良いってのは合理的にみたいなニュアンスです
俺たちは親切()な兵士さんたちのおかげで砦まで来ることができた
「...酷い」
立香が声を漏らす
兵士たちの前に見えるのは、壊滅状態の砦だった
『中がボロボロじゃないか・・・・もう砦とは言えないぞ、これ』
「戦争中だからってことなの?」
「…いえ、それは有り得ません。1431年...」
立香の問いにマシュが答える
簡潔に答えるなら、休戦のはずなのにこの規模の被害はありえないという話だ
歩き続けると壊れかけの門の前に兵士が見える
「お前たちの後ろにいる者たちは一体何者なんだ」
「この方々は旅の者です、我々が調査に出向いたところ、偶然出会い保護したところです」
俺が前に出る
「ボンジュール♪♪ムシュー、この方々のおかげで我々はとても助かりました」
ニコニコと俺は笑う
「...おぉ、そうか」
兵士はどこか元気がなさそうだった
『む、案外簡単に信用するね。彼方君のアレはかかっていないと思うのだけど、この状況から察するに戦う気力がないほど、萎えきっているといったところかな?』
そう、この兵士には洗脳がかかっていない
彼以外の兵士もどこか諦めの感情が顔に出ていた
「シャルル七世は休戦条約を結ばなかったのですか?」
マシュが門番の兵士に尋ねる
「旅の方ならば知らぬのも不思議ではないか。王なら死んだよ、魔女の炎に焼かれてな」
「...死んだ?魔女の炎に、ですか?」
「ジャンヌ・ダルクだ。あの方は“竜の魔女”となって蘇ったんだ」
おっ、この反応だとオルタのように
「イングランドはとうの昔に撤退した。だが、俺たちはどこへ逃げればいい。クソ!ここが故郷なんだぞ!」
「ジャンヌ・ダルクが、魔女・・・?」
マシュは彼女が魔女として復活したことが信じられないようだ
「ねぇ、マシュ。そもそもジャンヌ・ダルクってどんなことをした人だっけ?」
「お前って義務教育受けてないの?」
「むぅー、11歳からカルデアにいるカナくんに言われたくないでーす」
「お二人とも、ケンカはそこまでに」
え、待って。なんでコイツずっとカルデアにいること知ってんの?
誰だ? マシュ、ロマン、ダ・ヴィンチちゃん、スタッフの誰か
まぁ、その話題で軽口を叩けるということは深くまで知らないのだろう
コホンとマシュは息を整える
「救国の聖女ジャンヌ・ダルク。世界的に有名な英雄です。百年戦争後期、征服されかかっていたフランスを救うために立ち上がった女性です」
英雄オタクだよねぇ、マシュは
Aチーム首席の頭脳は伊達じゃないわ
俺も英雄については何度も何度も勉強した
「十七才でフランスを救うために立ち上がり、わずか一年でオルレアン奪回を果たしたのですが...」
マシュの表情が曇る
「イングランド軍に捕縛され、異端審問の末、火刑に処されました」
「ッ___!火刑...」
火で焼かれるって辛いんよなぁ
だって死ぬ最期まで痛みが残り続けるんだぜ?
しかもショック死できないくらいのまさしく地獄の苦しみってヤツ
「彼女が投獄されてから火刑にいたるまでの日々は、あまりにも惨い拷問と屈辱の日々だったそうです」
マシュのジャンヌ・ダルク講座はまだ続く
ジャンヌ・ダルクねぇ、苦手なんだよなぁ
何言っても微笑んで受け止めるあの感じが
でも決して折れることを許さないみたいな
「無力な少女の想いが世界を変えた。その例で言うのなら、ジャンヌ・ダルクは最高級の英霊です」
無力な少女の想い
無意識的に俺は立香を見ていた
『フランスを救うために人生を捧げた女の子』と『世界を救うために人生を捧げようとしている女の子』
救ったはずの者たちにその命を、尊厳を壊される
『例の触媒と、立香のDNAが一致した』
「ん?」
複数体の気配を感じた
「「うあああぁぁぁぁ!」」
兵士の悲鳴が聞こえた
『注意してくれ!魔力反応がある!』
出てきたのは骸骨兵だった
『今度はさっきとは違う。思う存分暴れていいぞ、みんな!』
「はい!マスター、指示を!木っ端みじんに蹴散らします」
「うん!」
君たち、血気盛んじゃないか?
いや、自分たちを奮い立たせているのか
マシュは、盾で骸骨兵たちを吹き飛ばしていく
ひぇー、ギャップがすげぇわ
「兵士さん、余ってる武器ってありますか?」
「兄ちゃん...戦えるのか?」
俺は近くにいた兵士に話しかける
「えぇ、多少の心得はあります」
「分かった。これを使ってくれ」
兵士からロングソードを手に入れる
『彼方君は変身しないのかい?』
俺の通信機からロマニの声が聞こえる
「変身しなくてもこの程度の敵なら、対処できます」
ハザードレベル3.5の肉体で骸骨兵程度に後れを取ることもない
「それに...敵対サーヴァントに『ビルド』の姿を見せないという意図もあります」
『なるほど...分かった。だが決して無理はしないように。魔術回路に違和感が出たらすぐに後ろに下がるんだ』
「了解です」
襲ってきた骸骨兵たちを次々と切っていく
相手の急所を的確に狙い、無駄をなくしていく
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「ふう、お疲れ様でした」
マシュは盾を下ろす
特に何事もなく、俺たちは骸骨兵たちを倒すことができた
「ロングソード、貸していただきありがとうございました」
俺はロングソードを貸してくれた兵士に返した
「彼方さん、お怪我は?」
マシュがこっちに来る
「ご覧の通り、無傷だ」
ええ子や、自分を物扱いするって堂々と言った奴を気に掛けるなんて
「カナくんって変身しないまま戦ってたの⁉ホントに大丈夫?」
立香は俺に詰め寄り、手を握ってくる
「無理しちゃ駄目だからね?」
あのさぁ、こっちは必死に好感度下げてんのになんでこんなにグイグイなんかね?
そんなに俺って好感度上がるようなことしたか?
なんか特異点Fの序盤の方が好感度低かったような気がするんだけど
「アンタたち、あんな化物相手によくやるなぁ」
兵士の一人が話しかけてくる
「兄ちゃんなんか、まるでアーサー王が戦ってんじゃねぇかと思ったくらいだ」
「「あ」」
立香とマシュは通信機を見る
オルタ頼むから今だけは通信を見ないでくれ
「本人が聞いたら、多分僕は首が飛ぶでしょうね」
「あぁ?うん百年も前の王様が俺たちの会話なんか聞いてるわけないだろ?面白れぇこと言うなぁ!」
「アハハー、デスヨネー。トウノホンニンガキクワケナイデスヨネー」
ガハハと兵士は笑う
いや、冷静に考えよう
オルタは今、俺を嫌いな人間だと言っていた
つまり、そんな俺の通信なんか興味がないはず
よし!理論武装完了!
「それより、先ほどの話ですがジャンヌ・ダルクが蘇ったというのは本当ですか?」
俺は話を切り替える、すると兵士の顔つきが真剣なものへと変わる
「本当さ。何せ俺はオルレアン包囲戦と式典に参加したからな。髪や肌が違ってもありゃまぎれもねぇ、聖女様だ」
ここで、先ほどの洗脳をして「色が違うなら別人ではないでしょうか」とか言ったら周りの兵士たちは本物のジャンヌを味方するんだろうが、多分ジャンヌ本人がそれを許さないと思うんだよね
あの人そういうの嫌いそうだし
「イングランドに捕らえられ、火刑に処されたと聞いたときは全身が憤りで震えたもんだ。だが彼女は蘇った。悪魔と取引しやがってな!」
おーおー、憎しみがすんごいねぇ
故郷がこんなにされたらこうなるのも必然と言えば必然か
「悪魔、とは? ...先ほどの骸骨兵のような?」
悪魔と聞くと童話が好きな淫乱セラピストを頭に思い浮かべてしまう
とんでもねぇヤツだからなアイツ
マシュと立香が兵士の話を聞いていると
「Gaaaaaaaa!!!!!」
今までに聞いたことのない咆哮が聞こえた
『君たちの周囲に大型の生体反応!しかも、速い!!!』
ロマニの通信が入った
「目視しました!あれは、まさか...」
「ドラゴン⁉」
「Gaaaaaaaaa!!!」
ガーンガーンと敵襲の鐘が鳴る
空を見上げると、ワイバーンの群れがこちらへと向かっていた
「マスター、全力で対応を!先ほどの骸骨兵とはワケが違います!」
「う、うん!」
立香は圧倒的な存在感に少し気圧されているようだ
変身は...いやしなくてもいいか
俺は先ほどから次第にこちらに近づいてきている存在を察知し、そう判断する
「彼方さん!」
ワイバーンがこちらに向かって爪を振り上げていた
「Gaaaaaaaaa!!!」
ヒラリと、危なげなく避ける
なーんか、コイツら飢えてね?
挙動もおかしい、砦の中に入らずに旋回して門の外にいる奴だけを襲っている
傷を負わせるだけで、食わない
まるで出来るだけ犠牲を出さないようにしている
はぁ、
まぁいい、立香の好感度下げ、メンタル強化に動きますか
俺は、立香の元へ来た
「カナくん、流石に変身しないと危ないよ!」
「いや、その必要はない」
「え?」
「ここは離脱して、あの森に入るぞ」
俺の言葉に立香は固まる
「何、言ってるの?」
「必要な情報はすでに手に入れられた、もうここに用はない」
「ッ_____!」
立香は俺の両腕を掴む
「今どんな状況か分かってないの⁉ ワイバーンに襲われているんだよ⁉中の人達が死んじゃうかもしれないんだよ⁉」
必死に、立香は俺を説得しようとする
「ここは閉鎖された空間、誰が死のうが特異点が修復されれば無かったことになる」
淡々と俺は立香に告げる
「ここで死んではならないのは、僕とお前とマシュだけだ」
「...なんで」
「は?」
立香は体を震わせる
「なんでそんなことが言えるの?昔のカナくんに戻ってよ...!」
トンッと俺の胸を叩く
「はぁ、お前は自分の命の重さを理解していない」
「ぐっ!」
俺は立香の胸ぐらを掴んだ
「ここで、何百、何千と誰かが死のうが関係ない。『人類の未来のため』に動いている僕たちの方が遥かに命の重さがある。お前も言ってただろう『私にできることがあれば』って」
「それ、は...「なら」」
「捨てろ、コイツらを。『人類の未来のため』に」
向こうでは兵士たちの悲鳴が聞こえる
ワイバーンが食わないとは言え、一撃でも喰らえば普通の人間ならひとたまりもない
「おかあさぁーん!!!怖いよぉ!!!」
短髪の女の子が一人、門の前で泣いていた
避難する際、親と離れ門の外に出てきてしまったのだろう
「どこに行こうとしてる、止まれ」
「離して!あの子を助けないと!!」
立香は女の子を助けようとするが俺が彼女の腕を掴んで離さない
すると、フードを被った女性が門から出て女の子に駆け寄った
「もう大丈夫!私も一緒にお母さんを探すから、この中に入ろうね」
顔が和らぐ女の子...しかし
「GAaaaaaaaaa!!!!!」
ワイバーンの一体がフードの女性と女の子に火球を放とうとしていた
二人は恐怖のあまり動けない
フードの女性はその子を抱きしめ、庇う
「ダメェ!!!!!!!!」
立香の絶叫が響く
ワイバーンの火球が放たれ、二人は焼け死ぬ
「ハァ!!!」
ことはなかった
「gya...gaaaaa...」
ワイバーンは胸部に穴を開け、ドサッと地面に倒れた
女性と女の子は目の前に立っている人物に驚愕する
「ジャネ...ット?」
「聖女様?」
「...」
ワイバーンを倒した
アブねぇ、転移用の魔術をいつ発動してもいいようにしてはいたがヒヤヒヤした
「...カナくん。離して」
「ようやく、理解したか」
「...うん」
俺は腕を離した
「マシュ!旗を持ってる女の人の援護に入って!」
大声で立香は叫んだ
「ッ!分かりました!マスター!」
マシュは旗でワイバーンと戦っている女性の方へ援護に行く
「言い訳を聞こうか?...48番」
ジロっと俺は立香を見る
「...確かにカナくんの言っていることは正しいよ。ここで誰かが亡くなっても問題ないことも理解した、私だって死にたくない」
「なら「でも!!!」...」
立香は振り返り俺の目を見る
「私は!!!あの人たちを死なせたくない!!!!」
夕焼けのような瞳はいつもより輝いているように見えた
あとがき
主人公の演技力が光る回でした
襲ってきたのワイバーンなのに、ワイバーンより悪く見える主人公君...
そういえば二人を守った女性、一体どこのお姉ちゃんなのでしょうか