなかった。個性因子の発見は、個性の研究がある程度進んでから発覚したものだ。だから初期の初期の社会では、彼らは元あった法律を多少変えるだけで対処した。最初は、それで何とかなっていたのだ。

しかし時が経つと、個性は人類にとって長い、いや永久の付き合いになるだろうという認識に変わった。ターニングポイントは、個性持ちが子を持った時、その子にも個性が発現したことが発覚したときだろう。そして同時に、個性は病気というよりも人類の新しい身体機能であるとみなすべきという研究者からの提案がなされた。

 

この流れに、当時の治安維持機構や、司法は頭を抱えた。当時の法律や兵器は、当然ながら人類が無個性であるという前提に立脚している。黎明期は、個性の強さも大したものではなく、「現れた個性をおおよそ分類して、それごとに対処すれば、司法は何とかは一貫性のある判例を重ねられるだろう」という楽観的な見方もあった。しかし時がたつにつれ、その甘い考えは潰えた。発火系個性持ちは、個性を使うためにはそれぞれがどの危険物取扱者免許を取らねばならないのかという問題は、調査の為に行政局員を過労死に追い込み、精神操作系個性は裁判官に意思能力を扱う自信を失わせた。正当行為という概念すら、正当性が怪しくなった。個性という物があまりにもカオスすぎたため、「他者のために個性を使ったら被害がより大きくなりました」という例は後を絶たなかったのだ。「法律などというややこしい問題を考えるより、当人のモラルと責任に委任するべきでは?」という当時の社会の空気を何とか拒みつつ、法の番人たちが激務の末に出した結論は「個性は勝手に使うな」という画一的不平等だった。自らが持つ力を使えない不自由への不満と、自らの一部を否定された怒りを受けながらも、当時の政府はそれを現状の方針とした。「個性の研究が進み、コントロールできるようになれば、個性の規制を解放する」という言い訳をしてな。

 

だがそれですら、個性の不平等は消えなかった。治安維持組織だ。個性に頼らない治安維持は、どうしても不可能だった。許可の範囲内で個性を使わせようとしても、結局現場判断という物は必要だった。さらに、個性による犯罪のもたらす被害は、暗黒期と後世で呼ばれるほどに大きく、とても無視できない。結局、個性に対抗できるのは、そして人々の要望に応えたのは、法を律儀に守る警察や機動隊ではなかった。法ではなく自分の良心に従い戦う『ヒーロー』と呼ばれる者達。彼らは恐怖に怯える人々に言った。「もう大丈夫だ!私たちが君たちを守る。だから、自分で力を振るう必要などないのだ!」とな。そしてそれを体現するために、ヒーローは演者としてこの世界で力強く振る舞うようになり、人々にヒーロー社会が本当に良いのか、自分の個性はもっと使いどころがあるのでは、と思考することを止めさせたのだ。

 

彼らの……ヒーローの功績を無視することはできず、国家は、彼らの法律違反を咎めることを諦め、彼らの見せる『夢と希望』が法であるという流れを作った。そして彼らが、法に従う形をとる個性を使う治安維持組織であると認められたのだ。それは成功し、人々はヒーローの見せる『夢と希望』に浸り、比較的個性による暴動が抑えられるようになっていった。これが、この国の治安維持組織が個性有りと無し……つまりヒーローとそれ以外に分かれている経緯だ。そしてかつての警察は、凶悪犯罪の前線から降りた。

 

……つまり、お前が言っていることは、『暗黒期の再来というリスクを背負ってでも、普通の人々が『自ら個性の使い方について考える』社会を作ろうではないか』……ということなのだ。ベストジーニスト。」

 

エンデヴァーは、「彼らの……ヒーローの功績を」と言う時はかなり言葉に詰まった。「彼ら」と表現しているが、日本においてこれは、要するにほぼオールマイトだ。上昇志向が非常に強い彼にとって、自分より格上の存在のことを口にするときは常に感情が揺さぶられてしまうのだった。

 

ジーニストもこの歴史を知らないわけではなかったが、今の今まで頭から抜けていた話だった。エンデヴァーの話を聞いて、彼は「……たしかにな。」と言って目を伏せ、黙りこくってしまった。他の者達も同様だ。ミルコも、一応は理屈を理解したようで、エンデヴァーに口出しをすることは無かった。ただモヤモヤは晴れないようで、周囲から人が少し離れる程度には怒気や苛立ちを発していた。

 

「……ありがとうございます、エンデヴァー。公安所属の私ではなく、あなたの理路整然とした説明のお陰で……納得していただけたようです。」

 

会長がエンデヴァーに対し感謝を述べたが、エンデヴァーの機嫌は社交辞令としての改善すら見せなかった。

 

「勘違いするなよ?俺は今回の決定が必要だと認めただけで、貴様ら公安が組織として無問題だと認めるわけでは断じてない。今は公開しないだけだ。それにだ。現代の一般人がヒーローに夢を見すぎている件も、当然改善策はあるのだろうな?今のままオールマイトに頼り切るだけの弱弱しい考えは認めんぞ?」

「……もちろん。我々としても、現代のヒーロー制度はオールマイトが引退すれば即座に崩れる……その可能性は高いと考えています。オールマイトの意向では、彼はあと最低10年は活動を続ける意向だと言っています。なので今後、約5年から10年かけ、人々の関心をオールマイト以外のヒーローに向ける。そしてオールマイト以外のヒーローの実力を底上げする。まずこれが我々が直近でするべき仕事です。……一般の人々に自己判断での個性使用を解禁するのは、もう少し先でしょうね。個性研究は着実に進んでいますが、まだ時間が必要だと、我々は考えています。……佐倉杏子の一連の事件を公表できるのも、そういった基盤が整ってからとなるでしょう。」

 

一応、会長の方針に大まかな反対は無いらしく、エンデヴァーは「フン。」と返しただけだった。

 

「あのー。もしかしてオールマイトさんをこの会議に呼ばなかった理由は……彼の性格のせいですかね?」

 

イレイザーが質問した。この場にいる者達は、「何故オールマイトに頼まないんだ?」と感じていた。

 

「……彼は素晴らしいヒーローですが、少々独善が過ぎます。考えにくい可能性ですが、この会議の話を聞いて『人々の為に』勝手に情報を公開してしまう……可能性もあると判断しました。」

「殺しを指示した組織が『独善』って……」

「分からない判断ではないですがね……」

「イレイザー。お前はオールマイトと交流があるのか?」

 

横槍を入れる声を無視して、エンデヴァーは彼は不思議そうに尋ねた。感情派のオールマイトと合理主義のイレイザーはそりが合わないイメージがあったからだ。

 

「あー……ここにいる方々なら、言っても良いですかね?会長。」

「構いません。」

「オールマイトさん、来年から雄英で教師をやるんですよ。理由は知りませんけどね。その顔合わせで、彼とある程度話した、という感じですね。」

 

室内から、純粋な驚きの声が上がった。不眠不休でヒーローをしているイメージすらあるオールマイトがヒーロー以外のことに手を出すなんて、と。

 

「実際彼と話してみて……そうですね。とにかく、助けを求めている人が居たら、直感的に体が動いてしまうみたいなんですよ、あの人。それが正しいのかを考える前に。まあ俺としては、今までそれでやってきて、ヒーローとして文句なしの成果がある訳ですからそれに何か言うつもりはありません。が、こういう社会問題になりそうな事案の解決には向かなそうだと思いますね。」

 

この評価に対しては、「確かにオールマイトはその方面での活動得意なイメージが無いな……」という声と、「いや、でもオールマイトなら……」という声があった。

しばらくそのざわつきが続いた。そして口を開いたのはミルコだった。

 

「……まだ肝心な話が終わってねーだろ。」

「ミルコ?肝心な話というのは?」

「佐倉杏子……コイツ自身の処遇はどうするつもりなんだよ。」

「……先ほど述べたとおり、少年法に則り」

「その後はどうすんだ?仮に、お前たちがおとなしく裁判をさせて……まあ、私は少年院に入るのかどうか知らねえけどよ。それで罪を償わせて、そのまま社会に出すつもりか?」

「……」

 

会長は黙って話を聞いていた。彼女としては、「話はまだ終わっていないだろうから続けなさい」という意図だったが、ミルコは「やっぱり後ろめたいこと企んでんな!」と受け取ってしまったらしく、声に怒りがこもる。

 

「でよ。コイツは今何にも後ろ盾がない。そしてネットに載っちまったことで、これから一生好奇の目がまとわりつく。お前たちのせいでよ。ネットで人気が出てるったって、犯罪は犯罪だ。コイツが大人になったときの就職にも影響が出る。ハッキリ言って、コイツの将来は茨の道だぞ?」

「……もちろん、我々公安委員会としては、彼女に謝罪などの意味を込め、就学や就職支援を予定しています。」

「素直に受け取りますかね、それ。」

 

イレイザーが疑問を呈した。

今回の会議で衝撃的な発言が続く中、イレイザーヘッドは配布された資料に冷静に目を通し、最も迅速にその内容を頭に入れていた。もちろん会議に耳を傾けつつである。公安組織に対して許せない気持ちは当然あるが、それを追求するよりもまずは現段階で出ている情報を全て頭に入れる方が合理的だと考えているからだ。ちなみにエンデヴァーも同様である。ベストジーニストは、外面はクールに保っているが内心非常に動揺してしまい、意外にも最後まで目を通せていない。

 

「資料の後半の方に、ウォーターホースが彼女と会話したときの記録が載ってるんですがね。明らかにヒーローを嫌っていますよ、彼女。しかも会話内容からして一定以上の知的水準はあるように見受けられます。」

 

この発言を受け、他の者達も資料の存在を思い出して慌てて目を通し出す。

 

「……確かにそのようだな。だが……いや、まさか!?」

「俺は思うんですがね。彼女、公安のヒーローに家族が殺されたことを知っているんじゃないですかね?」

 

会議室に冷水がぶちまけられたかのような空気が流れた。皆資料を読むのをまた止めてしまい、イレイザーに視線が集中する。

 

「……腐っても、やったのは公安直属のヒーローだったんだぞ。当時まだ小学生だったはずの彼女にバレるような失態をするか?」

「確かに普通の子供ならそうです。しかし、思い返してみてください。差し向けた(ヴィラン)が、悉く帰ってこなかったのでしょう?佐倉杏子がやったんじゃないですか?それ。」

 

会議室の殆どの者がハッとした顔をした。確かにあり得る話だと。

そしてそれが、ヒーローが、佐倉杏子にどんな人生を強制してしまったのかを徐々に理解しだし、特にヒーローは青い顔をした。

 

つまり、ヒーロー社会のせいで、まだまだ子供の彼女は、(ヴィラン)と戦って生き延びるという過酷な人生を選択してしまったのだ。ある種の罪悪感から、悔しそうに手を握る者は多かった。

 

「彼女の個性の全容は不明。ですがあの汎用性を見る限り、他にも機能がある可能性は十分にある。もちろん、探知系の可能性も含めて。そして知っているならば……ヒーローというものを嫌っているのも当然。特に直接殺しを指示したあんたがた公安は、もう二度と関わりたくない、か、復讐してやると思われているでしょう。そんな彼女が、あなた方からの支援を受け取るなど思えません。そもそも、彼女はおそらく(ヴィラン)を殺して奪った金で生計を立てることに成功してしまっている。『なんで今更そんな生き方に変えないといけないんだ?』って言われますよ。」

「……その通りです。イレイザー。」

 

会長はある意味あっさりとそう返した。相変わらずの仏頂面だが、なんとなく疲れを感じさせる声だった。この事実を認識しているから、今回の会議では口数が少ないのだと予想した。

ジーニストがイレイザーに次いで続ける。

 

「それが事実ならば、むしろヒーローや公安が襲われていないことの方が驚異的だ。彼女にはそれができる実力があるからな。知っているにしても、部分的なのかもしれない。ウォーターホースと対面したときも、彼女は罵るだけで手は出さなかったそうだ。……会長。彼女の今までの足取りはつかめているのですか?」

「定点監視カメラに写っている記録が見つかっています。ただ内容は……普通に食料などを買っているか、無銭入浴をしていることが分かっただけですね。」

「交友関係などは?(ヴィラン)襲撃事件はここ数ヵ月の発生だが、それ以前の活動記録は不明なのか?」

「通常の監視カメラ以外の記録は、なにも。……どうも彼女は、個性の影響なのか、人の気配にはかなり敏感なようです。」

「そうですか……」

 

ベストジーニストはしばらく逡巡したのち、意を決して提案する。

 

「会長。佐倉杏子の確保後に関しては、ぜひ私に一任させていただきたい。」

「ベストジーニスト……やはり、ですか。」

「この事件は、ヒーロー社会というジーンズのほつれから漏れ出てしまった闇。ならば、それを紡ぎなおすのが我々ヒーローの役目である。自分たちの過ちの後始末も出来ぬヒーローなど、情けないことこの上ない。」

「ジーニストさん……」

「それに加え、私は彼女の父親から受け継いだものがある。死んでしまったとしても、彼の考えというものを決して過去の物にはしたくないと思い、私は不良更生に力を入れてきたのだ。その私が、彼の娘は更生できないなどまったくもってお笑い草だ。」

「……先ほど、ヒーローに反発を抱いている可能性があるという話があったでしょう。それでも、やるというのですか?」

「これは私のプライドにかけ、やらねばならない問題だ。彼女が公安からの支援を受け取らないのならば、私が直接、就学、就職の支援をする。私は、彼女の根底にある人間性を、他人に向けて菓子を差し出す『善性』を信じたい。……何より、彼女の履いていたジーンズはなかなかセンスがいい。」

 

実際、変身前の佐倉杏子の姿が見つかっており、デニムショートパンツを着ていたのだ。なんとも理屈の通らない評価だが、ジーニストが言うと不思議と筋が通った評価に感じられるのだった。

 

「……よくもまあ、赤の他人の為にそこまでやれるものだな、真のヒーローというものは。」

 

警視庁総監が小さな尊敬と多大な呆れをもってそう言った。(ヴィラン)のことを感情の面からもうっすら嫌っている彼からすれば信じられない行動なのだった。

 

「ヒーローとはかくあるべしと教わり育ったものでな。私も、ヒーローが今まで見せてきた『夢と希望』に育った身。たとえその出自がグロテスクであったとしても、それに従って生きていきたい。……会長。公安委員会会長として、私の行動を、止める気はありませんね?」

「ええ。まったくありません。」

 

前会長ならば、「それよりも彼女を生かしておくことで秘密が漏れるリスクが高い。よって永久に施設から出さないか、さもなくば殺害しろ。」とでも言っていただろう。実際、彼女を更生させたとして、公安にとって、ヒーロー社会にとって何かメリットがある訳ではない。マイナスがゼロになるだけだ。それでも、トップヒーローの貴重な時間を彼女に費やすことに全くの反対意見も出さないというのは、ヒーローが持つ『夢と希望』のようなキラキラした何かに配慮した結果なのだ。

ただ、ここにいるヒーローたちは、そういった公安としての意思決定だけでなく、彼女の本心としてもヒーローの意見を聞いてやりたかったのでは、と感じる者が多かった。そして実際、彼女にはその意図が多少なりともあった。

 

この会長しか結局知らないこととなった経緯と事実がある。この会議の最初に、会長が妙な進行をしたことだ。実は、会長は警視庁総監に「こんな真実を知る人間はなるべく少ない方が良い」と、ここにいるヒーローたちにすら事件の真相を隠すことを打診したのだ。しかし彼女は、「佐倉杏子の確保は、現状の注目具合と実力からして、誰にも悟られずに実行するのが難しい」という拒否もあった。交渉の末、「彼女の実力が、ヒーロー達からも認められた場合には真実を話す」という結論となったのだ。実際にその判断は合理的ではあるが、その提案が持っていく先に会長の本心が乗せられていたのもまた事実なのであった。

 

「俺も可能な範囲で協力しますよ。ジーニストさん。」

「おう!私も手伝えるとこは手伝うぜ!」

「決まりだな。では、次に確保の作戦について……」

 

そうして、会議は彼女の具体的な確保方法に関しての話になった。

 

今回の会議に関して、各々が抱いた思いは様々だ。彼女を必ず闇から救い出すという信念のもと動く者もいれば、社会的影響の大きさ、厄介さからひたすら迷惑に感じるものまで様々だ。

 

ただ一つ言えるのは、誰もが、この件を全力を以て迅速に解決に導こうとしていることである。




・いちいち埋葬
「流石に人様の死体は埋めないとだめだよなあ(教会育ち並感)」という倫理観がある。魔女の結界内で死亡した哀れな魔法少女達のことも頭にあるようだ。

・なぜか消えた嗾けられた(ヴィラン)たち
魔女の結界内で死亡したことに対応する。

・杏子の父親
他者への共感能力が非常に高い。しかし今回、ヒロアカ世界の(ヴィラン)達に共感してしまった。実際に彼に助けられた者もいるが、最終的には公安は彼を排除することを決定してしまった。
ヒーロー社会崩壊がならば一般にも受け入れられただろうが、ヒーローが活躍するヒロアカの現代ではなかなか受け入れられづらいだろう。

・今回の会議の要約
公安「え?公安の昔のやらかしの犠牲者がSNSのトレンド?イヤアアアア!!!殺してたのバラされる!しかもなんかクッソ強い!ヒーロー社会崩壊しちゃうぅぅぅ!!!一刻も早くつかまえろください命令です(威圧)」
ヒーロー「ええっ!?悲惨過去持ち義侠系つよつよ(ヴィラン)女子だってぇ!?救けなきゃ(使命感)」

ということで、これからヒーローたちが全力で杏子を捕まえにかかります。

・ベストジーニストの不良更生
真面目に考察すると、ヒロアカ世界の闇を考えると不良の更生ってクッソ大変だと思う。恵まれた地位あるヒーローがやるとなると特に。原作で爆豪にやってたことが不良更生の全てだとしたら、社会崩壊後に「ジーニストは不良更生なんて謳ってますけど、実態はこんなもんなんです!私の過去受けてきたことに何も目を向けてくれてなかった!」的な暴露動画が荼毘告発に触発されてネットに上げられてもおかしくない。しかし、荼毘の告発後にヒーロー活動をしても、普通に感謝されていた。ヒーローそのものへの不信感はあったが、ジーニスト個人への批判は見られなかった。
このことから、ベストジーニストは不良更生をガチで成し遂げていたと思われ、本作ではそういう設定にした。え?ホリー神が書いてなかっただけの可能性?まあそれはTOPヒーロー補正ということで……

・エンデヴァー
原作初期に比べるとかなり落ち着いた印象を受けるかもしれないが、オールマイトや息子が関わらないなら普通に有能なTOPヒーローとして振る舞ってるんじゃないかなあと思いこう書いた。

・救いの光
勿論オリ設定。特に今後名前が伏線になったりはしない。
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