更新が止まっている間でも、感想やお気に入り登録、評価をしてくださる皆様のおかげで今日も僕は生きています。
8月終わる前に続きを投稿できてよかったです。
あと、今回はプロローグなのでうす味です。
十四時間目。実行委員
「ちわーす、Uber Eatsでーす」
最短経路で駆けつけた。
だが、その扉を蹴り開けた先に広がっていた光景に、僕は自分が間に合わなかったことを悟った。
道具を用意していたからか。
文化祭をエンジョイするのに夢中で半ば放置していたからか。
とはいえきっと結果は変わらなかっただろう。
僕はこれまでを思い返すように空を見上げる。
夏も終わり、秋らしい装いになった青空には、羊雲が浮かんでいた。
「…なんかジンギスカン食べたくなってきたなぁ…」
「おい」
胸ぐらを掴まれ壁に叩きつけられているヒキガヤ先輩が、諦めたようにため息を付いた。
◆
ざわざわ、ざわ。
そんな擬音がぴったりな放課後。
僕はクラスメートたちから遠巻きに見つめられながら、ぼんやりと目の前の文字列に目を滑らせていた。
夏休みが終わり、二学期が始まった。
そんな学生生活において、僕の周りには小さいながらいくつかの変化があった。
「浩平くん、今日はどうするの?会議まで1時間くらいあるけど」
「ああ、いろはさん。…うーん一旦部室寄ろうかなぁ」
時は放課後。
僕は読んでいた雑誌を閉じて、声をかけてくれたその人物へ顔を向ける。
一つがこれだ。
僕といろはさんが互いを下の名前で呼ぶようになった。
ただそれだけ。
…それだけ、なのだけど。
僕にとってみれば大きな進展だった。
なにせ誰かと普通の友人以上に仲のいい関係に進展したのが初めてなのだから。
うん、友人自体少ないというツッコミには諸手を挙げて降参するしかないのだけど。
とにかく、普通の友人よりも近いその距離は存外居心地が良かった。
「そうなんだ。なら私も途中までついてこっかな。その後は図書館で適当に時間つぶしとく」
「遠慮しなくていいのに」
「…いやまあ、ちょっとずつでいいかな。それより、エロ本を教室で堂々と読むのはやめてくれない?頭おかしいの?せめてブックカバーしろよ」
「でぇじょうぶだ。これ、健全だから」
「はぁ?」
「周りをどよめかせたいがために開いてただけで、実際の中身は普通の漫画だし健全だよ。これ自作ブックカバー」
「うわ、これがブックカバーなんだ…」
「それと便座カバー」
「それは普通にいらない」
まるで汚い物を触るかのように、漫画の外側にあてがわれていたいかがわしい表紙をいろはさんが持ちあげる。
いい表情だ。
素敵だね。
これもエボンの賜物だな。
「絶対話しかけられない鉄壁のブックカバー。ラノベに必死にブックカバーかけて如何にも真面目な本読んでますって顔するより楽だと思う」
「それができるのメンタルイカれてる浩平くんだけだよ」
「そうかな…そうかも?」
まぁ、案の定僕らの関係の変化に周りはざわついたが知ったことではない。
それにいろはさんへの女子たちの嫉妬も最近は落ち着いている。
…たぶんいろはさんが無闇矢鱈にあざとさをばら撒かなくなったからだろう。
結果として僕に対する男子の嫉妬の目線が増えたわけだが、中指を立てて笑顔を向ければ沈黙する雑魚ばかりで話にならなかった。
「にしても思ったより退屈だなぁ文実って」
「まぁただの高校の文化祭だし。それにまだ二日目だよ。これから面白くなるかもしれないじゃん」
変化2つ目。
学校で文化祭の準備が始まったこと。
学校全体がソワソワしていて、今にも何かが起こりそうな予感に僕はワクワクしている。
とはいえ、意気揚々と参加した文化祭実行委員会に対しては若干期待外れ感があるのは否めない。
「まぁクラスの出し物係よりマシかぁ。純喫茶とか何が楽しいんだか。ああいうところは渋くてダンディなマスターがいるからいいのに」
「…なんかそこが意外なんだよね。むしろクラスを扇動して全力で自分好みの出し物にするかと思ったのに」
とん、と一歩前に出て下から僕を覗き込むようにいろはさんが聞いてくる。
それに僕は肩をすくめながら答えた。
「だって文化祭全体に関われるほうが面白そうだったし。自分が別の仕事するのに、クラスの人に自分の楽しみ方を押し付けるの申し訳ないじゃん」
「ふーん…」
「うわ信じてない顔だ」
「んー、信じてないわけじゃないけど浩平くんなら分身してでも張り切るんじゃないのって思っただけ」
まぁ否定はしない。
もちろんクラスの方に気合を入れていないのには理由がある。
「まぁぶっちゃけ今からでも魔改造純喫茶とかできるけど、しない。文実で頑張る僕がつまんない思いしてんのに、クラスのみんなが僕好みの楽しいことしてたらうざいから」
「いつも通り最低で安心した。やー浩平くんはそうでなくっちゃ!」
「そりゃよかった」
僕の人格面の評価ってどうなってるんだろうか。
いろはさんって僕のことめっちゃ高く評価してる感出してるのに、僕が最低なこと言うと喜ぶよね。
いや最低なことっていうか本音なんだけども。
…まぁいいか。
これから知っていけばいい話だ。
表層的な部分だけ見て知った気になるのは愚か者のすることなのだから。
「…それに、最近奉仕部の様子が変なのがなぁ」
「お祭りのときも言ってたよねそれ。まだ続いてんの?」
「…まあ話を聞いた感じ、文化祭終わる頃にはどうにかなりそうだしいいんだけど」
終わりそう、というか終わらせる。
そのために二足の草鞋をやめたのだから。
いやある意味草鞋ははいてるか。
イケメン、清涼剤、策略家。
総武高校のトリプルフェイス、安室透とは僕のことだ。
そんな戯言はさておき、3つ目。
それは奉仕部の様子。
どうにも会話が上滑りしているというか、空転している感じが否めないのだ。
ガハマ先輩が必死に場を繋いで、ヒキガヤ先輩か雪ノ下先輩が答えることで、一見奉仕部はいつもどおりに見えている。
でも、まず場を繋ぐのに必死さがあるのがもうおかしい。
それに会話を回そうにも、どうしても妙な沈黙が生まれる瞬間がある。
それがうざったくて沈黙するたびに下ネタワードを放り込んでいたら、ガハマ先輩が顔真っ赤にしながらより必死に会話を回すようになってしまったし、雪ノ下先輩とヒキガヤ先輩も呆れたような目で僕を見てくるようになった。
…おかしい。
せっかく空気を軽くしてあげたのに、僕がお馬鹿な子みたいな扱いを受けるのは許せない。
許しておけないですよこれは!と平塚先生に訴えたところ、セクハラはよくないと怒られてしまった。
ちんちん亭語録なのがよくなかったのだろうか。
反省。
でも僕がなにを言ったか丁寧に説明する度に赤くなる平塚先生が可愛かったのでオーケーです。
◆
「うち、実行委員長をやることになったけどさ、こう自信がないっていうかさ………。だから、助けてほしいんだ」
変な人が来た。
僕の第一印象はそんなものだった。
でもなぜだろうか。
なんか見覚えあるんだよな。
「今泉くん、首をかしげてるところ悪いけれど、昨日見ているはずよ」
昨日?
昨日か…。
あ。
「この人あれか。昨日文実の委員長に立候補してた人か。じゃあやっぱり変な人じゃん!」
「うちが変…?」
「いやぁ、だってやりたくないのに立候補するなんて変でしょ」
話しているうちに、僕は昨日の会議を鮮明に思い出してきた。
そう、クラスの出し物に参加するより絶対そっちのほうが面白いと思った僕は、見事文実の座を勝ち取り嬉々としてその集まりに参加した。
…実際はクソつまんなかったけど。
そんなつまんない文実の中でも格別につまんなかったのが委員長決めだ。
てっきり僕は雪ノ下先輩がやると思っていたのに、よくわからんヘラヘラしたやる気なさそうな、というか『やりたくないんだけど文実選ばれちゃって』みたいな態度の承認欲求の塊みたいな人間が、『成長したくって』なんていいながらそこに居座ると言い出した時は、思わずため息が漏れた。
ごっこ遊びかよ、と。
萎えてそれ以降いろはさんの横顔を眺めることだけに集中していたので、この人のことも記憶から飛んでいた。
「やっぱりそうだよね…だからこそっていうか。失敗してみんなに迷惑かけるのが一番だめじゃん?それにクラスの方にも顔出したいし。一人じゃきついっていうか…」
「…ガッテン!ガッテンっ!ガァッテム!!」
「なんか最後おかしくなかった?いやそもそもこの状況にためしてガッテンしてるほうがおかしいんだけどさ」
「ガハマ先輩の聞き間違いですよ」
「すぐ無意味な嘘つくじゃん」
「嘘は嘘でも人のためなら許される風潮ってあるじゃないですか」
「うん」
「まぁ別にさっきのは人のためとかでもなんでもないただの嘘なんですけど」
「あのさぁ…」
ちらり、と不安げにこちらを見る相模先輩に興味をそそられた僕は、ガハマ先輩のジト目を堪能しながら改めてその先輩を観察していた。
うーん、怠け癖◎、根性なし◎、嫉妬心◎ってところか…。
ウマ娘ならイベ配布で誰も使わずに死蔵しそう。
鋼の意志もないし。
…でも面白いな。
この方向性は予想外だ。
まさかあのくそつまんねー委員長が、ここまで承認欲求とプライドの塊だったなんて。
このあまりにも能力が普通なのに、嫉妬心だけは人一倍あるの最高に面白い。
ほしいのは成長でも経験でもなく、肩書と功績。
結果すら自分で出すつもりがないとは恐れ入った。
磨けば光る逸材だろこれ。
何だよ文実が急に面白いことになってきたじゃないか。
いろはさん、君は正しかった。
ありがとういろはさん。
ありがとうクズいいんちょ。
神に感謝。
「……話を要約すると、あなたの補佐をすればいいということになるのかしら」
「うん、そうそう」
いいんちょは嬉しそうだ。
それに相対する雪ノ下先輩の顔はいつもよりも冷たい。
だが、その口が紡いだのは今までの依頼に比べてあまりにも甘い沙汰だった。
「…そう。部活の活動理念をそれるから、私個人の協力という形でなら引き受けるわ。もちろん、実行委員の範囲から外れない程度の手伝いになるけど…」
「ゆきのん!」
その言葉に、まっさきに反応したのはいいんちょではなくガハマ先輩だ。
その咎めるような視線に、雪ノ下先輩は逃げるように目線をそらす。
「私個人でやることよ。あなたたちが気にすることではないわ…」
「でも、そんなの…」
僕は今の奉仕部の気まずさからくる状況は別にどうとでもなると思っている。
だからここは放置。
空気が重くなった部室も、気まずそうな顔をするいいんちょも関係ない。
僕はせっかく舞い込んできた新しいおもちゃを雪ノ下先輩に独占されないようにするべく、声を上げた。
「いやいや雪ノ下先輩個人で依頼を受けるなんてもったいないですよ!僕とヒキガヤ先輩も文実なんです!奉仕部としてとりあえず受けて、各々手伝えるタイミングで手を貸す感じでどうですか?」
「あ、それは心強いかも…」
「今お前もったいないって言った?」
「言ってません」
「ならこっち見て言え、おい」
「言、っ、て、ま、せ、んー!」
乗り気ないいんちょとは違って、今日もヒキガヤ先輩の違和感レーダーはびんびんだ。
ご立派ァ!
でも僕と目を合わせるのを避けてるのはヒキガヤ先輩なんだよな。
最近後ろめたいことが増えたからだろう。
「で、ですね。今回依頼を受けるにあたってちょっと条件があるんですよ。べつに、そんな大したものじゃないんですけどね。なぁに、簡単なことをしてもらうだけですよ。みんなやってます…ね?いいですよね?」
僕の笑顔を前に、なぜか依頼者のいいんちょ以外も顔を引き攣らせるのだった。
…失礼な。
ほんとに大したことじゃないんだってば。
信用ないなぁ。
まぁいいか!!よろしくなあ!
今回も最後まで読んでくださってありがとうございました。
いよいよ文化祭が始まりました。
誰も傷つかない世界になるのかどうか、あまり期待せずにお待ちください。