総武高校奉仕部うすしお味。   作:ひつまぶし太郎

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今回はタイトル通り放送事故です。
ほんとはリーガル・ハイのBGM流してたら出来た、五千字くらい今泉のセリフだけのパターンもあったんですけど作者がそのウザさに耐えきれずに消しました。


十六時間目。放送事故

 

 

有り体に言って、文実の現状は酷い有様だった。

なぜか。

…陽乃さんのせいだ。

いや、せいは言いすぎか。

あくまであの人はきっかけ。

反対することができなかった委員会全体の問題だった。

 

あのあと、陽乃さんは()()()()()()()遅刻してきた相模の調子に乗りやすいところと承認欲求モンスターなところを見事に見抜き、くすぐり、おだて上げた。

まさに木に登る豚。

木どころか天に登る気持ちだったことだろう。

 

結果相模は、文実はクラスの方を頑張ってこそ。ペース落としてこ。大丈夫大丈夫平気だって安心してよ!だって今出来てるじゃん?という舐め腐った発言を行い、その言葉はあっという間に委員会全体に浸透した。

 

1人が3人に、3人が6人に、6人が10人に…といった感じで、どんどんとくる人間が減っている。

 

今泉は嫌がりながらも毎日来ているが、今日はいない。

まぁあいつは要領がいいから今日の分の自分の仕事はもう終わらせているから問題もない。

そもそもこれだけの人間が休んでいる中で、毎日頑張ってるやつが休んで誰が責めるというのか。

 

とはいえ一人いないだけでいつもより静かだと感じるのは、相当毒されているからだろう。

あれであの後輩仕事はできるので、賑やかに騒ぎながらも自分の領分の仕事は的確に期限内に終わらせて、その後雪ノ下や俺に絡みながら手を動かし、気づけば書類の山が半分なくなっているなんてことも多い。

それと同じくらい気づいたら会議室にいないこともあるけど。

…一度、『変わり身の術』という紙が貼られた今泉の声が流れ続けるラジカセに話しかけてしまった時は死ねと思った。

 

だが、それでも仕事は減らない。

今泉や俺、雪ノ下に生徒会、そしてたまに来る陽乃さんが働いて初めて成立する奇跡のバランス。

いやバランスは取れていないか。

少しずつ、されど明確に遅れを取りながら車輪は回っていた。

 

ちなみにお茶はセルフだ。

少し前、『お茶』とか言ってこちらを見ずにコップを出してきた先輩のそのコップに、今泉がほぼ致死量だろ…ってぐらいのタバスコをぶち込んだからだ。

当然その先輩はキレたが、即座に今泉がめぐり先輩にチクったことで『お茶は自分で入れよっか。ね?うん、それが一番だよ!』という解決策が打ち出され、以来お茶は自分で入れるという、まぁ普通なら当たり前の構図が保たれていた。

ちなみにその先輩はその日以降来ていない。

まぁそりゃそうだろうな。

人手が減って痛手になるかと思いきや、その先輩に話しかけられるせいで仕事ができていなかった女子が解放され、むしろ人手が増えた形になるのでもう戻ってこなくていいです。

 

そんなことを考えていたときだ。

部屋をノックする音がして、俺は切れた集中力の矛先を確認するべく顔を上げた。

 

「有志の申込書類、提出にきたんだけど…人減ってないか?」

 

「ああ、なんかな」

 

「ふぅん…しかも見たところ、雪ノ下さんが全部やってるように見えるけど」

 

「…ええ、その方が効率がいいし」

 

「……でも、そろそろ破綻する」

 

葉山にしては、突き放すような言い方だった。

あるいはそれは、林間学校のあのとき。

ヒキタニくんならどうした?なんて言われて思いついた方法を告げたときの、あの表情。

 

俺と葉山しか知らないそのやりとり。

 

───きっと俺は君と仲良くできないな

 

そんな言葉を放ったあの時とそっくりで。

 

「そうなる前に、ちゃんと人を頼ったほうがいいよ」

 

俺は会話に入るタイミングを失ってしまった。

いやいいんだけどね別に。

 

…信じて任せる。

これを当たり前のようにできる由比ヶ浜や今泉はここにいない。

いや、由比ヶ浜だって別に無条件で信じてるわけじゃないのだ。

あいつだって傷ついて、怖い思いをして、その上で俺や今泉を信じて頼るのだ。

 

───ゆきのんが困ってたら助けること!

 

あるいは、ある意味他人を一番信用しているのは今泉なのかもしれない。

自分が信じた相手は間違いない、という確信。

自分に対する絶対の自信からくる他人への信頼。

おだて上手とも言う。

ああもまっすぐに信頼されてしまうと、期待に応えたくなってしまうのが人間の性というものだ。

それにあいつは裏切られても笑うのだろう。

それもまた良し、と。

 

「うん、雪ノ下さん…誰かを頼るのも大事なことだよ?」

 

「それは…」

 

それはそうなのだろう。

言い淀む雪ノ下を見て、俺は思う。

誰かに頼って、仲間を作って。

それで乗り越えていく奴らはいい。

勝手にすればいい。

だが、なぜそこで一人で頑張ってきたやつが否定されなくちゃいけないのだ。

俺はそれが許せない。

 

「…頼るのは大事でしょうけど、頼る気まんまんのやつしかいないんですよね。頼ってるならまだいいですよ、単純に使ってるやつがいる。それが現状を生み出した」

 

「……そうだね」

 

「だから、俺は。信じて任すのだけが正しいとは思わない。信じて任すのがしんどい人間だっている。…いやまぁ、えーっと、なんだ…実際のところ現状確実に助けがいるんですけどね?具体的には俺とか!俺の仕事記録雑務なのに雑用全般押し付けられてる不思議!みたいな?」

 

「わー!ごめん!そうだよね!?君の机の上すごいもんね!雪ノ下さんだけじゃなくて君も頼ってね!」

 

「そっちも手伝うよ」

 

「一度割り振りを考えます…ごめんなさい、ありがとう」

 

雪ノ下が誰へ謝ったのかわからない。

俺に向けて、なんてことはありえない。

なぜなら俺は別に雪ノ下を庇ったわけではないのだから。

単に俺は雪ノ下だけじゃなく、俺も助けてもらおうとしただけなのだから。

 

こうして。

一瞬暗くなりかけたものの、なんとか持ちこたえたその会議室に、否。

なんとなく嫌な空気の流れる学校全体に、ががっ、というノイズのあとにマイクの入る音が響き渡った。

 

 

◆◆

 

 

『えーテステス。マイクテストマイクテスト。本日は晴天なり。我はコロ助なり。あーおほん、聞こえてる?聞こえてんのかなこれ。ねぇ先輩これどう思います?聞こえてっかなー、今から凄いこというんだけどなぁー…そうだ一曲歌いましょうか。で、マックで飯食って話聞いて拍手喝采起きたらマイクが入ってるってことで』

 

それは今泉の声だった。

聞き間違えるはずもない。

この半年近く、ずっと何度も聞いてきたそのお気楽な声音。

でもなぜだろうか。

虫の知らせなのか、このとき俺はこれが不特定多数に対する死刑宣告だと確信していた。

 

『今日は、学校のお前らにひとつ教えてやる。俺がメッポウハマってるいわゆる世界三大モテ趣味の一角をなす───え、聞こえてるからはよ喋れ?えー、せっかくエミネムさん嘘字幕シリーズをアカペラで垂れ流して学校を沈黙に陥れようとしたのに…あーはいはい。すいませんね。こうやって放課後皆が文化祭の準備してる時間に、放送部部長を駆り出して喋ってんだから真面目にやれってね。はいはい。はいは一回。はーいなんてやりとりは別にしてないですけど』

 

ああ、これはだめだ。

だめなやつだ。

今泉のかつてないワクワクした声音に、理性ではなく本能がそれを理解した。

 

『あ、先に事務連絡しときますね。この放送の後、頑張って文実の皆さんは会議室来てください。来れるもんなら。来なかった人はまた校内放送して恥ずかしい秘密暴露するんで。例えば文実のとある誰かが実は弟さんを溺愛してて彼氏扱いしてるとか、とある誰かがブスの彼氏に二股されてるとか、そんな秘密です。お父さんに言えない秘密から、お母さんしか知らない秘密まで。総武高校の清涼剤は各種取り揃えております!嫌いなあいつの弱味を握りたいみなさん、奮って僕の方にご連絡くださいね!』

 

おほん、と今泉が咳を挟みペラリと紙を持ち上げた音がした。

 

『では皆さん、心臓の弱い方は心の準備をしっかりしていてくださいね。今から読み上げる内容的に結構ショッキングな放送になりますから。対ショック姿勢よーい!……いいですか?準備できました?実はまだなんじゃないかって思いますけど。早くしてください?……はい、これだけ待ったらいいですよね。えー、では、張り切って行きましょう!……え、まだ?なら一旦CMでーす。あだっ!叩かないでくださいよ!はいはいわかりましたわかりました。遅延行為やめますって。あ、待って放送終了スイッチに手ぇ伸ばさないで。やりますやります!真面目にやりますって!…じゃ読みまーす』

 

【最近文実のクラスメートがクラスの出し物の準備を手伝うこともなく教室で駄弁ってる】

【ぶっちゃけ文実ってなにかしてんの?】

【うちの文実が後輩に仕事押し付けたこと自慢してきた。かっこよくねーよ】

【さいちゃんかわいい】

【文実が真面目じゃないし今年の文化祭終わったわ】

【なら文化祭準備こっちも真面目にしなくていいでFA?】

【FAってなんだよ】

【ちくわ大明神】

【誰だ今の】

【ファイナルアンサーな。低学歴乙】

【残念w同じ高校でぇ〜す】

【自爆範囲攻撃やめろ】

【でもうちのかーちゃんも保護者会の方で問題視されてるって言ってた】

【なーにぃ〜?やっちまったなぁ!】

【文実は黙って仕事しとけ】

 

読み上げられたその言葉に、文実の会議室は凍りついた。

いや、おそらくは学校全体が凍りついたことだろう。

だが、そんな唐突な氷属性範囲攻撃をした張本人は一切気にした様子もなく話し続ける。

 

『…はい。いやぁ散々。ヒャア悲惨。鬼舞辻無惨。なんちって。これなんだと思います?ミキプルーンの苗木じゃないですよ。今読み上げたやつのことです』

 

『正解は学校の掲示板と最近流行りの青い鳥のやつの一部抜粋です』

 

『これねぇ、噂の実態を調べるためにいろんなクラスで聞いて回ってみたんですけど、わざわざ呟きはしてないけど似た考えの人多いみたいなんですねぇ…。あ、文実の人は知らないですよね。まぁしゃーないです。だって隠してたんで。1()()()()()()()()()してる先生に頼まれた秘密裏に調査ってやつなんで!案外僕の上のお口堅いでしょ?堅すぎて決壊したときの勢いすごいけど。びしゃびしゃのどばどばです』

 

『しかも教師の皆様からだけじゃなく保護者会の一部の方からもクレームが来てるんですよ。…おっと、クレームじゃないな。ありがたーいご意見です。誰からだと思います?雪ノ下先輩のお母様です。保護者の皆様を代表して、OBOGの有志団体の所属でもある雪ノ下陽乃さんのお母様からありがたいご意見を頂きました。

 

───本業をおろそかにする人間に何かを為すことはできません。あと陽乃、妹に構ってもらいたいからってあんまり母校に顔を出すのはやめなさい。黒歴史になるから、と』

 

『いやぁ含蓄のあるお言葉ですね。あと陽乃さん名指しなのウケますね。最近の動向都築さんにチクってよかった。

ちなみに地域の声として弁護士会所属の葉山先輩のお父様の代弁を葉山先輩のお母様にお願いしたところ、こんな言葉をもらいました。

 

───まずは目の前のことからコツコツと。目標を見据えて必要なことをきっちりこなす。これが成功の鍵ですよ。あとうちの隼人のクラスの劇をよろしくお願いします、と。

 

やーちゃっかりしてますね。

でも何よりびっくりなのは保護者会がしっかり問題視してるところですよね』

 

『まぁ、なんでこんな保護者会が問題視してるっかって言うと、僕がこの問題を雪ノ下先輩のお母様通して保護者会に暴露したからなんですけどね。なんで1生徒がそんなすごい人と連絡取れるか?まぁたしかに、僕だけなら難しかったかもしれません。でも彼ならできるんです。そう、運転手の都築さんならね!ありがとう都築さん。サンキュー都築さん。フォーエバー都築さん。あと職員会議の議題に口八丁でねじ込んだのも僕です』

 

『つまり僕が騒がなきゃここまで大事にならなかったんですねぇ。そう!全部僕のせいだ!ハハハハハッ!全部僕のせいなんだ!フフッ…いや悪気はなかったんですよ?ちょっとうちわで扇いだら大火災になったみたいな。こんなつぶやき見かけちゃいました!って言ったら思ったより深刻に受け止められちゃってびっくり!』

 

『文実の皆さん大変ですよ!生徒に教師に保護者まで、全員が問題視してますよ!いやーなんでなんでしょうね?大変なことになってしまいました。俄然盛り上がってきましたね!責任者はどこですか?そう、文実のみんなです。俺関係ないし、なんてもう通用する時代じゃないんですよね!だってみんなが賛成したから、みんなが反対しなかったから!みんなが言うから正しい、仲良しこよしでおあとがよろしいってか?これだから無個性はヒーローになれねえんだよな』

 

『ふぅ…さて、ここまでくればもうなんでこんな時間にこんな放送をしているかお分かりですよね。そう、謝罪放送です。YouTubeならスーツ着て重大なお知らせって銘打つやつです。はい、そんな感じで。えーおほん』

 

『文化祭実行委員の一人としてここに謝罪させていただきます。

皆様、不安にさせてしまい申し訳ありません。 

というか騒ぎ大きくしてすみません。

良かれと思って!良かれと思って騒いだだけなんです!なので文化祭のことは嫌いになっても僕のことは嫌いにならないでください!

それに安心してください。

文化祭は必ず成功させてみせます。

保護者会、OBOGの皆さんの思い出に泥を塗るようなことはありません。

僕らのこれはサボりじゃなくて余裕。

史上最高の文化祭にする自信の表れです』

 

『皆様の目玉がひっくり返るよう最高のお祭りにするために、僕達文実は活動しています!』

 

『じゃ、謝罪したんで一曲流しまーす。Adoでうっせぇわ。あ、選曲に深い意味はないですよ。ほんとに。ほんとほんと。いやほんとですよ?ごちゃごちゃごちゃごちゃうるせーなとか、これっぽっちも思ってないんで!だって外野の声より僕のほうが声張ってましたから。僕の勝ち。あ、再生ボタンはこれ?おーけー、レリゴー!』

 

 

「「「「…………」」」」

 

誰も喋らない。

今泉の謝罪放送に全員が思考を停止させていた。

否。

これは謝罪に見せかけた脅しだ。

 

これは策略なんかではない。

暴略だ。

言葉の暴力だ。

林間学校ではセーブしていた、という本人の言葉通り、一クラスなんかではとどまらない盛大な放火。

あいつなら『火をつけろ、燃え残ったすべてに』とか言うのだろう。

あるいは『派手にやるじゃねえか!これから毎日学校を焼こうぜ?って頭の中のジュラル星人が言ってきたんです!僕は悪くねえ!』とかだろうか。

 

雪ノ下陽乃を名指しして動きを封じ、学校全体にはびこっていた文実はサボっていいという空気を破壊する暴風。

あえて問題を大きくすることで、無理矢理解決する…なんて優しい話じゃない。

全員まとめて吹き飛ぼうぜ!とイカレポンチが特攻を仕掛けてきただけ。

 

今泉が騒ぎ立てなければ、誰も見向きもせずになにも変わらなかっただろうその小さな火種。

学校掲示板の書き込みや、ちょっとしたTwitterでのつぶやき。

…あえて今泉が調べなければ見つかることもなかっただろうそれ。

仮に見つかったとしても普通なら問題視すらされていなかったであろうそれ。

わざわざそんな火種を掘り返し、空気を送り込み大きく見せて、教師たちと保護者会を巻き込んだ。

人知れず波風立てて、騒ぎを大きくして。

今までサボってきた奴らの肝を縮み上がらせる最悪のタイミングでぶちまける。

なんて悪辣なやり方だろう。

小学生相手に見せた更生と反省の機会を与える優しさどこいった?

 

現在進行形で自分の教室にいるのが、自分たちの罪の自白だ。

今頃針のむしろなのは間違いない。

逆に、会議室にいる何人かの生徒はそっと胸をなでおろしている。

たまたま今日会議室にいるやつもいるだろうが、真面目な奴らが貧乏くじを引く、なんて俺が嘆いていた状況が全てひっくり返った。

 

教室にいる文実が悪で、真面目に働いてる文実が正義。

そんな構図に。 

 

一人が敵になって一致団結?

甘い甘い。

あいつは文実という集団そのものを悪に仕立て上げた。

いまや文実こそが敵なのだ。

この汚名を返上するためには、必死に働いて文化祭を成功させるしか道はない。

 

あいつならもっと早く対処できたはずだ。

あいつなら、文実が機能しなくなるとわかった時点でこんな呟きがされるようになるよりも早く行動する余裕もあっただろう。

そもそも1週間前に見つけた時点で、文実に共有していればこうはならなかった。

だがあいつは、サボる人間が増えるのを待ったのだ。

なぜか。

 

───だって問題は派手なほうが面白いでしょ?

 

俺は流行りの曲が爆音で流れる放送の裏で、今泉が腹を抱えて爆笑する姿を幻視した。

 

 




今回も最後まで読んでくださってありがとうございました。

この回を書く前、有頂天家族を読んでました。
そしたら頭の中で今泉がずっと矢三郎を真似て『面白きことは良きことなり!』とか『波風立てるよ。ずんずん立てるよ。』とか言い始めて、立派なテロリストになりました。
お前はたぬきじゃない人間だ。

あと、大事なことなのですが。
嫌われがちな相模さんにはこの先少しだけ見せ場があります。
この小説はアンチ・ヘイト作品ではないし、何より作者は別に相模さんのこと嫌いじゃないのです。
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