遅くなってすいません。
1話丸々書き直してたら遅くなりました。
文化祭編本番開幕です。
文実はあのあと、許可なく校内放送をした今泉が呼び出しを受けて反省文を10枚近く書かされた以外、お咎めはなかった。
不思議なことに保護者会からも地域の有力者からも指導を受けることなく、つつがなく進行していた。
なぜだろうと疑問が頭をもたげたものの、ニコニコ笑う今泉が怖くて誰も聞くことはできなかった。
それ以外は、本当に嘘のように順調だった。
外部の葉山をしてもう破綻すると言われていた文実は全員参加が基本になったおかげであっという間に立て直され、
なんなら、企画のブラッシュアップに安全の再確認等、余裕を持って多くの仕事が行われていた。
きっかけは肩身の狭さ。
だが、気付けば全員が笑顔で文化祭の準備を行っていた。
最初こそ皆が充足感に満ち足りた顔をする度に、相模だけは死にそうな顔をしていたが、今泉にうざ絡みされ、仕事を増やされ、余計なことを考える余裕がなくなってからは、顔色もマシなものになっていた。
途中今泉が、
「…あんたらに言っとくけどガハマ先輩に文化祭に乗じてワンチャン狙いするやついたら僕がぶっ飛ばすからな!不釣り合いだ!不揃いだ!高望みなんだよ帰れ!文化祭にかこつけて調子のんな!一回会話したことある程度で好きになってもらえると思ってんじゃねーよモブが!」
と文化祭で気が大きくなった陰キャに向かってキレ散らかす一幕があったりはしたがまぁ些末な問題だろう。
───そして。
「お前ら、文化してるかぁー!」
めぐり先輩の元気な掛け声とともに、文化祭が始まった。
◆
文化祭が始まった。
文化祭のはじめに盛大に暴れ倒した僕は、自分のクラスの純喫茶でマスター役をやらされていた。
マスター役とはつまり、調理しながら接客もして、客引きのパフォーマンスもする一番きついポジションである。
とはいえ別にクラスの出し物にかかる時間なんてそう多くはない。
全員が文化祭を回れるように持ち回りでシフトを回しているからだ。
僕は時計の針がぴったり自分のシフトの終了時刻になった瞬間、さっさと教室から抜け出した。
屋上手前の階段の踊り場。
一旦人目を避けるためにそこへと座り込めば、文化祭の喧騒が少し遠くに聞こえる。
やれ、教頭と校長のBLゲリラ演劇「千葉達磨」が校内の各所で行われていて、その内容がどんどん他人に乗り移っていく怪異の二人が文化祭を紹介しながら学校を巡っていく内容で(ようは演者がどんどん捕まって代役として通りすがりの男子生徒が次々犠牲になるということだ)、複雑怪奇な人間関係と若返りによって起こる変化を掘り下げたストーリーはかなりの人気だとか。
───この脚本を書いたバカは誰だぁ!
───材木座義輝【腐女子眼鏡】と書いてあります!
───はひ、我ぇ!?なにそれ知らない!
やれ、文実企画の料理対決で雪ノ下先輩が無双して結局景品が文実に回収されてる出来レースだの、ガハマ先輩の料理を食べた審査員のヒキガヤ先輩が保健室につれてかれただの。
───ゆきのん、勝負!
───来なさい由比ヶ浜さん。圧倒的なスキルの差というものを教えてあげましょう
───なんで審査員が俺なんだよ…
やれ、僕が何人か映像研から人を借りて撮った十五分のコメディ詐欺のホラー映画で悲鳴と涙が止まらなくなっただの。
───なんで『名探偵薩摩ルフォイ少年は告らせたい。真実はたまに2つ。じっちゃんに熱いのかけて!』ってタイトルでホラーなんだよ!イカれてんのか!
他にもピクミンのコスプレをした集団が練り歩き、巨大な招き猫が道を塞ぎ、出店のチョコバナナが何者かによってすべてフランクフルトになっていたり。
どこもかしかも阿呆ばかりのお祭り騒ぎだった。
「あ、浩平くん。やっぱりここにいた」
ひょこり、と覗き込むように僕を見下ろすのは、クラスTシャツに制服のスカートといういかにも文化祭を楽しんでる女子高生らしい格好のいろはさんだ。
僕が見上げる形な位置関係で、見えそうで見えない絶対領域が素晴らしい。
「いろはさん、なんか面白そうな出し物あった?」
「うん、だから一緒に行こ?あ、でもお昼まだだよね。はい、ハニトー」
正直ずっとケチャップとかの匂い嗅いでたからお腹は減ってないけど、甘いものなら食べられそうだ。
有り難く頂くとしよう。
「どーせ、お腹へってないんでしょ?甘いものなら食べれるかなって。クリーム少なそうだったから私達の教室から砂糖とホイップクリームもちょっともらってきたよ」
「完璧かよ好き」
「でしょ?」
高校入って初めての文化祭。
色々派手に暴れたが、2日間にわたる初体験を僕は楽しんでいた。
「はいあーん」
「ぇ、ぁえ、あ…あーん」
「どう?甘い?」
「…ぅ、わ、私が買ってきたやつなのにドヤ顔しないでよ…」
「んー、ならなんか奢るよ。何がいい?ハニトー?それともデラックスハニトー?たしか昇天ペガサスMIX盛りハニトーとかもあったけど」
「全部ハニトーじゃん。これ甘いけどめっちゃモサモサしてるし一口でいいかな私は」
「あ、なぜかチョコバナナとすり替えられたフランクフルトはぜひ食べに行こうね。僕が食べたい」
「得体のしれないものはちょっと…」
「大丈夫。ちゃんとしっかり加熱してるよ」
「…なんで知ってるの?」
ハニトーを貪り。
出し物を回って。
いろはさんと一緒に雪ノ下先輩のクラスのファッションショーに飛び入り参加したりして。
二日目は文実として見回りをしながら、陽乃さんがオーケストラの指揮者をして、自分に対する好奇の視線をすべて実力と美貌で黙らせてるのを眺めて。
と、同時に観客を沸かせ楽しそうに笑う陽乃さんを見て、やっぱああやって恥かかせて纏っていた虚像を剥がしたのは正解だったな、と思ったり。
だって、人間何枚も仮面と猫を被っていたらいつか自分がやりたいことを見失ってしまう。
だから良かった。
身軽になった陽乃さんが楽しそうで。
一瞬陽乃さんと目線が絡む。
その勝ち誇ったような顔に僕は笑ってしまった。
いい事ずくめ。
楽しい思い出。
綺羅びやかなかけがえのない時間。
だから僕は、このあとに起こる悲劇を後悔はしないだろう。
僕は犠牲を許容した。
ヒキガヤ先輩は犠牲になったのだ。
文化祭のための犠牲にな。
「ちわーす、Uber Eatsでーす」
最短経路で駆けつけた。
だが、その扉を蹴り開けた先に広がっていた光景に、僕は自分が間に合わなかったことを悟った。
道具を用意していたからか。
文化祭をエンジョイするのに夢中で半ば放置していたからか。
でもきっと、ヒキガヤ先輩はヒキガヤ先輩なりに考えてこの地獄を作り出したのだ。
───僕はヒキガヤ先輩がなにをするのか、薄々わかっていた。
でも、止めることはしなかった。
なぜならそれがヒキガヤ先輩の望んだことだから。
傷つけて、拳を振り下ろして、自分も傷ついて。
ヒキガヤ先輩がそうしないと、自分の選択が間違ってないと確信できないというならそうすればいい。
それで正しさを確信できるなら僕は血みどろになってでも傷つけて傷つくべきだと、そう思う。
それに僕は一度だって自分のほうが正しいと思ったことなどない。
なら、自分の考えを押し付けるのはナンセンスというものだ。
え?仲直りのための脅し?
別に、あれだって本気なら拒否できたはずだ。
僕がしたのは、脅しという体で背中を押しただけ。
問い直しただけ。
もしあの場面で先輩方が決裂を選ぶと言うなら僕は潔く身を引いていた。
僕の役目はあくまで清涼剤。
防波堤ではない。
それに、雪ノ下先輩が雪ノ下先輩のやり方を選んで、ヒキガヤ先輩がヒキガヤ先輩のやり方を選ぶように。
いつだって僕は自分のやり方を貫くだけだ。
───まぁ、わざと遅刻しただけなんだけど。
とはいえきっと結果は変わらなかっただろう。
四角く切り抜かれた秋空に想いを馳せ、現状を振り返り終わった僕は、改めて地獄のような空気の
「お前なぁ…遅いんだよ来るのが」
「くっ…!間に合わなかったか…!ごめんなさいヒキガヤ先輩…!あなたの犠牲は忘れません…!」
「なにがくっ…だ!はめやがったな!」
「やー、脚本家のご指名なんで」
僕は、鼻血を垂れ流しながらカメラを構え親指を天に打ち上げる海老名先輩へと歩み寄りながら、カメラの画角の外へと逃げる。
葉山先輩に胸ぐらを掴まれるヒキガヤ先輩は全てを呪うかのようなため息を付くが、もう遅い。
「生放送だよ!何やってんの!カメラは回ってんだよ!?続きを待ってる視聴者を裏切る気!?」
「裏切るもなにも、来なきゃ文化祭が終わるって言われて呼び出された先でこんなことさせられてなんで真面目に付き合わなきゃならないんだ…?」
海老名先輩の怒号に言葉を返す葉山先輩もまた、ヒキガヤ先輩に負けず劣らずの目の腐り具合だ。
さて、いい加減状況を説明しよう。
現在時刻はエンディングセレモニー手前。
場所は校舎裏の中庭。
演目は教頭(受け。役ヒキガヤ先輩)と校長(攻め。役葉山先輩)のラブストーリーのエンディング。
文化祭を巡り、想いを巡らせ、二人がついに結ばれる場面。
若くなったことで女子生徒と普通に仲良くする教頭に嫉妬し、ほとばしる思いを抑えられずに教頭を壁に押し付けた校長が今から愛を告げるという誰もが待ち望んだ?瞬間の直前だ。
え、説明されてもわからない?
なら諦めてほしい。
正直僕もよくわかってないんだから。
じゃああの語りは何だったのか。
単に地獄に巻き込まれたヒキガヤ先輩の心情をそれっぽくしただけである。
傷つけるのはもちろん校長(葉山先輩)。
この状況で傷つけたところでなにが正解かなんてわかるわけもないんだけど。
たぶんあれだ。
校長との愛とかだろ。
知らないけど。
なんで遅刻したか。
早く来たら僕がどっちかさせられていたからだ。
僕は僕のやり方を貫く。
罰ゲーム回避のためなら、僕は悪魔でもなんでもなろう。
なんでヒキガヤ先輩と葉山先輩がやっているか。
僕が嘘メールで呼び出して嵌めたからだ。
可哀想。
でも僕は誰も傷つかない世界よりも僕が傷つかない世界のほうがいいので、仕方ないね。
僕は次の演目のための準備をしながら、半笑いでその光景を眺める。
「ぐっ…くそ、やるしかないのか…!」
「やるしかなくはないんだよ、やめろ、よせ。正気に戻ってくれ頼むから!」
「俺は誰も選ばないし、他人の期待に応え続けるだけだ」
「やめろ!絶対こんな場面で聞くセリフじゃない!お前のパーソナルをなんでこんな場面で聞かなくちゃいけないわけ?おかしくね?…おいまじやめろ!やめ、力強!?」
「───ぐ腐っ、ぐ腐腐腐腐腐腐腐!いいねいいね!受けが極まってるよ!」
「の、飲み込んで俺の富津岬…」
「いやすぎる!」
「例え君が拒否しても俺は…!」
演技ではなく必死に抵抗するヒキガヤ先輩に迫る葉山先輩は、そのまま顔を近づけ(頭に海老名さんに繋がる紐が巻かれている)───乱入した僕によって切り捨てられた。
「成敗!」
さぁ、本音を言えずにいる気まずい空気も、失敗した苦い記憶も、書かされた膨大な枚数の反省文も。
一切合切切り捨てて。
フィナーレといこう。
今回も最後まで読んでくださってありがとうございました。
正直次の話とまとめてもよかったのですが、まだ完成していないのと八千字超えはさすがに…となったので続きは出来次第投稿します。