2025/02/13 内容の一部を変更しました
コソッと集中治療室に戻ってきた俺は、自身の強化について考えていた
これから先、「底辺魔術師」を演じるうえで高度な魔術は使えない
となれば、肉体の回復は己の再生能力に頼るしかない
だが、耐久度も再生力も今のままでは到底足りないだろう
『提:エネミーを吸収するというのはいかがでしょうか?』
エネミー?
『ナビ』の提案に俺は首をひねる
『肯:ブラッド族は惑星を吸収し己の肉体を強化します。同様に魔獣などの敵対エネミーを吸収し、身体能力の向上を図るという算段です』
それ大丈夫なの?
逆に乗っ取られたりしない?
『否:ブランクフルボトルで残留思念や、概念的弱点を取り除きエネミーの能力のみを吸収することが可能です』
『ナビ』が教えてくれた手順はこうだ
1、エネミーを倒す
2、エネミーから成分を抽出
3,自分の体に成分を直接注入する
特撮で敵側の怪人がやりそうな手口である
ドラゴンとか吸収したら滅茶苦茶かっこいいのでは!!
口から火とか吹けるのでは!!
『呆:マスターも男の子なのですね』
最近そういうのがまた好きになり始めたんだよねー
少年の心を取り戻したというかなんというか
♪♪♪♪~♪♪♪♪~
ビルドフォンを手に取り、電話に出る
「もしもし」
『やぁ、彼方君。調子はどうだい? 傷は完治したかな?』
「はい、おかげさまで。 右腕は黒くなったままですけどね」
『そうか...やはり、魔術回路までは戻らなかったか』
「それで、ご用件は?」
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俺は支給された『魔術礼装・カルデア』に着替える
電話越しのロマニの伝言を思い出す
『君には管制室に来てほしいんだ。服はこの前渡した魔術礼装を着てきてくれ』
あまり好きじゃないんだよなぁ、この礼装
この胸のバンドは一体何の意味があるのだろう
これのせいで立香を見るとき目のやり場に困るんだよなぁ
動きやすいってどこかで聞いたことはあるけど
マシュも、とんでもねぇ戦闘服だし
カルデアの男性スタッフが紳士な人たちばかりで本当に助かったよ
まぁ、不埒な真似をしたらスマッシュに変えて壊れるまでこき使ってやるのだが
そんなことを考えながら俺は集中治療室を出る
廊下の窓から見えるのは吹雪だけ
外の世界からは完全に孤立してしまったということが伝わってくる
ひえぇ、寒そう~
「カナ君!」
外を見ていると明るい声が聞こえる
声がした方向を見ると、立香、ダ・ヴィンチ、フォウが一緒に歩いてきた
立香は俺に向かって走ってきた
ビンタかタックルか、それともドロップキックか
そして、彼女は大きく両手を広げ
俺に抱き着いてきた
え?なんで?なんで?立香が俺を抱きしめて、あ、あったかくてやわらかくぁwせdrftgyふじこlp
俺の頭をショートさせるのには十分な一撃だった
「もう!カナ君が消えちゃったんじゃないかってずっと心配してたんだから!」
グハッ!(999ダメージ)
ダメだ、落ち着け俺
俺は悪徳魔術師、俺はクズ、俺はスペースロクデナシ
「暑苦しいんだよ、お前」
「わわっ!」
俺は無理やり立香を引きはがし、ダ・ヴィンチにパスする
「おっと!...ちょっと彼方。レディの扱いがなっていないんじゃないかい? 君の幼馴染はこんなにも君のことを心配してくれていたのに」
ダ・ヴィンチは眉をひそめる
「突然抱き着いてくる女を淑女とは言わないんですよ、ダ・ヴィンチさ「うん?」...ちゃん」
本当の暗黒微笑を見たような気がする
「うぅ、カナ君が冷たいよぉ」
「フォウフォウ!」
立香はフォウ君にテシテシと頭を叩かれていた
チラッと立香を見る
目立った傷は...ないな
よしよし
そんなこんなで俺たちは管制室に向かった
「おはようございます先輩、彼方さん。無事で何よりです」
「マシュも助かったんだね! 良かったぁ...」
立香はマシュの手を握る
「はい。先輩が手を握ってくれたおかげです。二度あることは三度あるという格言を信じたい気持ちです」
握られた手を見ながらマシュは嬉しそうに笑う
よし、マシュも目立った怪我はないな
彼女には傷を負われると困るのだ
立香の身体を守るという意味でも、心を守るという意味でも
「馴れ合いはそこまでにした方がいいじゃないかな?ほら、ロマンさんがいつ話を切り出していいか困っているじゃないか」
「コホン、ありがとう彼方君。でも言い方には気を付けようね~」
ロマンが俺たちの前に立つ
「まずは生還おめでとう立香ちゃん、彼方君。そしてミッション達成、お疲れ様。なし崩し的にすべてを押し付けてしまったけど、君たちは勇敢にも事態に挑み、乗り越えてくれた。その事に心からの尊敬と感謝を送るよ。君たちのおかげでマシュとカルデアは救われた」
ロマニはそこまで言うと目を伏せた
「所長は残念だったけど...今は弔うだけの余裕がない。悼むことぐらいしかできない、そして彼方君」
彼は俺の方を向く
「君の所長に対する行動を全て褒めることはできないけれど...立香ちゃんがカルデアスに飲み込まれることは防がれた。ありがとう彼方君」
正直、もっと責められると思ったのだが感謝を伝えられてしまった
スタッフ達も俺に対して、怒りだとか恨みだとかを持っている者はいなさそうだ
人として出来過ぎじゃないか?カルデアの人々
「私たちが生きているんだから所長だって...」
「......」
ロマニは立香の言葉に無言で首を横に振り、立香はグッと耐えるように下を向く
「いいかい。僕らは所長に代わって人類を守る。それが彼女への手向けになる。マシュから報告を受けたよ...」
聖杯と呼ばれた水晶体とレフの言動
外部との連絡が取れなくなり、カルデアから外に出たスタッフも戻ってこない
人類は滅びている、嫌でもレフの言葉が真実だということが分かる
今のカルデアは通常の時間軸に存在していない、宇宙空間に浮かんだコロニーとは言い得て妙だ
そして、カルデアスに未来ではなく『過去の地球』が映し出される
特異点、それは人類のターニングポイント
“この戦争が終わらなかったら”
“この航海が成功しなかったら”
“この発明が間違っていなかったら”
“この国が独立できなかったら”
そういった、現在の人類を決定づけた究極の選択点
それを崩されることは、人類史を破壊することに等しい
特異点を攻略しないかぎり、人類に未来はやってこない
うーん、何度聞いても無理ゲー
だが、カルデアはまだその未来に達していない
俺たちだけがこのクソゲーに挑むチケットを持っている
「結論を言おう。この七つの特異点にレイシフトし、歴史を正しいカタチに戻す。それが人類を救う唯一の手段だ」
「この状況で君たちに話すのは強制に近いと理解している。それでも僕はこう言うしかない」
ロマニは立香とマシュ、俺を見る
「マスター 藤丸立香、彼方・エイトスターズ、サーヴァント マシュ・キリエライト」
「君たちが人類を救いたいのなら。2016年から先の未来を取り戻したいのなら。君たちはたった三人で、この七つの特異点と戦わなくてはいけない」
「その覚悟、君たちにカルデアの、人類の未来を背負う力はあるかい?」
ロマニの言葉に立香とマシュは息を飲む
無理もない、今から自分たちが世界を救うというのだから
少女二人が背負っていい代物じゃない
マスター適性者は立香と俺の二人だけ
戦力はサーヴァントとして日の浅いマシュ一人
彼女たちの手はいつの間にか震えていた
しかし、少女たちは走り出した
「私は一般人...ただの人間です。人類を救う救世主や神様なんてのにはなれません」
「でも...自分にできることなら精一杯頑張ります!」
立香は言い切ってみせた
「...あの炎の中で、先輩に手を握ってもらったとき、私は生まれて初めて人の温かさに触れたのだと思います」
思い出すようにマシュは微笑む
彼女もまた覚悟を決めた
「私は...命をかけて先輩を守ります!」
「マシュ...」
二人は俺を見る
気が付くと、管制室にいる皆の目線が俺に集まっている
なんでそんな『イチかバチか』みたいな目でこっちを見てるの?
よし、ここは仕方なーく協力するという感じで同意しよう
「...人類の未来のため、
「「「「..................」」」」
みんな、ポカンと口を開け固まっている
え? 何
この沈黙、こっわ!
「何です?僕もカッコいいセリフを言った方がいいんですか?」
「アッハッハッハ!皆、まさか君が同意するなんて思っていなかったのさ!」
ダ・ヴィンチが爆笑しながら俺の背中をバシバシと叩く
えぇ、流石にヒド...しゃあないか、そういう態度取ってきたもんな
俺の口から人類の未来のためなんてガチで言ってたなんて思わないよな
「僕にも守りたいものの一つや二つありますよ」
「か、彼方君。何か変なもの食べたりしてないかい?」
「ロマンさん、さっきの真剣な顔はどこにいったんですか。お前らも、いつまでそうしてる気なんだ?」
「ご、ごめん」
「す、すみません」
「ダヴィンチちゃんもいい加減笑うのやめてくれませんか」
「す、すまない...でも、ブフッ! ゴメン!ちょっと席を外させてもらうよwwww」
ダ・ヴィンチは管制室から出ていった
おっかしいなぁ、もっとシリアスな感じになると思ったんだけどなぁ
みんな肩の力が抜けきっちゃってるよ
スタッフ達も笑ってるし
「と、とりあえず、三人ともありがとう。 ...これで僕たちの運命は決定した」
ロマニの顔が真剣なものに変わり、それに応じて皆の気も引き締まった
ようやく、シリアスが戻ってきてくれたようだ
「これはカルデア最後にして原初の使命。人理守護指定・
「魔術世界における最高位の使命を以て、我々は未来を取り戻す!」
こうして、未来を取り戻す戦いが始まったのだった
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俺は管制室に残っていた
「それにしても、彼方があの場でマスターになることを宣言するなんて思わなかったよ」
「だからって爆笑します? 普通」
俺はコーヒーを嗜んでいるダ・ヴィンチをジト目で見る
「そんなに怖い顔しないでおくれよ、悪かったとは思ってるさ」
俺のジト目ってそんなに怖いのかなぁ
「感謝の気持ちもちゃんとあるよ? 魔術師でもない立香とサーヴァントとして未熟なマシュだけじゃ心配だったからね」
「あいつらを守ったり、支えたりする気はありませんよ。必要なら切り捨てます」
「あの特異点での『アレ』は守ったうちに入らないのかい?」
おそらくカレは、セイバーの宝具を防いだ件を言っているのだろう
「自滅覚悟の令呪を使われるよりかは、マシだと判断しただけですよ。とんでもない代償を払いましたけど」
「...魔術回路が焼き切れてしまったんだってね、ロマニから聞いたよ」
ジロッとロマニを見ると、バツが悪いように目をそらされた
「医者には守秘義務ってものがあるんじゃないんですか?」
「君はすぐに隠そうとするからね、ガン詰めしたらゲロったのさ」
なるほど、ダ・ヴィンチってそういうとこ怖いからな
「そういえば彼方君、君がセイバーの宝具を防いだあの魔術は一体何だったんだい?」
ロマニが俺に尋ねる
「教えなくていいでしょ? アレ使おうとすると死にかける身体になってしまったんですから」
「う、それはそうだけど...」
「誰にだって皆に知られたくない秘密はある、違いませんか?」
「あ、あぁ ソウダネー」
「その反応だとロマンさんも何か隠したい秘密が...「はいはい、この話はそこまで!」」
ダ・ヴィンチが詰め寄ろうとする俺と、冷や汗をかいているロマニの間に入る
「ロマニをいじめるのはやめようね、彼方。それと、緊急事態のときにはちゃんと魔術の正体について教えてくれよ?」
ホッとするロマニと、俺を宥めるダ・ヴィンチ
二人の様子から察するにロマニは自身が■■■■ということをダ・ヴィンチに話したのか
...あれ? なんで俺には言ってないの?
お、おかしいなー、滅茶苦茶匂わせておいたんだけど
『僕はドクターの助手、つまり僕はしもべ。あなたは僕にとっての王です』
『しもべは王のために働きます。もちろん王よりもね』
『とにかく、これからはもっとしもべに頼るように、いいですね?』
『でないと、王様の仕事を無理やり奪いますからね』
こうやって思い出すと、俺も人のこと言えないくらいクサイセリフ吐いてるなぁ
ま、言ったこと全部本心なんだけど
「分かりましたよ。とにかく僕はあいつらを守ったりなんかしませんから」
「どうしてそこまで彼女たちを嫌うんだい? 彼女たちの何が君の癇に障るんだ?」
ダヴィンチちゃんは俺が彼女たちを邪険に扱う理由を聞く
「僕は一般人の参加は反対してましたからね、何の力もない人間を入れても魔力タンク以外の価値はないと考えていましたから」
「いかにも魔術師寄りの思考だね」
ダヴィンチちゃんは目を細めた
そうだよね、貴方はこういう考え嫌いだよね
「マシュに関しては...フッ、守ることが馬鹿らしくなっただけですよ」
「どういうことだい?」
先ほどから黙っていたロマニがここで質問する
「ベリルさんの件で、違和感を感じたんです。どうして僕は彼女を傷つけられて腹が立ったのか」
「それは、彼女と関わってきて情があったからじゃないのかい?」
「情? それは違う」
ダヴィンチちゃんの問いに俺は首を横に振る
俺は憎悪に満ちた顔を作る
「自問自答を繰り返してやっと分かったんです。僕はアイツの身体や心なんてどうなってもよかった。ただ、僕が完成させた『兵器』を壊されるのが我慢ならなかった。アイツがデミ・サーヴァントとして壊れる前に他の誰かに壊されるのが嫌だった」
「君がマシュのことを物として見るようになったのには理由があったのか...」
ダヴィンチちゃんは顎に手を置き、俯く
「生き残ったのは魔術師になる前の僕を知っている一般人と顔を見るだけでトラウマを刺激してくるデミ・サーヴァント...反吐が出そうです」
「彼方君、君の言い分は理解した。けれど...」
ロマニとダ・ヴィンチは真剣な目で俺を見る
「僕らには彼女たちを守る責務がある。看過できない行動だと僕たちが判断した場合は、君をチームから除外する」
よしよし、当初の流れとは違うが俺にヘイトを向かせることに成功したな
「ッ_____!」
「...」
どうしてそんなに辛そうなんですか?ロマンさん
どうしてそんなに悲しそうなんですか?ダヴィンチちゃん
もっと敵対心を表に出してもいいんですよ?
もっと嫌悪感を表に出してもいいんですよ?
彼方・エイトスターズという人間は恨みであなた達の大切なものを壊そうとしているんですよ?
彼方・エイトスターズと言う人間は自分のことしか考えない最低な魔術師なんですよ?
本当の彼はこうじゃないみたいな
今の僕を信じたくないみたいな
そんな...
幼馴染と同じ目で
あとがき
主人公君はもっと自分を嫌ってくれると考えていました
しかし、彼の思惑はうまくいきませんでした
それはなぜか?
彼は悪役を演じるまでに手を伸ばし過ぎてしまったのです