BlueArchive ~Another Hope~   作:笹の船

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実は結構前からやりたいと思ってました。
最近既に未来悟飯先生モノがあると知って、でも続きが全然来てないみたいなので自分で書いた方が早いってなったのでもう始めます。
他連載との平行になるので、コンスタントな更新は難しいかもですがお付き合いいただけますと幸いです。


敗北、そして目覚め

 背後でブーツの靴底が地面に置かれた軽やかな音が響く。

 

「今度は逃がしはしないよ。こちらもフルパワーを出して、殺す」

 

 年若い少女の声が背後から聞こえる。けれどそこに優しさなど欠片もなく、ただただ言葉通りにお前を殺すという冷たい殺意と、飽きたオモチャはゴミ箱行きだと言う残酷な響きが含まれていた。

 視界には破壊しつくされた街並み。正面には黒髪をセミロングに伸ばした美少年が立っている。

 少年もまた、言葉を発さないまでも背後の少女同様、冷酷さと残酷さを混ぜ合わせた仄暗く鋭い光をその瞳にたたえていた。

 少女と少年が街を、そこに住む人々を滅茶苦茶にしたのは明白だ。そんな二人から明確な殺意を向けられながらも、隻腕の青年は──地球に遺された最後のZ戦士である孫悟飯(そんごはん)は全身に気を漲らせて言い放つ。

 

「俺は死なない! たとえこの肉体が滅んでも! 俺の意志を継ぐものが必ず立ち上がり!」

 

 少年と少女がゆっくりと悟飯に向かって歩き出す。形を持った死がこちらに向かってくるのにも怯むことなく、悟飯は続ける。

 

「そして! お前達人造人間を倒す!」

 

 それは宣告だった。近い未来、必ず絶望の象徴たるお前達を倒す存在が現れると。

 自分が多くの人達から託されたように、自分もまた彼に託しいつまでも共に戦うのだと。

 そして、最後に勝つのは俺達なのだと。

 そんな希望を絶やさない為なら。今は小さな希望の炎(トランクス)が、目も眩むような明かりになる為の助けになるのなら。

 この命、惜しいものか。

 全身に漲らせた気を悟飯は気合と共に解放する。

 そして人造人間と悟飯の決戦が始まった。

 

 

 

「ごはっ!?」

 

 背後からのエネルギー弾によって、悟飯はビルの外壁を削りながら地面に叩き付けられる。

 これまでの戦いで学んだ全て。体捌き、拳の振るい方、気の練り方、その扱い方。強敵を前にした時の心構え。残してきた希望だけは何としても守るという意志。

 何もかもを出し切ってなお。孫悟飯は人造人間に勝てなかった。

 それどころか。全力を引き出させることすら叶わなかった。

 全身に痛みが走り、超サイヤ人を維持するだけの気も残っておらず、残された片腕で上体を起こすのがやっとだ。

 霞む視界の中、土砂降りで真っ暗なはずの空に太陽と見まがう光が煌々と輝いている。

 それが自分を殺す為に人造人間が作り出したエネルギーであることは明白だった。

 悟飯は負けた。そして、今から殺される。

 それが現実だった。どうしようもない位、残酷で覆しようのない現実だった。

 だから何だ。それが諦める理由になるのか。

 絞りかす程度にしか残っていない気をありったけかき集め、練り上げる。

 

「か……」

 

 雨に濡れ、血と土にまみれた黒髪が逆立って黄金色の輝きを取り戻す。

 死を目前に輝きが失われかけた瞳の色が黒から碧色に変わって宙に浮かぶ人造人間達を睨みつける。

 

「め……」

 

 脳裏によぎるのは、どんなに恐ろしい相手を前にしても決して諦めなかった師と父の背中だ。

 絶望の世界になってなお共に戦ってくれた先達たちの背中だ。

 

「は……」

 

 皆怖かったはずだ。悟飯がそう感じていたように。

 それでも、世界を──悟飯を守る為に戦った。たとえ自分が死ぬかもしれなくとも、最期の瞬間まで負けるものかと戦い抜いていた。

 彼らの想いを託された自分が、勝てないからとただ座して死を待つなど出来るものか。

 自分も彼らのようにトランクスに託したのだ。先を行く者として、そんな情けない最期を迎えられるものか。

 

「め……」

 

 せめて一矢を……いや、この一撃で平和を取り戻してみせる。

 悟飯を焼き尽くさんと降り注ぐ滅びの光に向かって、限界まで練り上げた気を溜めた右腕を突き出す。

 

「波ァーーーーーーーーッ!!!」

 

 父から受け継いだ気功波が一条の光の柱となって真っすぐに滅びの光へと突き刺さり、押し返していく。

 体の中に残った力がものすごい勢いで失われていくのが分かる。それがどうしたと、己の中の何もかもを燃やしてでも右腕に全ての力を込める。

 しかし。

 そんな悟飯の決死の一撃を、まるで子供の遊びだとあざ笑うように。

 人造人間達のエネルギー波があっさりとかめはめ波を押し返し、悟飯は光に包まれた。 

 全身をすさまじい衝撃が襲い悟飯の口から断末魔が漏れるが、痛みはもはや感じなかった。

 ただ、最期に思い浮かんだのはたった一人残すことになるトランクスのことだ。

 

(トランクス……生きろ……君は最後の……希望……)

 

 彼ならばきっと人造人間を倒し、世界に平和を取り戻してくれる。

 そんな祈りにも似た思いを抱いたのが、悟飯の最後の記憶だった。

 

 

 

「私のミスでした」

 

 夢の中にいるような、地に足のつかないような感覚。

 その割には妙に意識ははっきりしていて、不意に少女の声が悟飯の鼓膜を優しく震わせる。

 それは、あの人造人間のものとは似ても似つかない、優しさと後悔をにじませた声だ。

 

「……今更図々しいですが、お願いします」

 

 状況がイマイチ呑み込めない。

 分かるのは、悟飯が今列車の座席に座っていること。

 そして悟飯の正面には身なりの良い、真っ白な服を血で染めた少女が座っていること。

 

「孫悟飯先生。きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません」

 

 その少女が、悟飯のことを真っすぐと見つめながら先生と呼んできた。

 誰かを教え導いたことなど、トランクス以外にはいないはずだけれど。という悟飯の疑問を余所に少女は続ける。

 

「なにも思い出せなくても、恐らくあなたは同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから……」

 

 少女の言葉は、今の悟飯には何一つ理解の出来ないものばかりだ。

 なのに、どうしてか悟飯は彼女の話を遮ろうという気にはなれなかった。

 

「ですから……大事なのは経験ではなく、選択。あなたにしかできない選択の数々」

 

 選択。それは悟飯にとって随分と昔に取り上げられてしまった言葉だった。

 最後に自分で選んだのは、いつだっただろう。

 思えば、幼い頃から悟飯に許された選択肢というのは随分と少なかった気がする。

 そうして過去に思いを馳せそうになった悟飯の意識を、少女の声が引き戻す。

 

「責任を負う者について、話したことがありましたね。あの時の話には分かりませんでしたが……今なら理解できます。大人としての、責任と義務。そして、その延長線上にあった、あなたの選択。それが意味する心延(こころば)えも」

 

 やはり悟飯には、少女の言葉の意味するところが分からなかった。

 彼女はまるで悟飯と知己(ちき)であるかのように話すけれど、悟飯は彼女を全く知らない。

 そんな悟飯の考えを見透かしたのかのように、少女は申し訳なさそうに笑いながら吐息を漏らす。

 

「ですから、先生」

 

 それでも、少女はそんな後悔や申し訳なさを飲み込むように目を閉じてから、改めて悟飯を真っすぐと見つめなおして続けた。

 

「私が信じられる大人である、あなたになら、このねじれて歪んだ先の終着点とは、また別の結果を……そこへつながる選択肢は……きっと見つかるはずです」

 

 徐々に意識が薄れていく。車内を照らしていた朝日に目を焼かれるように視界が白んでいく。

 

「だから先生、どうか……」

 

 遠のく意識の中、悟飯は少女が自分に何かを願うような言葉の一端を耳にした。

 

 

 

「先生、起きてください。先生!」

「ハッ……!?」

 

 誰かを呼ぶような鋭い声で、悟飯の意識は覚醒した。

 目を開けるとそこは、見たこともない場所だった。

 綺麗に整った部屋だ。窓の外には背が高く、綺麗な街並みが広がっている。

 

「こ、ここは……」

 

 まだ人造人間に襲われていない街があったなんて。そんな感想を抱く悟飯の横で、誰かが息を吐いた音がした。

 そう言えば、誰かに呼ばれていたなと悟飯はそちらの方を見る。

 

「少々待っていてくださいと言いましたのに、お疲れだったみたいですね。なかなか起きない程熟睡されるとは」

 

 夜空のように(あで)やかな紺色の髪を腰よりも長く伸ばした、凛とした雰囲気を持つ少女が悟飯を見下ろしている。

 身なりの良さから、人造人間の襲撃などまるで知らない世界に生きているかのような印象すら受けた。

 けれど何より、悟飯にとって引っかかっていることがあった。

 

「え……熟睡……?」

 

 俺は人造人間に負けて死んだはずじゃ。喉まで出かかった言葉を飲み込んで、自分の体を見下ろす。

 そこには、先ほどまでの死闘がウソだったかのように傷一つない体と、父とお揃いの山吹色(やまぶきいろ)の道着と青いインナーがあった。

 ただ、左腕は悟飯の記憶通り失われていたけれど。

 

「…………」

 

 しかし、自分の理解を大きく超えた事態に流石の悟飯も混乱せずにはいられなかった。

 いてもたってもいられなくて、悟飯は腰かけていたソファから立ち上がる。

 拳を握っては開いて、肩を回してみた。問題はない。

 屈伸や伸脚、それから軽くその場で跳ねてみて足と全身をほぐしてみた。問題はない。

 

「すぅー……」

 

 目を閉じ、深呼吸をして瞑想。体の中を巡る”気”に意識を集中する。全く問題はなく、万全だった。戦えと言われれば、今すぐにでも飛び出していける。

 

「……どうなっているんだ」

 

 とうとう悟飯の口から現状に対する疑問が漏れてしまった。

 ドラゴンボールはとうの昔に失われている。だから、死人である自分が生き返ることはないはずだ。

 

「……少しうなされていましたよ。夢でも見られていたのでは? とにかく、ちゃんと目を覚まして、集中してください」

「……夢?」

 

 そんなはずはない。むしろ、今この瞬間の方がよっぽど夢のように思える。

 けれど、自分の隣に立つ少女はそんな悟飯を置いてきぼりにするかのようにメガネのフレームを指で押し上げながら話をつづけた。

 

「もう一度、あらためて今の状況をお伝えします。私は七神(なながみ)リン、学園都市『キヴォトス』の連邦生徒会所属の幹部です」

 

 

 これは、もしかしたらあったかもしれないもう一つの未来のその先のお話。

 孫悟飯がキヴォトスの生徒達と過ごす摩訶不思議でハチャメチャな青春の物語である。




未来悟飯、幸せになれッ!
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