ブルーアーカイブ2077   作:装甲大義相州吾郎入道正宗

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どうしてタケムラ=サンとロマンスが無いんですか? Vは訝しんだ。メル=サンも訝しんだ。


第五話 黒壁の兆し

 

 

ブラックマーケットは変わった。

 

今までは金さえ払えば、どれだけキツい仕事だろうと、どんな不平等な取引でも、雇用側が有利になる慣習があったが、現在のブラックマーケットでは依頼を仲介するフィクサーという存在が間に入る事で、最低限の賃金や安全が確保した上で適切な人員が派遣されるようになったのだ。

 

当然、フィクサー側は元の依頼料から手数料や手間賃など引く関係で支出が嵩んでしまうが、その采配する手腕が高ければ任務成功率は自然と高くなり、それは目には見えない信頼へと形を変えていき、自然と次の仕事へと繋がっていく。

 

当然、今まで小賢しい知識を駆使して無垢な生徒から金を騙し取っていた輩は誰からも信頼されず、自滅の一途を辿るのは自明の理だった。

 

そうなれば仕事を受けていた生徒達側も、フィクサーからより良い仕事を斡旋して貰うために己の力量を高めたり、不貞腐れた態度を改める者が増え始め、一定の自浄作用を及ぼして治安の向上に貢献していく。

 

中でも特に名が知れ渡っている人物が二人居る。

 

一人は、あらゆる仕事の斡旋と多岐に渡る情報を精査するフィクサーにして、元ミレニアムの問題児。

ホワイトラビットこと黒崎コユキ。

 

彼女が仲介する依頼は愉快犯的な事件を引き起こす場合が多く、難易度と報酬額が高く人を選ぶ傾向こそあれど、面倒な暗号解析やネットセキュリティを無償で突破してくれる為、肉体労働派の不良生徒達からは意外と受けが良い。

 

そしてソロの傭兵でありながら、嘘か誠かカイザーPMCの部隊と単騎で渡り合える実力と、他の追随を許さないカリスマ(クレド)を兼ね備えた、ヘイローを持たない少女、V。

銀色に輝くクロームの右腕からシルヴァーハンドと呼ばれる事も増えてきた。

 

あらゆる依頼を確実に成功させるトップオブトップにして、風の噂によれば前述のブラックマーケットの方向性を変えた第一人者とも言われているがその真偽は不明。

尚、シルヴァーハンドという前世の因果たっぷりの呼び名は、未だジョニーとの別離に蟠りを残している彼にとって完全に地雷案件であり、無駄に通ぶってその名を出せば、瞬時に制圧されて謝罪を要求されるだろう。

 

…ちょうど、目の前の彼女達のように。

 

「…もう次は無いぞ」

「は、はぃぃぃいい!」

 

ブラックマーケットの道端でジャパニーズ正座をしながら怒られるヘルメット団員が複数人と、慣れた様子で金メッキの野球バットで手を叩くVの姿があった。

相変わらず面倒事に巻き込まれやすく、見た目だけは幼子に見える彼に対して誘拐を企んだらしい彼女らを「これは非殺傷武器だから」とタコ殴りにして反省を促す真っ最中らしい。

 

「んで…誰に依頼された?」

「い、いえ私らだけの判断で、その…子供を攫うのなんて、簡単かなーって咄嗟に思い付いただけなんですよ…へへっ」

「このナリを見て本当にそう思ったんなら、大した度胸だな」

「え?」

 

未だ女性のオシャレについて理解が及ばないVの普段着は、いつもTシャツ+スラックスに、モノクロカラーのロングジャケットを肩に掛けている程度で、特に銀腕が隠れる服装をしていない。むしろ有象無象に喧嘩や厄介事を押し付けられないようアピールすらしている。

 

それを無視した上で、Vの戦闘力を警戒するように大人数で挑む暴挙。

あからさまに誰かから仕事として依頼されたと見て良いだろう。

 

(候補として考えられるのは…やっぱりコーポ関連だな。仲の悪さならカイザー。因縁目的だとすればネフティス。…大穴で表向きはゲヘナ辺りか?)

 

そんな連中が何かを企んでいるのでは無いか?

 

キナ臭くなる前にコユキと情報を共有しようとするVだったが……不意に殺気を感じて、即座にバットを投げ捨て銀銃を抜き放つ。

 

「誰だッ!」

 

だがマーケットの商店街に異常は無い。いつも通りの光景がただ広がるのみ。

ネオン輝くパチンコの看板。露店を開く売人。驚いてコチラの様子を伺うスケバン。福助。逃げ出す呼び込みのサンドイッチマン。その場で固まるぺろろバッグを背負ったトリニティの生徒。

 

違和感だけがVの脳にこびり付き、言いようのない不安が纏わりつく。

全身をどれだけ機械化しようと失われなかった第六感が、明確に敵意を捉えているのだ。

 

「あ、あの…急に銃を構えて…こ、こここ殺さないでくだひゃい!」

 

急に不機嫌になった様子を恐ろしげに見つめるヘルメット団員の一人は、このまま息の根を止められると勘違いを起こし、聞いてもいないのに今回の襲撃における真相をペラペラと喋り始めた。

 

…どうやらヘルメット団宛てに仕事を依頼したのは“狐坂ワカモ”とかいう生徒らしく。

最近まで矯正局に収監されていたせいでフィクサーを通さなかったようだが、どうにも個人単位の武力が頭一つ以上抜きん出た七囚人に名を連ねる危険な人物で、ヘルメット団も断るに断れなかった様子。

 

そのワカモの真意は……十中八九、Vの腕前を見るためだろう。

 

戻しかけた銀銃を待つ手に再び力を込めて、周囲を索敵。視覚情報に頼らないスキャンモードにキロシを切り替える。

 

一転したデジタル表記の視界には物体の輪郭とパラメータだけが可視化され、必要な情報以外をシャットアウトしていく。

 

とりあえず目に入る範囲に怪しい人物は……無し。

 

ならばと久方ぶりにクイックハックの【PING】を発動。かつてはローカルネットワークに接続された電子機器や脳に埋め込んだインプラントに強制介して位置を特定していたが…今回は今時の娘なら間違い無く持ち歩いている携帯電話のターゲットに定める。

 

すると大量に流れ込む情報の中で、Vから見て右前方に位置するビルの死角に、身動ぎもしない反応が一つだけあった。

 

…コチラに被害が無かったとはいえ、既にヘルメット団員を鉄砲玉にして差し向けられた身であるV。そんなささくれ立っている心持ちが今まで以上に引き金を軽くしてしまう。

 

銀銃…マロリアン・アームズは【パワー武器】に分類される昔ながらの火薬式ピストルで、サタラのようなテック武器とは異なり障害物を貫通するような破壊力こそ無いが、弾道を予測するコプロセッサと連動して“跳弾“を撃つのに適した武器だ。

 

それをキロシに表示される予測ガイドラインに従い、寸分違わず弾丸を放てば鋭角を描いて跳ね返り、不審者の持ち物であろう携帯電話を貫く。周囲の人間は突然の発砲に驚いて逃げ惑うが、相手の存在を確信しているVは冷静に銃を構えて出方を待つ。

 

「……愛嬌は無さそうですが、度胸は誉めて差し上げますわ。シルヴァーハンドさん」

 

影からゆったりと現れたのは和装の美人。滑らかな黒髪を揺らしながら、片手で狐の面を弄んでいる。

 

「そんな奇抜な格好をしてる奴に言われるとは、自信が湧くよワカモさん。…それと、その呼び方は辞めてくれ。おれの事はVでいい」

 

和やかな笑みを浮かべるワカモ。

その裏側にあるのは間違い無くシルヴァーハンドという呼び方が“Vの神経を逆撫でするのを知っている表情だった。

 

見つめ合う2人の間には不可視の張り詰めた空気が充満しているようで、空を呑気に飛んでいた小鳥も全速力で逃げ出す始末。それどころか周辺の店を開いている獣人達も毛を逆立て奥へと引っ込み、喧騒著しかった街並みに穴が空いたような沈黙が支配する。

…そして、一雫の笑みが滴った。

 

「…うふ、うふふふふふっ」

「あん?」

「いえ、少しだけ同類の匂いを感じて嬉しくなりましたの。ブラックマーケットに要らぬ秩序を持ち込んだと聞いて訝しんでおりましたが…キチンとコチラ側の方で安心ですわ」

「勝手に納得されても困るんだが…」

「だって、賢しくも正義だの清貧だのと曰う偽善者が、我が物顔で縄張りを歩いていたら気に触るでしょう? 何事もTPOは弁えるべきです」

 

つまりワカモの見立てによれば、Vは悪人として評価出来る人物だと言う事。

確かに己やコユキの安全確保や、自分の矜持から離れた連中を暴力で排除してきた実績があるだけに文句は付けれないが、見るからに怪しい人物に同類認定されるのは良い気分とは言えない。

ワカモは一頻り笑みを浮かべた後、ぱんっと手を叩いてVに問いかけた。

 

「よろしければ私が企画している依頼にご協力頂けませんか? 最高、とまではいきませんがそれなり以上のスリルと爽快さをお約束致しますわ」

「なるほど…じゃあ、お断りさせてもらうぜ」

「…何故です?」

「まずは無礼を働いてごめんなさいだろ?」

「………」

 

再びヒリつく場の雰囲気。

そして事の発端となったヘルメット団員は、度重なる気の応酬により憐れにもグロッキー状態のまま放置されている。そんな一触即発の場面は永遠のように続いて…しかしそんな緊迫など知らぬとばかりに、Vの携帯から呼び出し音が鳴り響き、しばらく無視していると…待ちきれずにハッキングを仕掛けたのか勝手にスピーカーで通話が繋がった。

 

「ちょっとVちゃん! どうして無視するんですか!? もしかして昨日のスマブラで20連敗したのを落ち込んでるんです? それとも勝手にハンバーガーからピクルスを移植した件です? どっちにしても私が慰めてあげますから返事してくだ「おい馬鹿やめろ」

「…クスッ」

「ぐっっ!」

 

まるで痴話喧嘩のノリで話し始めたコユキに心の中で怒りながら、ワカモに笑われたVは一方的な物言いを食い止める。

 

「あー、コユキ? 俺なら本当に何とも無いから要件を先に伝えてくれ。頼むから」

「…本当に、本当ですか?」

「勿論さ、チーカ。いつだって俺は元気いっぱいだぜ」

「…にははっ、そうですよね! それじゃあお話しなんですけど、さっき面白そうな依頼が来たんですよ」

 

ここでワカモがニヤリと笑ったのが目に入り、Vは嫌な予感がするまま次の発言を待った。

 

「どうも連邦生徒会長の失踪が確定したみたいで、日頃からミレニアムに恨みがある人達がドンパチ騒ぎを起こしてるみたいなんです。なので! その隙にものすごーく面白そうな物がある場所に突入するんですよ!」

「物凄く…面白い?」

「そう! 私でも解析出来なかった…正確には触れさせて貰えなかった【稼働状態のオーパーツ】があるみたいなんです!」

 

オーパーツ。

元は遺跡で発掘されるような古びた品でありながら、当時の技術では製造不可能とされる超科学遺産の総称である。とVは昔に聞いた覚えがあった。

とはいえ、殆どは発掘者達によるフェイクである可能性が高いのはご存知だろうか。

 

例えばインカ帝国に埋葬されていたという水晶ドクロはその精密な工作技術に注目が集まっていたが、最新の顕微鏡で表面を観察すると現代で流通している研磨剤の成分が付着していたり、研磨機特有の傷が発見されるなど、ただの人工物であるのが確定している。

 

逆にキヴォトスでも何故か流通しているネブラディスクについては本物とする説が強く、極めて高度な天文学を基に製作された星座盤として非常に価値が高い。

 

しかし、ここキヴォトスの場合は少々事情が異なるようで、巷で発見されるオーパーツは必ず破損している代わりに生徒達のような神秘の力を宿した実用品として取引されているらしい。

 

(まぁ…ワクワクはするよな)

 

どちらかといえば男の子好きな案件だが、どのような代物が眠っているのかは確かに気になる。

しかし、そんな貴重な物が生半可な防犯機能で守られている筈もなく、たった今のタイミングでワカモから接触してきたという事は……。

 

「うふふっ…どうやらフィクサーの方は乗り気みたいですわね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後。

ミレニアム自治区 シャーレ管轄ビル付近。

 

遠巻きで派手な爆発や発砲音が下手なオペラを奏でている頃。苦虫を噛み潰したような顔をしたVと、良い笑顔をしているワカモは不足の事態に対する情報の擦り合わせを行なっていた。

 

「…つまりこの混乱に乗じて突入するつもりが……謎の"先生"とやらが赴任してきたタイミングと各自治区の代表が直接連邦生徒会に乗り込んだタイミングが偶然にも噛み合って、しかも無視出来ない戦闘力を発揮しながら、コッチに辿り着こうとしていると」

「十把一絡げの不良生徒ではまるで歯が立たないほどらしくて…。いちおう今、戦車の一台くらいは取りに行かせていますけれど、まぁ焼け石に水かも知れませんね」

「……先生か。俺と同じようにヘイローを持たない"大人の男性"」

 

コユキが抜き出した最新の情報によれば、あの連邦生徒会長が直々に招いたという大人が、鉄火場である前線で戦闘指揮を取っているという。恐らく目の前のビルにあるというオーパーツの奪取が目的なのだろう。

色々と個人的興味は尽きないが、まず依頼をこなさなければ傭兵の沽券に関わる。

 

「ワカモ。アンタとしては警備が厳重な施設を破壊さえ出来れば良いんだろう?」

「えぇ、その通り。私を矯正局などという檻に閉じ込めた意趣返しと破壊という趣味を同時に実行したいのです」

「OK、キラキラもキメずに素晴らしい解答をありがとう。……先に行って、オーパーツ以外なら好きに壊して暴れてこい。先生の一団は俺が食い止める」

「…一人では流石にきついのでは?」

「別に正攻法で当たるつもりは無いし、やりようなんて幾らでもある。依頼主様はサッサと用事を済ませて帰って来い」

 

Vは背負ったサイドワインダーというアサルトライフルを見せつけてニヤリと笑った。

 

 

 

そして対面側。

シャーレの先生は、始めて目で見て肌で感じる実戦の空気に息を呑みながらも、自分を信じてくれる生徒達の負担にならないよう努めて冷静に指示を出していく。

幸いな事に相手は数こそ多いが、質の面ではユウカ、ハスミ、チナツ、スズミの4人が大きく上回る。加えて先程から続く波状攻撃…悪く言えば連携が取れていない戦力の逐次投入なら複雑な戦術を取る必要もない。

 

意味も分からずキヴォトスへ赴任して、あれよアレよとか状況に流されている自分を情けなく思うが、それでも何とか目的であるシャーレ管轄のビルへ到達出来そうだと一息を吐く。

 

 

ーーーカーハッカー【制御奪取】

 

 

…それがフラグだったのか。

油断せず進んだ先で、聞き慣れた異音に耳を疑う。

音源は今回の騒動で道路に放置された様々な一般車両。それらは運転手も無しに次々とエンジンを吹かせたかと思えば、アクセル全開の速度で発進して来たのだ。

 

「なっ!? 先生、失礼します!」

 

側にいたハスミが事態を即座に理解して常人の身体能力しか持たない私を抱えて飛び跳ねる。他の子も驚きつつ無傷で回避するのだからやはり生徒のスペックは素晴らしいものがあるようだ。か弱い女の子として扱うのは逆に失礼かも知れないな。

 

そんな事を思いながら状況を確認すると、暴走車両の殆どは複雑な操作は出来ないのかビルに突っ込んだままハンドルを切ろうともしない。皆もまた誰が何処からこんな真似をしているのか分からず、銃を構えてしきりに周囲を警戒している。

 

「車を使ったトラップでしょうか」

「それにしては仕掛けの位置が的確な過ぎるかと」

「そうですね。私達の進行先は計画したものではありません。予測するのは不可能なはず」

「………」

 

ハスミの疑問にチナツとスズミが答える中、一人だけが頭を悩ましていた。

 

"ユウカ、気になる事でもあった?"

 

「先生…いえ、確証は無いんですけど。この手のやり口に心当たりがあります」

「それはまさか、シルヴァーハンドではありませんか?」

 

"有名な人物なの?"

 

「…ヴィー・シルヴァーハンド。トリニティでもそのような名前の傭兵が現れたと情報は掴んでいますが、妙な手口を使うのですね」

「…あくまでミレニアムの予測ですけど、本人を起点とする中距離範囲の電子機器にコンピュータウィルスを感染させるみたい。今回も車にハッキングして暴走させたんでしょうね」

 

とすれば凄い能力だ。

大人としてコンピュータ関連の事はそれなりに把握しているつもりだけど、こんな短時間かつ複数の対象を操る方法なんて想像も付かない。それとユウカの心底悔しそうな表情を見るに、厄介な人物だけじゃないみたい。

 

「…どうしますか先生。このまま直進すれば最短距離ですが、車両はまだ多く残されています。時間は掛かりますが道を迂回するのも手段かと」

 

ハスミの提案に乗るのが一番賢明だけど、何かが引っ掛かる。いや、この違和感はもしかして…。

 

"………そうか目的が違うのか"

「先生?」

 

道中の戦いは連邦生徒会長不在の情報で暴れている生徒と場当たり的な遭遇戦ばかりだったけど、それは日頃の鬱憤を晴らす目的が無い暴動だった。

だけど、ヴィーという傭兵は明確に私達を狙って行動している点が明らかに異なる。それはつまりこちらの行動をある程度、把握してた上での干渉。…恐らく時間稼ぎの妨害工作だ。

 

“ハスミ。目標のビルに異変はあるかな?“

 

「特に変わりは……ッ!? いえ、内部でマズルフラッシュの光が!」

 

スナイパーでありながらスコープを使用しない彼女の視力は、私では窓枠ぐらいしか見えない箇所も鮮明に捉える事が出来たようだ。目的は分からないが、ここで時間をかけ過ぎるのは相手の思う壺だろう。同時に、真っ直ぐ突っ込めば虎穴に入るかもしれない。しかし。

 

"みんな、悪いとは思うけど…"

 

「はい。何回か戦った経験がある私が正面に出ますので、先生は後に続いてください」

 

リンちゃんから任された最初の仕事を完遂する為にも、この騒動を治める為にも、いち早くビルの中にあるというオーパーツを手に入れなくては…。

 

ユウカを先頭にスズミが補助、チナツが私の護衛に付いてハスミが後方から周囲を偵察する陣形を組む。いつ暴走するか分からない車の直線上は避けつつ、早足の速度で道路を駆け抜けて驚くほど妨害が止まったのを不気味に感じながら進んだ先には、目的のビルのアチラコチラから火が噴き出していた。

 

「そんな…!」

 

"大丈夫。目的の物は地下に保管してあるらしいから、まだ望みはあるよ!"

 

気を落としそうなスズミに声を掛けて前を向く。

まだだ。まだ決定的な失敗は犯していない。このままビルの内部に入ればあと少し…。

 

そんな心の隙間を縫うように、私達の周辺にあった自動販売機が異音を立てて中の缶を大量に排出したり、液晶テレビが音を立てて大爆発。街灯や信号機が勝手に点灯したりと賑やかに騒ぎ立てる。

 

そして、ビル前の交差点の横から飛び出して来る大量の車が正面衝突と玉突き事故を繰り返し、一瞬で道路の真ん中に巨大な遮蔽物を築き上げた。

…まるでゲームのボスステージに来たような感覚だ。

 

「きゃっ! なんですかコレ!?」

「チナツさん落ち着いて。これはヴィーの挑発よ!」

「ーーー正解だぜ。ユウカ」

 

いつの間にか折り重なった車輌の防壁に立っていたのは一人の少女だ。

自分の身の丈はありそうなアサルトライフルを肩に担ぎ、偉丈夫に立ち塞がる姿は小さな身長とは裏腹に威厳すら感じさせる。

 

「V! ここで会ったが100年目よ、サッサとコユキを解放しなさい!」

「おいおい何度目の会話だよ。アイツは自分の意思でブラックマーケットに留まってるんだ。あれこれ口出しすると、いつまで経っても拗れるばかりだぞ」

「あの子の才能を発揮出来るのはセミナーだけよ! アンタみたいな不良にあの子の純情を穢させないわ!」

「…どの世界でも教育ママみたいなのは居るもんだな……おっと」

 

"チナツ!?"

 

ヴィーとユウカの会話中、一番大人しいと思っていたチナツがハンドガンで狙撃を試みたらしい。

 

「失礼しました先生。ゲヘナでは見つけ次第、容赦するなと命令が出ていましたので」

 

"そうなんだ…"

 

いや、それよりも不意打ちの攻撃を首を傾げるだけで避けた?

 

「先生、伝え忘れましたが…ヴィーはハッキング能力とは別に、前線に出て戦う生粋のアタッカーでもあります。充分に注意してください。それと……」

 

チナツの説明に耳を傾けていたが、続く彼女の言葉に私は動揺を隠せなかった。

 

「彼女にはヘイローがありません。キヴォトス外から来た人間だという事に考慮してください」

 

 

"………………え?"

 

 

キヴォトス学園都市で先生として赴任する覚悟はしていたが、生徒では無い子供に、私はどうすればよいのだろうか…。

 




ゴールデンベースボールバット

さる有名なロッカーの自宅からパクっ…拝借してきた黄金のバット。
それ以上それ以下でもない。

拙作のVは収集癖があり、最上位レアであるアイコニック武器などほぼ全て確保済み。中には絶対にコユキには見せられない代物まであるらしいが…?
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