BlueArchive ~Another Hope~   作:笹の船

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混乱収束

 狐の仮面を被った派手な服装の生徒が走り去って行くのを呆然とした表情で見つめた後、悟飯は右手を頭の後ろにやって目尻を落とす。

 

「うーん……驚かせちゃったかな。今度会った時に謝っておこう」

 

 誰に言うでもなく悟飯が独り言ちた時、ちょうどリンが悟飯のいる部屋に入ってきた。

 

「悟飯先生、何かありましたか? 何やら独り言をなさっていたようですが……」

「ん? ああ、いや。なんでもないよ。……見慣れないものが多くて」

 

 苦しい言い訳だったか、とほんのわずかに肩に力が入る悟飯だったけれど嘘がバレなかったのか、あるいは嘘だと気づいたうえで無視をしてくれたのかリンは小さく肩をすくめながら部屋の奥へと進んでいった。

 ホッとする悟飯に、目的のものを見つけたらしいリンが何かを差し出す。

 

「……受け取ってください」

「これは……? 何かの機械のようだけど」 

 

 長方形の細い板のようなそれはリン曰く連邦生徒会長が自分に宛てて残した『シッテムの箱』と呼ばれる物らしい。

 そして、これを悟飯が使うことでキヴォトスの都市機能をつかさどるサンクトゥムタワーの制御権を回復させられるはずだということだった。

 悟飯がこの学園都市(キヴォトス)に来ることなんて悟飯自身ですら知らなかったのに、そんな重要な権限を持たされているのは何故なのか。

 そもそも悟飯自身の知らない連邦生徒会長という人物は、どうやって悟飯のことを知り、そして自分にそれだけの信頼を寄せているのか。

 分からないことばかりだけれど、自分がやらねばキヴォトスはめちゃくちゃなままらしい。

 とにかくシッテムの箱を起動させなければ。話はそれからだ。

 が、ここで一つ悟飯は困ったことに気づいた。シッテムの箱はそれなりのサイズのタブレットであるゆえに片腕の無い悟飯では持つことしか出来ない。

 この状態で操作など到底無理だ。仕方がないので、どこか座れるところを探す。

 幸い、近くに丁度良さそうな椅子があった為そこに腰かけて太ももの上にシッテムの箱を乗せるような形にした。

 気を取り直して、シッテムの箱の電源と思しきボタンを押す。

 これで電源すらつかなかったらどうしようか、という悟飯の不安はすぐに明るくなったディスプレイが晴らしてくれた。

 が、すぐに悟飯は眉間にシワを寄せることになる。

 

(パスワードだって……? そんなもの、俺は知らな──)

 

 パスワードなど知らないはずだった。だって今日初めて見る端末なのだ。知っているはずがない。

 なのに、脳裏にふとある文章が浮かんでくる。

 何かに化かされているかのような薄気味悪さを感じながら、けれど他に思いつく言葉があるわけでもなし。

 悟飯は大人しく脳裏に浮かんだ文章をディスプレイ上に表示されたキーボードで入力していく。

 

 ”我々は望む、七つの嘆きを

  我々は覚えている、ジェリコの古則を”

 

 全く意味の分からない文章だった。パスワード、というよりはまるで古文書に記された何かの祝詞(のりと)のような印象すら受ける。

 調べれば出てくるだろうか。この土地の歴史を調べてみるのも面白いかもしれない。

 そんな取り留めのないことを考えていると、シッテムの箱のディスプレイに変化が起きた。

 どうやら、パスワードは承認されたらしい。驚くことに、既に悟飯の名前がユーザー登録されている。

 そのことに驚いたのもつかの間、さらに悟飯を驚かせる現象が起こった。

 いつの間にか、悟飯はシャーレの地下ではなく天井や壁に穴が開き、その先には澄んだ青空と海の広がる教室に立っていた。

 しかし、悟飯はすぐにピンときた。これは現実ではないと。

 ナメック星に行くとき、宇宙船の中でクリリンと行ったイメージトレーニング。あれを行った時の感覚に近いものを感じたからだ。

 きっと、現実の自分はシッテムの箱を持って棒立ちしている状態だろう。ないとは思うが、急に倒れたとしてもリンが傍にいてくれるから特に問題もない。

 そう判断し、悟飯はすぐ傍の机で小さな寝息を立てて眠っている小柄な少女に歩み寄る。

 

「むにゃ、カステラにはぁ……いちごミルクより……バナナミルクのほうが……」

 

 どうやら中々食い意地が張っている少女らしい。夢の中でも美味しいものを食べている彼女を起こすのは気が引けるけれど、こちらは緊急事態である。

 悟飯は心を鬼にして少女の肩に手を置き優しく揺さぶった。

 随分と熟睡しているらしい少女は中々起きなかったが、何度目かの揺さぶりでようやく目を覚ました。

 しょぼしょぼとした目で辺りをゆっくりと見渡した少女が、悟飯の姿を見つけゆっくりと顔を上げる。

 

「え、あ、あれれ? せ、先生!? この空間に入って来たっていうことは、ま、ま、まさか孫悟飯先生……!?」

「やあ、おはよう。うん、確かに俺は孫悟飯だ。君は?」

 

 出来る限り優しく悟飯が問い返せば、悟飯が来たというのに眠りこけていたことが恥ずかしかったのか目の前の少女がワタワタと慌てだした。

 やがて落ち着いたのか、ピシっと気を付けの姿勢になった少女が快活な笑顔を浮かべて自己紹介を始める。

 

「私はアロナ! この『シッテムの箱』に常駐しているシステム管理者であり、メインOS、そしてこれから先生をアシストする秘書です!」

 

 どうやらこの幼く見える少女は、けれどこのシッテムの箱を管理するすごい子らしい、と悟飯が感心しているとアロナが嬉しそうな笑顔を顔いっぱいに咲かせた。

 

「やっと会うことが出来ました! 私はここで先生をずっと、ずーっと待っていました!」

「俺を? 君は、俺を知っていたのかい?」

「はい!」

 

 自分を知っていたというアロナの言葉に、悟飯はちょっぴり眉間にシワを寄せる。そして、ほとんどないと思ったけれどその理由に一つだけ思い当たる節があった。

 

「……ひょっとして、君を生み出したのはカプセルコーポレーションのブルマさんかい?」

「かぷせるこーぽれーしょん……? ぶるま……? うーん……そんな名前の企業は聞いたことないですし、そもそも体操服がこのスーパーアロナを生み出したりするわけないじゃないですか。悟飯先生って、意外と冗談がお好きなんですね!」

「冗談ではないんだけど……」

 

 最初からダメ元での問いかけだったから、アロナの返答に落胆することはなかった。

 けれど、元の世界では知らない人などいない程の一大企業でもあったカプセルコーポレーションを知らないということはやはりこの場所は悟飯の知っている世界ではないのだろう。

 それは悟飯にとって少し寂しく、悲しいことでもあり、同時に安心するものでもあった。

 この場所に悟飯を知っているものはおそらくいない。けれど、人々を脅かすあの恐ろしい人造人間達もいないということだ。

 

「まあ、とにかくよろしくな」

「はい! よろしくお願いします!」

 

 それから、アロナは思い出したかのように生体認証を行うと言い出した。形式的ではあるものの、必要なことらしい。

 

「さあ、この私の指に、先生の指を当ててください」

 

 差し出されたアロナの人差し指に、悟飯も同じように人差し指の腹で軽く触れる。

 

「うふふ、まるで指切りして約束するみたいでしょう?」

「ああ。昔を思い出すなあ」

 

 もうずっと昔、悟飯がまだ戦うことを知らなかった頃。母であるチチと約束するときは小指と小指を絡めて指切りを、父の悟空とは拳と拳を突き合わせたことがあったなとおぼろげで擦り切れかけた記憶が悟飯の脳裏によみがえる。

 

「実は、これで生体情報の指紋を確認するんです! 画面に残った指紋を目視で確認するのですが……すぐ終わります! こう見えて目は良いので」

 

 なるほど、では現実世界の自分は足に乗せたシッテムの箱の液晶に指を置いているという風に見えるのか。と悟飯はぼんやりと頭の片隅でそんなことを考えていた。

 そう言えば、もう長いことあのイメージトレーニングをやっていなかったなということを悟飯は思い出した。

 そんな暇はなかった、と言えばそれまでなのだがキヴォトスにかつて自分がいた世界のように力を解放して修行できる場所があるとも限らない。

 そう言った場所が見つけられればそれが一番だけれど、そうではなかった場合のことも考えてあのイメージトレーニングの感覚を思い出しておこう。そう決意した。

 

(人造人間がいないからと言って、戦わなくて済むとは限らない……いざという時、何も出来ないなんてのはもうたくさんだ)

「はい! 確認終わりました♪」

 

 目の前から響いたアロナの元気な声で、悟飯の意識は現実に戻される。

 

「ん、もう終わったのかい?」

「はい。これで先生が自由にシッテムの箱を使う準備が完了したと言っても良いです! 早速ですが、何かやりたいことなどはありますか?」

「ああ、それなんだけど──」

 

 悟飯はここに来るまでに聞いたこと、シッテムの箱を使って自分がやるべきことをアロナに説明する。

 

「なるほど……先生の事情は大体わかりました。連邦生徒会長が行方不明になって、そのせいでキヴォトスのタワーを制御する手段がなくなった……」

「アロナはその連邦生徒会長について何か知らないのか?」

 

 悟飯の問いに、アロナは申し訳なさそうな表情をしながら首を左右に振った。

 

「私はキヴォトスの情報の多くを知ってはいますが……連邦生徒会長についてはほとんど知りません。彼女が何者なのか、どうしていなくなったのかも……」

「そうか……彼女は俺のことも知っているみたいだったんだけど、俺は彼女を知らないんだ。どこで俺を知ったんだろう」

「それは……分かりません。お役に立てず、すみません」

 

 しょんぼりとした表情のアロナは、けれどその代わりにというように拳を胸の前で固めて少し力むようなポーズをとった。

 

「ですが、サンクトゥムタワーの問題は私が何とか解決出来そうです」

「本当かい? それじゃあ、頼めるかな」

「はい! 分かりました。それでは、サンクトゥムタワーのアクセス権を修復します!」

 

 それからはあっという間だった。ほんの一瞬意識を現実に戻してみれば薄暗かったシャーレの地下室に電気が灯り、アロナはサンクトゥムタワーの制御権を回収できたという報告もそのすぐ後に来た。

 

「今のキヴォトスは、先生の支配下にあるも同然です!」

 

 アロナの言葉に、悟飯は困ってしまった。そんな大仰な物、この場所を全く知らない自分に渡されても困る。

 それに、悟飯は自分にできることの限界というものを身にしみて分かっているつもりだった。

 きっと、自分はこのキヴォトスでは強い方だと思う。けれど、所詮はただの人間だ。地球にいた神様のように世界を見下ろすことも、どこかにいる困った人すべてを助けられるほどの力もない。

 自分の腕は、普通の人のそれに比べれば長いかもしれないが、それでもどこまでも伸ばせるような物では決してない。

 結局、自分は人造人間を倒して世界に平和をもたらすことも出来なかったし、トランクスが一人前になるまで見守ってやることも出来なかった。

 だから、そんな自分がキヴォトスを支配するだけの力を持っていたとしてもきっと持て余してしまうだろう。

 

「アロナ、タワーの制御権を連邦生徒会に移すことはできるかい?」

「え? はい。先生が承認さえしてくだされば、サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管できます。でも……大丈夫ですか? 連邦生徒会に制御権を渡しても……」

「ああ。俺が持つよりもきっと、彼らに任せた方がいいと思うんだ」

「分かりました。これよりサンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管します!」

 

 アロナがそう言ってからそれ程立たないうちに、リンが懐から携帯を取り出してどこかと連絡を取りだす。

 

「孫先生、サンクトゥムタワーの制御権の確保が確認できました。これからは、連邦生徒会長がいた頃と同じように、行政管理を進められますね」

「良かった。これで一件落着、かな?」

「はい。お疲れ様でした先生。キヴォトスの混乱を防いでくれたことに、連邦生徒会を代表して深く感謝いたします」

「役に立てたのなら何よりさ」

 

 ひとまず大変な状況は乗り切れたことに悟飯は胸をなでおろす。

 

「それでは『シッテムの箱』は渡しましたし、私の役目は終わったようですね」

「ん、ああ。色々と助かっ──」

 

 リンにお礼を言おうとした悟飯を遮って、リンは何かを思い出したように声を上げた。

 

「あ、もう一つありました」

「まだ何かあるのかい? ここまで大変だったし、難しいものでなければ口頭で伝えてくれれば俺だけで何とかするけど……」

 

 悟飯の言葉にリンは小さく首を左右に振る。

 

「大したことではありませんが、折角ですので。ついてきてください。連邦捜査部『シャーレ』をご紹介します」

 

 そう言って、リンは今日一番の柔らかい笑顔をふわりと浮かべた。




10月はずっと体調を崩してたり、スパゼロでランクマやってたりして超遅れましたすみません。
スパゼロは当然未来悟飯を使ってます。ゴジ4とか身勝手とか巨大キャラにボコられてキレてますが……
未来悟飯、超サイヤ人よりもワンチャン通常の方が強いのではとちょっと思ってたりもします。ワイルドセンスとフルパワーチャージはスキル構成としては大分強くない? どちらもコスト2っていうのも強い。
超サイヤ人はバリアと則スパで悪くはないけどどっちもコスト3っていうのが地味に重いし……
でも爆裂乱舞がカッコ良すぎて超サイヤ人使いたくなる。
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