本誌の二刃の開花春来、本当に美しい!この物語では何話後になるのやら・・・
花輪による六美誘拐の件からしばらく経った日、僕は行きつけの携帯ショップを訪れた。ここに来たのは携帯関連について用があるのではなく、
「いらっしゃいませ。ご用件は何でしょうか?」
「『発明家』はいるか?」
「・・・・・・こちらへ」
『木枯』と書かれた名札をつけた女性店員に通された部屋の入り口には
『スティーブン研究所』
の看板がかかっている。
「彼なら今日も作業していますよ。要件が済みましたらお知らせください」
「あぁ、いつも悪いな」
「全くです。いつもアポなし、良くて前日の夜中に連絡されるこっちの身にもなってください」
「どうせあいつはここから出てこないんだ。いちいち手を止めることになるのは嫌だろうからな」
「最初に対応するのは私たちなんですよ。毎回急に来られると他のお客様への対応も考える必要があることをご存知ですか?」
確かにそれは申し訳ないな。彼女たちは僕や『発明家』と違い完全に裏社会の人間というわけではない。普段は一般人と同じ暮らしをしているが必要に応じて僕ら裏の人間と行動をともにすることもある。いや、僕らの為に日常に溶け込むスパイという言い方もできるか。もちろん彼女らがメインで何かするというわけではなく、あくまでサポートという形にはなるが。
「次からなるべく連絡するようにする」
「なるべくではなく絶対です。最低でも前日の午前中までにお願いします」
グッと距離を詰められる。近いな。
「わ、わかった」
「わかればいいんです。それでは、ごゆっくりどうぞ」
木枯が開けた扉の先でまず目に入ったのは乱雑に置かれた工具箱の山であった。それでいて箱の中に入っている道具は細かいところまで手入れが行き届いており丁寧に使っていることが窺える。工具箱の山を抜けると彼が作ったであろう機器が置かれている。同じようなものが複数個あり、日付と番号が書かれたシールが貼ってある。どれだけ改良を重ねたんだか・・・・・・。そして、さらに奥にある作業台で今も作業をしている男の姿を見つける。
「久しぶりだな、ステリア」
僕の声に反応して振り返った白髪が目立つ長身の男。『発明家』ステリア・シュトラール。僕が仕事を始めた頃に出会った数少ない協力者だ。名前を聞いただけでは外国人っぽいが歴とした日本人だ。本人の中では発明家は外国人のイメージが強く今の名前は偽名を使っているのだとか。本名は僕も知らないが特に気にすることでもないので話題に出すこともない。
「誰かと思えば君か。今日は何の用だい?今いいところだから少し待っててくれ。今の君に必要なものを製作中だ」
ステリアの前から僕が訪れるのがわかっていたかのような発言には疑問を抱きつつ彼を待つこと約10分。ひと段落ついたステリアに連れられ、研究室の奥にあるソファの対面に座る。当然と言うべきか、ここにも彼の失敗作はいくつも置かれている。
「待たせたね」
「そんなに待ってない。それにしても、相変わらずものが多いな。いらないものとか処分しないのか?」
「今は失敗作と呼ばれるものでもどっかで役に立つ時がある。その時のためになるべく作品は残すようにしているだけさ。最低限の通路はあるから邪魔とも思わないしね」
「それでも少しは整理した方がいいんじゃないか?」
「どこに何があるかは把握しているから問題ないよ」
本当か怪しいな・・・
「大体の要件は予想がつくが君の口から聞かせてもらいたい。あぁ、君の疑問はわかるよ。それについては後で答えよう」
「チッ!何でもお見通しかよ。」
僕がここに来たのもこいつの掌の上で転がされてるみたいで癪に触るが仕方ない。夜桜家に入ってからの短くも濃い内容を話した。
「君は運がいいのか悪いのかよくわからないね。それで、君のパートナーは紹介してくれないのかい?これでも君と一番関わりがある男だと思うんだけど」
「お前とはただの仕事上の協力関係ってだけだろ。それに、もう知ってんだろ?ハッキングすれば一発だ」
「君にあげた道具のGPSが夜桜家を示すことが多かったから何かしら関係があると思ってアクセスを試みたけど弾かれたよ。さすがのセキュリティと言える」
「『発明家』でもダメだったのか?・・・・・・っていうかおい、今GPSって言わなかったか?」
「言ったよ」
「何人のプライベート覗いてんだよ!」
「君は大事な仕事仲間だからね。今日まで連絡がなかったから心配になってね。君がお世話になってるみたいだし挨拶だけでもしようと思ったんだけどここから出るのも手間だったからね」
「そろそろ本物の日光浴びないと健康に悪いぞ。今何日目だ?」
ステリアは一度研究に没頭すると外に出ることはない。必要なものがあれば木枯らに買いに行かせるからである。さらに、自分で日光と同じ成分が出るライトを発明しているのでこれといった健康被害もない。
「前回外に出てから大体2ヶ月半かな」
「何でも作れるのも問題だな・・・」
「そのおかげで君の仕事が回っていただろう?」
「それはそうだが・・・」
「話を戻そう。夜桜家は俺を認知していないんだよね?」
「当たり前だ。一回も話題にしてないんだからな」
「つまり君は身元がわからない男の元に行き家族の情報をベラベラ話す裏切り者ということになる。バレたら間違いなく俺たち2人揃ってジ・エンドってわけ」
「脅す気か?」
「いや、事実を言ってるだけだよ」
「・・・・・・・・・近いうちに紹介する」
「ぜひ頼むよ。今度は君の要件の話をしよう」
やっとか、ステリアのペースに乗せられると話が脱線するから嫌なんだよなぁ。
「僕に合う武器を作ってくれ」
今日来た1番の目的、自分専用の武器の制作依頼をしに来たのだ。夜桜の武器も業界内ではトップクラスなのだろうが個人的にはしっくりこないのだ。
「俺は発明家であって武器職人じゃないだけど」
「知ってる。僕が欲しいのは機械仕掛けの武器だ。状況に応じて手を変えられる、そんな武器が欲しい」
「何を言い出すかと思えば、飛んだ無茶を言ってくれる」
「そう言って、もう作ってんだろ?」
『発明家』ステリア・シュトラール。彼を一言で表すなら天才になるのだろうが、その次元はとうに超えているだろう。未来視にも等しい予測力をもち、制作する道具は世界を変えるだろう。
「一応は完成しているよ。はっきり言って今の君ではすぐに死ぬのが目に見えているからね」
そう言って机に置かれたのは小さなナイフ。
「これは?」
「最初は何個も作ってたんだけど、君は身軽な方がいいと思って変形できるものにしたよ。『千変万化』今はナイフだが薙刀、盾に変化する。今後もレパートリーが増やせたら都度改造していこうと思ってるよ。」
「相変わらずぶっ飛んだもの作るよな」
「これも仕事だからね。君も言ってるだろ?依頼は完璧にこなすって」
「人の予想を簡単に超えるな。持て余すわ」
「あって困るものでもないだろう?いつか役に立てばいいじゃないか」
「そうは言ってもな・・・」
「はい、君の要件は終わったことだし作業に戻らせてもらうよ。使い方の紙も持って帰りなよ」
「今日は助かった」
「紹介の件、忘れないでくれたまえよ」
「わかってるよ」
今後もステリアの力は必要だし会わせるなら早い方がいいよな。そう思いながら研究所を後にした。
と言うわけで新キャラ、『発明家』ステリアです。夜桜家に来る前に九裂が1人で仕事をするのはさすがに不可能なので以前の仕事仲間の紹介も兼ねて登場させました。彼には今後もぶっ飛び発明をしてもらう予定です