BlueArchive ~Another Hope~   作:笹の船

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俺がやらなきゃ──

「自分が何をやったのか……私達がどれだけ怖かったか分かってるんですか孫先生!?」

「ま、まあまあ……落ち着いて早瀬さん」

 

 うっすらと涙を浮かべながら顔を真っ赤にして食って掛かってきたユウカをなだめながら、悟飯は焦りで背中を汗が伝うのが分かった。

 キヴォトスに来たばかりの悟飯には知る由もないことだったが、戦車の群れを相手にたった一人で立ち向かうなど有り得ないことだ。

 ましてやあの一斉砲火を受けてしまえば、どれだけ頑丈な生徒であっても重傷は免れない。というか、普通は死ぬ。それがこの学園都市キヴォトスにおける常識だ。

 当然、そんな常識の元で生きている生徒達から見れば先程の悟飯の行動は自殺行為でしかなく。

 あろうことか戦車の一斉砲火の的にされてしまっていたのだから、後に残るのはスプラッター映画も真っ青な光景と守れたはずの命を守れなかったというトラウマだ。

 そう。悟飯がキヴォトスの常識の範疇に収まるような存在であれば。

 しかし、今回戦車の的にされたのはキヴォトスの常識では到底図れないようなとびっきりの規格外な存在(戦闘民族サイヤ人)である。

 指先ひとつで星ごと消せる存在(宇宙の帝王フリーザ)や、そんな相手をも超える力(超サイヤ人)をもってしても敵わない人造人間と戦い続けた悟飯にとっては、たかが戦車の一団など相手にもならない。

 悟飯がしたことは至極単純だ。戦車の群れが放った砲弾を見てから全て殴り、あるいは蹴り返して戦車を破壊しつつ、その衝撃で目を回している不良達を戦車から引っ張り出して一か所にまとめた。()()()()である。

 この程度の芸当であれば、超サイヤ人になるまでもない。それどころか、生粋のサイヤ人である父、孫悟空やベジータだけでなく師であるピッコロ、クリリンや天津飯、ヤムチャと言った地球の戦士達ですらさらりとやってのけるだろう。

 試す機会などありはしなかったが、自分が鍛え上げたトランクスでも難しいことではないはずだ。

 故に、悟飯は最初からこの状況を欠片も危険だとは思っていなかった。けれど、ここまでの戦いを見て悟飯はキヴォトスの生徒達にこの状況を無事に切り抜けられるだけの戦闘力はないとも考えていた。だからこそ自分が前に出て対処したのだ。それが一番確実で、そして誰も傷つかないという確信があったから。

 別に生徒達から感謝されたいとか、尊敬の眼差しを向けて欲しいなんて考えていたわけではない。ただただ敵も味方も不必要に傷つく姿を見たくなかった。それだけだ。

 けれど、その結果まさか泣かれることになるとはこれっぽっちも考えていなかった。

 だから、悟飯は今怒った顔をしながらも涙をこぼしそうになっているユウカを前にどうしたらいいかが全く分からず焦っていた。

 困ったように他の生徒に助けを求めようと視線を巡らせるけれど、どの生徒もユウカほどではないにしろどこか悟飯の()()を咎めるような表情をしている。

 

(ま、参ったな。本当にこれくらいなんてことないんだけど)

 

 改めて、悟飯は自分がこれまでの常識が全く通じない場所に来てしまったのだということを痛感した。

 そんな悟飯を前に、ユウカはさらにヒートアップしていく。

 

「今回は無事だったから良かったものの!! これで孫先生が大怪我したらどうするんですか!!」

「す、すまない。でもほら、こうして誰も怪我をしなかったんだし……とりあえず先に進まないか?」

「話を逸らそうとしないでください! 確かに孫先生が強いのはよく分かりました!! でも、万が一ということもあります! もうこんな無茶はしないでください!!」

「い、いや……」

「い・い・で・す・ね!?」

「わ、分かった……」

 

 自分よりもずっと年下の、トランクスと同じくらいの年頃の少女であるはずのユウカの迫力に押し負け、悟飯はただ頷くしかなかった。

 頷きながら、悟飯の脳裏には一人の人物が浮かび上がる。

 

(なんだか、母さんみたいだな……)

 

 ユウカの剣幕は遠い昔、悟飯が幼かった頃の母──チチを思い起こさせた。

 

(母さんも俺が戦いに向かおうとするのをこうして怒って止めて来たっけ。……母さんは無事だろうか)

 

 最早確かめる術はない。それどころか、結局自分は母に心配をかけるばかりか先に死ぬという──少なくとも自分が死んだのは間違いないはずだ──親不孝をしてしまったのだから、今更母を心配する資格などありはしないだろう、と悟飯は思わず目を細める。

 目を細めた悟飯を見て何を思ったのか、ユウカが今度は大きく目を見開いてワタワタと手や首を左右に振りだした。

 

「す、す、すみません! 私ったら孫先生に向かってなんてことを」

 

 どうやら我に返ったらしいユウカに、悟飯は思わず右手をユウカの肩へ置いて微笑んだ。

 

「いや、心配してくれてありがとう。そうだな、早瀬さんの言う通りだ」

「へっ、あっ、えっと……!?」

 

 いまだ混乱の内にあるらしい赤い顔をしたユウカに、悟飯は優しく語りかける。

 

「すまなかった。次はもう少し皆に相談してから飛び出すことにするよ」

 

 悟飯の言葉に、ほんのりと赤くなったユウカの頬から赤みが抜け、困ったように眉尻が下がった。

 

「もうやらない、とは言ってくれないんですね」

 

 ユウカの言葉に、今度は悟飯が眉尻を下げる番だった。

 

「確かに、あんまり大人の俺が出張るべきじゃないかもしれない。それでも、俺自身に戦う力があるのに誰かが傷つきそうなのを黙って見てることなんて出来ないんだ」

 

 言って、悟飯はすぐ傍に集まる他の生徒達のことを見回す。

 

「俺はまだここに来たばかりだから、どこまで君達自身に任せればいいか分からない。さっきのだって、もしかしたら俺が出なくても勝てたのかもな。……でも、それでも誰かが怪我をするくらいなら俺が前に出る。その為に、俺はずっと戦ってきたから」

 

 そう、ずっとだ。悟飯が平和に暮らせた時期は生きている間のほんのわずかな時間だけだった。

 父の兄、ラディッツを始めとしたサイヤ人の襲来にナメック星でのフリーザ軍との戦い。そして人造人間達。

 奴らに負けるまでの20年以上にわたる悟飯の人生で、戦いに関わらなかった時期の方が圧倒的に短い。

 

(もう、たくさんだ。ただ黙って誰かが傷ついたり、死んだりするのを見るのは)

 

 ユウカの肩から手を離して、悟飯は右手を強く握りしめながら空を見上げる。

 清々しいほどにまで澄み渡った青空は、けれどあっという間に絶望という名の分厚い雲に覆われてしまうことを悟飯は知っている。

 そんな曇天の世界に射す一筋の希望の光を見つけ、それがいつか雲を晴らすことを願って悟飯は命を賭して人造人間達と戦った。

 けれど、その悟飯を超えるかもしれないあの若い戦士(トランクス)はここにはいない。

 

(そうだ。俺がやるしかないんだ。今度こそ、俺がこの世界を守らなくちゃいけない。俺しかいないんだ)

 

 そんな風に改めて覚悟を決めながら、悟飯は深呼吸をした。

 差しあたっては、リンが話していた連邦捜査部シャーレのある建物に行かなければならない。

 そこで渡すものがあるという話でもあったのだし、大分道草を食ってしまった。

 幸い、目的地はそう離れていない。舞空術で飛んでいかず徒歩で行ったとしても、そう時間はかからないだろう。

 

「せ、先生?」

 

 おずおずとしたユウカの声で、悟飯は自分が考えにふけっていたことに気が付いた。

 心配そうな彼女の表情を見て、自分の眉間にしわが寄っていたことにも気づく。

 

「ああ、すまない。少し考え事をしていたんだ。さあ、シャーレっていうところまではもう少しなんだろう? 早く行って、この状況を解決しないとな」

 

 上手く誤魔化せただろうか、と内心の不安をおくびにも出さないように笑いながら、悟飯は再び生徒達の顔を見回す。

 

「はい。シャーレの部室がある建物までほんの数ブロックです。急ぎましょう」

 

 どうやらうまく行ったらしい。リンの言葉に悟飯は軽く頷きながら、生徒達の前を歩こうとして皆から睨まれていることに気が付き動きを止める。

 

「……み、道案内を頼んでもいいかい?」

「赤点はギリギリ回避ですね。孫先生、追試なんてさせないでくださいよ?」

「いざとなれば私の閃光手榴弾で動きを止めます」

「手持ちの鎮静剤が本来の用途とは違う目的で使われないことを祈っています」

「正義実現委員会の一員として、孫先生の懸念する状況が万に一つもないことを証明してみせます」

「……これほど学校という垣根を越えて生徒達が団結した姿は見たことがありません。ですが、このような団結の仕方は今後は見たくはないものですね」

「ははは……こりゃ手厳しいな」

 

 まるで容赦のない生徒達からのツッコミに、悟飯は苦笑いするしかなかった。

 平和を守る前に、彼女達の機嫌を損ねない方法を学ぶべきかもしれない。

 先程とは全く違う理由で、悟飯は再び空を仰ぐのだった。




投稿が遅れてすみません。
並行して更新してる作品では既に書きましたが、8月から新しい職場で働いていて執筆するだけの体力を確保できていませんでした。
実はまだ執筆のための体力が確保できてるとは言い難いので、しばらく月一で描けたらいいなくらいのペースになります。
よろしくお願いいたします。
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