総武高校奉仕部うすしお味。   作:ひつまぶし太郎

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総合日間ランキング2位、二次創作日間1位ありがとうございます!!
この順位を頂けたことと1週間頑張りきれたのは読者の皆様のおかげです。
そして何より俺ガイルという素晴らしい作品のおかげです。
ありがとうございます。


七時間目。勉強会

 

さて、先日2年F組チェーンメール事件(命名雪ノ下雪乃)とかいうクソどうでもいいイベントがありつつも、中間テストがそろそろ迫ってきている。

そんな僕は現在、いろはすさんと勉強会を開催していた。

 

というのもちょっと前のテニスの一戦を見ていたいろはすさんに、『へー今泉くんって私の気持ち知ってるのにそういう事するんだ?ふーん…へー…?まぁ今は別に気持ち的にそんなでもないし?全然平気だけどちょうどいいからこの機会を利用しようかなとか考えてるわけじゃ全然ないけどほんとに。ほんとに全然そんなことないけど。』と詰められ、直後に提案されたのがこの勉強会だったのだ。

なにがちょうどよくて、何がそんなでもないのか。

普段の詠唱が聞き取れない僕にはわかるはずがなかったが、とりあえずこの勉強会は実は結構前から決まっていた予定なのである。

 

本当にこれが勉強会なのかはわからないけど。

だって僕はドリンクバーの混ぜ合わせの研究に勤しんでるし、いろはすさんは普通にワーク解いてる。

これ僕いらないじゃん。

 

「ねー今泉くんっていつもこんなことしてるの?」

 

「そうそう。割といつもこうして頭の悪い女の子に勉強教えたりしてる。そこ間違ってるよ」

 

「ひどーい、デートで女の子のこと貶すのは減点だよ?そんなんじゃ今泉くんに彼女できるのは当分先かなぁ。あ、もちろん私は全然気にしないけど!」

 

「クラスメートへのマウントのためだけに僕との勉強会開くのって頭悪くない?それに僕は言葉遣い以前に性格の問題で彼女できないから大丈夫。あ、そこ間違ってるよ」

 

「違うよ?…私はぁ、今泉くんと仲良くしたかっただけ、だよ?」

 

「そうなんだ。ここも間違えてるよ」

 

いろはすさんがわざわざ耳元に顔を寄せてきて、甘ったるーい声で囁きかけてきたが、無視。

とん、と僕がいろはすさんのノートを指でさせば、ぺしぃと小さくてすべすべな手のひらではたかれてしまった。

 

「もうっ」

 

頬を膨らませて、私不満です!とアピールする様はとてもあざといが、それがよく似合ってるというのがいろはすさんのすごいところだ。

本当に可愛い。

とはいえ、言うべきことはちゃんと伝えておこう。

 

「そうは言うけどさ、いろはすさんが僕との勉強会自慢しまくったせいで、いろはすさんの成績が悪いと僕もバカだと思われるじゃん。それに、ああいう手合に隙は見せないほうがいいよきっと」

 

「それは…」

 

あのマウントの取りっぷりは、マウント女オリンピックがあったら銅メダルは堅いと僕に思わせるものだった。

流石。

まぁ正直僕のメアドがなんでマウントになるのかよくわからなかったし、僕がいろはすさんにぞっこんラブでどうしても二人きりで勉強会したいなんて言った記憶はないけど。

僕が否定しないのを見て小さくガッツポーズするいろはすさんを見ていたら、なぜか何か言う気が失せた。

 

「ま、ほんとはそんな真面目な理由じゃなくて、単に話遮って指摘するのが楽しかっただけだけど」

 

「………」

 

「ああ!僕のアイス食べやがったこいつ!」

 

「これいふぁいといへる」

 

「なんだって?」

 

「今泉くんと食べるとなんでも美味しいね、って言ったの!」

 

「そうなんだ。じゃあ今からクソまずいドリンク作って持ってくるね」

 

「もー、照れなくていいんだよ?ほらはい、あーん」

 

「あーん」

 

「…ちっ、さすがに照れないかこんなのじゃ」

 

「いろはすさんの唾液の味がして美味しい」

 

「キッショ」

 

「照れるぜ」

 

そんなふうにとても楽しい勉強会デートだったわけだけど、いろはすさんのマウント取りたい欲によって学校近くのカフェを選択したことで、知り合いに遭遇することになった。

 

『では、国語から出題。次の慣用句の続きを述べよ。〈風が吹けば〉』

 

『……京葉線が止まる?』

 

『不正解。……では、次の問題。地理より出題。〈千葉県の名産を2つ答えよ〉』

 

『みそぴーと、……ゆでぴー?』

 

『おい。落花生しかねぇのかよ、この県には』

 

『うわぁ!…なんだヒッキーか、いきなり変な人に絡まれたかと思った…!』

 

「ぶふっ…ごほ、げっほ!だはは!」

 

「え、何急に。どした?」

 

ヒキガヤ先輩、きっと我慢できなかったのだろう。

自分が呼ばれてない勉強会集団に話しかけに行くなんて、普段なら絶対しなかったろうし。

内心の後悔を想像するだけで面白い。

ついでに雪ノ下先輩のお前は誘われてないけど?という優しさのかけらもない事実確認や、ガハマ先輩の気まずげな感じが超面白い。

 

「お前はお前で何してんの?」

 

「んふっ、は、こんちは先輩。えーそうですね、たぶん2割くらいおおよその確率でデート中です」

 

「お、おう…なんかすまん」

 

まぁ、カフェでげらげら笑ってたら当然目立つわけで、自分への目線と悪口に敏感なヒキガヤ先輩の目に留まるのは時間の問題だった。

そして当の先輩は見たことのないザ女子高生みたいな見た目したいろはすさんへの警戒心2割と、デートという扱い方のわからない単語への拒絶感4割、涙目で笑いをこらえてる僕への恐怖4割みたいな顔をしている。

 

「…デートの認識はあるのかこいつこれで…」

 

「ああうん、ちょっと突発的な発作でごめんねいろはすさん。とりあえずここは全部奢るしパフェもどうぞ。で、紹介するね。この人はヒキガヤ先輩。頭いいから、下手な演技は見抜かれるよ。やるなら頑張って」

 

「へー…。ヒキガヤ先輩、よろしくですっ。私一色いろはって言います!サッカー部のマネージャーなので、もし先輩がサッカー部に来ることあったら仲良く、してくださいっ」

 

きゃるるるん、きらん。

そんな効果音が聞こえてきそうな自己紹介で大変素晴らしい。

いろはすさんの魅力がよくまとまっていて最高。

さり気ない萌え袖と上目遣い、一歩の踏み込みが計算され尽くしている。

 

だが。

仲良く、で完璧あざといウィンクが炸裂したあたりでヒキガヤ先輩は一歩下がった。

照れではない。

先輩の防衛本能が働いたのだ。

あの人にとってこの一色いろはという少女と仲良くなるには、それなりに時間がかかることだろう。

具体的にはいろはすさんが猫かぶるのをやめるくらいヒキガヤ先輩を信用するようになったら、だ。

いろはすさんがヒキガヤ先輩を信用したら、というのがミソ。

ここテストにでます。

みそぴーではないです。

先輩は相手からの信用には信頼と誠意で応える人だが、逆に言えば嘘を付く相手を信用しない。 

 

だからこそ思う。

なんでほんとに、ヒキガヤ先輩は僕のことを信用してるかのような素振りを見せるんだろう。

不思議な話だ。

 

「よくわかんないけど先輩を試すのはやめてね?」

 

「やだなぁ、信頼、ですよ」

 

「すぐ嘘つくじゃん」

 

 

 

 

「雪ノ下先輩、ここってこの公式を使うってことでいいんですか?」

 

「ええそうね。この問題は、教科書の基礎問題の考え方の応用よ」

 

「あぁ、あー?あー、このページの。ああ!なるへそ!あざます!」

 

僕と雪ノ下先輩が正面。

ガハマ先輩といろはすさんが正面。

ヒキガヤ先輩は戸塚先輩の正面。

横並びで言うとヒキガヤ先輩、いろはすさん、僕みたいな。

合流してからの座席はそんな感じだ。

僕のとなりでいろはすさんがにっこにこでガハマ先輩と話しているのが何やら怖いが、僕は努めて無視して勉強を開始することにした。

ドリンクバー遊びするにはこのテーブル狭すぎるし。

 

「結衣先輩こんにちは〜」

 

「やっはろー!いろはちゃんも勉強会?」

 

「はい、勉強会デートですっ」

 

はい勉強中ですがまたノートを取ってください。

このデートです、という言葉。

これには2つの意味があります。

一つは隣にいる男を舞い上がらせるためのリップサービス。

もう一つは自分の強者アピールです。

私は男とデートできるくらいモテるんだぞという、言外のアピールなわけですね。

このアピールは男側の魅力も加点ポイントなので、このアピールが発生するときは赤点は回避してると考えていいでしょう。

逆に発生しない時は気を付けて。

テストにはでませんが、応用の利く知識なのでしっかり覚えておいてください。

 

「あれ、お兄ちゃんだ」

 

「小町?」

 

そして、そんなくだらないソースゼロの情報商材みたいなクソ解説を脳内で垂れ流している最中でも、知り合いの合流ラッシュが終わらない。

顔を上げた先にいたのは僕のちょっとした知り合いの先輩とヒキガヤ先輩の妹さん、あとその知り合いの先輩の弟さんだ。

他所に行けばいいのになぜか隣から机をひっぱってきて合体してきたことで、テーブルがかなり狭いことになってきた。

わざわざ隣に座ってきたその先輩に、僕は笑顔で話しかける。

 

「サキパイセン久しぶりです。バイト順調すか?」

 

「…久しぶり。まぁ順調だよあんたのおかげで」

 

川崎沙希。

不良女子高生のような見た目だが家族思いでオカン属性。

夜のバーでのバイト募集のチラシとにらめっこしていたところ僕に声をかけられ、僕と同じバイトを頑張っている勤勉な人だ。

 

「あ、もしかしてお兄さんがうちの姉ちゃんにバイト紹介してくれた人っすか?」

 

「そうそう。僕が君のお姉さんを誑し込んだ」

 

「…感謝してます。あれからうちの姉ちゃん夜遅くまで働いたりすることなくなったんで…」

 

「まぁカテキョって夜は仕事ないしね」

 

僕とサキパイセンがしてるバイトは家庭教師。

個人経営の塾の懇意にしてる先生からの依頼で、そこそこの金額をもらえる都合のいいバイトだ。

対象は小学生が多い。

子ども好きなパイセンからすれば天職だろう。

頻度次第では年齢詐称とかして夜働くよりも稼げるし。

その塾の先生の推薦と本人の努力で、どこぞの塾の夏期講習でスカラシップも取れたらしいし、最近イキイキしてるらしい。

熱弁する弟くんの話を聞きながら僕は思った。

 

いいから勉強しろよお前。

ヒキガヤ先輩の妹さんと揃って、サキパイセンに勉強教えてもらうはずだったんだろ。

なに現実逃避してんだ。

中間テスト落とすと意外と尾を引くぞ中学生。

 

「ねー今泉くん。その美人な先輩さん、誰?」

 

「いろはすさん。とりあえずそこ間違ってるよ。あと声も低いよ」

 

「もうっ聞いてる?…おい、あんま無視してるとグーだぞこら」

 

「聞いてるよ。聞いた上で無視してるんだよ。聞いてるよ」

 

「ふふっ、あんたも隅に置けないね」

 

「姉ちゃんがなんか母ちゃんみたいな顔してる…」

 

「…スゥー。うん、よし。僕はもう高校生とは今日関わらないぞそう決めた。小町ちゃんって言ったっけ。先輩の僕が勉強教えてあげよう。それ英語?」

 

「おい今泉!小町に近づくなんてお兄ちゃん許しませんよ!」

 

「うるさい…」

 

「あはは、ちょっと賑やかになっちゃったねゆきのん…」

 

「お兄ちゃんがこんなに人に囲まれてるなんて小町感激!今日はお赤飯だね!」

 

「今泉くん?こっち見ろ?」

 

「ごめんいろはすさん、僕の目潰れたわ。明日来てくれる?」

 

「今泉先輩…この5分でルーズリーフにまとめてくれた英語のポイントすっごくわかりやすいです!」

 

「お、よかった。同じ中学のよしみで教えてあげるけど数学の田沼は結構教科書の基礎問題から出すよ」

 

「頼りになるー!あ、メアド教えてもらっていいですか?学校での兄の様子とかも知りたいので!…それに、かっこいい先輩と仲良くなりたいなーなんて。…あ、今の小町的にポイント高い!」

 

「いいよ。ちなみに小町ちゃんポイントってなにと交換できんの?ヒキガヤ先輩の弱み?」

 

「今泉くん、そんなあざといだけの年下が好みなんだ?」

 

「小町、今泉から離れろ!その状態はお兄ちゃん的にはポイント低いぞ!」

 

「は、八幡落ち着いて?めちゃくちゃわかりやすく妹さんに挑発されてるよ?」

 

「助けてユイガハーマン。そのコミュ力でこの状況をどうにかしてください!」

 

「結衣先輩は私の味方ですよね!?」

 

「ああ、えっと、えーっと、その…うわーん、どうしようゆきのん!わけわかんないよー!」

 

「あなたたち、他のお客様に迷惑だから黙りなさい」

 

楽しい楽しい勉強会。

そこにあったのは確かに友情と笑顔で。

 

だがしかし。

中間テストが終わり、先輩たちが職場見学に向かったあと。

 

───残ったのは、楽しくなくなった奉仕部という現実。 

 

淀んで止まったその部室に、僕の足が向くことはなかった。

 

 




今回も最後まで読んでくださってありがとうございました。

改めまして、1週間本当にありがとうございました。
きりが悪いというかシリアスで終わりたくはないのであと1話だけは明日更新します。
清涼剤にようやく仕事をして貰うときが来ました。
そのあとは今度こそ一旦休憩して続きを書き溜めてきます。
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