都内某所、裏社会の人間から盗みの依頼を受ける盗人事務所。事務所唯一の人間にして盗人の僕、
「桜の指輪?それが今回の依頼内容ってことでオーケー?」
「あぁ、この指輪は少々特殊なものでスパイ一家『夜桜』が全員身につけてる特別性のものだ。あの指輪があれば通常では知り得ない奴らの情報を抜き取ることも可能だと考えてる。簡単そうに聞こえるが今までお前さんが受けてきた中で最高難度だと断言できる。あの一家は当主以外の家族は化物と言ってもいい。俺には勝つことはおろか、傷一つもつけられないだろう」
「そこで俺に白羽の矢が立ったってわけね。けれど僕は戦闘ができるわけじゃないぞ。『世界一の盗人』なんて言われてる僕でも生きて帰れる保証がない依頼は受けたくないんだけどなぁ・・・・成功報酬は?それを聞いて考えよう」
「一生遊んで暮らせるくらいは出してやろう」
「おいおい、僕はまだ17になったばかりだぞ。本当にそんなこと言っても平気なのか?」
「それだけの価値があの指輪にはあるってことだ。生きるか死ぬかの大勝負、引き受けてくれるか?」
断ったら殺すつもりのくせによく言うよ。だけど成功したら名実ともに世界一、か。
「いいねぇ。その依頼、確かに引き受けた。それで肝心のターゲットの居場所は?流石に僕でも場所が分からなければ計画も立てれない」
「それなら心配はない。依頼した側として最低限の責務は果たすさ。夜桜家は上から凶一郎、二刃、辛三、四怨、嫌五、六美、七悪の兄妹で暮らしている。中でも長男の凶一郎は最強との呼び声も高い危険人物だ。遭遇したら逃げることも叶わん、つまり死が確定する」
「両親はいないって、それじゃあ誰が当主なんだ?普通に考えれば長男が当主なんだろうが違うんだろ?」
「三女の夜桜六美。彼女が夜桜当主であり、君の同級生だ」
「同級生?だったら簡単に達成できるかもね。当主は普通の人間なんだろう?」
「そんな簡単な話じゃねぇよ。当主を他の兄弟が守るんだぞ。最悪全員と対峙することになる」
なるほどね。唯一の常人で当主、これだけ聞けばお飾りもいいとこだ。何か特別な力があるのだろう。つまり、夜桜六美の持つ指輪を他の兄弟に悟られることなく手に入れることがベストってことか。同級生なら自然に近づいても怪しまれない、バレたらあの世行きの一発勝負か。
「その時はその時でなんとかするさ。世界一をかけた依頼が簡単なわけないもんな」
「悪いが次の仕事の時間だ。帰らせてもらう」
「ほ〜い。それじゃあ達成報酬、しっかり用意しといてよ」
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依頼を受けた翌日の昼休み、教室で名簿を確認すると確かに夜桜六美の名がそこにあった。しかし、スパイ一家の当主が普通に生活してるとは意外だ。そして教室内で明らかにおかしい場面に目を向ける。
「んま〜い♡」
教頭の昼川だ。若くして教頭になった優秀な人間なんだろうが夜桜六美が彼女の正面にいる生徒、朝野太陽に作って食べさせようとした弁当を横から奪うように食ったのだ。懲戒の対象にならないのか甚だ疑問である。
「昼川先生!つまみ食いはもうしない約束でしたよね!?」
「いやースマン。六美の卵焼きの香りで体が勝手に」
常習なのかよ。
「白髪のアクセントが今日も美しいな。ほおずりしたい」
「したら通報します」
懲戒どころか警察に捕まってくれないかな・・・こんなのが教頭ってうちの学校大丈夫か?それよりも今気にしなければならないのはもっと重要なことだ。
「中々チャンスがないだよなぁ」
「なんのチャンスがないんだ?」
「うわっ!って教頭先生か。びっくりさせないでくださいよ」
夜桜六美と話してたはずの昼川が急に話しかけてきた。それも音を立てて僕に近づくなんて普通じゃない。さっきまでとは明らかに雰囲気が違う、完全に殺るやつの威圧感だ。こんなところで計画に支障をきたすわけにはいかない。なんとかやり過ごす必要があるな。
「それは悪かった。夕凪、お前も朝野と一緒に俺の部屋に来い」
「教頭室?なんでまた・・・・」
「じゃ、後でなー」
言いたいことだけ言って出て行きやがった。ただの学生としての話なら問題ないがそうでなかった場合、昼川の正体を探らなければならなくなるだろうな。
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「朝野太陽、君も教頭先生に呼ばれたんだって?」
「・・ッ。あ、あぁ」
これは極度の人見知りってやつかトラウマ、どっちだ?依頼を達成するにあたってこいつは使える。この学校で最も夜桜六美に近しい存在、友人くらいになれば彼女の警戒されることなく接近するのも容易になる。そんなことを考えながら『昼川のへや』と変なプレートがつけられた教頭室の扉を開け、中に入る。
「おー来たか。待ってたぞ!」
部屋に入るなり促されるようにソファに座る。昼川も座るのだが、朝野太陽のすぐ隣に座り肩を組むように、まるで逃さんと言っているかのようなそんな感じがした。
「一体何の用すか・・・」
「ぜひお前たちにこのコレクション見てほしくてな〜」
コレクション?そんなことのために呼んだのか?朝野太陽も同じことを思ったのか不思議そうな顔をしている。そもそも僕と朝野太陽に共通点なんかないのになぜ僕も呼ばれたのかさっぱり分からん。だが昼川が見せた写真、それが問題だった。
「六美隠し撮りコレクション!!幼なじみのお前にぜひ評価してほしくてな!」
もうだめだこいつ・・・思いっきり犯罪じゃないか。しかもそれを生徒に自慢げに話すなんて何を考えてるんだ。
「これは家で七並べしてる時だ!」
家?ちょっと待て・・・
「これは5つの時公園で撮ったやつだな!」
マズイマズイ!やはり昼川はただの教師じゃなかった!考え得る最悪を引いてしまったかもしれない。
「俺はな、陰から六美をず〜〜っと見守り続けてきたんだ」
そう言いながら写真をスライドし続けながら話す昼川、その写真に映る男子生徒の顔には×印がつけられていた。
「六美は魅力的だから変な虫がつかないようにずっと、ずっと、ず〜〜っと見守ってきたんだ」
朝野太陽もこいつに恐怖し声も出ないようだ。
「昨日も3年の田中がしつこかったけど、俺の六美に近づかないように丁寧にお願いしたら最後は快く受け入れてくれたんだ。お前は大事な六美の大事な幼なじみだからと見逃してきたがそうも言ってられない事情ができてな・・・」
気づいた時には昼川が朝野太陽の首にナイフを当てていた。ナイフを出すそぶりすら見えなかった・・・こんなの相手に指輪を奪えって、依頼人も僕も正気じゃないな。
「全ては可愛い妹、家族のためだ。なぁ夕凪九裂。急に学校に来たと思ったらずっと六美を監視するかのような視線で、一体何が目的だ」
誰にもバレない自信があったんだけど、僕もまだまだだな。
「そこまでだよ」
この場の誰でもない声がした。声のする方向、窓を見ると一人の少女がスイッチのようなものを持っている。スイッチを押したと思ったらまばゆい光が教頭室を包み込み、僕の意識はそこで途切れた。
とりあえず区切りがいいところまで。よろしければお気に入りなどお願いします