総武高校奉仕部うすしお味。   作:ひつまぶし太郎

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感想、評価、ここすきありがとうございます。
ガソリン頂けたので、命を燃やしながらがんばります。


六時間目。グループ

 

全員の集中力がガハマ先輩に送られてきた変なメールによって切れたのはある意味ちょうどよかった。

聞きたいことがあったから。

というわけで、僕は高校入って初めてのテストを受けるに当たってしておくことについて、奉仕部の先輩方に話を聞いてみた。

現在GWも終わり、中間試験があと1ヶ月。

そろそろ準備を始めたいところさんなのだ。

 

先陣を切ったのはガハマ先輩だ。

他二人は後輩へのアドバイスを前に難しい顔して思考の海に沈んでいってしまった。

大丈夫?

その海深すぎて帰ってこれないとかないよね?

 

「えーと、一年生の中間テストでしょ?うーん…あれ、どんなだったっけ…」

 

「さすがガハマ先輩。想像通りのお言葉で安心しました」

 

なんで先陣を切ったのか。

 

「どういう意味だっ!?」

 

「いやいや、誉めてますよ!嫌な過去を振り返らないって素敵ですよね!」

 

ぐっ、と親指を立てて見せたらガハマ先輩が半泣きで雪ノ下先輩に抱きついた。

 

「うう…ゆきのん、後輩にバカキャラみたいに思われてる…」

 

「大丈夫よ、由比ヶ浜さん」

 

抱きつかれて鬱陶しそうにしつつも、どこか満更でも無さそうな雪ノ下先輩はガハマ先輩を切って捨てた。

 

「試験の点数や順位では人の価値を完全に測ることなどできないのだから」

 

「ゆ、ゆきのん…私の成績へのフォローは…?」

 

すっ、目線をそらす雪ノ下先輩は正直者だなぁ。

ついでに、そらした先にいたヒキガヤ先輩も口を開く。

 

「ま、暗記だな。とりあえず太字や、教師が強調してた部分をしっかり頭に叩き込んでたら、中学から上がりたての一年の中間テストはなんとかなる」

 

「ははぁ、中学とそんな変わらないんですね」

 

僕の気の抜けた相槌に、雪ノ下先輩が忠告を重ねてくる。

 

「とはいえ、問題の質は間違いなく上がっているから、中学レベルを期待してると足元掬われることになるわ」

 

「あ、そこはわきまえてるんで。とりあえず社会と英語以外はワークを繰り返しやっとけば赤点は取らないでしょ」

 

「おいおい…大丈夫かよ」

 

「…まぁ確かに、ワークの数をこなせばただ教科書やノートをこなすよりも遥かに効率はいいでしょうね」

 

「言外にそれじゃ身に付かないぞって言い含めなくても大丈夫ですよ」

 

問題の本質を理解するのではなく、問題の解き方を暗記するやり方なので、学校のテストの点は取れても大学受験には役に立たない勉強の仕方ではある。

 

「ゆ、ゆきのん…!勉強会しようー!」

 

「なぜ…」

 

と、なんだかほんのり頭のよさげな会話についていけていなかったガハマ先輩は、焦りを隠すことなく再起動した。

なお、ガハマ先輩は雪ノ下先輩に抱きついた状態のまま。

百合百合しいことこの上ない。 

眼福眼福。

 

「テスト一週間前になったら部活も出来なくなるし、午後暇だよね?ああ、今週も火曜日は短縮授業だしそこでもいいよね!」

 

ぺかー、と輝くガハマ先輩の笑顔に雪ノ下先輩の小さな反論は封殺された。

 

「じゃあプレナのサイゼでいい?」

 

「私は別に構わないけど…」

 

「ゆきのんと二人でお出かけって初めてだね!」

 

「そうかしら」

 

この人たちほんと仲いいな。

当たり前のように誘われなかった男連中は、互いに目を合わせて肩をすくめるだけでそれ以上口は開かなかった。

 

 

え、ヒキガヤ先輩を誘わないのかって?

断られるのに誘うわけないじゃん。

 

 

 

 

 

 

 

数日後の部室。

 

話題は今度先輩方がいく職場見学についてと進路について。

ヒキガヤ先輩は自宅で私立文系。

ガハマ先輩は一番近いところと私立文系。

雪ノ下先輩は監獄で国公立理系。

バリエーション豊かだなぁ。

 

「私の行き先はどこかシンクタンクか研究開発職の中から選ぶと言ったでしょう?」

 

「ええ聞いてますよ。雪ノ下先輩がガンタンクになって宇宙へと飛び立つんですよね?でも大丈夫かなぁ…ガンタンク。空中戦じゃ分が悪そうです」

 

「話を聞きなさい」

 

「はい」

 

怒られちゃったぜ。

なんて嬉しそうな顔を僕がするせいで、雪ノ下先輩はやりにくそうだ。

やりにくそうなくせに変なスイッチが入ると嬉々としてイジメてくるあたり、結構歪んでるよなこの人。

もちろんそんな感想は口にしないけど。

 

さて、そんなふうに普段通りのゆるい空気で始まった部活は、やがて窓の外でいろんな部活が片付けを始めたあたりで、部室内でもじゃあそろそろ帰ろっかな…みたいな空気が流れ始めた。

そんな時にその訪問者は現れた。

リズミカルなそのノックに、四者四様時計を見てため息を付く。

 

「こんな時間に…」

 

「塩撒きましょう塩!僕はもう帰りたいんですよ!」

 

「お前なんで岩塩なんか持ってんの?あとその塩についた赤黒い液体は何?」

 

「おっといけない。前回のノリで出し忘れた小道具が」

 

「殺人犯役やるつもりだったんだ…」

 

「ガハマ先輩正解。ちなみに僕はこれでザイモクザイ先輩を撲殺して、ザイモクザイ先輩にこの塩全部食わせます。普段から塩分過多なザイモクザイ先輩から過剰な塩が検出されても怪しまれず凶器も残らない。完全犯罪です」

 

「お前なんかあいつに恨みでもあんの?」

 

別にない。

 

「…はぁ、本当に不本意なのだけど。まだ部活動の時間なのよね………どうぞ」

 

「お邪魔します」

 

雪ノ下先輩のだいぶわかりやすい葛藤のあとに絞り出された冷たい言葉に答えるその声を聞いて僕は思った。

またあんたなのか、葉山先輩。

最近よく御縁がありますね帰れ、と。

 

 

 

 

葉山先輩の依頼をまとめるとこうだ。

現在F組内で悪意のあるチェーンメールが回っており、クラスの雰囲気が悪いから丸く収めたい、と。

うーわ、どうでもよ。

 

それに対して雪ノ下先輩の返答はこうだ。

 

「犯人を探すわ」

 

「先輩話聞いてました?丸く収めるってのは焦土作戦のことじゃないですよ」

 

まじでガンタンクなんじゃないだろうな、この人。

思考が他人との争いに支配されすぎている。

 

「チェーンメール、あれを止めるならその大元を根絶やしにしないと効果がないわ。ソースは私」

 

「んもう、先輩。急に闇を解放しないでください。光属性の僕が死んじゃいますよ」

 

「今泉お前、陽キャだったのか…」

 

「どうも光属性アタッカーの今泉です。特技は陽キャと対消滅することです」

 

「じゃあ闇じゃん。真反対じゃなきゃ対消滅しないからな」

 

「…話を戻すわよ」

 

僕とヒキガヤ先輩が宇宙一どうでもいい雑談に花を咲かせ始めたあたりで、雪ノ下先輩がその花の茎をへし折った。

 

「メールが送られ始めたのはいつからかしら?」

 

「先週末からだよ。な、結衣」

 

「う、うん…」

 

「ちょっと馴れ馴れしいと思いました。な、結衣」

 

「う、うん…って違っ!今泉くん余計なこと言わないで!あと急な呼び捨て禁止!」

 

「あなたは茶々を入れなきゃ死ぬ病気なの?大人しくしてなさい」

 

「さーません」

 

おおこわ。

でもガハマ先輩みたいなかわいい年上の照れ顔って最高だと思いました。

 

「…先週末、クラスで何かあった?」

 

「特になかった、と思うけどな」

 

「うん…いつも通り、だったね」

 

「強いて言うなら、職場見学のグループ分けの話があったな」

 

上から順に葉山先輩、ガハマ先輩、ヒキガヤ先輩である。

わかりやすい。

ヒキガヤ先輩にとっては少しの変化すらもニュースになるが、リア充からするとなんのイベント性もないことなのだろう。

おそらくグループ分けの話程度のイベント、彼らにとっては日常茶飯事なのだ。

そして、この話からわかる事はまだある。

 

「つまりハブられそうなやつが焦ってるってことですかね」

 

「うん、そうだと思う。葉山君のグループって4人で、職場見学の班は3人だから…」

 

ヒキガヤ先輩の言葉にハッとした顔をするガハマ先輩に確認してみたら、大きな頷きが返ってきた。

 

なんとも世知辛い話だ。

現在新学期。

クラス替えしてから少したち、グループも決まったとはいえ、これからいくらでも変化しうる関係性だ。

そもそも固定化された人間関係なんて存在しないが、春先は仲良かったのにゴールデンウィーク明けには一つヒエラルキーの下がったグループに所属してるやつがいたり、逆にカースト一位の寵愛を受ける陰キャがいたりするのが教室だ。

だからこそ、人間関係を盤石にする前に分断されるイベントが挟まるというのは、一部の人間からしてみればとてもナイーブな問題なのかもしれない。

僕は基本余り物なので、むしろどのグループが僕というババを引くのかワクワクしながら見てるのだけど。

変化くらい楽しめばいいのに。

 

さておきとりあえず、噂が流れてる原因が、ナイーブな空気だということがわかったのは大きな進展だろう。

 

「ヒキガヤ先輩が女装すれば解決ですね。名付けて噂の上塗り作戦です。クラスの空気、変えてやりましょう!ヒキガヤ先輩が葉山先輩を抜いて人気トップになれば万事オーケーです!」

 

「ただの恥の上塗りじゃねえか。絶対しねえよ!」

 

「僕が本気出せば先輩を夜の蝶にするなんてちょちょいのちょいですけど、嫌ですか?僕が先輩を世界の人気ものにしてやりますよ」

 

「嫌だ」

 

「やれやれだぜ」

 

すくめた僕の肩に、白くて綺麗な手が置かれる。

振り返って確認するまでもない。

なぜならそのプレッシャーが、何よりも雄弁に語っていたから。

 

「今泉くん」

 

「はい」

 

「大人しくしててって言ったわよね」

 

「はい」

 

「廊下」

 

「…はい」

 

雪ノ下先輩に部室を追い出されてしまったので、後日話を聞いたところ。

どうやら名探偵八幡が事件を解決したらしい。

噂を流している犯人を見つけるのではなく、噂が発生している環境そのものを変えてしまうというその手法。

つまりは葉山先輩をグループから離れさせて、4人ではなく3人グループにしてしまおうという話。

 

オチを聞いていたら、結局クラスのほとんどが葉山先輩と同じ職場に見学に行くらしいので果たして本当にこの依頼に意味があったのかはわからないが。

他人の悪意に心底興味のない僕からすれば死ぬほどどうでもいいことだった。

 




今回も最後まで読んでくださってありがとうございました。
あと一日…!
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