ほんとにありがとうございます。
俺ガイルの人気ってすごいなって思いました。
一巻終わりです。
「今泉君ってさぁ…最近昼休み何してるの?」
「うーん、奉仕精神を鍛える活動?」
「うん…うん?でもこないだ筋トレしてなかった?」
僕の返答にピンとこなかったのか、一色さんが僕に追加で質問してくる。
「そうだね、プロテインだね」
「こいつほんと話通じないな…」
健全な肉体には健全な精神が宿るというし、実はあながち筋トレも精神論を重視しがちな奉仕部の恒常的な活動として間違いないのかもしれない。
取り入れるように今度平塚先生に言ってみようか。
…なんか普通に採用されそうだからやめとこ。
とりあえず今は放課後で、僕と一色さんは屋上で駄弁っていた。
僕らの周りに人がいないからなのか、いつもより一色さんの皮が薄い。
薄皮いろはす5個入り。
一つで胃もたれしそうな甘さなのか、逆に外のパンだけ甘くて激渋なあんこが入ってるのか。
果たしてどっちだろう。
「で、部活にいかなくていいのか一色さん」
「うーん、今日はいいかなって」
「うわサボりだ」
「今日は自主練で葉山先輩もいないし」
なるほど分かりやすい。
「それに、今泉くんとお話したいこともあったんだぁ」
「へぇ。ちなみに葉山先輩は今日三浦の姉御と(さらにその取り巻きと)タピりに行ってる」
「は?…じゃなくて、おほん。…なんだかこうしてまじまじと向かい合って話すと照れるね」
「僕今空見てんだけど、いつの間に一色さんって天に召されたの?」
「私。…私ね、今泉くんのこと…!」
「あ、あの雲うんこみたいだなぁ…」
「…はぁ、なんか馬鹿らしくなってきた。とりあえず今度面貸してよ」
「ヤンキーかよ。別にいいけど」
…ちなみに僕は別にサボりではない。
入部してから一ヶ月ほど。
毎日部室に行っても大概は読書してる先輩たちの傍で暇を潰すだけになるので、週に3回くらいは学校にはいるものの部室にはいないみたいな日も存在していた。
そういう時に依頼者が来たら雪ノ下先輩に連絡してもらうことにしてるので、僕が部活動に関われないということはない。
こないだも、雪ノ下先輩に呼ばれて駆けつけたらヒキガヤ先輩の知り合いのザイモクザ先輩の長編小説を読むことになったし、最近だと戸塚先輩という可愛らしい男の先輩のテニスの訓練に付き合ったりしている。
正直、戸塚先輩を強くしてテニス部のモチベーションを上げて、ゆくゆくは強くしよう!というのはなんか…遠回りだなぁみたいなものを感じないではない。
そもそも一人が変わった程度で集団が変わるわけがないのに。
しかも雪ノ下先輩の脳筋じみた死ぬ手前まで頑張れば死ぬほど強くなる!みたいな理論で展開される基礎訓練が続くとなれば…楽しく生きるを心情にしている僕としてはこう…なんだろう。
端的に言えば飽きた。
僕はサイヤ人じゃないのだ。
ジャンプキャラでもない。
やりたいことなら楽しく努力できるのであって、不要な努力も不断の努力もしたくない。
ので、最近は筋トレしてる先輩方を尻目に僕はテニスの王子様の技の再現に挑戦する遊びに耽っている。
『まだまだだね』
『ツイストサーブ!?…って、コートにゴルフのピンなんて刺すなよ』
『ブーメランスネーク!』
『思いっきり壁の反射使ってるし…というかなんなの樺地でも目指してんの?』
『まぁ、奉仕部の清涼剤的な僕は純粋な心の持ち主なのであながち間違いないですよね』
『すぐ嘘つくじゃん』
みたいな会話を昨日の昼休みはヒキガヤ先輩としていた。
「───そういや一色さんにとって戸塚先輩ってどうなの?あの人の顔も普通に整ってる部類だけど」
「割りと好き。アイドルちゃんみたいな可愛さがある」
「へー、一色さんって自分以外の女すべて敵だと思ってると思ってた」
まぁあの人男だけど。
「あんまり調子乗ってると社会的に殺しちゃうぞ☆」
社会派の夜兎族かな?
僕は一色さんの貴重な殺意を抱いた瞬間を録音しながら、しばらく彼女と戯れるのだった。
「あそうだ。いろはすさんって呼んでもいい?」
「え、なに実は私のこと好きになっちゃった?でもごめんね今泉くんのことそんなふうには見れないというかでも顔はいいしそれにムカつくクラスの連中へのマウントも取れるし、でもやっぱり話が通じるように出直して来て欲しいっていうかああもうほんとに顔だけはいいなこいついやでもなぁー、うーん。やっぱりとりあえずごめん付き合うのは無理かな」
「詠唱?」
◆
次の日の昼休み。
相も変わらず基礎トレーニングかと思いきや、訓練は次の段階に行くらしい。
要するに多少テニスっぽさがある訓練になるということだ。
とはいえ頑張るのは戸塚先輩で、ボール出し担当のガハマ先輩と鬼教官の雪ノ下先輩以外の役割は相変わらず存在しない。
「由比ヶ浜さん、もっとあの辺とかその辺とか厳しいコースに投げなさい。じゃないと練習にならないわ」
雪ノ下先輩がドSを発揮している傍で、ヒキガヤ先輩はアリの観察をしてるし、ザイモクザ先輩はなんか必殺技の練習をしてる。
僕?僕はツイストサーブとブーメランスネークを小細工無しでできるようになったので、ぼーっとしている。
つまり男3人全員サボっていた。
ずっこけダメ男三人組が暇していると、際どいコースに走り込んだ戸塚先輩が転んだ。
「うわ、さいちゃん大丈夫!?」
「…うーん、これがほんとの本末転倒。転倒だけに」
部活のために時間外練習して、部活するのに支障が出るかもしれない怪我をするとは。
「とりあえずこれ使ってください」
「あ、ありがとう…」
とりあえず『できる後輩ポイント』を稼ぐために、保健室で事前に借りていた救急箱と綺麗な水の入ったペットボトルを手渡すと、戸塚先輩は手慣れた様子で傷の手当てを開始する。
「ふーんエッチじゃん」
傷の痛みに顔をしかめながらも、自分の膝に手当てをする様子は、なんだかほのかな色気が漂っている。
「え?」
「すいませんなんでもないです」
「あはは、見すぎじゃない…?」
「お気になさらず」
「は、恥ずかしい…かな…」
「そうですか?でも僕は恥ずかしくないですよ」
ベンチに座って膝を手当てするために足を持ち上げてる戸塚先輩の前で体育座りをしていると、なんだかアブノーマルなプレイをしているようで楽しい。
それに戸塚先輩も満更じゃなさそうだ。
涙目なのに、その瞳の奥に確かな期待が───
「あー!テニスやってんじゃん、テニス!」
と、僕のお楽しみを邪魔するように、テニスコートにきゃぴきゃぴした声が響いた。
振り返ってみれば、葉山先輩や三浦の姉御を中心とした集団が近づいてきている。
僕と目があった瞬間、葉山先輩が苦笑する。
は?なんの苦笑だよ。
僕と同じくらいのイケメンで、性格は僕より良くて、人気者で運動神経も抜群だからってなにしても許されると思うなよ。
…クソ!
顔が同点だから他が負けると勝てないじゃないか。
にしてもタイミング悪いな。
ただ遊んでいるならまだしも、こちとら部活動として…活動を…。
「…雪ノ下先輩。この依頼っていつまで続くんですか?」
「そうね、戸塚くんがどこまでやるかによるかしら。私としては、あと一週間くらい続ければそれなりに成果が出るとは思ってるのだけど…」
うへぇ。
「ヒキガヤ先輩、そろそろ毎日昼休みにテニスする生活飽きません?」
「ええ?いやまぁ、俺は戸塚がいるなら別に。むしろ戸塚しか要らないまである」
「愛ですねー」
まぁ、僕は飽きたのでこの依頼は今日で終わらせることにしよう。
「三浦の姉御~。今僕らがやってる戸塚先輩の練習手伝ってくださいよ!」
「は?なんであーしがそんなこと…」
即答で拒否する姉御の肩をちょいちょいと引き寄せて、僕はボリュームを落とした声で話しかける。
「姉御姉御。ここで戸塚先輩に恩をうっとくといーことありますよ」
『ねぇヒッキー。また今泉君悪い顔してるけど』
『ほっとけ。あいつが穏便に三浦を追い払ってくれるならそれに越したことはないだろ』
『どうかしら…。彼、事態をかき乱す方が得意なように思えるけど…』
「まずですね、戸塚先輩はあんまりぱっとしないうちの学校の運動部連中のなかで、唯一華やかさで葉山先輩と双璧をなせる男性です。つまり…戸塚先輩に恩を売るとですね、なんと部活連経由で三浦の姉御と葉山先輩が超仲いいみたいな噂を流せるんです」
「詳しく」
よし食いついた。
「しかもですね、ここで上手に教えることができたら、あの冷徹貧乳女の雪ノ下先輩にマウントをとれる…」
こないだ教室で泣かされた記憶を思い出したのか、三浦の姉御がなにかひそひそ話してる奉仕部三人組の方を見てごくりと唾を飲んだ。
「さらにさらに、戸塚先輩は膝を擦りむくくらい真剣な感じなんです。頑張ってる人に優しくできるのは葉山先輩的にポイント高いと思いません?しかも葉山先輩とのツーショットも差し上げます」
「…やってやろうじゃん!」
姉御チョレぇ~。
ほくそ笑む僕を見て、奉仕部の先輩三人と葉山先輩はなぜか疲れたようなため息をついていたが、僕は気付かない振りをすることにした。
「ていうか戸塚は大丈夫なわけ?あーしが保健室連れてく?」
「あ、そこは大丈夫です姉御。僕が傷舐めといたんで」
「なんて?」
相変わらず優しい人だ。
「こっち見ろ、おい」
優しい人だ(無視)。
◆
「さぁ始まりました、テニス男女ダブルス対決総武高校昼休みの部!時間もないので早速選手紹介に入りましょう!」
昼休みのグランドに僕の楽しげな声が響き渡る。
昼休みの途中だというのに大勢の観客がいるのは、さすがメンバーが豪華なだけある。
「サッカー部が誇る甘いフェイス、葉山隼人!二年F組のおかん、三浦優美子!VS!二年J組の冷徹才女雪ノ下雪乃!その可憐さは他の追随を許さない、戸塚彩加!」
両チームにテニス経験者がいるし、葉山先輩と雪ノ下先輩なら運動神経的にも互角だろう。
全員に対して歓声が上がる辺り、この人たちの人気は本当にすごい。
この総武高校ビジュアル担当連中売り出して一山当てれそう、なんて考えがよぎるが、とりあえず今は目の前のオモシロに集中しよう。
さて。
「ルールは五点先取。細かいルールは特になし!景品も別になし!賭けるのは互いのプライドのみ!さぁそれでは…デュエル開始ィィィィィ!」
つまるところ。
僕の作戦はこうだ。
戸塚先輩を強くするよりも、学内でテニスブームを引き起こした方が早いという、身も蓋もない話。
僕は退屈な昼休みから解放される上にイベント事でテンションが上がる、三浦の姉御は葉山先輩とツーショットの写真が手にはいる上に回りへのアピールにもなる、戸塚先輩はテニスが盛り上がる、雪ノ下先輩は依頼を達成できるという。
誰も損しない完璧な作戦だ。
ちなみに試合結果は雪ノ下先輩の無双によって圧倒的勝利を収めたものの、三浦の姉御は葉山先輩とのツーショットや戸塚先輩に噂を流してもらう約束を取り付けたことでなんとかメンタルを持ちこたえていた。
依頼の方も、無事テニス人気の高まりと戸塚先輩の頑張りを見た部員たちのやる気に火がついたことで活発化したらしく、無事達成された。
ついでになんかヒキガヤ先輩は着替え中の雪ノ下先輩とガハマ先輩にラッキーすけべをかますという青春ラブコメみたいなイベントを発生させていた。
つまり全部ヨシ!
オッケー終了!解散!ということで。
しーゆー!
ちなみにいろはすさんの「アイドルちゃん」は14.5巻でもアイドルの皆さんのことをそう呼称してたので、原作通りです。
そして一旦終わりです。
ここまでお付き合いありがとうございました。
また書き溜めできたら再開します。