BlueArchive ~Another Hope~   作:笹の船

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運命的な遭遇

 シャーレオフィスのある建物についた悟飯はそこでリン以外の生徒達と別れ、地下へと向かっていた。

 しばらく使われていなかった建物であったことと現在キヴォトスで起きている異常事態の影響なのか建物全体が停電していた為、悟飯は以前来たことがあるらしいリンにブレーカーを確認しに行って貰い、自分はリンから伝え聞いていたものが保管されているという地下の一室に向かっていた。

 リンと別行動したのは理由がある。

 

(この先の部屋から強めの気配を感じる……気、とはまた違うけど、少なくともここに来るまでに一緒だった誰よりも強そうだ)

 

 そう。建物に入った時からずっと悟飯は何者かの気配を感じていた。それもキヴォトスに来てから一番強い気配だった。

 少なくともこの建物に用があるのは自分達だけのはずだし、リンの話によれば連邦生徒会長に指示されて保管しているらしい何か以外この建物には何もないとのことだ。

 であれば、悟飯たちに先んじて建物に侵入している誰かは少なくとも穏便な話が通じない人である可能性が高かった。

 勿論、誰がいたとしても悟飯はリンを守るつもりだが、今の彼は隻腕である。戦車群を相手に圧勝出来たとはいえ、万が一もある。

 そういう時、腕一本ではリンを守れないかもしれない。そういう懸念があったから、渋る彼女を何とか説得して別行動をとることにしたのだった。

 気配のする部屋に、けれど悟飯は気負うことなく自然に入っていく。勿論、ある程度の警戒はしておくが。

 

「うーん……これが一体何なのか、全くわかりませんね。これでは壊そうにも……」

 

 部屋に入ってすぐ、黒を基調としたけれど派手な模様の服を身にまとった人物が悩まし気な声を上げているのが聞こえてきた。

 かなり改造が施されているらしいもののかろうじてそれが学生服のように見えること、まだ幼さを残した声、そして体の大きさからして恐らく学生なのだろう。

 

「何を壊そうとしているのかは知らないけど、そういうのはやめて欲しいかな」

「ッ!? 誰で……」

 

 苦笑いしながら話しかけた悟飯の声に、生徒が弾かれたように振り返りながら銃口をこちらに向けてきた。

 が、悟飯は構えを取ることはしなかった。

 何故なら、振り返って悟飯を目の当たりにしたその生徒から何かに驚くように大きく息をのんで動きを止めたからだ。

 

「やあ。俺は孫悟飯。今日から先生、らしい。よろしく」

「あ、ああ……」

 

 挨拶は大事だ。母であるチチにも散々教え込まれたことだ。もっとも、そんな挨拶をする機会は最近ではめっきり減っていたが……。

 ブルマさんは元気にしているだろうか、と愛弟子トランクスの母親で父の悟空とも親交のあった人のことを思い出す悟飯を前に、その生徒は何やら挙動がおかしくなっていた。

 

「……? どうかしたのかい?」

「し、し……」

 

 敵意は感じない。が、どうにも挙動がおかしい。具合でも悪いのだろうか。

 仮面を被っているせいで、相手がどんな顔をしているのかが分からない。故に悟飯には生徒に敵意がないことしか分からなかった。

 さて、どうしたものかと悟飯が言葉を選んでいる時だった。

 

「失礼いたしましたー!!」

「えっ!? お、おい!?」

 

 まさに脱兎のごとく、何を奪う訳でもなく部屋から飛び出していく生徒に、悟飯は困惑の声を上げてその背中をただただ眺めることしか出来なかった。

 

 

────

 

 

 どこをどう走ったのかも分からないまま走り続け、ようやく足を止めた狐坂(こさか)ワカモは今もなお跳ね回る心臓を抑えるようにぎゅっと制服の胸のあたりを握りしめる。

 自分を捉えたあの憎き連邦生徒会。そんな奴らに思い知らせてやろうと、連邦生徒会長が保管を指示したというものをぶっ壊してやろうと不良達を扇動し、暴動を起こしてシャーレと呼ばれる組織のオフィスがある建物へ侵入したのまでは良かった。

 だが、そこで見つけたのは何なのかもよく分からないタブレットと石板のような物が浮かぶ装置だけ。

 何のためにあるのか、どうやって使うのかも分からない、そもそも何をしても起動しないのだからそもそもこれが壊れていないのかどうかも判別がつかない。

 そんな不可思議なものを前に首をひねっていた時だった。

 不意に背後から声を掛けられたのだ。

 ワカモは他者の気配にはそれなりに敏感である自負があったのだ。そして、実際にこれまで気配を察知できずに接近されたことなどなかったと言ってもいい。

 なのに、そんな自分が全く気配を察知できなかった。しかも声からして大人の男だ。ヘイローを持つ生徒──いや、自分よりもはるかに弱いはずの存在に背後を取られた。そのことに驚きと屈辱を感じて振り返った。

 そして、ワカモは雷に打たれた。引き金にかけていた指の力がするりと抜けてしまうほどの衝撃だった。

 男は隻腕だった。顔には額から左目、あごにかけて大きめの傷跡があった。

 一目で分かった。自分が潜り抜けてきた修羅場など、この男のソレと比べれば児戯にも等しいのだと。

 なのに、なのに。

 その黒い瞳は全てを包み込むような穏やかさと優しさをたたえていた。けれど、どこかほんのすこしだけ悲しさを感じさせる瞳で。

 立ち姿はとても自然で敵意も害意も感じられず、しかし隙の見当たらない研ぎ澄まされた強者の雰囲気をまとっている。

 まさに完成された存在が目の前にいた。連邦生徒会ごときを出し抜いた程度で僅かにでも悦に浸った自分の余りの未熟さが恥ずかしくてたまらなかった。

 そんな未熟さすらも受け止めてくれそうなあの瞳に見つめられるのにどうしようもない幸福を感じそうになって、頭がおかしくなりそうだった。

 いや、もしかしたらもうなっているのかもしれない。

 だって、さっきから頭の中はあの人のことばかりで埋め尽くされてしまっているのだから。

 

「そん、ごはん……」

 

 あの時確かに本人から聞いた先生の名前を口に出してみる。

 ああ、なんて美しい響きだろうか。聞きなれない名前だから、漢字までは分からないけれどきっと文字に起こしてみても美しいに違いない。

 

「そん、ごはん……先生」

 

 そんな人が先生だと言った。先生がどういう存在かよく分からないけれど、でもとても素敵な殿方だというのは間違いない。

 

「ああ……あなた様♡」

 

 この胸の高鳴りはただの錯覚だろうか。寝て起きたらこの熱さは去っているのだろうか。

 いや、そんなことはない。というか、そんなことは許さない。

 なんたってこの出会いは運命なのだから。

 すぅ、と息を吸ってゆっくり吐く。けれど、胸の高鳴りは収まらない。

 仮面の下の素顔がだらしなく緩みそうになるのを抑えるのが大変だ。

 さて、この気持ちは一体どうやって伝えたら良いだろうか。ただ先生に会って伝えるだけでは到底足らない。

 もっと、もっと劇的でありったけをこめられるような方法を考えなければ。

 

「ふふ、ふふふふふ……」

 

 低い声で笑いながら、ワカモはどこかふらついているような足取りでその場を去る。

 はたから見ればそれは、幽鬼のような姿だった。

 けれど、仮面がなければ誰もが気づいただろう。

 その瞳が来るその時に向けて爛々と輝いていることに。

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