総武高校奉仕部うすしお味。   作:ひつまぶし太郎

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これにて林間学校編終了です。
果たしてこいつが自称清涼剤じゃなくなる日は来るのだろうか、と思う作者です。
多分なりません。


十一時間目。写真

 

 

林間学校も無事終わり、僕は平塚先生の車で帰路についていた。

行きは葉山先輩のお母さんに送ってもらったが、お説教があるからとこちらに連れてこられたのだ。

 

「無事、とはなんだろうな…」

 

「けが人はいませんよ」

 

心のけが人は多数だけど。

 

でも僕は満足している。

だって林間学校は期待通りとても楽しかった。

戸塚先輩とのお風呂。

いろはすさんの水着。

地獄みたいな空気の中で行われた肝試しでのみんなのコスプレ。

そこからさらに地獄になった肝試し。

とてもいい思い出だ。

 

「それにああいうことになったのって結局自業自得だと思うんですよ。だって、彼ら彼女たちは無自覚に自覚があったからああなった」

 

「人を呪わば穴二つ、か」

 

「まぁ、みんなで傷つけば世界も変わるって話です。逆に言えば誰も傷つけずに世界変えるのって無理なんですけど」

 

「無理かね」

 

「やろうと思えばなんとか?とはいえ傷を治すまでセットでみたいな感じになりますけど」

 

ちらり、と後ろを見る。

千葉村を出たあたりは僕にやたら絡んでいた奉仕部の先輩方や、何故かついてきたいろはすさんも今や夢の中だ。

彼らはどんな夢を見るのだろう。

 

そんなことを考えるついでに、僕は自分がやらかしたあとの先輩方の反応を思い出していた。

 

『お前…えげつないな…』

 

『やり方が詐欺師のそれなのよ。相手の隠しごとを無遠慮に暴き立てて、嘘で他人を翻弄する』

 

『…やー、ほんとに容赦ないよね。てっていてき?ってやつだ…でも私たちも同じことされたんだよね』

 

『失礼な!僕はいつでもどこでも清涼剤ですよ!』

 

『清涼剤ってなんだっけ…?』

 

『ただの劇毒よあなたは』

 

『お前のその気に入った相手のためなら世界とか空気を容易く敵に回すのなんなの?魔王なの?』

 

『今のはメラではない。メラゾーマだ…』

 

『しょぼっ!』

 

『またヒッキーと今泉くんが意味わかんない会話してる…』

 

『放っておきなさい由比ヶ浜さん…それにしても、本当に見事なものね。…想像力を無理矢理植え付ける、そのための方法に恐怖は確かに効率的だわ』

 

『そうだな、俺も無理だ。無理無理。つーかもはや手口が洗脳なんだよな…』

 

『そうかな…ヒッキーならきっと助けたよ。あと、やっぱりこれ洗脳だよね…』

 

『ですねー。ヒキガヤ先輩なら友情に罅入れて徒党を組めなくする、とかですかね?あと洗脳ではないですよ』

 

『なんなのお前、エスパーなの?それとも比企谷検定保持者?』

 

『誰が生んでくれと頼んだ…(激似)』

 

『それはエスパータイプ』

 

『まぁ、ヒキガヤ検定は4級くらいですかね』

 

『微妙じゃねえか…』

 

『…でも今泉くんすごいよ。ほんとにクラス丸々一個変えちゃった』

 

『褒めるべきは僕じゃなくて、留美ちゃんですよ、戸塚先輩。彼女の勇気は誰よりも素晴らしかった。それに彼女が本気で一人で戦ったから、悪意が返ってくるという体験を彼女たちがしていたから、効果があったやり方ですしね』

 

『そうね』

 

『もう二度と空気に流されることはない、といいね。空気に翻弄されるのってしんどいから』

 

『ま、家庭教師は続けるんで様子はしっかり見ときますよ』

 

『むしろあの子の将来を考えるなら今泉先輩が離れるべきなんじゃないかなぁーって』

 

『いいね、こまっちゃん。いい…そのイケメンで兄のために動いてくれる頭もいい素敵な先輩から、顔が良いだけのクズに格下げされてる感じぞくぞくする』

 

『小町はそこまで言ってませんからね!?』 

 

『いい…』

 

『ちょ、ほんとやめてください!やめ…っ、拝むな!』

 

『…今泉』

 

『あ、葉山先輩』

 

『ありがとう。参考になった』

 

『葉山先輩はしちゃ駄目ですよ』

 

『わかってる、俺には無理だ。他人に悪意を向けてそれを振るうなんてこと』

 

『幻滅しました?』

 

『いや。むしろ尊敬したよ。それに最後は全員笑顔だった。…傷ついても、また笑えるんだな』

 

『…まったくしょうがないですね、今度葉山先輩にはもっと簡単でいい方法を教えてあげます』

 

『…ははっ、ありがとう。今泉。なら今度こないだ苦戦してたダーツのコツ、教えるよ』

 

『やりぃ。これで真ん中に当てまくりだ』

 

『…今泉くん』

 

『あ、いろはすさん』

 

『やーっと見つけた!!』

 

『…え、急になに…?』

 

───散々な反応だが別に僕が大それたことをしたわけではない。

いやほんとに。

ただ怪談を語って聞かせただけだ。

 

内容も誰かをハブっていたら、気づけば自分が校舎の中に一人で閉じ込められ、永遠とも思えるほど長い間さまようことになる。

そして、自分をさらったと思しき黒い影にずっとつきまとわれて必死に逃げて逃げて…。

そして、逃げ切って校舎から出れたと思ったら次は別のクラスメートがいなくなるというごく普通なもの。

 

違ったのはディティールの細かさ。

校舎の情景。

教室に置かれたもの。

普段の自分たちがしてるのとまったく同じ会話。

誰かに話したけど、誰にでもは話していないはずの自分の秘密。

テストの点。

好きな人の話。

家族の話。

 

それらを留美ちゃんの協力のもと突き詰めていったその嫌なリアリティーのある怪談は、狙い通り心当たりのある子供たちをとても恐怖させた。

だって、自分たちと初対面のはずの男が語る怪談が、自分たちの世界とほとんど符合するなんて怖すぎる。

あと、留美ちゃんが時折クラスメートにのみ聞こえる音量で『助けて』と録音されたスマホを再生していたので、さらに怖かったことだろう。

悪意を超える恐怖。

理解できないものは恐ろしい。

でも人間は考える葦だ。

理解できないものを理解しようとしてしまう。

その過程で、彼らは想像力を獲得するのだ。

 

『───次は君だ』

 

そして獲得したばかりの想像力で、自分がもしハブの対象になったらと考えたとき、子どもたちはようやく気づく。

 

「望まない孤独は怖い。他人に向けた悪意は返ってくる。それを知った子どもたちは、少なくともしばらくはハブなんてしませんよ」

 

「まぁ、良い教訓にはなるのだろうな」

 

「痛みを伴わない教訓に意味はない」

 

「ハガレンか…あれはまさに不朽の名作だな」

 

「やっぱ平塚先生はわかってますね!」

 

赤信号でちょうど止まったタイミングで、いえーいと平塚先生とハイタッチする。

…あ、顔赤らめた。

初心か?

 

「…お、おほん。とはいえ、あれ程真に迫る怪談は初めて聞いたよ。当事者でない私にすら校舎の情景が浮かんで、一瞬まるで本当に世界に自分が一人なんじゃないかと思う瞬間すらあった。逃げる描写のとき、私が追われてるのかと錯覚するほど緊迫した。…正直震えたよ」

 

そりゃ平塚先生がほんとの孤独を味わったことがないからだ。良かったですね、まだ行き遅れへの危機感あって、とはもちろん口にしない。

なぜなら、大人すら震えさせる語りをした自信が僕にはあるからだ。

 

とはいえ泣くほどじゃないにしても、多かれ少なかれ聞いていた全員が本気で震える僕の語りを、ヒキガヤ先輩と雪ノ下先輩、あと葉山先輩と海老名先輩も普通に聞き流していた。

悪意を拒絶をするまでもなく、ただ誰も周りにいないというのは逆に居心地がいいというのを知っているからだろう。

 

「やろうと思えば怪談だけで全員軍隊式に根性叩き直して、返事はサーイエッサー、座右の銘は『ぬるい友情・無駄な努力・むなしい勝利』、 趣味は筋トレと淫夢実況、休日は仲間とバーベキュー、ボーボボ大好きみたいな小学生集団にもできたんですけど…」

 

「……私は時々お前が心底恐ろしいよ。君が妖怪だと言われても信じるほどに。懐かれている雪ノ下たちには同情しておこう」

 

「ま、本題は怪談じゃないんで。それにきっと僕と雪ノ下先輩は遅かれ早かれどこかで出会ってましたよ」

 

「おや、運命の赤い糸とか言うつもりかね?」

 

「赤というより黒ですかね。ぐるぐるまきになってますよ、黒い糸で」

 

そう。

別に怪談は本番ではない。

ほとんどの子どもたちが怪談で泣いていたし、自分のしでかしたことの大きさを全員が理解して反省していたけど。

…つまりぶっちゃけここで依頼完了だった。

でも、大事なのは決めたことを最後までやり抜くという気持ちだ。

だから続行した。

というか、ここでやめたら面白くないじゃん(本音)。

それに、僕は肝試しの脅かし役をまっとうしただけなので、怒られる謂れはない。

 

とりあえずまともな肝試しをするクラスはヒキガヤ先輩たちに任せて、僕は留美ちゃんのクラスメートたち“全員”を特別コースへと招き入れた。

ついでにいろはすさんにはスタートの合図を出す役目を担ってもらった。

森の中に入れば僕の独壇場だ。

 

例えば、ギリースーツで見えない怪異として全力で追いかけたり。

例えば、声真似で違うグループのクラスメイトを演じて、あれひとり足りない?いや多かったんだ!をやったり。

例えば、バレないようにギリースーツで近づいて耳元で『みーつけた』と囁いてみたり。

例えば、つまずく仕掛けの先に『こっちにおいでよ』と書かれた血文字風の張り紙を用意したり。

例えば、強烈なフラッシュを浴びせて目眩まししたあとに一人だけ道の先に連れて行って一瞬本気の孤独を味合わせたり。

例えば、音声を録音できる人形を道の目立つところに置いといて、彼女たちが普段学校でしてる会話を流したり。

例えば、『ひとりぼっちは寂しいもんな』というプラカードをぶら下げ、さらには血みどろ衣装で木で首をつったように見える僕の姿を見せつけたり。

例えば、女の子の声で暗闇の中から『私とひとりぼっち、代わってくれる?』って言ってみたり。

例えば、もはや普通に爆竹を後ろの方で起爆して脅かしてみたり。

 

結果、キャンプファイヤーの前で互いに抱き合って、泣きながらごめんなさいを繰り返す子どもたちというとても保護者には見せられない絵面が完成した。

 

…正直ちょっとやりすぎたかなと思わないでもない。

でもほらわざと子どもを泣かせる獅子舞とかあるし?

これも彼らの将来のために、必要なことだったからセーフ。

 

「でも“あれ”だけは絶対必要なかっただろう…」

 

「あれ?…ああ、あれね。あれあれ。あれは別によくないですか?むしろアフターサービスしたことを感謝してほしいんですけど」

 

「アフターサービス?…あれが?」

 

「あれのおかげで怖い思い出が恥ずかしい思い出になったでしょ」

 

平塚先生の言うあれとは、うんちブリブリスクワットのことだろう。

うんちブリブリスクワットはしないと言ったな、あれは嘘だ。

僕は肝試し後、泣きじゃくる子供たちに向かって、キャンプファイヤーをバックに笑顔で言った。

 

『実は反省してる姿を見せて、ひとりぼっちを遠ざける方法があるんだ』

 

『───う ん ち ブ リ ブ リ ス ク ワ ッ ト って知ってる?』

 

『これの効果はすごくてね。肩こり腰痛予防、体育の成績の向上、そして心が強くなる。この効果はここにいるみんなの友達留美ちゃんが証明している。君たちも心が強ぇ小学生になりたくないか?』

 

『さぁみんな笑顔で唱えるんだ。うんちブリブリ!』

 

『ほらほら笑って?笑顔が硬いぞ☆うんちブリ〜(気さくな挨拶)』

 

キャンプファイヤーの周りでうんちブリブリ言いながらスクワットするクラスメートという絵面に、留美ちゃんが泣くほど笑っていたので僕の行いは正義だ。

だって泣いてる女の子を笑顔にしたんだ。

怪談で泣いてた子どもたちも笑顔になれてたし。

恐怖で顔引きつってたけど。

先輩方の顔も引きつってたけど。

なんでだ。

正義以外の何物でもないだろ。

 

まぁとにかく、こんな感じで僕がしたのは大したことじゃないのだ。

脅かして、さらに脅かして、トドメにうんちブリブリしただけ。

結果として全員が互いの一番恥ずかしい泣き顔と下ネタ叫んでるところを知っているという状況にクラス内の上下関係が消滅、ついでに全員が自分が軽い気持ちでしていたことへの罪の意識と拭えぬ恐怖とうんちブリブリを抱えるようになった。

遊び半分にハブをしようなんて空気は完全に破壊され、少しだけ想像力のある集団になり、最後にうんちブリブリしてオーケーレッツパーリナイだ。

 

わかりやすく言うと、僕がしたのは恐怖で想像力を植え付けて、どんだけマウントを取ったりカッコつけても、『でもあいつ泣きながらうんちブリブリしてたんだよな…』となるようにしただけ。

ヒエラルキーの破壊。

上でふんぞり返ってる奴らの引きずり落とし。

無風状態の作成。

どれも言葉にすれば陳腐なものたちだ。

 

やるやつはどうせまたやるだろうが、このきついお薬は当面は効くことだろう。

うんちブリブリ。

 

他人の立場になって考える。

自分がされたらと考える。

うんちブリブリを考える。

この想像力はあって損はないものだ。

 

「いいことしたなぁ…」

 

「…ところであの帰りの直前に鶴見留美に渡していた封筒はなんだ?」

 

まったく、いい話で終わらせてくれないなこの先生は。

勘のいい先生は大好きだからそのままでいてくださいね。

 

「ムカつくクラスメイトの泣き顔写真集。留美ちゃんの弾けるガッツポーズを添えて、みたいな?お母さんにクラスの子との写真撮ってこいって言われてたらしいんで、気合い入れて撮りました!」

 

「最低か!?」

 

「ハブをするやつらの末路なんて知りませんよーだ」

 

僕はべ、と舌を出すと助手席で目をつむる。

 

「…とにかくお疲れ、今泉」

 

「おやすみなさい平塚先生」

 

「帰ったら普通に反省文な」

 

赤信号が青になる。

車が静かに走り出すのを感じながら、僕は夢の世界へと落ちていった。

 

 

 

 

 

「着いたぞ、全員起きたまえ」

 

平塚先生の声で眠りから覚める。

短い間だったが、妙に頭がスッキリしている。

逆に後ろの席では先輩方が伸びをしたり、欠伸を漏らしたりしているあたり、まだ疲労は抜けきっていないらしい。

 

寝起きの先輩方の写真を撮りたくてスマホを見れば、1件のメール。

そこに添付されていた写真を見て僕は笑った。

…うん、いい笑顔だ。

友達とは仲良くね。

 

「おい由比ヶ浜起きろ。今泉がこっちにスマホ向けて笑ってやがる」

 

「わわっ、顔隠さなきゃ…!ゆきのんは!?」

 

「…私はべつに…だいじょ…」

 

「行ってる行ってる。夢の世界へご招待されちゃってるから…戻ってこい雪ノ下。頼むから。…正直肩の服がズレてて触るの恥ずいんですけど?」

 

「パンさん…」

 

「俺はパンさんじゃない」

 

「あはは…小町ちゃん、ポーズ何がいいかな?」

 

「むむ…無難にピースにしときましょう!今泉先輩に弱み見せるとどう悪用されるかわかんないですし…」

 

「…そんなに悪い子でもないんだよ?」

 

「戸塚先輩の意外な一面。ああいうのが趣味ですか?」

 

「しゅ…!?ち、違うよ小町ちゃん!そういう意味じゃなくて!」

 

「わー…照れ方がかわいいなぁこの人…」

 

「ねー、今泉くん。ポーズとってるんだから早くして?」

 

「任せろチーズ」

 

「あ、問答無用で撮りやがったこいつ!」

 

僕は自分の友だちの写真を留美ちゃんに送りながら車を降りる。

 

写真の中では寝癖がひどいヒキガヤ先輩が雪ノ下先輩を起こそうとおっかなびっくり肩を揺らしていて、ガハマ先輩は寝起きの顔を隠そうと必死に腕を振りすぎて逆に赤らめた顔が丸見えだし、雪ノ下先輩がよだれを垂らしながらヒキガヤ先輩に揺らされて頭をがっくんがっくんさせている。

あとはいろはすさんが最前列で小顔ポーズ決めて、戸塚先輩とこまっちゃんが普通に後ろの席でピースしているという、実にらしい写真を入念に保存して、僕は入道雲に向かって大きく伸びをした。

 

アスファルトが焼ける匂いが心地良い。

車内の冷えた空気が一気に外の熱気に食われ生ぬるくなる。

蝉の大合唱が先輩方の文句を全てをかき消す。

 

どうやら夏の終わりはまだ遠いらしい。

でも、とりあえずこれにて林間学校は終わり!

万事解決オーケー!

ということで。

 

しーゆー!

 

 

 

 

 

 

 

 

12:01

From ルミ

Title 今泉さんへ。鶴見留美です。

 

ありがとう私の先生。

大好き!

 

画像

 

 




今回も最後まで読んでくださってありがとうございます。

うんちブリブリ!
…はいすいません。
今泉ならもっとひどくはできたのですが、先生として頼られた今泉というどこかセーブされた感じが出せてたらいいなとか思ったり。
文化祭はまた別の方法でやらかします。
うんちブリブリしません。
でもその前に1話挟まります。
今回溜まった毒を浄化するかわいいエピソードですたぶん。
とりあえず全力で書きます。

あと、誰かルミルミが笑顔で撮った友達との自撮りツーショット写真とか、最後の写真とか現実に持ち合わせてないですか?
確かにあるはずなのに僕のスマホに存在しないバクが存在してるんですけど…(存在しない記憶)
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