こんなうすしお作品ですが、完結までゆるく頑張ります。
とりあえず一旦一巻までですが。
あとこの辺りから異物が動き始めます。
学生にとって雨というのは敵であり味方という複雑な存在だ。
雨が降ればきつい体育の授業が体育館競技に変わったり、部活が休みになって友達と遊びに行けたりする。
だが同時に、登下校には傘が必要だし足元は濡れるし、全員が校舎内に閉じ込められることによって閉塞感を覚えることもあるだろう。
そんな雨の日である今日、僕は退屈しのぎにわざわざ二年生の教室まで遊びに来ていた。
目指す先はヒキガヤ先輩とガハマ先輩のいるF組。
───ガハマ先輩といえば。
前回のクッキーの一件から雪ノ下先輩と仲良くなり、部室に入り浸っているから、ここ数日で結構顔を合わせるような関係になっていた。
ヒキガヤ先輩は、なんか僕の方を見て難しい顔をしていたが、どうせ僕の言葉を深読みでもしているのだろう。
雪ノ下先輩といい、適当に生きてるだけの僕に何を期待してるんだか。
それともあまりにも周りに存在しないから目を引いているんだろうか。
僕みたいなのなんて、パチ屋か居酒屋の宴会してる場所にいっぱいいるって。
あと、こんなオタクの悪いところの集合体みたいな人間を尊敬しないでほしい。
「うーん先輩はどこかなーと」
他所の教室だが、特に気にすることなく足を踏み入れる。
こういうときおどおどすると目立つものだが、今日は雨で人が多い。
普段は別の場所で食べてるサッカー部やら野球部やらが勝手に教室に陣取っていたりする。
だから普通にしていれば、人混みに紛れて特に目立つこともない。
昼休みだからみんなおしゃべりに夢中だし。
ちなみにガハマ先輩はすぐに見つかった。
あの人はさすがのコミュ力で、カースト最上位のグループに所属しているようだ。
金髪とか金髪とか茶髪に囲まれてる。
真ん中に鎮座する女子生徒の顔はよく見えないが、ちらちらと周りから様子をうかがわれてるあたり猿山のボス的な存在なのは明白だった。
さて。
そんな風に様々な声が飛び交う教室の中心からやや外れた廊下側の位置に、目的の人物は座していた。
言わずもがなヒキガヤ先輩である。
「ヒキガヤ先輩こんにちは」
「うお…お前、なんでここにつーか、なんで普通に入ってきてんの?」
ここであえて大声を出すような愚行は犯さない。
ひそひそ声も逆に目立つ。
あくまで自然な雰囲気が大事。
「まぁ昼休みですし。雨なら先輩も教室にいるかなって」
「やめろよその言い方。俺に会いに来たと思って勘違いしちゃうだろ」
「今の言い方で先輩目当てじゃないことあります…?水くさいじゃないですか。雨の日、ボッチな先輩がどんな過ごし方をしてるのか見に来ただけですよぉげっへっへ」
「もうやだこの後輩…」
ぐったりするような動作をするも、若干にやけてるのを僕は見逃さなかった。
指摘はしないけど。
いやぁ、ヒキガヤ先輩もなかなかデレてきましたなぁ。
「それにしても先輩は何してるんです?」
「何って教室で気配消してるだけだが…?」
「うわなろう系だ」
ヒキガヤ先輩を異世界転生系の主人公にしたら、絶対追放系になるんだろうな。
で、もはや別人みたいな盛られ方をするのだろう。
チートマシマシ痛さマシマシ心の壁固め踏み台多し。
本人が見たら誰だよって言いそう。
「なんのだよ…」
「…さぁ?ボッチになろう系?」
「おっと心はガラスだぞ」
「それにしても…す、すげえ…ほんとに浮いてる…って感じですね。クラスから」
「喧嘩売ってる?」
「まさかそんな。そんなに言うほど溶け込めてないですねなんて言ってませんよ」
「言ってる言ってる。超言ってる。心の声ダダ漏れだから。ATフィールドスカスカか?」
「とりあえずまじで暇なんすよ。あ、ちゃんと友達はいますからね」
え、という切ない声がヒキガヤ先輩から聞こえた。
なんだろう、僕も友達いない仲間だと思われてるのだろうか。
「ただ今日は休みなんですよね…雲隠れっていうんですか?ったく、悩みがあれば相談してくれって言ったのにな…」
「まぁ、なんだ。友達だからこそってやつなんじゃねえの知らんけど」
「そうですよね。明日は顔を出すって朝の天気予報でやってたんで、心配はしてないんですけど」
「何、お前の友達太陽かなんかなの?」
「お、正解」
「やっぱりいねーんじゃねえか。むしろ安心したわ」
そりゃまぁ僕みたいなの当たり前のようにクラスで浮くってもんよ。
みんな風呂に浸かってるのに僕だけ死海に放り込まれたレベル。
とはいえ、それは基本的にカラオケとかの誘いを断ったり、授業中は静かなのに休み時間になると急に元気になる変なやつ扱いされてるからで、そこまでマイナスイメージを持たれてるわけではない。
持たれてても気にしないけど。
ただなんだろう。
僕の場合はむしろ、女子からの悪印象を一身に引き受けてる誰かさんがいるお陰で許されている可能性もある。
あと顔。
変人でも顔がよければある程度許されるのが学生だ。
イケメンでよかった!
と、そんなバカなことを考えていたら、なんか二年F組の空気が悪くなっていた。
「なんかさー、ユイこないだもそんなん言って放課後バックレてなかった?ちょっと最近付き合い悪くない?」
「やー、それは何て言うかやむにやまれぬというか私事で恐縮ですというか…」
「……!ガハマ先輩がなんか頭いいこと言ってる!」
「ちょ…」
教室の空気が悪かったり、ガハマ先輩が責められてることよりも、僕は先輩の口から出た言葉にビックリした。
ヒキガヤ先輩は僕にびっくりしてたけど。
「は、あんたなに言ってんの…って」
「あ、三浦の姉御チース。葉山先輩と戸部パイセンもチース」
「…居たんだ」
「ええ居ましたよ。相変わらず翻訳が必要なレベルで優しさが不自由ですよね姉御」
自分がキレてるところを、まったく話に関係ない後輩に水をささればつが悪そうな顔をする三浦の姉御はやはり打たれ弱い。
というかF組のボス猿三浦の姉御かよ。
ウケる。
「や、今泉。久しぶり」
「どもっす。百年ぶりです」
「はは、ここであったのが百年目って?」
そして、悪くなった空気をぶち壊してくれる存在が現れたことを歓迎する葉山先輩。
「ちょちょ、なんか俺だけ尊敬度合い低くねー?」
「はは、親しみってやつっす。親しみ持ちすぎて、僕のリフティングをバカにしたのいまだに恨んでるだけっす」
「ったはー!やっちゃった!?後輩からの尊敬なくすとかっべー、超やらかしたわー」
あとうざいくらい元気なバカ。
なんだろう。
僕のよく知る先輩方が、ずいぶんとF組に集合しているようだった。
でもちらちらとこちらを何故か興奮気味に見るメガネの先輩はまったく知らない。
…うわ鼻血出した。
何あれ怖い。
「…今泉君三人と知り合いなんだ?」
「そうですね、サッカー部の二人はコナン見てリフティングと殺人キックを習得したかった僕が1日だけサッカー部に入ったときにお世話に…お世話に?うん。葉山先輩にお世話になりました」
「厳Cー!」
「うるさE。で、三浦の姉御は…」
「ちょっと!まだあーしの話、終わってないんだけど?」
ガハマ先輩と呑気に会話し始めた僕の声を遮るように、三浦先輩…じゃないや、姉御が口を挟んできた。
復活早いな。
「ふっ、つまりですね…ガハマ先輩はすでに僕の思想の影響下に…」
「ちょちょちょ、あんま変なこと言わないでよ!違うからね?」
そんな姉御に向かって、僕がどや顔で口を開くも、ガハマ先輩にすぐに遮られてしまった。
しゃべりたいことがあるならどうぞ、とアイコンタクトを送ると、先輩は意を決したように話し始めた。
「やーそのなんだろうね…その、ただちょっと、最近知り合ったゆきのんとかヒッキーとかが、本音で話してて楽しそうだったから…それで…うん。…それでね、無理して空気読んで合わせたりするんじゃなくって、適当に生きよっかなーとかそういう感じで…。自分を変えるためにも部活に行きたいんだ。…それに優美子とも、本音で話せるような友達になりたい、し。これからも仲良く、できる、かな?」
「ふーん、ま。いいんじゃない」
ガハマ先輩の上目遣いに、三浦先輩は少し照れくさそうに、携帯に目を落としながら、あとついでに自分の金髪縦ロールをみょんみょんといじり始めた。
楽しそう。
頼んだら僕も触らせてもらえないかな。
「…ごめん、ありがと」
「でも!そこのバカの影響は受けるのは許さないから」
いい話だなーと思っていたらのこれである。
「ひでえぜ姉御~」
「うっさい、馴れ馴れしくすんな!」
「そ、そんな…あのときはあんな優しくしてくれたのに…僕の体をあんなにまさぐって!」
僕の発言に、先程までしんとなっていた教室がにわかにざわめき始める。
「ちょ、でかい声で変なこと言うなし!あんたが雨の中傘もささずに走り回ってたから、タオルで拭いてやっただけじゃん!」
「やっさしー」
「このっ」
結局このあとガハマ先輩が部室に来ないことにしびれを切らせた腹ペコ雪ノ下先輩が二年F組に現れ、ガハマ先輩を挟んで姉御と口喧嘩が勃発。
姉御が泣きを見るという一幕があった以外は、特に何事もなく平和な時間が流れていった。
あと、金髪縦ロールは触らせてもらえなかった。
残念。
◆
「あ、今泉君おかえりー。どこ行ってたの?」
昼休みが終わる前に多少の余裕をもって僕が教室に戻れば、甘ったるく緩い声が僕を出迎えてくれた。
それと同時に男子からは嫉妬の視線が、女子からは僕に声をかけた相手への苛立ちの視線が集中する。
…が、知ったことではない。
「二年F組だよ一色さん。君の愛しの葉山先輩と仲良く会話してきた」
一色いろは。
僕よりもクラスで悪目立ちしている、生粋の女に嫌われるタイプの女子である。
あざと可愛い仮面をかぶり、男を手玉にとり、常にちやほやされる玉座に座りたがる一色さんは、まぁ見ていて面白い。
あと実家で声が低そう。
「へ、へぇー…いいなぁ。今度行くときは私も連れてってね?」
露骨な挑発をされても、あざとい仮面をかぶり抜いたのはさすがというかなんと言うか。
でも一色さん、口角ひきつってますよ。
「えーやだー」
「は?」
できる限りムカつくように断ってから席につく。
どすのきいた声を聞けた僕は満足だ。
いろはすさんの低い声超好き。
ぞくぞくしちゃう。
むほほ、悔しかろう?
多数の前だと素で振る舞えないようじゃ相手にならんよ、とほくそ笑んでいたら、その後しばらく一色さんに絡まれるようになるのはまぁ、完全な余談だろう。
これは目をつけられましたね。
…楽しくなってきたな?
今回も最後まで読んでくださってありがとうございました。
日付と時間を合わせる投稿は明日までです。