総武高校奉仕部うすしお味。   作:ひつまぶし太郎

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2話目です。
今回もうすしおです。 
予約投稿してるので、修正はお昼休み中か夜です。


二時間目。お菓子

 

 

奉仕部に入部して数日。

部室に顔を出すとだいたい雪ノ下先輩が本を読んでいて、暫くするとヒキガヤ先輩が平塚先生に連れられてくるか、肩や腰をさすって怠そうに部室に来る。

 

「あら、今日も来たのね。ストーカー?」

 

「ちげぇよ。お前のその自信はなんなの?照橋さんなの?」

 

「は?」

 

「おっふ…」

 

どうにもヒキガヤ先輩は望んで入部したわけではなく、毎度口先三寸でどうにか帰ろうとしては平塚先生の拳に黙らされているらしい。

年上美人からの暴力とか羨ましい。

今度僕も叩いてもらおう。

お尻とか。

 

そんなわけで、僕以外の二人は基本無言で読書にいそしんでいるので、僕は僕で読書の邪魔にならないように適当に過ごしている。

黒板に全力で絵を描いたり、マジックの練習をしたり、トランプ・タワーに挑戦したり、バイトの準備をしたり。

 

天井の高さまでトランプを積み上げれた時はさすがの二人もはらはらと見守ってくれていた。

優しい。

 

ちなみに今日は部室によらずに、家庭科室にいる。

なんかお菓子を作りたい気分だったのだ。

今の僕はパティシエ男子。

つまりは夢色パティシエールなのだ、キャハ☆(真顔)。

 

「ふふーふーふふふん、ふふふふんふんふん!」

 

そして材料を混ぜているうちに楽しくなってきて、あんまり上手くない鼻歌を歌って熱が入った辺りで───

 

「すでに誰かいるようね」

 

「えー!それはちょっと困るかも…あ、あんま人に見られたくない…し」

 

「おいおい誰かいるなら仕方ねーな。よし、帰るか」

 

「ヒッキー今日一番の笑顔じゃん!マジありえないんだけど!」

 

「とりあえずここで話していても埒が明かないわ。入りましょう」

 

そんな会話をしながら、三人の先輩方が家庭科室に足を踏み込んできた。

 

「ふふーんふんふん、いえいいえい!じゃっじゃかじゃーん!ふぅー!」

 

「うわ…」

 

「───あ、ヒキガヤ先輩と雪ノ下先輩、あとはじめましての先輩こんにちは!」

 

なんかヒキガヤ先輩からドン引きしたような声が聞こえたが、きっと気のせいだろう。

いい汗かいたなぁ、といい気分の僕の挨拶に、雪ノ下先輩だけが返事をくれた。

 

「ええ、こんにちは。あなた部室に来ないと思っていたらこんなところにいたのね」

 

「はい!ちょっとお菓子を誰かに食らわせたくなったもので。カップケーキ焼いたのでお一つどうです?」

 

オーブンから取り出したばかりのカップケーキを見て、ようやくヒキガヤ先輩ともう一人のかわいい系のおっぱい大きい先輩が再起動した。

そんな呆然とするようなことかね。

ただ僕が下手な鼻歌を熱唱してるところを見られただけだろうに。

 

「なんで普通に会話始めれるんだよ…羞恥心いかれてんの?」

 

「失礼しちゃいますねヒキガヤ先輩。僕は自分を偽らないだけですよ」

 

「それだけ聞くと良いことのように聞こえるな」

 

「で、でも。それだけ自分をさらけ出せるのはちょっと憧れるなー」

 

「昔、見ず知らずの飲んだくれのお姉さんがいってました。『自分を抑えて真面目に生きても頑張らないまま生きても明日は何が起こるか分からない。なら、分からない明日の事より、確かな今を楽に生きなさい』と。僕はその考え方に従って生きてるだけです!何を恥じるようなことがあるでしょうか!いいえ一つも!」

 

あの当時大学生くらいだったお姉さんは今何をしているのだろう。

 

「その考え方がまずダメ人間のそれよね」

 

「恥の多い人生まっしぐらだろ」

 

「う、うーん。元気なのはいいことだよ…うん。あはは」

 

どうやら先輩方には不評らしい。

 

「はあ、まぁとりあえずお一人お一つどうぞ。あ、自己紹介遅れました、一年B組今泉浩平です。モットーはそうですねぇ…うーん、なんにしましょうか。武道館ワンマンライブとかですかね」

 

「悩む時点でモットーじゃないだろそれ…」

 

「モットーじゃなくて夢の類いでしょうそれは。英語の勉強もっとしっかりしなさい」

 

「あはは、えっと、二年F組由比ヶ浜結衣です。よろしくね?」

 

「ああ、ヒキガヤ先輩と同じクラスなんですね。楽しそうなんで今度お二人に会いにF組遊びに行きます」

 

「待ってるよー。…ヒッキーはちょっとクラスから浮いてるけど…」

 

「…?だから行くんですよ?」

 

ヒキガヤ先輩いわく、超空気になって逆にクラスに溶け込んでいるらしいが、絶対そんなことないだろうし。

溶け込んでいるなら溶け込んでいるで、こんなアクの強い人がどうやったら気配を消せるのか見てみたい。

楽しみだ。

 

「ね、ねぇ…雪ノ下さん、ヒッキー。なんかこの子変だよ…」

 

「それはさっきの真顔で熱唱してるところで気づくことでしょう?」

 

 

で。

 

僕がひとつだけ仕込んだカラシ入りのカップケーキにヒキガヤ先輩がむせる中、ようやく本題に入った。

 

ガハマ先輩は、お礼のために手作りクッキーをしたいらしい。

そのお手本として雪ノ下先輩が調理器具やら材料やらを手慣れた様子で用意していく。

それを手伝いながら僕は、ガハマ先輩のことを考える。

 

「これいります?」

 

「そうね…とりあえずそこに置いておいてくれる?」

 

「あいあいさ」

 

確かにクッキーは作り方を知っていて材料と器具さえあれば、お菓子の中でも簡単に作れる方だ。

もっと簡単なものもあるにはあるが、手作り初心者としてもこういういかにも定番なやつの方がモチベーションにもなる。

果たして彼女はどんな気持ちを込めて、どんなクッキーを焼くのだろう。

楽しみだ。

 

「うん…うん…?」

 

そんなこんなで出来た、ガハマ先輩の初の手作りのクッキーが、こちらになります。

 

「…なんかこう、ちゅどーん!って感じですね」

 

「な、なんで…?」

 

ガハマ先輩が愕然とした様子で見つめる手元には、真っ黒なホットケーキっぽいなにかが積み上がっている。

 

そもそもクッキーなのに一つ一つに境界が存在せずに山みたいになってるのがやばいし、臭いも苦いし、全体的に毒々しい。

 

雪ノ下先輩は理解できないものを見るようにしてこめかみを押さえているし、ヒキガヤ先輩は自分の役割が味見係な事を思い出して顔を青ざめさせていた。

 

「見た目はあれだけど…食べてみないとわからないよね!」

 

「そうね、味見してくれる人もいることだし…」

 

「これはもう毒味だろ」

 

先輩方が意を決して食べるのを見ながら、僕は持ち込んだ練乳をドバドバかけて物体Xを食べていた。

怒られました。

 

仕方ないので焦げたクッキーたちは砕いて、レアチーズケーキのタルト部分に再利用しました。

 

 

 

 

 

いやぁ、今日はなかなか面白かった。

あのあと、ガハマ先輩が弱気になったところを雪ノ下先輩が正論パンチでぼこぼこにしたら、なぜか女同士の友情が目覚めたり。

ヒキガヤ先輩がどや顔で過去のトラウマを掘り起こしながら、手作りのよさを熱弁したり…。

色々あったがとりあえず依頼は完了となった。

 

いやぁ楽しかった。

少なくとも、読書してるだけの部活よりも遥かに楽しい1日だった。

 

「…本当に良かったのかしら」

 

雪ノ下先輩が、物憂げに呟いた。

ちなみにガハマ先輩はもういない。

ついさっき、エプロンをつけたまま満足げに帰宅したところだ。

 

「私は自分を高められるなら限界まで挑戦するべきだと思うの。それが最終的には由比ヶ浜さんのためになるから」

 

いかにも雪ノ下先輩らしい言葉だ。

この人は努力を重ねることで自分を守ってきたのだろう。

だから中途半端でいい、みたいな結論となった今回の依頼が正しいのか不安なのだ。

 

「まぁ正論だわな。努力は自分を裏切らない。夢が叶わなくても頑張った事実さえありゃあ慰めにはなる」

 

そして。

へっ、と皮肉げに笑うヒキガヤ先輩の言葉もまた、雪ノ下先輩の言葉に負けず劣らず苦労が滲み出ていた。

 

この先輩たち、いつも深刻な顔してるな…。

やれやれ、ここは奉仕部の清涼剤として先輩方を励ましてあげるとしよう。

まったくしょうがないなぁー!

ほんとになぁー!

できる後輩としてスーパーアシストするしかないかぁー!

かぁー!

 

「あなたはどう思う?楽しいことだけしていたい、頑張らずに楽な方へいくのが当たり前なんて、恥ずかしげもなく口にできるあなたは」

 

「そうですねぇ、僕は───」

 

 

 

 

 

『知らんがな。…あ、うそうそ。超嘘です。待って待って解散しないで』

 

『あー…そうですね。やるとしても楽しく努力しますよ。タルトと一緒です。苦いものもあまーくしちゃえば美味しく食べれる。逆に楽しくできない時点で、やりたいことではないと思うんですよ』

 

『本当に叶えたい夢なら、努力を苦痛に感じるはずなんてないですし。仮に苦痛を伴わないと何も得られないなら、それは世間が悪いです』

 

『気楽にいきましょうよ先輩方。ずっと真面目に生きてたら疲れちゃいますよ?』

 

『人生は一回こっきり。限りがある命なのに、退屈なことに使っててもしょうがないですよ!楽ちんちんが一番!です!』

 

比企谷八幡にとって、今泉浩平は初めてできたある程度親しい後輩だからという以上に、どう扱っていいかわからない存在だった。

 

俺は騒がしい連中が嫌いだ。

楽しいと誰かに誇示するかのような彼らは、俺の目にはとても空疎に見える。

 

 

だが、彼は違う。

彼はしたいことをして、その瞬間を誇示するでもなく本気で楽しんでいる。

 

一人で楽しむという点において、自分や雪ノ下たちと同じはずなのに、そこに卑屈さは欠片もない。

 

なら、言葉の通り気楽なだけでただなにも考えていないだけなのか、といえばそうでもない。

 

『命があるのに、退屈なことに使ってもしょうがないですよ!』

 

あの言葉に気軽さはあっても軽さはなかった。

 

あいつの信念。

見ず知らずの飲んだくれのお姉さんとやらの考え方に本気で共感した根っこの部分。

 

それはいったいなんなのだろうか。

 

 

不思議と。

本当に不思議なことに。

今泉ならば雪ノ下が嘘をついても、俺が誰かのために本気になっても笑わずに手を貸してくれる。

そんな予感がした。

 

「はん…会って間もない後輩になに期待してんだかな」

 

ちょっと親しい人間ができたらすぐこれだ。

距離感を間違えてはいけない。

 

俺は自分の理性の言葉に従って、頭によぎった期待に蓋をした。

 

 




今回も最後まで読んでくださってありがとうございました。
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