原点回帰のお気楽うすしお回です。
打ち上げ。
僕の長ーい悪巧み混じりの文化祭は終わりを告げ、今や祭りの余韻が残るばかりだ。
文化祭実行委員として報告書を書き上げた僕は、大きな伸びをする。
うんスクもしたし、足腰に結構きてるな。
さて、ヒキガヤ先輩と打ち上げをしようと思うと団体様は難しい。
文化祭実行委員のほとんどが参加する後夜祭への参加は無理だろう。
まぁ僕も参加する気はないが。
やりたいことやりきったし、今さら参加してもなぁ。
びちゃびちゃカラフルゾンビスプラトゥーンに校内嘘ぶち上げ放送。
あとは描写を飛ばしたけどオープニングセレモニーで完熟マンゴー被っての本気の演奏も。
それにいいんちょの本音も見れたし、葉山先輩に頼まれていた
これ以上は盛り過ぎというものだ。
と、言うわけで。
奉仕部は一度解散した。
雪ノ下先輩もヒキガヤ先輩も用事はないが、ガハマ先輩には後夜祭への顔出しという付き合いがある。
ずっといなくていいのかと聞けば、「どうせ最初と最後に隣にいた人の顔しか覚えてないから大丈夫」とのこと。
かっこよすぎかよ。
とりあえず解散ついでにあとから互いに親しい人を誘って集まろうと話になった。
僕は教室で待っていてくれたいろはさんと連れ立って、軽くゲーセンで遊んでから集合場所に向かっていた。
「やー大量大量。ひぃーふぅーみぃー、うーん…うん、いっぱい」
「数えるの面倒になった?それにしてもあれだね。なんか紙袋に景品入れてるとパチンコ帰りのダメ男みたい」
「◯ちんこ」
「なんで伏せ字にした?」
「おっと、文化祭前の後遺症が…くっ、これも
「小芝居うぜー…」
「辛辣で草」
「ねーなんでラーメン?」
「うーん…先輩が好きだから?」
「え、そっち系?」
「失礼な、純愛だよ」
「そっち系じゃん!」
「まぁ嘘だけど」
一応これでも振り回した自覚はあるのでそのお詫びというか。
実際いいんちょの依頼を抜きにするなら、いつも通り弱みを握って脅して文実のメンバーの参加率を回復させる、という手段で早めに対処できた。
でも、「成長したい」と言って委員長になった人間が助けて欲しいと言ったのだ。
なら、お望み通りあのうずたかいプライドを一度へし折ってやろうと思ったまでだ。
あと、奉仕部を都合よく使おうとしたことへの意趣返し。
そして雪ノ下先輩におんぶにだっこ、ヒキガヤ先輩を踏みつけてヘラヘラ笑う他の文実メンバーの度肝を抜いてやりたかった。
おかげで良いものが見れた。
いいんちょという魅力的な女の子の、本気の声を聞けたのだから。
そして何より、先輩方を仲良くさせるのにこの文化祭は都合が良かった。
環境の変化を利用しない手はない。
一度離れてみて、元の居場所の良さを知るというのは定番だ。
新しい場所がトラブルだらけだとしたら尚更。
とはいえ、僕が全ての黒幕みたいに勘違いはしないでほしい。
雪ノ下先輩が無茶するかも、あとこのいいんちょどっかでやらかすな、みたいな予感があったのは確かだ。
でも先に火をつけたのは、おそらく僕と同じ予測を立てた陽乃さん。
元からどっかでいいんちょのプライドへし折るために追い詰めるつもりではいたが、あんな派手なことするつもりはなかったのだ。
あのシスコン姉貴め。
いくら妹の成長のためとは言えたちの悪い。
…あ、これ使えるわ、と思って翌日から仕込みのための行動を開始していたのは否定しないけど。
「お詫びみたいなもんかな」
「え、他人の迷惑とか考えるんだ…」
ぼと、と音がしたので横を見てみればいろはさんの手元から水のペットボトルが地面へと落ちたのが見えた。
商品名は【いろはす】。
…いや別にそのリアクションもいろはさんがいろはす飲むのもいいんだけどね。
僕に飲ませようとするのやめてくれたらそれで。
いろはさんがやけに勧めてくるせいで、前まで普通に飲めてたのに妙に意識しちゃって別の飲むようにしちゃっただろ。
「ひどい反応だなぁ。たまには考えるとも」
「たまにね」
ほえーっとよくわかってない顔でふんふん頷くいろはさんのおでこをぺしっと指で弾く。
「いたっ」
「ま、面白さ優先なのは否定しないけど、最近頼れる先輩ができたからね。鋭意努力中なのさ」
関係の維持。
変わらないための努力。
いやいや、そんなことよりもっといい関係にするほうが楽しいじゃん。
そんな感じ。
「例えば?」
「例えば?悪巧みして、嘘ついて、悪巧みして、仕込みをして、罠張って、悪巧みしてる」
「敵キャラじゃんウケる」
「あー!そんなこと言うんだ!いろはさんだってクラスの男子手玉に取って弄んでたくせに!」
「残念でしたぁー!私は学校全体を巻き込んだりはしてませぇーん!それとも謝ったほうがいい?かわいくてご、め、ん♡」
「ふぅー!クズ女最高ー!」
「そ、それにぃ、今私が弄ぶのは浩平くんだけ、だよ?」
「久しぶりに見たけどやっぱいいよねあざとはす。きゅんきゅんきゃるるんっとしてて最高。でもたまにでいいや」
「悪い女好きだよね浩平くんって」
「超好き。騙されて破滅させられたい」
「私はしないよ?一生私から離れられなくするだけ」
「いいねぇー」
「言っといてあれだけどなにが?」
監禁と束縛って愛だよね。
こっちの都合を考えない究極の独占欲って感じで最高。
さて。
そんな会話をしながら、集合場所に到着。
どうやら僕らが最後だったらしい。
こまっちゃんにヒキガヤ先輩、雪ノ下先輩、ガハマ先輩、平塚先生、戸塚先輩、ザイモクザイ先輩が揃っている。
「なんで材木座までいんの?ねぇ、ちょっと、これ誘ったのだ〜れ〜?」
「我を誰だと思っている!八幡が行くところにはだいたいいるぞ!」
「お前俺のことすきすぎでしょ?」
…ヒキガヤ先輩がザイモクザイ先輩のほうを見てうんざりした顔をしているのはなぜなのか。
ザイモクザイ先輩呼ぶのなんてヒキガヤ先輩しかいないだろうに。
そんな風に眺めていたら、平塚先生が腕を組みながらニヒルに笑いかけてきた。
「ふっ、来たな。学校一の問題児め」
「学校一お茶目な愛されキャラですよ?」
「君は陽乃以上の問題児だな…」
仮面を被って上手くやってるように見せてる人と比較されても。
「まぁ目下あの人の仮面を剥がすのが目標なんで、それくらいの評価はもらっとかないと」
「…私はどっちを応援したらいいんだ?」
「たぶんほっとけばそのうち共倒れしますよ」
「いろはさんひでーや。でもまぁつまり僕が光属性ってことでFA?」
「なんで?」
「え、対消滅の話」
「はぁ?」
なんだっけ、僕が光属性か闇属性かみたいな話。
あれも随分前の話に感じるなぁ。
「あそうだザイモクザイ先輩にヒキガヤ先輩。渡すものがあるんでした」
「なに?」
「ふむん、なんだ?サインか?」
「まあ紙ペラですけどね」
はい、と渡した封筒の中身を見た二人が固まった。
その紙に書かれたのは、やけに劇画調のザイモクザイ先輩にちょっと乙女な顔をしたヒキガヤ先輩が服をはだけさせて顎クイされている絵。
わかりやすく腐った絵だ。
誰からのプレゼントかは言わなくても伝わるだろう。
「海老名先輩から名前借りたお詫びにですって」
材木座義輝【腐女子眼鏡】。
今や総武高校で悪い意味で有名な名前だ。
公然の秘密というか。
積極的に探されてないだけの指名手配犯みたいな。
「むしろ挑発されてるだろこれ」
「ああ誘い受け的な?」
「ちげーよ、違うから。俺は断じてそっちの気はないから」
「八幡、なんで一瞬僕の方見たの?」
「戸塚は戸塚だからセーフだよな!」
「?」
「───じょ、じょ、女子からのプレゼントとな!?ふひ、まさか我にも春が!その子我のこと好きなのでは!?」
「落ち着け材木座。そうやって何度勘違いを積み重ねて悲劇を繰り返す?」
「だ、だが…八幡…!」
「ちなみにその人、ザイモクザイ先輩の名前覚えてなかったですよ。偽名に使っといて」
「おーけーわかった。我目が覚めた。超クール」
本当は覚えてるんだろうけどなぁ海老名先輩。
あの人の仮面も重症だ。
葉山先輩の予想通りに。
「あー!姫菜で思い出した!後夜祭のビデオに細工したの今泉くんでしょ!」
「びで…お…?はて?」
「とぼけ方腹立つ!」
「僕が用意した文化祭の感動メモリアルがなにか?」
「いけしゃあしゃあと…」
「えー雪ノ下先輩まで言います?」
「ダンスシーンで急にホラー映画に切り替わったんだけど!?」
「ああ、『名探偵薩摩ルフォイ少年は告らせたい。真実はたまに2つ。じっちゃんに熱いのかけて!』ですか?」
「改めてタイトルどうにかならなかったのかしら…」
「擬態ですよ」
擬態。
そう見えるように偽ること。
外から見た姿を信じるものは騙される。
僕は自分を偽らないが、言葉も他人も偽ってみせる。
そして、僕以外の人はみんな自分を偽っているのだから、お相子だろう。
「擬態するにしても姿は選びなさい?」
「え、僕のレパートリーなんて下ネタくらいしかないんですけど」
「わかりやすい嘘つくのやめなさい」
「いや割と本心」
「そのへんの教育も必要なのね…」
たぶん、あの十五分動画の開始前に流れたオープニングがレッツゴー陰陽師のPVパロだったのも勘違いを生んだ原因だろう。
その直後赤子の泣き声に喋る生首、総武高校を舞台にした七不思議を料理して大人を失禁させる作品に仕上がった。
特にタピオカを飲んでるつもりが、良く見たら全てニタニタ笑う校長の顔だった、というシーンは自信がある。
ま、騙される方が悪い。
成仏しろよ?
◆
さて、ラーメンを提案したのは僕だが、ああいうのは大所帯で食べに行くものではない。
数人が連れ立って、あるいは一人で食べに行くものだ。
ので、あーだこーだと決まらない行き先を決めたのは、平塚先生が一報を入れた協力者。
遊び歩き慣れたろくでなし。
つまりは雪ノ下陽乃である。
「あ、妹に構ってもらいたくて学校に来てる人だ」
「ふふーん、オーケストラの指揮もできる美人で素敵なお姉さん、だよ?」
「物は言いようだなぁ」
「ふふっ、でも私のオーケストラ見て目をキラキラさせてたの見えてたよ?」
「そこは否定しませんよ、あのオーケストラは全てが最高でした」
「へー?ふーん?ほーん?」
「でも」
ニマニマとうざ絡みしてくる陽乃さんから一歩離れ、僕は笑った。
「ままのんになんて言い訳したんですか?」
「うっ」
「まさかー、まだ家に帰ってない、なんて?ことはぁ?なぁいですよねぇー?」
「ぐ、ぐぬぬっ」
「丸く収めて?あげても?いいんですけどねぇー!ねぇー?はっはっは、はいまた僕の勝ちぃー!」
「静ちゃんこの子超ムカつくんだけど!」
「…ふむ、なるほど。人前で仮面がない陽乃、というのはこれか。いいじゃないか」
「どっちの味方なの!?」
「強いて言うなら私はずっと私の教え子の味方さ」
「さ、負け犬はほっといてもんじゃ食べましょもんじゃ。僕明太子で」
「やっぱお前すげーわ。メンタルの化け物すぎる」
理性の化け物がなんか言ってるぜ。
「では、文化祭の成功を祝して、」
「僕の悪巧みの成就を祝して!」
「かんっぱーい!」
「…ってなんか変なの混じった!もう今泉くん!」
「まぁまぁガハマ先輩。あんまり騒ぐとキスしますよ?」
「お前のその由比ヶ浜への熱意なんなの?怖いんだけど…」
陽乃さんへの挨拶も終わり、乾杯の音頭で皆がめいめい飲み物に口をつける。
そして、もんじゃ焼きもいい感じだ。
香ばしい匂いが漂っている。
「そろそろよさそうだね」
「おっそうだな」
「さり気ない語録やめろ」
「もう、言わなきゃバレないのにー」
いただきまーす、と僕が言えば全員ヘラを持って食べ始める。
「なにこれ!?うまっ!なにこれっ!見た目の割に超うまい!」
「おい見た目とか言うな。まじまじ見ると食べる気無くしちゃうだろうが」
「いろはさん、僕の大切に育てて大きくしたどろどろ食べて?」
「言い方が嫌」
「ふーん、ならお姉さんが食べてあげよっか?」
「あ、じゃあ今から喉に指突っ込んで準備するんで待ってくださいね」
「ちょっとやめてよ思い起こさせるの!」
「いや陽乃さんにはそっちのほうがお似合いかなって」
「あんまり生意気言うとチューだぞ?」
「なんだ、もんじゃの口移しがご所望でぃったぁ!いろはさんつねんないでよ!ごめんって!」
後夜祭というにはささやかで、それでもそこにはお祭りの余韻があった。
途中平塚先生の上司や先輩に言われて嫌だったセリフコーナーがあったり、山手線ゲームあらため総武線ゲームで趣味を言ってたら僕の趣味の「善行」が全員に否定されたり、
「んぉ〜この三匹の中から初めての趣味を選ぶんじゃぁ〜。クール気取りの甘えたか、ゆるふわに見せかけた計算高い強かか、天然ピュアホワイト。どれもおすすめじゃなぁ〜。モンスターボールに閉じ込めてアクセサリーのようにジャラジャラ腰にぶら下げるが良いぞ〜。ちなみにこいつはブースターじゃあ(クソ博士)」
「
「八幡うさぎ!うさぎがいいよ!」
とはいえ最後に見目麗しい女性陣のライブで締められたのだから、後夜祭くんサイドとしても完璧な一部始終だったと言えるだろう。
「うーん楽しかった」
「でもなんか、寂しいね」
「大丈夫大丈夫。きっとすぐにまたお祭り騒ぎになるよ」
僕はきっと忘れない。
文化祭の輝きを。
そして。
───スプラトゥーン中に見えたいろはさんのパンツの色を。
それじゃそんなわけで後夜祭は終了閉廷!
また会う日まで!
しーゆー!
今回も最後まで読んでくださってありがとうございました。
今回で二十話ちょうど。
一ヶ月ちょっとの間、本作を楽しんで頂けましたでしょうか。
皆様のささやかな暇つぶしに慣れていたら幸いです。
お付き合いありがとうございました。
体育祭編をやるかは未定です。
なにせうちの小説相模さんが改心してしまったものでして…。
必然ヒキタニくんいじりブームも発生してないのです。
とりあえず次の投稿は修学旅行編をまとめるために番外編を一つしてからしばらく間が空きます。
改めてこれまでお付き合いありがとうございました!
たぶんまた帰ってきますたぶん!
少なくとも好感度周りについてまとめた番外編は今週中に出ます!