総武高校奉仕部うすしお味。   作:ひつまぶし太郎

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俺ガイル一期はギャグだけでなく爽やかなシリアスもある。
そんな作品に仕上がっていたら幸いです。



十八時間目。踊る阿呆

 

 

舞い散る鮮血………に見える血糊。

 

葉山とまとめて切り捨てられた俺が見たのは、カメラに向かって華麗なウィンクを決める今泉。

斜めがけにした、『本日の主役』が返り血で真っ赤に染まる。

当然タスキの下の白のシャツにも血糊がかかったわけだが、目の前のこいつはまったく気にしない。

 

「ミュージックスタァァァァァあああああとッ!」

 

少しぎこちないながらも俺と葉山の二人が地面に倒れると同時に、【SPECIALZ】のイントロが流れ始め、同時に文実の人間が中庭へとなだれ込んでくる。

 

「───誰がブス彼氏に二股されてるよ!もうぎったんぎたんのぼっこぼこにして別れたわよ!」

 

「お前のせいで針の筵じゃねえか!」

 

「由比ヶ浜さんを誑かす悪鬼が!」

 

「自業自得なのわかってるけど八つ当たりさせなさいよ!」

 

「弟が彼氏でなにが悪い!」

 

「彼女募集中ですっていえコラァ!」

 

倒れ伏した俺の目の前では全員が歌い踊る今泉に文句を言ってから色水の入ったバケツの中身をぶっかけ、血糊が吹き出る日本刀に切り裂かれ倒れていく。

赤、青、緑、黄、ピンクに黄緑。

時には日本刀ではなく今泉の持つ水鉄砲の反撃を受けながら、俺と葉山を含む全員がどんどんお互いが放つバケツでカラフルに染まる。

いくら汚れてもいい服とはいえ、あまりにも遠慮がない。

もちろんその中心でマイクを片手に歌う今泉が一番カラフルだ。

赤みたいなやつがいて、青みたいなやつがいて、緑みたいなやつがいて。

そして、それらが全員バラバラに混じり合っている。

同じ色、単色の人間など一人もいない。

 

────その人間の一面を見て、理解した気になるなんて愚かなことだ。赤に見えても、青のやつだっているのだから。

 

にしてもここは全員が文化祭の感想を言うって打ち合わせで言ってたのに、ほとんど全員が今泉にキレ散らかしてるな…。

いやまぁ当然か。

自業自得とはいえ今泉のせいで、地獄のような空気に放り込まれたのだから。

それが今や全員がこんなにも笑顔なのだから、この文化祭が成功したか失敗したかなど、誰の目にも明らかだった。

 

というか冷静になってみれば、元から中庭でエンディングセレモニーを生放送する予定だったのだから、中庭にメールで呼び出された時点で察するべきだったのだ。

だってこのBLゲリラ演劇も、エンディングセレモニーのパフォーマンスも全部今泉が考え、文実で決議したのだから。

あと中庭にブルーシート引いたの俺だし。

 

…いや、無理だろ。

文化祭成功のための瀬戸際でそこまで冷静に動くの。

 

とりあえず、文実メンバーからの殺意に応える今泉のテンションもまた最高潮だ。

時折ロカロカダンスみたいなのを挟みながらノリノリのダンスとともに40人近く切り倒すと同時に曲が終わり、ポーズを決める最もカラフルな男は台本通り後ろから殴り倒される。

下手人は息を切らせた相模だ。

その事実に俺は胸を撫で下ろした。

 

『大丈夫。信じて待てば道は開けますよ。でも先輩たちがここから逃げれば文化祭は失敗するでしょうね…だって!今泉くんが言ってた!だから、ほら!とりあえず、やらないか♂』

 

メールで呼び出され、ついでに2人揃ってはめられたと気づいたときに海老名さんに伝えられた言葉を思い出す。

俺も葉山も半信半疑だった。

信じて待つ?

文化祭の大事な一場面で、生放送中にそんな賭けをして失敗したらどうする。

文化祭を台無しにするつもりか。

そんな不安を嘲笑うように相模は来た。

涙で目元を腫らし、息を切らし、とても余裕のある姿ではなかったがそれでも来た。

 

実際なにに感化されたのか俺は理解できない。

それでも今泉は信じたし、相模はその信頼に応えた。

 

「……なにが『このまま負けっぱなしでいいんですか?それなら僕が美味しいところもらいますよ』よ!呼び出しのメールにしては悪趣味じゃない…!?…でも、その…ありがと…」

 

「うーん純粋に感謝されると心が痛い。まぁでも、学校で人気な男子も、内心見下して笑ってる友達も、ムカつく完璧冷徹優等生も、カースト上位にいった裏切り者も、目の上のたんこぶな女王様も…こっから5分、全員モブです。あんたが主役です()()()()()

 

「うん。……これは、うちがもらうから!」

 

今泉は台本通り主役タスキを奪われ、『こいつが元凶』と書かれたタスキで首を絞められる。

コメディ調でタップしてギブアップを示す今泉を無視して、先程まで倒れていたとは思えないほど悠然とした態度で寒色系に汚された雪ノ下が歩いてきて、真ん中の少し左でギターを構える。

…どうでもいいけど雪ノ下もなんちゃってスプラトゥーンに参加してたんだよな…。

あいつのことだ、今泉からメールで全て察してプログラム通り動くことを決めたのだろう。

…これも信頼か。

あいつは今泉を信じる選択をしたらしい。

 

いや俺たちも信じたんだけど!

信じたら意味わからない感想に困るBLに出演させられたんですけど!

 

俺の嘆きはさておき、ドラムの赤多めのめぐり先輩が相模に向かってマイクを投げ、他の色を塗りつぶすように真っピンクを直前で自分にひっくり返した一色がベースをじゃーんと鳴らせば2曲目の始まりだ。

 

「聞いて下さい。Adoの唱───」

 

演奏に合わせて倒れ伏した文実たちがゾンビマスクを被り、血糊とインクで汚れた服のまま胡乱な動きで立ち上がり踊りだす。

もちろん俺と葉山もその中のうちの一人だ。

 

「うん、依頼の条件で歌とダンスの練習させといてよかったってぐぇぇ、締まってる締まってる!あ、夢中で聞こえてねぇなこれヤバいヤバい死ぬ死ぬ死ぬって!」

 

相模の歌とダンスは、はっきり言って見てられない。

無様で、不格好で、どうしようもない。

練習はしたのだろうが、恥をかきたくないというその必死さに実力がまったく釣り合っていない。

いやまぁ、元から超高難易度の曲を歌えるようになれと依頼のときに無茶振りした今泉が悪い気もするが。

 

…だが、その瞳が。

その挑むようにカメラを睨みつけ、音楽に時々おいていかれながらも爛々と輝くその瞳が、俺の視線を捉えて離さない。

それは俺だけじゃない、この場にいる全員。

そして、映像越しに見ている全校生徒たちも同様だ。

 

私を見ろ。

私を見上げろ。

お前ら全員私の下だ、負けてたまるか。

 

声の限り、音程を時折かなぐり捨てながら歌う相模の魂の叫びが聞こえてくる。

愛されたいのに愛されない。

それがチンケな承認欲求からくるものだとしても、相模のそれは人一倍だ。

そもそも、承認欲求が強い程度で委員長になるやつなんて普通いない。

無謀で無様で身の程知らずだとしても、その勇気はかけがえないものだと首を絞められながらも楽しそうな今泉のサムズアップが伝えてくる。

 

「すごいな…」

 

「…ああ」

 

隣で踊る葉山のその呟きが今泉と相模、どちらに向けられたものなのかはわからない。

だが、どちらでもいいのだ。

きっと。

 

「正直、無理矢理にでも連れて行くしか俺は思いつかなかった。ひっぱっていってあげないと、って」

 

「実際そうだろうよ。あいつは自分勝手にうずくまって、動く気はなかった」

 

「でも、本当にするべきは…信じることだったんだな」

 

「はん、そう簡単に誰かを信じれるかよ。今泉が特殊なだけだ」

 

奉仕部は飢えた人に魚を与えるのではなく、釣り方を教えて自立を促す。

かつて雪ノ下雪乃はそう言った。

だとしたら、俺も雪ノ下も最初を間違えたのだ。

何でもかんでも代わってやるのではだめだったのだ。

手助けされて階段を登るのが最善策とは限らない。

本人が希望することが、本人のためになるとは限らない。

わかっていたはずだ。

 

───相模のように、追い込まれて初めて成長するやつもいる。

 

でも、隠し事をしていた雪ノ下に、同じように自分たちの気持ちを隠してしまった俺も由比ヶ浜もなんて声をかけていいかわからなくて、うまく言いたいことを伝えられなくて。

そんな遠慮が無意味なことを、今泉は証明した。

 

言いたいことを言えばいい。

やりたいことをすればいい。

馴れ合いなんていらない。

だって本気の遠吠えは、こんなにもかっこいい。

 

狭い青空。

背景はうぞうぞと踊るカラフルモブゾンビたち。

向けられたカメラが切り抜く世界は今、相模のためだけに存在していた。

 

1人だけ色で飾らないありのままの相模が、1番のオンリーワンだ。

相模そのままありのままの自分で、センターを張っていた。

 

お前だけまだ汚れてないぞという厳しい声と、相模はそのまま特別になれるという今泉のひねくれた優しさが垣間見える気がするのは、さすがに俺の穿ち過ぎだろうか。

 

「…負けたな」

 

「負けた?」

 

俺のつぶやきに、葉山が疑問符を返す。

そういえば、この文化祭において売り上げ以外の部分で勝った負けたを気にしてる人間なんて約束という名の賭けをしている俺たち奉仕部くらいだろう。

それに苦笑しながら、俺は踊りきってその場にへたれ込む相模からようやく目を離して言った。

というか俺もその場に座り込む。

息苦しいゾンビマスクと、慣れないダンスのせいで俺もへとへとだ。

 

「相模の勝ちだ。全校生徒一切合切敗北者だ。…とんだ委員長だよ。あんだけ周りを振り回して、結局自分が美味しいところを持っていた」

 

「そうだな…でも、良いものが見れたよ。───もし」

 

「もし?」

 

「昔の俺が今泉に出会えてたら、また違う今もあったのかなって…。何言ってるんだろうな。忘れてくれ」

 

そう言って背を向けて中庭を去る葉山を見て心のなかで俺は同意する。

 

そうだな、葉山。

俺も今泉ともっと早く会いたかったよ。

でもそれはただのIFだ。

たらればの話は実現しないからたらればなのだ。

 

「…うちは!さっきまで屋上で不貞腐れてたし、そもそも文実の皆が批判を浴びた原因で、仕事も全然できない委員長でした…!でも!これだけは言える!」

 

踊り終わって息が切れたままの相模は、それでも裏返った声を整える余裕もないままに、支離滅裂な言葉を連ねる。

今泉の条件。

『文化祭の最後に歌って踊って感想を言う事』。

きっと依頼に来たときの相模なら、ヘラヘラ適当に歌って踊って薄っぺらい感想を告げて終わりだった。

 

吐きぞうになるぐらい最悪に最高すぎる文化祭になって良かっだ!

 

でも、これは間違いなく本音だ。

ずっと薄っぺらい言葉で話してきた相模が見せる()()の言葉。

 

「私ができたごとなんて全く無くて、周りのみんなに゛っおんぶにだっこで!あの放送が流れたときは、死ねと思ったし死んだと思った!でも劣等感に押しつぶされそうなほど、この文化祭が楽しかった!!最後の挨拶の直前に罪悪感で心臓が痛くなって足がすくむくらい圧倒的だった!」

 

泣きながら、それでも相模は笑った。

 

「うぢ、実行委員長になれて良かった!…この経験も失敗も他の誰にも渡さない!うちだけのもの!ザマァ見ろ!無能でなんもしてないうちがこの文化祭を一番楽しんだ阿呆だっ!!踊って歌った阿呆だ!───私の…勝ちだっ!!!!!!!!!」

 

最後に後ろに勢いよく倒れ込んだ相模は、最後に天に向かってピースサインを突き出した。

 

風が吹き抜け、カメラが写すのはピースサインと青空のみ。

敗者など、どこにもいない。

 

───同じ阿呆なら踊らにゃsing a song!!。

 

歌いも踊りもした相模は、まさに文化祭のスローガンを体現した委員長にふさわしい存在になったとも言えるのかもしれない。

あるいは後ろ指をさされた文実の全員すらも、今泉は救ってみせたのかもしれなかった。

失敗を経て、肩書にふさわしい功績を。

結果を自分で掴み取ったその経験を人は成長と呼び、それは本人の言う通り何者にも奪い取れないかけがいのない宝物になるのだろう。

 

俺は、本物を見つけた相模のことが───

 

「───ほらいいんちょ、何寝言言ってんですか!なにもしてねーやつが勝者なわけ無いだろ、その心意気は買うけど!とりあえず寝てないで起きてください。まだ仕事が残ってますよ!」

 

「う…もう無理しんどい…ていうか寝言ってひどくない?」

 

「この根性無しめ!5分しか輝けねーのか!ならその這いつくばった姿勢のまま読み上げてください!ある意味ふさわしいですからね、土下座みたいで」

 

「ちょ、その前に水…」

 

「はーい、文化祭実行委員長の結果発表までー?3、2、1…!」

 

「え、えっと…結果のメモ…メモ…あっ!…ああ!?ビリビリに破けてるしぐっしゃぐしゃ!」

 

「やっべ、隠して隠して!カメラに写さなきゃバレないですから!実行委員長がやる気なくして萎えてたから神聖な結果を書いた紙を雑に扱ったなんてバレたら炎上しますよ!」

 

「全部言わないでよ!」

 

さっきまでの全員の目線を奪い取るような雰囲気はなくなって、いつもの相模に戻ったことを確認して、俺も他の文実にならって中庭を後にする。

文化祭は終わった。

最善ではなかったが、最高の形で。

誰も泣いてなくて、誰もが笑っていて、悪意を向けられる人は誰もいなくて、悪意を向ける誰かもいない。

どうやらまたしても、自称清涼剤にしてやられたらしい。

 

俺は簡単な方法が嫌いだ。

言葉一つで綺麗に収まる方法に納得できない。

なぜなら言葉一つで簡単に変えられるということは、紡いだ結果すらもまた言葉一つで簡単に変わってしまうはずだから。

 

俺には正しい方法論なんてわからない。

わからないからいつも間違える。

だが、今泉を見ていて思う。

あいつの方法は、きっと正しくない。

邪道だ。

間違いそのものだ。

茶化して、グダグダにして、時に脅して、大いなる悪意を持って世界を変える。

気に食わないからと横っ面を蹴飛ばして、自分のやりたいことを押し通す。

空気をぶち壊して、軽くする。

それでも結果として、誰も傷つけないで正しく見えるのはきっと。

 

…きっと今泉が本気だからだ。

全身全霊を持って巫山戯て、世界に挑んでいるからだ。

 

誰も傷つかない世界。

 

そこに自分も含まれていることに、妙な嬉しさを感じながら。

俺の足取りは自然と軽いものになっていた。

 

 

 




今回も最後まで読んでくださってありがとうございました。

最後の方のシーンはゾン100のオープニングとかUSJの最近のCMをイメージしてもらえたらわかりやすいかなと思います。

世にも珍しい相模さんの見せ場でした。
でも実際承認欲求高いからって委員長やるのってすごいと思うんです。
失敗しちゃいましたけどその勇気は拾ってあげたい、という回でした。
需要はないのはわかってるけど我慢できなかった、などと作者は供述しており…。
薄味すぎて感想を書くほどでもない前回と合わせて優しい感想とここすきお願いします。

あと、文化祭編はもう1話だけ続きます。
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