霧深き領域を超えて   作:バンリ

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第6話・追憶♯1 ガルフパーティー

※1

 

 

 

ガルフ・チェノンという人物はゼノビアの面倒を見てくれていた1人であり、彼女の叔父に当たる男だった。

それこそ実の父親を相手にする以上に彼女は気安く、そして懐を開いた様子でガルフを慕っていた。

 

探索者という同じ道を歩む故か、彼の見ているであろう行先を、彼女もまた見る事が出来ていたのだろう。

彼女にとってガルフという存在はアラタに次いで自身に欠かせない存在であった。

 

「なあゼノビア。お前は探索者になったとして、その先に目標はあるか?」

 

「目標?」

 

パーティーに入って間もない頃、経験がまだ片手で数えられる程度でしかなかった遠征の最中、そんな問いがあった事をゼノビアは憶えている。

探索者になる、そう言ったアラタに釣られる形で始まった彼女にとって、目標などという明確な形がある訳もない。

 

「目標って、必要なのかな?」

 

「必要さ。なんせそれこそが、俺達の原動力だ」

 

何とも言えないといった表情を浮かべて首を傾げるゼノビアを見て、ガルフは苦笑いを浮かべる。

 

「お前はアラタと一緒にいたいから探索者になった。そうだろ?」

 

「うん。それはそう」

 

「そんなアラタは何で探索者になろうって言った?」

 

「それは……」

 

ゼノビアは空を見た。

地上を蝕む霧、そんな霧さえも届かない世界。

アラタが憧れた、自由の象徴。

 

彼がそう決意した時の事、その一語一句を彼女は憶えている。

 

「空が……広がる世界、その全部を見たいって…言ってた」

 

幼き日の少年の姿が思い起される。

どこまでも手を伸ばす、その欲望、その願望、全てが純粋で、ただただ一途だったアラタの姿。

 

そもそも、どうしてアラタが探索者になるなら私も、という想いが生まれた?

好きだったから?異性として意識している唯一の男の子の傍にいたいと思ったから?

それもある。その理由がゼノビアにとっての大半を占める要素である。

 

だが、それとはまた別として、彼女の中では

彼の憧れるものを彼女も良いなと思った、同じようにソレに惹かれる自分がいた。

 

「……………」

 

「どうした、ゼノビア?」

 

無言のまま、空を見上げ続けるゼノビアの様子を伺い、ガルフは首を傾げた。

彼の言葉にやっと気づいた様に顔を向けたゼノビアだったが、そんな彼女を見て、ガルフは優し気に目を細めていた。

 

「…えと、隊長」

 

「どうした?」

 

「探索者になった理由、アラタの事、以外で―――」

 

ゼノビアは、誰かに依存しがちな面が強い。

故に全てのキッカケはアラタだし、今も行動基準の中心にいるのはアラタである。

探索者としての時も、行動も判断も、基本ガルフの方針頼りだ。

 

だが、それでもこの時は

 

「私も、多分見たいと思ったのかも。世界って、奴を…?」

 

この時、そう答えたゼノビアには、自分の意思を伴った理由があるように見えた。

 

だからこそ期待したのだ、ガルフという男は

探索者となり経験を積み、あらゆる苦難が迫るだろう。

あらゆる価値観とぶつかり、あらゆる理不尽に苦く、暗い感情を抱く事だろう。

 

その中で、このどこか浮世離れした姪がいずれ自立していく姿を見せてくれるなら本望だ。

子を導く大人として、これ以上嬉しい事もないのだから

 

 

 

 

 

 

 

どこか朦朧とした意識が徐々に目覚めていく。

暖かいと感じていた周囲は瞬く間に冷え込み、明るいと感じた空間は暗く狭苦しい物へと変わる。

 

ゼノビアは、目を覚ました。

 

何時ぞやのやり取り、ガルフと語った優しい記憶から

 

逃げ込んだ個室の中、やはりゼノビアは一人だった。

 

「……何て都合の良い……」

 

記憶は所詮、記憶だ。過去を思い起すのみの幻だ。

今は変わらない、現実は変わらない。

 

ガルフが死んだ事実は変わらない。

 

頭痛が止まない故に額を押さえながら、ゼノビアは立ち上がろうとして―――立ち上がらず、膝を抱え丸めていた身体をそのままにした。

 

気絶するように眠り、多少の疲労は抜けたと思いつつもそれでも全身の倦怠感は残ったままだ。

 

「………私だけ…私…だけ…」

 

気力が沸かないのだ。

もう、諦めてしまっているから

 

何で、どうして、私達はあんな化物と遭遇した?

何時もと変わらない遠征、何事もなくこなせた筈だ。

私達なら、このパーティーなら、隊長――ガルフおじさんなら、何事もなく私達を率いて凱旋してた筈だ。

 

しかし、そうはならなかった。

最低最悪の結果となってゼノビアを追い詰めた。

 

即ち、自分以外のメンバーは全滅したのだ。

 

 

 

※2

 

 

 

「お嬢ちゃん、ガルフからだ。キャンプの準備をするから周囲の索敵をよろしくだとよ」

 

「ん、了解」

 

高台に登り、銃剣を構える。

遠方に見える影があれば、それに照準を定め、引き金を引く。

 

「一撃。さっすがお嬢ちゃん」

 

流れ作業の如く周囲の霊魔を間引き続けるゼノビアに、ガルフパーティーの一人であるライトは、賞賛の声を上げる。

 

「ふふん。これが私の役割だから、とーぜん」

 

「いやいや、それでも凄いもんだ。俺なんざ戦いはからっきしだからなぁ…」

 

「そこは役割、分担だから。私はライトさんみたいに美味しいご飯作れないし」

 

「はははは、中々言ってくれるねえ」

 

そう言ったライトは笑いながらゼノビアの頭をポンポンと撫でた。

ゼノビアもくすぐったそうに眼を細める。

 

ガルフパーティーにおいてのサポーターであるライトはキャンプ設営、食事の準備、武器防具の修理など、その他メンバーのパフォーマンスを支える為の重要な役割を担っている。

 

ゼノビアもライトが作ってくれるご飯が何よりも好きだ。

構造が難しい銃剣の修理方法も率先して習得してくれて、武器防具だけではなく色々な物を直してくれた。

 

戦いの中ではなく、日々の生活の中で鍛えられたこの大きな手で頭を撫でられるのは、彼女にとって嫌いではなかった。

 

「じゃあ、俺はキャンプ設営の準備をすっから、先にいくぜー」

 

「ん、りょーかい」

 

「それと、今日は何時もより飯には腕をかけるからな。楽しみにしとけよ?」

 

「!……うん、たのしみにしとく」

 

その一言だけで、ゼノビアにとって大きな激励となる。

うら若き乙女だが、同時に食べ盛りである彼女は、一層張り切って周辺霊魔の間引きを続けていった。

 

 

 

 

 

 

一通りの間引きを完了し、ゼノビアが高台から降りる。

 

目の前ではキャンプは既に設営が終わり、焚火を中心とし男性用の大型テントと女性用の小型テントが設置されている。

それ以外にも様々な道具が置かれているが、やはり一際目立つのは大きな緑色の丸いクリスタルだろうか。

 

「戻ったなお嬢ちゃん。今設置が終わる所だぜ」

 

「おつかれさま。こっちもたいりょーだったよ、これで今夜も安眠」

 

「はは、そりゃ助かるな。感謝感激って奴だ」

 

「……ライトさん、エーテル障壁、今から展開するんでしょ?ちょっと見ていたい」

 

「ん?ああ、別にいいぜ。そんな許可が必要なもんでもねえしな」

 

そう言いながらライトは緑色の丸いクリスタル――「エーテルクリスタル」を黒い土台にはめ込む。

 

「よーし行くぞー…展開!」

 

はめ込まれたクリスタルを中心に円錐状の結界がキャンプを覆う様に展開される。

薄い緑色に輝く、一目見れば奇麗だが、その性能は確か。

 

「簡易エーテル障壁」の完成である。

 

「やっぱり…いい…!」

 

ゼノビアはこの瞬間を見るのが好きだった。

何度見ても飽きないなんて言っているのだから、周囲が思う以上に彼女はエーテル障壁が発動する瞬間を気に入っていた。

 

「毎度毎度、飽きないもんだなぁ」

 

「ちっちっちっ……飽きる飽きない、じゃない。これは私のライフワーク」

 

「そうかい。まあお嬢ちゃんがそれでいいなら構わんさ」

 

苦笑いを浮かべながらライトは焚火の方へと戻っていく。

調理器具の準備に入るようだった。

 

「嬢ちゃん、今から飯の準備するわ」

 

「なんか手伝おっか?」

 

「いいや、気持ちだけ受け取る。此処は俺の戦場だからな!」

 

「おー…役割、分担ってやつ?」

 

「そういう事だ。お嬢ちゃんはガルフとリックの所に行ってくれ。明日以降の進行経路について話し合いたいらしいぞ」

 

「りょーかい。じゃ、またあとで」

 

「おうよー」

 

そうしてライトと別れた先で、簡易テーブルに広げた地図を囲み、睨めっこしているガルフとリックの姿が目に入る。

 

「こちらの想定以上のペースで進めてるな」

 

「はい。ゼノビアちゃんのお陰で無駄な戦闘も少ないですからね。探知用コンパスのエーテル反応もより強くなっていますし……目標のリソースポイント、結構近いのかもしれません」

 

「ああ…だけど、まだそれっぽい場所が見えていない。この目でしっかりと確認するまでは気を緩めるなよ、リック」

 

「分かってますよ、油断は命取りですから」

 

リックは人当りの良い笑みを浮かべながら答える。

そんな時、ゼノビアがひょっこりと顔を出し、簡易テーブルの地図を覗き込んだ。

 

「やっほ、何かお悩み?」

 

「来たかゼノビア。いや、ルートの変更はねえから、どちらかと言ったら今後の確認かな」

 

「……それ、私を呼ぶ必要ある?隊長の方針には基本ちゅーじつよ、私」

 

「そうだな。だが、お前も何時かは自分で決めれるようにならないといけないから、ちゃんと人とのやり取りには参加しないとダメだぜ?」

 

「余計なおせわ」

 

「おいおい、ゼノビア」

 

「隊長のパーティー抜けるつもりもないから、不要な心配」

 

「ガルフさんは、何かあった時の為に言ってくれてるんですよ」

 

ガルフの言葉にそっぽを向いたゼノビアにリックは声を掛けた。

ジト目のまま、ゼノビアは目線だけをリックへと向ける。

 

不貞腐れた子供かな?リックは苦笑いを浮かべながら、言葉を続けた。

 

「探索者なんてやってるんですから、もしかしたらこのパーティーも散り散りになるかもしれない。死ぬ死なないはひとまず置いておくとして、理由は様々ですよ?例えば……ガルフさんが結婚して、家庭の為に探索者をやめるとか」

 

「それはない」

 

「いや何で言い切る?」

 

「はははは、確かに一番現実味のない例え話でした。すみません」

 

「言葉の刃を一気に向けてこないでくれない?流石に傷付くよ?お兄さんボロボロよ?」

 

思わぬ口撃が直撃し、端っこで落ち込むガルフ。

そんな様子に思わずゼノビアとリックも笑みを零す。

 

「ま、つまり私から言わせて貰う事があるとすれば……何かあった後じゃ遅いんです。出来る事を今からでもいいので少しずつやりましょう。ね?」

 

「………あんまり、気が乗らないけど」

 

「大丈夫ですよ。だってほら、最初は僕やライトさんに対しても警戒心剥き出しで、ガルフさんの背に隠れてたのに、今じゃこうやって話せてますし」

 

「それは、二人とも隊長の仲間だし、いい人だし…」

 

「それを貴女が知れたのは貴女自身が私達と関わろうとしてくれたからです。その感覚をもっと外に向けれたら、きっといい事もありますよ」

 

リックはポン、と軽くゼノビアの頭に手を置いた。

撫でるというよりも軽く触れるようなものだったが、首を傾げたゼノビアに笑みを浮かべてリックはテントの方へと戻っていった。

 

簡易テーブルの周りには未だ落ち込んでいるガルフとゼノビアの二人のみ。

 

「………いいことって、なんだろ?」

 

検討もつかない様子のゼノビアはその事で少し考え込む事となった。

 

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