霧深き領域を超えて   作:バンリ

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第3話・救援依頼

※1

 

 

 

フィーナより紹介された今回の救援依頼のサポート役として合流する事となった探索者、その名もグレイ・スタープライド。

その第一声のインパクトに思わず思考停止する所だったが、何とか堪える事が出来た。

 

(…いや、何したいんだこの子は)

 

突拍子のない行動と言えばゼノビアの顔が浮かんでしまうのはご愛嬌という奴だろう。

 

「………………」

 

ポーズを取ったまま、少女は彼を見下ろしたまま微動だにしない。

その瞳はどことなく輝いているように見えた。

 

何か、期待しているようだった。

 

「いや、ちょっと待て。反応か?今反応待ちか?」

 

「はい!何か言って欲しいんですが、いいでしょうか!」

 

「えっ、ああ、うん」

 

そう言うと、グレイは改めてポーズを決めた。

いや、何でポーズを変えたのか。

 

「…とりあえず、丈の短いスカートで上に立つのはやめた方がいいと思うんだけど」

 

「…………あ!」

 

風が吹いたタイミングだった、見えたのも一瞬だ。

下着としては妙に布地が厚く見えた、恐らくはショートパンツの類だろう。

 

(いや、何落ち着いて分析してるんですかねえ俺は)

 

それは誰に対して向けた言い訳か。

これは不可抗力だ、無実だ、などとアラタは内心で弁明した。

 

「えと、すみません!お見苦しいものを…すぐに降りますね!」

 

自身の無防備さを自覚していなかったのだろう、今気づいたと言わんばかりに慌てている。

 

グレイも流石にポーズを取るのをやめて自身のスカートを押さえていた。

謝っている内容が少々ズレているような気もしたが

 

スカートを押さえたままグレイは鉄の物体から飛び降りると、危なげなく着地する。

その細い体型に似合わず身体能力は高いようで、やはり探索者と言うべきか。

 

着地時に舞った土埃を払いながら、グレイはアラタの傍まで近寄った。

改めて顔を合わせると、ピンと背筋を伸ばした姿勢に正す。

 

「その、改めまして…グレイ・スタープライドです。技術研より出向致しましてギルドの探索者を始めました。今回は、よろしくお願い致します!」

 

「ああ、よろしく。なるほど…技術研からの探索者…どおりで見慣れない顔な筈だ」

 

技術研、正式名称は文明技術研究所であり、主にエーテルリソースの研究、探索者の装備開発など、その他も含めてニヒトの先進技術の全てを管理している場所である。

 

そんな技術畑からの人間が、どうして文字通り命と身体を張るような探索者になったのかは知らないが、重要なのは彼女がアラタの同行者として選ばれた理由だ。

 

その経歴から、探索者としての純粋な能力から選ばれた訳ではないだろう。

であればその理由が何なのかは、自然と1つに集約していく。

 

アラタは再び、目の前の鉄の物体を見た。

 

「スタープライドさん、君が同行者として要請された理由ってのは、この?」

 

「はい、私主導で開発したこの試作装甲車が今回有用であると判断したんだと思います」

 

「試作装甲車……つまり、これってもしかして動く奴?」

 

「はい、動きます。すっごい動きます!」

 

グレイは唐突にテンションが上げながら、試作装甲車の車体にその身体をくっ付けた。

 

「踏破性・耐久性を強化した新型車輪に、一定値以下の衝撃を無効化する特殊材質装甲!全く新しい操作方法は馬の手綱を握るよりも直感的!自由自在!エーテルリソースを変換転用したエーテルバッテリーを動力とし長期間の駆動も問題なし!……あぁ!凄いぞ堅いぞカッコいいぞー私のアイゼン!」

 

「お、おぅ……」

 

余りの早口とダラシなく表情を崩したグレイの変貌にアラタはドン引きだった。

 

先程から見せる奇天烈さに正直関わるのも億劫になり始めた所だったが、彼女の説明通りならこれは間違いなく凄いものだ。

見た所その車体の大きさから複数人を乗せる事も可能であり、実に画期的とも言える。

 

そう、これならきっと。

 

「……スタープライドさん、一旦頬擦りはやめて貰って、落ち着こうか」

 

「おっと、すみません。ついつい」

 

アラタから声を掛けられ。急に我に返ったように表情がマトモになった。

 

「まあ、ともかく私の、このアイゼンを使いまして、是非とも満足がいく実地検証……じゃなくて、一刻も早い救助に役立てましょう、アカツキさん」

 

「ああ。これなら…いけるんだな?」

 

「当然です、馬車なんか目じゃありません。なんせ私のアイゼンは最速ですから」

 

グレイはアラタの手を取り、装甲車アイゼンのすぐ側面まで近付くと、取り付けられたドアを明けて車内へと招く。

 

「あっという間に辿り着く快適な旅、お見せしますよ?」

 

そう言ってグレイは自信に満ちた表情を浮かべた。

 

 

 

※2

 

 

 

霧の領域に騒音が響く、地面が揺れ、振動が伝わり、それは彼方から徐々に近付いてくる。

 

一匹の霊魔が徘徊していた足を止め、その揺れの先にゆっくりと顔を向けた。

群れではない、たった一匹の逸れであるが、単独とはいえこの怪異を襲うような存在はこの霧の領域には存在しない。

 

あるとしたら、この世界へと踏み込んだ探索者くらいだが、この場合は―――

 

「ひゃっほー!!」

 

砂埃を上げる鉄塊が突然現れた。

女性の発する奇声と共に、その鉄塊は爆音を唸らせ、そして

 

進路上に佇んでいた霊魔を上空へと跳ね飛ばしてなお、その頑強さを見せつけるように何の支障もなく走り去っていく。

 

この場に残ったのは、無惨にも跳ね飛ばされ、そのまま地面へと叩きつけられた哀れな霊魔のみであった。

 

 

 

※3

 

 

 

「おい…あの、スタープライドさん…?!」

 

「はい!?なんですかー!?」

 

「ちょ、あの…何かっていうかさっき…霊魔が真正面にいたような…!?」

 

「飛んでったから多分死んだでしょー!大丈夫大丈夫ー!」

 

上下に激しく揺れる車内で何とか座席にへばり付きながら、アラタは隣の操縦席で荒ぶっているグレイの姿に慄いていた。

 

「くふ!ふふふふふふ……いい、いいよぉ。隆起の激しい地形を物ともしない走破性、腹の底から引っくり返したような爆音、これぞ走る快感…やっぱり、やっぱり凄いよ私のアイゼンはぁ…!」

 

(興奮のあまり言動変わってないかこいつは…!)

 

そもそもハンドルから手を離して恍惚な表情を浮かべるのはやめて欲しい、危ないから。

 

振動の中でアラタは自身の席に何とか座り直した。

正直、乗り心地はこの揺れのせいで最悪だが、スピードは確かにこれまでにない程のものだ。

目的地も人の足でなら数日掛かるであろう、しかしこのアイゼンという乗り物なら一日を過ぎる前に到着する事も不可能ではない。

 

(……1人先走っても結局は時間を掛けるだけだった。フィーナには頭が上がらないよ、まったく)

 

とはいえ、同行者がここまでの変人だとは予想以上にも程があったが、今この状況においては催事である、と言い聞かせるアラタであった。

 

「アカツキさん、やっぱり気が気じゃないですか?」

 

「え?」

 

側面の窓の縁に寄り掛かりながら思い耽けていたアラタに、グレイは話し掛けていた。

 

落ち着いた声に思わず聞き返すアラタ。

振り返り、彼女を見てみれば、ついさっきまでの高いテンションは何時の間にか鳴りを潜めていた。

 

「…ああ、乗ってる間は常にあんなテンションって訳じゃないんだな」

 

「ふふふ、すみません。流石に少しはしゃぎ過ぎました」

 

恥ずかしそうにしながら彼女も笑みを浮かべる。

少しとは…?等と考えそうになりつつも、アラタは彼女からの問いに答える事にした。

 

「…無事であって欲しいと思いつつも、それが厳しいかもしれない状況の中にある事は分かっているんだ」

 

アラタは寂しげにしながら言葉を続ける。

 

「探索者だ、俺達は。だから何時死ぬとしても、それは自己責任だ。そうなる事も全て受け入れて、この役目を担ったんだから」

 

「けど、納得出来ないんですね」

 

「ああ。スタープライドさんも分かってるじゃん」

 

拳を握り締める。

もどかしさも、焦りも、全て飲み込まなければならない。

 

「……スタープライドさんは、どうして探索者になったんだ?こう言っちゃなんだけど、何時死んでもおかしくない様な場所なのは理解してるとは思うけど」

 

内心で思っていた事を、アラタは口に出した。

彼女が何故研究者から探索者になったのか、それを聞きたくなった。

 

「私は……探索者という役目をただ死地へと送るだけのものにしたくないんですよ」

 

少しの間の後、グレイは話し出す。

 

「エーテルリソースの採取可能地点がニヒト周辺から枯渇しつつあり、探索範囲は広がりつつあるのはご存知ですよね」

 

「ああ…」

 

斥候、戦闘職、サポーターの3つの役割に分けてパーティーを組むのが通常の探索者達のセオリーであった。

霊魔との遭遇回避しつつ、最善の進路を斥候が誘導し、止む無く戦闘となったら戦闘職が前に出る。

そして日を跨ぐ旅の中で必要になる野営装備や食料などの荷物をサポーターが管理するのだ。

 

「日数が増えれば、それだけ必要な物資は増えていく。探索者達の負担もまた上がっていく」

 

「はい、そうして遠征が長期化していくと同時に危険度も釣り上がっていく。探索者の未帰還数も増えつつあり……今回の様に連絡途絶し、そのまま…という事も少なくはありません」

 

「……………」

 

その言葉にアラタの表情も険しくなる。

昨日まで笑い合っていた仲間達がいなくなる、そんな事がこれまでもなかった訳ではない。

 

割り切っているつもりではいた。

しかし、それが家族の様に大事に思っている相手がいざその危険の中にあると思うと、耐えられる気がしなかった。

 

理性的に考え、割り切る事が、難しかった。

 

「…アカツキさん!」

 

「あいだっ!?」

 

ガコン!

アイゼンが跳ねた、その反動で席から浮いたアラタは車内の天井に頭を思いっきりぶつけてしまう。

 

「……え、何、喝ってこと?」

 

「あ、すみません。さっきのは恐らく凹凸の激しい場所を通ったせいですかね!」

 

「なんつうタイミングだよ…」

 

ぶつけた頭を擦りながら愚痴るアラタ。

 

「…まあ、けど、湿っぽい空気になるのは止められたので結果オーライですね?」

 

グレイはニッと口端を上げなら言った。

 

アラタは、1度息を吐き出す。

 

「気休め程度の、人並み程度、そんな事しか言えませんが、きっと無事ですよ」

 

「………本当に、気休め程度のありきたりな言葉だな、それ」

 

「新人探索者から偉そうに口弁垂れられても納得出来ないと思いますからねー」

 

おちゃらけるように言いつつも、その声色にからかおうとする雰囲気はなかった。

アラタを見ていた視線を前へと戻し、今はアイゼンを動かす事に意識を向けている。

 

「まあ、不安で不安で仕方がないなら、私なら信じる事にしますね」

 

「信じる?」

 

「例えば自分自身を、研究の成果を、汗水垂らして作り出した発明を」

 

「…………」

 

「アカツキさんなら、きっと探索者仲間ですよね?」

 

「…ああ、確かにそうだ。俺は、探索者は1人じゃやっていけないからな」

 

そう言われ、真っ先に思いつくのはゼノビアだろうか。

ガルフのおっさんもそうだし、彼等のパーティーメンバーとは共同で依頼をこなす事も多かった。

 

共に壁外へ出て、同じ飯を食って、互いの命を預け合う。

それが一期一会のものであろうと、十分だ。

それだけで、繋がりは出来るものだとアラタは思っているから

 

「そう言いつつ、ソロなんですねアカツキさんって」

 

そう軽口を言うグレイだったが、どこか安心したように言った。

 

「それは……まあ、あれだ。俺って強すぎるから合わせられるのがほとんどいないんだよ」

 

「えー、本当ですかぁそれー?」

 

「うざい顔してるんですが?その辺はいいんだよ、どうでもいいから」

 

アラタは拗ねたように顔を外の風景の方へ逸らした。

照れてるな、とニヨニヨしながら見つめるグレイだったが、車体に内蔵された探知用コンパスが音を立てると、表情が変わった。

 

「………アカツキさん、エーテル反応。目的地、近いみたいです」

 

「!……分かった」

 

窓から身を乗り出す、上半身を出しながら双眼鏡を取り出し周囲を見渡した。

周囲は変わらず霧と、それに包まれた何の変哲もない平原だ。

 

だが、アイゼンの進路上に見えるものがあった。

煙だ、黒い煙が、霧の中からでも浮かび上がり、空へと伸びている。

 

「火の跡……!」

 

あれは野営の跡火か、もしくはそれ以外の何かか。

曇り空1つない今の天候で、木が自然発火するような現象も考え難い。

 

「ゼノビア…!」

 

アイゼンは速度を速める。

逸る気持ちは抑え付け、そして瞬く間に距離は縮まり

 

アラタとグレイは目的の場所へと到着した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※おまけのやり取り・物に名前を付けて大事に使う人っているよね

 

 

 

「スタープライドさんって物に名前を付けるタイプの人?」

 

目的地へと向かう最中、ふとアラタはグレイへと話し掛けた。

 

「む、物とは何ですか!アイゼンはアイゼンです!私の可愛い最高傑作です!」

 

(すっげーブレないなこの人…)

 

過激なほどの愛情表現に苦笑いを浮かべるしかなかったアラタだったが、そんな彼女の姿にどことなく既視感を感じていた。

 

「……ああ、そうか、なるほど」

 

「1人で何納得されてるんです?」

 

首を傾げるグレイ。

 

「いや、ゼノビアもさ。愛用の武器に名前付けてたんだよ、整備もすっごい時間かけて丁寧にやっててさ」

 

「へぇ……ゼノビアさん、私と気が合いそうですねぇ」

 

「まあ、多分?」

 

正直ゼノビアと会わせたらどんな化学反応起こすか分からないので不安しかないのだが、口には出さない。

 

「ちなみに、ゼノビアさんは武器になんて名前を付けてたのでしょう?」

 

「ああ、確かあいつは――――」

 

 

―――や、アラタ。見てこれ

 

―――ゼノビアか。これって剣か…いや、銃身が付いてるな。何だこれ

 

―――んふふ、銃剣って言うの。撃ってよし、斬ってよしの万能武器なの。

 

―――……へえ、また変わったのを作ったなぁ…使いこなせるのか?

 

―――要訓練、頑張るっ

 

―――あー……まあ、無茶しないようにな。

 

―――うい。……それでね、この子にね、私名前付けたの。長く大事に、使えるようにって

 

―――(この子…?)ああ、いいんじゃないか。どんな名前だ?

 

―――アラタ

 

―――ん?どうした?

 

―――違う違う。この子の名前、アラタ

 

―――え?

 

―――ふふふ、私のアラタ、1番口にしたくなる言葉、1番一緒にいたい人の名前、んふふふふ…。

 

―――……。

 

 

 

「………………………」

 

「…アカツキさん?」

 

顰めっ面のまま、静止し続けるアラタ。

呼びけるグレイの声に反応するのも、それから10分は掛かったとか掛かってないとか。

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