俺はダヴィンチの工房に来ていた
ダヴィンチの存在はカルデアの中でも機密事項である
マシュを含むAチームのメンバーにも知らされていないほどなのだ
「失礼しまーす」
「おや?君がここに来るなんて珍しいじゃないか」
「少しお願いしたいことがありまして...」
「お願い?」
「クラスカードを作ってもらえませんか?」
「クラスカード?」
ダヴィンチは不思議そうに首をかしげる
「と言っても、無名のクラスカードですけど」
「別にいいけど、どうしてそんなものが?」
「内緒です」
「えぇー」
ダヴィンチは口を尖らせる
「作るのは私なんだよー?少しぐらい教えてくれてもいいじゃないかー」
このまま拗ねられても困るので答えることにした
「詳しくは話せないですが、切り札になると思いましてね」
「あ!また含みのある言い方するー!ずるいぞー!」
ダヴィンチは頬を膨らませ、俺の肩つつく
ずるいのはオッサンのくせにやけに可愛い仕草をするそっちではないだろうか
「まぁ、分かったよ。作っておくとしよう」
「ありがとうございます」
何とか作ってくれそうだ、これであの人を救える
「それで、最近マシュの様子はどうだい?」
「どうというと?」
ダヴィンチはため息を吐く
「ほら、ベリル君の件があっただろう?その後だよ」
「あぁ、僕が記憶を曖昧にしたので彼女のトラウマにはならないですよ」
工房からでないダヴィンチは彼女のことが心配なのだろう
「良かった、というべきなのかな。いや、それにしても」
ダヴィンチは俺を見る
「よくカルデア職員にバレなかったね、あの戦闘」
そう、俺とベリルの戦闘はカルデアの職員達にはバレていない
あの戦闘を知っているのは、ロマニ、オルガマリー、ダヴィンチくらいだろう
それもそのはず、俺がハッキングして諸々のデータを消したのだから
この前ダヴィンチ達に見せたのは俺が撮っておいたデータであり、それ以外は存在しない
「そこは、上手くやりましたよ。僕はあくまでドクターの助手なので」
「Aチームの一員を叩きのめす助手なんて君ぐらいだよ」
「ありがとうございます」
「褒めてはいないのだが...」
その後少しカレと談笑し俺は工房を出た
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「彼方くーん、助けてくれー」
「何情けない声出しているんですか...」
俺が医務室に戻るとロマニがデスクに突っ伏していた
辺りには書類が散乱している
「だって、この量だよ!僕一人じゃ無理だよー」
ロマニは目をウルウルさせながら書類の山を指差す
「ちょっと、その年でそれはキツイっす」
「うぐっ!」
胸を押さえながらロマニが呻く
「うぅー、言葉のナイフが鋭いよー」
「分かりましたよ、あとは僕がしておくので、ロマンさんは寝てください」
するとロマニの肩がビクッと震える
「も、もしかしてバレた?」
ロマニが恐る恐る俺に聞く
「ファンデーションで目のクマを消すとは考えましたね」
「うっ、他の職員にはバレなかったのに...」
「僕の目は欺けませんよ、倒れたらどうするんですか」
「大丈夫だって自分の体は自分がよくわかっtヒィッ!」
ロマニがふざけたことを抜かすので少し睨んでやった
「ドクター?今何か言いましたか?」
「い、いえ何も言っていません」
「ですよねぇ、一回倒れたことがある人がそんなふざけたこと言いませんよねぇ」
ロマニはガタガタと震えながら首を縦に激しく振る
「はい、これ」
「な、なんだい。これは...」
俺はロマニに錠剤を渡した
「僕特製の睡眠薬です。これでぐっすり眠ってください」
「これ本当に飲んでいいものなのかい!!!」
俺が渡したのは俺の毒をダヴィンチに解析させ、睡眠薬にしたものである
直接俺がロマニに打ち込んでやっても効果は変わらないが、毎回はめんどくさいし、正体がバレる可能性を考慮した結果、ダヴィンチに薬を作ってもらった
「特製って言っても作ったのはダヴィンチちゃんなんで大丈夫です」
「それを聞いてもっと不安になったよ...」
ロマニの顔が更に渋くなった
「それに効果は既に実証済みなので、安心してください」
「ち、ちなみに誰で実験したんだい?」
「キリシュタリアさんです」
「は?...はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
ロマニが白目をむきながら叫ぶ
「君はAチームのリーダーに何をしているんだ!!!!」
「いやぁ、ロマンさんのためって伝えたら二つ返事でOKでしたよ、いつか暗殺されるんじゃないですかねぇ」
「い、胃がし、死ぬー...」
胃を押さえながら男は呻く
「おっと、それは大変だ。早く薬を飲んで横にならなければ」
「君...分かって言ってるよね」
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その後ロマニは渋りながら薬を飲み、すぐに寝息を立て始めた
「見たところ四徹ってところかな?全く困ったものだよ」
どうやら効果は出ているようだ
この薬には睡眠を促す効果、疲れを取る効果、肌を綺麗にする効果、目覚めを良くする効果のほかに『悪夢を見せない』という効果もある
この効果によってロマニは悪夢を見なくて済むようになる
「優しい王様に悪夢なんて似合わないよ」
俺はそう呟き、書類の山を崩し始めた
数時間後...
「ふぁー良く寝たー、彼方君この薬凄すぎるよ!!!」
ロマニが興奮気味にそう言ってきた
「ぐっすり眠れましたか?」
「うん!いつも嫌な夢のせいで寝不足になっちゃうんだけど、この薬を飲んだら全く見なかったんだ!」
「それは良かったです。手袋をし忘れるくらいいい寝心地だったんですね」
「っ!!!!」
さっとロマニは指輪を付けている手を隠す
「そんなに隠さなくていいじゃないですか、既婚者でも『マギ☆マリ』は読んでていいと思いますよ」
「き、既婚者というわけじゃないんだけどね...」
「あ、そうなんですね。」
「「.........」」
沈黙がこの場を支配する
「そ、そそそそういえば、書類の整理はどのくらい終わったんだい?か、かなりの量があったと思うんだけど」
いや、はぐらかすの下手かよ
「終わりましたよ、全部」
「え?」
「カルテの整理、備品の点検、その他諸々計334枚、全て終わりました」
「...」
ロマニは言葉を失い、顔が引きつっている
「ほ、ホントに人間なのかい?君は」
「あぁ、それと冷蔵庫にケーキ入れておいたんで、良ければ食べてください、いや寝起きはキツイか...」
「彼方君」
「はい?」
ロマニは真剣な顔で俺を見てきた
「君の方こそ無理をしているんじゃないかい?書類の山だって簡単な内容ではなかったはずだ、普通の人間なら不可能な量だよ」
いつにもなく真面目な顔で話すその姿は責めるというよりかは心配の色が強い
全くこの男は...これでは魔術王ではなく優王である
「それは僕が普通の人間だった場合でしょう?僕の回復力はロマンさんが良く知っていはずです」
「ぐっ、それはそうだけど」
俺は諭すように話す
「疲労の回復力だって普通の人間よりもはるかに上なんですよ。あなたが心配しないといけないのは、僕の体じゃない。ご自身の体です」
ロマニは俺の話を聞くと泣きそうな顔をしながら口を開いた
「すまない、僕が役立たずなばっかりに、彼方君に無理をさせてしまって」
「ドクター・ロマニ」
俺はそう呼ぶと彼の震えた目をみた
「僕はドクターの助手、つまり僕はしもべ。あなたは僕にとっての王です」
「っ!」
「しもべは王のために働きます。もちろん王よりもね」
「王...」
「えぇ、王です。しかし困ったものですよ、働き者の王様に仕えるなんて」
俺はにやりと笑みを浮かべた
「王様が働き者だったら、それに仕えているしもべは王様の倍働かなければならないじゃないですか。あまり聞きませんよ?過労死ラインを反復横跳びする王様なんて」
「うぐっ!」
ロマニはバツの悪い顔を浮かべた
「いいですか?王様が役立たずなんて自分で言ってしまえば、その下に就くしもべはそれ以下になってしまうんですよ」
「...」
「王様は『なんか行ける気がする!』くらい軽く構えておけばいいのです」
「それはちょっと...」
「とにかく、これからはもっとしもべに頼るように、いいですね?」
「うーん...」
ロマニの顔は渋いままだ
「でないと、王様の仕事を無理やり奪いますからね」
「そ、そんなー」
ロマニは困り顔を浮かべていたが、次第に笑みがこぼれた
「ははは!分かったよ、僕は少し肩に力が入り過ぎていたようだ」
ロマニは俺の目を見る
「これからは彼方君に頼ることが増えるだろうけど、それでもいいのかい?」
俺もロマニの目を見る、そう、やっぱり貴方はその目が似合う
「はい、仕事を取られないように頑張ってくださいね?ロマンさん」
しもべと働き者の王様は
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「一般人の応募?」
ロマニが目の前のツンツンした女性に問う
「えぇ、マスター候補の補欠枠として一般人を入れることになりました」
「どうしてそれを僕らに?」
今この場にはロマニと俺、そしてオルガマリーがいる
オルガマリーは冷たい目で
「一般人なんて誰も相手にしたくないわよ、だから一般人に近しいあなた達に世話を任せることにします」
「あぁ、責任を負いたくないんですね?何か起きても僕たちに責任を押し付けるために」
「ちょっと彼方君!」
ロマニが俺の発言を注意する
「えぇ、その通りよ。彼方、流石鋭いわね」
「え?」
ロマニの口からマヌケな声が漏れる
彼としてはオルガマリーが俺の発言に怒ると考えたのだろう
だが返ってきた答えはその真逆、肯定だった
「私は余計な責任を負いたくないの、悪い?」
オルガマリーは悪役令嬢のようににやりと笑みを浮かべた
「あぁ、一般人がカルデアに馴染みやすいように、が、本音ですね」
「っっっっ!」
悪役令嬢の顔が真っ赤に染まる
「そ、そんなわけないでしょ!私は魔術師で所長よ!一般人なんて気にかけるわけないじゃない!!」
オルガマリーが叫ぶ
「見てくださいロマンさんカマかけて正解でした」
「そうだね。あのオルガマリーだからおかしいと思ったんだ」
「!!!!!!!!!」
これ以上は最高素質のガンドが飛んできかねない
話をそらすために真面目な顔を作る
「オルガマリーさん」
「なによ!言い残すことがなにkaヒィッ!」
おかしい、僕は真面目な顔をつくったのであって悲鳴を上げさせる気はなかったのだが
「か、彼方君!君の顔怖いよ!!!」
ロマニは半泣きである
「そんなに僕の顔って不細工なんですか?」
「そ、そういうわけじゃないというか。むしろその逆というか...」
なにを言っとるんだこのチキン所長
「な、なにかしら彼方、質問があるの?」
オルガマリーは恐る恐る聞く
「はぁー、いや、その一般人の名前とかって分かったりするんですか?」
「えぇーと、ちょっと待ちなさい」
オルガマリーが端末で調べる
「そういえば、レフはどうしたんだい?」
ロマニが聞く
「レフは用事を思い出したとか言って、あなた達が来る直前に出て行ったわ。本当はレフにも詳しく説明してほしかったのだけれど...」
「ははは、レフはそういうところがあるからね」
ため息が漏れるオルガマリーにロマニは愛想笑いで返す
レフは俺に近づこうとしない、マシュやオルガマリーの近くにいたとしても俺が近づくと逃げるように離れていく
レフの魔神柱としての勘がそうさせているのだろうか
「分かったわよ、彼方。」
オルガマリーが端末から顔を上げる
「彼女の名前は『藤丸立香』、レイシフト当日にカルデアに来るらしいわ。魔術の素質も...どうやらないみたいね」
「藤丸...たしかにその家名は魔術師で聞いたことがない」
ロマニがうんうんとうなずく
ついに来るようだ、この世界の主人公『藤丸立香』が
演じるとしよう『一般人を見下す魔術師』 を
『主人公を馬鹿にする嫌われ者』 を
彼女のために
「本当にただの一般人がカルデアに来るようですねぇ」
「「!!!!!!!!」」
俺の雰囲気の変わりように二人は驚いた
「か、彼方君」
「魔力タンクにもならないゴミを当日に入れるだなんて何を考えているのか」
「そっそんな言い方しないでもいいじゃないか!!」
ロマニが俺の肩を掴む
「彼方」
オルガマリーの鋭い言葉が刺さる
「これは決定事項です。貴方の意見は聞き入れません」
「へぇ、随分いい顔をするようになったじゃないですかアニムスフィアさん」
「っ!」
オルガマリーは酷くショックを受けたような顔をする
「彼方君!君は本当にどうしたんだい?!人が変わったように!」
ロマニは俺の顔を動揺に染まった目で見ている
パチン!
乾いた音が所長室に響く
「っ!」
ロマニは俺の頬を叩いた彼女を見る
「貴方には...アナタには失望しました!!!」
彼女は涙を瞳に溜めながら吠える
「そんなに私の言うことが気に入らないなら結構です!今すぐ私の前から消えなさい!!!!」
彼女の目には怒り、悲しみ、何よりも失望が渦巻いていた
「そうですか、僕も失望しましたよ。何の役にも立たないゴミを入れるカルデアに、ね」
俺はそう言うと所長室から出ていった
もっと前から演じておいた方が違和感が少なかっただろうか?
まぁいい、これで光はさらに強くなる
俺がどんだけ悪感情を向けられようが『人類→地球外生命体』である以上、フォウが覚醒する心配もない。
これは下準備だ
俺という規格外がいたとしても彼女、『藤丸立香』をみんなが頼るようになるための
人間の悪感情から大切な幼馴染を守るための
指揮をとるロマニ・アーキマンが職員に妬まれないための
マシュが『役立たずの欠陥サーヴァント』などと言われないための
苦しむのは俺だけでいい
失望されるのは俺だけでいい
憎しみを向けられるのは俺だけでいい
恨みを買うのは俺だけでいい
役立たずだと罵られるのは俺だけでいい
この日を境に俺は「人が変わった」と言われるようになった
Aチームを避けるようにした
マシュにもきつく接するようにした
一般人を見下す典型的な魔術師として職員たちと接するようにした
いかに自分が無能であるかを演じ始めた
悪印象は瞬く間に蔓延する
これで味方はいなくなった
感想、誤字脱字報告、アドバイス等お待ちしております