ブルーアーカイブ2077   作:装甲大義相州吾郎入道正宗

4 / 8
第四話 君の黄身の味

 

 

 

 

「邪魔すんぜ」

「おや、これは随分と珍しい来客じゃないか」

 

ミレニアム自治区内。某所。

互いに部活動の内容こそ違えど纏め役の共通点を持つ部長二人が顔を突き合わせていた。

 

一人は表向きとしてメイドの肩書きを持ちながらも、裏では特殊エージェントとして活動するC&Cの美甘ネル。

 

もう片方は先進技術を駆使した数々の発明から、ハードウェアの申し子とまで称されるエンジニア部の白石ウタハ。

 

どうやらネル側から真剣な話し合いを求めて、ウタハの居る場所まで訪ねてきたらしい。

 

「ちぃとばかし内密で聞きたい事があってな。今、時間いいか」

「ふむ。それはもしかして先日のEMP攻撃の件かな?」

 

率直な答えにネルは疑問符を浮かべるが、先日という時期とEMP…すなわち強力な電磁パルスの単語から、己が話そうとしたVのショットガンによる被害だと思い至った。

 

「…おいおい、アレはたぶんレールガンか何かの“余波“だぞ?」

「それでもとんでもない大電力なのは間違いない。当時、周囲の電子機器に及ぼした影響はEMPの規模と相違ないのさ」

 

この時のウタハは知る由も無かったが。

Vが空に向かって放ったショットガン"サタラ"は、同型の中でもアイコニックという分類を受けた最高峰のレアリティ…性能の高さを誇る武器でありながら、チャージ率が66%を超えると深刻なEMP障害を撒き散らすただの欠陥品だったりする。

 

「だからあの時の映像が乱れてんのか…いや、その話も含めて相談がしてぇ」

「君ほどの人物がそんな神妙な様子での会話を望むとはね…なるほど。コチラに来たまえ」

 

ウタハは話の重大さを感じ取ったのか、さほど遠くない個室までネルを案内するとタッチパネルを操作して中へと招く。

そこはどうやら彼女が所属するエンジニア部の倉庫らしく、一見するとただの小部屋でも内部の危険物が遠隔から操作されないよう電波妨害を施した特別製で、他者から盗み聞かれる心配も無いらしい。

もし万が一、突破できるものが存在するなら、それこそ超天才級のスーパーハッカーでも無ければ不可能だ。

 

「さて、手狭なのは目を瞑って貰うとして…どのような相談内容なのか聞かせてくれるかい?」

「あぁ……率直に聞くがミレニアムで【人体改造】はどこまで許可されてる」

「それは…医療目的の話かな?」

 

キヴォトスの生徒は頑丈だ。

銃弾直撃程度では傷一つ付かず、至近距離で眼球を撃たれても失明もしない例だってある。とはいえ限度があるのは当然で、執拗に攻撃を加えられたり、対戦車砲弾など過剰火力に晒されてしまえば、無事に済む保証はどこにも無い。まして脱水症状や重度の熱中症で体の内側を蝕まれた場合も非常に大きな危険を伴うため、あらゆる治療手段は確立されている。

 

もちろん、不慮の事故で四肢を失う生徒は過去に何人も存在したし、彼女達の欠損部位を補うため、義肢や人工臓器を使用した前例もある。

 

…しかし今回のネルが聞きたかったのは、その程度の話では無かった。

 

「…まずはコイツを見てくれ。監視カメラの中でも精度が高い映像を切り貼りしたもんだが、アタシがどこまでの話をしたいか解る筈だ」

「拝見しよう」

 

おもむろに取り出されたタブレットの液晶画面を受け取ると、興味深そうに再生のボタンを押すウタハ。そして最初に映し出されたのは当然のようにVの姿だった。

 

まるで小学生のような低い背丈とは裏腹に、鋭すぎる目つきに幼さは微塵も残っておらず、短く刈り上げた短髪も合わさって少女と言うには余りにも無骨過ぎる雰囲気が特徴的だ。

 

そんな彼女が映るのは件のネルと2回目の遭遇を果たした場面で、サブマシンガンからの斉射を素早い動きで的確に避けてはハンドガンで撃ち返している。

…確かに見事だが、そこだけならキヴォトスでは日常茶飯事の銃撃戦に過ぎないとウタハは思うも、映像を進める内に何かに気がつき、Vが弾丸を回避するタイミングで再生と停止を繰り返し続ける。

 

「やっぱ気付くか」

「…確信は出来ないよ。だが確かにこの動きはあまりにも……機械的過ぎる。」

 

彼女達が知る由もないが、Vの回避行動はダッシュと呼ばれるサイバーウェアの力を借りた移動機能であり、高速での短距離移動と引き換えに一直線にしか進めない欠点がある。その姿は目を凝らせばあまりにも…人間離れしていた。

 

「動きが速過ぎて最初は見逃したが…足のバネを使わずに…何の予備動作もなく跳ね飛ぶなんざ人体の構造上、不可能なはずだろ」

「もっと言えば、移動距離も測ったかのように均一だね」

「それと映像はねぇが…コイツの目がな、どうにも作り物臭かった」

「ほう? 具体的にはどのような点で判断したのかな?」

 

ネルは比較的Vの顔が間近で映っている場面で映像を停めて、顔の部分をスワイプする。

 

「昼間にも関わらず瞳孔が開き切ってんのと、両目の色が微妙に違う。そんで聞き間違いかもしれねぇがシャッター音みたいのが聞こえた」

「ふむ……あぁそうだね。この子の瞳は義眼で間違いなさそうだ」

「そんなすぐに分かるのか?」

「人間の瞳には角膜という視覚のピント調整を司る重要な器官があるのだが、日光の反射具合から見て彼女にはそれが無い。質感としては、それこそガラスのレンズと酷似している」

 

そう言いながら食い付くように映像を再生するウタハに、ネルはもう一度同じ質問を飛ばした。

 

「…ミレニアムで、いやキヴォトスで人体改造はどこまで認められている?」

「……少なくとも治療を目的とした人体の置換について明確な線引きは無い。しかし戦闘用については…正直、施術者の良心によるとしか言えないな」

「…なら、やっぱり過去の通院履歴なりを調べた方が早いか」

 

キヴォトスの住人であれば、少なくとも往診履歴や所属学校での健康診断の結果が残っているに違いない。その線から逆引きで過去に大事故に遭遇したかもしれないVの正体を突き詰めようとネルは考えていたのだが、ウタハの次の言葉に素っ頓狂な反応を返すしか無かった。

 

「そもそも彼女…本当に学生かな? ほら、ヘイローが浮かんでないじゃないか」

「は? そんなのある筈が……」

 

真実は小説より奇なり。

キヴォトスで生きる者にとって当たり前の前提を、見事に崩されてしまったこの事実はミレニアムを長らく悩ませる原因となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…こいつは一旦レストアしないとマズイな」

 

顔を顰めるV。

コユキから逃亡幇助の依頼を受け、C&Cの追撃を振り切ったのは良いものの、休憩がてら安全だと思われる町外れの一角で簡単な点検を行っている時の一言だ。

 

自分のショットガンで撃ち抜いた上面の穴はともかく、ネルから受けた鎖の損傷が予想以上に深刻で、車軸部分の歪みがかなり進行している。このまま無理して走れば脱輪事故を起こしかねない。

加えて目的地のブラックマーケットまでは道のりがまだ遠く、お尋ね者という付加価値まで抱えて徒歩で進むのも危険だろう。一番確実なのはシンプルに修理してしまう事だが…。

 

「足回りだけならそこら辺の業者でもいけるか…?」

 

問題なのはナイトシティとキヴォトスの科学技術にどれだけ違いがあるのか。流石に全く理解が及ばない…なんて事はないだろうが、精密機器の仕様は根本から異なる可能性が高い。下手に触れないようそこだけはキツく言い含める必要がある。

 

「寄り道するんですか?」

「残念ながらそうなるな。何処かの修理屋にコイツを預けてから…そうだな、レンタカーでも借りて帰宅だな」

「なるほどー」

 

開け放ったドアの奥で呑気に質問を飛ばすコユキに苦笑しながら、これからの予定ではなく、差し迫った今の話をする。

 

「まずは今日の宿を取らないとな。…俺としては依頼主様に報酬を前払い分で、良い所に泊まりたいんだが…」

「ゔっ! そ、それはですねー、そのー…端末を売ったお金以外に当てが無い言うか、クレジットカードも止められてて…」

「まぁ、そんなところだろうな…」

 

短い付き合いだが、直感優先で生きているコユキにサブプランや保険を求めるのは意地悪だったかと反省する。

仕方無く点検中を装って車の下まで移動するとサイバーウェアを起動。付近の電子機器を一時的にジャックして地図情報を検索し始めた。

 

(ここはもうゲヘナ自治区内か。一番近い車輌整備は……いいね、1km以内にある。となると後は今後の事も考えて安いモーテルでもあれば嬉しいんだが…)

 

ハッキリ言ってVの懐事情は厳しい。異邦人という境遇はキヴォトスにおいて非常に重要な意味合いを持つ学籍を持っておらず、身分証明による高度な手続きが一切出来ないのだ。

 

現在の手持ちもナイトシティの通貨であるエディーと同じように【奪ったのではない、落ちていたのだ】という理論で、喧嘩を売ってきたスケバン連中から頂いた分しか無い。

最悪、アウトローを何処かに隠して乗用車を誰かから奪ってしまうか。

そんな物騒な考えを巡らせながら、再び車の下から顔を出すとコユキが顔を赤くしながらチラチラと視線を向けてくるではないか。忙しなく手足を擦り付け、特に内股になった下半身をしきりに気にしている。

 

Vは思った。これはアレだと。

故に彼は出来るだけ素早く立ち上がると、コユキを諭すように優しく語りかけた…。

 

「漏らしたら捨てるぞ?」

「ひぃぃぃん! 早くお手洗いの場所にぃぃぃぃい!!」

 

乙女がそこら辺で用を足すわけにも行かず。

V達は一路、トイレが利用出来る施設を探して無理やり車を走らせるが、元の位置が町外れだったのと未整備の地域だったせいで公衆トイレ一つ見つからない。その内、赤かった顔色が青褪めてきたコユキの膀胱が限界を迎える直前。ギリギリ滑り込んだのは都会の喧騒を嫌って郊外に店を構える個人経営のレストランだった。

 

そして最高速からの急停車。響く高音。飛び出すコユキ。驚く店員に謝るV。取り敢えず頭を下げて事情を話し、そこである偶然に気が付いて懐の財布を確かめる。

 

とはいえ何も物騒なお願いなどでは無く、彼がつい先日奪った…拾ったゲヘナ制服のポケットに仕舞い込んであったのは現金だけではなく、とあるレストランの無料招待チケットだったのだがそれがまさかこの店とは思わず、驚いてしまったのだ。

 

…憐れ、ジュンコ。

 

そしてコユキが瞳に星を浮かべて戻ってくる頃には、手持ちの残金を気にせず本格的なドイツ料理を楽しめる手筈となった。

これには粗末な食事を覚悟していたコユキも大喜びで、いそいそとテーブル席に座る。

 

「私、ドイツ料理って始めてです!」

「俺もそうだな…」

「何か気になる事でもありました?」

「いや…気楽に食事を楽しめば良いと思ってな」

 

ほんの少しだけ、昼間に見せた鋭い目つきになったかと思えば、直ぐに元に戻ったV。コユキは自然とその視線を追ったが、店の中は先ほどと変わらずゲヘナせいとや一般の客が食事を楽しむばかりで異常は見当たらなかった。

 

やがてロボットの給仕が現れるとまず初めに飲み物について聞いてくる。

当然のようにマナーが分からないコユキはフリーズして動かず、固唾を飲む。その期待に応える訳ではないが、Vは物怖じせずコユキ用の葡萄ジュースと、ノンアルコールだがビールを一緒に頼む。

 

「ビ、ビールなんて飲めるんですかVちゃん」

「ドイツ言えばコイツだろう。何なら少し飲んでみるか?」

「うぇ!?」

 

そして運ばれてきたのは大ジョッキに注がれた互いの飲み物と、キャベツの酢の物とも言えるザワークラウトがお通し代わりに一皿、そして見るからにお子様舌のコユキのために味付けを施したソーセージの盛り合わせであるカレーブルストもテーブルに並び、かなり日本人ライクにメニューを改変してあるらしいのが分かる。

 

「じゃ、今日はお疲れ様って事で」

「かんぱーい、ですっ!」

 

何は無くとも先ずは乾杯と、ジョッキを傾けて一気に呷る。酒気こそ無いが麦芽の芳醇な苦味と爽快な飲み応えが喉を刺激し、鼻を抜ける仄かな香辛料の香りがアルコールが無くとも充分な満足感を生む。

 

カレーブルストの方も、ケチャップとカレー粉で味付けされただけのソーセージとはいえ、濃厚な肉の味がまろやかな味付けで食べやすく調理され、昼からソーセージ続きだったのも関係無く、コユキと満足そうに口へ運んでいく。

 

次に運ばれてきたのはドイツ伝統料理であるシュバインヘクセとシュニッツェル。

前者は豚のすね肉をオーブンで表面がパリパリになるまで焼き上げた豪快な一皿で、肉好きのVの好みとばっちり。後者はコユキが「とんかつ?」と無遠慮に溢して給仕に注意された品だが、実際に食べてみると衣に含まれたチーズの風味も合わせて別物の味わいだと喜んでいた。

 

そして最後にジャガイモ。ひたすらにジャガイモだ。今までの皿料理にも副菜として乗ってきた芋が、新たな一皿として大量に追加される。

 

「……あの、もう食べられない…ですけど…」

「芋だけはどこ行っても出てくる運命なのか…」

 

ちなみにだが、ジャガイモは非常に生産性が高く安定した出荷が見込る上に荒地でも栽培しやすいとして、救荒植物に分類される非常にありがたい炭水化物の宝庫である。ドイツ地方の厳しい環境下では長らく主食として君臨してきた為、腹を満たす=じゃがいもなのである。

 

ともあれ、腹一杯まで食べた両者は食後のゆったりした時間を過ごしながら雑談する事にした。殆どはコユキが所属していたセミナーに対する不平不満ばかりだったが、ビールのおかわりが無料もあってVは嫌な顔もせずに聴き続けた。

 

「…それで、遊ぶお金が無いなら、ある所から持ってければ済む話じゃないですか。それをユウカ先輩とノア先輩は…もう、もうもうもうっ!」

「うーん、全体的にコユキ側の倫理観が死んでるのが問題な気がするが…確かに止め方が乱暴過ぎるな」

 

…彼女は天才故の悩みを抱えていた。

解錠という分野における先天的な才能は確かに素晴らしいが、その点だけを評価して同じ仕事だけを繰り返させるというのは、効率うんぬんを抜きして考えれば拷問に近い。

何度も逃走を企てるくらい追い詰めた時点で、彼女の苦痛は知れただろうに…。

結果的にセミナー側の“いつか分かってくれる“なんて対処は逆効果で、コユキは日々不満を募らせるばかり。この点に関しては明確に彼女が被害者だと言えるだろう。

 

やがて勢いよく話しすぎたのか、それとも昼間の逃走劇の疲れが今頃になって出たのか。瞼を細めて船を漕ぎ出すコユキ。このまま寝かせてやりたいところだが、今のVでは背丈の関係で引き摺るのが精一杯。ぐずる彼女の手を引きながらアウトローまで戻り、後部座席で横向きに寝かせる。すると10秒も経たない内にグースカ寝息を立てて完全に眠りの世界へと旅立つ様は完全にお子様であった。

あとは冷房で風邪をひかないように自分の上着を掛けてやれば一安心。残すは何処か人目につかない場所まで車を走らせて自分も眠るだけ。

 

そんな状態まで身支度を整えてから、Vはわざとらしくため息を吐いてから背後に振り返った。

 

「もう気配は消さなくて良いぜ、お嬢さん」

「ようやく私とのお時間を頂けるのかしら、Vさん」

「たしか腰に金を下げた…美食研究会だったか?」

「ハルナと申します。ふふっ、ジュンコさんがチケットを奪われたと聞いて日々網を張っておりましたが、漸く掛かって下さいましたわ」

 

Vは来店した時点で、店員がおかしな仕草…何処かに連絡する素振りを見せていたので追手を警戒しつつ食事を進めていたが、まさか美食研究会への連絡役と予想外だった。

顔を顰めるVに対してハルナは店の明かりを背にして佇んでいる。

 

「一人か」

「えぇ、私達は志こそ一つなれど、進むべき道のりは個人を尊重すべき。と決めておりますので」

「…頭メイルストロームかよ」

 

ナイトシティにおいて全身にサイバーウェアを埋め込むインプラント手術を最大の喜びとする犯罪者集団。機械化による正気の喪失など知った事かと改造を重ね、先のショットガンを開発する費用を捻出するために平気な顔して犯罪を重ねる奴らと美食研究会の面々が被る。

 

…一瞬、そこまで酷くはないと考えるも。店に手榴弾を放つは、仲間を簡単に見捨てる、おそらく今回の連絡も事前に店側へ脅迫していただろう等、充分前科を鑑みるにやっぱりヤバい連中だと気を引き締めておく。

 

「どうやら小さなお子様を連れているようですので、コチラの要件は手短にお話しいたしますわ」

「俺も充分、子供なんだけどな?」

「ご冗談を。普通に育った子はそんな右腕になりまして? …いえ、問題はそこではなく」

 

ハルナは暗闇の中で表情を変えた。

普段の上品で、どんな時も優雅さを忘れないように心掛けていた心中すら拭い去って、冷淡な目つきでVだけを直視する。

 

 

 

「ーーー雷帝、という単語に聞き覚えは?」

 

 

 

そこにあるのは、どんな感情なのか。

少なくとも友好的とは思えない、感情を伏せたハルナの問いに誤魔化した答えは悪手だと直感が告げている。

…とはいえ、本当に雷帝というのが何なのか分からないVは率直に答えるしか選択肢は無い。

 

「知らないな」

「では、その銀色に輝く右腕はどのような理由でお付けに?」

「そりゃあ……強くなるためさ」

 

Vの強さの源。

それは先述のメイルストロームも顔負けのサイバーウェアの搭載量であり、外見こそ普通の人間に拘っているので分かりにくいが、内側は生身がほぼ残っていないレベルで改造し尽くされている。

それこそ本来ならばサイバーサイコシスという精神病に侵されてもおかしくない筈だが、Vは先天的に耐性があったのと、もしかしたらジョニーというもう一人の魂が混在した事で、常人離れしたクローム化を保っているのかと主治医であるヴィクターから予想されていた。

 

そんな覚悟が決まり切った瞳でハルナの視線を真っ直ぐ受け止めるV。

対峙の時間は長いようで短く、彼女が一筋の汗を垂らしたのを機に両者の緊張は解けた。

 

「…一先ず、様子見ですわね」

「はっ、勝手にイチャモン付けて今度はストーカー宣言か? シャベルで殴るとはよく言ったもんだな」

「口を慎みなさい。貴方の嫌疑が晴れたわけではありません。もし狼藉を働こうというのならば、ゲヘナは生徒会だろうと風紀委員会であろうと共同で」

「俺を殺すってか」

「…必要とあれば」

 

ほんの少しの戸惑いを見せるハルナの目の前で、不意にVの姿が掻き消える。

まるで最初からこの場に居なかったように何の痕跡も残さず、声だけが聞こえてくる瞬間移動。

驚きのあまり、思わず愛銃を手に取って構えようとする彼女は次の瞬間に首筋に迫る漆黒の刃を見た。

 

「!?」

「マンティスブレード。マックス・タック仕様の特注品でね。下手に動くと喉越しが随分と爽快になるぜ」

「くっ…」

 

Vの銀腕は手の甲から肘までパカリと開いて、内側から日本刀のような片刃が展開されていた。それは銀腕が医療用では無いと示す証左で、同時に彼がマトモなキヴォトス生徒では無いと白状しているようなものだ。

 

そのリスクを背負ってでも、Vはここで釘を刺しておく必要があった。

 

「何と勘違いしてるか知らないが…あの男以外で、俺を通して別の人間を見るのは絶対に止めろ。そこが俺の境界線だ」

 

単なる誤解なら、笑い飛ばそう。

不幸な行き違いなら、許してやろう。

ただし、俺の内面に誰かを勝手に投影する奴は絶対に許さない。

 

Vは今回、衝動的に光学迷彩によるステルス機能と右腕のみに搭載した特殊なマンティスブレードを使ってしまった。

キヴォトス全体の戦力や科学力について充分調査出来ていない状態での使用は迂闊だったとしか言いようが無い。

 

しかし、思った以上にジョニーとの関係を失った事を気にしていた自分に今更ながら気付いてしまうV。こんな姿を見られたら少なくとも一日は冷やかされてしまうだろう。

 

「それじゃあ、もう二度と会わない事を祈ってるぜ、フロイライン」

「………」

 

静かに刃を収納し、別れの言葉もそこそこに車へ乗り込むと、車体を揺らさないよう出来るだけゆっくりと発進して店から離れていく。

その後ろ姿をじっと見つめながら、視界の端から帰るまでをはっきり確認してから、ハルナは息を吹き返したように携帯を手に取った。

 

「私です。…はい。はい、そうですわ。……予定通り、目標には手を出しておりません。それと個人的な感想の方ですが…黒とは言い難い。が率直な感想ですわね」

 

キヴォトスを破滅に導く危険因子であれば、排除しなくてはならない。少なくともゲヘナ学園に在籍する3年生全員がその思いを抱いているだろう。

 

「えぇ、鈴だけは付けてありますのでどうするかはご随意に。個人としては暫く様子見のつもりですので。…はい、あとはお任せします」

 

最後に誰かの名を告げて通話を切るハルナ。

視線の先には何も映さず、夜という空虚な暗闇が広がるばかり。しかしその黒いカーテンを一度捲れば、正体不明の闖入者による災禍の炎が噴き出すかもしれないという危機感が募る。

 

Vという火種が何を焚き付け、どこまで燃え盛るのか。それは誰にも分からない。

 

それこそ、彼と一心同体だった伝説のロッカーでも無ければ予測は不可能だろう。

 

 

そして、数ヶ月後。

連邦生徒会長失踪の噂が広まる頃、ブラックマーケットのトップに君臨するフィクサー、ホワイトラビットと、その直属傭兵シルヴァーハンドの名はキヴォトス全体に広がったのを機に、ゲヘナでの警戒度は跳ね上がった。

 




光学迷彩

その名の通り、自身の姿を消すステルス機能。
実際には身体の表面をスクリーン代わりに周囲の光景を映し出す事で視認性を著しく低下させている。そのため接近されるほど人体という立体感でバレる可能性が高くなる。
原作ではそれなりのクールタイムだけで使用回数制限もなく、ニンジャプレイが捗る。ゴウランガ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。