「…それが理由なら手を貸そうか?」
"本当に?"
「あぁ…というか、普通にキヴォトス存続の一大事だろ。むしろ邪魔する奴がいるなら俺が相手してやるよ」
野次馬根性丸出しのコユキと合流したVは改めて先生との会話を再開した。そして判明したのは、この巨大な学園都市の運営に関わる重大事件解決のために動いていたという事実。
しかも思っていた以上に連邦生徒会長とやらは重要人物だったらしく、ナイトシティのような見た目と人気だけの広告塔(市長)や、富裕層だけが得をする見栄えの良いショー(政治)を演じる輩とは一線を画す存在のようだ。
Vとしては思いがけないカルチャーギャップに衝撃を受けている。
「こうなったらワカモさんには悪いが、そろそろ切り上げてもらおう。コユキ、先生。後に続いてくれ」
「はーい!」
"ちょっと待って! 流石にこの子達を放置するのは…"
「ん? …あぁ、ようやく毒が回ったみたいだな」
"毒!?“
先生が心配しているのは勿論、ユウカを始めとするビル奪還に関わってくれた四人の安否である。比較的小口径のハンドガンで撃たれたにしては随分と呻き続けているようで、脂汗を流すほどでは無いがすぐさま動いたり、満足な意思疎通ができるように見えない様子に違和感を感じていたらしい。
Vはその様子に心当たりがあるとばかりに足元に落ちていたアサルトライフルを拾う。
「コイツは【DIVIDED WE STAND】っていうカスタムタイプでね。弾頭に毒薬を仕込んであるから威力自体は低いが、長期戦になれば無視出来ない状態不良に追い込めるって代物なんだ」
"……命に別状は"
「怖い顔しなさんなって。今、蹲ってるのはマロリアン・アームズで急所に思いっきり撃ち込んだせい。毒そのものは身体が痺れる程度しか効果は及ぼさない。…キヴォトスの生徒は本当に頑丈なんだよ」
呆れ顔のVは、扱い辛く不遇となってしまった武器類を思い出していた。
中でも毒を始めとした状態異常系は悲惨そのもので、銃器以外にも仕込み杖のヌママムシやナイフのスティンガーといった麻痺や目眩誘発も、目に見えて効果が薄くなっているようで搦手が使い難くなっている。
しかもそれらの多くはアイコニックという個人用にカスタムされたワンオフ品ばかりで非常に入手が困難。かつてはそれ、を求めて建物の天辺に登ったり、爆発寸前の建物からわざわざ盗み出したり、時には大枚を叩いて闇店から購入したりと苦労を重ねてきた。それが無用の長物になるとは誰が思っただろうか。
尚、この事から、単純な火力と身体能力に物を言わせた力押しではキヴォトス生徒がVを上回り、サイバーウェアを駆使した奇襲とサンデヴィスタンの使用を前提とした短時間の特攻ならVが上回る力関係になっている。
…少なくともミレニアムはそう結論付け、圧倒的な差は付いていないとしているが、真相はまだ本当の底を出していないVにしか分からないだろう。
閉話休題。
先生の嘆願により、苦しそうにしているが命に別状が無い四人を歩道の隅に移動させた後、簡単な受け答えだけは出来たハスミに事情を話した先生とVそしてコユキは、未だ爆発騒ぎが収まらないシャーレ管轄ビルへと足を運んだ。
"うん、うん……本当にごめん。そういう事になったから、どうしても…。うん、地下のデスク近くにあるタブレットが目標なんだよね"
その間にも誰かと通話している先生と共に入口のエントランスに入ると、辺り一面は無残に破壊し尽くされ、白を基調した壁や床は焼け爛れた赤と焦げ付いた黒に染められて元の姿を想像する事すら出来ない。一部の天井はパネルが剥がれ落ちて電気配線が剥き出しになっているなど、いつ放電事故や不意な発火や爆発が発生してもおかしくない状況だ。
「意外と煙が薄そうですね?」
「…確か重大火災事故の防止か何かで、空気の流れ道を遮らない構造を採用してるらしいな」
炎によって温められた空気は上昇気流によって燃え盛り、異臭を含んだ黒煙をそこら中に撒き散らす。酷い場合はそれだけで死亡事故に繋がる場合もあるのだが、ワカモはどうやら放火について一家言あるらしく、自分への被害が少ないよう上から下へ破壊する順番をあらかじめ決めていたようだ。
この分なら合流も近いに違いない。
そんな風に考えていたVの前に、警備用に配置してあったであろう空戦ドローンが、横の非常ドアごと吹っ飛んできた。
「あら? こんな場所でお出迎え頂けるなんて、どういう風の吹き回しです?」
銃床を突き出して現れたのは件のワカモ。着飾った和装と真っ白な狐面はブラックマーケットで出会った頃から一切変わらず、煤すら付けずに戻ってきた要領の良さは、それだけでも彼女が只者では無い証拠でもあった。
「ワカモさん。悪いが破壊するのは、ここまでにしてくれ。この人を地下に案内しておきたいんだ」
"こんにちわ!"
「あら、この方は…なるほど、シャーレとかいう組織の担、任……………」
「ワカモさん?」
やたら人当たりの良い笑みを浮かべて挨拶する先生を前にして、まるでサンデヴィスタンでも発動されたように動かない。
突然のフリーズにVも先生もどう反応していいのか分からず、コユキだけが呑気に地下への道を探していた。
そしてパチパチと燃える火事の熱にも負けず、燻る熱波に晒されても無傷だった狐面を何故かそっと外した彼女は、先生をじっ…と見つめたかと思いきや。
「………!!!?!」
狐の耳をビクンッと立てて、一瞬だけ頬どころか顔全体を真っ赤にして身震いし始め。
「し、失礼致しましたァァァァァ!!!」
全速力で逃走した。
"……え?"
「……は?」
疾風のように走り去るワカモ。一体全体何が起こったのか。
先生の顔をじっと見つめるなり恥ずかしがるように走り去るなんて……急用でも出来たのだろうか? なんて考える先生とV。
…つまり幸か不幸か、ワカモの悲しき乙女反応は鈍感な男性二人には理解されず、もう一人の女子に至っては火事の炎を見ながら「マシュマロって持ってきましたかね?」なんて場違いな感想を抱く始末。
取り残された3人は少しだけ呆気に取られるが火の回りが一段と激しくなったのを契機に地下へと進んで行った。
火事場の熱気すら届かない地下空間。
他のフロアとは桁が違う頑丈さで造られたそこは、万が一を考えてあらゆる災害から身を守れるよう設計されていたのだろう。中には巨大な製造機械と思わしきオーパーツが鎮座し、様々な計器や電子機器が並ぶこの部屋は正しくシャーレの中枢部だった。
「ふぁぁ…凄いです、凄いです! これはテンション上がりまくりですよ!」
コユキは目の前に広がる不思議空間に喜びながら突撃し、アレやコレやと自分なりに秘密を探って遊んでいる。どうやら製造機械についてはどう手を付けたらいいのかすら分からず、唸っているようだが周囲の品々でも充分に知的好奇心を満たせるようだ。
「先生。ここに来れば問題が解決するって話だが、具体的にはどうするんだ?」
"えっと、見た目は普通だけど特殊な【シッテムの箱】ってタブレット端末があるらしいから、それを起動すれば分かるみたい"
「随分と洒落た名前だな。この中からタブレットを、ねぇ…」
地下室は火事の被害こそ免れているが、元から大量の機械と資材が運び込まれているせいで見るべき場所が多すぎる。
本来ならば連邦生徒会のリンという生徒の案内で出向かう予定だったが、未だ暴動収まらぬ街を駆け抜けたり、燃え盛るビルにヘリで着陸する訳にもいかず、通話でのやり取りでしか詳細が聞けなかったのが災いした形だ。
先生はしばらく探し回ったが、目的の物は要として発見出来ず、顔にも焦りが浮かんで来る。その間、Vはしれっと興味なさそうな態度を取りつつ、スキャンモードを起動して部屋内を物色していた。
(こいつは凄いな。レアリティで言えば全てが最上位のクラス5で統一された設備ばかりだ。…施工を依頼した奴は妥協って言葉を知らないんじゃないか)
過剰に整えられた環境は確かに万事に適応するだろうが、それは蟻を一匹潰すのにロードローラーを持ち出して付近全てを平すような所業だ。それだけ重要視なのは分かるが、運用コスト面では最悪な部類だろう。
そして何より目立つのは巨大なオーパーツ。
どうやらクラフトチェンバーという名前らしいところまでは分かったが、スキャンしてもまるでデータが解読出来ない。やはり一部、というか市場には出回っていないが科学技術の水準はナイトシティすら上回っている部分があるのは確定的だ。これなら、自分自身の修理や調整の目処も付きそうだと安堵する。
"…V。悪いんだけど探すのを手伝ってくれない?"
「いいのか? 他人に見られたくない資料とかあるんじゃないか」
"それはそうなんだけど、あまり時間を掛けるのもアレだし。…悪用するつもりなら事前に連絡してくれるかな? それなりの金額は出すよ"
「…なるほど。良い判断だぜ先生。気に入った」
下手に情に訴えかけるでも無く、金銭でのやり取りを頭に持ってくるとは実に大人の選択肢だとVは考えた。清濁合わせて飲み干せる奴は、敵でも味方でも好ましい。
「少し待ってな」
Vはクイックハック【PING】の機能で部屋全体の電子機器が何処にあるのか検索を掛け、タブレット端末を探す。それ自体は幾つも発見出来たが、肝心の特殊な仕様では無いようだ。自分自身の立ち位置を変えて部屋内を隈なくスキャンするが反応は無し。途中で謎解きに夢中になったコユキとぶつかって文句を言われてしまう。
「ちょっとVちゃん? 夢中になってると危ないですよ。ちゃんと周りをよく見て注意を…いだだだだだだ! なぜぇ!?」
頭を掴んで高速でシェイクされるお仕置きに半泣きになるコユキ。そしてよく見る、という言葉をキッカケにVは再び【PING】を起動して…逆に、検索に引っ掛からないタブレット端末を見つけ出す。
スキャンモードにも反応せず、それどころかタブレットとすら認識出来ないこれこそが先生が見つけたかったシッテムの箱に違いない。
(渡す前に…うん、悪用については止められてないしな)
あの連邦生徒会が外部の大人まで赴任させて挑む重要案件。その一部である端末にどれほどの情報が詰められているのか興味が湧かないはずも無い。
Vはまだ探す振りをしながら左手首から細いプラグケーブルを引き出し、マルチジョイントでシッテムの箱に接続する。
視界の隅にはアクセス中を示すローディングバーが表示され、10%…30%…70%…99%ときて、数字の進行が停止してしまう。
(プロテクトの一つや二つは当然あるか…。だが俺もブリーチプロトコルならやり込んだ口だ。本職のネットランナーには及ばなくとも多少は応用が効く…!)
脳内で複数のアンチファイヤーウォールやハックシステムを起動して侵入を試みるが全てが失敗。鎧袖一触とばかりにエラーばかりが吐き出てくる。一筋縄で上手くいかないのは百も承知だったが、取っ掛かりすら掴めないのは予想外だった。
(こうなったら、一度だけ仕掛けてみるか)
クイックハック【サイバーウェア動作不良】を応用して無理やり接続権限を確保する荒技に出るV。どんな電子防壁があるかも分からずに仕掛けるのはかなり危険な行為だが、リターンの大きさに目が眩んで…実行してしまう。
「がっ…ああぁぁぁぁ!!?」
そして、本当に電流でも走ったのか。突如として激しい痙攣が全身を襲う。体幹が保てなくなり、床に倒れてしまう。それでも三半規管を引っ掻き回すような不快感はまるで治らず、耳や鼻からも出血が始まる。
「Vちゃん!?」
"V!?"
(ICEか…! それも、とびきり上等…な!)
ハッキングに対するアンチプログラムが起動し、脳内の電子機器と物理的に繋がっている彼にも甚大なダメージが走った。
一時でも早く痛みから逃れるべく、接続を切ろうとしたが“何故か操作を受け付けない"。
本体であるVの状態など一切考慮せずに基幹システムが作動し、シッテムの箱にアクセスしようと躍起になっているように感じる。
……それはまるで何者かの意志(コンストラクト)が介入したような執着だ。
【オプティクス再起動】
【記憶消去】
【サイバーウェア動作不良】
【行動鈍化】
クイックハックの中でも致死性こそ無いが重大な負荷を強いる電子攻撃が次々と襲い掛かっていく。幸い、というべきか本当に危険な【サイバーサイコシス】や【■■■■■■■■・■■■■■■】はまだ使用されていないが脳内容量を示すRAMが回復次第、強行する可能性は捨て切れない。そうなれば取り返しの付かない事態に陥る予感がある。
(こんなのは思い出したくも無いがヴードゥー・ボーイズのクソ共に騙された時……いや、それより酷いこの感じはあの時の……)
Vが思い出すのは悪法が罷り通るナイトシティの中でも、飛び抜けて治安の悪いドッグタウンで発生した一大事件の顛末だ。
アメリカ大統領の救出から始まる騒動は1クールドラマ並みの密度で彼を巻き込んで規模を大きくしていったのは記憶に新しい。そしてVは紆余曲折を経て味方だった合衆国政府を裏切り、予てからの共犯者であるネットランナーのソングバードと共に自由を勝ち取る選択肢を選んだ。
そこで、手にした力があった。
最終局面において完全武装の軍隊に囲まれる窮地から抜け出すためにソングバードから貸与された一時的な行使。その異常さは今でも忘れられない。
ーーー手をかざすだけで、人間の脳を焼き切り、銃器を破壊し、軍用ヘリを次々と墜落させる無双の極地。
加えて使用制限もクールタイムも、射程すら計り知れない正真正銘のチート行為が罷り通ったのだ。
あの時に似た感覚が全身を襲う。
(ソングバード…ソミの奴っ! あの時におかしなバグでも残したのか!? それとも…このシッテムの箱が、とんでもないのか!?)
答えは出ず。楽になりたい一心で思わず接続プラグを抜こうとするが…ギリギリの所でかつてエヴリンというジョイトイを救出する際、データリンク中の安易なコネクタの抜き差しは自殺行為だと友人から教わっていたのを思い出したのが功を成した。
失神しそうな痛みに耐えながらRAMが回復する前にログアウトの手順を進め、震える手を押さえて完了と同時にプラグを抜く。
……どうやら成功したらしい。
全身の僅かに残った発汗機能が大量の汗を流し、過呼吸寸前の息もまだ乱れたまま。本当に死の間際だったのか、体力が一定値を割ると起動する蘇生装置の【心臓ポンプ】と【生体モニター】までクールタイムに入っている。あと数秒でも遅れていたら、ジャッキーどころかTバグにも笑われちまう無様を晒すところだったな…と思わず思考が濁る。
「ぶぇぇぇ!! V"ち"ゃ"ん"ぅ"ぅ"ぅ"!」
"V! しっかりして!"
ガタガタと必死に体を揺らす全泣きのコユキと脈を測ったり瞳孔の開きを確認しようとして、彼の身体が機械だった事を再確認した先生は普通の治療法が通じない事に歯噛みするが、そこでようやく喋れるようになったらしい。
「……割と危なかったが…もう大丈夫だ」
走馬灯が見え始めた時はどうするべきか迷ったが、生きて戻ってこられたと安堵するV。逆に本当に死んでしまったと心配したコユキはコアラのように引っ付いて離れない。ただ、背丈だけなら彼女の方が少しだけ大きいので自然と抱き締められる形になるのが少しだけ面白い光景だった。
「あー、先生。コイツが間違いなくシッテムの箱だ。ちょいとお痛をしたもんだから、問題ないか確認してくれるか?」
"分かった。…あと、念のため病院に行こうね"
そこに関してVは曖昧に頷くしかない。
他の自治区はともかく、ここミレニアムでの彼の扱いは完全に犯罪者だ。いくら先生の後ろ盾があるとはいえ治療が終わり次第、尋問なりの拘束は確実だろう。
(そう考えると、逃走は早めに前倒しだな)
痛む身体を気付け薬代わりにして、マックスドクという強心剤を自分に投与。副作用はあれど短時間だけ痛みと疲労感を消し飛ばす。
そして泣きじゃくるコユキを宥めつつ、先生がタブレット相手に不思議な独り言を続けるの他所に、再び【PING】を起動して一番近いルーターから普通のネットワークシステムに接続する。
愛車であるアウトローを始めとしたナイトシティの車両は配車システムが標準搭載されており、簡単な操作で所有者付近まで自動運転される。ただ先程の件が尾を引いているのか、妙に通信速度が遅く随分と時間が掛かってしまう。
(ついでに保険の一つでもかけておくか…)
その間に先生は目的であったシッテムの箱を見事に起動し、サンクトゥムタワーの権限を掌握。またその権限を一時的に連邦生徒会に預ける事で、キヴォトス内で滞っていた様々な問題に対処出来るようになったらしい。
"ありがとう、V。さっきは助かったよ"
「いや…コッチこそ色々と迷惑掛けてるからな…」
余計な介入をしたせいで疲労困憊に陥ったVは、自然と気を抜いてしまう。
そこを突くような真似は戸惑われたが、先生は意を決して質問を投げかけてみる。
"ねぇ、V。君はどうしてそんな身体になったの?"
「あー…必要に駆られて、だな。肥溜めみたいな環境から抜け出すには生身の肉体なんざ小児趣味の変態相手にしか価値が無い。だから健康な臓器を担保にサイバーウェアを乗せ替えるのさ」
"国とかの支援は…"
「親も分からない木端の孤児に施しなんて無いさ。だからストリートチルドレン出身の奴らなら珍しい話でも無いぜ? まぁ全身の8割まで改造したのはやり過ぎかもしれないが…」
唖然とする先生。その脳裏に浮かぶのは同情か憐れみか。どちらにしてもVにとっては既に意味を為さない感情だ。
「自分(大人)の責任は、自分で取るさ」
"それは……ッ!"
思わず抗議しかける先生だったが、人差し指を唇に当てたVが「しっ…」と一言告げて耳を澄ます。
すると、シッテムの箱を探索する際は気にしていなかった部屋の奥から駆動音が聞こえてきた。よく見ればそれは両開きのドアを備えたエレベーターに相違なく、コユキが見つけた階段はあくまで非常用だったのだろう。
ガコンッという停止音と共に駆動音が地下へと近づきつつあるのを感じ取ったVは、先生との話を遮って地下室から退出しようとする。
「どうやら予想以上に解毒が早かったみたいだな…。コユキ、行くぞ」
「う"ぅ"ぅ"ぅ"……はっちゃ!」
"V! もう少しだけでも話を…!"
「お尋ね者はサッサとずらかるに限るぜ。…またな」
まだ若干グズっているコユキをおんぶして、階段側へと駆け出すのと同時に、エレベーターからユウカが飛び出してくる。
「よくも…よくも、やってくれたわねヴィー!!」
「おー怖」
「それとコユキ! 反省部屋半年は覚悟するのよ!」
「ひぃん!? もうバレてるー!」
先ほどとはまた違った意味で泣き出すコユキ。今までの犯罪歴からして半年の幽閉で済ますのは充分温情を匂わせているが、あんな鬼気迫る表情では伝わるものも伝わらないだろう。
素早くダッシュを重ねて階段へと迫り、二段ジャンプで一気に駆け上がる。出口にはビルの復旧に伴って消火システムが作動したようで炎と煙こそ見当たらないが場を満たす熱波が肌に纏わり付く。
「そこまでです!」
「ヘタな動きは抵抗と見做します」
「ちっ!」
しかし、やはりというべきか。
Vの逃走を阻止するためにスズミとハスミによる別働隊がビルの入口を固めており、ライフル弾の一発が右腕の皮下アーマーを傷付けるが、動作に支障は無い。どうやら散々コケにされた以上、逃す気は無いとばかりに張り切っているようだ。
とはいえ、Vも無策で姿を晒した訳でもない。
片目が瞬きと共に動作し、青い光がキロシに灯る。それをどう判断するか初対面に近いトリニティの二人は一瞬の判断を迷い……コユキが乗ってきた戦車を遠隔操作したVの砲撃によって背中を撃たれた。
「キヴォトスの戦車は電子化が進んでて助かるな」
初期の戦車といえば、砲手、操手、戦車長、観測手、装填手が乗り込むくらい操作が複雑だったらしいのが嘘のようだ。ロスサントスなる場所では一人でも運用出来るとか何とか噂まである。
そして爆煙が噴き上がるビルからセンサー頼りで立ち塞がる二人の横を抜け、激闘を繰り広げた交差点に躍り出ると同時にすかさず車輌の遮蔽物に身を隠してアウトローが到着するのを待つ。周辺マップによればあと数秒で姿を表すはずだ。
「これで拠点に帰ったら、飯でも食うか」
「なら冷蔵庫にピザがまだ残ってたはずですなので、チーズ増し増しのハチミツ掛けにしましょー!」
「好きだな、それ」
市販の安いピザにミックスチーズをてんこ盛りにしてレンジでチン。熱々の表面にハチミツをたっぷりと垂らして頂くそれは一人暮らしが長いVが考えたジャンクなハニーチーズナンもどきである。意識が低いピザほどトッピングが少なく、甘さとコクが引き立つ正にB級グルメ。コユキがちょっぴり太ってきたのは内緒だ。
「……残念だがお前達の昼飯は、あたし特製のホットドックで決まりだぜ」
一難去ってまた一難。
交差点の角から現れた待望の迎えはかつてと全く同じように、燃えるような闘志を纏う生徒を乗せて駆け寄って来たのだ。
ーーーーその後。
C&Cのネル、先生、護衛だった四人、Vとコユキのコンビによる決死の鬼ごっこが日が暮れるまで続いたのだが、最後はVが保険として呼んでいた『便利屋68』の面々によるアイコニック武器の支援もあって撤退を完了。
全ては振り出しに戻った。
しかし。
ーーー人の生み出した業は、再び世界のネットワークへと潜り込み、力を蓄えるだろう。
それこそ、今後訪れる大厄災に匹敵する規模で。
「……崇高を真っ向から否定する存在。表も裏も無い、0と1だけの完全証明、ですか。クックックッ…よもやバベルの塔でサンクトゥムタワーに挑むつもりとは…いやはや面白くなってきましたね」
「アプローチの仕方としてデカグラマトンに通じるようだが…神秘に代わる情報量の多さは特筆すべきものがある」
「そういうこった!」
「愚か者である点は間違いないでしょうね。バベルは天に並ぼうと驕り高ぶった人間の象徴。道筋は通じても、先の展望がお粗末なのです」
「えぇ、その通りです。ですが。我々が見逃す選択肢もありません」
キヴォトスのどこかで暗躍する大人達。
人が存在出来るかも分からない暗黒の空間と黒い円卓に腰掛ける姿は如何にも秘密ありきの集団だと言えた。
そんな彼ら彼女らは、Vという特大な特異点を目の前にしつつも直接的な手は出さず仕舞いだったが、今回の騒動でネットワークに紛れ込んだ“異物“に対しては即刻介入すべきだと結論付けたようだ。
「しかし担当するのは誰にする? 申し訳ないが自分の作品に集中したいのだが」
「私側も長年仕込みがようやく熟成します。木端の相手はごめんですわね」
「困りましたね。私もアビドスでやるべき事がありますので、そう長くは付き合っていられないのです。……えぇ、ですので彼の方を一時的に釈放するというのはどうでしょう?」
双頭の芸術家は驚き、花弁の女王は不快感を露わに、提案した黒服も表情が見えていれば苦々しい顔つきを浮かべながら、それ以外に良い方法が思い付かず、異例の釈放が実施される。
「ーーーおぉ! 是非とも手合わせしたいものだ! 小生の、天才である小生の、芸術的な差し手をとくとご覧あれぃ!」
地下生活者、解放。
塔
16番目の大アルカナにして、積み上げてきた物の崩壊を示すと共に再起への兆しも意味するタロットカードでも最悪の一種。
また、サイバーパンク2077の大型DLC・仮初の自由で追加されたエンディングルートでもあり、ここから小アルカナによるエンディングへと繋がっていく。
チュートリアルクリアにより、Vに以下の効果が適用されます。
・アイコニック武器の一部がナーフされました。
・クイックハックが使用不能になりました。
・relicパークが強化されました。